二か月ぶりとなりますが投稿させていただきます。神域のカンピオーネスのドラマCDダウンロードコード版と緋弾のアリア30巻が発売されますので、それらと合わせて読んでいただければ幸いです。
久しぶりなので前話までのあらすじを。
アイーシャ夫人の権能により、古代エジプトを訪れたキンジ一行。
アレクサンドルやアイーシャ夫人と合流を果たし、その地で疫病を振りまいていたまつろわぬハトホルを撃破したキンジだったが、こと切れる寸前のハトホルから新たなる神の存在を聞いてしまう。
ハトホルが遺した竜骨から霊視を得て、謎の神の素性に迫ろうとするキンジ達。果たして、かの神の正体とは────
「至高の太陽に仕えし、邪なる簒奪者。忌むべき兄殺しの神━━━━まつろわぬセトか」
霊視の結果が出たために、俺とアイーシャ夫人は儀式の行われていた広間に来ていた。集まった巫女を代表してメヒトから話を聞く。
霊視された神はセト。エジプト神話を代表する悪神であり、神王となる前のホルスと幾度となく戦った神か……。
この神なら、ハトホルを瀕死に追い込むまで戦ったという話も頷けるな。セトの仇敵であるホルスを癒したとされ、一説には母であるイシスと同一視すらされるハトホルは、セトにとっちゃさぞかし邪魔な相手だろうし。
「アイーシャさん、どうします? 話が通じる相手じゃ無さそうですよ?」
まつろわぬ神なんてどいつも話がつうじないが、こいつは極めつけだろう。名君とされた兄を殺し、その王座を簒奪した狂暴な神だ。エジプト神話随一の
その事を踏まえてもまだ対話する気なのかと、アイーシャ夫人に問い掛けてみると
━━━━
「たとえどんな神様が相手でも、わたくしは説得してみせます。セトさんにだって、きっと愛と慈悲の心はあるはずです」
いつものほわほわした雰囲気ではなく、顔を引き締めた凛々しい顔で宣言するアイーシャさん。心意気は見事なんだが……正直、その真面目さを発揮する時と場所を間違えてると思うね。
「皆さん、わたくしが必ずセトさんを止めてみせます!」
その言葉を聞いた巫女達の目が一斉にキラキラ輝きだした。今の宣言で魅了が発動したらしい。……つくづくとんでもない人だな。
「善行には善果あるべし。悪行には悪果あるべし……」
聖句までここで唱えるのかよ。これはいつぞや言っていた幸運を呼ぶ権能なんだろうが……使い手が使い手だけに不安だなあ。それを抜きにしても、運に関わる魔術はリスクがあるものだし。
俺の世界で言えばメーヤの
「それ、幸運に何か条件があったりしません?」
「よく分かりましたね~実はいいことがあったら、その後に釣り合いをとるためにいろんなことが起こるんです」
やっぱりな。これは共闘の仕方をもっとじっくり考えたほうがよさそうだ。自分で制御できない攻撃用の権能と不運をも呼ぶ権能のコラボレーションとか、悪夢だぞコレ。
「分かりました。セトが来たら、対話はアイーシャさんにおまかせしますね」
「任せてください!」
アイーシャ夫人の元気な返事を聞いてから、メヒト達と広域結界の敷設や使い魔によるネットワーク構築について話し、俺が自分の部屋に戻ると━━━━机の上に、直径30センチほどの円盤らしきものが置かれていた。
黄金色に輝くそれを見て、嫌な予感にかられて近寄ると……世界史の授業で見た木簡らしきものが添えてあるのがわかった。
古風で小難しい日本語で書かれていた内容は━━━━『必要なくなったので、デンデラ神殿から奪った神具を返す』というアレクからのメッセージだった。あの野郎……状況を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、後始末まで押し付けやがったな……!
だが、これはある意味チャンスだ。霊視された通りセトが相手なら、この神具は切り札になり得る。この都合のよさ、間違いなくアイーシャ夫人の権能のおかげだろうな。
モノがモノだけに神殿側に話を通しておく必要はあるが、この非常時なら許可が下りるだろう。今から伝えておくか。
部屋の近くにいた若い神官に話しかけ、神殿長に会えるよう掛け合うと……すぐに会って直接許可をもらえた。神との戦いが終わった後に神具が無事ならば、神殿に返還するよう要請はされたがな。
こちらも持ち帰るわけにはいかないから、二つ返事で承諾したよ。これで大手を振ってこの神具を使える。
尤も、使うのは俺の予定だ。アイーシャ夫人に任せたら、どんな事態になるか知れたもんじゃないし。遊撃役の俺がより柔軟に対応できるということもある。
そんなふうに準備を整えつつ待つこと数日。ついにセトと思しき報告が入った。
ジャッカルの頭に人の体という尋常ならざる異形の存在が、北の砂漠からカバに乗ってやってきている……その様子が俺の放った使い魔によって確認されたのだ。
移動速度からあすにはデンデラ近辺にたどり着くと予想されたので、ハトホルの竜骨を餌代わりに誘導し、俺達神殺しが砂漠にて迎撃することが決まった。
それから数時間後────俺は砂漠の遥か上空にて、セトを待ち受けていた。
竜骨は地上のアイーシャ夫人が持っておき、セトとの対話に臨むことになっている。俺がこうして距離をとっているのは、夫人に相手を刺激しないでほしいと要望されたこともあるが……一番の目的は、俺自身の安全を確保することだ。
アイーシャ夫人には気の毒だが、この交渉は十中八九失敗する。そうなればセトとの交戦は避けられないだろうし、俺もアイーシャ夫人を援護なりする必要が出てくる。
だが、夫人の権能はアレクのものと違って広範囲殲滅型だ。俺の白兵戦向きな権能とは相性が悪いうえに、本人にも把握できないから打ち合わせも不可能。結局距離を離し、何が起きても対処できるようにするしかなかった。
狙撃だけでも牽制にはなるだろうから、何もできないわけじゃないが。
アイーシャ夫人の扱いづらさに内心頭を抱えながらも、北の方角をにらみ続けていると……遂にセトがその姿を現した。
砂漠には不似合いな純白の巨大カバに乗り、黒いジャッカルの頭と人の体を持った神────間違いなくセトだ。
カバから飛び降りたセトとアイーシャ夫人が真っ向から対峙したのを確認し、俺は会話を聞き取るべく集中して耳を澄ます。
『あの女の気配をたどってきてみれば……あやつめ、神殺し風情に討たれたか』
『ええ、ハトホルさんは既に亡くなっています。因縁の相手がいなくなった今、あなたに戦う理由はないはずですよ。ここで戦えばお互いに傷つくばかりです。セトさん、どうか矛を収めてわたくしたちと仲良くしてくださいませんか?』
事情を察したらしいセトに、夫人が停戦と講和を持ちかけている。声色からすると、真剣に言ってるんだろうがなあ……悪い冗談にしか聞こえないぜ。
『はっ。オレの獲物を奪った盗人の分際で、なにをほざくかと思えば。そんな妄言でオレを惑わせられるとでも思っているのか? 寝首を掻くにしても、もう少しマシな言葉を選ぶのだな』
やっぱり取り付く島もないか。百年近く経ってもなお気配を追ってきたということは、ハトホルを取り逃がしたことがそれだけ無念だったってことだし、血の気の多い軍神ならそう考えても無理ないよな。
俺が一人納得している間にも、どんどん雲行きが怪しくなっていく。
『そんな、わたくしは真剣に────』
『黙れ。貴様が漲らせている冥府の冷気に、オレが気づかんとでも思ったか。それに……もう一匹隠れているようだしな。大方、挟撃でもするつもりだったのだろう?』
そう言って空を仰いだセトの視線は────はっきりと俺をとらえていた。
……俺の存在にハナから気づいていたうえに、アイーシャ夫人が保険として使っていた権能にまで言及してくるとは。こりゃもう駄目だな。交渉は完全に決裂だ。
『戯言はここまでだ。我がしもべよ、神殺しの女を叩き潰せ!』
『……ッ! 麗しの乙女よ、恐るべき秘教の門を開け給え!』
セトが傍らの神獣を嗾け、遂に戦いの火蓋が切られた。
せっかくのあとがきなので、今後についてお話させて頂きます。
ここまで読んでくださったことに、まずは感謝を。ありがとうございます。
時間が空いても読んでくださる読者様方のためにも、以前のように投稿頻度を戻す……と言いたいところですが、私も来年からは今以上に忙しくなりそうなので、今回のように時間がかかる可能性が高いです。
個人的には、どんなに遅くなっても一ヶ月以内には上げたいところなのですが、確約は致しかねる状況です。申し訳ありません。
何とかエタることだけはないようにしますので、今後もお付き合いいただければ幸いです。