ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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ラグナロク編はこの回を入れて3話で終わります、今度こそ本当に。

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第100話 「世界の重み」

纏まりかけた会議に異議を唱え、注目を浴びるのは二人の赤髪の男女。ディンギルの討伐を使命とする武器職人の名家、創星六華閃のレーヴァテインさんとガルドラボークさんだった。

 

ぴたとガルドラボークさんは手を組みなおすと、モノクルをかけた赤い左目でポラリスさんを覗く。

 

「人間の体で活動しているということは、今奴等はそうせざるを得ないほど力を失っていると見ていい。奴等特有の不死身も失われている可能性もある。これは絶好の機会だ」

 

「おぬしの言う通りのことを妾は推測しておる、じゃが…」

 

「ならなおさらだ。彼の私情と世界の命運、どちらが重いかは火を見るより明らかだ。これ以上変に動かれてかき乱されては困るし、上級ディンギルを一柱潰せるまたとない機会をふいにするのは愚行に他ならない」

 

「創星六華閃としてもレジスタンスとしても、ディンギルを討つのは最優先の使命だ。私には世界に仇成す神を倒すエレイド家としてのプライドがある。人間の体かつ大きく弱体化している今はガルドラボークも言うように千載一遇のチャンスだ。私は逃したくないね」

 

と、二人は神妙な表情で各々の意見を述べる。

 

「紀伊国悠」

 

ふとガルドラボークさんの鋭い眼光が俺に向けられる。値踏みするような、それでいて心を射抜くような鋭さに俺は一瞬息が詰まる。

 

「ここにいる者は全て、世界の命運の重みを理解している者達だ。天界勢力のトップ、自分の世界を失った者…君に彼らが背負うその重みが理解できるか?」

 

「!」

 

その問いかけがさらに言葉を詰まらせ、不意に集まった面々を見渡す。

 

ミカエルさん達4大セラフ、天界を統べ天使を率いる彼らは世界一の宗教人口を誇るキリスト教徒を導く役割も持っている。

 

創星六華閃、6家の内ディンギル討伐の使命を忘れず、絶やさず繋がれた2家の当主である彼らは他の4家が忘れ、今までの当主たちが為し得なかった使命の完遂に強い意欲を示している。

 

ポラリスさんとイレブンさんのレジスタンス、自分達の生きてきた世界を破壊された彼女らは世界の滅亡がどういう物なのかを身をもって知っている。

 

そんな彼らと比べて自分は一体何だ。俺が見ているのは身内の平穏だけ、世界のことを考えている彼らと比べれば何と視野の狭いことか。

 

セラフやポラリスさんと肩を並べる彼の厳格な問いが、お前は何も知らない小童だと俺を強く否定する。

 

「君の妹を優先した結果、世界が滅ぶようなことになればどうする?君はグレモリーの仲間や友人たちにどう顔向けできる?世界と自分の妹を天秤にかけ、同じ重さだというのだとしたら君は…」

 

モノクルの鏡面に一瞬光を輝かせ、彼は躊躇いもせずにはっきりと言い放つ。

 

「とんだシスコン、もっと言うならエゴイスト、愚か者だよ」

 

「それは…!」

 

軽蔑の念のこもった言葉、だがもっともな正論でもある彼の意見に俺は何も言い返せなかった。

 

俺は凛を取り戻すために戦おうとして来た。だがそれは傍から見れば一個人の願望に執着しているだけの、世界をよくしようという大義のない思いでしかない。大義を重んじるべきだとと言わんばかりの彼の言葉は今の俺に痛烈に刺さった。

 

「悠を馬鹿にするのか!?」

 

ガルドラボークさんの言葉にゼノヴィアが青筋を立てて食って掛かる。

 

「私は彼を馬鹿にするつもりはない。ただ、この場にいることの意味を理解していないようなのでね。その様子だと、君も彼と同じ様だな」

 

「貴様…!」

 

「よせ、ガルドラボーク!」

 

向けられた怒りを軽くいなすように飄々とした態度を崩さぬガルドラボークさんにますます怒りをヒートアップさせるゼノヴィア。その様子を見かねたウリエルさんも介入する。

 

「止めるなウリエル。よりによってあんたが賛成するとは思わなかった。あんたなら絶対にポラリスの意見を反対するはずだ。どうしてだ?」

 

「……」

 

ウリエルさんは答えない。何かを言おうとはしたがそれを押し込め、口を硬く結ぶ。だがその様子がガルドラボークさんに何かを得心させた。

 

「…いや、ディンギル関係ではなくそっち関係か。なるほど、道理でラファエルもあんたと同じ賛成を掲げるわけだ。前々からあんたのやり方は甘いとは思っていたがここまでとはな」

 

「…!」

 

彼の言葉が平静を保っていたウリエルの心に火を付けた。いよいよ空気が張り詰め、天界随一の戦闘力を基彼のオーラが弾けようとしたその時。

 

「やめろ」

 

冷徹な威厳を伴う低い一声が、緊張を一息にて吹き飛ばす。その一声を放ったのはポラリスさんだった。

 

「おぬしたちは妾の家で戦争でも始めるつもりか」

 

ぎろりとにらみを利かせた彼女の眼差しを受けて、ウリエルさんは渋々怒りの槍を引っ込め、ガルドラボークさんは鼻を鳴らして口を閉ざす。

 

「今の彼女のオーラ…どんな雪国よりも寒くて昏いものだった。一瞬感じたウリエル様にも劣らないパワーだ…」

 

ぽつりと少し恐れの入り混じった様子でゼノヴィアは言う。もしかして、今のはポラリスさんの本気の片鱗か…?

 

この場を取り仕切るポラリスさんの目が細くなる。

 

「ガルドラボークの言い分も最もじゃ、妾達が目指すべきはディンギルの打倒。じゃが、今までの実績を踏まえ悠の事情も十分に一考の余地はある。故にこの場を収めるためにも、ここは折衷案を出す」

 

「!」

 

いつになく厳格な声色でこの場を制する彼女の目線が俺に流れる。今までに見たことのない彼女の冷たい瞳にぞくっとするような感覚を覚えた。

 

「悠、おぬしに一か月の猶予をやろう。来月、10月末までじゃ。その間におぬしがアルルを対処できなければ、妾達は容赦なく彼女ごと奴を消す」

 

「そ、それは…!」

 

その提案は突然で、残酷だった。まるで執行猶予のような彼女の提案に俺は言葉を失う。一か月、それまでに彼女を何とかしなければガルドラボークさん達が問答無用で彼女ごとアルルを殺す。

 

ポラリスさんを含めここに集まった者は全員、ディンギルの脅威に対抗し世界の平和を守るために集まっている。

ポラリスさんが俺の事情に関して思うことがあるのは今までの言動で分かっている。だがやはり、優先すべきは俺の事情ではなくディンギルなのだ。一か月という期間は彼女なりの最大限の配慮なのだろう。

 

優先すべきはディンギルの打倒、もちろん俺も十分に理解している。ガルドラボークさんに己の甘さを指摘され、痛いほど思い知った。ディンギルを倒さなければ未来で多くの人が傷つく。今の彼女を倒さなければ、これから多くの被害が出る。そうなる前に一刻も早く彼女を止めるか、倒さなければならない。

 

凛を取り戻したいのはやまやまだだが彼女が今、世界ひいては未来の脅威になっているのも事実。だから…。

 

「…わかり、ました」

 

俺には彼女の提案を拒否する選択肢はない。断腸の思いで俺は彼女の提案を受け入れた、いやディンギル討伐を目指すこの面々の前では受け入れるしかなかった。

 

だが俺は凛のことを諦めたわけではない。まだ一か月という猶予がある、すぐに殺されはしない。それまでに俺が対処できればいいだけの話だ。ただ、今まで以上に緊張感を持たなければならないし、何より次に遭遇した時は絶対に機を逃してはならない。

 

「おぬしもそれでよいな?」

 

賛否を訊ねる一瞥がガルドラボークに向けられた。

 

「…あんたも甘いな。本当は今すぐにでも彼女を殺したいだろうに。よほどソルとやらの二の舞が怖いと見える」

 

ふっと彼は薄笑い交じりに嘆息する。ソルと言えば、ポラリスさんの話に出てきた昔の仲間か?彼か彼女かは知らないが一体過去にポラリスさんと何があったのだろうか?

 

「その話はよせ。ガルドラボーク、レーヴァテイン、この提案に賛成か、反対か?」

 

「…いいだろう、その間に妹さんを助けられるといいな」

 

「私は神をぶった切ってみたい。ただそれだけだ」

 

それっきり二人は何も言わず、口を結んだ。だがただ不満と言うだけでなく一応自分達の納得のいくところに落としどころがついて若干の満足な様子も見受けられた。

 

「セラフたちはどうじゃ?」

 

「…私から言うことは何もない」

 

「私もです。…一か月の間に彼の妹さんをどうにかすればよいのでしょう?」

 

『特に意見はありません。ガルドラボークの言う通り、ディンギル討伐は最優先事項。一定の期間を設けるのが妥当だと思います』

 

『えっと、私もミカエル様と同じくです』

 

セラフたちもポラリスさんの折衷案に反対はせず、あっという間に賛成は集まる。

 

「これで全員の賛成は集まった。妾の案は可決とする」

 

彼女の一声でようやく張り詰めた空気が一旦の落ち着きを見せ始める。

 

ガルドラボークさんとウリエルさんが派手な喧嘩を始めるかと思ったし、一か月の猶予を付けられるわでこの数分で滅茶苦茶肝が冷えた。しかも会議はまだ始まったばかり、まだまだこんな場面が出てくるかと思うと

 

「…悠、妾は何も一人で凛を助けろとは言わない。可能な限りは妾も手はないか考える」

 

先のような冷たさすら感じる表情を瞬きのうちに柔らかくした彼女が語り掛けた。

 

「あんなことを言った後じゃがこれだけは忘れないでほしい、妾はおぬしの味方じゃ。おぬしを傷つけるような真似は決してせんよ」

 

先の提案のように突き刺すような調子ではなく、普段聞きなれた優しい声色でポラリスさんはそう言ってくれた。彼女の最大限の配慮のこもった言葉が緊張に縛られた俺の心を優しくほどいていく。

 

「紀伊国悠、私も君に協力したい。私とラファエルは君の味方だ。何かあれば忙しい身ではあるが我々を頼ってくれ」

 

「ちょっとウリエル…んん、私もあなたに協力したいと思っています。忙しいながらも少しでも助力したいです」

 

「ウリエルさん、ラファエルさん…!」

 

さらにポラリスさんに続いてなんと四大セラフのウリエルさんとラファエルさんまでもが積極的な助力を申し出てくれた。

 

忙しいだろうにわざわざ俺のために助力を願い出てくれるとは…どうしてそこまで俺に尽くそうとしてくれるのかは知らないが、受けられる助力は積極的に受けていきたい。

 

ポラリスさんとウリエルさん、そしてラファエルさん。この三人は俺の味方だ。彼女らの心強い助力の申し出は俺の心に希望の火を灯してくれた。

 

「甘々なメンバーとリーダーなことで……まあいい、次の議題に移ろうじゃないか。最重要事項の対ディンギル用の兵器開発の進捗はどうなっている?」

 

俺の助けになろうとしてくれる三人の様子にやれやれと呆れ気味に息を吐くガルドラボークさん。折衷案に落ち着いたとはいえ俺の事情云々に関してはまだ不満がある様子だ。

 

「今回のアルルの介入を受け、急ピッチで開発を進めておる。もうじき、試作型が一台ロールアウトするので近いうちにテスターを使って実戦投入を検討中じゃ」

 

「おお!」

 

「ほう」

 

『それは大きな進歩ですね』

 

彼女の朗報にウリエルさん達は先ほどの緊張した空気での表情とは打って変わって明るい反応を見せた。

 

対ディンギル用兵器…今までに多くの異世界を巡ってきた彼女が作り上げる兵器とはどれほどのものだろうか。俺も興味が沸いてきた、早くその試作型とやらを拝んでみたいものだ。

 

『テスターは誰が担当するのですか?』

 

「すまないが、テスターの情報開示はまだできない。一つだけ言えるとすれば、ディンギル共の意表を突ける人選であるとだけ言っておく」

 

ディンギルの意表を突ける?つまり、それはまた新たな協力者、レジスタンスの新メンバーを既に用意しているということか?

 

「わかった。引き続き開発を頼む」

 

「あんたの腕に、人類の未来がかかってると言っても過言ではないな」

 

「責任重大よのう…それも慣れたが」

 

ウリエルさん達が送る期待の眼差しにふうと彼女は嘆息する。過去に人類の存亡をかけた戦いを繰り広げてきた彼女にとっては彼らが向ける期待などもはや当たり前のものに感じるみたいだ。

 

「神祖の仮面の調査はどうなっている?」

 

「それか…」

 

次に話題の種になったのはウリエルさんの問い。神祖の仮面と言えばディオドラが言っていた…というか、なぜそれが今、この場で話題になるのだろう?

 

「それも知っているのか?」

 

「ああ、旧魔王達が残した遺産じゃろう?ここにいる四大天使たちが警戒しておってのう、特に凶魔王サタンの復活を」

 

「先代ウリエル様とラファエル様を殺した悪魔か」

 

と、複雑な表情で呟くゼノヴィア。四大セラフの二人を殺したとされる強大な悪魔。悪魔に転生し、今の魔王とも関わったとはいえ信徒である彼女からすればあまりいいものではないだろう。

 

「一つの所在が日本の関西地方にあるというところまで絞り込めた。イレブンが調査中じゃ、他はまだ手掛かりなしの状態じゃな」

 

「関西…」

 

よりによってそんな物騒な代物が日本にあるとは。しかも近々行く予定の関西に…これはまた、面倒ごとに巻き込まれるか?

 

「おぬし、そう言えば修学旅行が京都じゃったのう」

 

なんて考えていたら内心を見透かしたようにポラリスさんが言う。

 

そう、俺達駒王学園高等部2年生の修学旅行の行き先は京都。最近のクラスメイトは期待とワクワクに胸を高鳴らせ、京都で何する何買うどこ行くの話題で持ちきりだ。

 

「京都は確か日本有数のパワースポットが集う街だったな。案外そこに隠されていたりしてもおかしくない」

 

『可能性としては十分にあり得ますね』

 

と、推測を口にするのはガルドラボークさんとガブリエルさん。

 

お偉いさん二人に言われるといよいよ折角の修学旅行でトラブルに巻き込まれるんじゃないかと疑ってしまうじゃないか。俺は前世も入れて二度目だが、普通は人生一度の楽しいイベントに戦いを持ち込まれるのはごめんだ。

 

「仮面を解析すれば、より強力な兵器開発に役立てるんじゃないか?」

 

「ガルドラボーク」

 

何気ないガルドラボークさんの一言が再び場を凍らせる。静かに名を呼び一番強い反応を見せたのはウリエルさんだった。静かな怒りを表情に込め、ガルドラボークさんを睨む。彼の怒気がオーラになり、空間をピリつかせた。

 

「そう怒るなウリエル。確かにあんたの事情を聞けばそうなるのも無理はない。重ねて言うが我々の最重要の目的はあくまでディンギルの討伐だ。利用できるものはなんでも利用すべきだと俺は思うがね」

 

だがガルドラボークさんは彼の怒りなど意に介さぬ様子で冷静な意見を述べる。ガルドラボークさんの言い分ももっともだ、だがウリエルさんは何故神祖の仮面にあそこまで強い反応を…?

 

「しかしあれは…」

 

「仮面はさておき、現時点で我々が為すべきことは深海凛に取りついた上級ディンギルアルルと奴が率いる叶えし者たちの討伐じゃ。奴等にかき乱されては敵わん…奴等の介入がおぬしらやグレモリー眷属の更なるパワーアップをもたらす可能性もあるが、不穏なイレギュラーの排除が優先じゃな」

 

ウリエルさんが納得いかないと言わんばかりに食いつこうとした矢先にポラリスさんがやや強引に話題を変えることでまたも緊張した雰囲気を吹き飛ばす。

 

また言い争いになっては会議にならない、そうしたポラリスさんの意図を読んだか、渋々ながらもウリエルさんはふんと鼻を鳴らして怒りの矛を収めた。

 

「確認された叶えし者は元七十二柱のアルギス・アンドロマリウス、その他にも政財界で多くの悪魔がディンギルとの繋がりの疑いがある」

 

「ま、叶えし者は欲に憑かれた者だから悪魔が多いのは当然だな。それを言えば堕天使もだが」

 

と、当然のように流れる議論に俺は一つの疑問を投げかける。

 

「待ってくれ、記憶を封印されているならどうして叶えし者が残っているんだ?」

 

次元の壁で戦争の記憶が封印され、ディンギルがいなくなったのならなぜ戦争当時からの叶えし者がまだ世に残っているのか。彼らの記憶からディンギルは消えたはずではないのか?

 

「封印は完ぺきではなかったのだ。ごく一部の神や神に深く魂を穢された叶えし者は封印の影響を受けていないらしい」

 

「今の所、インド神話のシヴァ神は記憶を保持している可能性が高いです。それと…オーフィスも」

 

補足してくれたのはウリエルさんとラファエルさんだった。

 

シヴァ神とオーフィス、世界の強者ランキングのナンバーワンとツーだ。世界を混乱させるテロ組織のトップ、オーフィスとそれに次ぐ力を持ちながら表立った動きは一切見せないシヴァ神。大戦から遥かな時が過ぎた今、彼らはかつて世界の脅威となったディンギルをどのように見なしているだろうか。

 

「ま、記憶が残ってる奴等の大半が叶えし者だがな。今冥界に残っている叶えし者は誰もかれも、古い悪魔だ。戦争時にディンギルの甘言に乗って富と地位を手に入れ、引き換えに神へ魂を売った老害。思想的にも社会システム的にも全員を潰さない限り、現魔王達の目指す改革はままならないだろうな」

 

ガルドラボークさんは欲にくらんだ老害たちによって動かされている冥界の現状を口にしながらも不快そうに眉を顰める。

 

悪魔は欲に生き、欲を叶えるもの。それは部長さんが言っていた悪魔の生き方だ。どんな願いもかなえるというディンギルの甘言に乗らないはずがないか。

 

二重の意味で厄介だな。ディンギル側に情報が流れるだけでなく彼らの表立った活動が今の魔王様たちにとって大きな障害になっている。どうにかして彼らを失脚に追い込むことは出来ないだろうか。

 

『彼らは既に表向きには社会的地位を築いていますから、下手に潰せば悪魔社会に混乱を招きます』

 

「彼らの攻略は一度後回しにするほかないな。我らセラフが口出しすれば和平を結んでいるとはいえ過度の内政干渉になってしまう」

 

「とはいえいずれは潰すべき相手だから、リストアップはしているけどな」

 

強い懸念を示すミカエルさんとウリエルさんとは対照的に好戦的な笑みを見せるレーヴァテインさん。もうこの人は戦うことしか頭にないのでは…?

 

「ま、その他の叶えし者は確定し次第、俺とレーヴァテインが始末している。とはいえ奴等はよほどのことがない限り尻尾を出さないし、難儀しているがな」

 

やれやれと息を吐くガルドラボークさん。深々とため息を吐くその姿に日頃の苦労が強く表れているように見えた。

 

「うむ。では、叶えし者の対処は引き続き六華閃に任せる」

 

「ああ、こそこそ動き回られては困るからな。粛々とやらせてもらうさ」

 

「六華閃と言えば、他の3家の交渉はどうじゃ?彼らを引き入れることは出来そうか?」

 

「一番可能性があるのはジヴァン家だな。あそこは既に多くの大戦の情報が失われているが、現当主は俺達の呼びかけに前向きな反応を見せている。上手くいけば近いうちにもここに合流できるかもな」

 

「ほう、残りの2家は?」

 

「だがスカラー家はダメだ、前にも言ったがあいつはレーヴァテイン以上のバトルジャンキーで自分のために自分の武器を作ることしか頭にない。天峰家は日本政府や五大宗家との関係を重視するあまり余所の六華閃とはほぼ関係を切った状態でこちらの呼びかけにうんともすんとも応じない」

 

ガルドラボークさんは首をやれやれと振りながら応じない2家の現状を語る。

 

自分が戦うために自分の武器を作る武器職人か。六華閃は武器を作る腕前も扱う腕前も一流の鍛冶職人、強さは一流だが本人の性格は何ありと言ったところか。

 

そして天峰家、確かラファエルさんが夏に行われたシトリーとグレモリーの試合でシトリー側に提供した刀を作ったところだったな。天峰家は日本刀の鍛冶職人の名家。その当主はかの有名な神剣、天叢雲剣の名を継承する。日本で異形に関わるとなれば、五大宗家と同様にいつかは関わるときが来るかもしれない。

 

「ラファエル、あんたは叢雲とコネがあるんだろう?あんたから働きかけることは出来ないか?」

 

「彼女と個人的な付き合いはありますが、この交渉は彼女だけでなく天峰全体を巻き込むものです。保守的な思想を父から受け継いだ彼女を説得するのは難しいでしょう」

 

「やはりダメか…」

 

「サイン家はどうなっているんですか?」

 

俺が気になったのは。彼の口ぶりだと以前はレーヴァテインさん達同様にレジスタンスに協力していたようだが。

 

「先も言ったが前当主が死んだことで当主不在の状態だ。あの人に世話になった手前、俺が一人娘の後見人になるつもりだが…13歳だ、戦うにはまだ幼すぎる。しばらくは様子見を決め込む」

 

サイン家の現状を報告するガルドラボークさんは先ほどまで見せていたどこか冷徹な面もある姿とは違い、前当主を失ったサイン家の今を憂い、前当主の死を悼む沈痛な表情を見せる。

 

レーヴァテインさんもサイン家の話になるとあの豪胆な雰囲気が少し鳴りを潜めたようで、彼女の表情が神妙なものになっていた。セラフたちも何か思うところがあるような面持ちで、死を悼む沈黙が流れた。

 

彼らの様子を見るに六華閃の中でも前スダルシャナはレジスタンスと言う組織内では大きな存在だったようだ。英雄派のテロで死んだとされる前スダルシャナ…一度は会って見たかったな。

 

「…そうか、ご苦労じゃったな」

 

彼らの中でも一際強い感傷を見せたガルドラボークさんに、ポラリスさんが静かに労りの言葉をかけた。

 

「…ざっと、第一部の議題はここまでじゃな」

 

「話をまとめると、叶えし者は引き続き調査、討伐。親玉のアルルはそこの推進大使に期限付きで任せるということでいいか?」

 

「うむ、そうじゃな」

 

この場にいる者達が手元の資料をまとめ始め、会議が終わりを迎えたところでガルドラボークさんが分かりやすくまとめてくれた。

 

正直なところ、気が重い。一か月以内に凛をどうにかしなければポラリスさんや六華閃が問答無用で彼女を殺しに行く。もちろんそれが世界のためになるということは百も承知だ。

 

だが俺は…また妹を失うわけにはいかない、失いたくない。一度は失った肉親を取り戻すチャンスなんだ。何としてでも俺は彼女を取り戻す。

 

一か月という制限はかえって俺に緊張感を与えたように思えた。そしてその緊張感は俺の決意をより強固なものにする。次に凛と会った時、絶対に俺は…。、

 

「…悠、ゼノヴィア、ここから先の話は各勢力の機密情報にも触れる。すまないが、席を外してもらえないじゃろうか」

 

「えっ、あ、ああ。わかった」

 

今後のことの考え事に耽ろうとした矢先に飛んできたポラリスさんの言葉がぐいっと意識を現実に引き戻す。

 

天界のトップも交えた会議。おおよそ口にするのも憚られるような事案もあるのだろう。これ以上俺が関わってもできることは何もないし、大人しく下がるとしよう。

 

俺とゼノヴィアは踵を返し、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人を追い出したってことは、ここからが本番なんだろ?」

 

「まだ二人には聞かせられない話じゃよ」

 

「…特異点、プロジェクトロンギヌスのことか」

 

『それとも、正史の話でしょうか?』

 

「全てじゃ。これからの歴史、特異点についての話をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一時間後、レジスタンス会議は終わりガルドラボークたちはゲストルームへ通された。

 

全体的に赤色を取り入れた部屋で一息つくのは六華閃の二人。ぞんざいにソファーにふんぞり返って水を呷るレーヴァテインが首を後ろに回し、対照的に優雅な佇まいで壁に背を預けて本を読むガルドラボークに語り掛ける。

 

「…なあガルドラボーク、あの推進大使にそこまで強く当たらなくてもいいんじゃないか?」

 

「私とて、彼を嫌っているわけではない。むしろ有望で貴重な戦力だと歓迎しているくらいだ。おまけに奴等に対抗しうるイレギュラーと来た」

 

レーヴァテインに一瞥をくれることなく、淡々と本を読み進めていく彼の手が本をぱたんと閉じる。

 

「だからこそ、甘さを捨ててもらわなければならない。我々の大望が一人の私情の介入によって破綻することなどあってはならないのだ」

 

「…お前、変わったな。ちょっと前まではまだ柔軟だったのに。スダルシャナのことか?」

 

「…俺は彼の遺志を継ぐ。彼が夢見た、創星六華閃の使命の完遂を果たすと決めた。そのためには手段は選ばん」

 

彼が手に取る赤いワインの注がれたグラスに移る彼の瞳には、どこか薄暗い色を帯びた決意の炎が揺らめいていた。

 




ガルドラボークは仕事に私情は持ち込まないタイプ。レーヴァテインの言ったとおり少し前まではそうでなかったんですが色々あってこうなっています。

次回、「秘めてきた思い」
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