神殺しのエネイブル   作:ヴリゴラカス

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会合

 エリクソンを脅迫した翌日。俺達とアリスは黒の教会の応接室で会っていた。

 

 「この度私の願いをお聞き届けくださったことに、心からの感謝を述べさせていただきますわ」

 

 そう言って上流階級らしい━━━━スカートをつまんでの優雅なしぐさで一礼するプリンセス・アリスを見て、俺は内心げんなりしていた。

この女はこうしていれば非の打ち所のない貴族令嬢だが、とんだ食わせものだ。カンピオーネである俺に対して一歩も引かずに交渉し、自分の知識を楯に条件まで取りつけるようなやつが一筋縄でいくはずもない。俺の立場が上だからとたかをくくっていれば、足元を掬われるだろう。

 

 「喉を潤す紅茶は結構ですから、このまま本題に入っていただいても大丈夫です。何なりとお聞きください」

 

 警戒心を高める俺を他所に、アリスは堂々とソファーに腰かけている。俺の前でこうもリラックスしていたやつは今までいなかったことからして、相当に魔王慣れしている。やはり、何年もアレクと関わってきた経歴は伊達ではないらしいな。

 

 「さて。一息つけたようだし、そろそろアリスに俺達が置かれている状況の説明をしてやってくれ。クリスティアン」

 

 「はっ。では僭越ながら、私が説明させていただきます。これから話すことは我が主の最重要機密ですので、プリンセスにはくれぐれも他言なさらないようお願い申し上げます」

 

 そう告げて、勤勉にも騎士の礼をとってからクリスティアンは説明を始めた。

 

 「信じられないかもしれませぬが、我らが主はこの世界の人間ではありません。所謂異世界人というやつですな」

 

 それを聞いて、流石にアリスも目を見開いて驚いていた。まあ、驚くなというほうが無理な話だが。

 

 「それは……本当なのですか?」

 

 「我が主の名に誓って真実でございます。なにせ、我が姪であるイレアナが神から直接聞いておりますので。そうだな?イレアナよ」

 

 「叔父様の仰った通り。私は王が転生する場面に立ち会って、パンドラ様にお目にかかりました。その際にパンドラ様がはっきりと王のことを『史上初の異世界出身の神殺し』と仰っていました」

 

 「なんと……」

 

 神殺しの義母ことパンドラの名前まで出され、疑えなくなったらしい。放心したように息をついている。

 

 「まあ、そういうわけで世界間移動のために情報を集めているってことだ。何か心当たりはないか?」

 

 「魔術ではおそらく不可能でしょう。とある権能ならばもしかしたら可能かもしれません。確証はありませんが……」

 

 「何ッ!それは本当か!?」

 

 思いがけず手に入った手がかりに興奮して詰め寄ったが、アリスは相変わらず微笑んだままだ。

 

 「ええ。旧世代のカンピオーネのお一人であるアイーシャ婦人の持つ権能に、異界に通じる穴を開けるというものがありましてね。それならば可能性はあります」

 

 アイーシャ婦人か。たしか謎の多い旧世代の中でも、特に活動が見られないから隠遁していると聞いたが……

 

 「たしかアイーシャ婦人はエジプトのアレキサンドリアに居ると聞いたが、それは本当か?」

 

 「俗説はそうですが、そうとも限りません。兄と慕うヴォバン侯爵を訪れたりもしているようですから。今のところ、いる場所は不明です」

 

 居場所が分かればすぐにでも会いたかったが、そうもいかないか。有力な候補だとはいえ、いつ会えるか分からないなら、保険としてアレクとも会っておくべきか。

 

 「ちなみに、アレクの居場所は分かるか?アイーシャ婦人がだめなら保険がいるからな。会っておきたい」

 

 「分かりますよ。だって、昨日会ったんですもの。遠山様との会談を聞いたせいか突然やって来て、『相変わらず、貴様は野次馬根性故の覗きに余念がないな』なんて嫌味を言っていましたからね。その時に、暫く本拠にいると言い捨てて帰っていきましたわ」

 

 心底忌々しそうに言うアリスに、こちらも不明かと予想していた俺は拍子抜けだったが、気を取り直して言う。

 

 「本拠ってのは『王立工廠』のだよな?」

 

 「ええ。副総帥のサー・アイスマンの連絡先を知っていますから、今からでもアポイントメントをとられますか?」

 

 クリスティアンが連絡先を聞いてからアポ取りのために席を外したのを見送り、改めてアリスに話を聞く。

 

 「アリス、次はアレクについて教えてくれないか?」

 

 「構いませんわ。アレクサンドルは……そうですね、一言で言えば『ひねくれ者の偽悪家』といったところですか」

 

 ひねくれ者ねえ……わざわざ怪盗の真似事をするところといい、的を射ていそうな評ではあるな。

 

 「あの男は自分の好みに合わないことは絶対にしません。その反面━━━━本当に欲するものが現れた時、それを手段を問わずに手にいれようとします。現に、かつて私達との密約を放棄して活動したこともあります。お気をつけを」

 

 なるほど。つまり、俺の提示する情報が興味を持てるものならなんとしてでも一枚噛もうとするが、そうでなければテコでも動かないということか。

 まあ、これは出たとこ勝負になるだろうから、考えても無駄だな。

 

 「あと、他のカンピオーネとちがって体面を気にする、妙なところに神経質といった面がありますね。他の方々ほど豪快でなく繊細とも言えます。これは忌々しいほどキレる頭脳のせいかもしれませんが」

 

 総じて他の連中とは違う、インテリタイプのカンピオーネか。マッシュみたいにプライドが高くて上から目線なやつかもな。

 あまり相性は良くないかもしれんが、そこは我慢してでも付き合うしかないか。なんせ、こっちは手段なんて選べる状況じゃないし。

 

 「性格は良く分かったから、次は権能について聞きたいんだが」

 

 「権能に関する情報はすでに報告書にまとめてありますから、そちらを後程ご覧下さい」

 

 「至れり尽くせりで助かる。その代わりといっちゃなんだが、この会合が終わっても力を借りたいって名目であんたを呼び出せるよう根回ししておくよ。また外に出られるようにな」

 

 そう言うと、アリスは花が咲いたような笑顔を見せた。

 

 「まあ、よろしいのですか!?ありがとうございます。外に出ないと骨が腐りそうな気分になるんですもの。何よりの報酬ですわ」

 

 めっちゃ喜んでるんだけど。仮にも欧州最高の貴婦人って呼ばれる奴が、こんな奔放さでいいのかね。

 

 「遠山様は()が欲しいものを的確に見抜かれるのですね。アレクサンドルとは大違いです」

 

 「アレクはそんなに見る目がないのか?」

 

 「見る目と言うより、デリカシーが無いのですよ。それでいて辛辣ですから女をよく怒らせるのです。そのせいで何度も計画を失敗に追い込まれているので世話ないですが」

 

 女にエラい目に遭わされる、という点は共感できそうだな。ホント女は理不尽な生き物だから、気をつけなきゃいけないというのに━━━━アレクはそれをしないってのか。そりゃ邪魔もされるわな。

 思わぬ共通項に驚いていると、クリスティアンが戻ってきた。先方との連絡が取れたか。

 

 「ご歓談中のところ、失礼いたします。王よ、アレクサンドル様との会談は明後日ならば可能とのことです。いかがなされますか?」

 

 「そうか……!よくやってくれたな。その日時でいいと向こうに伝えてくれ」

 

 「御意に」

 

 俺の返事を聞き、クリスティアンはまた退出していった。良かった。これで懸念事項のひとつは片付いたな。

 

 「アリス、お前にも今回は世話になったな。ありがとう」

 

 「いえいえ。それよりも、また呼び出していただけるという約束のほうをよろしくお願いいたします」

 

 「それはまた後程な。そうだ、お礼にルーマニアの観光案内でもさせるが?数日ぐらいなら、俺との会談という名目で滞在できるだろうしな」

 

 厳格なお付け目役もいないし、羽を伸ばせるだろうと提案すると、

 

 「本当にありがとうございます!ああ、遠山様が話のわかる方で本当に良かったですわ!」

 

 さっきといい、今といい、本当に外にでるのが好きなんだな。まあ、()()()()()()()()()仕方がないかもしれんが。

 

 「イレアナ、誰か信頼のおける護衛の手配をやってくれるか?」

 

 「お任せを」

 

 そう返したイレアナはアリスに向かって膝をつき、貴人に対する騎士の礼をとる。

 

 「姫様がルーマニアを楽しめるよう、手を尽くさせていただきます」

 

 「イレアナさん。あなたの働きに感謝します」

 

 こうしてみると、アリスの姿はまさに姫君だな。中身は強かで我が儘な野次馬なのにさ。イレアナも騎士だから、本当に絵画の一場面みたいだ。

 

 「イレアナ、忘れんうちに頼んでおくが、アリスの土産になる茶葉を見繕っておいてくれ。とっておきのがあるとか言ってたろう。」

 

 「承知しました。今から選びます」

 

 茶葉を見にイレアナが応接室を出たのを確かめてから、アリスに向き直る。

 

 「わざわざお土産まで……そこまでしてくださらなくてもよろしいですのに」

 

 「ルーマニアくんだりまで来て、茶の一杯も飲めんのでは甲斐もないだろう。()()()()()に飲ませてやりな」

 

 俺の言葉に、アリスははっきりと驚愕の表情を浮かべた。精巧な精神体を操っているから、バレるとは思ってなかったか。

 

 「……いつから気づいていたのですか?私が幽体だと」

 

 「俺の権能が吸血鬼由来ってことは知ってるな?その特性上俺は、獲物である人や動物の気配を感じやすい。あんたからは生きた人間の気配がしないのさ」

 

 それだけじゃなく、こんなに近くにいるのに何のニオイもしないことも怪しんだ理由だったが、そこは言わないでおく。

 

 「この事を知るものは少ないので……内密に願えませんか?」

 

 「構わないぜ。こっちにも他人の秘密を言いふらす趣味はないんでね」

 

 「ありがとうございます。代わりに、私も遠山様の秘密は守ることを誓います」

 

 誓いとは、随分重い言葉を使うな。それだけ本気なんだろうが。

 

 互いに秘密を握ったところで、イレアナが帰って来た。

 

 「姫君、こちらが王からの贈り物になります」

 

 「ありがとうございます。せっかくの贈り物ですから、帰ってからゆっくり味わわせていただきますわ」

 

 微笑んで一礼したアリスを客室に案内させて、今回の会談は落着したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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