アシュラside
カルナさんたちと分かれてから、何分経ったのかわからない。この島に来てから時計が使い物にならなくなった。そんなことはオレにとってなんの問題もない。問題は、オレの隣だ。ヴァジュラ。腹立たしいことに、この合同任務に参加することが決まっていたのだ。プンダリーカのエースだというのだからさらに腹が立つ。
「ねぇ、キミってシャンティさまの何なの?」
「右腕だ」
「それにしては親しそうじゃない」
シャンティって呼び捨てにしている時点で、右腕という説明だけでは納得出来ないというのが素直な感想だ。友人関係としか思えない
「友だち?」
「友だちだったが正しい」
なんだ、過去形なのか?なんか切ない友情だ。元友だちなら距離を置いておきたいものだけど、離れたのは心だけ的なことか?信用されているのは任務達成率ということなのか
「シャンティさまの方は友だちだって思ってたりしないのかな」
「そうだといいな」
「は?」
そうだといいな。シャンティさまが友だちだと思っていたとしても、この男はだったと言い切るのか。
「どうして距離置いちゃったの?」
「皇帝になっちまったから」
「ん?」
自分の耳を疑った。地獄耳のオレが聞き間違えることは無いはずなのだが。皇帝の称号を貰える人はまずいない。唯一の皇帝。偉大すぎる。だからこれまでのように友人ではいられない。ということらしい。ヴァジュラの考え方は分からなくはない。偉大すぎて近付くのも憚られる。良く言えば身の程を弁えている。でも、悪く言えば友人を王というだけで捨てた
「皇帝になったから、離れるんだ。シャンティさま、王族の友人とかいないの?」
「俺だけだって言ってたな」
ちょっと待って、この男最低じゃないか?そもそもシャンティさま自身貿易は使用人に任せている。使用人が大臣的な立ち位置にいるわけだ。そうなると、他国の王族で友人はいない。次に一般の友人を探してみる。どう考えても見当たらない。友人だったらギルドにいるはずだ。でもいない
この男のほかに友人がいないのに、皇帝になってしまったことを理由に友人として接してもらえなくなってしまった。その皇帝本人はまだ思っているかもしれない。というか、思ってくれていたらいいなとか言っていたくせに、自分は距離を置くとはどういうことだ。これはシャンティさまが可哀想だ。
「それって結構辛いよ」
「シャンティがか?」
「そうだよ。たった一人の友人を失うって、だいぶ辛いよ」
王はただでさえ独りだって聞くのに、皇帝なんて称号まで与えられて、さらに友人を失うという。この男には友人がいるかもしれないけれど、王の周りにいるのは友人じゃなくて尊敬と憧れの念を抱いた最強の使用人たち。
「孤高にするのは、王じゃないよ。国民なんだ」
「お前に何がわかんだよ」
「友人を失った王が王としての地位を捨てて行方不明になった事件があったんだよ」
ヴァジュラの顔が真っ青になった。王は心が強くないとできない。皇帝になるくらいだ、強いなんてものじゃないだろう。でも、強くいられる理由は精神面で支えてくれる人がいるからだ。信用とかじゃなくて、人としての当たり前の感情だ。
「その王が数か月後に遺体で発見された」
「・・・」
「理由は・・・大切なものを失ってしまったから」
王にとって大切なものは国民だ。それは確かだろう。その結果に得たものが皇帝なわけで。その皇帝の称号を授与された途端に、誰よりも大切な人を失うことになってしまった。しかも、自分の意志とは関係なく。
「クシティさんたちのことも大切に思っているはず。国民のことを思っているはず。でも、誰よりも大切なのは君じゃないの?たった一人の友人なんでしょ」
「・・・」
ヴァジュラは黙ってしまった。優しい王は、きっとヴァジュラが何をしても笑いかけてくれるだろう
「・・・そうだな」
「え?」
「シャンティが言ってたんだよ。皇帝の地位なんていらないってな」
王なら大喜びで貰う皇帝の称号。シャンティさまはそれを断る気でいたという。栄誉ある称号よりも、ただの一国王でいたいと。それにしては強いうえに人気なうえに偉大過ぎた。うちの国王にも見習ってほしいレベルだ。富と名声のことしか考えていない。エデンさんの愚痴を聞いていれば嫌でも思う。エデンさんの偏見が入っていたら分からないけれど
「皇帝になると何かを失いそうな気がするって」
「それで嫌がったんだ。君ほんとに最低だね」
「・・・否定できねぇな」
「この任務終わったら絶対謝りなよ」
「ああ、わかったよ」
「じゃあ、この話はおしまいにして・・・探検開始」
「調査だっての」
「あれ・・・言ってたら突きあた・・・り?」
歩くのが早かったのか、それともそこまでが短かったのかはわからないが、突き当りがあった。家でも建てられそうなくらいの広い空間だった。周りは岩しかない。どうみても何もない。でも、オレとヴァジュラは違和感を覚えていた
ゾッとするような感覚だ。畏怖の念を覚える感覚とかではなく、ただただ気持ち悪い感覚だ。岩肌に触れてみる。ヴァジュラも同じくそうしていた。明らかに自然にできたものではないと推測できる場所があった。俺はもう一度その場所まで戻った。切れ目があった。クレバスではない
「ヴァジュラ」
「こっちに切れ目がある」
「そっちにも?こっちにもあったよ」
オレはヴァジュラの方に寄った。うまいこと造ったなと一種の感動を覚える。岩がスライド式のドアになっていた。
「ある意味すげぇよ」
「同感だね」
どんな加工をしたら岩をスライドドアにかえられるのか。ちょっと作り方を教えてほしいくらいだ。それなら珍しい素材を補充できる。今日はたらふく持って帰る気で来たのだ。エデンさんに素材たくさん採れますよ言われて来たのだから。若干騙されたと思っている。
「行くか」
オレたちは洞窟の岩肌にできた洞穴に足を踏み入れた。どんよりとした空気。この洞窟の入り口とは比べ物にならないレベルの悪寒がする。ぐちゅっという音。泥でも踏んだのか?
オレは火の使い手だ。だから灯りを点けるのは大得意だ。ちなみに、錬成のときに金属を曲げる際にも便利だ
「お、便利でいいな」
「でしょ・・・うわぁー」
オレたちのテンションは上がるどころかただただ下がった。そこは地獄だった。ぐちゃっという音は
「肉?・・・」
「ひどい匂いだな」
点けるんじゃなかったと本気で後悔した。こんな地獄を見るのも久しぶりだ。これは例外中の例外だろう。どんなことをすればこんなに凄惨な状態になるのか。溶け具合からみて火傷ではないことはわかる。マグマを上からかけられましたというなら皮膚や肉がドロドロに溶けてもおかしくはない。
「例の毒か?」
「いやでもさ、資料の写真見たけどこんなことになってなかったよ」
「だよな。この溶け方・・・外からとは思えねぇ」
胸糞悪い光景だ。外側から溶けたのであれば、皮膚は跡形もないだろう。でも、皮膚はまだ残っている。ぐちゃぐちゃなのは肉のほう。全身を見みれば、あらゆる内臓が取り出されていることがわかった。目を背けたいレベルの有様だ
「ひでぇな・・・」
真っ青な顔で呟くヴァジュラ。オレも同じような表情をしているだろう。こんなところに遺体処理場があった。任務的には見つけることができてよかったのだが、人間として見つけなければよかったと思ってしまう。オレは鬼だけど
「これってさ・・・指示仰ぐ系のやつじゃない?」
「ああ」
「エデンさんに連絡するよ。シャンティさまは最後の手段だよ」
この依頼に関して、フレアフルールの指示するのはマスターではなく、マスターの秘書であるエデンさんなのだ。エデンさんのギルドでの地位は高い。呼ぶのはいいが、来れるかどうかが問題だ。それ以外は何の問題もない。
「ここはフレアフルール影のボスに任せることにして・・・ん?噂をすれば何とやら。エデンさんからだよ」
エデンさんから物凄くいいタイミングで念話が届いた。念話に圏外なんてものはない。山の中でも海の中でも使えるから便利だ。どうやらヴァジュラにも聞こえているらしい
『カルナさん、ヨミさん、ジークフリートさん、プンダリーカの皆様、お疲れ様です。追加の情報を得ましたので口頭でご報告いたします』
内容に愕然とした。オレたちが集合していた国の住人が、ここ数か月で50人以上行方不明になっているというものだった。元々人口の少ない国。その国から五十人もの人がいなくなっていたら、誰かが違和感を覚えたはず。なぜそれが世界に出なかったのか。何者かが関与している可能性もある。正確な人数を言うと54人だ。人口132人のうちの54人。そして、そのなかの全員が子ども。
『シャンティには伝えたのか?』
『シャンティさまからの情報です。現在シャンティさまはその国にいらっしゃっていたようですので』
シャンティさまがなんでそんな危険なところに行っていたのか。でも、おかげで行方不明者の情報を得ることができたのだ。そして、その行方不明者はここにゴミのように捨てられている。同じことをしてやりたい気分だ。
「その行方不明者だと思われる遺体が見つかった。ヴァジュラ、何体?」
「35体だ」
『それでは、今からわたしがそちらに向かいます』
「絶対誰かに送ってもらってよ?」
『大丈夫ですよ』
「ほんとかな・・・シャンティさまに送ってもらったら?」
『彼は暇ではないのですよ。別のお仕事をなさっておいでです』
『いや、終わり次第私も向かおう』
なんか知らない声が聞こえてきた。話の流れで言えば、あの人だ。オレのなかではほとんど伝説上の人でしかないシャンティさまだ
「お前の手を煩わせるまでもねぇよ」
『・・・そうか、ヴァジュラがいるならば安心だな。それではエデン、後は任せる』
『はい、かしこまりました』
なんで断ってんだよ、この男。そんな言い方してたらいつか任務に失敗して信用失うぞ。でも今は困る。
「じゃ、調査進めよっか」
「ああ」