ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第108話 「妖の世界」

ロスヴァイセ先生に連れられ、俺とゼノヴィアは舎利殿から少し離れた人気のない寂しいところに行った。

 

木々に囲まれたそこには赤い鳥居がポツンとあるだけだった。常人なら迷い込みでもしない限りは絶対に足を踏み入れることのないこの場所こそ、現世と妖怪の世界を繋ぐゲートである。

 

鳥居の前で待っていた妖怪側の使いと共に鳥居を越えた先にあったのは、薄暗い夜の世界。江戸時代のものと変わらぬ古い家屋が建ち並び、一つ目のちょうちん、長い首をうねらせる女性など多くの妖怪たちが往来する。彼らは皆、俺たちとすれ違うたびに敵意はないが奇異の目を向けてきた。

 

初めて見る世界に、非常に興味深いとあちこちを見渡しながら歩いていると。

 

「ケケケ!」

 

「どぅわっほう!!?」

 

何の前ブリもなく唐笠の妖怪がいきなり目と鼻の先に飛び出し、ぐわっと脅かしてきた。まさか仕掛けられるとは思わなかったので、たまらず俺は反射的に一歩後ずさり、奇声を上げてしまった。

 

それを見た周りの妖怪たちの間にどっと笑いが起こる。な、何なんだ…?

 

「すみません、ここの妖怪たちは悪戯好きなだけで害をなすつもりはありませんよ」

 

使いの方がびっくりして腰を抜かしかけた俺に申し訳なさそうに言う。

 

これが彼らなりの歓迎ってことなのか?…いきなり驚かされたのはちょっとばかり気に喰わないが、俺の反応が気に入ってくれたのなら何よりだ。

 

「ここの裏京都と呼ばれる空間は、悪魔のレーティングゲームのゲーム用空間と近い術で作られたそうですよ」

 

「裏京都か…」

 

人のいない、まさに妖怪たちだけの世界。あちらこちらに妖怪たちがいる町並みはまさしく百鬼夜行とでもいうべきか。

 

人間の文明が発展した今、表の京都がこの町並みと同じだった頃と比べるとさぞ妖怪の人口も増えたことだろう。人間の開発によって住処を失い、タンニーンさんと共に冥界に行ったドラゴンと同じような境遇の妖怪も多くないはず。

 

しかしこの町並みが江戸時代のそれと近しいということは江戸時代が彼らにとって最も過ごしやすく、また人間との距離が近かった時代という証明なのだろうか。

 

…少し考えすぎたかな。

 

街を抜けると、今度は木々が立ち並ぶ鬱蒼とした林に入った。さらにそれを抜けると、さっきの鳥居よりも大きく、手入れのされた威厳ある大鳥居が見えた。そしてその向こうに、さっき訪れた二条城のような大きな屋敷が建っていた。

 

「向こうの屋敷に、皆様方がお待ちしております」

 

「来たか」

 

「やっほー♪」

 

「よっ!」

 

鳥居の付近にはアザゼル先生やレヴィアタン様、さらには兵藤やアーシアさん、紫藤さんもいた。首脳クラスの先生たちはともかく兵藤たちはいち早く妖怪側からのコンタクトがあったとのことだ。

 

彼らと合流した後も使いの者の案内は続き、やがて屋敷内の畳が張られた和室の応接間へと通された。

 

「九重様、皆をお連れ致しました」

 

「うむ、ご苦労じゃ。座ってくれて構わぬぞ」

 

九重さまと呼ばれた昨日の襲撃でも見かけた狐の少女の勧めで、歩きっぱなしだった俺たちもやっとこさと畳の上に腰を下ろす。

 

「私は京都に住む妖怪を束ねるもの…八坂の娘、九重と申す」

 

感情を剥き出しにして襲ってきた昨日とは違い、改まった様子で少女は名を名乗る。ここのリーダーの娘ってことはつまり、八坂って人が九尾で、この子は九尾の娘ってわけだ。だから狐耳か。

 

「先日の一件は申し訳ない。おぬしたちの事情も知らず、こちらも気が立っておった故襲ってしまった。どうか、許してほしい」

 

そしてひたと頭を下げて、向こうは誠意を込めた謝罪の意を示した。

 

昨日とは打って変わった態度に俺たちは少々戸惑った。ここまで潔く謝罪してくるとは思わなかったからだ。それだけ向こうも悪いことをしてしまったと思っているということか。

 

「過ぎたことだ。二度と邪魔しないなら私からは何も言わないさ」

 

最初に許しの言葉を口にしたのはゼノヴィアだった。

 

「…そちらが謝る気があるならとやかく責める気はない」

 

「大事なのは過ちを赦す心、私は気にしてないからいいわ」

 

「平和が一番です」

 

どうやらみんなの間で謝罪を受け入れるは俺だけではなかったようだ。

 

謝意を見せてくるのであれば、こちら側から言うことは何もない。襲撃されたとはいえこちら側にはけが人も死傷者も出ていないのだから。

 

「俺も同じだ。だから気にしなくてもいいよ」

 

「しかし…」

 

謝罪を受け入れてもらえたのに、それでも九重はまだ納得のいかない面持ちだ。それだけこちらに対して悪いことをしたと思っていたようだ。

 

そんな九重の様子に、兵藤は

 

「えっと…九重は、お母さんが心配だから、間違って俺たちを襲ったんだよね?」

 

「そ、そうじゃ…」

 

「本当にお母さんのことが心配だからこそ、九重は動いたんだよな?結果的には間違ったことになってしまったけど九重はちゃんと謝った。なら、俺たちは何も咎めたりしないよ」

 

九重の小さな肩に手を置いて、優しい笑顔で兵藤は語り掛けた。

 

「あ、ありがとう…」

 

彼の優しさに当てられたか顔を赤くしながらも、一応の安心した表情を見せる九重。

 

「お人好しだなお前は」

 

九重への優しさにふと苦笑が漏れた。

 

俺には同じことは出来ない。おっぱいドラゴンだと冥界の子供たちに人気を集める存在だからこそ兵藤はできたと俺は思っている。

 

「さすがおっぱいドラゴン。子供の扱いが上手だな」

 

「イッセー君は子供の味方なのね!」

 

「私も見習いたいです」

 

ゼノヴィア達も素直に彼の行動を評価する。

 

「少し見直しましたよ、ほんの少しだけ」

 

「先生まだ根に持ってる…」

 

素直に褒める皆の中でロスヴァイセさんだけは何か思うことがあるような顔をしている。もしかして、昨日の夜先生がむすっとしていたことに兵藤が関係を…?

 

「ここでもおっぱいドラゴンの布教なんて…魔女っ子番組『まじかる☆レヴィアたん』の主演として負けてられないわね!」

 

と、レヴィアタン様はレヴィアタン様で一人で対抗心を燃やしていた。冥界にはそんな番組があるのか。プリ〇ュアみたいな感じか?

 

優しい兵藤に照れながらも九重はぶんぶんとかぶりを振って最初のように改まった表情へと戻った。

 

「そちらを襲撃してしまった手前、大変申し訳ないのじゃがどうか…どうか、私の母上、八坂を助けるため力を貸してはくれないじゃろうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件は数日前に起こった。

 

裏京都を取り仕切る九尾の狐、八坂姫は須弥山の帝釈天の使者と対談するために警護の妖怪たちと共に屋敷を出た。しかし八坂姫は対談の場に姿を現さず、不審に思った妖怪たちが調査を行ったところ八坂姫に同行していた警護の一人を発見した。

 

男は既に瀕死で、保護されるもそう長くはなかった。しかし彼の証言で八坂姫と警護の一団が何者かの襲撃を受け、姫が攫われてしまったことが発覚した。男は死の間際に「気付いた時には霧に囲まれていた」と口にしたという。

 

そうして血眼になって姫攫いの犯人探しが始まったところで、京都に来た余所者の俺たちが九重の目に留まり襲い掛かったとのことだ。

 

事情を聴き、俺たちは一様に難しい表情を浮かべた。先の事件と同じ様にまたも会談を邪魔する敵が現れたからだ。

 

「先日のロキの一件然り、和平にはそれを妨害しようという輩が付き物だ。今回はそれがテロリストだったってわけだ」

 

三大勢力の和平という今の和平の流れのきっかけを作り出した先生はやれやれと嘆息する。

 

禍の団…あいつらには悪いが、ロキと戦って以来自分の中でどうにも連中を大したことないんじゃないかと過小評価してしまっているような気がする。悪神と英雄たちの子孫、魔王の末裔と比較すると、どうにも小さく見えてしまう。

 

まあ戦闘にそういう過小評価を持ち込むと手痛い目を見るのはわかり切っているので十分気を付けるが。

 

「総督殿、魔王殿。私からもお願いしたい、どうか八坂姫を助けてはくれないだろうか。我らにできることならなんでも致す」

 

ずいと話に入って来たのは先から九重のそばに控えていた堀の深い顔つきをした鼻の長い翁。昨日遭遇した山伏男の衣装をより華美にしたものを纏い、そして厳格なオーラを放つ彼は天狗の長だという。

 

さらに天狗の長は大きめの巻物を取り出すと、ばっと広げて中身を俺たちに見せた。

 

「ここに描かれておりますのが、八坂姫である」

 

「うぉっ」

 

巻物の中に描かれ、俺たちの注目を集めるのは巫女装束に身を包んで金毛の狐耳を頭に生やす、絵からして容姿の美麗さが伺える美女。

 

これが攫われたという八坂姫か。大きな乳房もだが何より俺の目を引いたのがあのふさふさの金色の尻尾。さぞいい触り心地だろうな。

 

って兵藤、お前はどうせおっぱいばかり見てるんだろ。男だからそっちに目が行くのは仕方ないけども!

 

「…少なくとも、八坂姫は京都から離れていないのは確かだ」

 

巻物の絵を見て、神妙な表情で先生はぽつりと言う。

 

「どうしてわかるんですか?」

 

「京都全域の気が乱れていない。九尾の狐はここ一帯の気を総括し、バランスを保つ存在だ。京都全体の気が乱れていないということはまだ京都にいて、殺されてもいないってことだよ」

 

「なるほど…」

 

京都にとって八坂姫は重要な存在であることはわかった。それを知ると同時に自分の中にふと一つの可能性が浮かぶ。敵の目的が単なる要人の拉致でなく、むしろ八坂姫の力を狙ったものだとしたら…?

 

だがもしそうだとして、一体何の目的でその力を利用するのかがわからない。京都の気を乱して大規模な被害を出すというのなら既に殺しているだろうし、交渉材料にするつもりならもう向こうからの声明が出ているはず。

 

敵の目的は一体何だ…?

 

「お前たちには悪いが、妖怪側もこちらも今人手が足りていない。対禍の団でお前たちを呼ぶのは確実だ。その時は力を貸してくれ。ここにいない木場とシトリー眷属には後で伝えておく。旅行を満喫しても良いが、有事の際には頼んだぞ、いいな?」

 

「「「「はい!」」」」

 

「お願いじゃ、我が母上を助けてくだされ……いや、助けてください、お願いします」

 

話の最後に九重とその隣に控える天狗の長たちや従者も畳に手をついて深く頭を下げる。

 

最後の最後まで俺達に頭を下げ、今にも泣きそうに上ずった声で救出を懇願する九重の姿は母親の無事を願う、一人の少女のものだった。

 

禍の団、俺たちの修学旅行に土足で入り込んだあげく少女を泣かせた代償は高くつくぞ。

 

寂し気な彼女の姿が、悪辣な敵への怒りの炎を灯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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妖怪陣営との話も終わり、裏京都から表京都に戻った俺たちはホテルへと帰る。

 

昨日のように豪勢な夕食に舌鼓を打ち、広々とした大浴場で汗を洗い流すと消灯まで2時間ほど自由時間がある。

 

廊下は時折先生が巡回し、基本的に余所の部屋への出入りは厳禁なので、俺と天王寺はこういう時のためにと持ち込んだカードゲームで暇な時間を友情をはぐくむ楽しい時間へと変えた。

 

「どっちだ?右か、左か」

 

「……」

 

ババ抜きは終盤。残り手札1枚の俺は、どちらかがジョーカーである2枚の手札を持つ天王寺の顔をふとした変化から正解への手掛かりを導き出さんとじろりと睨む。

 

対する天王寺は必死に表情から手札を読まれまいと、かたくなにポーカーフェイスを保つ。

 

「こっちだ」

 

思い切って選んだカードは。

 

「よっしゃ俺の勝ちだ!♦と♣のA!」

 

「ぬぁー!負けたぁ!」

 

意気揚々と揃えたカードを捨て札にし、勝利を宣言する。

 

「これで俺が1勝2敗か。運もあるんだろうけど天王寺は強いな」

 

「運も実力の内やで!」

 

本人は運と言っているが、実際天王寺の読みは非常に鋭い。勘が冴えわたるというか、その冴えを周りの人にも使ってくれたら上柚木も苦労しないだろうに。

 

「いやー、それにしても今日の散策で結構買ったな」

 

カードゲームもひと段落着いて、部屋の隅に置いたいくつかの袋を見る。それらの中には全て、今日の散策で購入したお土産が入っていた。

 

「明日の映画村はもっと買うんやろうなぁ」

 

「だよなぁ」

 

あそこは班の話に出た時、一番ゼノヴィアの食いつきが良かった場所だ。軽くどんな場所か説明するとニンジャやサムライに会えるのかと子供のように目をキラキラさせていたものだ。

 

…そういえば、似たような街並みの世界にさっき行ったような。仕方ないとはいえ絶対順番は逆が良かったと思う。

 

「今日はどっちかっていうと勉強になるところが多かったけど、明日は主に楽しむところって感じだな」

 

北野天満宮や二条城など渋い場所をチョイスしたのは上柚木だ。真面目な彼女は勉強になるところに行きたいという意思表示があったのでそれを尊重し、清水寺や金閣寺のような人気スポットだけでなくあまり修学旅行生が行かないような場所も予定に入れた。

 

「せやな、今からドキドキするわ」

 

「予算は持つか?」

 

「まだいけるで、この修学旅行のために頑張って稼いだんや!」

 

天王寺は駅前のカフェで御影さんとバイトしているんだったな。カフェの名前は確か…『Nacita』だっけ。スケジュールが空いたら、ゼノヴィアや兵藤たちと一緒にお邪魔してみるのも良さそうだ。

 

トランプをかたずけてUNOを鞄から引っ張り出そうと腰を上げた時、軽快な着信音が俺のスマホから鳴った。

 

「ん?」

 

何事かと思ってスマホを立ち上げてみれば、別の部屋にいるゼノヴィアからのメッセージだった。

 

テキストは短く、『上の階にあるイッセーの部屋に来てくれ。君の力が必要だ』とだけ。肝心の俺を呼ぶ要件は何も記されていない。

 

だが彼女の頼みなら断るわけにはいかない。先生に怒られるのは怖いが、ちょっと勇気を出してみるか。

 

「悪い、ちょいと野暮用が出来たから部屋を出る」

 

「ん、先生に見つからんようにな!」

 

天王寺に断って、俺は部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生に気取られないよう慎重に慎重を重ねて行動し、上階へと上がった俺はその扉を前にする。

 

「ここが兵藤の部屋か」

 

ノックの音が先生の耳に入ってはいけないので、内心失礼を誤りながらもノックをせずそのままドアノブをゆっくり捻って部屋へ入る。

 

「邪魔するぞー…って本当に和室だな」

 

八畳一間の和室にあるのは丸テーブルと最新のものと幾段かグレードダウンしたテレビ。自分の部屋の設備と比較するとかなり見劣りするものばかりだ。当然和室なのでベッドではなく敷布団だ。

 

「待っていたぞ、悠」

 

「やっほー!」

 

「来たんですね」

 

部屋の中央に集まっていたゼノヴィアと兵藤、さらに紫藤さんとアーシアさんが来訪に気付いた。というか、呼ばれたのは俺だけじゃなかったのか。

 

「あれ、紫藤さんとアーシアさんもいたのか?」

 

「はい、私たちもゼノヴィアに呼ばれたんです」

 

「ああ、私が呼んだんだ」

 

当人はこくりと頷く。

 

「で、何のために皆を集めたんだ?トランプでもするのか?」

 

俺たちを集めた張本人のゼノヴィアに、今回のメッセージの理由を訊ねる。

 

「いや、もっと大事なことだ。特にアーシアにとってね」

 

「?」

 

もっと大事なこと?アーシアさんにとって?

 

はて、と内心疑問符を立てているとゼノヴィアは一段と改まった表情で俺と向かい合う。

 

「悠、今からイッセーとアーシアの前で私と子作りをしてくれないか?」

 

「「「「……」」」」

 

その発言でこの場が静まり返ったのは言うまでもない。「えっ」と言わんばかりの表情で、この部屋に居合わせた全員の表情が固まる。

 

「…ごめん、最近ちょっと耳が遠いみたいでさ。もう一度言ってくれ」

 

「む、それは幹事長の…じゃない、今この場で私とセ〇〇スしてくれ」

 

「「「ええええええ!!?」」」

 

二回目のとんでも発言でようやく彼女の言葉を理解できた俺と紫藤さん、兵藤の驚愕の叫びが綺麗に重なる。

 

何故に今ここで!?別に修学旅行が終わって帰ってからでもいいだろうに、どうしてこのタイミングで!?

 

「ちょ、ちょっと待って、色々説明が足りないわよ!?」

 

「そうだな…済まないイッセー、一度部屋から出てくれないか?」

 

いや兵藤が部屋から出ていくんかい!先にメッセージで言っておけば部屋の主を追い出す必要もないだろうに!

 

「ええええ!?俺の部屋なのにぃ!?…わ、わかったよ」

 

当人もなんでと驚きの声を上げるが、しょうがないとすごすご部屋から出ていった。

 

「俺、この部屋に来てくれとだけしかメールで聞いてないんだが…」

 

「私もだわ…」

 

「すまない、でもそこまで書いてしまうと君たちは来ないと思ったからね」

 

「「…」」

 

俺と付き合い長いだけあってよくわかってるじゃないか。紫藤さんに関しては俺よりも付き合い長いからな。

 

「…で、なんで唐突にこんなことを?」

 

頭を抱えながらもそう訊ねずにはいられなかった。

 

何でよりによって人前でチョメチョメをしようと言いだすのか。しかもそれをアーシアさんのためって…全く彼女の意図が読めないぞ。

 

というか、彼女の信仰するキリスト教において色欲は七つの大罪じゃなかったのか?それともキリスト教徒にとって忌み嫌われる悪魔になってしまった以上、彼女はもうそれを割り切ったのか。

 

「私はイッセーを想うアーシアの背を一押ししたいんだ。アーシアは私や部長のように積極的に自分の意思を押し出すタイプじゃない…つまり、君と似た奥手なタイプだ。だから私と君が目の前で手本になれば、アーシアもいけるんじゃないかと思ってね」

 

「いやそうはならんやろ」

 

理由は理解できる、しかしそこから導かれた結論がぶっ飛んでいる。つい天王寺みたいな口調で突っ込んでしまった。

 

だがだいたい彼女の思うことはわかった。俺たちが目の前で行為をすれば兵藤とアーシアさんのスイッチを入れられるんじゃないかってことだろう。色欲のスイッチというべきか、そういうムードを起こして二人の間にもそうしたいという欲求を誘発するというわけか。

 

「ゼノヴィアさん…」

 

自分のために尽くそうとしてくれる友達にアーシアさんは嬉しそうではあるが、不安を隠せない表情をしていた。

 

「安心してくれ、私が必ずアーシアの支えになる。アーシアは私たちの子作りを見て勉強してくれ。その後のイッセーとの行為のフォローは私がしっかりするよ」

 

「は、はい…」

 

その不安を和らげるように彼女は微笑みかける。純粋なアーシアさんには子作りのシーンは少々刺激が強すぎるのでは…?

 

「で、私を呼んだのは?」

 

気まずそうに手を上げるのは紫藤さんだ。今の流れで言うと、紫藤さんがいる必要はないように思えるが。

 

「イリナには天使の聖なる力で神聖な演出をお願いしたい。何せ、二人の初体験だからね」

 

「ちょ!そんなことで呼んだの!?でも頼まれたからには……」

 

「まあイッセーたちだけでなく君の前でもすることになるから、もし堕天しそうになった時は気合で耐えてくれ」

 

「気合で何とかするのね…」

 

どう考えても紫藤さんだけ扱いが雑なのは言ってはいけないのだろうか。

 

「私たちに続いてアーシア達も始めたら、私と悠は二人のフォローに入る。私はアーシアを、悠はイッセーのフォローを頼んでいいか?」

 

「せ、性行為にフォローなんてあるのか…?」

 

初めての夜からそれなりにやっては来たが、人に教えられるほどじゃないと思うんだが。

 

「身を挺して行う麗しい二人の友情だけど…これでいいのかしら」

 

良くないと思う。多分と言うか、間違いなく。

 

説明を終えたゼノヴィアが不意に真剣なまなざしをアーシアさんに向ける。

 

「アーシア、イッセーのことは好きか?」

 

「そ、それはもちろんです!」

 

「よし」

 

肯定を示すアーシアさんの言葉と表情には、心からの思いが詰まっていた。それを真正面から感じた彼女はずかずかとドアの方へ行くと。

 

「イッセー、戻ってきていいぞ」

 

「お、おう…話は終わったのか?」

 

部屋の外にいる兵藤に呼びかけると、ガチャリとドアが開いて兵藤が戻って来た。

 

そして戻ってきた彼に対しても同じように真剣そのものの眼差しを向け。

 

「イッセー、お前はアーシアのことが好きなのか?」

 

「はぁ?そりゃそうだけど…」

 

兵藤もそれを当然のことのように言う。

 

「なら問題ない。大事なのは愛だ、二人の間に愛があるなら子作りも躊躇う理由はない」

 

「え、お、おま…!」

 

二人の言う『好き』の意味合いはやや違うようにも思えるが。

 

兵藤が何かを言い出す前に、早速彼女はばっとシャツを脱ぎ捨てる。それによりシャツに隠された流線を描く艶やかな腰と黒いブラを付けた大きい胸が現れた。

 

そして彼女はドキッとするような誘惑的な微笑みを浮かべる。

 

「さあ、始めようか」

 

「いや待て待て脱ぐな!」

 

さらにブラジャーをも外そうとする彼女の手を止めようと咄嗟に掴む。

 

「だ、大胆ね…」

 

「ゼノヴィアのおっぱいが…」

 

「あうう…」

 

ここまで性に大胆になった彼女を初めて見たのか、後ろから三人の漏らす声が聞こえた。

 

「どうしてだ?いつもなら君も…」

 

「いやそうじゃなくてそうじゃなくて!」

 

自身の腕を掴む手を一瞥すると、不思議そうな視線を目の前で止めようとする俺に向けてきた。

 

「…もしかして、私のことが嫌いになってしまったのか?」

 

ついにはもの悲しそうな目で俺を見つめてきた。ぐさりと貫かれたような気がしてうっと気まずくなり、思わず掴んだ手を離す。それをされたら反則だろう…!

 

「そうじゃない!それだけは決して!断じて!ありえないから!」

 

首をブンブン振って重ねて否定する。それだけは本当にあり得ない。天が裂けても。

 

「なら…」

 

「恥ずかしいから!そういうのって、誰にも見られない場所でやるもんでしょ!それは人間の本能なんだよ!公開プレイはレベル高いって!」

 

「む。イッセー、そうなのか?君はこういうのに詳しいだろう?」

 

「え、俺!?まあ、そういうの恥ずかしがる人は多いかな…多分」

 

「な!そういうのに詳しい兵藤が言うんだから間違いないって!それに声だって出るし、そうなれば先生にバレるぞ!」

 

修学旅行で先生に怒られましたなんて嫌な思い出は作りたくないぞ!下手したら戦うよりも気まずい嫌な思い出だからな!

 

「それなら問題ない。既にこの部屋に結界を張ったから声を上げても先生にはバレないぞ」

 

「何その準備の良さ」

 

「それに、この手のシチュエーションとやらを描いた漫画やゲームもあると桐生から聞いた。きっとうまくいくさ、何も心配することはない。イッセーも悠を見て勉強してくれ」

 

「えぇ…」

 

またいらん知識を吹き込んでくれたな…。というか後半のセリフが行き当たりばったり感が満載だったんだが。

 

「さあ、いつものように始めようか。君もたまっているんだろう?ここでスッキリしていこうじゃないか」

 

「ちょ、おま……!」

 

話は終わったとブラジャーをも外し、いきなり俺の両頬に手を添えると、すっと唇を重ね合わせてきた。積極的に彼女の舌が口内で自分の舌と絡み合い、口から彼女の淫気を流される。情熱的なキスと間近に迫る彼女の切ない瞳が引き金となって沸々と湧き上がりだす情欲に心臓の鼓動が早まる。

 

「ん…ぷは」

 

数秒の間キスは続き、向こうから離すと照明の光で俺と彼女の唇の間に伸びる唾液の糸がぬめりと光る。完全に今の不意打ちじみたキスで俺の方もスイッチが入れられてしまった。

 

続けて待ち焦がれたと言わんばかりに彼女は俺のズボンに手をかける。抵抗のしようがなく、あっという間にズボンを脱がされてしまった。

 

ほ、本気なのか!?本当に俺は兵藤たちの前で公開セッ〇スをしなければならないのか!?

 

それにしてもやけに向こうはノリノリだが、まさか本当は単に俺とやりたいだけじゃないだろうな…?

 

「あいつ、躊躇いなくキスを…」

 

「い、イッセーさん」

 

もはや誰もゼノヴィアを止められなくなった今、アーシアさんがぽつりとつぶやいて兵藤の手を取った。

 

「アーシア?」

 

「その…私も、イッセーさんと…こづ…」

 

「ど、どうした…?」

 

顔を恥ずかしさで真っ赤にしてごにょごにょと小声で何かを言った後、最後に決定的な一言を放つ。

 

「こ…子作り…!イッセーさんと、子作りしたいです!」

 

「!!?」

 

「おお!やはり私の考えは間違っていなかったな!」

 

勇気を振りしぼったアーシアさんが思い切って大胆にも子作りしたい宣言をした。ゼノヴィアも勇気をみせた友の姿にやったと喜び、勢いづく。

 

ああ…本当にダメなんだ…。アーシアさんという最後の砦が陥落した…。

 

意を決したアーシアさんもゼノヴィアのように自分の衣類を脱ぎ始める中、彼女の手がついに俺のパンツへとかかる。もう、どうにでもなれ。

 

「私、これからガブリエル様みたいに生命誕生の神秘の瞬間に立ち会うのね…やるしかないわ、天使として、私がしゅくふ」

 

止められない流れに観念したか、紫藤さんも祝福をと気合を入れ始めたその瞬間、唐突にガチャリと廊下と部屋を繋ぐドアが開いて。

 

「あ、あなた達…結界が張ってあったから何事かと思えばこんな……!!」

 

いかがわしさMAXの俺たちの姿を見て、肩と声をわなわなと震わせるのはロスヴァイセ先生だ。

 

「「「「あっ」」」」

 

色欲に満ちようとしていた空気が一瞬で凍てつく。気まずさによる静寂が数秒続いて。

 

「きょ、教師としてそのような不純異性交遊は見逃せねえだべさっ!そこに座りなさい!」

 

5人揃って俺たちは先生の説教を受けたのだった。怒りの中に動揺も混じっていたため、所々方言が混ざって何行っているのかわからない所も多々あった。




次回、「英雄派、見参」

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