ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第106話 「妖狐 in 伏見稲荷 」

兵藤からお誘いを受けた俺達上柚木班は桐生班と合流しホテルを出ると、ついさっき来た京都駅から電車に乗って伏見稲荷駅を目指す。元々向こうもこの日の自由時間は何も予定はなかったが、元浜の提案で行くことになったらしい。

 

目的地はあの伏見稲荷。無数の赤い鳥居がずらりと並んでいるところで有名なその神社は、同じく主人公たちがし京都へ修学旅行に行った仮面ライダーのロケ地にもなったことがあるため、ライダー好きとしても非常に興味深い場所だ。

 

京都駅から出発した電車に揺られる俺達は、互いに雑談をして暇な時間を潰す。

 

「え、お前だけ一人部屋で和室?」

 

「そうなんだよ、ベッドじゃなくて敷布団だし、トイレと風呂も洋室ほど華やかじゃねえし…。何でも有事の際にはそこを話し合いの場にするんだとよ」

 

隣に座る兵藤と、俺は互いに振られた部屋について喋る。普通なら二人で一部屋割り当てられるはずだが、部屋での時間を共に過ごす話し相手もいないとは随分かわいそうだ。消灯時間後も先生の目を盗んで、相方とこそこそ楽しく喋るのも修学旅行の楽しみの一つなんだがな。

 

「へぇ…修学旅行だし、何事も起きないのがいいんだが」

 

「それな。俺も修学旅行にまで面倒ごとに巻き込まれたくないよ」

 

うんざり気な声色で言う兵藤に俺は心底同意した。それでももし禍の団とかが面倒ごとを持ち込んで来たら、私怨も込めて手ひどい目に遭わせてやろう。

 

通路を挟んで向こうの席では。

 

「へぇー、御影は天王寺とバイト先一緒なんだ」

 

「はい、同級生だけど飛鳥くんは頼れる先輩です。失敗してばかりの私にも良くしてくれて…」

 

桐生さんと喋っているのは今回上柚木班に加わることになったクラスメイトの御影藍那さん。黒髪でいかにも地味っ子と言った感じで大人しい人だ。

 

「ふーん、だってよ天王寺」

 

「いやー、そんな言われたら照れてまうわー!」

 

と、ニヤニヤしながら天王寺を突っつく桐生さん。天王寺はまんざらでもないように頭をポリポリ掻きながら照れくさそうにあいつらしくニコニコ笑う。

 

そんな褒められてまんざらでもない彼の様子が気に入らないのか、顔をむすっとさせた上柚木が。

 

「…」

 

「いだっ!?綾瀬ちゃん頬引っ張らんといてや!?」

 

無言で天王寺の頬を引っ張る。

 

恋のライバル出現、といったところか?意中の相手は鈍感、そして恋のライバル。彼女の恋路は険しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都駅から一駅進んだところにある伏見稲荷駅、そこから数分歩くことで今回の目的地に到達する。

 

今までに見てきた神社と違って、見惚れるような綺麗な赤色が特徴的な本殿を俺とゼノヴィア、元浜と兵藤は感嘆の眼差しで見上げる。

 

「いやー、綺麗な赤だ…」

 

「京都はレベルが違うなぁ」

 

ここは伏見稲荷大社。当初はここに行く予定のなかった俺たちが最初に足を踏み入れた、京都の著名な神社の一つだ。

 

「ここは宇迦之御魂大神っていう、田んぼの神様を祀っているらしい」

 

「田んぼということはつまり豊穣の神か。日本には八百万の神々がいて、それぞれが様々な事象を司っていると聞いたが…」

 

「そうそう、その他にも4柱の神々を祀っているんだとさ」

 

「むぅ…一神教の信徒の私にはちょっと難しいな。名前を覚えるのが大変だ」

 

「まあ、全部を覚える必要はないさ」

 

流石に日本神話に登場あるいは全国各地で祀られている神様の名前全てを覚えるのは骨が折れる。そんなことする暇があるなら勉強に脳のリソースと労力を割けと言われそうだ。

 

「飛鳥、これ」

 

「おっ、見て!これ、狛犬やなくて狛狐やで!」

 

「かわいい…!」

 

向こうで狛犬の代わりに置かれている首に赤布を巻いた狐の像を見て盛り上がるのは天王寺と上柚木、そして御影さん。

 

「魔よけの像だな。パスのおかげかなんともないよ。でも…」

 

「やっぱり、誰かに見られてる感じがするな」

 

この伏見稲荷についてからというもの、ずっと誰かの視線を感じる。周りに観光客はいるが、少なくともそれらからのものではない。視線の数は正確な数まではわからないが、複数人だということはわかる。

 

「パスがあるとはいえ、本来私たち悪魔は招かれざる客だ。一応の監視は着くのだろう」

 

「ならいいんだけど…」

 

万が一敵意ある連中だったなら、最悪は桐生さん達を巻き込む事態にもなり兼ねない。何としてでもそれだけは回避しなくては。

 

「アーシア、これなんてかわいくない!?」

 

「小猫ちゃんが好きそうな可愛いストラップですね!」

 

そんな懸念を抱く一方で、向こうの土産物を扱う物販コーナーでは、アーシアさんと紫藤さんが陳列する狐に関する商品に目を輝かせていた。

 

俺も後で伏見稲荷のお土産を買っていくか。一観光地につき何かしら一つはそれらしい物品を思い出を振り返るお土産として買いたいものだ。

 

仲睦まじく品物を興味深そうに眺める二人の背を見た松田が。

 

「よし、教会トリオで写真一枚撮るぞ!ゼノヴィアちゃんと上柚木も入れ!」

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

意気揚々とカメラを手に取る松田の誘いに二人も乗って4人が集まると、パシャリと教会トリオ+上柚木のコンビを写真に収めた。

 

「ちょっと、私を外さないでよね」

 

「いででで!」

 

半眼で不満を口にする桐生さんが、撮った写真を見てニヤニヤする松田の耳をのけ者は許さないと言わんばかりに引っ張る。

 

一日目の自由時間はホテル周辺の街を歩こうかくらいにしか考えていなかったが、それ以上に充実した時間を過ごせそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから本殿の向こうへ進み、奥の伏見山へと入ろうとする俺たちの目の前にずらりと並ぶのは無数の赤い鳥居だった。

 

「な、何だこれは!?赤い鳥居がこんなにたくさん…!」

 

「す、すごいです…」

 

テレビやネットで何度も見たことがある俺達と違って、まだ日本に来てから一年と経っていないゼノヴィアとアーシアさんは異様な光景だと大いに驚いている。

 

「これってテレビとか旅行雑誌でよく見るやつや!」

 

「おぉ…これがあの千本鳥居か」

 

ここがかの有名な千本鳥居。仮面ライダーフォーゼの修学旅行回で土下座のゾディアーツことリブラ・ゾディアーツが出てきた場所だ。錫杖を携え、ローブを纏って修験僧のような雰囲気を醸しながら鳥居の奥からやって来る姿が様になっていたのが記憶に残っている。

 

「さ、くぐっていきましょ!」

 

快活に先頭を切る紫藤さんに、俺たちは着いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

幾つもの鳥居をくぐり、延々と続く山道を踏破して数十分後。頂上近くの最後の休憩所で俺たちは一息つく。

 

休憩するといっても俺や紫藤さん、兵藤たち悪魔組は日頃から鍛えているので全く疲れていないのだがそれ以外の一般人である元浜や御影さんたちが疲れが溜まって来て休憩を希望したのだ。

 

「絶景ね」

 

「せやなぁ…ええわぁ…」

 

そう上柚木がぽつりと漏らす。伏見山の頂上近くの休憩所から臨む京の街並み。雲一つない青空の下に昔ながらの景色が点在する眺望は風情があり、

 

「おぉ…」

 

「心が洗われるようだ……」

 

「エロだらけのあなた達の心が洗われたら何が残るの?」

 

と、晴れやかな表情の松田と元浜の二人に上柚木の鋭いツッコミが入る。色々背負うものができた兵藤と違って、こいつらの心が洗い流されてクリーンになったら一体どうなるのだろう。

 

「取り敢えず、写真をパシャリと」

 

桐生さんもスマホを取り出しては、晴れやかな眺望を写真に収める。それを見て触発されたか、「せや」と天王寺がごそごそと鞄からスマホを取り出す。

 

「折角なら皆で写真撮ろ!集合写真や!」

 

「お、いいね!」

 

「そうね」

 

「私も混ざっていいのかな…」

 

「当たり前や、皆そこに集まっといてや!!」

 

天王寺の思い付きにいいねいいねと反応も良く、早速みんなが一か所に集まる。言い出しっぺの天王寺は集まった俺たちの向かいにある手ごろな岩の上にスマホを置くと素早くこちらに戻って来た。

 

「タイマー機能で5秒後に撮るで。皆笑顔で写ってな!」

 

「はい、チーズ!」

 

写真を撮った後、早速集合写真を見ようとこぞって天王寺のスマホへ俺達は押し寄せる。持ち主の天王寺がスマホを操作し、撮れたてほやほやの写真を表示した。

 

写真に写る皆の笑顔は様々だった。屈託のない笑顔、控えめながらも愉快そうな微笑、それぞれの笑顔に性格がよく表れているようにも見える。しかし皆、この時間を心の底から楽しんでいるのがありありと理解できた。まだ一日目だというのに、とびっきりのいい写真が取れてしまったみたいだ。

 

「いい写真ね」

 

普段はツンツンしている上柚木も、この写真を見て優し気な微笑みをたたえて感想を口にする。

 

「後でこの写真送ってくれ!」

 

「私もさっきの写真ちょうだい!」

 

「わ、私も欲しいな…」

 

「言われなくとも、もちろん皆に送るで!」

 

天王寺がスマホを操作すると、早速普段から使っているアプリのグループチャットにさっきの写真が送られて来た。

 

「…これが修学旅行か」

 

「皆で集まってるのにいつものように遊ぶのとは違って、もっと特別で、楽しい気分です」

 

はしゃぐ皆をから少し離れたところで、ゼノヴィアとアーシアさんは感慨深そうな笑みを湛えていた。

 

教会にいた頃とは違う、以前のままなら絶対に想像もしなかった、得られなかった日常。その中でも特に大きな修学旅行という学生の一大イベントを体験し、その楽しみの中にいることに彼女たちは感慨深く感じているみたいだ。

 

「悪い、ちょっと先にてっぺんまで行ってくる!」

 

「Ok、早めに帰ってくるのよ?」

 

気がはやったか一人兵藤が断りを入れてから一足先に先の階段を上り始める。ここに来るまでそこそこ歩いたというのに、あいつの足取りには全く疲れた様子がない。

 

夏の合宿であいつは龍王のタンニーンさんに追われながら山籠もりしてたか。八極拳を習った夏の合宿、まだひと月前の話だというのにもう懐かしく感じる。それだけ合宿から今になるまでの出来事が濃密だったということか。

 

遠ざかるあいつの姿をゆっくり一息吐きながら眺めていると、いきなりがっとゼノヴィアが俺の肩を掴まれた。

 

「ちょ、ゼノヴィア?」

 

「静かに」

 

さらに紫藤さんも捕まえると桐生さん達からより離れた所に足早に連れていった。その彼女の姿を見てアーシアさんも怪訝な表情を浮かべながら着いて来た。

 

「どうした急に」

 

「さっきから感じていた監視の視線が消えた。イッセーがいなくなった瞬間にだ」

 

そして彼女は小声ながらも真剣な、危機感のある声色で切り出した。

 

「私も感じたわ」

 

「…まさか、一人になった兵藤を」

 

「イッセーさん…!」

 

このタイミングで消えるならそうとしか考えられない。皆と別れた兵藤を袋叩きにしてやろうという寸法か。だがそうは問屋が卸さない。

 

「すぐに追いかければ間に合うか」

 

「ああ。イリナは残ってくれ、皆の身に何があるかわからないからね」

 

うんと首を縦に振る紫藤さんを見てから、俺は突然思いついたといった調子で休憩で一息吐く皆に声をかける。

 

「ごめん、俺たちも一足先に山頂まで行ってくる!」

 

「OK、私たちは5分くらいしたらまた登るから」

 

「青〇はするなよ!」

 

「しねぇよ!!」

 

桐生さん達の承諾と、松田のしょうもないセリフを受けて俺とゼノヴィア、アーシアさんは駆け出した。

 

さっきからずっと俺たちを監視していた輩の顔を拝むときが来そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石畳の階段を駆け上がり、見えたのは辺りが林に囲まれた古ぼけた社だった。そして見えたのは社だけでなく、俺たちが探していた兵藤とそれを取り囲む山伏衣装に身を包んだ黒い翼を生やす鳥頭の男たちに狐の面を被った神主たち、さらに彼らに守られるように後方に控える狐耳を生やした金髪の少女もいた。

 

この状況と彼らの剣呑な表情からして、なにやら物騒なことが起こっているのは間違いない。その証拠に、鳥頭の男が籠手を装着した兵藤に錫杖を振るう。

 

「やっぱりか!」

 

「ハァ!」

 

それを認めるや否や、反射的に颯爽と横合いから飛び出し、鳥男に強烈な跳び蹴りを見舞う。変身はしていないものの勢いの乗った意識外からの一撃にたまらず男は吹っ飛び転がった。

 

「…!」

 

突然現れた俺たちに、当然謎の集団の注意が傾く。俺たちは兵藤の前に彼を守るように出た。

 

「イッセー、これはどういうことだ?」

 

「パスを持ってるから狙われないんじゃないのか!?」

 

「わかんねえよ!向こうがいきなりお母さんを返せって…!」

 

と、兵藤が視線を向けるのは奥にいる狐耳の少女だ。当の少女は顔を真っ赤にして俺たちをねめつける。

 

「この期に及んでまだ嘘を吐くのか…!許せぬぞ!」

 

少女の怒りに呼応するかのように、ますます集団が放つ敵意が鋭くなった。理由はわからないが、一戦交えるしかないようだ。

 

「アーシア!部長から貰ったあれを。それとイッセー、アスカロンを貸してくれ」

 

「はい!」

 

アーシアさんがポケットから取り出した赤いグレモリーの紋章の入ったカードを取り出して兵藤に、渡された兵藤は籠手から龍殺しの聖剣アスカロンを取り出しゼノヴィアに渡す。

 

「理由はどうあれ、来るなら迎え撃つ!」

 

戦意の発露によりゴーストドライバーを顕現させ、スペクター眼魂を差し込む。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

ドライバーから出現したパーカーゴーストが敵をけん制するように宙を舞って、俺達と敵の集団の間に距離を生む。

 

「変身」

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕

 

レバーを引き、輝く青いオーラと共に変身を完了し、戦いの準備を万端にする。

 

「よし、『騎士』にプロモーションだ!」

 

隣に出た兵藤が内に宿る『兵士』の駒の特色、昇格を発動する。

 

さっき兵藤が貰ったカードは部長さん不在の時、有事に備えて『王』が『兵士』に昇格を承認するシステムを代行する機能がある。

 

〔Explosion!〕

 

「皆、よくわかんないことになってるけどなるべく周辺に被害を出さないように追い返す程度にしよう」

 

「「了解!」」

 

兵藤の提案に、俺とゼノヴィアは敵を見据えながらも同意する。

 

ここは数多くの文化財がある京都だ、下手に暴れて建物を壊すのは良くない。あの社ももしかすると壊すとまずいものかもしれないしな。

 

「私たちを舐めてくれおって…!」

 

あいつの提案が敵の怒りの火に油を注いだらしい。向かってくる3人の鳥男が。全員揃って、一斉にブンと錫杖を振り下ろす。

 

〔ガンガンハンド!〕

 

3つの錫杖の一撃を召喚したガンガンハンドロッドモードで受け止めた。3つ分の一撃の重みを受け、歯噛みし耐え、踏ん張る。

 

「そら!」

 

しかしこのまま耐えるだけでは撃退はできない。重みに耐えながらも片足を上げて真ん中のを蹴り飛ばす。重みが一つ消え、予想外の反撃に鳥男たちの集中が乱れ、二つの重みが少し軽くなった。

 

それを好機にと一気に受け止めた攻撃を横にそらし、さらにガンガンハンドを横薙いでもう一人の横っ腹にぶつける。

 

「ぐえっ!」

 

一撃を受けてよろめく鳥男にもう一人も巻き込まれて、一斉に倒れこんだ。

 

兵藤の方は『騎士』の駒の力を活かした俊足で敵を翻弄し、攻撃を躱しては蹴りを入れていた。ゼノヴィアは出力をかなり抑えたアスカロンで攻撃をいなし、武器を破壊して無力化する。

 

こうして敵の半数が無力化された時だった。後方で忌々し気に俺たちを睨み、歯噛みする狐の少女が手を上げる。

 

「皆の者、撤退じゃ!今の戦力では奴等に敵わぬ…!しかし必ず、母上は返してもらうぞ!」

 

それだけ言い残すと俺達と敵の集団の間にぶわっと木の葉を巻き上げる一陣の風が吹く。風が止んだ時には既に敵の姿はなかった。

 

「…全く、どうなってるんだ」

 

こうして俺達3人はポツンと残された。それがこれから京都で起こる波乱の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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当然、襲撃を受けたことはアザゼル先生とロスヴァイセ先生に報告した。先生たちも全く予期していなかったらしく二人そろって、何故京都で襲撃を受けるのかと困惑していた。

 

ここを管轄する者に今一度確認を取ると先生は言った。部長さんにも連絡を取るべきかと兵藤は訊ねたが、まだ情報が少ないし余計な心配はかけるなと先生の方から止められた。

 

それと兵藤の方から、赤龍帝の可能性についての話があった。以前四大魔王様全員とお会いしたという兵藤は現ベルゼブブ様から悪魔の駒の更なる力を解放するという『鍵』を貰ったらしい。そして新幹線での移動中、精神世界で過去にいたという二人の赤龍帝の残留思念から神器の深層部にある可能性を秘めた『箱』を渡され、鍵を使って開いたという。

 

しかし箱を開いたものの変化は起きず、それどころか箱の中身が外に飛び出して行方不明になってしまうという事態になってしまったらしい。そんなことあり得るのかと流石の先生も困惑し、お前のものならいつかは戻ってくるはずだという結論しか出せなかった。

 

「いやー、夕食美味しかったなぁ!」

 

「あの湯豆腐気に入ったぞ、あれ家でも作りたいな」

 

入浴時間の前に自分たちの部屋で俺と天王寺はついさっきまでの夕食時間を振り返りながら一息吐く。

 

魔王の名を冠する豪勢なホテルに恥じない内容の夕食に大変満足した。卓を彩るのは日頃は見ない京料理に、独特の雰囲気を放つ京野菜。まるで未知の世界に踏み入れたような時間だった。

 

「お、作ったら呼んで!僕も食べに行くわ!」

 

「その時はまた皆を誘うか!あっ、でも家のキャパが心配だな…」

 

大勢を集めて食事するならそれこそ兵藤の家の方が向いてそうだ。十分にスペースは確保できるし、あの感じなら一般家庭とは比べ物にならないくらい調理器具も揃っていることだろう。

 

なら今度、兵藤家に話を通してみようかな…?

 

そう考えていた時、コンコンとドアの方からノックの音が聞こえた。

 

「誰だ?」

 

就寝時間はまだ遠いから就寝前の点呼ではないはずだ。なら一体誰だ?

 

怪訝に思いながらドアを開けると。

 

「アザゼル先生!それに兵藤とロスヴァイセ先生も」

 

そこにいたのは先生二人と兵藤だった。ロスヴァイセ先生だけ、ややむすっとした表情だ。

 

「よっ、伏見稲荷で随分楽しんでたみてえじゃねえか」

 

「な、何か僕たち自由行動の時にまずいことでも…!?」

 

普段通り軽い調子のアザゼル先生の言葉に含みを感じたか、天王寺がビビりあがる。

 

「いや、そうじゃない。ちょっと紀伊国を借りていく。天王寺は部屋に戻ってくれていいぞ」

 

「へっ?」

 

「そ、それならよかった…」

 

と、用のない天王寺はほっと一息吐いて部屋へと戻っていく。その後ろ姿を見届けた後、ドアをそっと閉じる。

 

「…天王寺を遠ざけたってことは異形絡みですよね」

 

「そうだ、今からグレモリーとシトリー眷属を集めて近くの料亭に行く」

 

「?」

 

「魔王様がお呼びだ」

 




次回、「京都街巡り with 上柚木班」

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