ついに、今作の敵を明かします。それと思ったより会談シーンが長くなったので分割します。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
「……」
会議の始まりを凛然と告げるポラリスさんの宣言に俺はごくりと息を呑む。
四大セラフに創星六華閃が2名。これだけのそうそうたる面子が集まる空間に居合わせるのは三大勢力の和平会議以来だ。
集まった彼ら、そしてそれを束ねるポラリスさんのオーラに圧倒され、自分が場違いなのではないかと気まずい気持ちが湧き、自然と表情がこわばる。
「…悠、そう緊張せずともよい。ここにいるものは全てお前が異界の者であることを認知しておる」
「!」
そんな俺の様子を見かねたのか、ポラリスさんが声をかけた。そうなのかと言わんばかりにウリエルさんやガルドラボークさん達を見回すと、無言で肯定の意を示すように頷いた。
「むしろそうだからこそ、レジスタンスに入れたのじゃからな」
ポラリスさんは口元に華奢な指を当て、またも意味深めいた笑みをふっと浮かべた。
俺というイレギュラーがポラリスの敵の想定を超えるという奴か。自己評価にしては過大もいいところだが、彼女にとって俺はある意味ジョーカーとも呼べる存在なのかもしれない。
「会議を始める前に、今一度我らの敵について、紀伊国悠達への説明も兼ねて確認しておきたいがよろしいか?」
と、ザッと揃った全員を見渡すポラリスさん。
「私は構わない」
『ウリエルと同意見です』
と、ウリエルさんとガブリエルさん。ミカエルさんやラファエルさんも同調するようにこくりと頷いた。
「なんだ、デュランダル使いはともかく推進大使にはまだ話してなかったのか?」
粛々とした雰囲気の中一人リラックスし、頭の後ろで手を組んで背もたれにぞんざいに背を預けるレーヴァテインさん。その自由な態度に彼女の気風が表れているように思える。
「いいのではないか?むしろこういう状況だからこそ振り返るのもいいだろう」
そう言って寛容な態度を示すのはガルドラボークさん。
全員の同意を集めたところで、ポラリスさんはうむと頷く。
「今日はの、いよいよ我々の『敵』について話そうと思う」
「…!」
するといつも以上に真に迫った表情で、ポラリスさんは手を組んで俺とゼノヴィアを見据える。
我々の『敵』。今まで頑なにポラリスさんが明かそうとしなかった情報が遂に明かされる。謎のベールに覆われていたそれを直前にし、期待と不安に胸が高鳴る。
だがその前に訊きたかった。
「なんで今まで話してくれなかったんだ?」
今まで何度聞いても答えを寄こさず、口を開かなかったそのわけを。
「まあ妾達の話を聞け、物事には順番がある」
しかしポラリスさんはすぐには答えずにそう言って虚空にスクリーンを映して素早く入力する。するとさらに大きなスクリーンが卓の中央に浮かび上がる。
でかでかと俺たちの注目を集めるそのスクリーンに映し出されていたものは、かつてアルギスと交戦した際に奴が首にかけていたネックレスの十字架と同じ紋様だ。十字架の上からさらにバツを刻むように交差する釘の紋様。
「ズバリ言うと、妾達の敵とは、神じゃ」
「は?」
神。予想に反してまさしくズバッと、わかりやすいストレートな答えに思わず俺は変な声が出た。
「真の神と書いて『真神《ディンギル》』。それが叶えし者たちを操って暗躍する、妾達が追う者達の名」
「時空を超えた領域、『神域《デュナミス》』に住まう不死身の存在。バビロニアやシュメール神話の神の名を持ち、真なる神を僭称する者たちだ。そしてその目的は、奴等が『竜域《エネルゲイア》』と呼ぶこの世界の滅亡だ」
「え…いやちょっと待って、話がデカすぎない?冗談だよね?」
「中東地域の神話の神々…実在していたとは知らなかった」
ポラリスさんとウリエルさんの口から明かされる真実に俺はにわかには信じがたく、ゼノヴィアは静かに驚いていた。
バビロニア、シュメール神話の神。確かにそれに連なる神話はあれど神話に登場する神自体はこの世界に存在していない。神と神話はセットで実在するこの世界においては奇妙極まりない事態であったが、やはり存在していたのかとどこか腑に落ちたところもあった。
そして目的が世界の滅亡、悪役としてはこれ以上ないくらいわかりやすいシンプルな目的だ。なら、それに抗する俺達は正義の秘密結社なんていう所だろうか。
だがいきなりの規模が大き過ぎる敵の情報に信じがたいと思う気持ちもあった。先日はロキという神一柱が相手だったのに対し、彼女らは神話全体に喧嘩を売ろうというのだ。あれだけ苦労した相手と同格の神をさらに複数相手取るつもりなのか。
「冗談ではない、我々は本気で神殺しを成すつもりなのだ」
「いやウリエルさんも!?」
狼狽える俺とは正反対に、ウリエルさんだけじゃなく俺とゼノヴィア以外の全員が真剣な表情でいる。
「小猫からアンドロマリウスがそいつらの手下だと聞いていたが…奴の背後はとんでもない大物だったようだ」
「アンドロマリウスは奴等の眷属だ。叶えし者たちは神が己の力を分け与え、神への疑念を封じられて従順なしもべになる代わりに願いを叶える力を得た者のこと、ある意味信徒と言っていい。だが、奴等にとって叶えし者は自分達の力と影響力を高め、弄ぶだけの道具に過ぎん」
モノクルを触りながら解説したのはガルドラボークさんだった。俺の隣で叶えし者に関しては初耳だったゼノヴィアはなるほどとこくこくと首を縦に振る。
「ディンギルたちは甘言と願いを叶える力を餌に人の心の隙間にすり寄って来る。与えられた神の力の影響で魂を穢された結果、奴等の自分の主への疑念は失せ、深度が深くなればなるほどまさしく人形になっていくのさ。そして最終的には与えられた力に魂が耐えきれず自壊し、焼失する。その信仰心は主に還元され、さらなる力になるんだよ」
言葉にしながらそれが心底気に入らないとばかりにレーヴァテインさんはふんと鼻を鳴らした。
それを聞いて俺が思い出したのは仮面ライダーオーズに登場するグリードだった。人間の欲望に目を付けて暴走させ、メダルと言う己の血肉を生み出させ、最後にはそれをかっさらって力を蓄える存在。その手口と非常に酷似している。
「…そんなものが、神であってたまるか」
彼女の怒りに同調するようにゼノヴィアは拳を握り締めて静かに怒りに震えていた。彼女もまた、聖書の神と言う神を信仰する者だからこそこのように歪んだ神とその在り方が許せないのだろう。
「ディンギルは最上級神を頂点とする階級社会を形成しておるらしい。彼奴等に仇成す我々の主なターゲットはディンギル全体を指揮する最上級及び上級神じゃ」
「…ちなみに、上級と最上級の神はどんな奴等なんだ?」
「我々も全てを把握しているわけではない。特に神や叶えし者たちから最も敬われる最上級の神についての情報は無暗に口にすることすらはばかられるようじゃからのう。じゃが、『裁決』の二つ名を持つ『アヌ』と言う最上位の神がいるということだけは判明しておる」
「そいつがディンギルの大ボスか」
「いや、奴等の口ぶりからしておそらく最上級神は複数いる」
「最上級の神が複数柱だと?」
ゼノヴィアは胡乱気に言う。彼女の信仰するキリスト教は一神教。悪魔になり、最近の北欧神話など色んな勢力や考え方に触れるようになった今でも多神教など理解しがたい部分はあるようだ。
しかし多神教においても最上や主神が複数存在する神話は珍しい。確か、ある神話は三人のトップが…。
「インド神話のトリムルティみたいなものと思えばいい。あそこもシヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマーの三人という複数人の最高神がいるからな」
と、俺の考えを見透かしたように言うガルドラボークさん。例えに出したインド神話は全神話の中でもトップクラスに強い神が多いらしい。味方してくれたら心強いことこの上ないが、そんな彼らがロキのような反乱を起こして敵に回らないことを願うばかりだ。
「…で、その最上級神はどれくらい強いんだ」
やはり気になるのはその実力。頭の実力が分かれば下っ端の実力も大体は知れてくるというものだ。もちろん、オーディン様よりも強い戦神トールが北欧神話のボスじゃないなど例外もあるが。
「さて、妾達も実際に会いまみえたことはないからわからんが、主神クラスのパワーを持つ上級神以上の強さであることには違いない」
「上級で主神クラスだと…」
その事実に軽い戦慄を覚える。もしそうなら、三人の最上級神は一体どれほど強大な敵なのだろうか。
「うむ、上級神に関してはデータが色々とある。映像がある者もおるのでそれを見せよう」
さらにポラリスさんは小さなスクリーンを操作すると、中央のスクリーンの画面が切り替わる。
「まずは上級ディンギルの筆頭」
〈BGM:Gothic Adventure(STO69)〉
数秒のロードの後、映像が始まる。
最初に映ったのは高層ビルが並ぶ街並み。しかし見慣れた都市部のものと比べるとどこか未来的で毛色の違う光景だ。
そしてその街中で、まるで軍隊のように規律よく並んでいるのはビームソード、ビームサイスなどの光学兵器を持ったパワードスーツを纏う少女たち。彼女たちは皆、険しい顔つきで一点を見据える。
その一点とは男だ。鋭い目つきをした精悍な顔つきの男は顔以外の全身を青い鎧で覆い、透き通るような刃を持つ三俣の槍を携えていた。男の顔立ち、鎧、武器、出で立ち、そのすべてが絵画に描かれるような美しさと逞しさを完璧に兼ね備えている。
男と少女らは、大都市の中心部で暫しの間にらみ合いを続けた。戦の幕開けを前に、緊張の機運が高まっていく。
そしてふとしたタイミングで、機運は爆ぜた。少女達の軍勢を前にして男は先制を切り、微塵も臆さず一陣の風になって突撃する。
男の持つ三又の槍の突きは大地を易々と貫いて破壊を巻き起こし、男が手を振るえば砂嵐が巻き起こって少女たちの視界を潰す。手を天に向けて掲げれば、何もない空に大きな水の塊が生まれ、そこから破壊力のある雨が降り注いだ。少女たちは次々と人智を越えた現象を造作もなく起こしては勇猛に吹き抜ける青い暴風を止めること能わず。
そして暴威をまき散らす彼は、まるで相対する少女らは自分にとって取るに足らない小動物であり、それをいたぶることこそ趣味だと言わんばかりに嬉々として蹂躙を楽しんでいた。
「『王威』のマルドゥク。…奴の悪辣非道には吐き気を催すわい」
その男の名を告げるポラリスさんの物言いは激しい嫌悪感をにじませたものだった。
さらに映像が切り替わり、新たな場面へと移る。今度は激戦の跡地のようで、あちらこちらに破壊された建物の瓦礫や破片が転がっていた。
その中で一人別格の存在感を示す者がいた。青いチャイナ服を着た青髪の大海のように澄んだ青い目を持つ美女がビルの瓦礫の上に優雅に佇んでいる。まるで自分はこの破壊され、廃れた世界の者ではないと言わんばかりに一線を画す麗しさと凛然とした佇まいを以て崩れた跡地で対照的な存在感を放つ。
そんな彼女に相対するのは銀髪の女性…見間違えようのない、ポラリスさんだ。マルドゥクの映像の時に映ってた少女たちと同じ様にパワードスーツを纏って、美女と交戦している。
幾何学模様の光る球体を収めた金属の杖を振るって彼女は戦うが、青髪の美女の鮮烈な回し蹴りがポラリスさんの胴を捉えると、軽々とボールのように蹴り飛ばした。
「次に『命慟』のティアマト。人間の文明を軽んじるディンギルにしては珍しく機械とネットワークに興味を示して居るようじゃ」
「ティアマト?五大龍王にもいなかったか?」
「龍王のティアマットとディンギルのティアマトは別人だ。どうして二人は似た名前を持っているのか…たまたま同じなだけか、何か意味があるのかまではわからないがな」
「なるほど…」
そうガルドラボークさんは説明してくれた。もし二人が同じ場に居合わせることになったら名前を呼びにくくなりそうだ。
「映像がないその他の神で言えば、『恵愛』のイシュタル。その他に『天道』のネルガルは戦闘力なら筆頭のマルドゥクを上回る」
「あれ以上の神が…」
大物たちを前にして揺らがない豪胆なゼノヴィアもその事実に眉をひそめる。
「そして、おぬしと深い因縁がある神、『創造』のアルル。おぬしが深海凛と呼ぶ者の正体じゃよ」
「…アルル」
『創造』のアルル、それが凛の体を乗っ取った奴の正体か。その名前を決して忘れまいと、敵意をかみしめるように名を呟いた。
〈BGM終了〉
「特にイシュタルは、今回のロキの反乱と関わっておるようじゃ」
「何だと?」
ポラリスさんがもたらす情報に、驚きの風が吹く。
「ロキが入手したユグドラシルの種の出所はイシュタルがアルルに渡したものらしい。先日交戦した際に奴がそう言っておった」
「イシュタルもこちらに来ているということか?」
『そうは考えにくいでしょう。奴等は次元の壁の影響でこちらに直接的な干渉は出来ない。あくまで叶えし者たちを通じてのものくらいでしかできないはずです。…ますます、アルルがどうやってこちらに来たかが分からない所ですが』
「それに、どうやってユグドラシルを入手したのかもな」
ミカエルさんたちは深まる謎にますます表情を神妙なものにしていく。
だがそれよりも俺には心配なことがあった。心に沸いたその疑念を恐る恐る吐く。
「…勝てるのか?」
あれだけの相手が複数存在し、さらに上位の存在もいるという不死身という特性を備えたディンギル。叶えし者という戦力も考慮すると、果たしてここにいるメンバーだけで勝てるのだろうか。
「ふっ、安心せい、本格的に彼奴等と相まみえるのは年単位で当分先の話じゃ。今は学園生活をエンジョイしながら『禍の団』と叶えし者との戦いに集中するとよい」
疑念を和らげ、安心させるようにポラリスさんは軽く微笑んだ。
「それに戦うのは我々だけではありません。いずれは全ての神話と協力して奴等の討伐に当たります。ポラリス様は表舞台に立った時、ディンギルと戦うためでなく他の神話と対等でいられる関係を持つための準備をしておられるのです」
「舐められるような弱者ではレジスタンスの声など誰も聞かない。故に他の神話にその力を認めさせる必要があるのさ。勿論、あんたも直接神と殺り合いたいだろ?」
と、レーヴァテインさんが交戦的な笑みをポラリスさんに向ける。
「そうじゃな。それに、奴等の不死身を攻略する手段は手に入れておる」
「!!」
その笑みに対し肯定的にふっと笑うと、さらに自信たっぷりだと大胆不敵ににやりと笑った。
「まあ問題はそれをどう制御し、兵器に組み込んでいくかなのじゃがな」
ポラリスさんは半透明のキーボードを操作し、宙に投影されたスクリーンを消す。
「妾はロキとの一戦を交えてから、この話をするつもりじゃった。濃密ではあるがまだ一年未満の戦闘経験しかないおぬしに、いきなり神と戦おうという話は酷じゃと思うてな」
「そういうことだったのか」
それは俺が訊きたかった問いの答えだった。どうしてポラリスさんは彼女の敵を伏せたがるのか。ともすれば敵に利を為すようにも思える行為の真意に納得がいった。
確かにコカビエル戦後にこの話をされたら俺は彼女と関わりたくないと思うし、逆にまた戦意が折れるかもしれない。かもしれないというか、間違いなく折れる。無茶苦茶な敵を戦おうするポラリスさんもポラリスさんなりの配慮をしてくれていたんだな。
普段は真意を露わにしない彼女の奥にある、優しさが垣間見えた気がした。
「質問がある」
そんな中、凛と切り出したのはゼノヴィア。
「あの映像を見るに、お前は以前奴と戦ったみたいだが…一体、どういう経緯で奴等と戦うことになったんだ?」
「…」
質問に、ポラリスさんは表情を硬くして沈黙する。
「……ポラリス様」
彼女のそばに控えるイレブンさんは主を心配するような声をぽつんと漏らす。
ポラリスさんが表情を硬くすること数瞬、内心に渦巻く複雑な感情を押し込めるように瞑目し、様々な感情の色が見えるルビーの瞳を再び開いた。
「…答えよう。妾とイレブンは、悠と同じ異界人じゃ」
そして重い口を開き、答えた。
「!!」
「悠の世界とはまた別の世界じゃがな、そして妾の世界は奴等の侵攻を受け…」
いつものような余裕のないポラリスさんの表情に、昏い影が差す。
「滅んだ」
その言葉に、俺とゼノヴィアの表情は凍り付いた。
次回はいよいよポラリスの過去を明かします(ただし全てとは言っていない)
次回、「箱舟」