…思った以上に長くなったので信長の戦闘シーンが次話をまたぐことになってしまいました。本当にごめんなさい。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
「黄昏の聖槍だと…!!」
突如として俺たちの前に現れた若い男女で構成された英雄派のリーダー、曹操が握る槍に最も強い反応を示したのはアザゼル先生だった。
「お前ら全員あの槍には気を付けろ!あれは神をも貫く絶対の槍、神滅具の代名詞だ。聖遺物の一つだから悪魔のお前らは勿論のこと、特にゼノヴィア、アーシア、イリナはあの槍を絶対に見つめすぎるな。心を持っていかれるぞ!」
「!!」
先生が強い危機感を表すように大声で俺たちに警戒を促す。
俺も合宿で先生から聖槍のことは聞いていた。13ある神滅具の中でも特に強い力を持つ4つの上位神滅具。その中で一つ抜きん出た力を秘めたまさしく最強の神滅具こそ、今俺たちが前にしているあの槍だ。
使い手が世間に喧嘩を売る組織の首魁である以上、禁手は使えると考えて間違いない。禁手の他にも、あの槍には二天龍の覇龍のような特別な力も備わっているらしいが…。
「話には聞いていたわ。セラフ様達が恐れる、イエスを貫いた槍…」
「くそ、よりによって英雄派のリーダーが所有者かよ…!」
忌々し気に聖槍を睨みながら先生が言う。
現時点で上位神滅具の内2つが敵側に渡っている。残る2つの内一つは教会側にあるそうだが、最後の一つもこれ以上面倒なことにならないようこちらに渡ることを祈るばかりだ。
睨み合いが始まるかと思いきや、果敢にも兵藤の後ろから一人の少女がずいと前に出た。
「貴様、曹操とか言ったな!母上を攫ったのは貴様らか!?」
九重だ。敵意を露わにして、睨み殺さんばかりの怒りをその眼と声に秘め、詰問する。
「ええ、左様です。我々の実験に姫君の力が必要なため、お付き合いしていただいておりますよ」
問われた曹操は向けられた怒りを流すような涼しい顔で答えた。舐められたように感じたか、九重の怒りの火に更なる油が注がれる。
「実験だと…?何の実験だ、何のためにお前たちはこんなことを!」
「我らのスポンサー…オーフィスの願いを叶えるためです。日頃我々が好きにやらせてもらえる分、その恩に報いなければなりませんので」
オーフィスの願いを叶えるということはつまり、グレートレッド絡みと考えてよさそうだ。九尾の狐がそれとどう絡むかはわからないが。
「で、俺たちの前にのこのこ現れたのはどういう理由だ」
そして気になるのがここに来た理由。悪だくみなら裏でこそこそやればいいものを、どうしてわざわざ向こうから姿を現すのか。
俺の方から奴へ問いかける。
「…おや、君が例の英雄使いかな」
九重をなめるような涼しい表情が一転、奴は俺に好奇の視線を向けた。その声色はどこか好意的ですらあった。
「英雄使いだと?」
初めて呼ばれた名にオウム返しに言う。俺自身、事情が事情なので紀伊国やら深海やら悠やら名前で、あるいは推進大使やスペクターなどの肩書や通り名といった実に数多くの呼ばれ方がある。
しかしその中に英雄使いという呼び名はない。由来はどう考えても俺の戦闘スタイルによるものだろうが。
「歴史上の偉人の力を使って戦う君の能力は英雄派を名乗る我々からしてみれば非常に興味深いものだ。我々の間では君たちの中で一番注目しているのは君と言ってもいい」
「…そうか」
当然と言われれば当然な理由だった。こうして俺が英雄派と戦うのは避けられない運命なのかもしれない。
「それで、質問の答えだがなに、実験の準備があらかた終わって隠れる必要もなくなったので挨拶がてら一戦交えて見たくなっただけさ」
随分と舐められたものだ。いつものメンバーが数名欠けた状態とはいえ、俺たちと戦って勝てると思っているらしい。それに奴の言動、ヴァーリと同じ戦闘狂と見た。
「わかりやすくて結構。この場で全員ふんじばってやるよ、妖怪との和平の成功、英雄派の壊滅とあればどこも喜ぶだろうよ」
先生が懐から龍王の槍を取り出すと同時に、俺たちはいっせいに戦闘態勢に入る。禁手のカウントを開始した兵藤がアスカロンをゼノヴィアに渡し、木場や紫藤さんは聖魔剣と光の剣を握る。俺もゴーストドライバーを腰に出現させ、いつでも変身可能な状態にしておく。
「木場、聖魔剣を一本くれ」
「わかった、君には二刀流が似合うからね」
短いやり取りの後、木場は生み出した聖魔剣の一本をゼノヴィアに渡した。
俺たちの動きに向こうの集団も武器を構え始める。両者の間で、戦いの機運が一気に高まった。
「レオナルド、アンチモンスターの用意を」
曹操が手短に言うと、集団の中からすっと一人の少年が姿を現した。褐色色の肌を持つ彼は集団の中でもまだ幼さの残る顔つきをしている。
感情表現に乏しそうな少年は無言でこくりと頷くと、彼の足元の影がぬっと広がった。俺たちと英雄派の距離の3分の2まで瞬く間にその領域を拡大した不気味な影から重いプレッシャーと何か危機的なものを感じる。
〈BGM:紅き世界の戦士バリアン(遊戯王ゼアル)〉
「なんだあれは」
俺たちの誰が呟いたか知らないが、そのセリフの直後に影がずっと盛り上がり何かが現れた。影と同じ真っ黒な体表をした頭部に大きく裂けた鋭利な牙を生やす口と深海魚のように発光した目がある。肉付きの良い四肢の生えた、怪物と表現するほかない異様な存在が10…いや100はくだらない数になって出現した。
「『魔獣創造《アナイアレイション・メーカー》』、神滅具の中でも最悪と称される神器です」
怪物の発生を見届けた曹操が言う。
「魔獣創造…!」
「マジか…!」
その神器を知る俺は教えてくれた先生と揃って眉を顰める。
出ないでほしいと思った矢先に出てきやがった。先生から聞いた上位神滅具最後の一つ。4つの内3つは敵側、とんでもなく厄介な状況になってしまった。…全て向こう側でなかっただけ幸運とも言えるが。
「どんな能力なんですか?」
「最悪にして単純。自分の思うが儘にあらゆる魔獣を木場の神器のように創造できる。大きさも能力も数も、使い手の力量次第で自由自在に生み出せる能力だ。神器システムのバグが生み出したとも言われるとんでもない神滅具だよ」
先生が能力を理解していない兵藤に分かりやすく解説する。その脅威を理解できたか、兵藤の顔が青くなっていった。
「とんでもないやつじゃないですか!」
「聖槍に霧、そして魔獣。上位神滅具4つの内3つか。本来なら所有者は生まれた瞬間どこかの勢力の監視下に入るんだが…二十年間、単に見つけきれなかっただけか、それとも誰かが意図的に隠したか。全く、今代の神滅具所有者は箱庭と羯磨といいどうしてこうも見つからないのか」
魔獣を生み出す神器なんて、どう考えても人に危害をもたらすような神器が生まれた理由なんてまさしくバグとしか言いようがない。戦争に使われたら相当ヤバいことになるのは間違いないだろう。
だがこれで13の神滅具の中で未だ所在が判明していない神器は『蒼き革新の箱庭《イノベート・クリアー》』と『究極の羯磨《テロス・カルマ》』の二つだけになった。どちらも上位ではないとはいえその能力は凶悪極まりないもの。両方を組み合わせて使うともっととんでもないことになるのだとか。頼むからこれ以上神滅具使いは敵に回らないでほしい、マジで。
「能力は厄介だが弱点もシンプル、本体を狙え。神器ほど厄介じゃないはずだ。見た感じ、魔物どもの強さもそこまでじゃないようだな。所有者もまだ成長過程と言ったところか」
「流石は神器研究においては右に出る者のいないグリゴリの総督だ。そうですよ、この子の想像力はまだ発展途上…しかし代わりに、ある一点に転に特化していましてね」
曹操がふっと笑うと、ずいと動いた魔獣の一体が口に眩い光を蓄え始める。数秒のチャージの後、蓄えた光を一気に解放し、光条が後ろの店目掛けてひた走った。
光が店に着弾するや否や、店は大きな爆発と共に焼かれて吹っ飛んだ。
「これは…!」
「あの攻撃は光か…!」
襲ってくる爆風に耐える俺たち。先生は何かに気付いた様子だ。
「この子は相手の弱点を突く能力を持つ魔物、アンチモンスターの生成に長けていましてね。今のは対悪魔用のアンチモンスター…まあ気付いていることでしょうから種明かしをすると、各勢力の拠点に襲撃をかけたのは様々な種族のアンチモンスターを作るためのデータ取りでもあったのですよ」
…言ってくれるな。俺たちは知らず知らずにこの神器の成長に利用させられていたってわけか。この調子ならおそらく対天使や堕天使、ヴァルキリーのアンチモンスターなんてのもいそうだ。
「禁手使いを増やしながら、アンチモンスターのデータ取り。まさしく一石二鳥でしたよ。今の光の一撃は、中級天使の一撃と遜色ないでしょうな」
「だが神殺しの魔物は作りだせていないようだな?やれるならとっくにやっているだろうしな」
自分の目論見がうまくいったと少々自慢げな曹操の語りに、先生はより深い笑みで返して見せた。
たしかに神殺しの魔物なんて凶悪無比な代物を作り出せたら今俺たちの目の前にいるだろうな。そんなものができたら各勢力のパワーバランスは簡単に崩れ、世界の勢力図なんてあっという間に書き換わってしまう。
だが先生の口ぶりだと過去にはそれができた所有者がいたようにも考えられる。危険視され、すぐに消されただろうが。やはりそれができてしまう可能性があるだけでもとても危険な神器だ。
「ふ…神はこの手で屠るさ。さあ、種明かしもここまでにして、そろそろ始めようか」
〈BGM終了〉
挑発じみた先生のセリフも曹操は受け流し、敵の放つ敵意が一段高まった。
「ごぎゃああああ」
「ぐるるっるるる」
〔BGM:プラシドの合体(遊戯王5d's)〕
曹操の合図を皮切りに、聞くに堪えない雄たけびを上げながら魔獣達が一斉に向かってくる。それと同時に俺は眼魂をドライバーに叩き込むように入れた。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
右に広げた手を握り、顔の近くへ持ってくるいつもの変身ポーズと共に、力強くその言葉を発す。
「変身!」
〔カイガン!リョウマ!目覚めよ日本!夜明けぜよ!〕
〔Welsh Dragon Balance Breaker!〕
禁手のカウントも同時に終わったか、俺の変身と同じタイミングで赤い光が溢れ兵藤の身を赤い龍の鎧が覆った。図らずも同時変身の形になったみたいだ。
変身を終えた俺たちは、ゼノヴィアと紫藤さん、木場と共に敵へと突撃する。
「ふっ!」
召喚したガンガンセイバーソードモードを片手に怪力任せに振るわれる魔獣の腕をかいくぐり、すれ違いざまに斬光を描く剣で魔獣の胴を難なく切り裂く。対悪魔用ではあるがそこまで皮膚が硬いわけでもないようだ。
切断されて下半身と別れた上半身がぼとりと落ちる。そのまま動きが止まり黒い光となって塵も残さず消滅した。
その様子を一瞥しただけで俺はすぐに次の敵へと攻撃を仕掛ける。切った敵のことを考える暇はない。
袈裟切り、上段一閃、そしてまた袈裟切り。向かってくる魔獣を次から次へと剣の錆にする。
背後に気配、振り向くと光線を浴びせようと光を口に蓄える魔獣がいた。即座にガンガンセイバーをガンモードに変形させ、まるでここに撃ってくださいと言わんばかりに大きく開いた口に銃撃を浴びせる。
チャージしている口に銃撃を受けてよろめく魔獣。それはエネルギーのコントロールの乱れを引き起こし制御を失ったエネルギーが口内で暴発して頭部ごと吹き飛んだ。
「ハァァァ!!」
そしてその一方、聖なる力を込めたゼノヴィアのアスカロンの一閃で大量の魔獣達が一気に切り裂かれ、塵も残さず消滅していった。パワータイプの彼女らしい、豪快な戦い方だ。
「当たらなければどうということはないね!」
同じく『騎士』の木場が鍛え上げられた『騎士』の神速の脚を活かし、次々と魔獣の攻撃を躱しては彼の代名詞ともいえる聖魔剣の剣戟を叩き込む。橋という足場の限られた空間ながらも自分のペースに持ち込めているみたいだ。
「アーメン!」
天使の翼を羽ばたかせ、光線を躱しながら距離を詰めてすれ違いざまに切り裂くのは紫藤さん。
彼女にはアスカロンや聖魔剣のような優れた得物はない。だが大天使ミカエルのAに選ばれた所以たる研鑽を重ねた剣術を自らの光力で生み出した剣で存分に発揮していた。時折、光輪をチャクラムのように投擲して魔獣の脚や腕を斬り飛ばすなどの遠距離攻撃も見せる。
戦いの最中、一人の男が黒い翼を背に空へ舞いあがった。
「曹操、てめえは俺が直々に相手をしてやるよ!」
ばさっと空高く飛翔し、人工神器で龍王ファーブニルの黄金の鎧を装着した先生が光の槍を携え曹操の下へ得物を狩るハヤブサの如く急降下する。
「龍王の鎧を纏う堕天使の総督…そそるな!」
勇ましい先生の鎧姿ににやりと笑む曹操は先生の天からの一撃を間一髪横っ飛びして回避する。横っ飛びしてそのまま渡月橋の下の桂川へ奴は降りると、先生も追いかけながら光の矢を飛ばす。
降り注ぐ無数の矢を奴は槍で弾き、あるいは身をよじり難なく全ての攻撃を回避してしまう。あれだけの数の矢を受けてかすり傷一つすらない。奴の回避動作はまさしく完璧そのものだった。
天才。そんな言葉が脳裏をよぎる。奴を形容するなら天才と言うほかあるまい。
そして矢の次に降ってくるのは先生の突撃。曹操は今度は回避の動きを見せず、槍を突き出す。堕天使の長の光の槍と神をも貫く聖なる槍が真正面からぶつかりあった。
互いのオーラがぶつかり合い、空にバチバチと火花が生まれ川の水面が激しく乱れる。そしてそのまま壮絶な槍の打ち合いを始める二人は徐々に下流へと武をぶつけ合いながら移動していった。
先生と奴のハイレベルな戦いをこのままずっと見ていた気もするが、目前の敵が優先だ。
「木場!光を喰らう魔剣、作れたよな!?」
魔獣を殴り飛ばす兵藤が木場に声をかける。このタイミング、何かを思いついたみたいだな。
「うん、そうか!」
何かを得心した木場は即座に自分の足元にいくつかの聖魔剣を生み出した。
「この剣は柄のみだけど、魔力を送れば刃が出る仕組みになっているよ」
「よし、皆は危なくなったらこれを盾代わりに使ってくれ!」
兵藤の呼びかけに皆が集まり、それぞれ聖魔剣を手にする。俺もその使い心地を確かめるように軽く柄を振るう。
女子組は受け取った柄をスカートのポケットに入れた。
「俺はこいつをアスカロンが抜けた穴に…」
そして提案の主の兵藤は左手の籠手に開いた穴に、聖魔剣の柄を収納した。
「…いけた!これで防御はどうにかなりそうだ!」
すると聖魔剣を収められた兵藤の左の籠手が聖魔剣と同じ輝きを帯びる。その光景に俺は軽く驚いた。あいつ、そんなことが出来たのか。
「木場とイリナは前線で戦ってくれ!天使なら光は弱点じゃないよな?」
「弱点じゃないだけでダメージは喰らうけど、任されたからにはやってみせるわ!」
二人が頷き、前線に進み魔獣との交戦を開始する。
「ゼノヴィアは後方からアスカロンの聖なるオーラで近づく敵を倒してくれ!」
「わかった!」
下がるゼノヴィアはアスカロンに聖なるオーラを蓄え、それを斬撃にして飛ばす。
「悠は遠距離攻撃できるフォームで後方から援護しつつ、アーシアと九重のガードを!」
「合点承知!」
早速後方で待機していたアーシアさんと九重の下へ跳び退り、眼魂を変えてゴーストチェンジする。
〔カイガン!ロビンフッド!ハロー!アロー!森で会おう!〕
夏にネクロムに眼魂を奪われて以来久しく使えなかったロビン魂。その久しぶりの感覚を懐かしむ暇もなく、すぐにガンガンセイバーを召喚し飛来してきたコンドルデンワーと合体、アローモードに切り替える。
兵藤の奴、まさか俺たちにしっかり指示を出して来るとは思わなかった。それぞれのできることをしっかり把握し、適切な役割を割り当てている。いつも指揮をしてきた部長さんを隣で見てきたあいつもあいつなりに成長しているということか。
仲間の成長に頼もしさを感じてふっと笑みがこぼれた。ならば、その期待に応えるしかない。
「早速で悪いけどこれを預かっててくれ」
「う、うむ」
聖魔剣の柄を一旦九重に預けて即座に魔獣の一体に狙いをつけ、光の矢筈をつまんでは放して高速で翡翠色の霊力の矢を打ち出す。
鮮やかな閃光の尾を引く矢は狙い通りに魔獣の頭部を射抜き、魔獣は糸が切れた人形のようにどさりと倒れ伏す。
一体だけでは終わらない。前線で戦う木場、紫藤さんの二人をカバーするように、二人に近づく魔獣、そして二人とゼノヴィアの攻撃を抜けてこちらに向かってくる魔獣達を続けざまに仕留めていく。
やはり連射は効かないが、正確さと一撃の鋭さなら遠距離フォームではロビン魂が一番だ。この能力をプライムスペクターで他の英雄の能力を組み合わせれば色々なことが出来そうだ。
「俺は『僧侶』にプロモーションだ!アーシア!」
「はい!」
アーシアさんが赤いカードを取り出すと彼女の意志に応じて発光し、兵藤の『僧侶』への昇格が認証される。駅で部長さんが渡した『王』がいなくても『兵士』の昇格ができるという例のカードだ。
「早速ドラゴンショット!」
『僧侶』の力で高まった魔力を兵藤は倍加して光弾の形で打ち出す。矢継ぎ早に放つドラゴンショットは魔獣に直撃しては周りの魔獣諸共爆発し、爆炎を上げる。
狙いは魔獣だけではない。さらにその後方にいる英雄派たちにも光弾の幾つかが飛んでいく。奴等はうまいこと攻撃を躱すが、着弾して起きた爆発に数名が巻き込まれてダメージを受けたりしている。
反撃にと魔獣が光線を兵藤目掛けて放つが、それも全て聖魔剣を取り込んだ籠手の力でしっかり吸収した。攻防共に抜かりない攻めだ。
そんな彼の元に魔獣ではなく英雄派の戦闘員たちが勇敢にも突撃してきた。
「赤龍帝、覚悟!」
「待て、女性じゃ彼には勝てないよ!」
向こうで白髪の悪魔祓いの男が戦闘員たちを止めようとするがもう遅い。すでに彼女らは兵藤を各々の得物の間合いにもうすぐ収めようというところまで接近していた。
対する兵藤は両手を前面に突きだして、ピンク色の魔力を解き放つ。
「煩悩解放!乳語翻訳《パイリンガル》!」
魔力自体に攻撃力はない。怪訝な表情を見せる戦闘員だが、ダメージがないとわかるや否や攻撃を始める。しかし突き、払い、繰り出される数々の攻撃を兵藤は難なく躱し、さらにはカウンターで武器を彼女らの手元から弾いた。
「こいつ、私たちの動きを完全に読んでいる…!」
「君たちの胸の声をバッチリ聞いているからさ!そして仕込みは万全だ!」
やにわに兵藤が指をパチンと弾く。すると戦闘員の彼女らの手にグレモリーの赤い魔方陣が浮かび上がった。武器を弾いた時に彼女たちの手に触れて仕込んでおいたのだ。
そしてこの手順を踏んで行われる彼の技と言えば、一つしかない。
「洋服崩壊《ドレスブレイク!》」
宣言と共に、戦闘員の衣類が一斉にはじけ飛ぶ。技を受けたことにも気づかず、数秒遅れてようやく状況を認識した彼女たちは。
「きゃー!」
「いやぁぁぁぁ!!」
「魔術を施した服なのに…っ!!」
恥辱の悲鳴を上げて、裸にされた戦闘員たちは手で大事な所を隠しながら逃げるように後方へと下がっていった。
「最低な技じゃ…」
「すみません、うちの兵藤が…」
女性を一瞬で引ん剝く奇技を目の当たりにした九重が引き気味に顔を引きつらせていた。あいつ、子供の前でなんて技を使ってくれるんだ…。
「これが噂の乳技か、面白いね。それにしてもやはり女性では勝てないか。恥辱にも耐え抜く精神があれば話は違ったかもしれないけど…若い女性には厳しいかな」
自らは手を下さず、魔獣と俺たちの戦いを見ている白髪の男は兵藤の見せた技をそう評す。うちの兵藤をなめてもらっては困る。こいつは対女性には無類の効果を発揮するからな。使う技の内容はさておいて。
「次はこいつだ」
〔カイガン!ノブナガ!我の生き様!桶狭間!〕
今度はノブナガ魂に変身し、その能力による実体のあるガンガンハンドの幻影を複数生み出して銃撃の雨を同時に複数の魔獣達に浴びせる。
紫光の尾を引く霊力の弾丸が魔獣の皮膚を削り、穿ち、随所に穴を開けていく。やがてダメージが許容量を超えたのか、活動を停止せしめると魔獣の死体は黒い光の粒子になって消えた。
「一網打尽にする!」
〔ダイカイガン!オメガスパーク!〕
霊力をチャージした銃撃を能力で出現させた10の幻影と共に一気に放つと、紫色の銃花が咲き乱れる。強力な銃撃の横殴りの雨あられが広い射線上に収められた多くの魔獣達を撃ち抜き、爆散せしめた。
この一斉砲火に加えて前線に立つ木場達の奮闘もあり、魔獣たちの数を当初と比べて4分の3以上減らすことが出来た。残りを殲滅するのにも数分とかからないだろう。
〈BGM終了〉
「そろそろ出番かな」
魔獣が直に殲滅されつくす頃合いを見たか、曹操の隣にいた白髪の男がそんなことを呟いて前に進み出た。よく見ると、彼の腰には三本ほどの剣が鞘に納められていた。どこぞの海賊みたいに三刀流でも使うのだろうか。
「まずは挨拶を。初めまして、英雄シグルドの末裔、ジークだよ。ジークフリートでもジークでも、好きなように呼んでくれて構わないよ」
鷹揚な口調で男は名乗る。英雄ジグルドといえば、北欧の叙事詩に登場する龍殺しの英雄だ。
「あいつ、見覚えがあると思っていたが…」
「あの魔剣、間違いなく彼よ」
どうやらあの男、ゼノヴィアと紫藤さん達教会組の知り合いのようだ。衣装からして教会関係者だと思ってはいたが…それに奴の顔つきと白髪がある人物を想起させる。そいつも元教会関係者だったし、血の繋がりでもあるのか?
「二人は知っているのかい?」
「ああ、『魔帝ジーク』。教会の三派閥の中でもトップクラスの剣士、私たちの元同胞だ。そして、フリードと同じ戦士育成機関の出身でもあるらしい」
「フリード…」
もはや懐かしさすら覚えるその名に、木場が複雑な表情をする。
木場にとっては因縁の深いエクスカリバーを巡って戦った相手だ。どうやらディオドラの事件でも奴は兵藤たちと対峙したらしい。その時は禍の団の人体実験の試験体にされて人間をやめており、木場に屠られたと聞く。
「あなた、私たちを裏切って悪の組織に身を置いたの!?」
「…ちょっと耳が痛いな」
元同胞に詰問するのは紫藤さん。彼女の言葉が自分にも刺さったか、ゼノヴィアはやや居心地に悪そうに頬を掻く。
「はは、そういうことになるね。でも、僕が抜けたところでまだ教会最強の彼が残っているよ。近頃はウリエルが御使いに選ばれなかった戦士たちや有望な戦士を鍛えて『輝聖』なんて地位を与えているみたいだし、僕がいなくたってどうにかなるさ」
詰問に苦笑した彼の表情から飄々とした笑みが消える。虚空に魔方陣を展開し、そこに手を突っ込みすっと大振りな剣を引き抜いた。血のように赤い刃に金色のラインが走る刀身の広いその黒剣は危うさを感じる赤いオーラを纏っていた。
「話はそれくらいにして、剣士同士なら剣で語り合おうじゃないか?木場裕斗、紫藤イリナ、ゼノヴィア」
危険なオーラを放つ剣の切っ先を三人に向けるジーク。数瞬のにらみ合いの後、神速で木場が猛進する。
〈BGM:闇の戦(仮面ライダーW)〉
先手必勝、最速で放たれた鮮やかな剣閃がジークを両断するかと思いきや、奴は間一髪身を横にそらして回避する。
「いきなりいい一撃を見せてくれるね」
楽しそうに笑うジークに木場が続けて剣技を見舞う。鋭く、鮮やかに、そして何よりも速く振るわれる剣を軽やかでどこか捉えどころのない動きで躱し、あの黒い剣で奴は的確に弾く。木場のスピードに対応しきっている。間違いなく、奴は木場と同格かそれ以上の手合いだ。
そして剣技は十分見せてもらったとばかりにジークが黒い剣を振るった。横凪に描かれた凶悪な赤い剣閃を木場はどうにか上体をそらして躱す。
「魔帝剣グラム。最強の魔剣の一撃を味わっていくかい?」
ジークは得物の名を獰猛な笑みと共に言う。それから木場の番は終わったと、今度はジークの猛攻が始まる。
先ほどまでの落ち着き、優しそうな雰囲気とは打って変わって攻撃的で獰猛な怒涛の連撃を次々に放つ。一撃でも喰らえば、そのまま次の攻撃も受けて終わり。木場は回避や防御で手一杯で、カウンターの一つを叩き込む余裕すらない。
「僕のスピードに対応している…!」
「自分で言うのもなんだけど、『聖王剣のアーサー』『魔帝剣のジークフリート』と並んで呼ばれている。本気でかかってこないと本気を出す前に斬られることになるよ?」
そして木場の体を両断せんと勢いよく振り下ろされた剣戟を木場は聖魔剣で受け止める。ガキンと甲高い金属音が響き渡る。
「ぐ…ううっ!!」
剣を強く握り、木場は一撃をこらえる。勢いと魔剣の凶暴なオーラが込められた一撃に聖魔剣が悲鳴を上げるようにめきめきと嫌な音を立てる。ジークは力任せに聖魔剣ごと木場をぶった切る魂胆だ。
絶体絶命の木場。そんな彼を追い詰めるジークに聖なる斬撃と光のチャクラムが飛来する。気付いたジークがグラムで防ぐ間に木場は大きく距離を取った。
「加勢するぞ、木場!」
「天使もお助けするわ!」
彼の元に駆け付けたのはゼノヴィアと紫藤さん。ジークの攻撃をどうにか凌いだ木場の前に立つ彼女らの面持ちには強い危機の色が現れていた。
「――っ、ありがとう!」
「ミカエルのAにデュランダルも…手厚い歓迎だね」
不敵な笑みを深めるジーク。相対する三人が一斉に奴へと突撃していった。
三人の剣が一斉に振るわれ、ジークのグラムとぶつかり合う。ガキン、ガキンと剣がぶつかる金属音すら置き去りにする速度で打ち合いが行われる。
神速で動き剣技で攻める木場、翼を広げ上空からジークの死角を突くように仕掛ける紫藤さん、ジークに負けないパワーと得意の二刀流で打ち合うゼノヴィア。
三対一という不利な状況においても奴は一歩も引かず、矢継ぎ早に来る三人の剣戟を躱しカウンターを放ち、剣一本で対等に立ち回っている。
あの三人でも攻めきれないなんて、奴は相当なやり手だ。扱う剣に相応しい技量を兼ね備えた剣士。長期戦は免れない。
「はっ!」
ゼノヴィアが木場から貰った聖魔剣を斜めから振り下ろす。その時、ジークは腰に帯刀していた剣の一つを勢いよく抜き、その動作から直接放たれる一閃で彼女の剣戟を弾き返した。
「!!」
弾かれた聖魔剣はガシャンとガラスの割れるような音を立てて、刃が砕け散ってしまった。
「バルムンク。北欧の魔剣の一振りだよ」
奴の左手に握られているのは美しい刀身ながらも禍々しい物を感じる紫色の剣だった。しかし木場が攻撃を休めることはない。木場の一撃を奴は右手のグラムで受け止めた。
「はあっ!」
挟みこむようにゼノヴィアが左サイドから切りかかる。彼女のアスカロンをバルムンクが受け止める。
これで両手が塞がった。何本剣持っていようとそれを扱う手がふさがっていては意味がない。
「今だ!」
木場の呼びかけに紫藤さんが勝利を確信した顔で頷き、上空から真っすぐに奴の元へ急降下して剣を繰り出した。
「アーメンッ!」
防ぎようのない光の剣の一撃が真正面からジークフリート目掛けて放たれた。
ガキン!
しかし誰もが勝利を確信した彼女の一撃は、ジークが鞘から抜いた三本目の剣に受け止められてしまった。
「ノートゥング。こちらも北欧の魔剣さ」
光の剣と交わるのは金色の柄に深い青の剣だった。しかし注目されたのは剣よりもそれを握る手だ。
「三本目の腕…!」
まさかの現象に対峙する三人が驚愕の表情を浮かべる。ジークの背中から、鱗に覆われた白い腕が伸びていた。器用に動くそれは動揺した紫藤さんを弾く。
「くっ…」
「この腕はドラゴン系神器『龍の手《トゥワイス・クリティカル》』の亜種だよ」
「龍の手と言えば…」
俺がレイナーレとのごたごたに巻き込まれていた頃、赤龍帝の籠手だと認定される前の兵藤は『龍の手』の所有者と認識されていたらしい。龍の手と酷似していた神器が覚醒して、今の赤龍帝の籠手になったのだとか。ジークが使っているのは亜種だから、形態はまた違ったものだろうが。
「このくらいなら、まだ禁手は使わなくても良さそうかな」
「…!」
余裕の表情のジークが放つ何気ない一言が、三人を更に戦慄させる。俺も参戦したいところだがこのままアーシアさんと九重を置いてけぼりにするわけにもいかない。仲間の窮地に手を差し出せないとは、とても歯がゆい気分だ。
〈BGM終了〉
「…それじゃ、俺も行くか」
〈BGM:MASURAO(機動戦士ガンダムOO)〉
今まで動かなかった曹操の隣にいた甲冑の男。にやりと楽しそうな笑みを見せると、突然前線へと真っすぐに駆け出した。
ジークの相手で手一杯の木場と紫藤さん、ゼノヴィアの横を走る抜ける彼の視線は真っすぐに俺にだけ向けられている。
「っ!行かせるか!」
そうはさせまいと兵藤が彼の前に飛び出し、倍加の力の乗った右ストレートを放つ。しかし放たれた拳はヒットする寸前で割って入るように出現したキラキラと光る何かに阻まれ受け止められてしまった。
「なっ!」
「いいパンチだ、でもそれじゃあ俺の輝きは砕けないぜ」
動揺する兵藤に男は横薙ぐような回し蹴りを放ち、彼の胴を見事に打ち据えた。
「ぐぁ!」
攻撃を止められて反撃された兵藤は手摺に叩きつけられ、短い苦悶の声を上げる。そして誰も自信を止める者がいなくなった男は再び歩みを始め、俺とアーシアさん、九重のいる後方にたどり着いた。
「アーシアさん、九重、下がって」
兵藤を容易く対処した目の前の敵に警戒心を引き上げつつ、二人を下げる。
アーシアさんはもちろんだが九尾の娘とは言え、戦闘力は期待できないだろう。実力があるなら彼女の性格からして今頃とっくに木場達と同じ様に前に出て戦っているはず。
それはともかくこの男。普通の戦闘員とは違う何かを感じる。強敵の予感がビンビンする。
目の前に現れた敵に警戒心を向けていると、男は一つ好戦的な笑みを浮かべた。
「よぉ、英雄使い。会いたかったぜ」
「お前も幹部クラスか?」
「そうさ、俺は信長。織田信長の末裔にして英雄派の幹部だ」
男は自分を信長だと名乗った。日本人なら誰もが知る、しかし今思いもよらなかったその名に俺は内心衝撃を受けた。
「信長だと?」
信長と言えば目下俺が変身している英雄フォームのこと。眼魂に選ばれた英雄とその末裔が対峙するとは、面白い因果だと思わずにはいられない。
「そうだ、お前が信長の力を使っているって言うんでそれを聞いた時から興味が沸いて、戦いたくて仕方ねえ」
やはり向こうも俺の信長の力に興味津々か。もしかしなくとも俺の眼魂を奪おうと考えている手合いかもしれない。眼魂が減ればプライムスペクターのパワーも落ちる。それだけは避けなくては。
「…そうか、こちとらお前に付き合う余裕はないんで、退場願おう!」
敵の話をわざわざ聞いてやる道理はない。ガンガンハンドを構えなおし、実体のある幻影と共に容赦のない一斉砲火を信長に浴びせる。
放たれた計二十数発の弾丸が信長目掛けて殺到し、真っすぐに空を走る。それら全てが信長の体に風穴を開けると思いきや、突然信長の前面にダイヤモンドのように澄んだ輝きを放つ障壁が展開し全ての弾丸を防ぎ切ってしまった。
「それは…?」
「見て分からねえか?宝石だよ」
着弾した箇所から煙を上げる障壁が、信長の手の動き一つで消える。
「俺の神器は『極彩色の宝界《インエグゾースティブル・シャイン》』。物理攻撃だろうが魔法だろうが、誰も俺を傷つけることは出来ねえ。能力の種ならアザゼル総督にでも聞け」
「…!」
信長は自身たっぷりに不敵な笑みを浮かべた。
〔BGM終了〕
多分パンデモニウム編が終わったらパンデモニウム編の裏話を活動報告に上げる…気がする!
解説しておくと信長の能力の使い方はメタルクラスタホッパーのクラスターセルに近いです。障壁を作ったり、空中に足場を作ることもできます。流石にバッタの群れを飛ばして相手の装甲を虫食いさせるなんてことはできませんが。
次回、「ヴァーリからの使者」