ジークフリートside
サーガラ殿の浮かれ具合は、ヨミと変わらなかった。落ち着きがあるかないかという差だ
「こういう所が好きなのか?」
「はい。ロマンがありますよね。何があるかわからない。海底洞窟とかも最高ですよ」
「海底洞窟?」
「こんな生物がいたのか、と思うような生き物がいたり、過去に沈没した船があったり、その船で魚が暮らしていたり」
なぜか、主に海の中の話。陸での話があまり出てこない。水属性だから、海中での任務が多いのだろうか。
「私、魚人です」
「ん?」
突然のカミングアウト。魚人ということは、魚。しかし、どう見ても人間だ。人魚とはまた違うのか。
「陸での生活に憧れていたのですが、人の世界では亜人種に対する差別が酷かった」
陸での生活に憧れ、いつもいつも海面から顔を出し人々の様子を見ていたという。家族で地上で暮らしたいと思っていた。そして、ある日顔を出したところでシャンティ殿と出会う。シャンティ殿は、海でヴァジュラ殿と水浴びをしていたという。二人で?まぁ、そういうこともあるだろう。
一瞬だけ遡る。
それはある夏の日、旅をしていたシャンティ殿とヴァジュラ殿。その道中に美しく透き通る海を見つけ、そこで一休みすることに。シャンティ殿は足を浸すだけ。ヴァジュラ殿は大はしゃぎで遊泳。
「ん?これはこれは」
普段ならサーガラ殿のことを目もくれなかった人間。しかし、シャンティ殿の視界にはサーガラ殿が映っていた
「こんな浅瀬にいるものなのだな」
「魚人じゃねぇか」
「これは幸せになるかもしれんな」
信じられなかった。人間に石を投げつけられて泣いて帰ってきた友人を、サーガラ殿は知っていた。この二人は蔑むような目をするどころか、嬉々とした瞳でサーガラ殿を見つめていたという
「綺麗な鱗だな」
「に、にんげん、なる」
「人間になるだってよ」
「なるといってもな・・・なっているものになれるとは言えんな」
シャンティ殿はもう既になっていると言った。差はあって当たり前だ。どこの国の人なのか、どういった人種なのか。それで隔ててしまったから問題になっている。自分が優位に立ちたいだけなのだと。
「我が国には様々な人がいる。それこそ其方のような亜人種もいれば精霊もいる。そこではみんな一緒にいるぞ」
「なんせ、この男が作った国だぜ?来いよ」
「来る?」
「我が国へ、我がギルドへ」
勇気を振り絞って地上に足を付け、歩いた先にあったのは自分と同じような境遇を持つ人たちの笑顔。サーガラ殿は、思った以上にすんなりと馴染むことが出来たという。次に海に帰った時、家族を連れて国の門をくぐった。誰でも受け入れる寛大な人だということがこの話でわかった
「私からも聞かせてください。ジークフリートさん、あなたは竜殺しで有名なジークフリートさんという認識でよろしいですか?」
「ああ、有名かは分からないが」
「バルムンクをお使いになるかと思われるのですが」
「その通りだ」
宝具まで知られているのか?エデンが教えたのだろうか。それならばシャンティ殿の属性くらい教えておいて欲しいものだが
「それはよかった。シュヴァルツ相手でも造作ないでしょうね」
「え?」
「シャンティさまが、シュヴァルツは龍の類と見ていいと。龍特攻の宝具はかなり有利です」
生前はそんなことを考えずに奮っていた気がするが。そんな特性があったのか
「シュヴァルツ、楽しみです」
「そうか」
これだけ楽しみながら任務ができるのも凄い気がする
「おや、念話ですね」
『カルナさん、ヨミさん、ジークフリートさん、プンダリーカの皆様、お疲れ様です。追加の情報を得ましたので口頭でご報告いたします』
内容に俺たちは呆然とする。集合場所だったあの岸に来るまでに、列車で様子をちらっとだが見ることが出来た。この時間なのに少ないねというヨミの言葉。それは少なくもなるはずだ。ここ数か月で50人以上行方不明になっていたのだから。元々人口の少ない国で、その国から50人もの人がいなくなっていたら、閑散としているに決まっているのだ。正確な人数を言うと54人。被害者は全員子ども。
『シャンティには伝えたのか?』
『シャンティさまからの情報です。現在シャンティさまはその国にいらっしゃっていたようですので』
シャンティ殿は一体何をしているのか。一国の王が自ら危険な場所に赴く必要などあっただろうか。しかし、そのおかげで我々は行方不明者のことが分かったのだ。それは素直に感謝すべきだろう。すると、ヨミたちの方から
『その行方不明者だと思われる遺体が見つかった。ヴァジュラ、何体?』
『35体だ』
『それでは、今からわたしがそちらに向かいます』
『絶対誰かに送ってもらってよ?』
『大丈夫ですよ』
『ほんとかな・・・シャンティさまに送ってもらったら?』
『彼は暇ではないのですよ。別のお仕事をなさっておいでです』
『いや、終わり次第私も向かおう』
聞いたことの無い声。一体誰の声なのか。男性にしては高めの声音。ヨミよりは少し低いくらい。あの男しかいない気がする。
『お前の手を煩わせるまでもねぇよ』
『・・・そうか、ヴァジュラがいるならば安心だな。それではエデン、後は任せる』
『はい、かしこまりました』
友人であるシャンティ殿の手を煩わせるまでもない。なかなか余裕そうな言い草だが。これは、王が来るべき案件である気がしなくもない。しかし、その代わりフレアフルールNo.2の権力者エデンが来るのであれば問題は無いだろう。
しばらくすると、拓けた場所に辿り着いた。
「金銀財宝というところですね・・・さすがはジークフリート」
「どういう意味だ?」
「金運だけはあると」
だけと言われると辛いが。運は全て金と力に吸い込まれてしまったのではないですか、とサーガラ殿は言った
「ヨミさん」
『はーい、今日はよくオレに念話が来るね』
「素材になりそうなものがあるのですが」
『なんだって!?』
思わず耳を塞いだ。頭の中で話されているわけで、耳を塞いでも煩いものは煩い。素材があると言った途端に声が上擦った。かなり嬉しそうだ。目をキラキラさせたヨミが浮かんだ
『後で教えてよ!』
「はい、かしこまりました」
『よっしゃあ!だってさ、ヴァジュラ!』
『へー』
興味のなさそうな返事だった気がするが、ヨミは気にもとめなかった。
そして、念話の途中で
『サーガラ、ヨミ、念話の途中で割り込んで済まない。それからジュラ、クシティ、カルナ殿、ジークフリート、聞こえているか?』
『お前の声が聞こえねぇわけねぇだろ』
『はい、問題なく』
『問題ない』
「同じく問題ない」
シャンティ殿からの念話だった。近くで話しているのかと思うくらいクリアに声が聞こえる。まず、念話とは割り込めるものなのかという疑問が湧く。そしてなぜ、カルナだけ敬称ありなのか。しかし、そんな些細な疑問を吹き飛ばす新たな情報が入った
『子どもが一斉に行方不明になったクルフ国は漆黒だ』
『漆黒?』
『子どもを目的とした取引が行われていた』
そんなことをして、国民は反対しないのだろうか。相手国もその取引を断るべきではないのか。
子どもを目的とした貿易。そしてその取引先は、その子どもたちを何かに利用しようとした。奴隷とは思えない。シャンティ殿が詳しく調べたところ、行方不明になった子どもたち全員が取引に利用されていた。金のないクルフ国は、子どもを多額の価格で売ることが出来ると知り受け入れた。
『最悪じゃねぇか』
『シャンティ、こちらに胎児が培養されている。これについては?』
『取引先の国の12週目から19週目の妊婦をターゲットにし、胎児を闇手術で取り出されていることがわかった』
『取り出す?』
『その後、口封じのために毒殺している。しかし、それだけの妊婦を殺害しておきながら隠蔽』
この任務はとてつもない方へと向いていた。シュヴァルツの鱗を収穫するだけだと思っていた。しかし、蓋を開けてみれば子どもが売られ、その上殺され、不正で胎児を取り出し、その胎児がここにいる。亡くなってはいないとカルナは言った。
『取引先は?』
『インフィニティだ』
念話でこれを聞かされていた全員が沈黙。耳が痛いほどの静寂が流れた。そしてシャンティ殿は話を続ける
何故シュヴァルツまで利用しているのか。利用しているのはシュヴァルツ本体ではなく、抜け殻だけということなのだろうか。本当に鱗の毒にやられて昏倒したのか?
『殺された子ども、内臓が取り出されてんだ。何か知らねぇか』
『内臓なら、胎児とともに保管されております。殺害された子どもと同じ数ですので・・・』
『繋がれてるの?』
『ああ』
54人の胎児。そのうち35人の胎児と、殺害された子どものものと思われる内臓が保管された35のカプセルが繋がっていた。つまり、まだどこかで15人の子どもと胎児が犠牲になっているかもしれないのだ。早く探さなければ
『シュヴァルツの抜け殻は、確か薬になるはずです』
『薬か』
ヨミからの情報。抜け殻が薬になる。これまで見つからなかったが、それで売っている薬師もいるという。
『麻薬の開発ではないか』
『なるほど、麻薬か。しかし、毒はどこから?』
麻薬の開発をしているとして、そんなに毒をどこから持ってくるのか。そして、抜け殻に触れただけで昏睡状態。毒もどこかで取引されているのかもしれない
『毒の取引はされていない』
「え?」
俺は何も言っていないのに。俺の心のなかをシャンティ殿に読まれてしまったのか。恐ろしい
『だからといって、毒の魔術師もいない。ムーダの調べでもインフィニティにはいないし、今のところ確認できているのはヨミの友人のヤトくらいだ』
『確かに、ヤトは使えますし作れますね』
『だが、その男とインフィニティの関与はないし、むしろ嫌っていそうなので容疑者にもしていない』
『よかった』
つまり、毒の魔術師による犯行ではないということだ。昏睡状態にまで陥る毒など、蛇の毒くらいだが
「・・・蛇の毒?」
『ジークフリート、どうした?』
「シュヴァルツは毒を持っていないのか?蛇は毒を持っているイメージだが」
『ナイスだよジークフリートさん!なんで思いつかなかったんだろ。シュヴァルツの尻尾には毒がある。かなり強力な』
少し触れただけで痺れ、その後昏倒。最悪の場合死に至る。鱗に問題は無いが、尻尾はとてつもなく危険だという
『そんな毒どうやって採取するのです?』
『シュヴァルツが特に強い毒を発生させるのは妊娠中と聞く。間違いないか、ヨミ』
『はい、その通りです』
ヨミがかなり緊張した様子で答えた。今が妊娠の時期、そしてその時期はほとんどを寝て過ごすという。寝ているから後方に周り、そこから鱗を収穫しようとしたのだ。つまり、昏倒した男たちは抜け殻に触れたのではなく、妊娠中で危険極まりないシュヴァルツの尻尾の先端に触れてしまったということか
『その麻薬で儲けようという魂胆だろうな。これはこれは・・・ジュラ、クシティ、サーガラ』
指名された三人が同時に返事をした。
『この洞窟で、其方らが目をつけている場所があるのなら徹底的に調べよ。戦闘も許可する。中にいる者は全て捕らえよ。私は洞窟の前で待っている。国に毒を持ってこられては困るのでな。エデンは洞窟の前まで送った。あとは彼から指示を仰ぐように。以上だ』
全員がいっせいに短く返事をした。風邪をひいて寝込んでいたのに、とサーガラ殿が心配そうに呟いた。出来れば手を煩わせたくなかったのだろう。しかし事情が事情だ。そういう訳には行かない。
「これは、浮かれている場合ではありませんね。ここからは、プンダリーカというよりも二ーロートパラの使用人としての仕事になりますね。引き続きご協力お願い致します」
「無論だ。必ず完遂する」
俺とサーガラ殿は顔を見合わせ頷き合った。ここに用はない。全ての部屋を調べ尽くすしかない。俺たちは引き返した。この任務は、ここからが問題だ