神殺しのエネイブル   作:ヴリゴラカス

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エネイブルの異世界転移、および魔王転生編
プロローグ


「おいおい、一体どういうことだよこれは」

 

 俺、遠山キンジは困惑していた。

 俺は確かに依頼を受け、ドイツのベルリンを訪れていたはずだ。だというのに、俺の目に映るのは新旧の建物が混在した大都会ではなく、小さいながらも歴史を感じさせる街並みと急峻な山々だったのだ。

 おまけに、靴が踏みしめているのも、アスファルトではなく土の地面だった。足元の感触まで違うとなると、幻覚や立体映像の類ではなさそうだ。超能力者による転移か何かか?

 

 まさか、超能力者による奇襲か?いや、単に俺を殺そうとするなら瞬間移動させるより普通に攻撃したほうが手っ取り早い。

 それに瞬間移動の前兆もなく転移なんてさせられないだろうし。

 何はともあれ現在位置を把握しなければ始まらない。スマホを取り出し、GPSを起動させてみたのだが……。

 

 位置情報が表示されない。外国でも利用できるよう設定したにもかかわらずだ。

 

 これはどう考えてもおかしい。ここは人里だし、圏外になっているとは到底思えない。町並みからして欧州圏だろうから、電波関連の施設がないということもないだろう。他にあり得るのがスマホの故障だが、ついさっきまで正常に動いていた。可能性としては低い。

 

 ちくしょう。あたりの風景から場所が特定できない以上、スマホの位置情報が頼みの綱だったのに。これが使えないとなると地名を誰かから聞くとか、地図を手に入れるとかしなきゃならないが、俺の語学力ではどこまでやれるかはわからない。

 

 八方塞がりと言える現状に頭を抱えたくなるが、いつまでもこうしているわけにもいかない。俺は意を決し、町並みに向けて歩き始めた。

 歩くにつれてはっきりしてくる建物の様子は、やはりベルリンのものとは違うみたいだ。ベルリンの建物は一つ一つが大きかったが、こちらはこじんまりとしている。それに新しい建物が少ないせいか屋根の色がほぼ赤茶色でまとまっている。白い壁とのコントラストがきれいだな。

 

 看板の言葉やそこそこ多い道行く人々の会話から、ここは欧州で間違いないだろう。このことは不幸中の幸いだったな。EUのおかげでユーロが使えるだろうから金に困ることはなさそうだ。もともとある程度滞在するつもりだったし、渡された金は十分ある。

 軍資金のめどが立った俺は、地図を見るためにちょうどあったコンビニらしき建物に入った。それらしい本を探していると一冊の本が目に留まる。

 

 その本の表紙には大きな城の写真が載っており、うたい文句らしき言葉が周囲を飾っていた。どうやらガイドブックらしい。日本でいうる〇ぶやマップ〇マップのようなものだろう。

 その本の内容をざっと見てみて最も気になったのは、表紙にもなっていた城の紹介だった。城の写真の周りにはおどろおどろしい蝙蝠の絵と肖像画が描かれていたほか、ある単語が頻繁に出てきていたのだ。

 その単語はDraculea。言わずと知れた、吸血鬼を意味する単語だ。しかも肖像画の下に記されていた名前は、VladⅢ。即ち、日本でいうブラド3世。

 ここまで来れば俺でも推理は容易い。フランスやイタリアとは違う欧州圏の国で、吸血鬼のモデルとされた人物の城が存在する。ということはこの国の名前は━━

 

 ルーマニアだ。

 

 少なくとも国名がはっきりし、少し安堵したその時━━急にどこからか向けられた視線を感じた。

 どこからかまではわからないが、何者かが俺を監視している。もしかしたら俺をここまで飛ばした連中かもしれないし、ブラドの奴の部下の残党かもしれない。あいつの部下は世界中にいたそうだから、本拠のルーマニアにいても何らおかしくない。

 

 何者かまではわからないが、監視されている以上ここにいるのは危険だ。戦闘になっても一般人を巻き込まないよう、人気のないところまで移動しないと。とりあえずは向こうにある裏路地まで行こう。

 行動方針を決め、さりげない動作でコンビニを出る。そして人ごみのなかを、小走り程度の速さで移動し裏路地までたどり着いた。

 

 裏路地まで移動しても視線を向けられている以上、やはり監視者の目的は俺のようだ。さらに言えば、移動したことで向こうの監視に俺が気がついたこともばれただろう。ならこれからどう出てくるか。

 

 そこまで考えた時、唐突に足元の地面がはじけた。

 

 咄嗟ににその場から飛びのき、狙撃らしき攻撃が飛んできたほうを見やるが、敵影らしきものは見えない。赤茶色の屋根と青空が見えるだけだ。

 先端科学か魔術かは分からないが、何らかの迷彩を使ってるのか。

 眼だけで狙撃された地面を見ると、目に入ってきたのは銃弾ではなく、矢だった。この銃火器全盛の時代に弓矢だと?まさかセーラの奴じゃないだろうな。

 そんなこと思っていると、なんと地面に刺さっていた矢が消滅した。どうやら魔力か何かで作られた矢らしい。これと同時に、襲撃者がセーラでないことも確定した。あいつは本物の矢を使っていたから、消滅なんかしないはずだ。

「そこの魔術師よ。先ほどの大規模呪力変動について、話を聞かせてもらおうか」

 

 不意に男の声が響いた。それも、俺が入ってきた路地の入り口の方からだ。振り向くと、フードを被り黒いローブを纏った男が立っていた。

 

「呪力変動だと?俺は何も知らないぞ?」

 

「惚けるな。探知術式により貴様が強力な霊宝を持っているのは分かっている。近辺であんな異変を起こすほどの呪具を所持しているのは、今のところ貴様だけだ」

 

 正直に答えても相手はそう思わなかったらしい。剣呑な調子で返してくる。

 相手の言っている異変とは俺の転移のことだろうが、俺自身何も知らない。むしろ、俺の方が説明してほしい位だ。それに、霊宝とやらにも心当たりは━━いや、まさかあれか?

 

 確認を取りたいところだが、ナイフなんて取り出せば確実に敵対行動ととられる。今分かっているだけで相手の方が人数が多い上に、超能力者となるとそれは避けなければ。

 こうなれば相手の情報を得て、判断材料を増やさないと。まずは会話で情報を引き出そう。

会話で時間稼ぎしている間にレヴェリの準備もできるはずだしな。交渉もできるようメヌエットで成っておくか。

 

「どこの誰かも知らん奴に話を聞かせろといわれてもな。そもそも、俺は魔術師ですらない。霊宝なんて持ってたとしても、使い方すらわからん」

 

「自分が我らの結社『真紅の月夜』の膝元にいることも知らないだと?それに、魔術師でもない者が広域探知で探せる程の霊宝を所持しているなど、にわかには信じがたい」

 

 我らなんて言い方をしたということは、間違いなく仲間が複数いるな。口ぶりからして、本拠地はこの街もしくは近辺だろう。

 しかし、真紅の月夜なんて名前は聞いたこともない。

 俺は非常に不本意ながら裏の事情に通じてしまっている。ここまで超能力者を揃えられる組織なら、名前ぐらいは知っているはずなんだが。

 なんて考えながら相手の出方を窺っていると、相手が挑発してきた。

 

「どうした?なにもせずにだんまりとは、怖じけついたか? 」

 

「だから、俺は魔術師じゃない。何かして見せろといわれてもできんぞ」

 

 そう言い返す。すると、相手は漸く不思議に思ったのか、

 

「こうまで言っても何もせんとは、本当に魔術師では無さそうだな。とはいえ、霊宝に加え火器まで持っている以上は捨て置けん。我らと共に来てもらおう」

 

 何だと!?銃の所持が相手にばれていたのか━━そう思った次の瞬間。

 

「それは預からせてもらう」

 

 その言葉と共にベレッタとDEが俺のホルスターから離れ、男に向かって飛んでいく。しまった、先手をとられたか!

 

 急いで銃を手繰り寄せようとすると、いきなり複数の気配が背後に現れた。やはり仲間がいたか。

 だがこれで、一気に俺が不利になってしまった。銃を奪われた上に相手の仲間に囲まれているし、目だけで確認するとあの狙撃手の姿も見える。おまけに全員が魔術師ときた。

 予想以上に展開が早いせいでレヴェリの準備も不十分だし、成れても短時間しかもたない。今のままでは……投降するしかない。

 

 

 

 

 

 


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