エデンside
わたしエデンは、カルナさんたちに子どもたちが行方不明になっていることをお知らせしたあと、シャンティさまにクルフ国まで送っていただいた。カルナさんたちは、飛行機と列車を使い、十時間以上かけてこの国に到着し、そのあとは車で沖まで送っていただいたようです。しかし、わたしは十時間以上の時間をかけるまでもなく、シャンティさまに一瞬で送って貰うことが出来た。
『エデン、クルフ国に無事到着出来たようだな』
「ええ、バッチリです」
『それならば良い』
ふと、わたしの足元を見ると美しい毛並みの猫がいた。その猫から声が聞こえる。今、シャンティさまは猫のお姿に
『私は再度この国を調べる。其方は島に向かえ。行けるか?』
「はい、もちろんですとも」
『そうか、ではな』
その猫は美しく軽やかな身のこなしで屋根に登り、少し身を隠したあと今度は白い孔雀のお姿で羽ばたいた。普通の孔雀よりもなんとも美しい。まるで鳳凰のよう。ただし、鳳凰を見たことは無い
「どれだけバレたくないのでしょうね」
いくらバレたくないからと言って、動物に変化して街を回るとは。情報源が犬や猫や鳥だったらどうしようかと思ってしまう。確かに、ここに招かれざる客がいては困る。これまで慎重に行動されてきたシャンティさまにとって、正体がバレるなどあってはならないこと。
時計を見た。おかしいのです。
「もう一時間も」
役所に貰った地図を見る。そして思う
「地図はあてになりませんね。自分の感覚で行くしかないでしょう」
それはダメだよ!というヨミさんの声が聞こえた気がするが、それを振り払ってわたしは歩く。自分の心のままに。
『おい、エデン』
「おや?」
わたしの足元に再び真っ白な猫が。周りから見れば、可愛らしく寄り添っているように見えることだろう。わたしはしゃがみ込むとその猫に耳を傾けた
『何をしている?何故出発地点に戻ってきている?一時間は経ったぞ。迷ったか?』
「迷ってはいません。この地図の通りに来たので、迷っている訳では無いのです」
『地図が読めておらんだけではないか。それよりも、新たな情報だ』
新たな情報だと言った猫は、ペリドットのような、アクアマリンのような、アメジストのような、ルビーのような、シトリンのような動く度に色を変える瞳でわたしを見る。心まで見られてしまいそうな錯覚に陥ってしまう
『道中話す。とにかく歩け』
「承知しました」
わたしは猫のお姿になられたシャンティさまを抱き上げ歩き始めた。サラサラとした毛を撫でる。少しだけ擽ったそうにしているのがかわいらしい。そんなわたしの気持ちを吹き飛ばす言葉が
『子どもで取引が行われていることがわかった』
「え?子どもが?」
『ああ。この国は貧しい。高値で買い取ってもらえるからと売っていたのだ』
ひどい話だ。酷い所で済む話ではないか。貧しく国を養えないからという理由で子どもを売ったのだ。シャンティさまは、お金を作りすぎて貧乏になったのだと説明してくれた。クルフ国は、ハイパーインフレ状態に陥っており、その課題に苦悩している状況だったという。お金を作りすぎて、お金の価値が減少し物価が増加。100万円分の札束を持っていっても100円にしかならないそうだ。王がただただ莫迦だった。そして手を出したのが子どもでの貿易。
「そんなことよく話して貰えましたね」
『その取引の話をしていた飼い主のところにいた猫から聞いた』
自分の家の飼い猫が話の一部始終を聞いていて、それを猫に変化した人間に言うなど普通考えない。その飼い猫は、飼い主から虐待を受けていたらしく、その猫の怪我を治したことで信頼を得たそうだ。そしたらベラベラと飼い主のことを話したらしい。そして手に入れた情報が子どもでの取引。さらに
『12週目から19週目の胎児を取り出すという闇手術が横行している。さらに、取り出された妊婦はその後殺害』
子どもの取引。さらに、生まれるのを楽しみにしていたであろう妊婦から胎児を取り出し、その胎児まで取り引きの道具にされていたなんて。
「今も増えている可能性は?」
『ある。それと、深夜1時頃に取引が行われる』
「連れていかれる場所は?」
『ジュラたちがいる洞窟だ。ジュラたちはシュヴァルツの抜け殻のなかにラボがあるとして目をつけている』
カルナさんたちが調査に当たってくださっている洞窟で、取引が行われている。そしてそのなかで非道な実験が行われていると見て間違いない。今も子どもたちがどんなことをされているのか、想像することも出来ない。
「シャンティさま、直ぐにわたしを洞窟まで」
『無論だ。あとは任せる』
「はい!」
わたしは猫をそっと下ろした。猫の姿のシャンティさまが魔術でわたしをすぐに移動させてくれた。
瞼を開ければ、洞窟が大きな口を開けて待っていた。この洞窟自体が生き物のように思えてきた。ふと前を見れば、ヨミさんたちがいたのだ。なぜ?
「何をしてらっしゃるのです?調査は?」
「一人で行かせたらどこ行くかわからないからね。とにかく待ってた。で、シャンティ様から何か聞いてる?」
わたしは、シャンティさまから聞いた取引のことを伝えた。主に行われる時間のことだ。
「深夜1時・・・」
「寝ているところを拉致だろう」
「つくづくひっどい話だよ。何考えてんのかな、インフィニティ」
深夜1時。子どもたちはその時間までも非人道的な扱いを受けているだろう。早く助けなければ
「多分、子どもたちはその1時頃まで何もされないかも」
「何でだよ」
「今、ラボのなかは手薄だと思うんだよ」
「手薄とは言っても、誰か来ると思うでしょう?これまで散々任務に来た方々がいるのに」
「昏倒した人たちは、自分で昏倒したからさ」
勝手に来て、勝手に自滅。ラボがあったとしても彼らの存在を、研究員もしくはインフィニティの組員は把握していないのではないか、とヨミさんは言う。この人は驚く程に頭が回る人だ。すると、コツコツと二人分の音がした。わたしたちは即座に隠れた。現れたのは、機械帽を被っている少年だった。わたしたちがよく知っている
「マオ」
「ヤト!」
「シャンティさまから直接ご依頼があったので、解毒剤を作っていたんですよ」
「まさかシャンティさまから依頼が来るとは思わなかったぜ」
解毒剤、毒に侵された子どもたちに効果はあるのだろうか。そんなことはどうでもいい。今はこの薬でなんとか命を繋ぎ止めるくらいなら出来るかもしれない。
「これが解毒剤」
「誰か来るよ!かなりの数だ」
わたしたちはまた岩陰に隠れた。白い防護服を着た男たちがいた。まさか取引がもう?しかしだとしたら時間が。
「シャンティさま、何かしたのかな」
「有り得ますね」
「シャンティなら空の色くらい変えられるしな」
キャンバスを塗りつぶすように空の色を変え、深夜のように見せかけたのか。確かに、あまりにも暗いとは思ったが。ますます謎が深まってしまった。
そして、ものすごく嫌な予感がした。プンダリーカの皆様の顔が真っ青になっていた。それはフレアフルールも同じだった。もう一度空を見れば、どうみても真っ青な晴れ模様。戻したのだ。自分を連れていくため、もしくはわたしたちをその場所まで導くために細工をし、囮になったのか。一国の王が、他国の子どもたちのために
「馬鹿じゃねぇのか、あいつ!」
「追うよ」
「ああ」
わたしたちは、ヨミさんとヤトさんのスキルを利用し、気配と音を遮断して白い防護服の男たちを尾行した。
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ヨミside
オレたちは、嫌な予感がして白い防護服の男たちの後をつけた。こういう時に暗殺向きのスキルを身につけておいて良かったと思う。プンダリーカの人たちは気が気ではないはずだ。自分たちの主が子どもたちの中にいるかもしれないのだから。ヴァジュラが怒るのもわかる気がする。無茶し過ぎだ。倒されたということは絶対ないとは思う。途中、防護服の男たちが分かれた。プンダリーカとフレアフルールで別れることにした。ヤトはプンダリーカの方。気配遮断は近くにいないと効果が出ないのだ。
突き当たりだ。しめた。そのとき、袋がゴソゴソと動き始めた。動揺した男が袋を落とした。子どもは三人。
二人の子どもが泣きわめく。少しだけ年上なのか、一人が泣く二人を後ろにやる。様子見か。とりあえず、ここがラボではないことは分かる。
「へぇ、泣きもしねぇか」
「この子ども、実験体にするの勿体ねぇなっ!」
「ぁっ・・・」
綺麗な黒髪の子どもが蹴り飛ばされた。
「あの子、シャンティさま?」
「シャンティさまは銀髪っぽいですので、あの子は大人びているのでは?」
「そういうものか。しかし、助けに行くぞ」
そのとき、オレたちの背後から気配がした。小さいがシュヴァルツだ。しかも四体。オレたちに目つけてきた。マオくんは怪我されては困る。解毒剤を持っているから余計に
「直ぐに片付けるぞ」
「うん」
「了解だ」
「わかりました」
カルナさんの言葉に全員で頷く。
そのとき
「あああああぁぁぁっっ!!!」
子どもの悲鳴が聞こえてきた。今オレたちの誰かがここから動けば、あの子まで巻き込む。早く倒して助けに行くしかない。
「ごめん待ってて、直ぐに助けに行くから!」
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ヴァジュラside
シャンティが子どものなかにいるんじゃないか、そんな嫌な予感が頭を過る。いないことを願いたいが、長い付き合いの中でそれはまずない。王である自覚がないんじゃないのか。お前がいなくなったら誰が治めるんだ。でも、こっちはボロボロなのにあっちが無傷なんてことも何度もあった。子どもだろうと下手したらレベル6はある。
『もう!あの人は全く』
『こっちの身にもなって欲しいですよ!』
クシティとサーガラの気持ちはものすごくよくわかる。こっちは気が気じゃない。男たちが入って行ったのはトンネルのような場所。これが抜け殻か。確かに周りは岩ではない。まさか俺の抜け殻を何かに利用している説が正しいとは思わなかった。俺を説教しやがったクソガキは、俺の言葉にすぐに同調して実験をしているのではと予測した。今はそれがほぼ確実になっている。侮れない。
『シャンティさまは俳優ですからね。無抵抗な子どもでも演じているのでしょう』
『だろうな』
副業で俳優をしているとかではなく、ただ演技力が素人じゃないってことだ。
『大勢の声が聞こえるぜ』
『本当ですか、ヤトさま』
『ああ。子どもの声も聞こえる。安心しろ、鬼の耳は地獄耳なんだ。間違いない』
『そうかよ』
あのガキ、やっぱり鬼か。隠してやがったが気配は人間じゃなかった。数十メートル進めば建物があった。これがエデンとかいう奴が言っていたラボか。白い男たちが入って行ったから間違いない。
ここまで来たら俺でも聞こえる。子どもの泣き声だ。シャンティの気配はない。無抵抗な子どもを演じるなら、魔力を察知されないようにしているだろうが
『行くぜ』
『ええ』
俺は、盛大な音を立てて扉を開け放ち
「覚悟しろよ、てめぇら!」
足を踏み入れた。
明らかに怯えた胸糞悪くなる男たちの顔。子どもまで怯えさせてしまったことについては心の中で謝った
「あなた方にあとはありませんよ」
「直ちに降参しなさい!」
俺たちは一斉に魔力をため、脅しをかけた。ここからが本番だ