黎明の光より   作:砂門

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第十二話〜聖王の悪戯

NOside

 

 

『神聖なる七騎士』の隊長コイドと白魔道士ユーリンは、祭りで賑わう市場でパトロールをしていた。どさくさに紛れて盗みを働く者がいるからだ。

 

 

「買い物に来たわけじゃねぇんだぞ」

 

「でもエデンさんに言われたじゃない。食料買ってきてくださいって。ついでよついで」

 

 

女と買い物に来るとろくなことが無いと溜め息を吐いた。ご機嫌でアクセサリーを選んでいるユーリンから目を離し、視線を移した。突如大きな魔力を感じた。アクセサリーを見ていたユーリンもその魔力に辺りを見回す。

 

 

「動いた。わざとか?」

 

「あの子!」

 

 

ユーリンが指さした先にいたのは浮世離れした子ども。銀髪かと思えば金髪になり、金髪かと思えば黒髪になり、黒髪かと思えば赤、青、緑と色を次々と変えていく。色を映す鏡のようだった。

 

 

「か、かわいい・・・」

 

「ああ、俺でも思う」

 

 

花籠を手にフラフラしている愛くるしい子は、道行く人に花を渡す。その花が綻ぶような笑顔に、人々も花を受け取らずにはいられない。惹かれるように並ぶ。どんなカラクリなのか、小さな籠から花が次々と出てくる

 

 

「貰いに行きましょ。ギックリ腰になっちゃったマスターのお見舞い。こんにちは」

 

「こんにちは、好きな色はなぁに?」

 

「ピンクかな」

 

「それでは、このピンクのダリアを」

 

 

白から薄いピンクへとグラデーションになった美しいダリア。それを天使のような笑顔でユーリンに渡す

 

 

「かわいい、ありがとう。えっと・・・お値段は?」

 

「これはボランティアだからいいの」

 

 

貧しい子どもが花を配っていることはあるが、この子は明らかに上等な代物を身につけている。

 

 

「すごい人だかりじゃない、どうしたの?」

 

「あ、ヨミくん。この子がダリアをくれたのよ」

 

「へぇ、可愛いダリアだね」

 

 

そのダリアよりも遥かに可愛い子どもが目に入り、ヨミは沈黙。見知った髪色と双眸。一度見れば絶対に忘れない。忘れることが出来ない。純粋無垢極まりない瞳がヨミを見据える。

 

 

「よし、エデンさん案件だね」

 

「そうね」

 

 

買い出しは終わっていた。コイドは、ユーリンの買物に付き合わされていただけだった

 

 

「あ、名前は?」

 

「アーリア・ノルブリンカ」

 

 

直訳で清らかなる宝石の庭だ。懐の深さ的には、その名前は間違っていないなとヨミは自分を納得させた。即興で考えたのか、いつもその名前を名乗っているのかは不明だ。

さらさらと風に靡く髪は空色に染っていた。空を仰げば快晴だった。花籠を両手で持ちながら街をきょろきょろと見渡す。

 

 

「なんか・・・汚い心が洗われそうだよ」

 

「俺も思う」

 

 

人の醜さを知らないのではないかと思うほど純粋で清らかだが、アーリア自身は人の醜さを目の前で見ている。だからこそ、歪むことも無く、揺らぐことも無く、ただただ清らかな心に圧倒される。こんな人になりたいと憧れた相手。しかし憧れてこうはなれないと思い知らされる相手。

 

 

「武器屋、やってるんだよね?」

 

 

アーリアが振り向きヨミをまっすぐ見つめた。宝石のような瞳に吸い込まれそうになる。

 

 

「うん、そうだけど」

 

「見てもいい?」

 

 

神話上にいたカルナと、伝説レベルのシャンティ。カルナにはもう既に認めてもらっている。次はシャンティだ。しかし、この男も歴戦の王だ。あらゆる優秀な鍛治職人の腕を知っている。その武器を持っている。だからこそ緊張する。

 

 

「ど、どうぞ。ごゆるりと」

 

 

大物すぎる大物が来たことを察したヤトが降りてきた。ヨミとヤトは二人で固唾を飲んで見守る。コイドとユーリンはヨミとヤトの距離の近さが気になった。

杖が置かれてある場所で止まった。真っ白な杖を見つめていた。

 

 

「これ、見てもいい?」

 

「ああ、いいよ」

 

 

その杖を慎重に持ち、アーリアに渡すとにこりと花が綻ぶような笑顔でありがとうと告げた

・・・か、かわいい

あの最強の男の幼少期はこのように可愛らしいのだと知った。大人になると美しくなる。留まるところを知らない。

アーリアは、本来持つ場所ではないところに手をかけると、すっと持ち上げた。ヨミとヤトはその様子に目を微かに見開いた。

・・・さすが、気づいたね

・・・まぁ、気づくよな

 

 

「うん、これ買うよ」

 

「えぇっ!?」

 

「ん?問題が?」

 

「全然問題は無いんだ。本当に?」

 

「こんなにも美しい杖は見た事がない。武器は、作り手の心を映す。真っ直ぐで一片の歪みもない芯がある」

 

 

子どもの姿になっていることを忘れているのではないかと思うようなことを呟く。ヨミの傑作をこれでもかと言うほど褒める。それに対して素直に嬉しいと思う。

 

 

「これ、報酬だ」

 

 

上等な布で包まれた箱。それが手に渡る。その布を剥がすと重厚な赤を基調とし、金色の彫刻があしらわれた立方体の箱。そっと蓋を持ち上げるヨミの目が見開かれていく。

 

 

「ねぇヤト・・・」

 

「ああ、これは・・・あれだな」

 

「ラピス・ランプルール」

 

 

最高の腕を持つ職人に贈られる宝石。職人ならば誰もが喉から手が出るほどに欲しがる宝石だ。それがヨミの手に渡る。

 

 

「ありがとうございます!!」

 

 

ルンルン気分でフレアフルールに向かうヨミに、コイドとユーリンは必死でついて行く。体力バカが本領を発揮したのだ。

ヤトがアーリアを背負い、ヨミについて行く。鬼神は皆、体力のたかが外れているのだ。

この状況に、コイドとユーリンはため息をつくのだった

 

ギルドフレアフルールに着くと、ヨミはすぐに呼びかけた

 

 

「エデンさん」

 

「はーい」

 

 

軽やかで美しい声が聞こえてきたと思えば、翡翠色の髪、緋色の双眸、男には到底見えないエデンが出てきた

 

 

「・・・え?」

 

 

さすがのエデンも笑顔が消え、目を点にした。普通ここに居るはずのない人物だ。

 

 

「あ、何かお飲み物をお持ち致しましょう」

 

「ホットミルクでいいってさ」

 

「猫じゃないよ。ミモザがいい」

 

 

ミモザ。植物のことだろうかととぼけるヨミとエデン。そこに、空気を読むことが苦手な二人が来てしまう。

 

 

「ミモザ・・・カクテルのことか?」

 

「お酒なんか飲んじゃダメ!こんな子どもにお酒の名前を覚えさせるなんて、親はどんなに躾をしているのかしら」

 

 

・・・その子、年齢だけなら世紀で数えた方が早いんですけどね

・・・ミモザとかこのギルドにあるわけないじゃん

シャンパンをオレンジジュースで割ったものだ。しかし、シャンパンというものはこの店に置いていない。居酒屋にありそうなメニューがほとんど。子どもにはノンアルコールという選択肢もあるが

 

 

「少々お待ちください」

 

 

エデンがふと思いつく。急いで奥に消えると、やがて鮮やかなオレンジ色のドリンクが出てきた。

 

 

「ナイス」

 

「ん・・・おいしい・・・」

 

 

エデンが珍しくガッツポーズ。エデンのガッツポーズをカルナたちは初めて見た。搾ったオレンジジュースを炭酸で割ったのだ。それが庶民とかけはなれたアーリアの口にあったのだとホッとする

 

 

「お腹空きました?」

 

「い、いまは断食中だから」

 

 

・・・えぇ、あんなに細いのに?

敬虔な信仰者ではないヨミには、断食イコールダイエットでしかない。しかし、この少年に関してはダイエットをする必要は全くない。むしろ食べろと言いたい

 

 

「どうして?」

 

「禊の前は食べちゃダメなんだ。一週間」

 

「一週間・・・禊?」

 

「うん。結界強化だよ」

 

 

国を守るための結界だ。それを強化するための準備期間が一週間。凍てついた空間で強化し続ける。

 

 

「ところで・・・ここまで何しに来たのかな?」

 

「この間のお礼かな」

 

 

この間というのは、プンダリーカとの合同任務のことだ。確かに、アーリアのことを助けはした。

 

 

「あと・・・依頼を・・・」

 

「え?」

 

 

国王からの依頼。基本的に国王の依頼はエデンの管轄だ。王室の存在でもないはずのエデンは、国と国の架け橋となっていた。しかし、この国自体は二ーロートパラ王国との関係はない。隣国でありながら、特に接点はない。フルールから二ーロートパラ王国へ渡せるものは陶器くらいだ

 

 

「私の・・・友人になってくれないだろうか」

 

 

思わず飲んでいた水を吹く一同。カルナまでもが困惑した様子でアーリアを見つめた

 

 

「それが依頼?」

 

「ヴァジュラは私に友の作り方を教えてくれないのだ。ならば、依頼して友になってもらおうと」

 

「うぅーん、友人ってね・・・依頼してなるものじゃないですよ」

 

 

そうなのか、とシュンとしてしまうアーリア。その姿にヨミが狼狽えた。その辺の子どもがショボンとしようが泣かないでよーくらいの軽い気持ちでいられるが、アーリア相手はさすがに無理だった。何故か、お分かりだろう。シャンティ王だからである

 

 

「取り敢えず、裏行きましょう」

 

 

エデンはシャンティを相談室に案内した

はい裏に行きましょうね、とエデンが奥に連れていった。ギルドで一番広い部屋だ。

 

 

「依頼とかの前に・・・そのトランクを見るに」

 

「うん、泊まろうかと」

 

「なぜ?」

 

 

ジークフリートとカルナの声が重なった。普通のリアクションだった。

 

 

「ヴァジュラから逃げてきたのだ」

 

「何かされたんですか?」

 

「最近セクハラ紛いのことをして来るのだ。すぐに触れようとしてくる」

 

 

・・・アイツ、そんな奴だったのか

ヨミは、ヴァジュラに対してそういったことには厳しいタイプだと思っていた。しかし、実はシャンティに関することになると見境がない。よく友人関係を解消しようとか考えられたなと呆れた

 

 

「匿ってくれ」

 

「依頼は友人になって欲しいってことと、匿ってってことですか?」

 

「そうだ」

 

 

難題が出された。友人の作り方で悩んだことがまずない。知らないうちに友になっていることが多い。交流がそもそも少ないシャンティは、そういった機会が無い。交流するとなれば、国民か王族かに限られてしまう。その時点で友人とかではなく、国同士の関係でしかないのだ

 

 

「匿うのは問題ないんですよ。問題は前者です」

 

「友だちはお金じゃないからね。ヴァジュラにお金貸したこととかある?」

 

「ない。見返りは求めない」

 

「それさ!」

 

 

いきなり大声を出され、シャンティがビクッと肩を強ばらせた。即座にゴメンと謝った。

 

 

「ヴァジュラに見返り求めた事ありますか?」

 

「・・・ないな」

 

「さて、ヴァジュラ以外に」

 

「見返りを求める以前の問題だ。求める相手がそもそも居らん」

 

 

その一言でジークフリートたちは撃沈する。見返りを求めるような知り合いは弟子のみ。しかし、弟子には見返りを求めていない。つまり

 

 

「弟子も友と見ていいのか?」

 

 

クシティとサーガラの様子を思い出す。恐れ多いことだと思ってしまう。友ではなく、まず身分の差がある。主と使用人という。ヴァジュラしかいなかった

 

 

「オレたちが友になればいい」

 

 

カルナの提案にジークフリートたちは少しだけ驚く。カルナからこの言葉が出るとは思っていなかった。

 

 

「本当か?友になったら何をすればいい?」

 

「ヴァジュラとは何をしたんだ?」

 

「手合わせ」

 

 

恐ろしい言葉が出たとヨミとエデンは頭を抱えた。珍しくカルナが深い笑みを浮かべた。お互いに興味があった。その相手と手合わせ。しかし、このギルドですればまず街が壊滅する可能性がある。

 

 

「今、なさるのですか?」

 

「本気でするの?」

 

「無論」

 

 

ブラフマーストラと何を使うのか分からない宝具がぶつかり合うかも知れないのだ

 

 

「おーい、アーリアだっけ、お前」

 

「お前・・・」

 

「おっとフラウくん、初対面にお前はダメだよ」

 

 

ヨミが空かさずフォローした。初対面ではなくてもシャンティ相手にお前はどうあっても擁護できない。見た目だけは歳が近いフラウとライトだが、相手は皇帝。知る由もないだろうが、それでも呼び方だけは弁えなければとエデンがこの場で躾ける

突然何も知らないキラが現れた。一瞬メガネを上げて見た。明らかにあの男がこどもの姿でいる

 

 

「お前魔法使うのか?」

 

「使うよ」

 

 

持ち前の演技力で無邪気な子どもを演じてみせる。

 

 

「フラウ、そのおと・・・ヨミ、何をする」

 

「この子はアーリアくんだからさ」

 

「そうです」

 

 

口を滑らせそうになったカルナにヨミが突っ込んだ。フラウのことだからシャンティを知らないかも知れないとは思ってはいるが、保険だ

 

 

「どんな魔法を使うの?」

 

 

ライトが尋ねる。この光景だけを見れば子ども同士の会話だ。

 

 

「えぇっと・・・変化」

 

「猫とか?」

 

「そう」

 

「見せてみろ。先輩が見てやる」

 

「そ、そう・・・」

 

 

千倍は先輩である魔術師に対し、魔術師歴一年のフラウが告げる。さすがのアーリアに扮したシャンティも困惑。このような言葉遣いで話されたことも、このように言われたこともない。セントラルだったら処刑だった。

アーリアは、変化するためにバク宙してみせ、猫に変身

 

 

「おぉ、すげぇ!」

 

「あのバク宙いるのかな・・・」

 

「演出ですよ・・・」

 

「魔術師ですから、軽快な身のこなしはお手の物・・・」

 

「みんなに見せに行こうぜ」

 

 

しかし、さすがはフラウとフラウをよく知るエデンは思い至る。コミュニケーション力は長けている。言葉遣いはこれからだ

 

 

「お話は終わったの?」

 

「うん」

 

「魔術のお披露目をしてるんだ」

 

「わたしにも見せて」

 

 

少しだけ嬉しくなったシャンティは、再びバク宙。すると、なんとも美しい

 

 

「これさ・・・」

 

「隠す気があるのか?」

 

「もう忘れてるんじゃないのか」

 

 

カルナとジークフリートまでもが呆れていた。現れたのは明らかに普通の鳥ではなかった。言うなら、鳳凰

 

 

「えぇっと・・・孔雀だよ!」

 

「ああ、そうですよね、孔雀ですよね」

 

 

こんな孔雀はいないな、と若干苦しい誤魔化し方をしたが、ここは切り抜けた

その後、猫、犬、獅子と見せかけてキマイラ、狼と見せかけてフェンリル、馬と見せかけてユニコーン。

そのたびに、獅子だよ。ちょっと大きい狼ですよ。間違えて角を生やしちゃったんですよね

ヨミとエデンのファインプレーをキラとヤトは拍手で称えた。

 

 

 

 

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