黎明の光より   作:砂門

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第十一話〜救え

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突如現れたシュヴァルツ四頭。その四頭と対峙するのはフレアフルールだ。手にした聖剣を勢いよく振り、シュヴァルツの身体を斬り付ける。しかし、その剣は硬い鱗によって弾かれた。それはカルナやヨミも同じだ。黄金の槍も、巨大な十字剣も同じく弾かれる。

 

 

「これが一体ならまだ救いようがあるんだけど・・・ねっ!!」

 

 

剣と鱗が交わりギチギチと鈍い音を立てる。硬いシュヴァルツをどのように倒すか、寸でのところで躱しながら模索する。

 

 

「いつもどうやって倒してるんですか?」

 

「倒すことなんて考えてないよ。鱗だけもらって帰る!」

 

 

カルナはヨミとエデンの会話を聴きながら、魔力放出で炎を槍に纏わせ力づくでシュヴァルツを突き落とした。こうなっては力づくで行くしかない。

ジークフリートも翡翠色に輝く聖剣を勢いよく振り下ろし、その圧だけでシュヴァルツを落とす。

二体のシュヴァルツが突き落とされたことで巨大なクレーターができた。

 

 

「破鬼神流・炎鬼(エンキ)拳!!」

 

 

剣を上空に放り投げ、炎を纏う拳をシュヴァルツに叩きつけた。拳の衝撃がシュヴァルツを貫いた。さらに、上空から落下してきた剣を手に取り、高速で回転しながら追い打ちをかける。

 

 

「あの少年、すごいな」

 

「破壊が取り柄だと言っていた」

 

 

破壊神ともいえる破壊力で、シュヴァルツを追い詰めた。シュヴァルツの尾が唐突に四人を襲うが、毒に触れないようその尾を弾く。

 

 

「重いね」

 

「少し痺れてますよ」

 

「でもね、シュヴァルツよりも人間の方がもっとやばいからさ」

 

「わたしたちはあなたたちをどうこうしようと考えている訳では無いのですよ」

 

 

エデンは、淡い翠の光を纏うとすっと息を吸う。光を纏うエデンを傍目で見たカルナとヨミは、彼に近づかないようにシュヴァルツを蹴り、突き落とし、殴り付ける。状況が掴めないジークフリートも、二人に倣って時間を稼ぐ。

 

 

「少しだけ眠っていてください」

 

安らぎの揺りかごに眠りなさい

 

穢されたあなたの夢を

 

わたしの歌で洗いましょう

 

 

まるで子を抱くような優しさで、胸の前で祈るように手を組み、魔術を編みながら歌う。澄み切った美しい歌声に、ジークフリートたちの心も安らいでいくようだった。エデンの翡翠色の魔力の粒子がさらに溢れていく。

 

 

苦しむあなたに届けます

 

穢れなき

 

あなたを救う翡翠の朝を

 

 

短くも優しく美しい歌だった。言の葉は膨大な魔力の塊となり、その球体からさらに光が溢れていく。

 

 

「神聖歌唱・翡翠の子守唄(ジェード・ヴィーゲンリート)

 

 

翡翠色の光はシュヴァルツを包み込み、安らかな眠りへと誘う。

 

 

「いつ見ても綺麗だね」

 

「ああ」

 

 

天使のような美しさにカルナも自然と微笑む。光の雨はジークフリートたちに降り注ぐ。

 

 

「殺すことなく片付いたね」

 

「ええ、よかったです」

 

「先程の魔術はなんだ?」

 

「あれは神聖歌唱だよ」

 

 

エデンの二つ名は『歌うたいの天使』。本物の天使という訳ではなく、その姿がまるで天使であるということから付けられた。そしてその天使が歌う魔法が神聖歌唱。この世で使えるものはほとんど居ないとされる究極の魔術。言葉で具現化させる願いの魔術だ。

 

 

「そんな魔術もあるのか」

 

「お前たち」

 

「どうしたの?」

 

「マオから、ラボがもう一つあると」

 

 

ジークフリートたちの安らぎはカルナの言葉によって消え去った。そして、そのラボが魔力を持つ子ども専用のものであると知り、全力で走り始めた。

 

 

「魔力を持つ子どもとかいたの、まず!」

 

「そういった子どもはどういう扱いを受けているのか」

 

「さらに酷いんじゃないの、多分」

 

「そうでしょうね」

 

 

二人の子どもを逃がし、黒髪の少年一人がそのラボへ連れて行かれたとキラから説明を受けた。現在ヴァジュラとキラがそちらに向かっていた。しかし、さらに複雑に作られた洞窟でラボを探すにも一苦労している状況。

 

 

「よっぽどバレたくないのでしょうね」

 

「インフィニティの仲間にでもする気だね」

 

「そうはさせない」

 

「無論だ」

 

 

今頃遠目から見ても可憐な少女とも見紛う少年は、非人道的な扱いを受けているのではないかと嫌でも想像出来てしまう。どんなに魔力を持つ子どもであろうと、死んでしまう可能性はあるのだから

 

 

「ん?こっちだ!」

 

 

ヨミの地獄耳がラボの場所を特定した。突然別方向を走り出したヨミをジークフリートたちもついて行く。カルナとエデンは、ヨミの聴力を思い知っている。

 

 

「ん?檻だね」

 

「これ、ラボですか?」

 

 

そのとき、奥から子どもの悲鳴が聞こえてきた。さらに、男たちの気味の悪い笑い声。悲鳴を楽しんでいるかのようだ

 

 

「綺麗な声の子だとは思うけどさ・・・待っててよ!!」

 

「皆さんあなたほど体力バカじゃないんですからね!」

 

 

恐るべき速さで駆け抜けていく。その速さについて行くことが出来る者はそういない。しかし、そのスピードに引かれていつも以上のスピードで走っている感覚があった。

 

 

「ここだ!」

 

「ガキ!子どもの声はそっちからか!」

 

「うん!早く行くよ」

 

 

ここでヴァジュラとキラが合流した。

 

 

「他の子は?」

 

「大丈夫、クシティたちが保護してる」

 

「たち?」

 

「ああ。シャンティの子守してたヤツらが来てくれたんだよ。目を離した隙に出掛けてしまわれたんです!と大慌て」

 

 

子守りってと苦笑を浮かべる。風邪をひいておきながら、使用人がお粥を作っている間に出て行ってしまったのだ。挙句の果てに囮になるという暴挙に出たため、さすがに我慢ならずここまで来た。使用人たちの苦労が嫌でもわかったジークフリートたちであった。

 

 

「開けやああぁっ!!」

 

 

ヨミが拳だけで扉を吹き飛ばしてみせた。さすがヴァジュラも目を点にした。

 

 

「何者だ、捕らえよ!」

 

「捕えられんのはテメェらなんだよ!」

 

「子どもたちを返していただきましょうか」

 

 

壁に磔にされた子どもが目に入った。黒髪の少年だった。目を奪われるほど可憐だ

 

 

「おっと近付くなよ。さもなくば」

 

「ひゃああああああっっっ!!」

 

 

子どもを人質に取られ近づこうにも近付くことが出来ない。少年の身体に電流が走る。激痛に悲鳴をあげる。

 

 

「いい声だ」

 

「将来はべっぴんさんになるぜ」

 

「ああ、なるに決まってんじゃねぇかよ」

 

 

魔力を封じ込める枷をかけられ、魔法が使えない。服がビリビリに破かれている幼い少年に、子どもとは思えない色気を感じてしまったヨミは、自身の邪な感情を振り払う。

 

 

「珍しいじゃねぇか、お前が悲鳴をあげるのも」

 

「痛みを感じない魔法が使えないのだ。痛いものは痛い」

 

 

少年から可憐で落ち着いた声音。話し始めた途端に悲鳴が上がった。さすがのあの男であろうと痛いものは痛いのだ。

 

 

「なんで変化の魔法は解けねぇんだっての」

 

「そろそろ解ける」

 

 

その言葉通り、変化の魔法が解け、少年がその場から消えた。しかしその代わり、この世の者とは思えない美しい青年が現れた。動く度に赤、青、緑と次々と色を変えていく不思議な髪の青年は、好き勝手してくれた男たちを睨みつけた。

 

 

「・・・エロいよ」

 

 

着崩された袈裟。その下はノースリーブの着物。肩が露わになっている状態だ。スリットが入り、袈裟からチラリと白い脚が見える。男でもいいかな、と思ってしまうヨミであった。その男を傍で見ている男たちは唾を飲む。

 

 

「んっ、硬い枷だ・・・」

 

 

ガチャガチャと枷を揺らす。

 

 

「そいつに触れんなよ。触れていいのは、俺だけなんだからな!!」

 

 

・・・何言ってんの、こいつ

・・・この状況でよくもまぁ、そんなことが言えたものですよ

ヨミとエデンが心の中で憤る。堂々と言い放ったヴァジュラに、シャンティがキョトンとする。これまでシャンティにさえ言ったことがなかったのだ。

しかし、シャンティは男に視線を移すと

 

 

「のぉ、そこの男」

 

「な、なんだ」

 

「これ、取ってくれぬか?」

 

「取ると思うか?」

 

「取ってさえくれれば・・・好きにしてくれても構わんぞ」

 

 

男から見ても魅惑的な微笑に、カルナ以外が顔を赤らめる。白い脚をわざと見せる。ヨミはそれに釘付け。やはり自分は子どもだったと落胆する。

それに落ちた男がシャンティの枷を外した。男の脚でいいのか、安い男だな、というシャンティの心の声が男たちに聞こえるはずもない。

 

 

「ふぅ・・・ぁっ・・・」

 

 

立ち上がったシャンティだったが、フラフラと崩れ落ちた。風邪が引き起こす発熱だった。魔力はともかく体力と体調が限界だった。

 

 

「姫さん!」

 

 

・・・姫さん?

そんな渾名があるのかとヨミは呆れにも似た表情でヴァジュラを見た。シャンティの背後にいる男たちをカルナの炎が襲った。

そして、しゃがみこんでいるシャンティをカルナが引き寄せた。それは俺の役目だろ、とヴァジュラ。ヨミが堪らず殴りつけ、床に叩きつけた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、すまない。どうやら薬の効果が切れてしまったようだ」

 

 

抱き合う美男と美女にしか見えなくなってきたヨミは、たまらず目を逸らした。

 

 

「ああそうだ。子どもたちは?」

 

「子どもたちは全員保護した。大丈夫だ、こっちにいた子どもも、毒を抜いた」

 

「その子たちのところへ連れてゆけ。治さねば」

 

「何言ってんだよ!そんな身体で」

 

「クルフ国は、元々貿易していた国だ。解消したのは私なのだ」

 

「ちっ」

 

 

キラが熱を下げる魔法をかけ、一時的にシャンティの熱を冷ました。治癒を施してくれたキラに、シャンティはありがとうと微笑みかけた。

体力を使いさせたくないから、とヴァジュラではなくジークフリートが横抱きの状態でその場所まで運ぶ。ラボに居る男たちはヨミが気絶させていた。

 

 

「すまないな、ジークフリート」

 

「構わない」

 

 

洞窟の出口まで来ると、保護された子どもたちと、気絶させられ捕えられた男たちがいた。

 

 

「シャンティさま!」

 

「お前がシャン──うがっ!」

 

「私にあった記憶は消しておこう。口外されては困るのでな」

 

 

男の頭に手を置くと、シャンティと会った記憶を完全に消し去った。エグいなぁとヨミは苦笑する。しかし、シャンティは憧れの相手なのだ。キラキラとした瞳で見つめていた。

 

 

「さて」

 

 

気を失った子どもたちの傍に行き、その場で結跏趺坐を組む。首にかけられた数珠を外し手前に翳す。

 

 

「救うのが遅くなって済まない」

 

 

数珠がバラバラになり、子どもたちの体内に入っていく。合掌するように手を合わせると膨大な魔力を込める。満天の星空を映したような瞳。神々しい姿にジークフリートたちは圧倒される。

ボロボロになった子どもたちの体が綺麗に戻った。そして、グチャグチャになり、面影すら見られないその子たちまでもが生前の姿を取り戻した

 

 

「細胞操作・・・」

 

「細胞操作?」

 

「うん。その名の通り細胞を操る秘術」

 

 

細胞を操り、急速で分裂させることも、その力で癌細胞を作ることさえできてしまう。使い用によってはボロボロになった細胞の再生も可能となる。レベル8とは戦闘力だけの話ではなかったのだ。

掛け続けるシャンティの額に大粒の雫が浮かぶ。身体への負担は半端なものでは無い。ここにいるプンダリーカの者たちが心配そうに見守る。もうやめろと言いたいのだ。言えばいいのに言えない。シャンティが言わせないのだ。全員の細胞が再生した。しかし、死んだ子どもたちが目を開けることはない。死した者への慈悲だった。瀕死から完治した子どもたちは何事も無かったかのように起き上がった。

 

 

「クシティ、子どもたちを保護。サーガラはこのクズどもを二ーロートパラの無人島に放り込んでおけ」

 

「畏まりました」

 

 

立ち上がろうとするも身体は思うように行かず、ヴァジュラに身体を委ねることになった

 

 

「これも強さか」

 

「カルナさん?」

 

「敵を負かす強さだけではない。心の強さ。覚悟の強さ。これが聖王か・・・」

 

「本当に、恐ろしい方だ」

 

 

ジークフリートも畏怖の念さえ抱き、思わず震えた。

 

 

「ゆっくり休めよ、バカ」

 

「その前に謝ることあるよね?」

 

「ヴァジュラ、ヨミとどういう関係に?」

 

「友人?」

 

「それでは、私との友人関係は解消なのか?」

 

 

寂しそうな顔でヴァジュラを見上げるシャンティに、ジークフリートたちはポカンとする

 

 

「なんでそうなるんだよ」

 

「だって其方・・・友人は一人しか作らないものだと・・・」

 

「はっ!?」

 

 

ヨミは鬼神の眼差しでヴァジュラを睨み付けた。鬼神の睨みは破格の恐ろしさだった。

 

 

「ということは・・・」

 

「其方がそういうから、私は其方以外友人を作らなかったのだ」

 

「ヴァジュラ、お前やっぱ最低だな!」

 

「どうせ独り占めしたいだけだったんでしょう!シャンティさまが友だちがいないことをいいことに誑かしたのですね!」

 

「エデンさん、それは失礼です・・・」

 

 

友だちがそもそも少なかったシャンティを、ヴァジュラが誑かした。ヨミとエデンが立腹し、ヴァジュラを睨みつける

 

 

「友人は何人作っても構わんのだぞ」

 

「そ、そうなのか?」

 

 

カルナに言われ、シャンティは頷いた。友人に騙されていたのだとここで知った

 

 

「な、ならば・・・今から友人作る」

 

「どうやって作るんだよ」

 

「・・・」

 

 

友人の作り方を知らないシャンティは、ヴァジュラの言葉に黙ってしまった。

 

 

「ならば、作り方を教えよ。命令だ」

 

「え、えぇ・・・」

 

 

作り方を教えろという無茶を命令されたヴァジュラは項垂れた。

 

 

「ざまあみろ」

 

 

ヨミの暴言に反論する気にはなれなかったヴァジュラであった。

初めてのフレアフルールとプンダリーカの合同任務はこうして無事に完遂することが出来た。

 

 

 

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