それと設定と活動報告に裏話を上げました。設定には初出しの情報もあるので気になる方は是非。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
第103話 「今は亡き」
『―――!』
絨毯の敷かれた床にリラックスして腰を下ろし、大きなモニターに映る映像を食い入るように見つめる二人。映像の中のキャラクターの一言一句、動作の一つも見逃すまいと真剣な眼差しを向けていた。
「ゼロワンの最終回、終わってしまった……」
ある日の休日、俺とポラリスさんは『NOAH』の一室に設けられた大型モニターを使って仮面ライダーゼロワン最終回の鑑賞を行っていた。
最後の最後まで物語の結末を見届け、俺たちの間に作品が終わってしまった心残りか、感動の余韻かえも言われぬ雰囲気が流れる。
「或人がアークワンになった時はどうなるかと思ったけど、安心した…」
「そうじゃな。それに悪意とは何か…考えさせられたのう」
ポラリスさんはコップ一杯の水を、見終えた余韻ごと飲み込むかのように呷る。
「しかしやはり勿体ない部分が目立つのう。6話分飛んでしまったのが本当に悔やまれるわい」
「それだけあれば雷や亡の出番とか、1000%の過去ももっとできただろうに。特に二人はもっと変身してほしかったな」
「亡の必殺技の漢字エフェクトが見れなかったのは心残りじゃのう」
「そういえばそうだな」
一回だけ必殺技を使ってたけど音声ミスってたし、漢字の演出もなかったからな。どうせなら滅亡迅雷の四人全員分のエフェクトは出してほしかった。
「とはいえ、妾はまた一つ仮面ライダーという作品が無事完結し、それを見ることが出来たことに満足しておる。フィクションを見るにあたって大切なのは楽しむ心だと妾は思っておるよ。ドラマ作品とは一種の娯楽。娯楽の娯と楽、どちらも楽しむという意味じゃからのう。それは作り手の本懐でもあるのじゃよ」
「なるほど…深いな」
大切なのは楽しむ心か。確かに皆を楽しませるための娯楽がストレスになっては本末転倒だからな。作り手は作品を通して観衆を楽しませ、観衆は作品を楽しむ…簡単なはずなのに、ネットの評価を見ているととても難しいことのように思える。
と、その後もだらだらと二人で感想を語り合いながら鑑賞会のお供のポテチをつまんでいると。
「ふぅー疲れた」
「お疲れ様です」
自身の服の衿をつまんではたはたさせ、がちゃりとドアを開けて入って来たのはゼノヴィアとイレブンさんだった。
「帰って来たか」
俺とポラリスさんがゼロワンの鑑賞会をしている間、ゼノヴィアはレジスタンス加入後初のイレブンとの模擬戦を行っていた。先日レジスタンスに加入したばかりのゼノヴィアはイレブンさんが剣士だということを知るや否や早速勝負を申し込み、申し込まれたイレブンさんも快諾してシミュレーションルームへ向かったのだ。
「お前、相当な手練れだな…」
「当然、鍛えてますから」
疲れ切った表情で肩で息するゼノヴィアとは対照にイレブンさんは軽く汗をかいただけだ。この差は戦い方の違いによるものか、それとも純粋なスタミナの差か。
「私と打ち合いながら遠隔操作武装で複雑な攻撃を仕掛けてくるなんてセンスの塊だよ。経験値の差がとんでもない相手だ」
「しかしあなたも光るモノを持っています。デュランダル使いは伊達ではありませんね」
二人は軽く微笑みを交わす。どうやら剣を交わし合う中で互いを認めたようだ。レジスタンス加入後、ゼノヴィアはうまく二人とうまく打ち解けられるか心配だったが、イレブンさんとはうまくいきそうで安心した。
「お、やってんのか?」
と、二人の剣士が言葉を交わす中、さらに赤髪の女性がひょいと顔を出す。
「あなたは…」
「レーヴァテインか」
「よっ、少年」
にっと気安い調子で、先日の会議のぴりぴりが嘘だったかのように挨拶するのは創星六華閃が一人、レイド家当主のレーヴァテインさん。
「ポテチが一袋あるがいるか?」
「勿論もらうぜ」
藪から棒に現れたレーヴァテインさんはポラリスさんが持っているポテトチップスの袋をぞんざいに取ると、早速袋を開け始めてポテチをつまみ出す。
彼女と会うのは会議以来だ。会議が終わってから一度も顔を合わせていないので、ちょうどこの際聞いてみるか。
「そう言えばレーヴァテインさんに訊きたいことが」
「お、なんだなんだ?」
「先代のスダルシャナってレジスタンスの協力者だったみたいですけど、どんな人だったんですか?」
会議の中で幾度か上がって来た創星六華閃の先代スダルシャナの名前。ガルドラボークさんやレーヴァテインさん同様にレジスタンスに協力していたという先代スダルシャナはどのような人物だったのだろうか。
「あー、頼れるリーダーって人だったな。六華閃の中ではトリシューラのバカと一位二位を争うレベルで強いし、六華閃の当主の先輩として私やガルドラボークはすごく世話になった。実はレジスタンスに入ったのはあの人に誘われたからなんだ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、あの人だからこそ私は信じた。あの人がいなかったら私は六華閃の本当の使命なんて知らないままだったし、もしかすると今頃は英雄派に入っていたかもしれないね」
「仁智勇に優れた、戦士や人として模範のような男じゃった。レジスタンスの関係者なら誰もが彼に一目置いておった。それだけに英雄派に殺されたと聞いた時はショックじゃったよ」
なるほど、ポラリスさんにそこまで言わせるとはよほど人望の厚い人物だったようだ。そんな人物なら俺も会って見たかったな。
しかし六華閃の一人が英雄派に入ってたかもしれない可能性があったという事実に軽く震えた。もし言葉通りに英雄派に下っていたら当主の剣の腕はもちろん、鍛冶職人としての腕を存分に振るって上物の武器を大量に提供していただろう。そうなれば、戦闘員の大幅な強化につながりより多くの被害が出ていたはずだ。
「ガルドラボークが若干ひねくれたって言うか、頑固になったのはあいつが亡くなってからだ。その前はまだ柔和な部分もあったんだが。多分、スダルシャナに今までの恩を返せないままになってしまったのを悔いているんだろうさ」
それを聞いて思い出すのは先日の会議でのあの人の言動。神討伐という六華閃の使命完遂にこだわり、大義のために私情は殺すべしという彼の主義がありありと見えた。
それだけガルドラボークさんの中でスダルシャナの存在は大きく、その死は大きく彼を変えてしまったというのか。
「…やっぱり、復讐したいとか考えたりしますか?」
俺はそう訊ねずにはいられなかった。
彼女にとって、同じ六華閃の当主で世話になったというスダルシャナは大切な人だったはずだ。彼女が彼に対して抱いていた気持ち、それを理不尽にも奪われた悲しみや憎しみは殺した相手に相応の罰を与えたい、苦痛を与えてやりたいという復讐心に変わってしかるべきものだ。
「いや、それは私らの役目じゃないね」
「えっ?」
予想外も予想外の答えに俺は目を見開く。レーヴァテインさんは綺麗な赤髪をいじりながらさらに言う。
「私らが出なくたって、あいつらと戦う連中はたくさん出てくる。私らの出る幕じゃないのさ。他にやらなきゃいけないことが山ほどあるし。ま、一発殴るくらいのことはしたいかな…どうした少年?」
「…意外とあっさりした返答だったので」
…口には出さないけど、若干戦闘好きでバカっぽさのある人だと思っていただけにこの答えは予想できなかった。
復讐心を他にやることがあるという理由で押し込めてしまう人を見るのは初めてだ。決して芽生えた復讐心は弱くないはずなのに。レーヴァテインさんという人が、少しわからなくなってきた。
そんなレーヴァテインさんはふふんと微笑む。
「ただの戦闘馬鹿に見えて、お姉さんもそれなりに人生経験詰んでるのさ。それよりイレブンの奴、抜け駆けしやがって羨ましいぞ。私もデュランダルとやり合いてえのにさ!」
「ほう、六華閃のレーヴァテインと手合わせできるとは光栄だよ」
話題の中心になったゼノヴィアはレーヴァテインさんに挑戦的な笑みを返す。するとレーヴァテインさんはますます笑みを深くし。
「おーおー、乗り気だねぇ!んじゃ10分後に第3シミュレーションルームに集合な!イレブンも来いよ!」
と、二人の返答を待たずして一人でハイテンションになったレーヴァテインさんはポテチを携えたまますぐに部屋を出ていった。
レーヴァテインさんという嵐が去った後、次に訪れたのは数秒の静けさだった。
「…私は一回汗を流して来る」
「私は小腹が空いたので軽くつまんできます」
彼女のハイテンションに置いてけぼりを喰らったゼノヴィアとイレブンさんも部屋を後にする。
こうして再び、この部屋には俺とポラリスさんだけしかいなくなってしまった。
「しばらくはあの三人で盛り上がりそうだな」
「レーヴァテインも新しい剣士が入って来て嬉しいんじゃろ。あいつは単細胞な所はあるが、俗に言う陽キャじゃからの」
レーヴァテインさんは陽キャか。言われてみれば、確かにあの人は誰とでもうまく絡んでいけそうな雰囲気はある。コミュニケーション能力もかなり高そうだ。
「…まあ俺はゼノヴィアがどうにか馴染めそうで安心したよ。あんたともうまく打ち解けてくれたらいいんだが」
「ふふ、妾と打ち解けるのは難しいかもしれんのう…そうじゃ、言い忘れておった」
「ん?」
「プライムトリガーじゃがデチューンにもう数日はかかる。思った以上に構造が複雑での、まだしばらくは待ってほしい」
言われて思い出した。ロキ戦の後、俺はポラリスさんにプライムトリガーを預けておいたんだった。強すぎるパワーを抑え、負担を減らすために彼女にデチューンとその解析を部長さんたちの前でお願いした。
預けて以来、何の進捗の報告もなかったが想像以上に難儀していたようだ。
「わかった…って今日から数日って多分修学旅行と被るじゃねえか」
「すまんすまん。妾も忙しい中一生懸命やっておるんじゃ、勘弁してくれ」
「それならしょうがないか…」
修学旅行で異形関係の面倒なトラブルに巻き込まれ、プライムトリガーが必要になるような事態にならないことを祈るばかりだ。
「アザゼルは妾が渡したデータについて話したか?」
「ああ、昨日グレモリーとシトリー眷属が集まって話があった。けどみんなイマイチピンと来てない様子だったよ」
話を聞いた皆は一応奴等の正体が分かったと納得はしていたが、神竜戦争、人類滅亡…そんな突拍子のないことをいきなり言われて信じろと言うのが無理だろう。
先生の話によれば各神話の首脳陣にもこの件についての情報を提供したらしいが、現状はトップシークレットの情報と言う扱いになるそうだ。機密情報に指定はしたものの先生たちも扱いについては悩んでいるみたいだった。
「まあ当然か。今は禍の団との戦いで手一杯、奴等の脅威が本格化しない限りは信憑性に欠けるじゃろうな。それでもアルルの暗躍がある以上は情報は提供しておかねばなるまい」
「…ていうか、対ディンギル兵器のテスターって本当に誰なんだ?またレジスタンスのメンバーが増えたのか?」
ふと気になってぶつけた疑問は、ポラリスさんが会議で口にしていた例の兵器のテスターについて。
俺がそのテスターなら事前に話が来てるだろうし、イレブンさんやポラリスさん、協力者の誰かが担当するなら名前を挙げるはずだ。なのにテスター以上のことを何も語らないということは、つまりあの場にいた人間以外の誰かが担当することになるはず。
「気になるか?」
「気になる」
「ふふ…」
ずいっと問い詰めると、彼女は意味深な笑みを一つ。
「何、遠くないうちに会えるさ」
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とも、人間界の日常は変わらない。この駒王学園では午前中の授業が終わって昼休みに入った。生徒たちは食堂でか、教室で持参した弁当を食べつつ友人たちと他愛のない会話を交わし合う。
「修学旅行もいよいよね」
「街を巡る計画はバッチリや。はよ始まらんかな!」
当然、俺や天王寺、イッセーたちは教室で集まってもうすぐ始まる修学旅行に思いを馳せていた。特に天王寺は日に日に近づく修学旅行を前にワクワクが抑えきれないといった様子だ。
「私と悠、飛鳥と綾瀬で京都を散策か。本当に楽しい思い出になりそうだ」
「藍那ちゃん忘れたらあかんで!」
「そうだった、彼女に悪いことをした」
飛鳥班は俺とゼノヴィア、上柚木と天王寺、そして御影さんの5人だ。今はこの場にいない彼女は友人と食堂に行っている。もちろん、班員である以上は散策の時には彼女ともしっかり一緒に行動し、思い出を作っていかないとな。
「俺も早く皆と京都を回りたいな」
高校生の修学旅行を二回もできるなんて贅沢ができるところもあの駄女神に感謝していることの一つだ。本当なら人生一回きりのイベントだからな。
「へぇー、修学旅行は実質二人のデートになるわけね」
そんなことを考えていると、桐生さんがいやらしそうにニヤニヤした目を向けてきた。
「へっ!?」
「言われてみればそうだな」
「「……!!」」
桐生さんの言葉が火を付けたか、松田と元浜の二人がものすごく何かを言いたげな表情で、涙が出そうなくらいに俺を睨んでくる。
先日、俺とゼノヴィアの交際がこのグループ内で発覚してから二人からしばしば悔しさと憎悪に満ちた目で睨み付けられる。
だがタイミングとしては良かったのかもしれない。ちゃんと思いを告白した彼女と京の街を巡ることが出来るのは風情があって、なんだかドキドキする。
「イチャつくのはいいけど班行動なんだから、私と飛鳥を差し置くなんてマネはしないでね」
「そんなことしたら僕ら泣くで!」
「わかってるよ」
俺の考えを見透かしたか、息を吐いて釘を刺す上柚木。流石に二人を差し置くなんてことはしないぞ。みんなで楽しまなくちゃな。
「それにしても、俺は兵藤が先にゴールインすると思ってたんだけどな」
「まさか奥手そうな紀伊国の方が先着だとは…」
睨みを引っ込めると、今度は羨ましそうに息を吐く松田と元浜。
「人生何が起こるかわかんねえよな…」
「せやな…僕も彼女の一人は欲しいわ」
「「「「はぁー……」」」」
彼女のできない男子4人のため息が交じり合い、聞く者の心を沈ませるような鬱々としたハーモニーを奏でた。
「…!」
しかし天王寺の言葉に、上柚木はピクリと反応するとムッとした表情をした。桐生さんはそんな彼女を見て「あー」と声を漏らす。
「こういうのを灯台下暗しって言うのよね」
「報われないな…」
少し前までのゼノヴィアはきっとこんな感じだったんだろうな。好きな人がいても、その相手は自分の気持ちに応えようともしないし、そもそも気付いていない。
自分が今までどんなにひどい仕打ちを彼女にしてきたか、それをありありと見せられている気分だ。
「綾瀬、君の気持ちはよくわかるぞ」
「ちょ、ちょっと!やめてよ」
それは俺以上にゼノヴィアが強く思っていたのだろう。ゼノヴィアまでもが鈍感な天王寺に気付いてもらえない彼女に同情する。
「と、ところで、京都のお土産だけど皆何にするの?」
同情されたのが恥ずかしかったのか、咄嗟に上柚木は話題をそらす。
「んー、俺は八ッ橋だな」
前の世界で京都に旅行で行ったという近所の住民からいただいたことがあった。今でもあの美味な菓子の味はよく覚えている。京都に足を運ぶことがあれば絶対に買おうと思っていた。
「私も!確か生と焼いた奴の二種類があるのよね?」
「せや、生の方はちょっと香りが独特やけどおいしいで。ちなみに僕も八ッ橋にするわ」
「へぇー、折角なら両方とも買っちゃおうかしら」
俺と天王寺、紫藤さんの3人は八ッ橋で決まりだな。そのうち三人で集まって食べるのいいかもしれない。
「私は抹茶味のお菓子にしたいんですけど、イッセーさんに調べてもらったらたくさん出てきて決めきれないんです…」
「なら私と一緒に現地で考えましょう、色々候補があって絞り切れないから私も悩んでたところよ。班は別だけど駅で一緒に買えるはず」
「実は俺もまだ決めてないんだよな…俺もアーシアと一緒に考えるよ」
アーシアさん、兵藤、上柚木はどんなお土産があるか知ってはいるがまだ決め切れていないようだ。旅行の最後で何を買ったか聞いてみようかな。
「私はもう下調べし終えたから道中で買っていくだけね…エロ担当のあんた達は何にするの?」
と、ニヤニヤしながら松田と元浜に訊ねる桐生さん。松田は心外だと言わんばかりに軽く反論する。
「お前にエロ担当と呼ばれたくないな!俺は母さんに頼まれたもんを買いに行くぞ」
「ラングドシャが食べたいとか親が言ってたからそれを買うつもりだ。他に美味しそうなもんがあればそれも」
「…意外と普通なものを選ぶのね」
「俺も思った」
意外だと上柚木はやや感心したような声を上げた。二人なら春画関係のグッズでも買うんじゃないかとか思っていたが…流石に杞憂だったか。
「ゼノヴィアさんは何か考えているんですか?」
残ったゼノヴィアにアーシアさんが訊く。彼女が欲しがるお土産と言えばきっと…。
「私は木刀が欲しい」
「それダメだってしおりに書いてあっただろ」
案の定だった。伝説の聖剣を持ってるんだからいらないだろ!
次から9巻の内容に入ります。
次回、「呪怨を祓う炎」