バーニングファルコンのBGMが余所からの流用だったことに驚くとともにサントラに入らないのかと絶望している。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
5.ビリーザキッド
6.ベートーベン
7.ベンケイ
8.ゴエモン
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
14.グリム
15.サンゾウ
「ふっ!」
凶暴に唸るスコルを視界に収めるアーサーが虚空に鮮烈な突きを放つ。
突き出される間にコールブランドの刃がすっと消える。消えたと思われた剣先は唐突にスコルの頭上辺りの虚空からずっと突き出てて狼の脳天を狙う。
これが空間を断つ聖王剣コールブランドの力。この能力により、コールブランドは相手との距離を無視し意表を突く攻撃が可能となっている。
「!」
間一髪、攻撃を察知したスコルは真横にすっと飛んで回避するが、耳の先端が切られていた。
再びコールブランドの一閃。今度は足元から突き出る刃を跳んで躱す。さらに跳んだ先でも聖剣の刃。身をよじってギリギリで回避。どこから来るかもわからない、一度でも受ければ続けざまに食らうであろう攻撃を、スコルは獣の勘と身のこなしで回避し続ける。
アーサーは幾度も距離を越えた剣戟を繰り返すが、剣がスコルの身を貫くことはなかった。
スコルが人の言葉を話せたとしたらきっと嘲笑交じりにこう言っていただろう。「何度やっても同じことだ」と。
何度も攻撃を躱したことで、スコルに余裕が生まれかけた時だった。
「待ってたぜ!」
その言葉と同時に、スコルの周囲の地面がどごっと割れる。
土煙を上げながら勢いよく地面から飛び出してきたのは、なんと6人の美猴だった。美猴が術を使って生み出した分身たちだ。現れた分身たちが即座にスコルを囲む。
そのどれもがにやりと好戦的に笑むと、取り囲んだスコルを袋叩きにせんと押し寄せる。
だがスコルは怯まない。地を蹴って直進し、前方にいる分身に飛びかかって横腹に鋭い牙を突き立てて噛みつく。
フェンリル譲りの凶悪な牙の餌食になってしまった分身は苦悶の表情を浮かべるとすぐにボフンと煙を立てて消滅した。道を切り開いたスコルはそこから美猴の包囲網を抜ける。
だがが驚きに目を見開いた。
「出てきました」
「おうおう、お前はまだ袋の狼なんだぜ!」
だが包囲網を突破した先にいたのはまたも美猴、そして小猫だった。
ようやくスコルは気付いた。分身攻撃はあくまでブラフ、本命は本人による突破した後の待ち伏せ攻撃だ。分身たちに囲まれてスコルの姿が見えなくなろうと、どこから抜け出てくるかは仙術を使えばオーラの動きで大体わかる。
そしてさきの分身たちの罠もアーサーがあえて連続攻撃を仕掛けてそれを回避させ、指定のポイントへじわりじわりと誘導していたからこそうまく機能した。
全て、彼らの思い通りに自分は転がされていたのだと。
「黒歌の妹!仙術を俺に合わせな!」
「行きます」
互いの拳をトンと突き合わせて、意気揚々と躍りかかる美猴と小猫。
「えい」
「おらぁ!」
真っすぐに繰り出される渾身の拳と棒がすれ違いざまに、同時にスコルの鼻っ面に叩き込まれる。
息を合わせた二人の痛烈な一撃にスコルはたまらずぶっと鼻血を噴き出しながら錐揉み回転し、ぶつかった岩を砕いて派手に転がっていく。
体の芯に響く強烈なダメージ、それは物理的にだけでなく攻撃に込められた仙術によって体内の気の流れもボロボロと言っていいほどに乱された証拠だった。
そして倒れるスコルの下へ、アーサーが馳せ参じる。
「GR…」
「……」
血を流して唸りながらアーサーを見上げるスコルが鋭利な爪を生やした前足をピクリと動かす。しかしその次の瞬間には抵抗をさせまいとするアーサーの剣により、瞬時に動かした前足が切り飛ばされた。
「眠れ、狼よ」
静かな言葉と振り下ろす刃で、アーサーはスコルの命を絶つ。ズバンと鮮やかな軌跡を描いて聖剣がスコルの首を刎ねた。
戦いでズレた眼鏡をアーサーは指でくいっと持ち上げて直す。
「うっしゃ、やったな」
「…ふぅ」
戦いを一つ切り抜け、ひとまず安堵の雰囲気が流れ出す。そこへ引き寄せられるように、これまたふわふわした穏やかな天使、メリィがふわりと飛んでくると降り立った。
「…あれ、もう終わったみたいですねー」
血だまりを作ってぐったりと倒れるスコル、その傍らに立つアーサー。そして息を吐く美猴と小猫。この光景を見渡し、全てを察した。
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〔BGM:ゲイツリバイブ(仮面ライダージオウ)〕
常人の感覚を越えた超々高速戦闘を行うウリエルとフェンリルの一騎打ちもいよいよ終わりを迎えようとしていた。
星空の下で星の瞬きのように弾ける金属音と光。
二人のスピードはほぼ互角。だがウリエルは打ち合いを重ねるにつれ次第にフェンリルの動きを読めるようになりつつあった。その証拠に、打ち合いの中で時折カウンターで剣戟を打つまでになっていた。
何度も切り裂かれて随所にまだ深くない切り傷を付けられたフェンリルの一方でウリエルは完全なる無傷。凶暴な本能を剥き出しに猛るフェンリルの攻撃は、ウリエルにただの一度も届いていない。
やがてその時は来るべくして来た。ウリエルが完全にフェンリルの動き、呼吸を掴むその時が。
フェンリルの凶悪な爪が恐るべき速度を伴って振るわれる。
「動きはもう見切った」
並大抵の者では回避しようのないフェンリルの爪の一閃をウリエルは紙一重で身を捻って躱し、大胆に放つカウンターの剣戟で左前脚を斬り飛ばした。
「ッ!!?」
脚の切断面からどばっと血が噴き出た。己の武器である爪を失った激痛によりフェンリルに隙が生まれる。ウリエルが能力を行使するに足る隙が。
「5m半径限定、『時間停止《タイム・フリーズ》』5秒間実行」
ウリエルの宣言で、フェンリルの時間は止まる。空中で時間停止したフェンリルが、本人も知らないまま全くの無防備を晒す。
両手で剣を握ったウリエルは必殺の一撃を繰り出すためのモーションに入り、剣を真横に構えた。
「神罰執行」
キィィンという音を立てながらウリエルの光力が剣に集まる。構えられた剣の刀身に輝きを空恐ろしいほどに増していく。
フェンリルは彼の動作を止めることもできなければ、認識することもできない。やがて限られた時間を可能な限り費やしての準備が終わりを迎える。
「量子崩壊執行剣現《エクソキュ―ション・ソード》!!」
雄々しい言葉と同時に、力を込めた剣をフェンリルへと投げた。
星空の下で放たれた剣はさながら天を馳せる流れ星のような輝きを伴っていた。その流れ星は標的たるフェンリル
へとあっという間に達し、その腹をずぶりと貫くと剣に込められた熾天使の強大な光力がどっと解放される。
超新星爆発にも似た光がフェンリルから溢れ出し、体を食い破って天上に昇るような巨大な炎の柱になって屹立する。
そしてその中心にいるフェンリルの時間が動き出す。時を止められた本人はようやくとてつもない一撃のダメージを知覚した。
だがその感覚も一瞬でしかなかった。強力無比な聖なる炎がロキの力で強化されたフェンリルの体の一切合切を焼き尽くし、体と共にフェンリルの感覚の全ても瞬きほどの一瞬で消えていく。
ロキのエゴで生み出され、捨てられ、また彼のエゴで力を与えられたフェンリルのクローンは大天使の一撃に塵も残さず、光と業火の中に消えていった。
『量子崩壊執行剣現《エクソキュ―ション・ソード》』。大戦で名を馳せたウリエルの代名詞とも呼べる必殺技。時間停止から繰り出される回避・防御・認識不可能のこの大技は悪魔と堕天使から大いに恐れられた。
自身の一撃で発生した火柱を見据えるウリエルは手元に時間遡行を発生させ、投げた剣を手元に戻す。
「…やはり、本物の足元にも及ばんな」
立ち昇る業火の柱につまらなそうに感想をくれてやると、背に生やす12の翼を羽ばたかせて地上に向かった。
〔BGM終了〕
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「兵藤一誠、何があった!?また乳なのか!?」
乳神と言うワードが耳に届いたのか、タンニーンさんが取り乱した様子で戦いながら地上の兵藤に話しかける。
俺と戦っていたロキも動きを止め、完全に戦闘は一時停止していた。
「なんか、おっぱいを司る乳神っていう神様の遣いの精霊が、朱乃さんの本音を引き出して乳神の力を引き寄せろとか言ってくる!」
「正気か!?」
見上げる兵藤の返答にまた一段と取り乱しの具合を引き上げる。
「なんだその頭の悪そうな名前の神は……」
乳神なんて名前の神は聞いたこともない。性を司る神なら各神話にいるが、おっぱいピンポイントで司る兵藤と滅茶苦茶相性の良さそうな神は存在するのか?
それにどうして朱乃さんの本音を引き出す必要が…?全く分からない、というかあまり理解したくないのが本音だ。こんなぶっ飛んだ展開、理解できてたまるか。
『残念だがこいつは正気だ。どうやら異世界の神の力をこいつは呼び寄せたらしい。俺にもその精霊とやらの声が聞こえる…死にたい。もう死んでるが』
酷く憂鬱気味なドライグの声が宝玉から発せられる。ドライグが言うなら本当なんだろうが、流石にこれは酷いとしか言いようがないな。
「悠、異世界の神ということは…」
「いやうちの女神じゃないと思う」
あの駄女神にはおっぱい要素なんてなかったからな。というかそうであってほしい。俺を転生させた女神の正体が実は今の可笑しな現象の中心になっている乳神でしたなんてことになったら、俺もドライグと同じショック状態に陥るかもしれない。
…なら、また別の異世界の神なのか?転生事情がある俺はまだしも、おっぱいへの熱い思いだけで兵藤は異界の神を呼んだというのか。
うちのエースはなんと常識破りな男なのか。いや、常識破りだからこそ、このような奇跡を呼ぶのだろう。
「何だかよくわかんねえけど、行くぜ、パイリンガル!バラキエルさんにも届いてくれ!」
乳神の精霊とやらに何を言われたかは知らないが、兵藤は両手をばっと広げてパイリンガルを発動させた。ピンク色のオーラが兵藤から発生して辺り一帯を覆う。
普段と比較してより濃密な色を見せるオーラはロキと相対する俺達だけでなく、部長さんやアーサーたちが戦っている遠くの広範囲にもばあっと広がっていく。
パイリンガルは女性の胸の声を聞く…平たく言えば女性限定で相手の考えていることを読む技だ。朱乃さんの本心を聞き出すというならこれ以上相応しい技はない。
前の戦いだと一度は凛に使ったが、不発に終わったこともあった。あれが体を乗っ取られていることとどう関係しているのか、あとでしっかり整理しておきたいところだ。
だがこの流れをロキは良しとしなかった。
「何を企んでいるかは知らんがそれ以上看過しておくわけにはいかん!」
これ以上この展開を続けるとまずいと踏んだらしく、標的を俺から兵藤に変えると一斉に魔方陣を開いて、追尾性のある鳥の形をした光の攻撃魔法を大量に撃ちだす。
キィーと甲高く鳴いてバサバサと羽ばたく鳥たちは光の粒を羽根のように散らしながらパイリンガルに集中している兵藤へと殺到する。
〔ガンガンハンド!〕
〔ノブナガ!〕
そうはさせまいと俺はガンガンハンドをガンモードで召喚して、ノブナガの力で無数の実態ある銃の幻影を作り出して掃射。光の弾丸の群れが光の鳥の群れへと続々と飛び込んでいく。群れ為す光の鳥は霊力の弾丸で尽く撃ち落とされ、爆炎と化して撃滅する。
「ハァ…ハァ…お前の動きも、これ以上看過できないな」
「貴様ァ…!」
自分の攻撃を邪魔されたロキの怒りがヒートアップしていく。
しかし強がってはみるもののこちらもかなり余裕がない。とんでもないパワーの代償に既にかなりの体力を消耗している。正直あとどれくらい変身が持つかもわからない。次にまた負担の大波が来たら今度こそその場で倒れて戦闘不能になるだろう。
そうなる前に早く兵藤の乳神とやらの交信が成功してくれるといいのだが。
ばっとロキが地を蹴り、宙を浮いて俺達を怒りの表情で見下ろす形になる。
〔エジソン!〕
そんな奴へ時間稼ぎがてら、ガンガンハンドのトリガーを引いてバチバチと弾ける電撃を放つ。無造作に枝分かれする電撃がロキへと伸びる、が。
「無駄だ、貴様がパワーアップしたところで我の吸収能力を止めることは出来ん!」
ばっと突き出した右腕が、痺れる電撃を全て吸収してしまう。やはりパワーアップしてもエネルギー攻撃はダメか。
その時、乳白色の光が爆ぜた。光が俺達の注意を戦闘から再び奪う。
光の元を見やると、光の中心にいるのは兵藤だ。ロキの攻撃でほぼ全壊していた赤龍帝の鎧が瞬時に何事もなかったかのように復元していく。さらに鎧におさめられた宝玉もかつてない輝きを見せ始めた。
そして、それに呼応して手に握るミョルニルも神々しい眩く輝きを放つ。
「案外早く終わったな…」
「イッセーの力が…!」
この様子だと、無事に朱乃さんの本音を引き出して乳神とやらの加護を得たようだ。
「乳神…またしても異世界の神の力を。異界の神も我の革命を阻もうというのか…!!」
希望に表情を明るくさせる俺達とは真逆にロキは頭を掻きむしり、苛立ちを露わにする。そんな彼の影がぐにゃりと揺れ、膨れ上がる。
黒い沼のような影からズズと首を擡げて現れたのは、新たな5匹のミドガルズオルムたちだった。
「ミドガルズオルム…!まだいたのか!」
剣を杖代わりに立つゼノヴィアが険しい表情をする。俺も彼女と同じ気持ちだった。
これは流石に厳しいな。今からこいつらを相手にすれば、戦っているうちに力が尽きかねない。そうなればロキを倒せなくなってしまう。
ズドォォォン…!!
しかし新しいミドガルズオルムと入れ替わるように、まだ残っていた二匹のミドガルズオルムがその黒焦げで血まみれの巨体をずしんと土煙を巻き上げながら地面に横たわらせた。
「一難去ってまた一難だな」
「さっさと倒しましょう」
タンニーンさんとロスヴァイセさんがミドガルズオルムを倒したようだ。やはり元龍王と主神の付き添いは伊達じゃないな。
ドォン!
大地が再び揺れる。だが今度は揺れだけではない。突然大地が割れ、黒炎が出でる。ロキと俺達の間に割って入るように地面から岩を巻き上げながら黒い炎が大樹のように吹き上がった。
「何だ!?」
ごうごうと燃え上がる火柱はゆらりと動くと、ミドガルズオルムと同じ東洋タイプの蛇のようなドラゴンのフォルムへと形を変える。
「オォォォォォォォォッ!!」
戦場に突然現れた黒いドラゴンは、自身の存在を示し誇るように吼えた。
こんな呪いに満ちた禍々しいオーラは初めて感じた。これもまたロキの手駒の一つなのか!?
「この漆黒のオーラは…龍王ヴリトラか!」
タンニーンさんは同じ龍王としてそのオーラに覚えがあるようだ。
ヴリトラ…その名前には俺も覚えがある。
「ヴリトラ!?ってことは匙か!?」
「だがこの状態は…暴走しているのか?」
黒炎を燃え上がらせ、力のままに吼えるヴリトラ。その様子に匙の意志が感じられない。それはあの覇龍を思い出させるような猛々しさだ。
すると兵藤の耳元に小さな通信用魔方陣が開いた。
「シェムハザさん!?…はい……ええ!?」
通話し、驚く兵藤。その一方でヴリトラが黒い炎をごうっと燃え上がらせ、ロキとミドガルズオルムたちをその中に瞬く間に包み込んだ。
「ぐぅぅぅ……力が、抜ける…!ヴリトラの呪いの炎……ッ!!」
黒炎の幕は分厚く、ロキの様子があまり見えないが苦しそうに呻く声が聞こえてくる。直接的なダメージでなく、呪いによるデバフ効果を秘めた炎か。
匙が持っている神器はラインを相手に繋いで力を吸い取る能力を持っていた。弱体化と言う要素が共通しているとはいえ今までになかった黒炎を使うとは、禁手にしては能力がいささか変わり過ぎる気もするが…。
それにしても今、自分の意志でロキを攻撃したのか…?まだこちらに何もしてこないということは敵味方の判別はついていると見ていいのだろうか。
だがそれでも未だ猛るヴリトラの様子には不安を感じざるを得ない。
「…はい、わかりました、やってみます!」
その返答を最後に、兵藤は通信を終えた。
「グリゴリが匙に他のヴリトラ系の神器をくっつけて、ヴリトラの意識が蘇ったらしい!そんでトレーニングを始めたらこの状態になって、時間がないからこっちにそのまま転移させたんだってよ!」
「いや滅茶苦茶だなオイ!?」
時間がないからってこんな危ない状態で送りつけてくる奴があるか!帰ったら絶対に文句の一つや二つは言ってやるからな、先生!
「ヴリトラ…この呪いを吸収するのは、まずいなッ……!」
ミドガルズオルムたちと一緒に閉じ込められてしまったロキは炎の中で鬱陶しそうに眉を顰める。
ユグドラシルの腕で炎を吸収しないのは、そうすると一緒に呪いの効果も取り込んでよりダイレクトに効果を受けてしまうからなのか?
いや、もしかすると俺が与えたダメージによる消耗もあるのかもしれない。まだダメージも少なく元気ならあの炎なんて一息でオーラで吹き飛ばしてしまうだろうからな。
何にせよ、今が絶好のチャンスであることには違いない。
「俺が匙を暴走させないように神器を通して呼びかける!」
〔挿入歌:GIANT STEP(仮面ライダーフォーゼ)〕
そう言って兵藤は籠手に手を添え、意識を集中させ始める。
また時間稼ぎが必要みたいだ。だがさっきと違って今度はロキ達の動きは既に封じられている。
「貴様ら……!!」
燃える炎の隙間から、ロキの怒りに満ちた顔が見えた。奴は自分を取り囲む烈火のような激しい感情を剥き出しにして、吼えた。
「貴様らの行いは、北欧の未来を潰す行為だ!!貴様らとオーディンのもたらす変化が、北欧神話を潰す!!認めない…!絶対に、断じて認めんぞォ!!」
「潰れないさ」
ロキの怒りを、俺はそう断ずる。
「変わらないものなんてない。存在し続けるってことは、変わり続けるってことだ。変わらないものはただ廃れていくだけだ。未来は一人の意思だけじゃない、手を取り合って、より良い変化を願う皆の意志で切り拓いていかなければならないんだよ」
怒りに囚われたロキを諭すように俺は語り掛ける。
今のロキは、過去の遺恨に囚われるあまりそれを繰り返すことを回避することだけに必死になっている。ロキの目を曇らせる過去の遺恨がどのようなものかは俺も詳しくは知らないが、それを恐れるあまりに、今と未来が真に見えなくなっているのだ。
俺もそうだった。
真実を放せば拒絶されるのではないかと、変化を恐れて心地よい現状に甘んじるばかりだった俺はロキと同じ様に変化を恐れていた。自分の経歴と言う過去に囚われて、今の自分と共にいる皆を心のどこかで疑ってしまっていた。拒絶されるかもしれないと、確定をしてもいないIFを恐れ、逃げ続けていた。
でも、変化を恐れたままだったら今の力は手に入らなかった。俺はどっちに転ぶかわからない不安を抱えながらも変化へと一歩踏み出した。そして、皆が俺を真に受け入れてくれたというよりよい未来を手にした。
あのドラゴンの言う通り、この力は俺が皆を信じ、よりよい未来へと踏み出したという願いの証なんだ。
「お前の神話を想う気持ちは本物だ。だが、過去を恐れて後ろ向きになるばかりで…前を向かずに未来をより良い物にできるわけがないだろ!!」
「何も知らない若造がァ……!!」
それでも認めたくないロキが、意地で炎の中からじりじりと動く。絶対に認めない、諦めないという強い執念がロキを突き動かしている。
討つべき敵ながらその執念だけは、認めよう。だが俺達は負けてやるわけにはいかない。こちらにも貫くべき意地というものがあるのだから。
「…よし!匙はどうにかなった!悠!」
その間に匙の制御が完了したようだ。兵藤が合図し、その意図を瞬時に理解した。
「ああ!」
〔プライム・チャージ!〕
プライムトリガー上部の青いスイッチを押してグリップを押し込み、さらにドライバーの右のレバーを引く。
霊力が一気に増大して15の光を束ねる黄金の魔方陣が背後に浮かび上がり、この手に握るグングニルに収束していく。
グングニルがさらなる黄金の光を帯び、さらにガンガンセイバーと同じ様な荘厳な装飾が付けられた。
〔ゼンダイカイガン!プライムスペクター!〕
「行け、兵藤!」
くるくると軽やかに回した槍をロキに向け、やり投げのように肩に担ぐようなモーションを取る。
〔JET〕
背中から赤いオーラを噴き出して加速する兵藤。赤い光が、黒い炎へと飛んでいく。
「意地の一槍を、くれてやるッ!!」
〔ハイパー・オメガドライブ!〕
力強く踏み込み、渾身の力を込めてグングニルを投擲する。槍はまさしく天を駆ける流れ星のような一条の閃光になって、先に行った兵藤を追い越して黒炎の中に突っ込んでいった。
「ミドガルズオルムゥ…!」
ロキの命で、同じく黒炎の中に囚われた5匹のミドガルズオルムが盾になろうと主人の前に出る。
だが全力で繰り出したグングニルは巨体を利用して大きく、厚く主への道を塞ぐそれすらいとも簡単に貫通する。光は一瞬で5匹の命を貫いて、その先へと進む。
「!!」
ガキン!!
とてつもない金属音を響かせて、閃光がロキの右肩に吸い込まれるように突き刺さる。大気を震わせるその衝撃で、ヴリトラの黒炎が一息で消し飛んだ。
腕に内包されたエネルギーとグングニルのパワーがぶつかり合い、凄まじいスパークを引き起こす。やがてこれまで誰も砕くことのできなかったユグドラシルの腕にみしみしと光の亀裂が走り、ついには右肩ごとぶちっと千切れた。
「グァァッ!!う…我の……ユグドラシルの力が……」
体から離れた右腕が宙を舞い、それをロキは縋るような目で追う。
ロキの右腕を貫通してなお勢いが死なないグングニルは、そのまま天へと駆け上がる閃光となって猛烈な速度で彼方へと飛んで行ってしまった。
〔Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!〕
〔Transfer!〕
だがこれで終わりではない。乳神の力を得た兵藤が追い打ちをかけるようにミョルニルを携えて真っすぐロキに迫る。
乳神に授けられた力を神器の力で高め、それをミョルニルに一気に注ぎ込む。力がさらに増大化したミョルニルは宿す雷と光をさらに激しいものにしていく。
「これが俺達の……」
乳白色のオーラと荒ぶる神の雷を帯びるミョルニルの大槌をぶんと振り上げる。
「全力だァァァァァァァァァァ!!!」
体の芯から迸る気合とありったけの力を振り絞って、思いっきり振り下ろす。
振り下ろされたミョルニルから破城槌めいた乳白色の雷がロキ目掛けて迸り、力の源であった右腕を無くして激しく弱体化したロキはそれを一身に浴びた。
「ガアアアアアアッ!!我の…北欧神話の……道をォ……貴様らなんぞにぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
凄まじい雷撃に悶えるロキ。憎悪と怒りに満ちた絶叫を轟く雷鳴がかき消す。
オーラを出し尽くして雷撃が途切れると、真っ黒でボロボロになったロキが血上にドスンと落ちた。
〔BGM終了〕
次回、「俺の名は」