ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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いつかは来るその時。

内容詰込み&濃すぎて分割しても1万字越えです。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
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7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第91話 「彼方より来たる願い」

「ここは…」

 

穢れなき白の中に、緩やかに浮上していく意識。

 

意識の覚醒の後に目の前に広がっていたのは文字通り何もない空間だ。どこまでも真っ白でどこを見ても何もなく、やがて自分と言う存在すら希薄になってしまいそうな錯覚すら覚える。

 

「俺は死んだのか?」

 

この不気味なほどにまっさらな空間は、俺を転生させた女神と会った死後の空間を思い出させる。

 

堕ちてきたあの光に衝突して死んだのか、それともロキの攻撃で死んだのかはわからないが、もし死んだなら俺はこれからどうなるのだろうか。

 

「悠!」

 

何もない空間で、後ろから自分の名を呼ぶ聞きなれた声。振り向けば、ゼノヴィアがいた。あれだけの激戦にもかかわらず戦いでできた傷も服の汚れもなく、聖剣も持っていない。

 

そして彼女に続き、虚空から滲み出るように続々と見慣れた仲間たちの姿も現れる。

 

「…一体ここはなんなの?」

 

「ぶ、部長!」

 

「イッセーもいるのね」

 

「イッセーさん!」

 

「イッセーくん!」

 

「アーシアも、朱乃さんも!って紀伊国も!?」

 

部長さんも、朱乃さんも、木場も、紫藤さんも、オカ研の皆がいる。兵藤に思いを寄せる女性陣は彼との再会に頬をほころばせた。

 

「イッセーたちもそうなの?ハティと戦っていたら突然光に飲まれて…」

 

「俺もです。というか、その光の元が紀伊国に直撃して……」

 

『この世界に生きる若人達に告げる』

 

状況を確かめる会話に割って入るように、どこからともなく声が聞こえた。

 

何もない空間に突然響いた威厳に満ちていながら、優しさもこもった声に俺達は何処からかと辺りを見渡し始める。

 

「声…!?」

 

「誰…?」

 

皆で見渡す。しかしこの空間には俺達以外に何者もいない。

 

ふと光の粒が一つ生まれた。一つ、二つ、三つとたちまちのうちに増えていくきらめく光の粒子が集い、だんだんある形を成していく。

 

光はやがて西洋のドラゴンのシルエットとなり、一通りシルエットを形成するとだんだんと色づいていき、その真の姿を明かした。

 

『……』

 

全身に刃のような銀色の鱗を生やした、澄んだ紫紺の瞳が特徴の厳めしいドラゴンだ。鋭い刃がきらめき、どことなく禍々しさも感じるその姿は半分透けているように見える。

 

「ど、ドラゴン!?」

 

俺達は突如として現れたドラゴンに警戒を向ける。こんな全身刃物と言っても過言ではない外見からしてヤバい雰囲気しかない。しかしそんな俺達のことなど我知らずと、謎のドラゴンは変わらぬ調子で話を続けた。

 

『この空間は君たちの精神を繋ぎ、現実世界と遮断されている。ここの1時間は現実世界では1秒にも満たない』

 

なんだそのNOAHみたいな便利仕様。つまり、ここでどれだけ過ごしても現実のロキとの戦いには影響はないということだな。

 

「あなた、一体何者?」

 

『時間がない。今回汝らに伝えなければならないことが二つある』

 

投げかける部長さんの問いをドラゴンは無視し、自分の話をそのまま続けようとする。

 

「おい、部長の質問に…」

 

主への無礼を働くドラゴンに苛立ったのか兵藤が前に出ようとするが、部長さんは兵藤を手で制した。

 

「これ…もしかして、ビデオメッセージのようなものかしら」

 

「ビデオメッセージ?」

 

「…確かに、このドラゴンには違和感を感じる。ここにいるようで、ここにいないような」

 

ゼノヴィアもドラゴンを見る目を細めて言う。

 

俺にはよくわからないが、長年の悪魔との戦いで気配を感じ取れる感覚を研ぎ澄ましていったのだろう。

 

「…ゼノヴィア先輩の言った通り、目の前にいるあのドラゴンの気配が一切感知できません」

 

「仙術でも感知できないなら、きっとそういうことなのね」

 

塔城さんが仙術を使ったことで判明した事実で、一応の結論は出た。しかし、このドラゴンは一体何者なのだろう。そこだけがまだ不明のままだ。

 

『紀伊国悠』

 

「!」

 

厳かな声色でいきなり名前を呼ばれ、ピシッと背筋が正される。

 

このドラゴン、俺の名前を知っているのか…?だとしたら一体…。

 

『こちらの事情が変わった。もう君はあの世界と我々のことを隠す必要はない。君は君として、戦ってよいのだ』

 

「ッ!!!」

 

まるで心に張り詰めた者を見透かし、それを溶かすが如く優しく語り掛けるような口調、しかしその内容は爆弾と呼んで差し支えないレベルの衝撃的な内容だ。まさかのカミングアウトに、雷に打たれたような衝撃を受けてはっと目を見開いた。

 

…そう来たか。この話で分かった。このドラゴンは俺をこの世界に送ったあの女神の差し金、あるいは関係者だ。

 

「悠、どういうことだ?」

 

「隠す必要って…」

 

当然、皆は竜の言葉の意味を俺に詰問しだす。仲間たちから向けられる疑惑の念に、寒くもないのに体が震え、冷えていくような感覚を覚える。

 

まさか、いつかは来ると思っていたこの時がいきなり来るなんて思わなかった。

 

『そしてもう一つ』

 

ざわめく俺達の反応をよそに、ドラゴンの話は続く。聞きたいことはやまやまだが、取り敢えずあのドラゴンの話を聞いてみようと思ったのか皆の注意が俺からドラゴンへと移った。

 

『既に世界は破滅へと足踏みを始めている。そして、その破滅の先導者が君たちのすぐ近くまで迫っているのだ』

 

「?」

 

世界の破滅か。まるでRPGに登場するキャラクターのようなセリフだ。だが、ポラリスさんも世界を滅ぼす敵がどうたらこうたらなんて同じことを言っていたな。

 

このドラゴンもポラリスさんと同じだ。常人からすればほら吹きだと一蹴されかねないことを至って真剣に話している。その雰囲気に茶化す余地などどこにもない。

 

…ん?ポラリスさんと同じ?

 

『君たちがネクロムと呼ぶ存在、深海凛は彼の実の妹だ。今の彼女は邪悪な存在に体を奪われ、私が彼女に与えた力共々策謀に利用されている』

 

「何だと…!?」

 

「え…!?」

 

「ネクロムが、先輩の妹!?」

 

告げられた真実に、またも大きく心が揺らいだ。それは俺だけではなく、他のメンバーも同様だった。

 

やはり凛は俺と同じ様に転生したんだな。だからネクロムの力も持っているんだ。

 

そして同時に、俺の中でドラゴンの言葉とポラリスさんの言葉が繋がった。

 

凛のことを叶えし者と呼ぶポラリスさんはその凛を操る『敵』を追っていた。凛を操るその存在をこの龍が邪悪な存在と呼ぶということはつまり、ポラリスさんの敵=ドラゴンの言う破滅の先導者で、凛は叶えし者という敵の眷属ではなく、本当は彼女の言う敵そのもの…?

 

…ダメだ、さっきからこのドラゴンの言うことの尽くが衝撃的過ぎて、頭が追い付かない。だがこのドラゴンは俺だけでなく、凛を取り巻く状況の根底に深く関わっていることは明白だ。

 

『私は破滅を討ち祓う因子を紀伊国悠と深海凛に託し、この世界に送った。だが彼らだけでは破滅を回避することはできない。汝らもまた、世界を救う希望なのだ。大変急で、身勝手な願いではあるが、どうか……』

 

語らるたびに心に秘めた思いがこもっていくかのように口調が切なるものになっていき、ドラゴンは最後の言葉の前に一拍置いた。

 

『――汝ら、この世界を守ってはくれまいか』

 

俺たちの前に突如現れたドラゴン。名も素性も知れぬ彼のその一言に、まだ明かされぬ彼が抱える思いの全てが込められているような気がした。

 

そしてそれを最後に、俺達の反応を待たないまま話したいだけ話尽くしたドラゴンの姿はまた小さな光の粒子へと戻っていき、跡形もなく消えた。

 

「消えた…」

 

「あのドラゴン、結局何者なんだ…?」

 

結局、あのドラゴンは最後まで自分が何者であるかを語ることはなかった。少なくともあの女神と関りがあるのは確かだが、転生した際に面識はない。

 

そもそも最後のあたりに言っていた破滅を討ち祓う因子とは何か。託したということは、やはりゴーストドライバーとメガウルオウダーのことを指すのか?

 

それに俺を転生させたのはあのドラゴンではなく女神だというのに、まるで自分が転生させたような言い方をしていた。となると、俺や凛の転生にはただ間違って殺してしまった以外にも何らかの事情が…?

 

頭の中で次々と湧き上がる疑問と、受け取った情報を整理しようとする動き。それに心の揺らめきが拍車をかけて今にも頭がパンクしてくらくらしそうだ。

 

「それより気になるのは君のことだ」

 

だがそれを許さない者がいた。ゼノヴィアの向日葵色の瞳がすっと俺に向けられている。

 

「君とあのドラゴンは、何か関係があるのか?それに君が隠してきたこととは…」

 

ずばりと聖剣を突き付けるかのように彼女は俺に疑問を突き付ける。同じく答えを求める皆の視線が、再び俺に集まっていく。

 

「……」

 

無言でこっちを見つめる皆が俺の答えを待っている。

 

「――」

 

ごくりと息を呑み、目を伏せる。

 

…もう、隠し通すことはできない。打ち明けるとしたらここだ。いや、ここしかない。

 

だがもし、全てを知った皆が俺のことを拒絶したら?

 

特に兵藤と紫藤さんは、この体の主と幼馴染だ。俺がその幼馴染の皮を被った全くの別人だと知れば……。今まで自分を騙していたと糾弾するのでは?

 

複雑な感情、恐怖心が脳裏でいくつものIFを生み出し、それによってさらに激しく揺れる心が、脈打つ心臓の鼓動を早める。

 

ふいに肩を叩かれた。その感覚が少しばかり暗く底のない感情の海に沈みかけた俺を引き上げた。

 

「…教えてくれ、私は君を信じたいんだ」

 

肩に手を置いたのは話を切り出したゼノヴィアだった。今、彼女が俺に注ぐ眼差しは咎める光ではなく、切に訴えかけるような光を帯びていた。

 

「…!」

 

その光が、俺に一握りの勇気の火を灯した。視界を閉ざす霧のような闇の中で煌煌と輝き、その中で一つのIFのビジョンが浮かび上がる。

 

もし、皆がこんな俺を受け入れてくれたら。俺が、ありのままの俺で皆と居てもいいと許してくれたなら。

 

…皆、俺と共に激戦を潜り抜け、背中を預け合った仲間なんだ。彼女は今、俺を信じようとしている。ならその思いに応えるのが道理というものではないのか。

 

俺を信じてくれる皆を、信じてみよう。

 

もう後にも引けなくなった状況、そして彼女の言葉が後押しとなり、ついに俺に決心させた。

 

その前に胸に巣くう緊張を少しでも和らげ落ち着けようと大きく息を吐く。

 

「…わかった」

 

「…!」

 

恐怖に立ち向かう。口で言えば簡単だが実際に為すには途方もない勇気を必要とする。今のたった一言を言うことすらかなりの意志の力を使った。

 

…もう、逃げるのは止めよう。それも命を賭して戦う敵ではなく、仲間から逃げるのは。

 

胸中に渦を巻く恐れに立ち向かう意思表示となる言葉に、皆が反応した。

 

「…話そう。本当の俺のことを」

 

ロキとの戦いで、俺はこれまで抱えてきた覚悟と向き合った。今度はその覚悟を貫く相手、そう、俺の仲間と向き合う番なのだ。

 

そしてようやく、震える唇で思い切って打ち明ける。今まで隠し通してきた、自分の全てを。

 

「俺は紀伊国悠じゃない。俺はある女神の力でこの世界に新たな生を受けた、異世界から来た魂だ」

 

「!!」

 

「えっ!?」

 

皆が目を見開いて一様に驚く。予想通りの反応だった。

 

それはそうだろう、今まで紀伊国悠と言われ、共に過ごしてきた人間が実は別人だと本人の口から告げられれば驚かないはずがない。

 

「異世界から来た、魂?」

 

「女神ですって…?」

 

「ちょ…それ、お前が紀伊国じゃないってどういうことだよ…!?それに異世界…!?んじゃえっと、お前は幽霊…なのか?」

 

「待ってくれ、一つ一つちゃんと説明する」

 

意を決して口に出した衝撃的な事実にどういうことかと皆からの質問が押し寄せる。しかし俺は聖徳太子ではないので、一つ一つ順を追って説明することにする。

 

「幽霊…確かにそうだな。その異世界で死んだ俺の魂はとある女神によってこの紀伊国悠という男の体に入り、今まで活動してきた」

 

「…スペクターって、文字通りの意味だったのね」

 

納得したと朱乃さんが言う。

 

一度死んで、自分本来の肉体を持たないまま仮の肉体で蘇った俺は幽霊とも呼べる存在だ。

 

…まあ、これは単なる偶然なんだけどな。仮面ライダースペクターが好きだからこの力を欲しただけだし。

 

「ちなみに先輩を転生させた女神って、どの神話のですか?」

 

質問してきたのはひょいと挙手した塔城さんだった。

 

「…いや、あの女神は自分の名を名乗らなかった。長い青髪で、すごいアホっぽい感じだったが」

 

「アホっぽい青髪の女神…」

 

命を与えた恩人とも呼べる相手を小馬鹿にするような表現が笑いのツボを突いたのか、ギャスパー君がくすっと笑った。

若干泣きの入った喋り方だったので本人には悪いが本当にそういう印象しか持っていない。

 

「それで、異世界というのは?」

 

今度は木場からだ。ここが俺の話の中で一番信じがたい部分だろう。うまく皆が納得し、信じてもらえる説明ができればいいが。

 

「言葉通りの意味だ。俺は別の世界で生を受け、生きてきた人間なんだ」

 

「異世界…にわかには信じがたいわね」

 

部長さんは異世界と言う言葉を舌で転がし、難しい顔で腕を組む。

 

「部長、異世界ってあるんですか?」

 

「各神話の神々が住まう神話の世界ならあるけど、それ以外の世界は確認されていないわ。それを研究するモノ好きな研究者もいるみたいだけど…まったく研究は進んでないのが現状ね」

 

兵藤が部長さんに訊ねた。部長さんが語るこの世界での異世界事情はおおむねポラリスさんから聞いた通りだ。

 

「…疑う訳じゃないけど何か、証拠になるものはないの?この世界に存在しないものとか」

 

疑う訳じゃないと言いつつも部長さんはもちろん、他の皆もやはりまだ信じ切れていない様子だ。

 

どうにか、異世界の存在を証明できないだろうか。俺の存在そのものがその証拠だと言えばそれまでだが、それだとちゃんとした説明になっていないし、まだ説得力に欠ける。

 

…あ、そう言えば。

 

不意に頭の中に浮かび上がったそれは、今俺が持っている紛れもない物的証拠だった。

 

「俺のゴーストドライバーです!アザゼル先生が前に解析した時に、どの神話体系にも属さない未知のテクノロジーが使われているって言ってました!」

 

これしかないという思いで、食い気味に話す。

 

神器研究で知識豊富な先生のお墨付きもあれば、これ以上にない証拠になる。

 

「あ、確かに先生はそんなこと言ってたな!」

 

「未知の技術も、私たちの知らない世界で生まれたものなら説明がつきます」

 

「あのアザゼル先生がそう言うのなら、説得力があるな」

 

先生のお墨付きは効果絶大で、最初は浮かない顔をしていた兵藤や塔城さん、ゼノヴィアは確かにそうだと納得した様子を見せた。

 

「そう言えば、あなたに関して色々不可解な点があったわ。4月ごろに感じた大きな波動。あれは丁度あなたが退院した時期と重なっているし、今まで感じたことのないオーラの質だったわ」

 

俺の話から急に思い出したように、部長さんが言う。

 

「…そう言えば、そんなこともありましたわね」

 

「あの時はイッセー君が入ってきたりレイナーレのこともあったし、その後のライザーやコカビエルの件ですっかり忘れてしまったよ」

 

「あの時は生活の変化で私も大変でした…」

 

と、まだ数か月前の出来事なのに遠い昔の出来事のように懐かしむ様子も見せる朱乃さんと木場、そしてアーシアさん。

 

あの時の俺は迷いに迷いまくってたからな。でも、あの迷いがあったからこそ今の俺があると言える。

 

「先輩が転生したのはいつのことですか?」

 

確認を取るように塔城さんは訊ねる。

 

「4月。多分その波動ってのも、あの女神がこの世界に俺とゴーストドライバーを飛ばした力の余波だと思います」

 

「4月…」

 

俺の言で、さらに証拠は確たるものとなる。

 

「ってことは…」

 

「これだけの証拠があれば、異世界の存在を信じるに足るね」

 

部長さんの思い出した情報をきっかけに、続々と兵藤たちは納得した。アザゼル先生の解析した神器のデータ、転生時の波動とそれが観測された時期と重なる俺の転生。これだけの動かぬ証拠があれば、認めるしかあるまい。

 

「認めるわ、あなたの言う通り確かに異世界は実在する」

 

最初は異世界という荒唐無稽なワードに難しい顔をしていた部長さんも、これらの証拠でようやく飲み込めたと頷いた。

 

どうにか皆を納得させられたことにほっと一息つく。難しい話だったが、うまく説明し信じてもらえて何よりだ。

 

でもこの事実が公になればきっとその異世界を研究している人たちはこぞって俺の元にやって来るだろうな。混乱を避けるためにも一部の人間だけに明かすのが一番か?

 

「…じゃあ、今まで俺達と戦ってきたのは幼馴染の悠じゃないってことなのか」

 

「そういうことなのね」

 

一時の安堵に胸を下ろす俺とは対照に、兵藤と紫藤さんの表情に寂寥の影が差した。

 

兵藤の記憶の中にいる、紀伊国悠という幼馴染。彼がどういう人間かは伝聞でしか知ることが出来ないが、かなりの仲良しだったことは間違いない。

 

今の自分が記憶喪失どころか全くの別人であるという事実にはやはりショックを受けるのは避けられなかったか。

 

一瞬その言葉を口にするのを躊躇うが、今まで隠してきた真実を語らなければならないと感じた俺はあえてはっきり言う。

 

「…そうだ。事故で記憶喪失というのも全て嘘だ」

 

「…」

 

その言葉に、二人の顔により複雑な色が広がる。こんな経験は俺もしたことがないし、正直俺には二人の胸中を推し量ることはできない。

 

果たして、今の二人の胸に渦を巻いているのは幼馴染を失った悲しみか。それとも幼馴染を偽ってきた俺への怒りだろうか。

 

「ゴーストドライバーも、女神から与えられた力に過ぎない。俺はずっと、借り物の体と力で戦ってきたんだ」

 

「どうして、それを黙っていた?」

 

ゼノヴィアは真実を隠蔽してきた俺の行動の訳を問う。

 

「この世界に転生する前に、女神から頼まれたんだ。『このことはくれぐれも内密にしてくれ』と」

 

「何かまずい事情でもあるんでしょうか…?」

 

そう推測するのはギャスパー君。

 

まずい事情か、女神が言ったことの中で俺が覚えている限り…。

 

「…間違って君を殺してしまった、とは言ってたな」

 

「「「「「あー……」」」」」

 

ぽつりと言った一言で、全員が全てを悟った表情で声を揃えた。

 

「…確かにアホっぽいですね、むしろポンコツ…なのでは?」

 

「アホっぽいどころじゃないと思うけど…」

 

ギャスパー君に突っ込みを入れるのは紫藤さん。

 

アホっぽいで殺されてたまるか、俺もそれを知らされた時は怒ったぞ。でもあまりにも何度も綺麗に土下座して泣きながら謝る女神がいたたまれなかったからだんだんと怒る気力も失せて、むしろ可哀そうに思えてきたくらいだった。

 

「ミスを隠蔽するために、あなたの力を詫びのしるしにしてこの世界に送ったという所かしら」

 

「多分、大体そんなところですね」

 

部長さんの言ったことが女神の行動の全てだろう、ただ。

 

「…あのドラゴンの話を聞くまで、俺が考えてたところではですけど。俺もあのドラゴンが転生に関与していたことは知りませんでした。これは本当です」

 

「なるほど。それと…ネクロムがあなたの妹だという話は…」

 

「…はい、あいつは俺の妹なんです」

 

彼女の存在は俺の事情を説明するうえで避けられない要素の一つでもある。たが、まさかここで今の彼女の真相が明かされるとは思ってもいなかったのでまだ混乱している部分はあるが。

 

「紀伊国に妹はいなかったから……ということは、お前が異世界にいた時の妹ってことだよな?」

 

「そうだ。あいつは本当に明るくて、自慢の妹だった。でも俺が転生する二年前に事故で死んだ。多分、その後俺と同じ様にあの女神とドラゴンによって転生したんだろうが…まさか、今の状態が体を乗っ取られているとは思わなかった」

 

恐らく転生した後に何かしらの出来事があって、ポラリスさんの言う敵に体を奪われたのだろう。だが自分の妹の危機なら転生する際にモチベーションを上げるためにも俺に教えるだろうに教えなかったということは、向こうがそれを察知したのは俺の転生後ということになる。

 

一体どういう経緯で今のような状態に陥ってしまったのか。真相が明かされたがまだ解かねばならない謎は残っているようだ。

 

「先輩も…自分の肉親と戦ってきたんですね」

 

「…そうだ」

 

過去二回、俺は凛と戦った。一度は状況が読めず、何故彼女が俺の命を狙うかわからぬまま殺されかけた。そして二度目は、もしかすると自分の手で妹を殺めてしまうのではないかという恐怖と隣り合わせに戦った。

 

「なるほど…よくわかったわ」

 

説明しなければならないことは全て語りつくし、一通り話は終わった。

 

「…なんだか、紀伊国さんがかわいそうに思えてきました」

 

「いや、俺に可哀そうだなんて言われる資格はない……俺は嘘つきなんだ」

 

アーシアさんから寄せられる同情的な意見をあえて自ら一蹴し、今までの話を結論付けるように俺は言った。

 

「皆に言わなかったのは頼まれたからってだけじゃない。俺は怖かった。もし全部話したら、皆に拒絶されるんじゃないかって…兵藤と紫藤さんは、紀伊国悠と幼馴染だから、俺がそいつの皮を被った別人だって知ったらどうなるかわからなくて……俺を信じてくれる皆を、俺は信じていなかったんだ」

 

今まで溜めに溜め続けた自分の思いを、ようやく気付いた無意識に抱いていた仲間への不信を俺は目を伏し気味にみんなの前で打ち明ける。

 

全て話した今だからこそわかる。俺は隠し事をする理由をあの女神に頼まれたからと女神に全部投げて、「皆に拒絶されてしまうのではないか」という皆への不信を隠し、あるいは無意識に目を背けていた。抱いた恐れは日に日に大きくなり、そうなるにつれてより自分から言い出せなくなってしまった。

 

だからここまで転生の事情などを引っ張ってしまった。これは俺の臆病さが招いた結果なのだ。

 

「これが俺の全てだ」

 

話せることは全て話した。後は皆がどう思うか次第だ。

 

微かな希望が叶うか、それとも恐れていた通りの結果になるか。目を瞑り、皆の意思を待つ。

 

目を閉じてからの時間は、永遠とも思える一瞬だった。

 

「でも、今までの君の戦いは、思いは嘘じゃないだろう?」

 

「!」

 

一番最初に口を開いたのはゼノヴィアだった。彼女の言葉にハッとする。

 

〔BGM:友情のデュエル(遊戯王ゼアル)〕

 

「君はずっと苦しんできた。私たちに隠し事をしたことに苦しみ続けてきたんだろう?その苦しみを抱えたまま、今まで戦ってきたんだな」

 

「…」

 

言葉を続けながら彼女が歩み寄る。全てを受け止める優しさに満ちた彼女の顔が近づいた。

 

「…!」

 

「でも君はその苦しみの元を勇気を出して吐き出した。よく今まで耐えてきたな。もう苦しまなくていい、これからは私が一緒に、君の苦しみを背負ってやる」

 

すると今度はゼノヴィアの方から両腕を回し、俺を温かく抱きしめてくれた。

 

突然優しく抱擁されたことに驚きを隠せず、呆然となる俺の耳元で彼女は許しの言葉を与えてくれた。

 

「…あ」

 

まるで川面に落ちる一滴の水滴のように儚い声が、ぽかんと空いた口から漏れ出た。

 

その言葉が一体どれほど俺の心を温かくしてくれただろうか。動けなかった。その許しは、俺の心に巣くっていた恐れという感情でできた凍土に春の日差しの如く差し込み、緩やかに溶かしていく。

 

まだ頭の中で終わった話の整理がついていないのか、目が泳ぎながら頭をポリポリかく兵藤が前に出た。

 

「俺も、あんまりよくわかんないけどさ。小さい頃一緒に遊んだ紀伊国じゃないけど、俺達と一緒に戦ってきた友達であることには変わりないんだろ?」

 

「…!」

 

…そうだ、今までこいつらと一緒に戦ってきたのは紛れもない俺だ。俺が嘘つきだろうと、それは決して揺るがない事実なんだ。

 

「なあ、お前にとって、俺達はなんだ?」

 

「…オカ研の仲間、友達だ」

 

俺は動揺の余韻が冷めぬまま、そう答えた。すると兵藤はにっこり笑った。

 

「それでいいんだよ。だったら、これからも俺達と一緒にいてくれよ。俺はもっとお前と一緒に学生生活を楽しみたいし、オカ研にはお前が必要だ」

 

そう言って肩を気安くポンポンと叩くと、にっと燦々と輝く太陽のように笑いかけてくれた。その眩しい笑顔が俺の心に衝撃を与えた。

 

俺は幼馴染の紀伊国悠じゃない。その皮を被った別人なのに、それを知った今でも変わらず俺を友達と、仲間だと呼んでくれるのか。

 

俺を俺として、認めると言うのか。

 

「君はいつだって一生懸命に僕たちと共に戦ってきた。僕が復讐に囚われた時、イッセー君と一緒に手を差し伸べてくれた君も僕にとって恩人だよ。どうしてそんな君を仲間じゃないなんて言えるんだい?」

 

「ディオドラさんの時、紀伊国さんが一生懸命になってイッセーさん達と一緒に戦ってくれました。あんなに一生懸命戦っていた紀伊国さんは嘘つきじゃありません」

 

笑いかける兵藤に木場とアーシアさんが続く。二人とも柔らかな微笑をたたえて、俺に語り掛けてくれた。

 

エクスカリバー事件の時、まだオカ研のメンバーでないにもかかわらず俺は木場の助けになろうとする兵藤に手を貸した。それは一度はレイナーレへの復讐に燃えたこともあり、同じく復讐に進もうとする木場を放ってはおけなかったからだ。

 

木場の時も、アーシアさんが攫われた時も、俺は二人を助けたいと願った。その思いは本物だった。

 

俺が隠してきたことがどうであれ、今までの行いは皆に大きな影響を与え、俺と皆を繋ぐ絆が生まれていたようだ。今更隠し事がバレたところで揺らぐようなやわなものではなかったらしい。

 

「それと…紀伊国さんの言う異世界のお話も、色々と聞いてみたいです。今まで紀伊国さんとお話しする機会があまりないので、これをきっかけにもっと紀伊国さんのことを知りたいです」

 

あ…言われてみれば、アーシアさんと一対一で話したことってほとんどないな。俺の素性が明らかになったこれを機に、アーシアさんともっと話してみようか。

 

「私もあなたを信じるわ」

 

さらに続くのは部長さん。

 

「ライザーとのゲームからずっと、あなたには何度も助けられてきた。あなたが吐いた嘘がどうであれ、あなたにオカ研にいてほしいわ。だって、あなたが何者であろうと、あなたは立派な私たちの仲間だもの」

 

異世界の話をした時のような張り詰めたものはなく、普段通りの優しい微笑みを浮かべて認めてくれた。

 

「後輩が言うにはおこがましいかもしれませんが、昔の僕のように弱さを乗り越えようとする先輩はやっぱり僕たちと同じ、オカ研男子です!」

 

いつもはおどおどしていてあまり自分の意思を出さないギャスパー君も、はっきりと自分の思いを口にした。

 

心配するまでもなく、俺はもう受け入れられていた。自分の存在はもう、オカ研にとって当たり前になっていたのだ。

 

「紀伊国君は自分の抱える苦しみと弱さとずっと戦ってきた。それを今克服しようと私たちに打ち明けてくれたのは、私たちを信じてくれたからなのよね?」

 

「…!」

 

朱乃さんも、バラキエルさんが来て以来見せなかった優しい笑みをたたえて俺に歩み寄る。

 

朱乃さんの言う通りだ。俺は希望のIFという可能性に賭け、皆を信じたからこそ、今まで打ち明けられなかったことを打ち明けることができたのかもしれない。

 

「…私も、いつかは紀伊国君みたいに」

 

ぼそりと呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。父親であるバラキエルさんとの確執を抱える朱乃さんも、自分の弱さや苦しみを戦っているのだ。

 

「あの時の先輩の言葉の意味がやっとわかりました。妹さんが敵になったから、同じく姉が敵になった私に聞きたかったんですよね?」

 

次に進み出たのは塔城さん。

 

ネクロムの攻撃を受け、瀕死の状態から回復した俺の下に現れた塔城さんにそんなことを聞いたこともあったか。

 

「私も先輩の力になりたいです。私はもう姉さまと絶縁しましたが、せめて先輩は妹さんと仲良くしてほしいです」

 

小柄な体形で、上目遣いに笑顔を向けてくれた。最近兵藤に甘える時以外はいつも仏頂面な彼女の年相応の少女らしい笑顔は普段とのギャップもあってか可愛らしい。

 

ディオドラの事件で凛と戦った時、一人では敵わなかった彼女をみんなで力を合わせることで退けることが出来た。そうだ、俺一人の力ではできないことも、皆の力があればきっと道は開ける。

 

「敬虔な信徒として嘘は見過ごせないけど、今のあなたは臆病でも、仲間のピンチをほっとけない仲間思いなのは知ってるわ。ゼノヴィアがたくさん教えてくれたからね!」

 

「む」

 

と、最後に語るのは紫藤さんだ。名前を出されたゼノヴィアが頬を恥ずかし気に赤らめた。

 

「本当の悠くんの事が気になるのは事実。でも悠は悠、あなたはあなたよ。私は受け入れる!悩めるあなたを、私は救済したいわ!」

 

彼女は内にある疑念を隠さず、だがそれを踏まえ俺を認めて天使らしいセリフで朗らかに笑う。

 

皆、俺に笑い、微笑みかけてくれる。そこに俺が恐れていた不信の色など、微塵もなかった。

 

そして悟った。

 

俺がどれだけ素性を隠してきたとしても、これまでに俺が積み上げてきたものは決して無駄でも偽りでもなかったと。

 

「…こんな俺を、許してくれるのか」

 

感極まって目元からふと溢れた一筋の光が、頬をつうっと走る。

 

「仲間だと…言ってくれるのか…」

 

「何度も言わせないでよ、当たり前に決まってるじゃない」

 

「そうだぜ、紀伊国」

 

「そうですよ、先輩」

 

「もちろんです!」

 

「もちのろんよ!」

 

その言葉が、湧き上がる感情を更に後押しした。

 

「あ……あぁ…ううぁ……!!」

 

緊張の糸がぷつんと切れ、極まった感情のままに体から一気に力が抜けてどさっと両膝と両手を地面(ないはずなのになぜかそんな感触がある)に突き、涙と嗚咽をこぼす。

 

どうして、今まで言えなかったんだろう。一体何を恐れる必要があったのだろうか。

 

こんなにも温かく受け入れてくれる仲間を自分は信じていなかったなんて。なんと自分は愚かだったんだろう。

 

後悔と安堵、自責など様々な感情が一体となって混ざり合い、俺の心をかき乱す。自分でも訳が分からない。

 

さっき泣いたばかりだというのにゼノヴィアの次は、彼女を含めたオカ研全員の前でまた泣くことになるなんて。

 

「…ごめんなさい…ごめんなさい……うぁ…!」

 

これまで溜めてきた思いが、言いたかった言葉が涙と共にぼろぼろとこぼれる。

 

涙と謝罪の言葉が止まらない。

 

これを言いたかった。このためだけに、俺は……。

 

「泣くなよ紀伊国、まだ戦いは終わってないんだぜ?」

 

「そうよ……でも、今だけしっかり泣いてもいいわ」

 

「……ありがとう……!!」

 

涙に濡れた顔を上げて、皆の善意に応えるため精一杯の笑顔を皆に返す。その時にやれやれと言いながらも破顔する皆の顔が見えた。

 

心の底から思えた。この世界に来て、皆に会えてよかったと。

 

そして切に願った。これからも、自分を受け入れてくれた皆と共に生きたい。

 

心の底から言った言葉と同時に、視界が光に包まれるようにかすんでいく。

 

〔BGM終了〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界と意識を塗りつぶす光が晴れると、目の前には変わらぬ殺風景な採掘場と俺を掴み上げるロキの姿があった。あれだけあの空間で長く話したにも意識が飛んだ時からロキは一歩たりとも動いていない。

 

「ぐぅぅ…何だ、この光は…!」

 

またも受けた強烈な光に、たまらず呻くロキ。

 

これは好機と、腹を強く蹴りつける。目くらましで力が緩んだこともありどうにか解放され、受け身を取りつつ地面を転がる。

 

「いつっ……ん?」

 

そして起き上がった俺の手の中に、青味の強い虹色の光が宿っていた。小さいながらも手の中で強く光が一度眩しくパッ瞬く。

 

すると今までゴーストドライバーを抑えてきたユグドラシルの拘束がさらさらと灰になり、風に乗って消えていった。まるで、俺の心の付き物が取れたことを象徴するかのように。

 

「な…!」

 

それだけではない。光の瞬きに呼応したか、俺が持っている眼魂たちが一斉に光をともして飛び出すと、俺の周囲を回り始めたのだ。

 

さらにどこからともなくいくつかの色とりどりの尾を引く光も飛来し、旋回する眼魂の光に混ざり始める。よく見れば、それは凛の手元にあるはずの眼魂だった。

 

何故凛の持っているものもここに来たのかはわからないが今、目の前に15の眼魂が全てそろっている。その感傷に浸る間もなく集った眼魂たちはやがて俺の手の中に光へ向かうと一つになり、パッと光が弾けた。

 

「っ…これは…?」

 

光が消え、俺の手元にあったのはスペクターの紋章が刻まれた、左手で握るためのグリップのついたデバイスだ。こんなアイテムは見たことがない。

 

だが脳に直接、このデバイスに関する情報が流れ込んでくる。この感覚は各英雄たちのフォームに変身した時、その得意分野の知識が脳に感覚に似ている。

 

『――それが汝の選択の証だ。仲間の思いと力を繋ぎ、運命を切り拓け』

 

流れ込む情報、その最後で脳裏にまたドラゴンの声が聞こえた。どうやら、あの空間での皆との和解がこの力を完成させるキーになったらしい。

 

…あのドラゴンも、俺がきっと皆に認められると確信レベルで思ったからそんな条件を設定したのだろうか。でなければこんなことはできない。

 

あんたも信じているんだな、俺が信じた仲間を。

 

それはさておきどうやらこのデバイスの名称はプライム・トリガーと言うらしい。あのドラゴンが俺に託した、新たなる希望だ。

 

〈BGM:龍亞の覚醒(遊戯王ファイブディーズ)〉

 

俺のドライバーにかけたユグドラシルの呪縛を払ったことで、ロキは動揺も露わにする。

 

「まさか…我の呪縛を破り、新たな力を手にしたというのか…!」

 

「そうらしいな」

 

トリガーを握り、晴れ晴れとした気持ちでふっと笑う。

 

「俺の迷いは、あの光が払ってくれた」

 

皆の許しが、俺を今まで縛り付けてきた恐れという鎖から解き放った。すがすがしい気分だ。

 

…だが、俺を縛る鎖はまだ一本だけ残っている。

 

未だ皆に素性を隠しながらもこの戦いに協力してくれるポラリスさんのことだ。あの人の謎はまだまだ多い。

 

だがそれも、この戦いであの人が味方であることを証明しみんなの信用を得れば気負うこともなくなる。

 

…それを考えて、今回の戦いに参加したのだろうか?あの人が本当に兵藤たちの味方であることを証明するために自ら介入をしたのか。

 

だがそれはこの際どうでもいい。ただ一つ、言えるのは。

 

「ロキ…今の俺は、強いぞ」

 

とある筋肉バカの言葉を借りるとすれば、今の俺は、負ける気がしねぇ。

 

このアイテムを手にした瞬間に、その使い方は理解した。

 

プライムトリガーのグリップを左手で握り、上部の青いスイッチを押す。

 

〔ソウル・レゾナンス!〕

 

手にしたドライバーの左サイドにある銀色のパーツに装着する。そして自分の魂が宿るスペクター眼魂を起動してドライバーに差し込み、カバーを閉じた。

 

〔アーイ!フェイタル・シフト!〕

 

新たな音声と共にベルトから一斉に15の英雄たちのパーカーゴーストが躍り出る。それは集結を喜ぶかのように、これから生まれる新たな力を祝うかのように雄々しく宙を舞う。

 

〔バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

「変身!」

 

これまでの待機音とは違う、バックのメロディーがより勇壮になった音声が勇ましく心を奮わせる。

 

天に左手を掲げてそのままゆっくり下ろし、力強く拳を握って、力を解き放つ言葉を口にしてトリガーを引く。

 

〔ゼンカイガン!プライムスペクター!〕

 

「―――!」

 

力を解放したその瞬間、俺の脳内に様々なビジョンが流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目に包帯を巻き、ボロボロの布切れを纏う黒髪の少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金の槍を手にした、教会の悪魔祓いの衣を纏う少年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、強大な獣と戦う黒と赤の二匹のドラゴン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのビジョンが終わると、ギュンと引き戻されるような間隔と共に再び意識は現実世界へと戻る。

 

全身に流れる霊力は黒地に銀色のラインが入った強化スーツという形で物質化し、俺の全身を覆う。脚や腕、そして胸などには輝かしい黄金に縁どられた鎧『アーマーサブライム』が15個も装着される。

 

すると宙を飛んでいたパーカーゴーストが俺の下に集まり、全身に備わったアーマーサブライムの中へと次々に飛び込んでいく。何も写さない真っ黒だったアーマーには取り込んだ英雄の紋様がはっきりと表れた。

 

右脚にはゴエモンとロビンとサンゾウ、左脚にヒミコとリョウマとグリム。

 

左腰にベンケイ、右腰にニュートン。

 

右腕にエジソンとムサシ、左腕にビリーザキッドとベートーベン。

 

左肩にフーディーニ、右肩にツタンカーメン。

 

そして、胸部に大きくノブナガの紋章が浮かび上がる。

 

さらにドライバーの透明なカバーの上から、溢れ出すエネルギーが物質化して金色の交差する剣の装甲が装着される。

 

15のパーカーゴーストを取り込み、15のアーマー全てに英雄の紋章を宿したことで変身は完了した。

 

〔運命!革命!黎明!英雄!友情!最上!アウェイクニング・ザ・ヒーロー!〕

 

全ての眼魂を一つにしたことで生まれた黄金のエネルギーは一瞬俺の頭上と背に揺蕩う水の王冠と虹色の翼を形作ると、泡沫のように弾けて消えた。

 

仮面ライダープライムスペクター。全ての英雄の魂を集わせ、運命を変える戦士の誕生であった。

 

〈BGM終了〉




というわけで、パワーアップフォームはスペクター版グレイトフル魂でした。大まかに言えばあの竜が凛というイレギュラーに対処するために用意した、イレギュラーなパワーアップと言う設定です。ディープスペクターを待っていた方にはごめんなさい。

英雄の位置や顔の模様がスペクター仕様になっていたりと違いはありますが基本的な姿はグレイトフルと大差ないです。ただ設定はかなり変わっていますし今までとは毛色の違うフォームなため、変身音も他のフォームとは違う感じになっています。勿論、新しい挿入歌もチョイス済みです。歌詞がピッタリな奴なのでお楽しみに。

それとプライムトリガーはアサルトグリップとハザードトリガーを合体させたみたいなデザインです。アイコンドライバーにしなかった理由は色々ありますのでまた別の機会に。

次回、「プライムスペクター」

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