更新しなくなって早二年。リアルが忙しくなったこともありましたが、何よりラノベを読まなくなってしまったのが致命的でした。当然二次創作も手をつけられず……ここまでお待たせしてしまった読者の皆さんには謝罪のしようもありません。まだ読んでくださるのであれば、望外の喜びといっても過言ではないです。
これからの更新も確約できる状況ではないのが心苦しいですが、とりあえず謝罪会見代わりに二話投下します。
功をたてた
俺が力を与えた眷属であり、神獣を単騎で屠り得る
一抹の不安を抱えつつも日本に到着した俺達は、空港に待機していた正史編纂委員会の面々と合流し、歓迎の挨拶もそこそこに島に移動することになった。どうやら、余程事態が逼迫しているらしい。
――そして今、俺は瀬戸内海に浮かぶとある島を、船上から眺めている。
変化して強化された俺の目には、島で取っ組み合う巨大な蛇と蜘蛛の怪物――依頼された神獣らしき生物がはっきりと見えていた。
「あれを倒せばいいんだな?」
「その通りです。
背後から俺に答えたのは、くたびれた背広を着用し疲れた雰囲気を漂わせるサラリーマンめいた男――正史編纂委員会から遣わされたエージェント、甘粕冬馬だ。
「あんたみたいなのがいるなら、自分達でなんとか出来そうな気もするけどな」
「いえいえいえ!私程度じゃ、とてもそんな真似はできませんって。逃げ回るのが関の山ですよ。そもそも、私は給料以上に働く気は無いんです」
マジで慌てた風に言ってるが、どこまで本気なのやら。こいつの気配の薄さといい、立ち振舞いといい――間違いなく忍びの系譜の出身。それも、相当な手練れだろうに。
こんな男があっさり出てくるとは、日本の呪術関係者の層は思いの外厚いのかもな。
埒があかない考えに耽っていると、島から数キロほど離れた予定の場所についた。取っ組み合いをしていた二頭は蛇が俺たちから手前、蜘蛛が奥にそれぞれ離れて睨み合い、膠着状態に陥っている。今のうちにやるか。
「イレアナ、奥にいる蜘蛛を頼む」
俺がそう言うと、彼女は力強く頷き……あらかじめ呪力を蓄えておいた矢をつがえ、三本放った。
放物線を描いた三本の矢は、過たず標的に命中。哀れな大蜘蛛は二本の矢に左右の足を奪われ、動くこともできぬまま最後の矢に頭を吹き飛ばされた。
シャアアアアアアアアッ!?
その瞬殺劇を見た大蛇は慌ててこちらを振り返り、鎌首をもたげて威嚇しようとしたが――ドシュッ!間髪入れず俺が投擲したスピアに頭蓋を貫かれる。
断末魔の悲鳴もなく即死させられた大蛇の体が、力を失ってグラリと傾ぎ……鮮血を撒き散らしながら地面に崩れ落ちた。
……何か起こるかもと思ったが、拍子抜けするほどアッサリ終わったな。正直、マナちゃんとチョコラを探した時の方がよっぽど手こずったんだが。こんな楽な仕事で6億円も貰うなんて、申し訳ない気すらするぜ。
でもよくよく考えてみれば、こっちで稼いでも向こうの世界には持って帰れないんだよな。札束あっても偽札作成の容疑で捕まって、そこから武偵三倍刑適用で処刑モノだ。今の俺は絞首刑じゃ死なんけど。
「ま、こんなもんだな」
「いやー流石は魔王様とそのご眷属ですね。あの神獣達を文字通り瞬殺とは……恐れ入りました」
甘粕に向き直ると、降参とばかりに頭を下げながらそう言われたが……あくまで飄々とした態度を貫いてるせいで、礼を言われた感じがしないなあ。
まあ、これで俺達の力を見せることはできた。彼から報告がいくだろうし、変な輩からちょっかいを出される可能性も減るとみていい。
欧州ならカンピオーネが多いし、知識もあるから下手に手を出すような自殺志願者は殆どいないが……日本には数百年単位でカンピオーネが生まれなかったらしいからな。バカな真似をする奴が出ないとも限らん。
「これで依頼は果たした訳だが――あとはお偉いさん方に会わないといけないんだったか?」
「ええ、清秋院、連城、九法塚、沙耶宮の現当主の方々がお目通りを願っていますのでね。我々としても無下には出来ないので、どうかお願いします」
げんなり顔で説明する甘粕は『何で自分が説明役なのか』とでも言いたげだ。中間管理職は辛いねぇ。
「今日の内に会談の席を設けるから、先方にそう伝えてくれ。せっかくの日本への里帰りなんで、憂鬱なもんは先に済ませたい」
「ははあ、そのあとは残りの日程をたっぷり使って、お待ちかねの物見遊山と洒落込むわけですか。実に羨ましい。私もあやかりたいもんです。私ら、これからも残業続きでしょうからね」
甘粕はそう言うと溜め息をついた。
彼が言ったように、この件はまだ終わっていない。霊脈の要所にあるこの島で神獣達が暴れた結果、かなり流れが乱れたらしい。このまま放っておいては何が起こるかわからないので、早急に対処するとのことだった。
俺たちは所詮外様の身だし、これ以上の協力は正史編纂委員会のメンツを潰しかねない。出来ることはないだろうから、予定通り慰安旅行といこう。
会談を終えると、正史編纂委員会の所有するという旅館に案内された。なんでも呪術関係者専門の宿泊施設らしく、俺達のために貸しきりにしてくれたらしい。
本格的な日本庭園を備えた、瓦葺きの大きな旅館だ。その堂々たる佇まいと風格から、相当な高級旅館だとわかる。本来なら宿泊費がいくらかかるのやら。知りたくないなあ。
……神殺しになってからこっち、今まで縁がなかったレベルの高級品とかばっかり使ってるんだけど。向こうに戻った後はこんな生活できんだろうし、ちょっと今後が不安になるな。
なんて不安を抱えつつも豪勢な夕食を堪能したり、誰も乱入してこない温泉でゆっくり体を解してみたりと楽しんだけど。
その次の日。朝食を食べ終え、正史編纂委員会から借りてきた神話関連の書物を読んでいると――
「お休みのところ申し訳ありません。連城の次期当主を名乗る方が、お目にかかりたいとロビーにいらっしゃいました。いかがいたしましょう?」
と、仲居さんが確認をとりに来た。
今日は1日空いてた筈だが……?それに、昨日の会談で連城の次期当主については話されてなかった。沙耶之宮と九法塚の跡取り達とは会ったし、清秋院については修行中で来れなかったと聞いてるけど。
現時点では情報が少なすぎるな。これでは本物かどうかの判断もできない。とりあえず、会うだけ会ってみるか。
という訳で、イレアナを伴って一階の応接室に赴くと――件の来客と思われる、幼げな少女が立って待っていた。
一見すると小学生位にみえる、天然パーマの髪とつり目が特徴的な美少女だな。強気そうな様子といい背のちっこさといい、アリアに少し似てる。
俺が向かいのソファーに座り、イレアナが後ろに控えたのを見計らってから、彼女は深々と頭を下げて名乗った。
「遠山様、お初にお目にかかります。四家が一、連城家の冬姫と申します。」
育ちの良さを感じさせる上品な立ち振舞いと、この言葉づかい。たどたどしいわけでもないし、にわか仕込みじゃない。見た目どおりの歳じゃなさそうだ。連城家の出ってのも嘘ではないのかも。
……っていうか、ナチュラルにイレアナを無視しなかったか?
「遠山キンジだ。それで、来訪の用件はなんだ?」
考えても話が進まないので、先を促す。
「昨日はご挨拶できる機会がなかったので、こちらからお伺いしようかと。それと、明日からのご予定に関して有用な提案をさせて頂きたかったんです。ええ、これを機会に……なんて思ってません」
「本音が漏れてるぞ。俺を利用して出世でもする気か?」
「ええええ!?ななな何でわかるんですか!」
思わずツッコミをいれると、本気で驚いた顔を見せている。これはあれだな、正真正銘のポンコツだこの女。
「ま、まあ私のことは置いておいて、話を進めましょう。明日から京都に行かれるのですよね?出自から察しておられるかも知れませんが、私京都には詳しいんです。ガイドとしてお役に立ちますよ」
白い目で見る俺たちにも負けず、冬姫は自分の有用性をアピールしてくる。腹の内がバレてるのによくやるよ。こっちはその話を受ける気ないんだけどな……
俺を利用しようと取り入る輩は多くなると聞いちゃいたが、ここまでのおバカがその最初の人間になるとはな。正直予想外だぜ。
「ガイドの必要は無いし、私達は連城家に肩入れする気もない。用件はそれだけ?」
あまりにふてぶてしい態度に黙ってられなくなったのか、後ろからイレアナが身を乗り出し、話を打ち切ろうとする。
すると冬姫は、顔を赤くして食って掛かった。
「側近のくせに、勝手に話を終わらせないでくれるかしら?眷属だか何だか知らないけど、四家と王の話し合いに割り込まないでちょうだい!」
これって面と向かって『あんたなんか眼中にない』って言ってるよな。俺の右腕と呼べる立場にあるイレアナ相手に、こんなこと言うやつ初めて見たぞ。眷属の立場を誇りとする彼女に、露骨に軽んじるようなことを言おうものなら――
ピキィッ!
恐る恐る横目でイレアナの様子を伺うと、案の定怒っていた。白い額にDの形の青筋が浮き出ている。君にもあったんだね
《ふふ……ふふふふ……王様、この子の相手は任せてもらっていい?》
うわーとっちめる気満々だよこれ。自業自得とはいえ、ちょっと同情するぜ。
《任せる。ちょいとばかり灸をすえてやれ》
《了解》
念話でのやり取りが終わると、イレアナは後ろから俺の隣に移動し、改めて冬姫と向き合う。
「な、何よ。あんたなんかじゃ話にならないって言ってるでしょう!」
「貴女がどう思おうと関係ない。王様から許可はもらったから、ここから先は私が話す」
そう宣言したイレアナが、鋭い目で見据えると――気迫に気圧されでもしたのか、冬姫が「ひいっ!?」と声を漏らして体を縮めている。
……さっきはアリアに似てるかと思ったが、前言撤回だ。少なくとも肝っ玉に関しては、子猫とライオン位差があるわ。ていうか、それくらいで怖じ気づくなら煽るなよ。
「そういうことだから、話し合いは彼女とやってくれ。俺は少し席を外させてもらう」
内心呆れつつ立ち上がった俺は、そそくさとその場を後にする。
カンピオーネの直感と俺の経験のどちらもが、この場にとどまるのは危険と告げてるしな。女同士の戦いに男がしゃしゃり出ると、大抵ロクなことにならん。
今頃マズイと思ったのか、冬姫が捨てられた子犬のような目で見てくるが……心を鬼にして残した。少しは懲りろ。
約二十分後。
「お話しできることはこれで全部です。もう勘弁してくらしゃいよう……」
部屋に戻ってみると、冬姫が泣きべそかきながら詫びをいれていた。ちょっと鼻水も出てるし、美少女がしちゃいけない顔になってるぞ。一体どんだけ絞られたんだ。
「ん、わかった」
その主犯であるイレアナは、たらふく食ったネコみたいに満足げな顔をしてる。どうやら溜飲は下がったらしい。
「……とりあえず、これで顔を拭け。話合いの結果を聞くのはその後でいい」
冬姫にポケットティッシュを渡してやってから座り、顔を拭き終わるのを待ってから説明をしてもらった。
それによると、今回の騒動は完全に冬姫の独断によるもので、連城家としては他家を出し抜いてまで接触するつもりはなかったとのことだ。こんな行動に出た理由は、昨日の会合に出席した四家の次期当主のうち、彼女だけがそれについて知らされてすらいなかったことに憤ったかららしい。
……連城家の当主としては、娘の性格を考慮して参加させなかったんだろうなあ。他家の目もあるなかで、さっきみたいな発言されちゃたまらんだろうし。
そんな理由もあり、この旅館に突撃したもののイレアナに尋問を兼ねた説教をされて、消沈している……ってところか。
あと、冬姫は先天的に呪力を溜め込めない体質らしく、魔術の類いが一切使えないんだそうだ。このことがコンプレックスになってるのは想像に難くない。アリアでも幼児体型なことと、推理力が遺伝しなかったことに対するコンプレックスは根深いものだったし。
「ここまでの情報を踏まえて、私は連城家にこの件を報告するべきだと思う。彼女を私達の側に置くには、色々と問題がある」
そう言って話を締めくくったイレアナは、判断を仰ぐように俺を見てくる。
確かに、冬姫は性格含め多くの問題がありそうな人物だろうが――それより気になるのは、そうした後で彼女がどうなるのかだ。
イレアナに対する発言は伏せるとしても、冬姫が家の意向と無関係に抜け駆けした事実は変わらない。こちらが事を荒立てる気がなかったから説教だけで終わったが、相手によっちゃそう穏便に済まなかったかもしれない。最悪の例えになるが、ヴォバンのじいさんのような苛烈な気性の相手だったら殺されていただろうな。
最悪の場合、
会合について知らされなかったという経緯や、魔術が一切使えないハンデからして、連城家における彼女の地位は磐石ではないハズだ。もしかしたら今回の件の責任を取らされ、次期当主の座を完全に追われる、寺かどこかに軟禁される等の厳罰に処されることもあり得る。そうなると後味が悪くて仕方がない。
とはいえ、無罪放免にして連城家に肩入れするような真似をするのもマズイ。これからどこの家が依頼人になるかわからないし、日本に常駐しない俺がパワーバランスを崩してしまうのは避けたいところだ。
ヒステリアモードでもない頭を絞り、何とか八方丸く収まる妙案がないかと考えていると――閃いた。
「イレアナ。お前が言われた内容も含めて、四家の全員に今回の件をリークしろ」
「……どういう事?」
「そ、それだけは止めてください!お慈悲を、どうかお慈悲を!」
訝しげな顔になるイレアナと再び涙目になった冬姫を一先ず置いておき、話を進める。
「まあ聞け。それで、その言動に対して俺が裁きを下したことにする。俺に奉仕することで償いをせよとな」
「王様、それってまさか……」
「そう、京都のガイド役を冬姫にやってもらうのさ」
こうすれば恥を晒されることになるから、連城家を贔屓したとは捉えられまい。そして旅行後にでも働きを褒めれば、俺と繋がりを持ちたいかの家が、彼女を無下に扱うことはないだろう。
そんな俺の考えを察したのか、イレアナは「王様は本当に女に甘い……」と溜め息を吐いている。甘くて悪かったな。これが俺の考える最適解なんだよ。
「え……!?」
急な展開についていけてないのか、冬姫はポカンと口をあけてるな。
「そういうわけで、明日からよろしく頼む」
「王様がその気なら、私も反対はしない。冬姫さん、これからよろしくね」
そう声をかけられて、漸く実感がわいたのか……冬姫は花が咲いたような笑顔を見せてくれた。
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
そのまま踊り出しそうなくらい機嫌が良くなってるが、イレアナの言葉を聞いてそのまま顔が固まった。
「これであなたも王様に縁ある身。もし軽率な振る舞いをして、その威名に泥を塗ったら……わかってる?」
次は説教では済まさない――そう釘を刺すように紅眼で睨まれた冬姫は、真っ青になって震えながら頷いてる。トラウマになったなコレ。
ま、妙なガイド役が増えはしたが、久しぶりの骨休めだ。こっちの日本の様子を楽しむとするか。