クシティside
・・・どうする
かれこれ三十分ほど気まずい空気が流れている。エデンさまからは、「カルナさんは話を聞いてくれますよ」と言うので、「何年目なのですか?」とか、「どのような魔術を使うのですか?」とか、挙句の果てには「今日は晴れるでしょうか」などと質問してみたのだ。そしたら、一言だけ答えてそのあとは黙る。
「何年目なのですか」
「3年だ」
「どのような魔術を使うのですか」
「火だ」
「今日は晴れるでしょうか」
「晴れだと言っていた」
会話にならない。今私は、自信喪失しかけているところだ。シャンティさまの命で他国の王に対面し、交渉することもある。自分で言うのもあれだが、コミュニケーションというものに自信があった。今日この時までは。
「カルナさま」
「・・・その、カルナさまだが」
「はい?」
「何となくこそばゆいのでな・・・カルナでいい」
自分から話しかけて来てくれたと見ていいのだろうか。カルナさまと呼ばれることがこそばゆいらしい。
「分かりました、カルナさん。ああ、そういえば」
カルナさんが私の顔を見た。しかしそのあとは、同じように周りをキョロキョロ見渡し調査する。こういうところは真面目でいい。この任務に、カルナさんをはじめとするフレアフルールの三名を選出したのはエデンさまだ。合同任務になるだろうからとシャンティさまが推したのがフレアフルールで、出来ればフレアフルールで優秀な者を3人選出して欲しいと頼んだのだ。そして昨日報告に来てくれた。
「カルナさんとジークフリートさんは、ギルドの中でも任務達成率がずば抜けておいでです」
「このヨミという男は?」
「彼はこのシュヴァルツという蛇と何度も対面しております故、慣れているかと」
仕事が早く確実に熟すカルナさんとジークフリートさん。このシュヴァルツの鱗採取任務において、シュヴァルツの知識を持つ者が必要だろうと非雇用のヨミさんを選出した。
「ここまでの人員を揃えてくれるとは思わなかったぞ。ありがとう、エデン。物凄く助かる」
「ただでさえお忙しいのに、フレアフルールの名簿を渡すだけというわけにはいきませんからね」
「そうだな。其方のおかげで手間が省けた。ところで・・・私はこのカルナという男に興味がある」
その時、シャンティさまのそばに居たプンダリーカのメンバーとエデンさまがキョトンとした。
「どんな戦いをするのか見てみたい」
困惑したエデンさまは久しぶりに見た。その場の全員が騒然としたのは間違いないのだが。まさか王の方からそんなことを言うとは思わない。
「見てみたい・・・シャンティさまもいらっしゃると?任務に?」
「出来れば」
風邪をひいて寝込んでいる人が一体何を言っていたのだろう。熱に浮かされて正気ではなかったと思いたい。全員で説得し、シャンティさまの任務参加はなくなった。
ということを、カルナさんにお話した。すると
「オレも、シャンティには興味がある」
・・・よ、び、す、て
まあしかし、カルナさんにとっては他国の王。無理に「王」や「さま」をつける必要は無い。
「そ、そうですか。この任務が終わったら、お会いになられますか?」
「いいのか?」
今まで一番良いリアクションが返ってきた。王に対して興味というのが気にはなるが。
「・・・プンダリーカのギルドマスターが二ーロートパラ王国の国王とは知らなかった」
「公言しておりませんからね」
シャンティさまは、何があろうと国際会議に出席しない。セントラルからの誘いにも絶対に乗らない。セントラルの幹部が国のゲートの前に来ても門を開けない。プンダリーカのメンバーの一人が、セントラルのブラックリストの一番最初にシャンティさまの名前があると言っていた。それを聞いたシャンティさまは、「ブラックなのはセントラルの方だろうよ」と真顔で言っていた。
「聖王に嫌われているのか・・・」
「はい。救いようがない莫迦と仰っていましたね」
シャンティさまの辛辣な意見にカルナさんが苦笑する。そんな表情をするのか、この人。基本的に無表情だと思っていたが、意外にも分かりやすい
「む・・・分かれ道か」
私たちは、分かれ道のうち真ん中を行く。今頃サーガラは心のなかで浮かれているのだろう。雰囲気のある場所が好きなのだ。今回の任務について話し合いをした時、シャンティさまが聞くまでもなく自分から行くと言ってきたのだ。毒がどうのとかいう任務に喜んで行くのは彼くらいだ、と思っていた。ヨミさんを見るまでは。
唐突に念話が入った。エデンさんからだった
『カルナさん、ヨミさん、ジークフリートさん、プンダリーカの皆様、お疲れ様です。追加の情報を得ましたので口頭でご報告いたします』
内容に私たちは顔を見合わせた。プンダリーカの船を停めていたあの国の住人が、ここ数か月で50人以上行方不明になっていたという。しかも全員こども元々人口の少ない国。交渉に行ったメンバーは違和感を覚えたと言うが、その違和感の正体はこれだった。そんなこと、よく国民も隠し通せたものだ
『シャンティには伝えたのか?』
『シャンティさまからの情報です。現在シャンティさまはその国にいらっしゃっていたようですので』
そろそろ説教が必要かもしれない。風邪で昨日寝込んでいたというのに。私にもできることがあると思うのだ、的なことを言うに決まっている。出来ることしかないでしょうよ。しかし、行方不明者の情報を得ることができた点は良しとする。
『その行方不明者だと思われる遺体が見つかった。ヴァジュラ、何体?』
『35体だ』
それだけの数の遺体が見つかったのか。一体何がしたくてこんなことをするのか。
『それでは、今からわたしがそちらに向かいます』
『絶対誰かに送ってもらってよ?』
『大丈夫ですよ』
『ほんとかな・・・シャンティさまに送ってもらったら?』
『彼は暇ではないのですよ。別のお仕事をなさっておいでです』
『いや、終わり次第私も向かおう』
どうして来る気満々なのか。子どもが大好きなシャンティさまからすれば腹立たしいことこの上ないのだろう。それはわかる。だとしても、風邪治してからにして欲しい。
『お前の手を煩わせるまでもねぇよ』
『・・・そうか、ヴァジュラがいるならば安心だな。それではエデン、後は任せる』
『はい、かしこまりました』
ヴァジュラさんよくやった。風邪引きが出てくる訳には行かない。しかも、シャンティさまは王なのだ。本人は王ではなくマスターと呼んでくれなどとほざいていたが。
思い溜息をつき、前を向くと。拓けた場所があった。
「広いですね」
「ああ、シュヴァルツもその抜け殻でもなさそうだ」
「ハズレを引いてしまいましたかね?」
この部屋を囲む卵。これはまさか、シュヴァルツの卵なのだろうか。ここは、シュヴァルツの生態に詳しそうなヨミさんに尋ねる
『はーい、何?』
「クシティです。お尋ねしたいことがあるのですが」
『どーぞ、なんでも聞いて』
「シュヴァルツの卵と思われるものがあるのです。かなりの大きさです」
んーとヨミさんは考え始めた。何か心当たりがあるのだろうか。口から出たのはとんでもない文言
『シュヴァルツは卵産まないよ』
・・・え?
私とカルナさんは再び顔を見合わせた。シュヴァルツが卵を産まないなら、ここにある卵のようなものはなんだ。
『シュヴァルツは卵胎生。卵を胎内で孵化させて産むんだ。蛇というよりかは、中生代とかにいた魚竜とかに近いのかも』
「なるほど。ありがとうございます」
カルナさんは、少しずつ卵に近づいた。宝石のようなアイスブルーの瞳が見開かれた。
「心臓か?」
「こちらは胎児ですね」
取り出された内臓が入れられた卵形のカプセル。その隣のカプセルには胎児が培養されていた。カプセルから上に伸びる管。それを辿っていくと、二つのカプセルが管で繋がっていた。何かを注入しているのか?
「ひどいですね・・・」
「ああ」
誰がこんなことをしたのか。そんな思いを抱きながら、私とカルナさんは調査を再開した
用語説明
インフィニティ(政府)、インスパイア(立法府)、トレミエ(司法府)の総称。数々の汚職事件を繰り返し、数々の非合理的な法律を生み、大量の冤罪者を出したが、それを全てひた隠す。弱みを握っているのがプンダリーカ