楽しんでいただけると幸いです!
昼の日差しが窓から差してくる中、宮廷の執務室には女性のため息が響き渡った。
「ルーク、5分後くらいにもう1回書物取りに図書室行くから、お願いね」
少女の声は目の前にいる青年、ルークに届いた。決して背が高い訳では無いが、脚は長く、上から羽織っている黒いロングコートは似合っている。しかし、恐らく似合っている理由は、彼の髪の色だろう。この国では珍しく白銀の髪、その髪色は彼の着ている黒い服と対照的で、とても映える。
「了解、でもそれなら自分の書庫に行った方がいいんじゃないの? ノア・ラードナー王女」
ルークは振り返り、皮肉混じりに笑顔で言葉を返した。
視線の先にいるノアは栗色の髪を一つに結びながら口を尖らせる。
「二人の時はタメ口で良いって言ったでしょ、めんどくさいのよ、王女だからって気を使われるのは」
頬杖を付き、ノアは表情を変えずに言った。
「ごめんて。で、なんでそこまで『黄昏の悪魔』について調べてるの?」
変わらず笑みを浮かべたまま、目の前にある散乱した本を整えながらルークが再び疑問を投げかけた。
「父様から手紙が来たの。『黄昏の悪魔に関して話がある。暇な時にでも来なさい』って言われて」
体制は崩れていき、机と頬が密着したまま、気だるそうにノアが答える。
普段、しっかりとしている王女を見ている国民からすればこの姿は予想だにしないだろう。
「それで詳しく調べるために図書室と……」
「でもだいたい書いてあることは一緒なのよね。一回目が200年前で地震と津波、2回目は流行病でフィリアの街の外れにある祠にいた魔物が黒幕。その魔物が呪いをかけると言って討伐した4人の内、誰かの曾孫へ呪いをかけた。その呪いの子は魔物の毛色と同じ色の珍しい髪を持つ」
一つ一つ確認するように、空へ指をさしながらノアが言った。
メテリア王国に伝わる都市伝説のようなもの『黄昏の悪魔』その2回目の討伐隊。
近衛兵団のしがない団員だったカイン・フェルト、当時メテリア王国を治めていたアベル・ラードナー、持ち前の頭脳で流行病の回復薬を作り上げたメアリー・ルティエンス、魔物のいる場所を計算し、特定したヴィム・アルストリア。
この4人は今でもこの国に語り継がれている。しかし、英雄として語られている4人とは裏腹に、直径の曾孫であるルーク、ノアの二人は、周りとは違う髪色に突如変わり、大人から『呪いの子』として避けられて来た。残りのふたりとはまだ出会っていないが、苦労はしているだろう…。
「直接会った方が早いんじゃない? いま夕刻の5時だし、陛下は階段から戻ってきているはずでしょう」
大きく伸びをしつつ、ルークは言った。前方には、先程まで散らかっていた本が綺麗に整っている。
「図書室は……まぁいいわ、善は急げと言うし、図書室じゃなく父様の執務室へ行きましょ」
机に手を付き、椅子から腰を上げ、ノアが笑顔で言った。
メテリア王国、王都ラードネス。日は傾いているが、宮廷の外から聞こえる街の声は衰える気がしない。
徐々に気温が高くなっていくこの季節、恐らく衰えるどころか、むしろ大きくなっていくだろう。
2人に対する視線はかなり多く、そして厳しいものだ。白銀の髪と栗色の髪の2人が並んで歩いているのだ、目立つのは仕方がない。
「この視線にも慣れたものだなぁ」
目を細めながら、黒いロングコートを風になびかせている白銀の髪を持つ青年が呟くように言った。
「まぁ、お互いにもうこの髪色になってからかなりの年月経ってるからね」
対照的に白い服に身をまとっていた栗色の髪を持つ少女が小声で答える。
「呪いが解けようが解けまいがこの髪は変わらないだろうし、一生まとわりつくよね、この視線は」
「あら、もしかしたら視線を向けている中に、将来の相手がいるかもよ?」
「あんな視線を向けるような人はいやだなぁ…」
青年達は足幅を変えず、淡々と執務室へ向けて足を運ぶ。
若干の皮肉混じりな会話を続けながら。
Twitter→@Sel_lilyday