ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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永らく続いたラグナロク編の最終回です。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
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11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第102話 「放課後のラグナロク」

「…ん」

 

差し込む日光に顔を照らされて、その眩しさが俺の意識を覚醒させる。カーテン越しに見える光が既に日が昇って朝になったことを知らせる。外からは可愛らしい小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 

身の回りに掛布団はない。それら全てがベッドの下にずり落ちていた。掛布団を全て蹴落とすほどに昨夜の寝相は相当に悪かったようだ。

 

「あれ…」

 

そして何より今の俺の状況。文字通りの全裸で、パンツ一丁すら履いていない。着ていたはずの服は掛布団と一緒にベッドの下に無造作に脱ぎ捨てられている。さらに奇妙なことに股間のあたりが湿った感じがある。

 

「…朝か」

 

朝の陽光をその身に浴びながら、んんと唸りを上げながらも体を伸ばす。隣に目をやると同じく裸ですやすやと寝息を立てているゼノヴィアがいた。あまりにもぐっすり気持ちよさそうに寝ているので、無理に起こすのはよそう。

 

「…そうだった」

 

目覚めの余韻が冷めていくにつれて昨夜の出来事が脳裏に蘇っていく。互いに互いを求めあい、貪るように乱れた夜だった。そうして互いを味わいつくして疲れ切った俺達はそのまま夢の世界へと誘われた。

 

勢いもあったが、思い返すと随分熱に浮かされていたなと恥ずかしくも思えてくる。しかし何より、幸せな時間だった。

 

あと、ゼノヴィアが桐生さんから貰ったゴムを捨てずにいて本当によかった。あいつが貰ったと言った時はなんてことをしてくれたと思ったが、今になっては感謝している。避妊の大切さは伝説のヒモ男が身をもって示してくれたからな。

 

「あ」

 

ベッドから下りようとした時、ふと壁掛け時計に目が留まる。長針が差すのは7の数字、短針が差すのは6の数字。そして今日は平日、つまりは…。

 

「やばい、起きろゼノヴィア、遅刻するぞ!!!」

 

それに思い至ったと同時に大慌てで寝息を立てる彼女を揺り起こす。今日は学校のある日だ。このまま彼女を寝かせていれば、遅刻してしまう。

 

「ぅ…うん…」

 

ようやく若干色気のある声を発しながらゼノヴィアが目を覚ます。

 

「…おはよう。どうした…?」

 

眠気の残る目を拭いながら、ふわぁと欠伸を漏らしてゆっくりと彼女は上体を起こした。一糸も纏わぬたわわな胸が揺れて一瞬ドキッとするが、生憎気にする時間はない。

 

「今日は学校だぞ、急いでご飯作るからその間に準備しろ!」

 

「え…そうだった!」

 

状況が飲み込めたらしく、眠気もぶっ飛んだゼノヴィアがベッドから跳ね起きて自身の部屋に駆けこんでいった。

 

せっかくの一夜の後なのに、ゆっくり話す時間もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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どこまでも続く青空に夕焼けの黄金が差し始める放課後、いつもの部室にてグリゴリの本拠地に戻るバラキエルさんの見送りに行った先生以外のオカ研メンバーが集まる。

 

ロキとの戦いが始まるまでは、またここに戻ってこられるだろうかと心配したが、無事に全員生き残り帰ってくることが出来て何よりだ。

 

「ふふふ、はっはっはっ!UNOだッ!!」

 

そうして戦いと会談も終わり、俺達はだらだらと戻って来た平穏を享受していた。高笑いを上げながら俺は堂々と、残り手札1枚を宣言する。塔城さん、木場、兵藤、朱乃さん、そしてギャスパー君の5人と一緒にUNOに興じていた。

 

「やべえ、このままだと深海が上がってしまうぞ…!」

 

3枚の手札を握る兵藤が戦慄の声を上げる。しかし他のプレイヤーにとっては危機的状況であるにもかかわらず、次に番が回って来た塔城さんは至って冷静だ。

 

「ドロー2です」

 

冷静に繰り出した一手はドロー2。次の番のプレイヤーはカードを2枚引くだけでそのターンを終えることになる。

これを回避するには…。

 

「なら僕もドロー2だね」

 

同じくドロー2のカードを出すしかない。木場がそっとドロー2を捨て札にしてその効果を発揮する。ルールによってはドロー4のカードでも対処可能らしいが今回はそうではない。効果は重ね掛けされ、ドロー4と同等になった。

 

「あらあら奇遇ですわね、私も使おうとしていたところですわ」

 

にこやかな笑みと共にドロー2を繰り出す朱乃さん。これで更に2枚追加されてドロー6の効果になった。

 

「先輩に続いて僕も」

 

さらにギャスパー君が出したのもドロー2だった。計4枚のドロー2が使用されたことで、兵藤は同じくドロー2を出せなければ8枚手札を増やさなければならなくなり、上がりから一気に遠ざかってしまう。

 

だが兵藤は焦る様子もない。一切の焦りもなく、むしろ不敵に笑っていた。

 

「…いやいや、嘘だろ」

 

脳裏に湧いて出たありえない考えを振り払うように首を軽く横に振り、兵藤に懇願するような目線を送る。今の俺の手札は赤の7だ。もし次にドロー2がこようものなら防ぎようがなく俺は…!

 

「…悪い、恨むならお前の運を恨んでくれ」

 

そう言ってそっと出したカードはもちろん、ドロー2だった。

 

「何でなんだよォォォォ!!」

 

ということで、俺はなんと合計10枚のカードを引いて一気に上がりから遠のくことになった。

 

いや可笑しいだろ、なんで4人全員ドロー2持ってるんだよ!?なんで垂らした蜘蛛の糸をぶっちして天国に行こうとしたカンダタを地獄の底に叩き落とすような真似を平然とできるんだ!!さてはお前ら全員グルだな!?

 

ちなみにUNOに参加していないゼノヴィア、アーシアさん、紫藤さんはと言うと…。

 

「…なら今度一緒に下着を買いに行こう。下着はしっかり決めておかないと風呂に入る時、周りの女子に笑われるそうだ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ノンノン!下着の色はミカエル様や主が認めてくださった信仰の白で決まりよ!」

 

「いや、私は勝負下着で行く。アーシアも勝負下着で行ってみないか?」

 

「何ですって!?」

 

「ゼノヴィアさんが言うなら、私…!」

 

「ちょちょちょ、待ってアーシア!?」

 

修学旅行の下着の話で盛り上がっていた。女子はしばしばオシャレに気を遣うのはわかるが、仲のいい女子って互いの下着まで見るものなのか?

 

そして残る部長さんはと言うと…。

 

「さらにグレモリー家の保険に加入すれば…」

 

「えっ、こんなに好条件でいいんですか!?」

 

「勿論よ。あなたほどの優秀かつ貴重な人材ならもっと…」

 

「ふむふむ…」

 

何故かオーディン様に置いてけぼりにされてしまったというロスヴァイセさんに部長さんが交渉をしていた。様々な資料を見せ、説明するたびにロスヴァイセさんは驚きの声を上げた。傍から見ると完全に部長さんがセールスマンか保険の営業に見えるんだが。

 

最初はひどく号泣していてオーディン様に忘れられただの、どうせ年齢=彼氏いない歴の処女ヴァルキリーだのどうたらこうたらとその取り乱しようは目にても当てられないレベルだった。しかし部長さんが今交渉を仕掛けたことでどうにか落ち着きを取り戻したといったところだ。

 

おまけに聞くところによるとこの学園に教師として勤務することになったのだとか。ヴァルキリーが日本の学校で一体何の科目を担当するのか非常に気になる。

 

「…説明はこんなところね、どうかしら?」

 

「…わかりました。あなた達と冥界で会った時から、こうなることは決まっていたのかもしれませんね。運命を司る女神であらせられるノルン様たちの導きでしょうか」

 

ロスヴァイセさんは卓上に置かれていた小箱を開け、その中にある赤いチェスの駒を手に取った。あれは悪魔が人間など多種族の者を悪魔に転生させる際に使用する悪魔の駒だ。コカビエル戦後に俺が使おうとしてあの女神の力に阻まれ、転生が叶わなかった駒。

 

「最後に残った『戦車』の駒、ありがたく頂戴します」

 

その言葉と同時に駒が光り始める。光が収まると、彼女の背から見慣れた悪魔の羽根がばさっと展開した。

 

北欧神話の主神オーディン様の付き添いヴァルキリー、ロスヴァイセさんが悪魔に転生した瞬間であった。

 

「ヴァルキリーが悪魔になった!」

 

「ヴァルキリーって確か半神なのに、よく駒一個で足りたな」

 

「『王』の成長に応じて、駒のキャパシティーも向上するらしい。魔王ベルゼブブ様はよくこの手の隠し要素を仕込むことで有名なんだ」

 

木場が手札を1枚出しながら解説してくれた。ギャスパー君に使用された変異の駒とかあるくらいだし。もしベルゼブブ様がRPGを作ったら隠しボスとか隠しアイテム満載の非常にやりがいのあるゲームになりそうだ。

 

「駒の消費一つですんでよかったわ。うちの眷属には彼女のように強力な魔法を使える悪魔がいなかったし、ヴァルキリーとして剣の腕も磨いているそうだから戦力としては申し分ないわね」

 

確かに、オーディン様の付き添いを務めるほどのヴァルキリーならかなりの実力者だ。これは今後の戦いで心強いぞ。

 

「…というわけで、今日から駒王学園の教諭、そしてグレモリー眷属の『戦車』として活動することになりましたロスヴァイセです。冥界の年金や保険制度が北欧よりよほど魅力的に感じましたので将来を見据えて悪魔になりました。今後とも、よろしくお願いします!」

 

こうして正式にグレモリー眷属に加わることになったロスヴァイセさんは改めて挨拶をし、礼儀正しく頭を下げる。永らく空席だった最後の駒、『戦車』はまさかの北欧のヴァルキリーになった。

 

木場や兵藤みたいに状況が状況だったメンバーとは違って、福利厚生面でひかれて加入するメンバーか。保険関係で釣られるロスヴァイセさんも中々しっかりしたそこで攻める部長さんも中々考えたな。

 

彼女の参加を、兵藤たちは快く迎え入れた。早速歓迎会を開こうなどの話が上がってくるなど一気に場の雰囲気は盛り上がっていく。

 

俺も彼女の加入に異論はない。部長さんが所持する悪魔の駒はすべて埋まったが、別に眷属になることが皆の仲間になる条件という訳でもないし、そんなの今更な話だ。だが気になる点が一つある。

 

「…でも、オーディン様お付きのヴァルキリーを引き入れて大丈夫なのか?」

 

「私の例もあるしいいんじゃないか?」

 

「…ああ、そうだった」

 

ゼノヴィアはデュランダルを持った教会の戦士なのに、悪魔に転生してグレモリー眷属に入ったんだった。前例があるとなんだかそう問題でもないような気がしてしまうのは不思議なものだ。

 

「今度オーディン様に会ったらシバきます」

 

と、凍え切った声でロスヴァイセさんは言う。洗脳されてない…?ダイジョブ?

 

「ねえイッセー君、弁当を作った時の余りがあるんだけど、よかったらどうぞ」

 

「なら、ありがたく貰います!」

 

歓迎の雰囲気もひと段落着いたところで、朱乃さんが兵藤に弁当箱を差し出す。受け取る兵藤は蓋を変えると中身の肉じゃがをひょいと一口頬張る。

 

数秒咀嚼し、彼女が作りあげた肉じゃがをしっかり味わう。

 

「…ん!美味しい!うちの味付けとは違うのに、なんだか安心するおふくろの味ですね!」

 

「本当?よかった……あら、口についてるわ」

 

「ん?」

 

兵藤の反応に喜ぶ朱乃さんはずいっと兵藤の口周りに付いたニンジンの切れ端を取ってやろうと近づくと、そのまま一気に自分の唇を兵藤の唇に重ねた。

 

「!!」

 

いきなりのキスに兵藤は呆気に取られ、動きが固まる。キスは数秒もかからず、すっと朱乃さんは唇を放した。

 

「ふふ、これってファーストキスになるのかしら?」

 

彼の味を確かめるようにキスをした自身の唇をペロリと舐めると頬を赤く染めて朱乃さんが笑った。

 

その様子を見ていると俺の隣にゼノヴィアがやって来て、どかっとソファに腰を下ろした。

 

「向こうも熱々だね」

 

「そうだな」

 

バラキエルさんとのごたごたも吹っ切れて、より一層二人の距離は縮まったようだ。部長さんに聞いたところによると、あの戦いでおっぱいドラゴンは卑猥だのそんな男に娘はやらんなど否定的だったバラキエルさんも兵藤を認めたらしい。俺の思った通り、やはりあいつがあの親子を救ったのだ。

 

「「「「「……!!」」」」」

 

しかし抜け駆けは許さないと他のゼノヴィアを除く女子部員から一斉に殺意の視線が二人に向けられる。それを兵藤と一緒に受ける朱乃さんはうふふと幸せそうに笑って意に返さない。

 

これはまたいつものように賑やかになるぞ。こういう光景を見ると、やっぱり無事に帰ってこられたんだなと実感できる。

 

俺はそんな彼女らから距離を置いて、その様子を面白げに観察しようと思った矢先。

 

「ところで悠、昨日の夜でコンドームが切れてしまったから買い足しておいてくれないか?私は悪魔の仕事があるから今日は買いに行けなくてね」

 

「えっ」

 

「「「「「「ん?」」」」」」

 

先ほどまでこの場を満たしていた女子部員たちが生む剣呑な雰囲気は一瞬にして吹き飛び、皆も、この空間の何もかもがゼノヴィアの何気ない発言で固まる。

 

おいおい、何故この場でそれを…!!

 

「昨日の夜?コンドーム?」

 

「コンドームって、確か桐生さんが言ってた…」

 

「どういうことかしら…?」

 

殺意の視線も幸せな笑顔もすっかり失せた部長さんや朱乃さん達の注目が一斉に俺達二人に集まる。

 

彼女らの詰問と向けられる視線に、ひやりとした感触が背筋を舐め一筋の汗が流れる。

 

「なあ、だめか?」

 

そんな雰囲気をつゆ知らず、ゼノヴィアはずいっと体を間近に寄せて密着し、こちらの瞳を覗き込むように甘えるような、それでいて熱い視線を送って来る。

 

「いっ!?いや勿論買いに行くよ!?お前の頼みならなんでもだけど、今ここで言うのは…」

 

「なら、頼んだよ」

 

ふふっと彼女は微笑む。

 

「…なんか前より増して」

 

「今までにないラブラブなオーラを感じます。もしや…」

 

そんな俺達のやり取りを目にして、ギャスパー君と塔城さんは推察する。二人の声を聞いてゼノヴィアは。

 

「当然だろう、隠すまでもなく私たちは恋人同士だからな」

 

「ん?」

 

「は?」

 

「え?」

 

「ブフーッ!?」

 

「「「「「「ええええええっ!?」」」」」」

 

堂々とした彼女のカミングアウトに、絶叫じみた驚愕の声が部室内に響き渡る。

 

ああ…ついにやっちゃったか。あまり皆の前でオープンにするのも恥ずかしいから個人的には隠したかったんだが…。朝から学校でこのことでゆっくり話し合うタイミングがなかったのが裏目に出たか。

 

まあ隠したところでどうせいつかはバレるんだし、こうなった以上は仕方ない。当然、皆はいきなり明かされた俺達の恋愛にざわめき立つ。

 

「深海先輩がまさか本当にくっつくとは…」

 

「コンドームってことは昨日やったんだよな…?深海が?ゼノヴィアと?」

 

「目の前で…う、羨ましいだ……」

 

「おめでとう、って言ったらいいのかな?」

 

「深海先輩、やっぱり男ですぅ…!」

 

「いやー、まあ色々あって…昨夜告白した」

 

「「「「おおお…!」」」」

 

照れくさそうに眼を泳がせて頭をポリポリかきながらと付け加えると、更に場は盛り上がった。というか素直におめでとうと言ってくれる木場は優しすぎないか?

 

「あなたいきなり紀伊国…じゃなくて深海君と夜の営みをしたの!?」

 

「良かったですね、ゼノヴィアさん!」

 

「ありがとうアーシア。勿論行為に及んだが?」

 

「ぬぁぁぁぁんですってぇぇぇぇ!?」

 

向こうの教会トリオは紫藤さんが特に愉快な反応を見せていた。人の幸せを素直に喜べるなんて、アーシアさんは本当に人間ができてるんだな。

 

「ゼノヴィア、今夜の仕事の後で色々聞きたいことがあるからイッセーの家に来て頂戴。絶対よ!」

 

「私も根掘り葉掘り夜のことを聞きたいわね…」

 

と、教会トリオと盛り上がるゼノヴィアの腕を部長さんと朱乃さんの年長組は掴み、早速昨日のことを詳しく聞き出そうとしていた。多分今夜は彼女は帰ってこなさそうだな…。

 

「うううっ…!クッソォォォ!!テメエ非モテ組を裏切るのかよォォォ!!」

 

「いやてめえが言うな!!」

 

嫉妬の感情を抑えきれないとばかりに兵藤が血涙を流しながら、俺にがしっと掴みかかって来る。

 

あれだけ周りに女の子がいて全員から好かれるてめえにだけは言われたくないし、非モテなんて自称するんじゃねえ!!

 

俺達オカ研は、俺とゼノヴィアの交際発覚の話題で暫し盛り上がるのだった。

 

ちなみにUNOは塔城さんが一番に上がり、俺は最下位だった。

 

 

 

 

 

 

 

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とある著名な悪魔貴族が所有する冥界にある別荘の一つ。木造の床をカツカツと靴音を鳴らしながら凛…の体を借りる上級ディンギルの一柱アルルと元上級悪魔アルギス・アンドロマリウスは歩いていた。

 

「アルル様、前回の戦いで降って来たあの光とは…」

 

「あの力は紛れもなく、あの方…いや、奴のものだった」

 

思い出すだけでも気分が悪いと言わんばかりにアルルは不快気に眉を顰める。

 

「もうとうの昔に息絶えたかと思っていたが…竜はゴキブリのようなしぶとさも持っているらしい。表向きはあの女神に任せ、自分は裏でコソコソと策を弄しているのだろう。かくも竜とは卑しく、姑息な生き物なのだな」

 

「随分とそのドラゴンに敵意を抱かれているご様子ですが」

 

「当然だ。奴は我々が特異点以上に脅威と感じる3体のドラゴンの一体、いつかは奴が隠れている世界も潰さねばな」

 

「あなた方がそれを脅威と感じるなら、私はあなた方の剣となるだけです」

 

彼にとってアルルは救いの神だ。彼女に拾われたあの時から、文字通り全身全霊を彼女に捧げると決めた。彼女が自害しろと命ずるなら喜んで自害するし、数千の敵を殺せと命じられたなら死力を尽くして任務を全うする。アルルの意思は彼の全てなのだから。

 

「…それにしても、以前と比べて格段にあなた様の神々しいオーラの強さが増していますね」

 

「回収したユグドラシルはロキと接続しながら奴の力を吸収し成長していた。先ほど蓄えていた力の全てを吸収し終えたところだが…かなり力を取り戻せたとは言え完全にはまだまだだ。今までのように回収した眼魂や叶えし者たちからから少しずつ力を蒐集するのも効率が悪い…もっと大きな力が必要だな」

 

手をグッと開いては閉じ、ユグドラシルから吸収し己の体の内に流れるその力の具合を確かめる。

 

今まで眼魂を回収してきたのは凛の体ごと奪ったネクロムのシステムに対応しており、失った力の埋め合わせになるという理由があってのことだがそれだけではない。眼魂とは英雄の意思を宿し、それをもとに霊力を生み出すアイテム。霊力とはすなわち意志の力であり、意思がある限り尽きることはない。

 

アルルは回収してきた眼魂からその尽きることのない霊力を吸い上げ、己の力に変換してきた。だが眼魂が瞬間的に生み出し、蓄える霊力の量には限りがあるし、眼魂の力だけでは彼女が真の力を発揮するのに必要とするオーラの量には遠く及ばず、それに至るまでには相当な時間がかかる。だから彼女はオーラを吸い上げてより多くのエネルギーを蓄え、成長するユグドラシルの種を利用した。

 

その結果として神域にいたころと比較すればまだまだ及ばないが、それでも以前と比べると相当なパワーアップを遂げた。ユグドラシルと言うバッドエンドフラグの片鱗と、北欧の悪神ロキの力。それらを取り込むことで行使できる権能の範囲やオーラのパワーも段違いに上がった。

 

「…直に英雄派が動くのだったな」

 

「はい、ここ最近派手に暴れているみたいですね」

 

「創星六華閃のスダルシャナ殺害の事件か。英雄派に送り込んだスパイに指示し、曹操たちと衝突するように誘導させておいて正解だった。ただでさえ六華閃に嗅ぎまわられ、戦後に激減してただでさえ少ない叶えし者を消されては困るからな」

 

「私の部下も何人か殺されました。ガルドラボークとレーヴァテインにはその代償を支払ってもらわなければ」

 

彼らにとって六華閃は周囲を嗅ぎまわる鬱陶しい狂犬だ。既に多くのアルルの手足として動いていた叶えし者が彼らに始末された。その先祖が戦争時に敵対し、彼らの意思を受け継ぐ今の当主は非常に厄介だ。自分達の情報を知る謎の戦士と同様に、一刻も早く彼らを潰したいと彼女は考えている。

 

話をしているうちに二人はある扉の前に着いた。ドアノブを捻り木が軋むような音を立てながらゆっくりドアを開け、歩いてきた廊下の明かりがドアの向こうの暗闇に差し込む。

 

二人はそのまま石畳の階段を下りて、地下に足を運ぶ。そこに訪れたのはとある人物と話をするためだ。

 

「…さて」

 

二人が目的とする人物は地下室に設けられた牢の中にいた。特殊な鉄格子の向こう、薄暗闇の中で壁に背を預けてうすぼんやりと虚空を眺めながらへたりと座り込むヴァルキリーが一人。

 

「よく眠れたか」

 

「…私をどうするつもりだ」

 

ロキに協力し、ポラリスと小猫に魔方陣を破壊され、そしてアルギスに拉致されて今に至ったジークルーネはにらみを利かせる。暗闇の中で彼女の衰えることのない強い意志のを宿す眼光がアルルを突き刺した。

 

「それは貴様の返答次第で決まる」

 

ロキの反乱から数日間、彼女はこの地下牢獄に捕らえられていた。しかし手ひどい拷問を受けたわけではない。ちゃんと一日三食は出されたし、あまり自由のない環境の悪さはあるがそれなりに扱われてきた。

 

「ロキに関連する悪い知らせと良い知らせがある。だが貴様に選択の自由を与えるつもりはない、よって悪い知らせから話す」

 

「ロキ様の…!?」

 

仕えるべき主の名に牢獄生活で疲弊していたジークルーネはここ数日で一番の反応を見せた。

 

「戦いに敗れたロキは今、牢獄に閉じ込められている。ユグドラシルとの接続を強制的にぶち切られた反動で奴の意識は戻らずじまいだ」

 

「そんな…」

 

数日ぶりに知るロキの現状にジークルーネは身が一気にすり減るような思いをした。彼女はここ数日の間で自分の身以上にロキが起こした戦いの行方ばかり気にかけていた。戦闘の途中で拉致された彼女は戦いの結末を知らない。

 

外でロキがグレモリー眷属を全滅させ、北欧神話への革命を成功させることだけが彼女が願い続けた希望。ロキこそ、牢獄に閉じ込められた彼女にとっての希望だった。だがそれも、アルルの知らせであっけなく砕け散った。

 

希望を失い、前以上に力なくうなだれるジークルーネの反応にアルルは予想通りだとふんと鼻を鳴らす。

 

「だが私が真の力を取り戻せば、ロキを復活させることが出来る。神域との接続がなされ、本来の力を行使できるようになれば貴様の願いは容易く叶うだろう」

 

「そ…。それは本当なのか?」

 

絶望の中でアルルに見せられた一条の光にジークルーネはばっと顔を上げて話に食いついた。

 

「そうだ。我々に協力するのなら、ロキを目覚めさせてもいい。さあどうする?暗闇の中で野垂れ死ぬか、私の手足となって動くか、選ぶがいい」

 

一瞬の逡巡の後、ジークルーネは決断する。

 

「…私はロキ様に尽くすと決めた。お前に尽くすわけではない。ロキ様を救うために、お前を利用する」

 

「決まりだな」

 

張り付いたような彼女の無表情の中に僅かながらの笑みが浮かぶ。

 

こうして彼女は新たな手駒を得た。人類滅亡を目指す彼女の計画が動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

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『…で、サーゼクス。送った資料は見たか?』

 

『ああ、ポラリスと名乗る人物が提供したデータ…にわかには信じ難いな』

 

『全く持って同感だ…ディンギルに叶えし者、おまけに神竜戦争、出鱈目じゃねえかと思えてくるがあのネクロムとか言う野郎の存在が証拠なんだな』

 

『アザゼル、君の目から見て彼は信用できるか?』

 

『…まだ判断に苦しむところはあるが、向こうは俺たちの味方をするつもりらしい。今回の戦いはおそらく向こうにとって実力を証明し、信頼を得るためのものだろう。向こうがその気なら、俺は受けられる助力は受けるがな』

 

『そうか…私も一度、彼と話してみたいものだな。ところでこのデータ、君はどうするつもりだ?』

 

『これは俺たち首脳陣だけの機密事項にした方がいい、いや、そうしなければならない。まだ和平交渉に集中したい今はこの情報は混乱の下にしかならない。一応、リアス達には伝えておくがあいつらもこれは信じられないだろう。いくら紀伊国…いや、深海悠河が異世界から来たとはいえな』

 

『英雄派の動きも怪しい中、叶えし者とやらも動き出すのか…我々の目指す理想には、敵が多いな』

 

『そうだな、神が残した神器『セイクリッド・ギア』という遺産と、人類滅亡を目論むシュメールの神々か。どっちにせよ、俺達には戦う道しか残されていないのさ』

 

 

 

 

 

 

 

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「曹操、彼らもそろそろ僕たちの思惑に気付いたんじゃないかな」

 

「そうだな、だが人材は揃った。しかし六華閃の協力を得られず彼と交戦する結果になったのは残念だ」

 

「彼らなら僕たちの思想に共鳴してくれると思ったんだけどね」

 

「いいんだよ、スダルシャナの野郎が話を全部蹴ったのが悪い。また別の六華閃に交渉してみようぜ」

 

「だが六華閃の前に京都の実験だ。ハーデスとの交渉はどうにか成功し『龍喰者』の確保も完了した。ここで大きくことを起こしてみようじゃないか」

 

「京都ねぇ…そうだ、聞いて驚け曹操。グレモリー眷属の一部が丁度俺達の京都入りのタイミングで京都に修学旅行に来るらしいぜ。メンバーは赤龍帝、聖魔剣、デュランダル、聖母の微笑持ち、英雄使い、それからミカエルのAだそうだ」

 

「デュランダルと聖魔剣使い…剣士として興味を抱かずにはいられないね」

 

「ほう…修学旅行?なんだそれは」

 

「そうか、知らねえのか。まあ簡単に言えば勉学も兼ねた旅行さ」

 

「ふむ…それはともかく、いよいよ我々は赤龍帝と邂逅するのか。俄然、やる気が湧いてきた」

 

「だろ?面白いよな、曹操。赤龍帝に聖魔剣、デュランダルにロキをぶっ飛ばした英雄使いの男。これで滾らないっつったら嘘だ。ジークフリートもやる気満々じゃねえか」

 

「ふふ、君は英雄使いが狙いかい?」

 

「ああ、奴の使う信長の力…興味しかねえよ」

 

「相手が伝説のドラゴンや聖剣であろうと、俺たちはそれを乗り越え人間の高みを目指す。なあ、信長?」

 

「ああ、俺の輝きを砕くことは誰にもできん」




というわけで、ラグナロク編完結です。ポラリスの接触、異世界バレ、強化フォーム、ディンギル、本当に内容てんこ盛りの章になりました。

ちなみにポラリスが送ったデータの中には悪魔社会の叶えし者のリストはありません。変に教えてサーゼクスが彼らを避けるようになれば、どうなるかわからないので。

次は息抜きも兼ねて外伝です。いよいよ悠、改め悠河と英雄派がぶつかる次章予告もいっしょにやります。

近々、裏話も更新します。内容はたぶんBGMについてになると思います。

次回、「その眼鏡は見抜く」
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