『FE覚醒短編集』   作:OKAMEPON

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『譲れないもの、一つ』

◇◇◇◇

 

 

 

 

 それは春の盛りのとある日の事。

 聖竜ナーガの加護を受けるこのイーリス聖王国の王都は、何時も以上の活気に満ちていた。

 今日は、この国の第一王女ルキナの誕生日であるのだ。

 

 世界を滅亡に陥れようとしていた邪竜ギムレーが、初代聖王と同じくナーガの加護をその身に受けた当代聖王クロムと、彼が率いる勇壮なる仲間達によって討ち滅ぼされて早数年。

 当時はまだ物心も付いていなかった幼児であったルキナ王女は、偉大なる父と優しい母に見守られながら健やかに成長していたのであった。

 ギムレーの脅威も去った今、イーリス聖王国は末永く栄えていくのであろう、と民は皆心からそう思っている。

 

 が、そんな人々の想いや祝福とは裏腹に、イーリス城ではとある大騒動が巻き起こっていたのであった……。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ルフレさん、わたし、ルフレさんのお嫁さんになりたいです!」

 

 

 イーリスが誇る軍師ルフレは、その言葉に一瞬とは言えまるで刻が停まったかの様に硬直した。

 その驚愕の程を雄弁に表すかの如く琥珀色の瞳は大きく見開かれる。

 だが、そこは神軍師とまで讃えられた者の矜持なのか何なのか、一瞬後にはルフレの頭脳は再起動を果たし、現状を整理し打開するべくフル回転を始めた。

 

 

 そう今日は、ルキナの誕生日で。

 だからそのお祝いをしようと、イーリス城に妻であるルキナと一緒にやって来て。

 小さなルキナに贈り物と祝辞を述べた。

 すると、その直後に。

 小さなルキナがルフレの手を、まだ小さなその手で掴んで。

 そして、こう言ったのだ。

 

『ルフレさんのお嫁さんになりたい』、と。

 

 

 そこまで理解して、ルフレは心中で思わず呻いてしまった。

 どう返すべきなのか、と考えるより何よりも。

 小さなルキナの発言で同じく硬直してしまった周囲の、特に、俯いてしまったクロムと、ルフレの横に立つルキナが、その心中で何を考えているのか…………ルフレにとっては想像するだに恐ろしい。

 

 ルフレを見上げる小さなルキナのその瞳は、最愛の人と同じ色で輝いていて。

 まだ幼さが際立つ柔らかな頬は、熟れた林檎の様に赤い。

 ルフレが見詰め返すと、小さなルキナは照れた様に一瞬目を逸らすが、ルフレの手を掴むその手は離そうとはしないし、再びモジモジとしながらルフレを見上げてきた。

 

 微笑ましく可愛らしい幼い恋にルフレも笑みを浮かべたくなるが、それはその恋の相手が自分でなければの話だ。

 ルフレは既に愛する人が居る身であり、例えそれが少し時を隔てた同一人物であると言えるのだとしても、『そういう意味』で愛しているのは小さなルキナではなく、ルキナただ一人である。

 

 勿論、ルフレにとっては小さなルキナも大切な存在だ。

 その小さな手には幸せが溢れていて欲しいし、その未来には沢山の希望が輝いていて欲しい。

 そしてその名前の由来となった古い女神の様に、彼女もまた誰かに幸せや希望と言った“光”を与えられる様になって欲しい。

 何時か彼女が大人になったその時には、ルフレやクロムがそうであった様に、心から愛し合える人と幸せになって欲しい。

 

 が、ルフレにとって小さなルキナは、ただただ見守る様にその幸福を願い祈り守るべき存在であるのだ。

 そこに“愛”はあるけれど、ルキナに向ける“愛”とは全く別のものであり両者が同一のものになる事は有り得ない。

 何もかもを捨ててでもたった一人の幸せを願う様な、己の全てを焦がす程の苦しさすら伴う様な、激情とすら呼べるであろうそれが、小さなルキナに向く事は無い。

 

 結局ルフレには、この小さなルキナの気持ちを受け止める事は出来ても応えられないのだ。

 初恋を叶えてあげられない心苦しさはあるけれど、不可能な事は不可能なのである。

 

 だから、と。

 ルフレが口を開こうとした時だった。

 

 

「……さんぞ」

 

 

 深く、地の底から響く様な声がルフレの耳に刺さる。

 クロムだ。

 

 クロムは、ルフレが何れ程ルキナの事を愛しているのか知っている。

 だからこそ、万が一など起こり得ぬとは頭では解っているのだろう。

 が、それとこれとは話が別であるのもまた親心と言うものか。

 ルフレは覚悟を決めた。

 

 

「許さんぞ、ルフレ!

『お父様のお嫁さんになりたいです』とすら言って貰えてないのに、お前が先に言われる等と!」

 

「ってえぇっ!!?

 気にするのは其処なのかい?!」

 

 

 ルフレが予想していたものとは斜め上な方向に飛んだ話に、思わず大声を上げてしまう。

 

 

「黙れルフレ!

 お前に娘を持つ親の気持ちが分かって堪るか!

 ルフレと俺のどっちが好きかルキナに訊いたら、『る、ルフレさん……です』と頬を赤らめて答えられた俺の気持ちが!」

 

 

 そう言うなり、その時を思い出してしまったのかクロムは一気に落ち込む。

 茸でも生えてきそうなクロムの沈みっぷりに、責が無いとは言えルフレは罪悪感を抱いた。

 

 

「わ、分からないけど、取り敢えずごめん……」

 

 

 ルフレがそう謝る傍らでルキナが身をフルフルと震わせ、小さなルキナに掴まれていない方のルフレの手をグッと掴んだ。

 そして。

 

 

「る、ルフレさんは私のです!

 貴女にはあげられません!」

 

 

 ギュウッと、ルフレの腕を引きながらそう宣言する。

 

 

「うぅ……。

 ルキナお姉さんは、ルフレさんのおくさんであってお嫁さんじゃないじゃないですか!

 だから、わたしはルフレさんのお嫁さんになります!」

 

 

 ルキナの言葉に一瞬だけ怯んだ小さなルキナも、負けじとルフレのローブの袖口を掴みグイグイと幼いながらに手加減を知らない全力の力で引っ張る。

 どうやら、まだ幼いルキナは、“お嫁さん”と“奥さん”は別物だと認識しているらしい。

 

 

「だ、ダメです!

 ルフレさんのお嫁さんも奥さんも私だけです!」

 

 

 普段の落ち着いた態度などかなぐり捨てて、ルキナはルフレを離すまいとしがみつく。

 

 

「二人とも落ち着──」

 

「イヤです!

 だってルフレさんのことが大好きなんです!」

 

「私の方が、ルフレさんの事が大好きです!」

 

 

 取り敢えず落ち着いて貰おうとした言葉は、二人の言い合いに遮られた。

 二人とも、わたしが私の方がと主張しながらルフレを引っ張るのを止めない。

 

 最早こうなってしまっては渦中のルフレに成す術は無い。

 ふと目を向けた窓の外を鳥達が軽やかに飛び回っている。

 

(ああ、良い天気だな……)

 

 その場にフレデリクやリズ達が駆け付けてくるまで、ルフレはそうやって現実逃避していたのであった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「すみません、ルフレさん……」

 

 

 騒ぎに何とか収拾が着いた後、ルフレとルキナは何と無く気まずい状態で家に帰った。

 ルフレとしてもどう切り出して良いものなのか分からず、つい沈黙に沈んでしまう。

 そんな中で、ルキナが述べたのは謝罪であった。

 

 

「ルキナ、別に謝る事でも無いよ」

 

「でも……。

 本当ならば、あそこは微笑ましく小さな私を見守るべきだったんです。

 だって、あの小さな私にとっての『ルフレさん』は、貴方だけなんですから……。

 なのに、私は……小さな私の細やかな初恋一つ、冷静に受け止められなかったんです」

 

 

 ルキナは自分の薬指に輝く指輪を見詰める。

 ルフレが愛を誓ったその証は、ただ一人、ルキナの為だけにそこに存在している。

 

 

「ルフレさんの気持ちは、分かっています。

 あの私に向ける想いは、慈しみとか……そんな感じのものである事も、分かってるんです。

 でも……、ほんの少しだけでも、あの私にルフレさんが盗られてしまうと思うと、とても冷静ではいられなくて……」

 

 

 ギュッと固く握り締めたルキナのその手を、ルフレはそっと包んだ。

 女性的な柔らかさの少ない、剣士の手だ。

 あの小さなルキナのものとは、とても遠い場所にある手だ。

 だけれども。

 絶望の未来で、そして未来を変える為にやって来たこの過去でも、ずっと戦い続けてきた事を雄弁に語るこの手が、ルフレは何よりも好きだ。

 

 

「良いんだよ、ルキナ。

 確かにちょっと驚いたけど、それでも、君にそこまで想われるのは悪い気はしない」

 

 

 ルフレだって、もしも……。

 そう、例えば。

 ルキナが居た未来の己がここに現れて、そしてルキナに求愛したら。

 きっと冷静では居られない。

 何がなんでもルキナを離さないだろう。

 例え、ルキナの心が揺るぎなく己に向いているのだと確信していたとしても。

 

 時間を隔てた同一人物であろうと何だろうと、譲れないものはあるのだ。

 

 

「……私は……、あの私からルフレさんを奪ってしまったんです。

 ……本当ならば、ルフレさんがあの私に使うべきだった時間を、向けるべき笑顔を、私は独り占めにしてしまった」

 

 

 その美しい瞳に深い苦悩が映る。

 ……ルキナは、何時もそうだ。

 両親が大好きで甘えたくて、それなのに。

 最早自分と同じ道を歩かないであろう過去の自分を想って、踏み込めない。

 今ここに生きている両親は、小さなルキナのものなのだから、と。

 その愛を僅かでも自分が奪ってはいけないのだ、と。

 そう言って、身を引いてしまう。

 

 ギムレーとの戦いが終わった後だって、そうだった。

 最早自分が両親の傍に居られる『理由』は無いと、何処かに身を潜める様に旅立とうとしてしまっていた。

 だからルフレは。

 ルキナが……いや、ずっと戦い続けてきたルキナ達が。

 その心の底に押し込めた望みを殺さないで済む様に、全力を尽くした。

 それが正しいとか間違ってるとかは、どうでも良い。

 ただただ、愛しい人の笑顔が曇る事だけは防ぎたかったのだ。

 

 

「僕が選んだのは君だ、君だけだ。

 奪うとか以前に、僕のこの想いは最初から最後まで君だけのものだよ」

 

「ルフレさん……」

 

 

 潤んだ瞳で見上げてくる最愛の人の唇に、ルフレは一つ口付けを落とした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ルフレが選んだのはルキナだけだと言うのはこの上無く正しい。

 が、それだけでは無い。

 ルキナがルフレを選び、望んだからこそ。

 ルフレはこの世界に居るのだから。

 

 

 

 ……ルフレはルキナを愛していた。

 仲間たちから距離をおくルキナを心配して、何かと気に掛ける様にしたのが始まりだったかもしれない。

 理由が何であるにしろ、ルキナと接する内にルフレの心の内には知らない想いが芽生え、それはゆっくりと成長し、やがて実を結ぶ。

 だが程無くしてルフレは自分が未来で何をするのかを知ってしまった。

 

 未来でクロムを裏切って殺した者。

 絶望の未来を作り出した張本人。

 それが、自分であった。

 きっと、自らの意志では無かったのだろう。

 でもそれは、何の言い訳にもならない。

 

 未来の禍根を断つ為に、と。

 ルキナが己にその剣を向けてきた時に、その目が苦悩に歪み哀しみに潤み、そして剣を持つ手がその心の葛藤を語る様に震えているのを見た時に。

 ルフレは想いを伝えるべきでなかったのかもしれない、と後悔した。

 もし想いを伝えていなかったら、ルフレの心の内に秘めておけば。

 今ルキナをここまで苦しめなかったのではないか、と。

 されども時は戻ることなく、やり直す事も出来ぬままに無情にも過ぎて行く。

 

 無抵抗に殺されるか、それとも抵抗するか。

 選べと迫るルキナに、ルフレは何も返せなかった。

 

 ルキナに剣を向けるなど、有り得ない。

 命を粗末にするつもりは無いけれど、それでも。

 泣きながら剣を向ける最愛の人の願いがそれであるのなら、その命を捧げる事に躊躇いは無かった。

 だがしかし、無抵抗に殺されたとして、その後ルキナが幸せになれるのかと考えた時に。

 ……恐らくそうはならないであろう、と結論に至ってしまった。

 この愛しい人は、災いの芽を摘んだだけだと割り切れる様な性格ではない。

 例え合意の上の殺害であったにしろ、ルキナは一生恋人殺しの罪を背負い自責の念に苛まれながら過ごしてしまう。

 ……ルキナの幸せを何よりも願うルフレとしては、それを看過する事は出来なかった。

 

 結局、ルキナが剣を取り落とし、クロムが乱入した事でその場は有耶無耶になったのだけれども。

 ルキナとルフレの間には、蟠りが生まれてしまった。

 一度は殺そうとした相手だからかルキナはルフレを避ける様になり、ルフレもまたそれを解消する術を思い付けないまま、ルフレは己に隠された更なる謎、“己が何者であるのか”と言う答えを知ってしまった。

 

 未来で甦り、世界を破滅に陥れた邪竜ギムレー。

 それが、自分だった。

 何れ未来の己が成り果てるのは、ルキナの仇であり、仲間たち皆の敵であった。

 

 それを知ってしまった時の絶望は、筆舌に尽くし難い。

 

 自分には、ルキナを愛する資格など無かった。

 ルキナを愛するなど、己には許されていなかったのだ。

 それでも。

 赦されざる想いだろうとも。

 ルキナを愛しく想う気持ちは止まる事を知らず、その心を焦がし続けた。

 

 ただ一つだけ、ルフレにも救いは残されていた。

 この命を使えば、今再び蘇ろうとしているギムレーも、この時間のギムレーも、どちらも葬り去る事が出来る。

 その可能性を示された時、ルフレの道は定まった。

 

 この身が消滅しようとも構わない。

 ルフレと共に生きる未来を望み、犠牲を拒むクロムを裏切る事になろうとも、構わない。

 

 ギムレーに止めを刺した時にルフレの心にあった想いは、ただ一人、ルキナのその未来と幸せであった。

 

 

『どうか幸せに。

 どうか君の未来に沢山の希望と幸せがありますように。

 ……また何時か何処かで君に出逢えるのなら、今度こそ僕が君を幸せに──』

 

 

 ルフレは、消え行くその手を掴もうと必死に手を伸ばすルキナに心からの笑顔を浮かべた。

 最後に紡いだ言葉は、ルキナに届いたのだろうか?

 それを確かめる術など無く、ルフレはこの世から消滅した。

 

 

 そう、消滅した筈だったのだ。

 

 

 だが、二年程の時が過ぎた頃。

 ルフレは再びこの世界に戻ってきた。

 

 

 それを最初に発見したのはクロムとリズであった。

 何時かの出逢いを焼き直したかの様に、草原に倒れたルフレを助け起こしてくれたその姿は、何時かのあの日よりも少し歳を重ねていて。

 

 状況が上手く飲み込めず記憶も混濁状態にあったルフレを伴って王城に帰還したクロム達を出迎えたのは、ルキナであった。

 

 ルキナの姿を目に留めた瞬間、溢れんばかりの愛しさが込み上げてきて。

 混濁していたルフレの記憶は、急速に整理されていった。

 そしてその勢いに突き動かされるままに、胸に飛び込んで来たルキナを抱き止めて。

 そして、後になって思い返せば恥ずかしくなる位に、ボロボロと涙を溢して、ルキナに縋り付く様にその身体を抱き締めていた。

 

「お帰りなさい」とか「ただいま」だとか、そう言う言葉も交わした気もするが、その時の記憶は今となっては定かではなく。

 それでも、ルキナの体温を確かに感じられた事がどうしようも無い程に嬉しくて、その愛しい声が自分の名前を呼ぶ事が嬉しくて、世界で一番大切な相手が自分を見詰めてくれている事が堪らなく嬉しかった事は、ちゃんと覚えている。

 

 

 二年間、ルキナはルフレを待ってくれていた。

 帰ってくるとすら約束しなかったルフレを、『人としての心が勝れば、或いは』と言うナーガの希望的観測の様な言葉を頼りに。

 帰ってくる、必ず帰ってくるのだ、と。

 信じて、ルキナは待っていた。

 帰って来た時に直ぐにルフレを見付けられる様に、と。

 ギムレーとの戦いの後も悩みながらイーリス城に留まり、同じくルフレの帰還を信じていたクロムと一緒にルフレを探しながら。

 

 

 ルフレが帰って来る事が出来たのは、そうやって信じて待っていてくれた人が居るからだ。

 ルキナが信じてくれたから、ギムレーの心に勝てたのだろう。

 ナーガが何も語らぬ以上真実を知る者は無いが、ルフレはそう確信していた。

 

 

 その後少ししてから、ルフレはルキナと正式に式を挙げた。

 身内だけの、細やかなものであったけれども。

 あの戦いを共に駆け抜けた仲間たちは皆集まって、ルフレとルキナを祝福してくれた。

 

 夫婦になってからも、本当に色々な事があった。

 ルキナや彼女と同じく未来からやって来た子供達が身を隠さずとも済む様な工作や根回しを、彼等の親と協力して敢行したりしたのもその一つだ。

 やった事がルキナにバレた時には少し悶着したものだが、今となってはそれも良い思い出である。

 何にせよ、未来から来た子供たちは今や誰もが皆好きな様に己の道を歩いていた。

 頻繁では無いものの時折王城に顔を出すルキナを、小さなルキナが『ルキナお姉さん』と慕う様になったのもこの頃だ。

 

 

 こんな泣きたい程の幸せをルフレにくれたのは、ルキナだ。

 ルキナが居てくれたから、…………ギムレーと同一であると言っても過言では無いルフレを、それでも愛しているのだと望んでくれたら、ルフレはここに居られる。

 

 だからこそ、ルフレはあの日の言葉通りに、ルキナを己の全てを賭けて幸せにすると誓ったのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「ね、ルフレさん。

 私の初恋は、ルフレさんだったんですよ」

 

 

 ポツリと、抱き締めた腕の中でルキナが呟いた。

 

 

「それは、……もう一人の僕の事?」

 

「はい。

 ……あの未来の、ルフレさんです」

 

 

 未来のルフレ。ギムレーと成り果てた己。

 過去にまでルキナを追い掛けてきた彼は、過去跳躍によって失った竜の力を再び取り戻し、この時間でギムレーとして復活した。

 

 彼を許す事は、出来ない。

 そこに“ルフレ”の意志が無かったにせよ、ルキナを苦しめその未来に絶望を落とした事は許せない。

 だけど、きっと……。

 

 

「……きっと、あの僕もルキナの事が大切だったんだね……。

 僕が、小さなルキナを大切にしているのと同じで。

 ……同じ僕だからね、何と無く分かるよ」

 

「そう、でした。

 あのルフレさんは、私にとても優しくしてくれて……。

 きっと、……憧れみたいなものだったんです。

 でも、本当にあのルフレさんの事が大好きだったんです」

 

 

 ルキナは、彼とのまだ幸せだったであろう頃の記憶に想いを馳せる様に目を閉じた。

 ルキナにそう想われていると言うだけで、少しだけあの自分の事を羨んでしまう。

 でも、ルキナの心の片隅に居る事を赦されるのは、後悔と絶望の中に沈み果ててしまったあの自分にとっては確かな救いになるだろうから。

 ルフレは少しだけ、あの自分に譲ってあげるのだ。

 

 でも、ルキナの初恋があの自分だろうと、ルキナの心はルフレのものだ。

 それだけは、誰にも譲れない。

 ルキナが過去から未来に至る全てで出会う人の中で誰よりも、ルフレがルキナを愛している自信がある。

 そして、あのルフレでは叶わなかったであろう事、ルキナを誰よりも幸せに出来る。

 

 

「ルキナ、お誕生日おめでとう。

 生まれてきてくれて、僕に出会ってくれて、僕を愛してくれて有り難う。

 愛しているよ、ずっと、誰よりも」

 

 

 

 

 

 

 

 

【Fin】

 

 

 

◇◇◇◇

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