『FE覚醒短編集』   作:OKAMEPON

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『甘やかな幸せ』

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 ふと気が付けば、ルフレの姿を目にする時間が増えた様な気がする。

 軍主と軍師と言う立場である以上、共に過ごす時間は少なくは無いけれど。それにしても、ふとした瞬間にその姿を視界に収める事が多いのではないだろうか。

 そうしてルフレの姿を見ているとふとした瞬間に互いに目が合って、それに何処と無く落ち着かないものを感じてつい視線を逸らしてしまう。しかしそれは居心地が悪いと言った様な不愉快な感情からでは無く、フワフワと浮ついた感覚によるものだ。どうしてルフレに対してその様な感覚を抱くのか、クロムにはよく分からない。

 ルフレの事は当然互いに深く信頼しているし、リズや姉とはまた少し違うが、身内も同然の様な大切な存在だ。

 性別こそ異なるが、その様な垣根など越えた気心の置けない「親友」だと、そう思っている。

 それ以外では無い筈なのだけれど。それなのにどうしてか、ルフレを前にすると不思議と何処か浮ついてしまうのだ。無論、戦場に立てば、何よりも信頼出来る相手として互いに背を預け合えるのだけれど。

 ……まあ、何処と無く落ち着きが悪いのは気になるが、今の所大きな問題になっている訳では無い。

 なら、それで良いのではないだろうか。

 今一々考え込んで悩んでも仕方の無い事なのかもしれないし、何れ時間が解決する事なのかもしれない。

 

 そんな事を考えつつ、クロムは自警団の仲間たちの休憩室へと顔を出した。

 何時もは誰かしらが寛いでいる事が多いが、どうやら今は偶々誰も居ないらしい。

 何か備品などが足りなかったり或いは設備が老朽化などで壊れて困ってやしないだろうか、と。そう思って中を軽く見回してみるが、特にそれと言った感じは無くて。自警団の皆が思い思いに私物やらを持ち込んでいる休憩室は何とも混沌としつつも賑やかさがある。

 その時ふと、休憩室の真ん中のテーブルの上に、ちょっとしたお菓子が置かれている事に気が付いた。

 皆の憩いの為に保存のきく甘味を休憩室に持ち込む者は少なくは無く、これもそう言った誰かの気遣いによるものなのだろう。小さな焼き菓子からは、砂糖と蜂蜜にバターの香りが絡まった、何とも甘やかな香りがする。

 その焼き菓子を見て、そう言えば、と。クロムはルフレの事を思い浮かべた。

 

 策を練るなどして日々その頭を酷使するルフレは、それが故なのか甘いものが好きで。

 リズなどからお菓子を貰った時にはそうはもう美味しそうに食べているし、少々乱雑と言って良い程に散らばったその机には、お菓子を置いておく為のスペースだけはどんな時にも確保されている。

 リズなどにお茶会に招かれた時の様子を見ているに、紅茶の好みも少し甘めのものが好きであるし、紅茶を楽しむと言うよりは共に供されるお茶菓子を楽しんでいる事の方が多い。

 そう言う諸々の事を思い出して。今度ルフレに何か菓子を差し入れしてみようか、と。クロムは思い立った。

 ルフレ本人に何かを贈ろうとしても、大抵の場合はやんわりと断られるし、欲しいモノを聞いたとして返って来るのは大概が戦術書である。まあ、ルフレが戦術書を欲しているのは間違いなく本心からなのだとは思うのだが、何と言うのか……それを求める動機としては、クロムの役に立ちたいと言う、そんな健気さと向上心からのものが大いにある。だからそう言うのでは無くてもっと気軽に、ルフレだけの為にルフレだけが喜ぶものを何かあげられないかと、最近そう考える事が多くて。

 菓子はそれにうってつけなのでは? と。クロムはそう考えたのであった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 最近、クロムと目が合う事が多くなった気がする。記憶を喪った状態で彼に拾われてからずっと、軍師としてその傍に立ち共に戦い続けていたので、共に過ごす時間は間違いなく元々一番多いのだけど。

 それにしても、互いに視線が交じり合う瞬間が増えたと言うか、クロムの存在をより強く意識する事が増えた様な気がするのだ。まあ、それで何かが困っていると言う訳では無いのだけれど。

 

 自警団の過去の戦いの情報を纏めている内にそれなりの時間が過ぎたらしく、気分転換がてらにルフレは自警団のアジトを後にして街に出て散策する事にした。

 イーリス城の眼下に広がる王都は、イーリスの中でも最も栄えていると言う事もあって何時も活気に満ちている。人の流れも、物の流れも、まるで流れ行く川の様に絶えず何処かへ流れていく。そう言った人の営みの流れを見る時間が、ルフレはとても好きであった。

 別に何か目的がある訳では無く、人の流れに沿う様に大通りを露店などを冷やかす様に眺めつつ散策を続けていると。通りにある菓子を扱う店に入っていく見慣れた背中を見付けた。

 一応服装や髪形を多少変えるなどして変装してはいるが、あの後姿は間違いなくクロムだ。

 幾度と無く戦場で見てきたその背中をルフレが見間違える事は無い。

 ……しかし、何故クロムが態々変装してまでこんな場所に居るのだろう。

 クロムは、菓子などの甘いものを好んでいる訳では無かった様に思うし、第一甘味なんて態々買いに来なくても望めば直ぐに手に入るだろう、城の料理人たちは皆イーリスでも有数の腕の持ち主であるのだしクロムが望んだとあれば挙ってその腕を奮ってくれるであろうに。

 不思議に思って、通りに面した窓からこっそりとその姿を伺うと。何やら焼き菓子の類を幾つか買って、包んで貰っている様だ。可愛らしい小さなリボンを付けて貰っている所を見るに、誰かへの贈り物なのだろうか? 

 リズやエメリナ様への贈り物だろうか、と。そう思う反面。

 もし、別の誰かへの贈り物だったら? と。そんな考えがふと頭を過った。

 

 ……別に、クロムが誰に何を贈った所で、何の問題になる訳でも無く彼の自由なのだし、そんな事をルフレが一々詮索すべきでは無い。まあ、こうして態々変装して迄買いに出ているのを見るに、その相手はクロムにとって特別な相手であるのだろう。そんな相手が居る様な気配は無かったとは思うのだが、憎からず思っている相手であるのかもしれない。それが誰であろうと、それはクロム個人の自由だ。……彼が王族である事を考えるとそんな簡単に言ってしまって良い事では無いのかもしれないけれど、少なくともルフレがどうこう言う様な事では無い。

 それなのに、胸の奥に引っ掛かる様な……少しザラついたものを感じてしまうのは、どうしてなのだろうか。

 ……自分に関する一切の記憶を喪ってクロムに拾われたルフレにとっては、クロムは生まれたての雛にとっての親鳥の様な存在であり、その興味の対象が自分以外の存在にまるっきり持っていかれるのが不愉快なのであろうか……? しかし、別にクロムがリズの事を大切にしていようとエメリナ様へと姉弟としての強い親愛の情を抱いていようと、フレデリクの事を深く信頼していようと自警団の誰にどんな感情を向けていようと、それで胸の奥がざわついた様な事なんて一度たりとも無かった筈なのに。どうして今になってそんな感情を抱くのか。

 自分自身の感情の動きが理解出来ず、ルフレは困惑した。

 そして、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、クロムに見付からない様にと足早にその場を去って自警団のアジトへと向かう。

 自警団の軍師としてルフレに与えられた部屋は、決して広い訳では無いがルフレにとっては十分過ぎる程のもので。そして何よりも、自分自身に与えられた居場所として落ち着く場所であった。しかし、自室に帰って来ても、胸の奥のモヤモヤしたものは一向に晴れない。

 また何か仕事を片付けて気を紛らわそうか、と考えるも、それも何処と無く億劫で。

 ベッドに身を投げ出して寝転がる様にして、ぼんやりと天井を見上げていた。

 窓から射し込む陽射しが、少しばかり傾いた頃。

 少し遠慮がちに扉を叩く音がする。

 

 

「ルフレ、今少し時間は空いているか?」

 

 

 思いがけず聞こえて来たクロムの声に、ルフレは驚いてベッドから跳び起きて慌ててその居住まいを正す。

 少し乱れてしまった髪は手櫛で急いで直して、ローブの裾が乱れてないか確認して。

 そして、瞬時に部屋を見回して何か見苦しい状態になっているものが無いかと確認した。

 ……特に問題は無い。机の上の本の山が少し崩れているが、それは何時もの事である。

 

 手早く準備を整え、ルフレは急ぎ足で扉の前に立つ。突然の訪問に驚いているのか、脈が速くなっているのを感じる。が、それを悟られない様に、と大きく深呼吸して誤魔化した。

 

 

「はい、大丈夫ですよ。どうかしましたか? クロムさん」

 

 

 声を掛けつつ扉を開けると、そこには何やらソワソワと落ち着かない様子のクロムが立っていて。

 頻りに、何かを気にしていた。

 

 

「あ、ああ……そうか、それは丁度良かった。

 ……その、良かったら、これを貰って欲しい」

 

 

 そう言って、クロムは視線を彷徨わせつつ、何かをルフレへと差し出してきた。

 その包みに掛けられた小さなリボンには、遠目ではあったが見覚えがある。

 先程、クロムが自ら買い求めに出掛けていたあの菓子店のものだ。

 

 一体どうしてこれを自分に……? 

 思いもよらぬそれに驚いてクロムを見上げると。

 何を勘違いしたのか、クロムは少し慌てた様に何時もよりもやや早口で説明する。

 

 

「リズに訊いて、美味しい菓子だと評判らしいから、買ってみたんだ。

 その……ルフレは甘いものが好きだろう? 

 何時もお前には助けられているからな、何か贈り物をしたくて、それで……」

 

 

 そんなクロムの様子を見ていると、先程まで胸の奥でモヤモヤと漂っていた魚の小骨の様に引っ掛かる感情は、すっかり何処かに消えてしまって。それとは全く正反対の、フワフワと落ち着かない様な、でもとても温かくて幸せな気持ちが溢れ出す。

 クロムから受け取ったその包みをそっと開けると、中には美味しそうな焼き菓子が幾つも入っていて。

 だが、何よりもルフレの為に態々クロムが変装してまで買い求めに行ってくれた事が嬉しい。

 

 菓子の入った包みを大切に胸に抱きながら、ルフレは幸せな思いと共に提案する。

 

 

「ありがとうございます、クロムさん。とても嬉しいです。

 良かったら、一緒に食べませんか?」

 

 

 ゆっくりと頷いたクロムのその頬は、仄かに赤色に染まっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

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