ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第105話 「京都、行く」

皆が待ちに待ち望んだ来たる修学旅行の朝。会社員の通勤時間真っただ中の東京駅は大いに混雑していた。

 

その新幹線のホームの隅っこで、人目を避けて集まるのはオカ研メンバー。俺達修学旅行組だけでなく、学年違いで行かない部長さんも俺達の見送りにと足を運んでくれていた。その他のメンバーはこの日は通常授業なので学業優先ということで来れなかった。

 

「これが人数分の認証よ」

 

部長さんが俺を除いた修学旅行組に赤いカードを順番に渡していく。不思議そうに貰ったカードを見る兵藤。

 

「これって何ですか?」

 

「悪魔が京都を訪れる際に必要ないわゆるフリーパス券よ。あそこにはパワースポットが多いし、様々な勢力の管轄地でもあるから彼らに狙われないようにするためのね。当然、彼らが正式に発行しているのよ?」

 

そういえば和平会談でサーゼクスさんが駒王町に来た時、神社の神聖なパワーを魔王の力ではねのけたって兵藤から聞いたことがある。キリスト教の教会のように神社やお寺は日本神話や妖怪たちの領域ってことになるのかね。

 

「私たちは幸せ者なのよ?グレモリー、シトリー、天界、ちゃんとした後ろ盾がある者じゃないと発行してくれないわ」

 

「おおっ!それじゃあ、これがあれば金閣寺でも清水でもどこでも行けるってわけですね!」

 

「うふふっ、認証はポケットにでも入れておけばいいから、好きな観光地を好きなだけ回っていきなさい」

 

顔を輝かせる兵藤に部長さんは苦笑する。

 

「ところで悠のパスは?」

 

一人だけパスを渡されなかった俺にゼノヴィアが話を振った。

 

「俺は関係者とはいえ、人間だからパスはいらないんだよ」

 

力はあるけど俺は種族で言えばただの人間だからな。神社や寺の神聖な力なんて気にする必要もない。

 

「あ、そっか。ずっと俺たちと一緒にいるからたまに深海が悪魔じゃないってこと忘れるんだよな」

 

「イッセー君の気持ち、わかるわ」

 

「もうそれだけ僕たちに馴染んでるってことだよね」

 

紫藤さんや木場もうんうんと頷く。出会ったのは今年の4月、オカ研に入ってからの付き合いは6月からか。この5か月で随分と距離が縮まったものだ。平穏な日常だけでない、数々の激戦があったからこそ俺達はまとまることができた。

 

その思いでに軽く思いを馳せていると、不意に近くに張られていたポスターに目が留まる。白い新幹線がデザインされた観光促進のキャンペーンを広告するものだ。

 

ポスターに載っている新幹線を見て、ある感情が俺の胸に沸いた。

 

「……」

 

「深海君、どうかしたかの?」

 

俺の変化にすぐ気づいた部長さんが声をかける。一応前世に絡んだ話題だが、もう隠す必要もないので正直に話す。

 

「…いえ、ちょっと新幹線のことを考えていたら何と言うか…怖くなって」

 

俺にとって電車やそれに類する乗り物はもう遠い昔、過ぎたことなれど鮮明に思い出せる出来事を想起させるものだ。あんなことはもうないと思っていても、それが視界に映るたびにドキッとしてしまう。

 

「もしかして過去に電車で嫌なことでもあったのかしら?」

 

「…実は俺、前世では電車の脱線事故で死んだんです」

 

「えっ」

 

「あー…」

 

「マジか…」

 

「そうだったのか…」

 

まだ皆には話していなかった衝撃のカミングアウトに場が軽く凍り付いた。電車内で厄介な乗客とトラブルに遭ったならまだしも電車の事故で死んだ経験がある奴なんて俺以外にいないし、皆も予想だにしないだろう。

 

「そう…なるほど、グレモリーの列車に乗った時のあれはそういうことだったのね」

 

その中で一人、部長さんは得心が言ったような表情を浮かべていた。

 

夏休みに初めて冥界に行った際、俺たちはグレモリー家が保有する列車に乗った。その時に列車が引き金になって俺は自分が死ぬきっかけになった電車の脱線事故の記憶を思い出し俺は激しく取り乱したものだった。

 

その時一緒にいなかった紫藤さんを除く他の皆も部長さんの言葉にそうかと次々に納得の表情を見せる。

 

「深海さん、大丈夫ですか?今から新幹線ですけど…」

 

その中で一人、とても心配そうな表情でアーシアさんが訊ねてくる。

 

「正直に言うと恐怖はまだあるけど…こればっかりはしょうがないから天王寺達と喋りながら気を紛らわせることにする」

 

一人だけ車で移動という訳にもいかないし、移動中の時間もまた友と交友を深めるのにうってつけの時間だ。友と語らい合えば、きっと怖くない。

 

物憂げな感情に足を引っ張られる俺の手を部長さんが優しく手に取った。

 

「遠くから旅の無事を祈ってるわ。ちゃんと帰ってくるのよ?」

 

「…!」

 

自分達の無事を祈る彼女の優しさが未だ抜け出せぬ過去の記憶に囚われる俺の心に染み入る。

 

「深海さん、私たちもいますから大丈夫です」

 

「厄払いなら天使に任せなさいな!」

 

「お前に苦しい思いはさせない」

 

教会トリオの三人が頼もしい言葉と共に不安を溶かすような笑みを向ける。木場と兵藤も、優しい笑みを湛えて3人の言葉に追随するようにうんと頷いた。

 

「…もちろんです、ちゃんと帰ってきます!」

 

自分の事情を隠していたが故、何も言えなかったあの時とは違う。皆の温かな気遣いが、本当にありがたかった。

 

 

 

 

 

 

 

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「――でさでさ、昨日の大沢すげかったよな。三人まとめてぇ!ってさ!」

 

「わかる、あれまじで大沢が鬼みたいな表情してたよな!演技すげえよ」

 

「僕も見たけど引き込まれ過ぎて最後まで目ぇ離せんかったわ…」

 

部長さんと別れ、乗り込んだ新幹線が東京駅を発って10分ほど。運よく窓際の席に座ることが出来た俺の視界に、川のように絶えず流れる車窓の景色が映りこむ。

 

最初はやはりトラウマを引っ張って気分が乗らず、しばらく天王寺や向かいの席に座るクラスメイトとの会話に混ざれなかった。窓の景色を眺めてどうにか気を紛らわせ、話ができるくらいには落ち着けたのはついさっきのことだ。

 

「ふぅ……」

 

会話も良いが、新幹線ならではの流れる外の景色が恋しくなって顔を窓の方へ向ける。この景色もまた、修学旅行の楽しみだと自分は感じる。

 

不意に思い出すのは俺がプライムスペクターへの初変身を遂げた際に、脳内に流れ込んできた映像。

 

あれはむしろただの映像と言うよりは、誰かが見て、聞いた記憶と呼ぶのがふさわしいだろう。

 

見えたものは3つ。槍を携えた青年と少女、そして2匹のドラゴン。

 

巨大な赤い龍はどう考えても間違いなくグレートレッドだった。それと並ぶ黒い龍と、二匹と対峙するグレートレッドと引けを取らないレベルの巨体をもつ様々な獣の特性が見られる化け物。その三体がぶつかり合い、海が荒れ大地が砕け散る世界の終末を思わせるような光景。

 

もしあれが実際に誰かが経験した記憶なら、過去にあの戦意を持たずただ次元の狭間を泳ぐだけのグレートレッドが戦うような事件が起こったというのか?

 

それにあの記憶の中に居合わせた黒い龍と巨大な怪物。それらは情報がなく皆目見当もつかない。特にあの化け物はグレートレッドと黒いドラゴンと対峙し、渡り合っていた。グレートレッドと張り合えるほどの怪物がこの世に存在するというのか。

 

アザゼル先生やポラリスさんにも話したが、両者ともに首を捻るばかりだった。ただ、ポラリスさんは少しだけ怪物については知っているようなそぶりもあったが…。

 

記憶の内容も大いに気になるが、果たしてそのような世界の破滅とも呼べる記憶の持ち主とは一体何者なのだろう?

 

「おい紀伊国!」

 

思案に耽っていると、隣に座るクラスメイトから呼びかけられた声ではっと我に返る。

 

「そんな難しい顔してどないしたん?」

 

「えっ、そんな顔してたか?」

 

「してたぜ」

 

「あ、さてはゼノヴィアちゃんと一緒の席になれなくて…」

 

「いや違うって!ただ考え事してただけだよ。それより大沢の話だっけ?」

 

俺とゼノヴィアの関係はとっくにクラスに知れ渡った。というのも、ゼノヴィアの方から口を滑らせたからだ。俺としては二人の間柄はオカ研や桐生さん達以外には秘密にしておきたかったのだが、こうなってはどうしようもない。

 

「そうそう!」

 

「お前はゼノヴィアちゃんと一緒に見てるんだよな?」

 

最近はやりのドラマ、大沢直樹。生真面目で正義に燃える銀行員の主人公が不正を働く上司に立ち向かうという内容だ。テレビ離れが進む昨今にしては珍しく、飛び抜けた視聴率を叩きだし、社会現象にもなっている。

 

「小和田もだけど城崎も本当にいいキャラしてるんだよな。魅力ある敵キャラって言うのかな…」

 

「まじそれな」

 

ドラマの魅力はスカッとするストーリーだけではない。登場する悪役を演じる俳優たちの演技も素晴らしく、そのキャラのファンを生んでいるのだ。放映時には毎回悪役のセリフがSNSのトレンドに上がってくるほど、言い回しも含めて面白い。

 

我が家も日曜日の夜には必ずテレビをつけ、ゼノヴィアと二人で鑑賞するのが当たり前になっている。最初はドラマに興味を示さなかった彼女も、あくどい上司に倍返しを決める彼の姿に感動し今や立派な大沢ファンだ。

 

「うぉぉっ!おっぱいぃぃ!!」

 

「やめろ松田!何をする!」

 

…と、ドラマの話をしていると向こうの席から騒ぐ声が聞こえた。会話の内容的に兵藤と松田、元浜の三人の席からか。

 

「…なんか向こうの席が騒がしいな」

 

「ほっとこうぜ」

 

流石に車内で面倒ごとに巻き込まれたくないぞ。トラウマも完全に消えたわけではない。頼むから静かに、平穏に行かせてくれ。

 

 

 

 

 

 

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俺たちが乗る新幹線は事故もなく、無事に京都駅にたどり着いた。車内で到着のアナウンスを聞いた時の安心感ときたら天王寺たちの前で思いっきり安堵の息を吐くほどだった。

 

その後、新幹線を下りて移動中に初めて訪れ、目にする京都駅の内観が俺たちに修学旅行の始まりを告げるようにも感じた。その期待に胸を躍らせて荷物を手に、先生が他の引率の下で京都駅を出て歩くこと数分。生徒たちが続々と入っていくのは大きな高級ホテルだった。

 

その名も『京都サーゼクスホテル』。あの魔王様の影響力がここにもあるのはわかったが、もう少しその自己主張の強い名称はどうにかならなかったのか。例えばサーゼクスの部分をもじるとか。まああの方の影響力があるからこそ、一学校の修学旅行の宿泊先にできるほど値段を抑えられたのだろう。

 

通されたロビーの絢爛さに、生徒たちは感心の声を上げる者もいれば戸惑いの声を上げる者もいた。

 

「こ、こんなごっつすごいホテル泊るの初めてや…」

 

「こんなに豪華なホテルに宿泊できるなんて…私立なだけあってうちの学校はお金持ちなことね」

 

天王寺は後者、上柚木は前者のようだ。ちなみに俺や兵藤たちはどっちでもない。何せ、兵藤たちはこれに匹敵するほど大きな家に住んでいて、俺とゼノヴィアはその家に何度も訪れて見慣れているからな。

 

それからクラスごとに生徒たちが集まり、点呼が始まる。いない人の確認が終われば今度は先生方から注意事項の呼びかけが行われた。

 

そうして巡って来たロスヴァイセ先生の番で…。

 

「何か足りないものがあれば、京都駅の地下ショッピングセンターに百均ショップがありますからそこで買い物を済ませるようにしてください。小遣いは計画的に使うこと、だらしない大人にならないためにも、今のうちにお金を節約する術を身につけておきましょう。―――百均は、日本の宝です」

 

本人は至って大真面目に話していたが、最後の言葉に生徒たちからくすくすと小さな笑い声が上がる。

 

容姿端麗、歳も近いこともあってロスヴァイセ先生は生徒達から慕われている。ただ近いがゆえに先生ではなくちゃん付けで呼ばれることもあり敬う気持ちが足りないのではと他の先生から懸念される場面もあるみたいだ。

 

しかし先生、日本に来てから百均にはまっていたとは…少しでもお金を節約しようという真面目さゆえか、それともどこかズレているからなのか。

 

それからも注意事項、そして日程の説明は続いた。

 

「―――以上が注意事項です。ではこれから各自部屋に荷物を置いて、5時まで自由行動とします。範囲は京都駅周辺で遠出は控えてください。5時半までにはそれぞれの部屋に戻るように!」

 

そうして生徒達は解散し、各自割り当てられた部屋へと散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駒王学園の生徒は二人一組で一つの部屋が割り当てられる。俺の場合、天王寺がその相方で修学旅行中は共にその部屋で過ごすことになる。

 

注意事項の説明が終わり解散した後、部屋に向かう俺と天王寺。恐る恐る天王寺が扉を開け、目の前に飛び込んできたのは広い豪勢な洋室。

 

「ほ、ほんまにこの部屋に泊まってええんかいな!?」

 

手にした荷物を下ろすことも忘れて進み、テンション高めで高級ホテルと呼ばれるに相応しい部屋の内装をキョロキョロと見回す天王寺。

 

「よいしょ」

 

一方の俺はやっと休めると息を吐きながら荷物を下ろす。

 

兵藤の家でこういう豪勢さには見慣れているので大した反応はない。とはいうものの、せっかくこの部屋に泊まるのだからどういう設備があるのだろうかと色々部屋の中を見て回る。

 

「…お、これなんかバスオーディオ使えるぞ」

 

「バスオーディオ!?」

 

「こっちのプラグにスマホを繋ぐと、風呂場に音楽を流せるんだよ」

 

「ええええ!!そんなハイテクなもんもあるんか!?」

 

倒れた母親に代わってフランスで働く兄からの仕送りがあるとはいえ、決して天王寺は裕福な暮らしはしていない。このホテルの豪華絢爛差を前にもはやカルチャーショックにも等しいものを感じているのだろう。

 

「それにしてもお前めっちゃはしゃぐな…」

 

「そらこんなホテル泊ったら誰だってそうなるわ!価値観変わるで…」

 

それから『一緒に伏見稲荷行かない?』という兵藤からのメールが来るまで、天王寺の興奮は続いたのだった。

 

 




次回、「妖狐 in 伏見稲荷」
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