Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ(New)
2.エジソン(New)
3.ロビンフッド(New)
4.ニュートン(New)
5.ビリーザキッド
6.ベートーベン
7.ベンケイ(New)
8.ゴエモン
9. リョウマ
10.ヒミコ(New)
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
14.グリム(New)
15.サンゾウ(New)
「久しい」
殺風景な内装。そこにぽつんと置かれた椅子に孤独に腰かける長い黒髪の少女が微笑んだ。
その少女の名は、オーフィス。世界最強と謳われる存在にして、世界を混乱に導いているテロ組織、禍の団の首領である。
もし今の彼女の様子を、禍の団の構成員が見ればひどく不思議なものに感じるだろう。グレートレッド以外にまるで興味を持たぬ彼女は常日頃から何を考えているかわからない無表情を貫いており、今のように笑うことなどめったにないのだから。
虚空を見上げると、まるで親しい友人に向けるような温かさをたたえてこの世界に再び感じた気配の持ち主に語り掛ける。
「帰って来た?」
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一方、採掘場にて足止めにとネクロムと激戦を繰り広げていたヘルブロスは、二人そろって戦闘の動きを止め、同じ方角を向いていた。
『突然凄まじいオーラを感じたかと思えば、眼魂が悠たちのいる方角へ飛んでいった……。それに、悠の反応が今までにないものに変化している。向こうで何かが起こっているな』
向こうで起きている異変に怪訝そうに呟くヘルブロスとは対照的に、通常フォームに戻ったネクロムはひどく動揺した様子を見せていた。体も声も内心の衝撃を表すように酷く震わせている、
「何故…奴の波動を感じる?奴はもう既に…」
(普段は感情をおくびにも出さない奴がここまで動揺するとは……一体何がどうなっている?)
巨大なオーラの観測は二度あった。
互いに訳ありで全力を出せない二人の戦いは拮抗状態が続き、互いに攻めあぐねていたところに大きな光が空から落ち、ロキと一誠、悠とゼノヴィアが戦っている彼方へと向かって行った。それが最初の観測だった。今までに観測されたことのないオーラの質に、その時にはまだお互いに何事かと不審に思う程度だった。
だが最初のオーラが消えた数秒後、突如としてネクロムの所有していた眼魂が光り始め、全て一誠達のいる方角へと飛来した。これにはさすがのネクロムも驚き、幾分かの隙が生まれた。
ヘルブロスもまさかの現象に驚きはしたがこれは好機だと攻め入ろうとした瞬間、一度目よりもさらに強大なオーラが同じ方角から観測された。これが二度目の観測だった。
今のネクロムの激しい動揺は二度目の波動が原因だった。
ネクロムはその波動を知っている。だが、彼女…いや、彼女たちにとってそれはあってはならないものだ。
この場は引いて、直ちに確かめなければならない。未だ動揺を引きずりながらも迅速にネクロムは判断を下した。
「…貴様に構っている場合ではなくなった」
〔Destroy!DAI-TENGAN!NECROM!〕
即座にメガウルオウダーを操作し緑色の霊力を拳に充填する。その動作に次なる攻撃が来るとヘルブロスは身構える。
〔OMEGAUL-ORDE!〕
パンチを繰り出すように左手を突き出して迸るオーラを放出し、うねりながら前進するそれは二人を分かつ距離の丁度中央で爆ぜた。圧縮されたエネルギーの爆発によって爆風と土煙を大きく巻き上げられ、ネクロムの姿をその濃密なベールの中に押し隠した。
『しまった……!』
襲う爆風に怯み、ヘルブロスは咄嗟に腕を交差する。その間に、センサーで捉えたネクロムの反応が動き、悠たちのいる方角へと移動を開始し始めた。
『ッ!待て!』
ヘルブロスもすぐに立て直して駆け出し、逃げるネクロムの追跡を開始する。
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「力が漲る…!」
フーディーニ魂に初変身した時の高ぶりなど比べ物にならないほどのパワーの高ぶりを感じる。
力の昂りは戦意の高揚にも繋がり、逆境に煌煌と輝く希望を生む。これなら、真正面からロキと戦える。
しかし俺の心に希望と共にわずかばかりの困惑が居合わせていた。
「…だが、今のは一体」
変身の途中で垣間見えたビジョン。あれは明らかに誰かの記憶の断片だった。あのビジョンにいた赤いドラゴンは間違えようもなく……。
「土壇場でパワーアップしたのは赤龍帝でなく貴様だったか」
ビジョンのことを考える俺をよそに、ロキが言う。
「それに、先ほどのオーラはどの神話のものでもない……が、そんなことはこの際どうでもいい」
怪訝な声色から一転し、身に纏う緑色のオーラが高まる。
「貴様が何者だろうと、我の邪魔をするというなら捻りつぶすのみだ!」
戦意を新たにユグドラシルの力を得て、出力を増した緑色の光球を手から放った。獰猛なうなりを上げながら真っすぐ向かってくるそれを俺は邪魔な虫を手で払うような感覚で手を振るい、容易く弾き飛ばした。
あらぬ方向へ飛んでいった光球は採石場のどこかに着弾し、ドォンと爆発音を轟かせた。
〔BGM:Evolvin' storm(仮面ライダーフォーゼ)〕
「くっ…なら」
次なる手を講じるロキは魔方陣を開き、そこから天に昇るような勢いで五匹の巨大な細長い灰色の蛇がこの場に出現した。
見上げるような高さの蛇…いや、これはドラゴンと呼ぶべきだろうか。
「量産型の龍王ミドガルズオルムだ、果たしてこいつらを捌けるか?」
五匹のドラゴンを統べるロキが不敵に笑む。
龍王ミドガルズオルムのクローンだな。兵藤たちがドラゴンゲートを開いて本物のミドガルズオルムの意識を呼び出して知恵を聞き出したんだっけか。なるほど、本体はこんな感じか、それ以上の大きさのドラゴンという訳だ。
内心で納得した。道理で表に出てこないわけだ。これ以上のデカ物、味方でもその場にいるだけで邪魔になってしまう。
そしてロキに従属する五匹のドラゴンが、同時に燃え滾る火炎を俺目掛けて吐き出す。
〔ニュートン!〕
右腕に備え付けられたアーマーのニュートン魂の紋章が光る。迫る火炎に恐れと言う感情は全く湧かなかった。
右手をおもむろに上げて火炎に向け、斥力の波動を放つ。どっと大気を叩いて放出され、容易く分厚い炎の幕を一息に吹き払った。
このフォームの特色として、取り込んだ眼魂全ての能力を使用できる。勿論複数の能力を同時に発動、複合して使用することも可能だ。今まで以上に、様々な状況に対応できる仕様になっている。
〔フーディーニ!〕
フーディーニ眼魂に秘められた能力が起動し、飛行能力を得た俺は風を巻き起こして一気に空へと舞い上がる。空に躍り出た俺は五匹のドラゴンと目線の高さを同じくする。奴等の感覚で言うなら、きっと今の俺は蠅のように感じるだろう。
だが俺はただの蠅じゃない、これからこいつらを殲滅する凶悪なハチだ。
〔ガンガンセイバー!〕
そしてドライバーからガンガンセイバーをガンモードの状態で召喚する。召喚されたガンガンセイバーに黄金のエネルギーが覆い、銃身に金色の装飾が取り付けられる。
俺のパワーアップに合わせて武器も進化するということか。
宙を飛ぶ俺に先陣を切るのは俺だと言わんばかりの勢いで二匹のミドガルズオルムが凶悪な牙を剥き出しにして迫るが、大きく開けられた口に進化したガンガンセイバーの銃撃をぶちこんで炸裂させ、二匹を黙らせる。
あの巨体に効く威力なら、このフォームで使うには十分な出力向上だ。
他の一匹が火炎を吐き出した。空を焼きながら押し寄せる火炎を霊力を纏った左腕で振り払う動作で消し去る。
こんな芸当、今までの俺にはできなかった。今のとんでもないパワーがあればこその芸当だ。その力、存分に振るわせてもらおう。
ロビンフッドの紋章が光るとそこからコンドルデンワーが飛び出して、ガンガンセイバーに合体した。
というか久しぶりに見たな。今まで凛に奪われたままだったから夏休み終わり以来か?
だが今は再会の感傷に浸っている場合ではない。
合体したコンドルデンワーの頭部辺りを黄金の装飾が覆い、リーチを伸ばした。まるで仮面ライダークウガのライジングペガサスのようだ。
〔ゼンダイカイガン!ガンガンミロー!ガンガンミロー!〕
ドライバーにセイバーをかざし、エネルギーの送受信を行うアイコンタクトによってガンガンセイバーに輝く霊力がうなりを上げて収束していく。先端の嘴状のパーツに怖気のするような霊力が圧縮していき、さらに弓の形になっているコンドルデンワーのウィング部に光の弦を形成する。
弦をつまみ、ぎゅっと引く。引き絞る力を込めれば込めるほど、先端に集まっていく霊力は輝きをさらに増していく。そして射抜くべき的はしかとこの目に捉えている。
それを溜めに溜めたところで、トリガーを引く。
〔ハイパー・オメガストライク!〕
つまんだ弦をぱっと放すと引き絞られ、圧縮に圧縮を重ねた光の霊力が矢となって緑と黄金色の尾を引きながら真っすぐミドガルズオルムへと飛び出す。
光の矢は瞬く間にミドガルズオルムの頭部を易々と射抜き、地面に達するや否や盛大な爆発を起こす。地上で巻き起こった爆風はこっちにも届くほどだった。
だが敵はまだ残っている。視線を移せば、まだ4匹のミドガルズオルムが残っている。うち二匹は口内を撃たれたのが余程痛かったのかまだ悶えている。
一旦その二匹は保留にして、まだピンピンしている二匹を狙うか。
そう決めた俺はコンドルデンワーをガンガンセイバーから外し、刀身の角度を変えてソードモードに変形させる。変形するとすぐにまた黄金の装飾が刀身を覆った。黄金の装飾で長さを伸ばしたその刀身は仮面ライダークウガライジングタイタンフォームの剣を想起させる。
〔ゼンダイカイガン!ガンガンミロー!ガンガンミロー!〕
ガンガンセイバーを再びドライバーにかざす。アイコンタクトが再び霊力を高め、セイバーに注ぎ込まれる。
刀身に収束していく眩い霊力が俺の背丈の何倍はあろうかという長大な光の刃を作り出す。
〔ハイパー・オメガブレイク!〕
「オオオオオッ!!」
裂帛の気合を吐きながらの一閃。横一文字の光の軌跡が巨大な二匹のミドガルズオルムを断ち、盛大に爆散せしめる。
「GRRR…!」
ちらりと横を一瞥する。残るは二頭のミドガルズオルム。ダメージから立ち直ったようだ。仲間が次々に撃破されても怯む様子は全く見せない。
そんな彼らを、横合いから飛んできた業火と雷を帯びた風の刃が襲った。業火が竜の全身を焼き、風雷の刃が
怒涛の勢いで龍の身を切り裂いていく。
「待たせて済まない!」
「私たちも援護します!」
攻撃の次に飛んできたのは頼もしい味方の声。タンニーンさんとロスヴァイセさんが翼をはためかせて駆け付けてくれたのだ。
「!…お願いします!」
この場を二人に任せ、本命を討つために俺は悠然と地上に降り立つ。それから彼らの戦いの始まりを知らせるように激しい爆音が空中から聞こえ始めた。
先ほどの戦いを見ていたロキが、降り立つ俺を目にして険しそうに目を細めた。
「量産型とはいえ龍王ミドガルズオルムがまるで相手にならんとは……相当侮ってはいかん相手らしい」
ミドガルズオルムを相手にするまではまだ自分に対応できる範囲内だと思っていたのだろう。ミドガルズオルム3体を易々と打ち倒したことで警戒のレベルを引き上げたようだ。
だが果たして、その警戒レベルが今の俺を相手取るに適切なレベルだろうか。
「次はお前だ」
〔エジソン!ゴエモン!ベンケイ!〕
今度は3つの英雄の力を同時に発動させる。
全身に霊力に加えて電撃を纏わせ、ベンケイのパワーで踏み込み、ゴエモンの高速移動で獲物を狩るハヤブサのごとく一直線にロキへと馳せて俺達を隔てる距離を消し飛ばす。
ギリギリまで近づいてロキの反応よりも早く力強く踏み込み、まずは腹に一発。そこからすぐさま八極拳の肘打ち、裡門頂肘を胸に打ち込む。
「ぐふぉ!」
繰り出された一撃がロキの胸部を強烈に穿つ。何倍にも向上した出力と身体能力での一撃は神にもかなりのダメージを与えられるようだ。
その威力で吹き飛ぶよりも早く、膝蹴りを腹に打ち込み浮かせる。それによって浮いたロキの体を締めにと体を捻り薙ぐような回し蹴りでサッカーボールのごとく蹴り飛ばす。
「どがふぁッ!!」
体を捩り、地面に身を激しく擦りつけながら派手に転がる。どれだけダメージを与えてもすぐに回復するが、痛みを全く感じないわけではない。
俺の攻撃はこれだけでは終わらない。
〔ムサシ!〕
今度はムサシの能力を発動させる。ガンガンセイバーを再度召喚し、分離させ二刀流モードに変形させる。二振りの剣は霊力が固形化した黄金の装飾が装着されたことでその出力は何倍にも向上している。
「くぅぅ…!」
次なる攻撃が来ることを察したのか、がばっと上体を起こしてこちらに向くロキはすぐさま得意の魔法を放って近寄らせまいと牽制する。
燃え盛る火球や氷塊、弾ける雷条、眩い光条が俺を飲み込まんとどっと押し寄せてくる。
だが迷わない、怯まない。大地を蹴りだし、猛進する。行く手を阻む数々の魔法は全てムサシの能力で流れを見切り、彼の剣豪の技量を得た二刀流で断ち切り、道を開く。
その先にあったのは、ふらふらと立ち上がって顔を驚愕の色に染めたロキの姿であった。
「はっ!」
一気に距離を詰め、魔法のお返しにと冴えわたる黄金の剣閃が驟雨の如くロキの身に降り注ぎ、激しく降りつける。迸る剣技が次々にロキの体を切り裂いていく。
「ぐぁ……がっ!」
無残に血を散らし、攻撃に圧倒されるロキ。速すぎる剣戟に何もできず、その身を斬撃の驟雨に晒すだけの奴を最後にハイキックで蹴り飛ばす。
「がっ…我の、反応が全く追い付かない…歯が立たない…な…何なのだ、そのパワーは!?」
数度地面を跳ねて、またも地を這いつくばり地を舐めるロキが叫ぶように問う。
更なる力を手にした悪神すら圧倒できるこのパワーの秘密、それは。
「このフォームは、15の英雄眼魂全ての力を同期、共鳴、増幅させ、100の15乗の力を発揮している」
剣に付着した血を軽く振り払って俺は答える。
「100の15乗だと…!?」
ロキが血と砂で汚れた顔で、唇を震わせながら唖然とする。この数値はこの姿の異常なまでのパワーを説明するには十分すぎるワードだ。
「えっと、それって幾つだ…?」
「100…10000……1000000……すまない、わからなくなってきた」
「おいそこ、諦めるな」
ゼノヴィア、兵藤、お前たちがおバカな所があるのはわかっているがそこは持ち前の根性で数えきれよ。
「なら悠は勿論わかるんだろうな?」
俺のツッコミにむっとしたゼノヴィアが言う。
「そんなの当然に決まっているだろう。えーっと、100、1万、100万、1億…ん、一億であってるのか?あれ、んんん…?」
「いやお前もかい!」
兵藤からキレのいいツッコミが飛んできた。
まあそれはともかく、あいつらには分からない例えで説明するならガンダムOOのツインドライブシステムを15個の眼魂で行っているのだ。そもそも対象となるデバイス自体が違うため完全にツインドライブの15個版とは言い切れないが、大まかな仕組みは同じはずだ。
だがもちろん、この神をも圧倒するパワーの代償、つまりリスクも存在している。
「バカな…それだけで、神を凌駕するほどの力を得られるわけが…!」
ロキはそのバカげた数値にまだ信じられ無いと言わんばかりの様子だ。まあ、敵に理解を求めるつもりもない。
「理由はともかくだ」
〔ニュートン!〕
ニュートンの力で、ロキに弾かれたその辺を転がっていたグングニルのレプリカを手元に引き寄せてパシッと握る。
「お前を越えるほどのパワーを出せる今なら、グングニルの真の力を引き出せる」
「!」
グングニルをくるくると回し、さっとその穂先を先の俺達のようにボロボロになった悪神に向ける。
奇しくもアザゼル先生の立てた作戦の条件が整ったわけだ。このままボコボコにしても良いが再生能力がある以上手間はかかるし、俺もこのフォームがいつまで持つかわからない。
故に、確実にこのグングニルで奴のユグドラシルの右腕を破壊する。短期決戦で、仕留めさせてもらおう。
「このグングニルで、お前の右腕をもいでやる。一度は俺の仲間を殺してくれたんだ、覚悟し…ッ!?」
〔BGM終了〕
言葉の途中で急に走る激痛。発作のように起き、あっという間に全身を支配したそれに足を引っ張られるように、どっと両膝を突いた。
「あ…ぐ…ふっ…!!」
両手を地面に付け、過呼吸気味に息を荒くする。全身に走る耐え難い激痛。ちかちかする視界。俺の体が叫んでいる。これ以上力を行使するな、戦うなと。
このフォームは変身時に取り込んだ眼魂の数に応じてその力を増す。15個全ての眼魂を取り込んだ今の状態は最大出力という訳だ。
だが眼魂を多く取り込んで発揮する力が強大になればなるほど制御が不安定になり、体の負担も比例して大きくなる。それと同時に変身を維持できる時間すら不安定になってしまうらしい。
やはり、眼魂15個の同時稼働は負担が大きいか。神クラスを相手に無双すらできてしまうほどの力など、ただの人間が行使するには過ぎた力だった。
折角反撃できそうなところだったのに、ここで変身を解くわけには…!
「ふっ…貴様の新しい力、やはり相応の負荷を強いるようだな…人が神に近づこうなど、傲慢の極みだ」
激しく苦しみだす俺の様子に、形勢はまた自分の優位に向いたとロキは口角を上げた。
「う…るさい……!!」
マスクの裏で血と共に強がりを吐き出す。
意地だ。このスペクターの力は精神の力。折れない心を抱き続ける限り、力は湧いてくる。
痛みをこらえるために拳をぎゅっと強く握り締め、震える体に鞭を打ってゆっくりと立ち上がる。
「やっと巡って来た…チャンスだ。ここで踏ん張らずして、オカ研の男子を名乗れるかよッ……!!」
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〔BGM:MIMICKING BATTLE(魔法使いと黒猫のウィズ)〕
「はいにゃっ!」
ハティと近接戦にて一進一退の攻防を繰り広げる黒歌。黒い着物を着崩して艶やかに晒す肩を軽く切り裂かれ、カウンターで猫パンチのように俊敏な掌底がハティを打ち据えた。
吹っ飛ぶハティは空中で体勢を立て直し、着地するや否や再びすばしっこく戦場を駆け巡る。
空中から落ちてくる雷光や滅びの魔力、イリナが投擲する光の輪も軽々と躱し、誰も彼の足を止めることが叶わない。ギャスパーの停止の邪眼も対象を視界におさめなければ効果を発動できないので、素早く動き回るハティを止めることはできない。
ハティが離れた黒歌の元に緑色の輝くオーラが飛来する。アーシアの神器による回復のオーラだ。それを受けた黒歌の肩につけられた傷がたちまちに塞がっていった。
「サンキューにゃん、シスターちゃん♪」
「本当にすばしっこい狼だッ!」
毒づきながらも『騎士』特有の俊足で駆け出し、ハティを追う木場。ゴツゴツとした採石場を踏破し、ハティへの距離を縮めようとする。
追いかけっこと言うレベルを超えた追いかけっこの最中、その存在感を周囲に知らしめるように突き出た巨岩が見えた。
木場に追われるハティは巨岩を見ると、何かを思いついたように突然その岩へと向かって跳んだ。疾走の速度を緩めぬまま岩へ跳んだハティはそのまま岩に激突するかと思いきや、なんとその岩を後ろの両脚で蹴って急な方向転換をかけ、後ろから追いかけてくる木場目掛けて再び跳んだ。弾丸のように飛んでくるハティが木場に迫る。
「!?」
突然の行動に不意を突かれながらも木場は聖魔剣で応戦する。あえてスピードを落とさず、すれ違いざまに切る伏せるつもりだった。
だがここでもまた驚愕の行動に出た。
なんと振るわれた聖魔剣の刃を踏み台にして、また空中へと跳ね上がったのだ。そしてハティが跳ねた方向には空から攻撃していたリアスと朱乃の二人がいた。
「部長!朱乃さん!」
いち早くハティの狙いに気付いた木場はすぐに声を上げて、空中にいる二人に注意を促す。
跳ね上がり、宙に躍り出るハティが二人に真っすぐ向かう。二人は当然これを迎撃せんと魔力と雷光で攻撃を仕掛ける。
しかしそれを空中で器用にも身をよじってすれすれに躱した。
「止まらない…!」
そう言う間にも、朱乃に狙いを絞ったハティの鋭利な牙が襲い掛かって来る。
やられる。そう思って目をつぶったその時。
〔BGM終了〕
「朱乃!!」
「!」
横合いから弾丸のように向かってきた野太い声が、朱乃を突き飛ばした。
その数瞬後、逃れた朱乃の代わりに飛び出したがっしりとした体つきの男がハティの牙を肩口に受けた。
その人物の姿に、朱乃は目を限界まで見開いた。
「バラキエル…!」
彼女の身代わりになったのは、父親のバラキエルだった。ハティに筋肉でゴツゴツとした右肩を深く食らい付かれ、おまけに体を抑えるために両足の爪も食いつかせているため大量の血が流れ出ている。
「ぐ…ううう……」
とめどない流血が彼の体力を徐々に奪っていき、痛みに呻く。
だがその程度で過去の大戦を戦い抜き、娘の窮地に駆け付けた男の闘志が燃え尽きることはない。
「ぬぅぅぅぅ!!!」
根性と闘志が彼の体を突き動かした。気合の一声と共に全身から激しい雷光を放って自身の体にこれ以上ない形で接触するハティに喰らわせる。そして雷光を纏ったまま上あごをがしっと掴み、強引に自身の体に噛みつく口を開かせる。
「…!?」
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!」
雄たけびを上げながら力づくで自分の体から離してから首根っこを掴むと、図田袋のようにハティの体を振り回して地面にぶんと投げ、叩きつけた。
火事場のバカ力か、怪力が小さなクレーターを一瞬で作り上げ、凄まじい轟音が響き渡る。
「アーメン!」
そこに追い打ちをかけるようにイリナが光輪を投げつけ、ハティを拘束する。強烈なダメージと体を地面に括り付ける光輪により動けなくなったハティの元に木場が現れる。
「鬼ごっこもここまでだよ」
「~~~ッ!」
躊躇いなく、ハティの胸に聖魔剣を突き立てる。つんざくような悲鳴を上げてごぼっと大量の血を吐いた後、ぐったりとなって動かなくなった。
「ハァ…ハァ…」
しかし流血も相まって先の一撃でかなりの体力を使ったバラキエルは脂汗を流し、次第にふらふらと翼の羽ばたきを無くしてハティの後を追うように墜落しようとする。
「あなた……!」
そんな彼の体を朱乃は咄嗟に掴み、肩を貸す。その行動に、朱乃自身が一番驚いた。
自分でもわからなかった。どうして憎しみの矛を向ける自分を助けたのか、今こうして、憎むべき相手に手を差し伸べたのか。
「…あけ、の」
「…私を、守ったの?」
恐る恐る朱乃は訊ねた。憎悪をぶつけてくる相手にそんなことあるはずがないという思いを抱きながら。
「…朱璃は…死んだ。お前の心も……私から離れてしまった…もう、あの幸せは戻らない」
途切れ途切れにバラキエルは不愛想な自分の、ありのままの本心を語る。失ったものを想う彼の瞳が、朱乃を捉えた。
「だからせめて、残ったお前だけは……何としてでも、守りたい」
「!!」
切なる思いのこもったその言葉が、朱乃の胸を強く打った。
「わ…私は……あなたを……ッ!」
空いた片手で朱乃はその表情を見られまいと隠す。だが隠せない震える肩と嗚咽は彼女の感情を訴えていた。
長年そうであってはいけない、大好きだった母が死んだのは父のせいだと悲しみを忘れるために憎しみに頼り、心の奥底に押し込めてきた思いがバラキエルの行動と言葉をきっかけに溢れようとしている。
自分はただ、父と母と一緒にいたかった。押し込めていた本当の願いが朱乃の中にふつふつと蘇る。
止められない思いに、朱乃はただ涙を流した。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
「…朱乃さん!」
立ち上がろうとグングニルを杖代わりに地面に突いたその時、兵藤が弾かれたようにこの場にいない者の名を叫んだ。
その声がロキを含めた俺達の注意を引いた。
「…なんだ?」
「え、今、朱乃さんの声が…?」
兵藤自身も何が起こったかわかっていないらしく、辺りをきょろきょろと見回し始めると思えば、ふとキョロキョロした動きが止まる。
「……誰だお前!?」
また叫ぶ兵藤。今度は困惑に満ちた声色で。
「イッセー、一体どうした?ロキの術にかけられたか?」
「い、いや。ロキがおっぱいの精霊なんて頭の悪い術をかける…は?」
流石のゼノヴィアも兵藤の異変が心配になってきたようだ。
単に兵藤の頭がパーになったか、それともロキに何かされたか。
膝を突く俺はきっとロキを睨み、詰問する。
「ロキ…!お前兵藤に何をした…!」
「我は何もしていない、無実だ。淫欲の幻術でもおっぱいの精霊なんてものはない」
「はぁ?それじゃ…」
しかしロキはかぶりを振ってきっぱり無実を断言する。
…なら、この異変は一体何なんだ?というかおっぱいの精霊って言わなかったか?
おっぱい魔人だの言われる兵藤でも、これは頭がおかしいとしか言いようがない。さっきの攻撃で頭でも打ったのだろうか。早めにロキを倒して、アーシアさんに頭に回復をかけてもらうが吉と見た。
ロキが否定したことで一層の困惑がこの場を支配しようとする中、オウム返しのように兵藤はその名を口にした。
「…乳神?」
書いてある通り、プライムスペクターで強化されたガンガンセイバーのモチーフはクウガのライジングフォームの武器です。
前回説明していなかったアイコンドライバーでなくプライムトリガーにした理由は以下の通りです。
・今後のパワーインフレに備えて拡張性のあるアイテムにしたかった。(やるかはわからないけどプライムトリガー+シンスペクターとか)
・仮にネクロムに奪われたとしてもパワーアップに使えないようにするドラゴンの用心。
次回、「意地の一槍」