NOside
カルナと、アーリアに扮したシャンティは、無言で歩いていた。決して不快な訳では無い。しかし、二人の空気感は悪いものではなく、むしろ心地良さも感じていた。
しかし、同時に目を惹く二人に対する視線も常に感じていた。それに関しては居心地の悪さがある。特に慣れていないシャンティは
「普段は馬車か?」
「馬車と飛行船とかだな。国じゅうを回ろうとするとその辺は必須だ」
「国じゅうを回るのか?」
「世論が個人の思いを反映しているとは限らないからな。自分の目で見て声を聞いておきたいと思って。王ならば当然だ」
それが出来ず、少数派の意見も聞けない王もいる。都合の悪いことは聞かず、下手をすれば排除する者もいる。両方の声を聞き、国を慎重に慎重に改善してきた。部門によって大臣を立て、穴が見つかれば空かさず指導。
「そういえば、この間のインフィニティはどうした?」
「取り敢えずは、二ーロートパラ王国の島に放り捨てておいた。まあ、子どもたちは保護したし、既に両親の元に戻っている」
任務の翌日は昏倒して動けなかったが、その翌日に国で保護していた子どもたちをクルフ国に住む両親のもとへ。泣いて喜んだ。しかし、問題はそれを起こしてしまった王室に対する不満が募っている状況。しかし、まともだった国民は、こうなったそもそもの原因はセントラルだろ、と矛先をセントラルへと向けたのだった。
「シャンティは休日はあるのか?」
「ないから勝手に作ったのだ。明後日からはほとんど外に出られないから」
「禊のために?」
「そうだ。断食は禊の前の準備で、禊は祈祷の前の準備だ」
たった一日のために体力のみが減らされるような準備をして臨む。祈祷はプリハスパティ家にとって最も大切な祭事。その祈祷は、確かに二ーロートパラ王国を守り続けてきた。
「マーケットはどういう時期に催されるものなのだ?」
「不定期にやりたい時にやっている」
「ほう」
「シャンティのところは?」
「今はアーリアと呼んでくれ。バレたら困るのでな」
「そうだったな。アーリア」
年に四回春、夏、秋、冬と祭りが行われる。春はシャンティの誕生日に行われる華やかさが特徴の花祭り。夏は国立記念日があり幻想的な灯篭の道が飾る夢祭り。秋は夕方から夜にかけて行われる宵祭り。冬は正月だ。シャンティの祈祷の儀の際は、無事を祈って祭りを行う。
「慕われているんだな」
カルナの言葉にシャンティは照れくさそうに微笑んだ。先程のお互いに無言の時間が嘘のように会話する
「ところで、祈祷の話だが」
「ああ」
「いつも十一人でお前を守るのか?」
「いや、弟子たちは国を。ジュラが祈祷所を守る」
この祈祷の儀の時だけは人不足に悩まされるのだ。しかし、だからといって他の国のギルドに依頼するというのは些か傲慢すぎるのではないか。というのが一つ。もうひとつは
「信用していなかったから」
「ふむ・・・」
キッパリ言い切った。突然抜きん出て依頼達成率を増やしたのはフレアフルールだった。そこにシャンティは興味を抱いた。そして行動に移したのが、シュヴァルツ事件の合同任務。エデンにフレアフルールのなかで優秀な者を選んでもらった。エデンの人選は完璧だった。カルナ、ジークフリート、ヨミ、エデン、キラ、ヤトというフレアフルール最強の六人。期待できると初めて思った
「信用していなかったとは・・・人としてか?」
「生きてくれるか」
「そういうことか」
本来なら国の兵総出で守るものだ。しかし、二ーロートパラ王国に軍はない。死なない確信のない存在を信用しない。
「他国のことで死ぬなど国際問題レベルだからな」
「そうか」
「カルナ殿」
「なんだ」
「依頼・・・してもいいだろうか」
カルナは少しだけ黙った。これは、一人で決められる案件ではない。施しの英雄も、こればかりは。
「無理を言ったな・・・」
「分かった」
「え?」
「守ろう。お前も、国も」
「カルナ殿・・・」
間は空いたが、カルナの言葉に淀みはなく迷いもなかった。返答にシャンティの方が驚かされた。
「帰ったら、ヨミたちにも聞こう。ヨミたちなら二つ返事で承諾してくれる」
「そうか、では依頼書を」
「後で書けばいい」
ヴァジュラや弟子にも言っていない。しかし、カルナの言葉だけで期待を持てる自分がいた。これまで、たった十一人で国を守らせてきてしまったのだ。彼らの負担を抑えるために、これだけの戦力が揃うのはデカい
「シャンティ」
「どうした?」
「オレのお気に入りの場所に行こう」
「え?あ、ああ」
意外だと思った。そもそも、カルナがこんなにも喋るとは思わなかった。クシティから「何を聞いても一言しか帰ってこなくて本当に大変でした」と聞かされていたのだ。しかし、蓋を開けてみれば普通に話してくれるカルナがいる。並んで歩いても不思議と心地良い。
そして、しばらく歩くとカルナのおすすめの場所に来た。透き通る泉と青々とした木々が安らぎを与えてくれるようだった。澄み切った清らかな空気も気持ちが良い。
「沐浴か?」
「そうだ。ここでは無心になれる」
「無心か、確かになれるような気がするな」
シャンティは、胸いっぱいに清らかな空気を吸い込む。ふっと肩を下ろすと機嫌良さそうに歩を進める。そしてしゃがみこむと、透明な泉に手を浸す。丁度いい冷たさだ。シャンティは、靴を脱ぎ袈裟と着物を捲り、足を浸した。
「ふむ、気持ちがいいな」
「そうだな」
細い足でバシャバシャと泉の水を蹴る。こう見れば子どもに見える。ふと、鳥の鳴き声が聞こえシャンティが顔を上げると手を伸ばした。その鳥は人差し指に止まった。カワセミだ
「エデンの髪の色に似ているな」
「そうだな。カワセミは翡翠と書くそうだぞ。ふふっ、幸せの青い鳥。幸せになれるぞ」
「そうか」
カワセミだけでなく、キツネやシカやウサギがシャンティのところに来た。
「よく懐かれるな。ジークフリートとは大違いだ」
「優しいのに好かれないのか?」
「単純に・・・体型」
カルナの答えにシャンティは苦笑する。百九十センチの巨体は動物には怖いらしい。鎧に鳥が止まっている様子が頭に浮かび、シャンティは吹き出した
「どうした?」
「いや、ジークフリートのトゲトゲした鎧に鳥が止まっているところが頭に浮かんだ」
カルナも想像し少しだけ微笑んだ。その状況に困ったような顔をする姿も想像出来た
「そろそろ戻ろうか」
「そうだな。あ、そういえばこの辺りに滝はないか?」
「滝?そういえばヨミが近くにある泉で沐浴していると言っていた。ここから少し行ったところにある」
立ち上がると、カルナは歩き出した。シャンティは風を操り乾かした
「便利だな」
「其方の炎も変わらんぞ」
楽しげな雰囲気を纏わせる二人。しばらくすると滝が見えた。早朝にその手前の泉でヨミが沐浴する。滝行はしない。
「ヨミにもルーティンがあるのか」
「らしいな」
朝起きてから水を飲み、筋トレをし、プロテインを飲んだあとにシャワーを浴び、散歩がてらこの場所に来ると、沐浴をし、美味しいパンを買って食べる。それがヨミのルーティンだ。
エデンは、朝起きると直ぐに白湯を飲み、果物とカフェオレを嗜むのがルーティン。シャンティには、ただの朝の過ごし方に聞こえている。
カルナは沐浴したあとに、槍を振るうなどの鍛錬を行う。ジークフリートは沐浴をしないだけで、鍛錬をするだけ。シャンティは、シャワーを浴びろと心の中で突っ込む。シャワーを浴びるのは、朝食の後だとカルナが説明した。順序が間違っているのでは、と首を傾げる。しかし、人のルーティンに対して口出ししない
「シャンティは?」
「私は沐浴をし、その後に寒修行をし、それから祈祷所まで行くと結跏趺坐を組みながらマントラを唱え、湯に浸かり、断食をしていなければ菓子を食べる」
寺の裏庭にある泉で沐浴をしたあと、マイナス10度の部屋にある滝で寒修行。そして、城にあるマイナス30度の祈祷所で結跏趺坐を組みながらマントラを唱える。その後冷えた身体を通常の体温に戻すまで湯に浸かる。そして、通常は国民がくれた名産菓子を食べる。カルナは、キラがブチ切れそうなルーティンだと感じて眉間を顰めた。
「祈祷所はどこに?」
「城の最上階だ」
祈祷所がある最上階は地上から2000メートルほどの場所にある。さすがのカルナもそれには目を丸くした。
「さて、帰ろうか」
「ああ」
カルナとシャンティは、機嫌良さそうに森から出た。シャンティの髪は夕闇色を映し、夕陽色と淡い夜色に染まっていた。時々街灯に照らされて淡いブロンドヘアーになる。その幻想的な様子を興味深そうにカルナは見つめる。
「今日は楽しかった。いい休暇になったぞ」
「それはよかった」
カルナは微かに笑み、シャンティはにっこり微笑む。二人とも前を向くとフレアフルールに向かって夕闇色の道を進んで行った