Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
ある休日。太陽はまだ南中しておらず、まだ目覚めの朝の余韻が抜けきらない9時ごろに我が家のリビングでだらだらするのは。
「デュランダルを天界に送った?」
「ああ、正教会がデュランダルの攻撃的なオーラを抑える術を開発したらしくてね。正教会を経由して天界に送ったよ」
暇を持て余し、柔らかいソファーの上でごろごろする俺とゼノヴィア。
「へぇー、それって俺のプライムトリガーみたいに性能を落とすってことになるのか?」
「いや、彼らの口ぶりだとむしろさらに強化されるみたいだが…詳しいことは戻ってきた時に説明するそうだ」
彼女との男女間での正式な付き合いを始めて、数日が経った。だが元から同棲していたこともあって特に大きく生活が変わるわけでもない。ただ…。
「つまり、今の私は丸腰…ということだよ」
よく甘えてくるようになった。丸腰という言葉に色気を感じた俺は不意に目を泳がせる。
「…戦闘になったらどうするんだ」
「木場に聖剣を創造してもらうか、イッセーにアスカロンを借りるよ。君に守ってもらうのも悪くはないかもしれないね」
と、冗談めかした口調で彼女は笑う。
「不思議に思うよ。今までは信仰以外の生き方を知らなかった私が、今こうして君という恋人と出会って変わったのだから」
「…俺だってそうだ、前の世界でも色恋沙汰に縁のなかった俺が女の子に告白をして、付き合いを始めたんだ。こんな未来一ミリも考えたことなかった」
「ふふっ、やはり私たちは似た者同士なのかな。だからこそ惹かれ合ったのかもしれない」
「…そうだな」
目を泳がせるも、内に高まる気恥ずかしさにも似た気持ちにますます自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
…なんだかドキドキしてきた。付き合いを始めて以来、俺とゼノヴィアは互いが今まで抱えてきた互いを想う気持ちを我慢しなくなった。その結果、ふとしたことで度々このようなえもいわれぬ雰囲気が流れるようになった。
覚えたての童貞は特にそうしたいという気持ちが強いのだという。どうやら俺もその例外ではなく、そういう時は大抵、俺達二人は雰囲気に流されるまま…。
そんな時、両者の間に流れる甘い雰囲気に一石を投じるが如く我が家のインターホンが鳴り響いた。
「ん?」
気持ちを切り替えて何事かと思い、インターホンのモニターを覗くと黒いスーツ姿の男が見えた。
『紀伊国悠殿、そろそろ出発の時間です』
男のその一言で全てを理解した。
「わかりました、すぐに行きます!」
「行くのか?」
やり取りが終わるとすぐにゼノヴィアは俺に声をかけてきた。二人の時間の終わりを惜しむようにどこか切なそうな表情で見つめてくる。
「悪い、一足先に冥界に行く。続きはまた今度な」
この時間を終わらせたくないのは俺も同じだ。しかし惜しい気持ちをどうにか振り払って、先にまとめていた荷物を拾い始める。
俺の仕事がいよいよ始まろうとしていた。
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ロキの反乱を鎮めた俺とグレモリー眷属たちは各勢力から大きな評価を得た。その結果、俺は今後は各地で起こる禍の団のテロや彼らが潜伏しているアジトの突入作戦に参加を要請されるようになるらしい。
らしいと言うのもまだ正式に決まったわけではないからだ。ただ成果を上げているとはいえ、これといった仕事がない推進大使の肩書がお飾りになってきているのではないかと言う声が以前からあった。それを気にした先生やサーゼクスさん達がこれからはいくつか正式な仕事を任せるようにしてようという試みの一つとしてこの突入作戦の参加が要請されることになった。
今回、試験的に俺をこの作戦に参加させることでどれくらいのパフォーマンスを上げてくれるかなどを見るそうだ。この成果次第で、今後任される仕事も決まって来るとかそうでないとか。
そうして作戦に呼ばれた俺は冥界のグレモリー領から少し離れた森林に隠された洞窟、そこを更に掘って作られた禍の団に所属しているはぐれ魔法使いの隠れ家にて三十弱名の天使と堕天使、悪魔の混成部隊と一緒にアジトの奥へ足を踏み入れた。
〈BGM:仮面ライダースペクター 攻勢(仮面ライダーゴースト)〉
〔カイガン!ムサシ!決闘ズバッと!超剣豪!〕
「ハァァ!!」
ゴーストチェンジするや否や、二刀の剣を携え魔法使いたちへ突撃する。
対する魔法使いたちはそうはさせまいと次々に炎や氷などの魔法攻撃を仕掛けてくる。
「ふっ」
しかしこのムサシ魂を止めるにはその程度の魔法では火力不足というもの。
氷のつぶては前進しながら全て切り刻み、分厚い炎の幕は赤い霊力を込めた斬撃を飛ばして一息で吹き払う。
そうして魔法攻撃を突破し、魔法使いたちの驚愕の色に染まった顔面が間近に迫り。
「がはっ!」
「ぐっ!」
流麗な剣戟を見舞い、切り伏せる。やはり魔法使いは近距離戦に弱い。魔法を突破して近接戦の間合いに収めれば
どうとでもできる。
ちなみに俺の後方では俺と一緒に奥部へ先行した数名の天使が魔法使いたちと交戦している。ちらりと見る限り特に苦戦している様子もないあたり、上は実力者を選んで送ったようだ。だが問題は末端の戦闘員ではない。
「俺のかわいい部下たちをのしてくれおって……この恨み、晴らすまじ」
部屋の奥でしゃれこうべで飾られた玉座に座る黒ローブの男がいる。禍の団に所属しているはぐれ魔法使いたちの中でも最近頭角を現してきているというあの魔法使い。さっきまで倒してきた他の魔法使いと比較して、よりおどろおどろしい黒いローブとアクセサリーを身に着けている壮年の男だ。
「お前は魔法の中でも呪いに関するものに長けているんだったな」
この男は魔法の中でも呪術に近しい危険な魔法を数多く使う危険な魔法使いとして有名だ。兵士、一般人問わず多くの犠牲を生み出してきたというこいつを野放しにしておくわけにはいかない。
男は俺の問いに下品な笑みで返してきた。
「へへっ、お前さんも俺の呪いを浴びていくかい?」
「いいや、浴びるのはお前の返り血だよ」
啖呵を切り、俺はピンク色の眼魂を取り出してドライバーに差し込む。
〔アーイ!バッチリミロー!〕
そしてドライバーから現れたのは、新たなピンク色のパーカーゴースト。そのままドライバーのレバーを引き眼魂に秘められた力を解き放つ。
〔カイガン!ヒミコ!〕
ムサシ眼魂を取り除いたことでパーカーが消え、トランジェント態になった俺にピンク色のパーカーゴーストが覆いかぶさり、新たなフォームへ変身を遂げる。
肩部の勾玉を模した黄金の装甲『プロフェシーショルダー』は対峙する敵の攻撃や自分を中心にした一定の範囲内に発生する自然現象を予測し、パーカー部は『キドウフード』と呼ばれ神秘のエネルギーで邪気を吸い取るフィールドを構築しそこに敵を閉じ込めることができる。さらにそこに取り付けられた黄金の冠『ヘッドホウカン』が放つ輝きは邪悪な力を浄化し、顔面部の『ヴァリアスバイザー』には勾玉模様の『フェイスマガタマ』が浮かび上がっていた。
〔未来を予告!邪馬台国!〕
仰々しく、優雅なオーラを放つは仮面ライダースペクター ヒミコ魂。かつて存在した邪馬台国の女王であり、鬼道を用いて吉凶を占う巫女でもあった卑弥呼の力を宿したフォームだ。
「お前を相手するにはピッタリのフォームだ」
「ほざけ!俺の呪いは如何なる防御魔方陣でも防ぐことはできん!」
挑発に男が吼え、即座に呪いの魔法を放つ。魔方陣から粘り気のある黒い闇がとめどなく溢れ、どろどろとした黒い闇が俺を飲み込まんと向かってくる。
見る者の心を吸いこむような闇にも俺は動じず、召喚したガンガンセイバーナギナタモードにパーカーと同じピンク色の燃え盛る炎を灯す。
そして炎を宿したナギナタをぶんと振り抜く。
「ふん!」
放たれた炎が呪いの闇とぶつかる。すると塩をかけられたなめくじのようにその勢いが弱っていき、やがて何もなかったかのように霧散した。
その現象を見て、男は何が起きたか一目で見抜いた。
「俺の呪いを…浄化しただと!」
この炎は桃色のパーカーの布地『ヤマタイコート』が霊力と周囲の熱エネルギーを合成することで生み出される浄化の炎。呪いなどの邪なオーラを浄化する聖なる力を帯びている。
ヒミコ魂は呪いを得意とするこの男を相手にこれ以上ないほど有利なフォームだ。
「呪いと一緒にお前の邪念も祓ってやるよ!」
「くぅぅ……!!」
顔を怒りで真っ赤にしながら、滑舌どうなってんだと気になるくらい高速で詠唱しては矢継ぎ早に呪いのオーラを放ってくる。
寄せ来るそれらを聖なる炎で浄化しながら、俺はゆっくりと前進する。
呪いが破られ、俺との距離が近づくたびに男の焦りの表情はますます濃くなっていった。
「効かない…!だったら、浄化できないほど濃密な呪いで、貴様を呪い殺してくれるわぁ!!」
狼狽を露わにする男が絶叫を上げて、周囲に幾つもの呪いを生み出す。それらは一か所に集まると互いを喰らい合うように合体していき、やがてどろどろとした濃紺な闇を纏うおどろおどろしい大きな骸骨が生まれた。
もはや見るだけでも精神が抉られる程の呪いが男の怒りに呼応するかのように吼えた。
「迎撃しろ!」
後方で魔法使いたちを仕留めた天使たちが呪いの影響か恐怖にかられた表情で骸骨に向けて光の槍を投擲する。しかし槍が骸骨本体に届くことなく、奴が纏う闇に当たると金属が錆びるかのように光は輝きを失い、ぼろぼろと崩れ落ちた。
生半可な光や浄化の力ではあの呪いは太刀打ちできない。ならば。
〔ガンガンミナー!ガンガンミナー!〕
〔ダイカイガン!ヒミコ!〕
受ければひとたまりもないだろう。向こうが繰り出して来る全力の呪いの力に負けじと俺もダイカイガンを重ねて発動する。今出せる全力で、奴の呪いを浄化するしかない。
生み出され、増幅した莫大な霊力が煌々と燃え、輝くピンク色の炎と化しナギナタの刀身に付与される。上下二つの刃がメラメラと浄化の炎で燃え盛っている。
〔オメガストリーム!〕
〔オメガドライブ!〕
「ハァァァァッ!!!」
そして裂帛の気合と共に煌炎を解放する。解放された炎は長大な炎刃へと変化し、それを渾身の力で呪いの骸骨へと振り抜く。骸骨が大きな手で炎刃を受け止めるとその衝撃で聖なる炎があちこちに飛び散った。部屋のあちらこちらで聖なる炎が燃え始め、聖なる力が部屋中に満ちる。もしこの場に悪魔がいれば消滅やダメージを受けないまでも、空気中に充満する聖なる力で激しく嘔吐していたことだろう。
聖なる力と炎に満ち満ちる部屋の中央で炎刃と骸骨が激しくぶつかり合い、互いに譲れぬ、互いを喰らいつくさんと激しく拮抗する。歯を食いしばり、負けるものかと意地の咆哮を上げる。
「オォォォォォォォッ!!」
互いの死力を尽くした一撃。しかし決着がつくまでそう長くはかからなかった。呪いの核になっている骸骨がじりじりと炎に焼かれ、やがて指先から手へ、手から腕、そして胴体へと火の手は伸びる。
ついには全身を焼かれた骸骨は聖なる力によって消滅し、核を失った呪いはあっという間に聖なる炎によって浄化された。我が身を守ってくれる呪いを失った奴に俺は薙刀をぐるぐると回転させ、聖なる炎の斬撃を飛ばす。
「な…ぬ……アアアアアアアアアアアア!!」
抵抗も空しく、逃げ場もなく、男はあえなく聖なる炎の中に飲まれるしかなかった。断末魔の悲鳴すら業火の燃え上がる音によってかき消されてしまった。
〈BGM終了〉
数分後、永遠に続くかと思われた辺りで燃えていた炎はすっかり勢いを無くし、自然と鎮火した。そして焦げ臭さの残る部屋の奥でパンツ一丁の男が倒れていた。
さっきまで戦っていた呪い使いだ。不意打ちを仕掛けられる可能性も考慮して念のため、警戒心をそのままに恐る恐る近づくと。
「…完全に気絶しているな」
確認してみると見事なまでに白目をむいており、ピクリとも動かない。しかし脈はある。死んだわけではないようだ。
「どうにか首領は討伐できたようですな」
「早速、大使殿の大手柄だ。あ、嫌味とかじゃないですよ?」
「終わったか…」
「あんな恐ろしい呪いを使ってきた時はどうなるかと思った…」
天使たちもこの男の様を見て戦闘の終了を確信し、ほっと胸をなでおろす。道中、何度も彼らにフォローされた。激闘だったが、一人も犠牲を出すことなく討伐が完了してよかった。
「おっ、もしかしてもう片付けちまったのか!?」
元気に満ちた声が後ろから浴びせられる。振り返ると、天使や堕天使の部隊を引き連れるハリネズミのようにとがった金髪の少年天使がいた。
この少年こそウリエルさんの御使い、『A』の札に選ばれた少年神父ネロ・ライモンディ。今回の作戦の指揮権を任され、紫藤さんに似た、いやそれ以上に快活な雰囲気を纏う少年が部屋の状況をきょろきょろと確認しながら近づく。
「はい、今しがた」
「すげー、やるなお前!作戦に呼ばれるだけあって、推進大使は噂に違わず強えんだな!」
感心の笑顔を向ける。
「ネロさんの方は?」
俺と数名の天使を先行させたのはネロさんの指示だった。全員で向かってくる魔法使いを相手にする間にボスが脱出することを警戒して、ネロさんは俺たちに行かせたのだ。
「こっちも残りの構成員は全員お縄……というか天使の輪っかよ!」
「一応聞いときますけど死んだって意味じゃないですよね?」
死んだ表現で時々天使の輪っかがついて天に昇っていくのがあるから心配だ。
「まあ死んだ奴もいるけど…残った奴は光力の輪っかで拘束したぜ!」
ですよねー。
会話はほどほどに、ネロさんはざっと焦げ付いたこの部屋の惨状を見渡す。
「よっし、んじゃ後処理を始めっか!」
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後始末が終わって解散し、急ぎグレモリー領へと俺は移動した。ちょうど俺が作戦に参加している間に部長さんたちがフルメンバーで揃った眷属を両親に紹介するということでグレモリー領主の屋敷に足を運んでいたのだ。
そこにつくと、すぐに執事の方に地下のトレーニングルームへと通された。話を聞くとどうやらそこに兵藤たちが集まっているとのことだ。
廊下を進んでいくと、見慣れた後姿が集まっているのが見えた。
「今どうなってる?」
「深海君!」
「来たか」
「作戦はどうだった?」
「何とか終わったよ」
部長さん達グレモリー眷属と、紫藤さん。少し離れたところにはなんとサーゼクスさんもいた。俺の到着に皆は待ちかねたというように口元を緩める。
しかしそれより気になるのは、向こうで赤龍帝の鎧を纏った兵藤が戦っている相手だ。グレーのアンダーウェアを着た逞しい体格の男がその大きな拳を振るう。幾度もビデオで見たことがあるあの男は。
「あれは兵藤と…」
「サイラオーグ・バアルよ。今、彼と手合わせしているの」
「手合わせを?それにサイラオーグって、近々試合があるって言う…」
大王派という派閥があるほど現魔王達と並んで悪魔の政界で影響力を持つ大王バアル家、その次期当主である上級悪魔の男サイラオーグ・バアル。
その彼が今皆の視線の向こうで二人は激しい肉弾戦を繰り広げている。互いに武器を持たず、徒手空拳で相手に向かい、荒ぶる闘志を拳に乗せてぶつけ合う。筋肉粒々とした大柄な体格に見合わず、その動きは目で追えないほど俊敏だ。
「兵藤と真正面からパワー勝負を…」
「ちょうどイッセー君が『戦車』に昇格したところだよ」
その時、兵藤の右ストレートがサイラオーグの顔面に、サイラオーグの岩のようなごつごつとした拳が兵藤の腹に同時に打ち込まれた。
「ぶっ!」
「ぐほぉっ!」
鼻血を噴くサイラオーグとその威力に鎧を粉砕されてなお余りある威力に血反吐を吐く兵藤。一旦体勢を立て直すために、両者は同時に引き下がった。攻撃を顔面に受けたというのに、サイラオーグは心底嬉しそうに笑っている。
「…全ての駒の特徴を兼ね備えた『女王』より、パワーと防御特化の『戦車』の方がお前には合っているようだな。やはりお前は強い…どうした、何か気になることでもあるのか?」
闘志に震える笑みをしながらも冷静な分析をするサイラオーグに、兵藤は鳩が豆鉄砲を食ったように若干ぽかんとした表情を浮かべていた。
「…いや、今まで俺が戦ってきた相手って、俺を舐めてかかっていたので。そう言われるのにびっくりして…」
「ハハッ!天龍や悪神と戦い生き残ったお前をどうして過小評価できる?俺は嬉しいぞ、俺のような拳でぶつかってくる悪魔は滅多にいない。俺と張り合えるほど近接戦ができる悪魔ならなおさらだ。俺と同じ努力してきたお前と出会え、戦える喜びは大きい」
言葉通りの心の底から沸き立つ喜びと闘志に声を震わせ、サイラオーグは相対する兵藤に握った拳を向ける。
「俺はお前を過小評価しない。だからお前も全力でぶつかってこい!!兵藤一誠ッ!!」
「――ええ、行きます!」
彼の言葉が兵藤にさらなる闘志の炎を灯したようだ。今までよりも鋭く、真っすぐに兵藤は突撃する。撃ちだしたドラゴンショットは軽々と丸太のような腕で弾かれるが、それでも止まることなく、兵藤は拳を…。
「イッセーさん!おっぱいです!!」
「は?」
突拍子のないアーシアさんの一声に、この場の雰囲気が固まる。兵藤はもちろん、サイラオーグまでもが動きを止めた。
「今までみたいに、お、おっぱいを触ればイッセーさんは強くなれるはずです!」
この場にいる全員の注目を集めるアーシアさんがさらに発言する。
「そうか!イッセーはおっぱいドラゴンだから女性の胸を触れば力が増す!部長、ここは一つスイッチ姫の力で!」
「ぼ、僕からもお願いします!」
「エロこそイッセー君の力の源よ!」
彼女の思いつきにそうだと呼応し、表情を輝かせるアーシアさん、ゼノヴィア、紫藤さん、ギャスパー君の4人の懇願を一身に部長さんは受ける。
「ちょ、ちょっと、皆……!!」
サイラオーグは部長さんの母方のいとこに当たる。その彼の手前、非常に恥ずかしそうに部長さんはその紅髪の如く顔を赤らめていた。
え…まじ?手合わせなのに本領発揮しちゃうの?
「ま、毎回こんなノリなんですか?」
「肯定したくないけどそうなんです」
眷属に加入して以来、実際にこんな場面を目にするのは初めてなロスヴァイセさんはいたく困惑していた。誰だって、こんな場面に巻き込まれたら同じこと思うよ…。
「…赤龍帝、お前はリアスの胸でパワーアップができるのか?」
間の抜けた顔で固まっていたサイラオーグが兵藤に問う。
「え?あっ、ま、まあ…」
「ふ、ふはははははははっ!!」
この状況が面白かったらしく、愉快そうにサイラオーグは豪快に笑った。
「なるほど、乳龍帝と呼ばれるわけだ。面白いぞ、今日はここまでにしよう」
そしてついには戦いの構えを解いた。向こうからの提案にボロボロながらも戦意を落とさない兵藤は驚く。
「えっ、お、俺はまだ!」
「これ以上は俺が止まれなくなってしまう。試合前に最後の最後までお前の拳を味わいつくしてしまうのはもったいない。この続きは、試合だ」
そう言って額に流れる汗を太い腕で拭い去る。離れた場所に脱ぎ捨てられていた貴族服を拾うとさっと羽織った。
「俺には夢がある、次の俺達の試合は大勢の観客と上役たちが観戦する。そこで拳を交えて初めて俺とお前の評価は決まる。夢のために俺は研鑽を欠かさない、だからお前ももっと拳を鍛え上げて、ぶつかってこい。次にお前と戦える日を楽しみに待っている」
ふっと男らしい笑みを残して、同じく一連の手合わせを観戦していたサーゼクスさんに挨拶するとそのまま去って行った。
「…彼はさっき、両腕両足に負荷をかける封印を施して戦っていた」
「えっ」
サイラオーグと挨拶を交わしたサーゼクスさんがおもむろに言う。
あのレベルでまだ力を制限していたとは…見た限り兵藤は全力で挑んでいたのにまだあれ以上のパワーを隠しているのか。これはやはりとんでもない相手だ。
「あれがサイラオーグ・バアルだ。努力で大王バアル家次期当主の座を勝ち取った男。既に何度も禍の団と交戦し、悪魔側に勝利をもたらしている。さっきのような軽い手合わせだけで心を折られた悪魔も多い。魔力をものともしない頑強な肉体を持つ彼に魔力に頼り切った悪魔では歯が立たないからね。レーティングゲームのプロと遜色ないレベルだ」
「レーティングゲームのプロと…」
「君たちの壁は分厚く、高くそびえ立っているぞ」
「…それでも俺はやります。ライザーも、シトリーも、まだ俺はゲームだと負けっぱなしですから、今度こそ負けたくないです」
この手合わせ、普通の悪魔なら心が折れるようだがむしろあいつに火を付けたみたいだ。横から見える兵藤の面持ちにはまだ追いつけないという悔しさの色の中に固い決意の色があった。
そんな二つの色が混ざり合うあいつの横顔が、俺の中に一つの強い思いを沸き立たせた。
その思いに突き動かされるまま、俺は兵藤へと歩み寄る。
「兵藤、プライムトリガーが帰ってきたら俺と手合わせしよう。少しでもあの人に追いつかないとな」
その思いとは、仲間の助けになりたいという思い。あんな熱い顔をされたら助けになってやりたいと思うものだ。
「深海…」
「俺は試合に参加できないから、手合わせの相手になるくらいしかできない。でもなるべく強い相手とできた方がいいだろ?」
眷属でない俺は次のバアル眷属との試合に参加することは出来ない。だが試合に備えた調整のための模擬戦ならいくらでも相手になることができる。自分で言うのもなんだがオカ研の現状の最強戦力、プライムスペクターと戦闘を重ねれば、おのずと彼の戦闘力を引き上げることもできるはずだ。
「…じゃあ、よろしく頼むぜ、深海!」
「もちろんだ」
俺たちは互いに信頼の笑みを交わし合う。修学旅行のその先、バアル眷属との試合準備に向けて俺達は動き出した。
本作のヒミコ魂は悪魔・吸血鬼キラーなフォームです。ただイッセーたちとの連携だと浄化の炎に巻き込みかねないので使いにくいところもあります。
次回、「京都、行く」