ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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前回補足し忘れたので補足しておきます。

スリー…アルタイルの部下。メイン武器はビームウィップ。長髪でいつも眠たそうな顔をしている。感情表現に乏しいが上司のアルタイルにぞっこん。

ファイブ…デネボラの部下。メイン武器はビームハンドガンの二丁拳銃。ウェーブの入ったショートカットヘアー。長らく感情制御回路を埋め込まれていた影響でかなり感情表現が乏しい。

セブン…カノープスの部下。メイン武器はミサイルやビームマグナムなどの重火器(主にレールガンを愛用)。ストレートのロングヘア―。ドジっ子だが頑張り屋。イレブンとはかなりの仲良し。

叶えし者は容姿に変化がないので、判別が難しい。その特性がNOAHの悲劇を招いた。



Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第99話 「討神の決意」

「……」

 

語られたポラリスさんの過去、その壮絶さに俺は言葉を失った。

 

目の前で信頼する仲間を失い、大勢の仲間の命と引き換えに計画は達成されたが生き残ったのは自分とイレブンさんだけ。すべてを救おうと足掻いて、結果誰一人として救えなかった。

 

その時のポラリスさんの絶望は想像を絶するものだろう。俺が彼女の立場なら、とっくに身を投げている。

 

「あの後の妾は荒れに荒れた。何度仲間の後を追おうと自害を試みたことか。まあ全てイレブンに止められてしもうたがな。妾よりもイレブンの方がよほどしっかりしておるよ」

 

「…勿体ないお言葉です」

 

自嘲気味に笑い一瞥をくれるポラリスさんの言葉にイレブンさんは謙虚にも瞑目し、恭しく会釈する。

 

ポラリスさんと行動を共にしたイレブンさんも同じ絶望を味わったはずだ。仲間を失い、人々を救えなかったのはイレブンさんだって同じ。ポラリスさんのように全てを投げ出してもおかしくないのに、思いを押し込めて自分の主を立ち上がらせるところに彼女の芯の強さを感じた。

 

「命からがら滅びゆく世界をイレブンと二人っきりで脱出した妾は異世界を巡り、奴等を倒す術を求めた。…このままディンギルとの戦いから離れ、平穏に暮らす道もあった。じゃが、散って行った仲間のために妾は戦い続ける道を選んだよ」

 

そう語る彼女の目には強い決意だけでなく、懐かしむ色もあった。きっと過去に巡ってきた世界でレジスタンスには加わらなくとも深く関わって来た人たちがいたのだろう。

 

「しかしこれまでそうだったように妾の世界の技術だけでは奴等を葬り去ることは出来ぬ、故に外なる異世界を調査し、エネルギー資源や兵器を回収してはスキエンティアに情報を蓄積させた」

 

「それがGNドライブか」

 

「そうじゃ、やがてたどり着いたこの世界で、妾は四大セラフたち、六華閃の三人の協力を得た。話によれば、ディンギルは過去にこの世界を襲撃したことがあると聞く」

 

「一般には三大勢力の大戦の更に前に起きたとされる戦争だ。…あの戦争は、本当はこの竜域に攻め込んできたディンギルたちとの戦争だったのだ」

 

「何?」

 

確か、ライザー戦前の合宿で聞いた。聖書の神が滅んだ戦争の前にもまた大きな戦争があったと。だがそれは何故か文献があまりなく詳細を知る者もいないとされている。

 

「時空を超えて現れたディンギルたちに対抗すべく、人間を守るために立ち上がった勇者たちと竜、そして各神話の神々が力を合わせた戦い…名を、神竜戦争」

 

「神竜戦争…」

 

その言葉を噛みしめるようにぽつりと呟く。この世界もポラリスさんの世界のようにディンギルの侵攻を受け、立ち上がった者がいたんだな。

 

「我々創星六華閃の先祖はその戦争でディンギルたちと戦った。ディンギルに対抗するために、ウェポンマスターの称号を持つ万能の鍛冶職人が世界各地から集めた優秀で力ある鍛冶職人たちこそ、創星六華閃。ディンギルと戦うことが俺達創星六華閃の真の使命なのさ」

 

「だからここに二人がいるのか」

 

「そうとも、歴代当主たちが果たし得なかった使命を私たちが果たそうってんだ。神を斬る、そのために私はここに来た」

 

にやっと獰猛な笑みを不敵にレーヴァテインさんは見せる。ガルドラボークさん達の話に俺はこの二人がレジスタンスに協力した理由を得心した。

 

この人の態度を見て思うんだが、何となくバトルジャンキーなヴァーリをもっとワイルドっぽくしたような気風を感じる。きっとヴァーリとは馬が合うんだろうな。立場上奴等に同調するようなことはないと思うが。

 

「…どうやって、戦争に勝ったんだ?」

 

俺はここまでの話で生まれた疑問の一つを投げかける。

 

今の世界にディンギルはいない、アルルというたった一柱の例外を除いて。この世界が滅んでいないということはおそらく勝ったと考えるのが自然と思うのだが。

 

「勝ったのではない。勇者の仲間である竜たちが神を神域へと追いやり、竜域と神域を隔てる次元の壁を作ったことで戦争は終わった。…数で言えば竜域側が有利だったが奴等の不死身と圧倒的な力、そして神側に寝返った叶えし者たちによって奴等の力と勢力は増し、かなりの苦戦を強いられたそうじゃ」

 

しかしポラリスさんは険しい顔でかぶりを振った。この世界の神でさえも奴等を完全に滅ぼすことは出来なかったということか。やはり敵は異形の存在するこの世界においても十分な脅威なようだ。

 

だがまだ疑問が一つ残っている。ある意味、戦争の結末以上に気がかりなことだ。

 

「なら、アザゼル先生やオーディン様はディンギルのことを知っているんじゃ…」

 

オーディン様やアザゼル先生、ミカエルさんなど首脳陣は古くから各勢力を率いてきた。当然人類滅亡を謳うディンギルの侵略には対抗しただろうし、こんな大きな出来事を彼らが知らないはずがない。

 

「ところがどっこい、そうじゃないんだな」

 

俺の疑問を打ち消したのはレーヴァテインさんだった。

 

『どうやら神域と竜域を隔てる次元の壁が神の直接的干渉を防ぐと同時に、我々やその時代に生きていた者の当時の記憶を封印しているそうです。これを作った竜にどういう意図があるのかはわかりませんが…』

 

「戦争や神の詳細を伝える文献は全て残存した叶えし者が焼き払ったり処分してしまった。今あるメソポタミア・シュメール神話も、奴等の神域やこちらに来てからの出来事の一部がどうにか残った遺跡や書物に残ったものに過ぎない。そしてなにより果てしない時間の流れが、世界から戦争の記憶と事実を消し去ってしまったのさ」

 

憂いを帯びた表情でミカエルさんとガルドラボークさんが語る。

 

時間の流れが戦争の記憶を消してしまう。それは今の時代にも言えることだ。当時を生きる人間が亡くなり、戦争の悲惨さを身をもって知り、それを記憶する人間がいなくなる。戦争の戦火に呑まれて多くの記録が失われ、残った遺産もやがては風化する。

 

もしかして、竜の中にディンギルに下った裏切り者がいたりしたのだろうか。それなら記憶を封印するという効果があるのも納得がいく。

 

「…さらにじゃ、そこのウリエルは時空間操作能力の他にもう一つの能力を持っておる。ミカエル、ウリエル、話してもよいか?」

 

「構わない」

 

『ええ、彼らにも知る権利があります』

 

ポラリスさんがウリエル様とミカエル様に視線をやると、二人は許可を出すように頷いた。

 

「うむ、ウリエルには『超既視感』と呼ばれる予知夢の能力を秘めておるのじゃ」

 

「予知夢?」

 

「そうじゃ、セラフに就任して以来発現したウリエルの予知夢の能力は未来に起こる出来事を予測できる。コカビエルやディオドラ、先日のロキの反乱も全て彼は予測していた」

 

「何だと!?」

 

「ウリエルさんって本当にチートだな…」

 

揃って驚くのは俺とゼノヴィア。時間を操る能力に予知夢、これは天界版超越者と言われるのも納得だ。そんな能力があるなら戦争はもちろん外交で大きなイニシアティブを取ることも可能だろう。それなのに天界が三大勢力の中で覇権を握らなかったのは何か理由があるのか。

 

「…その能力があれば、天界が世界の覇権を握ることもできたんじゃないのか?」

 

「そう都合よくはいかぬよ。予知夢は100%正確ではない。特異点やイレギュラーの介入で未来は絶えず変化するため現実とは細部が異なる場合もある。だとしても非常に近しい現象が必ず起こる」

 

「それに何より、天界が覇権を握れば今の和平の流れには持っていけなかった。天界への反感が禍の団並みのイレギュラーな敵も発生させるかもしれないし、脅威に対抗するには今のような真の意味での協力が必要だ。故に私は予知夢で予測した未来への過度の干渉を控えてきた…余程の出来事でない限りはな」

 

二人の説明で納得した。今の状況を作りたかったからこそ、ウリエルさんは予知夢で未来を知りながら他勢力との関係を荒立たせるような表立った行動は控えてきたんだな。

 

未来を変えるというポラリスさんが言っていた特異点の特性は未来を予測するウリエルさんの予知夢があったからこそ証明できたと考えてよさそうだ。未来が分からなければ特異点が未来に作用する運命力を持っているなんてわからないからな。

 

しかしポラリスさんは厳しい表情で、超既視感を理解した俺たちに更なる衝撃を与える次の言葉を放つ。

 

「その予知夢によると、ディンギルたちは近い将来この世界に再び降臨する」

 

「!!」

 

衝撃を受ける俺達は軽く目を開く。

 

それはつまり、また戦争が起こるというのか?コカビエルがエクスカリバーの事件を利用して引き起こそうとした三大勢力間の戦争をはるかに超える規模の、全世界全勢力を巻き込んだ戦争が。

 

「私は夢に見た。彼女の映像にいた神たちが現れ、雷が天界を破壊し、禍々しい闇が冥界を飲み込み、輝く流星が各神話世界に降り注ぐ光景を。それに巻き込まれる者の中には私や君たちが知る者も大勢いた。…震えが止まらなかったよ。あんな光景を決して実現させてはならない」

 

ウリエルさんは今でもその光景を鮮明に思い出せると言わんばかりに悲し気な表情で俯きがちに語る。

 

未来を予測できる予知夢の力。いい未来を見れば、前向きに生きる希望になる。だがそれが悪い夢、それも世界の滅亡だったなら恐れは相当なモノだろう。いずれくる破滅の未来、自分一人では回避しようのないもの。その到来を恐れ、一人孤独にその恐怖を抱えながら生きていかなければならないのだから。

 

「奴等は半端に終わった戦争を根に持ち、前回以上に竜域への憎悪を滾らせてこの世界に再度戦争を仕掛けにやってくる。奴らが来るとわかった以上、妾が戦わない理由はない。故にこの世界を妾の因縁を終わらせる決戦の場に選んだ」

 

ウリエルさんの話を継いで話すポラリスさんが強い決意を示すようにバンと卓を叩き、ばっと立ち上がる。

 

「傲岸不遜たる神々を打倒し、この世界を破滅の運命から解放する。それこそが、我らがここに結束した目的」

 

拳をぎゅっと握り締め、力強く硬い決意を炎のように宿したルビーのような瞳を輝かせて彼女はここに宣言する。その所作の全てに、彼女が内に秘める強い思いが反映されている。

 

「…以上が、妾の持つ奴等の情報じゃ。何度も言うが、我々はディンギルと戦うための戦力を欲しておる。今竜域で活動している奴等の企みを挫き、いずれはディンギル本体を叩く。そのためにお主たちの力が必要じゃ」

 

俺たちの力を求めるように手をすっと伸ばす。

 

「ゼノヴィア、紀伊国悠。これは妾達のわがままなのはわかっておる。じゃがどうか、私たちと共に戦ってはくれないだろうか」

 

「…」

 

そう言ってこの場を取り仕切り、レジスタンスのリーダーたる彼女は熱意を真っすぐぶつけるように深々と俺達に頭を下げた。

 

ポラリスさんの過去を聞いて、今まで見えなかった彼女の腹の内は見えた。彼女が戦う敵と、彼女を突き動かす原動力。神と戦おうとする彼女を動かしてきたのは仲間を奪った敵への復讐心とも呼べるし、散って逝った数百数千を超える人々の思いだ。

 

途方もないものを彼女は背負ってここまで来た。一体誰が、彼女を否定できるだろうか。彼女の胸の内、辿って来た道を知った今、俺の思いは定まった。今までのような迷いも隠し事ばかりで肝心なことを話そうとしない彼女への疑念もない。

 

「…つい最近やっとの思いで神を倒したばっかなのに、今度は一神話に喧嘩を売るとは。まんまと乗せられてしまったわけだ」

 

ふうと息を吐いてやれやれと肩をすくめた。

 

流石に今後ロキのような神クラスを相手にすることはもうないだろうと一安心していたのに、今度は複数の神と戦う?ブラック企業と言うかブラック組織もいいところだ。心休める暇も与えてくれないとは俺が信じてみたいと思った人は想像以上に鬼畜らしい。

 

「でも、俺は戦う。どうせ奴等は兵藤たちの敵だし、何より凛は奴等の道具にされている…放っておく道理はない」

 

世界の滅亡を目的にする輩が兵藤たちを相手にしないはずがない、というよりは既に兵藤たちを特異点だのと言って攻撃を仕掛けている。それに、アルルという神が俺の妹の体を好き勝手に暗躍の道具に使っていることも分かった。

 

既に奴等はラインを越えている。俺が倒すべき敵だと認識し、潰すためのラインを。相手がいかなる存在か知った今でも俺のやることは変わらない。平穏を脅かす敵は潰して、凛を取り戻す。

 

「俺の心は一つ、ディンギルを潰す。それだけです」

 

それが俺の意思。未来に渦巻く暗雲を払い、滅びの未来に雷霆を投げて木っ端微塵に砕くための鋭い矛。それと共に俺は立ち向かうと決めた。

 

「私はディンギルとやらを神だと認めるつもりはない。悪意を持って信徒を狂わせ、自分の餌にし、あまつさえ世界を滅ぼすような連中は神を名乗るのもおこがましい。このデュランダルで、人の心を弄ぶ邪悪な輩は斬り捨ててやる」

 

俺の決意表明にゼノヴィアが続く。まだ冷静だった俺とは反対に彼女は怒りに震えていた。異界の神の悪辣な在り方は聖書の神を信仰するゼノヴィアの怒りに火を付けたようだ。

 

「君の話で決心がついた。私も共に戦おう」

 

義憤に燃え、決然とゼノヴィアもディンギルへの敵対を宣言する。

 

ディンギルとの敵対を改めて宣言した俺達の言葉に虚をつかれたような表情を見せるポラリスさんは一瞬目を伏せるとふっと微笑んだ。

 

「…ありがとう、その言葉で妾は救われたよ」

 

それはいつものからかうような笑いではなく、もっと晴れやかな笑みだ。普段は見えない彼女の本心が、その言葉と微笑みに表れていた。

 

「…あー、ところで、今後のことについて協議するんじゃなかったのかい?」

 

そんなこんな言っていると、咳払いをしてやや気まずい感じでガルドラボークさんが会議の再開を促す。

 

ポラリスさんやウリエルさんの話を聞いててすっかり会議のことを忘れていた。ポラリスさんも熱が入っていて頭からすっかり抜け落ちていたのか、彼の言葉に思い出したように同じく咳払いをした。

 

「…んん、では話を始めよう。じゃがその前にもう一つ、議題がある」

 

ポラリスさんが手元のキーボードをたたいて再びスクリーンを投影する。映し出されこの場にいる全員の視線を集めるのはどこからか撮影した先日のロキの戦い、光の流星が俺の下に落ちてくる映像だった。

 

「先の戦いで観測された、乳神でもない別の異界の波動じゃ。状況を鑑みるに悠が手にした新たな力はそれによりもたらされた物のようじゃが…」

 

「その件について、話しておきたいことがあります」

 

話から流れるようにポラリスさんが俺に視線を移したのを受け、俺は話を切り出す。あの戦い以来報告をしていないから、VIPたちも集まったこの場で話すのが良いだろう。アザゼル先生は部長さん達から報告を受けて知っているだろうが。

 

それから俺とゼノヴィアは、俺たちが精神空間で出会ったあの銀色のドラゴンについて全てを話した。奴が凛に取りつくディンギルを邪悪と呼んだこと、俺を転生させた女神と繋がりがあること。

 

ポラリスさんたちは真剣に、かつ興味深そうに話を聞いてくれた。ポラリスさん達にとってこの出来事もイレギュラーだということだろうか。

 

その全てを話し終えた後、皆は一様に難しい表情を見せた。

 

「なるほど…妾の予測は正しかったのじゃな」

 

『それにしても、彼の転生に関与した女神を関りを持ちディンギルに仇成すドラゴン…何者でしょうか?』

 

「ディンギルを神域に追いやったドラゴンの一体…だと俺は思うが」

 

「ま、味方ってことで確定していいんじゃないか?」

 

ポラリスさんたちはそれぞれ思ったことを唸りながら述べる。あっけらかんとしたレーヴァテインさん以外は、新しい情報をかみ砕き、それぞれ思慮するような神妙な表情をしている。

 

これを話したうえで、俺は一つの問いをポラリスさんに投げかける。

 

「…ポラリスさん、あなたはアルルをどうしようと考えていますか?」

 

俺は恐る恐る訊ねた。ポラリスさんにとってディンギルのアルルは憎き敵だ。自分の仲間を大勢殺し、滅ぼそうとした許されざる大敵。何としてでも復讐したい、殺してやりたいと思うのが普通だ。

 

それにあんなポラリスさんの過去を聞いた後だ、最悪の返事が返ってくることも十分に予想しうる。だがそれでも、俺は確かめたい。妹を取り戻すという、俺が戦ってきた理由のためにも。

 

「…確かに、今の奴は大きく弱体化し、全盛期とは程遠い状態じゃ。人の身である以上は不死も失われている可能性もある。上級神の一柱を討つにはこれ以上ない千載一遇のチャンス…」

 

質問に対し、どこか昏い影が宿った表情でポラリスさんは答える。

 

やはりディンギルに強い敵意を持つ彼女を説得するのは難しいか。自分の過去を語り、その敵意も強くしたことだろうし…タイミングがよろしくなかったか。

 

「じゃが、この一件はお主に任せようと思う」

 

「!!」

 

しかし表情に差す影を打ち消す思わぬ彼女の答えに、俺は目をハッと開いた。

 

俺の妹ごと奴を殺すという返答も覚悟していたので、俺にすべてを任せるという判断には大いに驚かされた。俺の事情があったとしても、自分の手で同胞を殺し尽くした敵を倒したいという思いが勝るはずだろうに。

 

「…どうしてですか?」

 

「マルドゥクやティアマトならともかく、アルルとは憎きディンギルである以外は因縁があまりなくてのう。もちろん潰してやりたい気持ちはあるが、おぬしにケリを付けさせる方が妾としてもすっきりする」

 

「えっ」

 

…なるほど、ポラリスさんはディンギルの中でもその二柱を憎んでいるんだな。それ以外のディンギルは脅威としてみなしてはいるがマルドゥクとティアマトの二柱は個人的感情も混じって敵意が強いと。アルルに対しては個人的感情が薄くまだ精神的余裕があるから、俺に任せる判断を下したのか。

 

「ロキとの時は久しぶりに出くわしたディンギルということでつい熱くなってしもうたが、やはりこの件の対処はお主が適任じゃ。モチベーションも実力も十分。妾はお主に任せるよ」

 

そう言って薄く笑むと今度は肘を突いて両手を組んだ。

 

「おぬしらはどう思う?」

 

と、ざっと見渡してセラフや六華閃達に話が振られる。

 

「私は君の意思を尊重する。身内を助けたいという思いは痛いほどわかるからな」

 

「私もです、是非妹さんを助けてあげてください」

 

ウリエルさんとラファエルさん、この二人は即答で快諾の意を示し、それだけでなく応援の言葉すら口にしてくれた。。

 

『彼がアルルを討ち、妹さんを解放すれば我々と彼の目的、両方を達成できる。一石二鳥というものです。これまでの実績も踏まえても十分でしょう。私は彼に一任します』

 

『えっと、ミカエル様達が同意するなら私も同意しまーす』

 

ミカエルさんやガブリエルさんも先の二人同様に快諾する。しかし4人の中でガブリエル様だけフワフワした理由で任せてきた。任せてくれるのはありがたいんだが、かなり大事な案件なのにそんな調子で大丈夫なのだろうか。

 

「皆さん…」

 

理由はともあれ、こんな重大な案件に快くOKを出してくれるセラフの方々に心打たれ、つい感極まる。なんというか、こんなに寛大ならゼノヴィアたちが崇めるのも分かる気がする。たまには俺も彼女のお祈りに付き合ってあげるべきかな。

 

「うむ、では…」

 

セラフたち全員が賛成の意を示したことでポラリスさんが話を締めようとしたその時。

 

「俺は反対する」

 

「私もだ」

 

空気を凍てつかせる非常な二つの声が上がった。




次でレジスタンス会議は終わりです。

神竜戦争は鉄血の厄祭戦みたいな感じを意識していたり。

次の話でガルドラボークの人となりがどういうものかわかると思います。

次回、「世界の重み」

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