Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
〈BGM:一騎打ち(遊戯王ゼアル)〉
自在に宝石を作る極彩色の宝界、それが奴の神器。神滅具ではないが、防御特化の神器というわけか。幹部というだけあって自分の神器の能力を相当高めているとみていいだろう。
「なら、接近戦で!」
銃撃が効かないのなら戦法を変えるまで。即座に眼魂を変えてゴーストチェンジする。
〔カイガン!ベンケイ!兄貴ムキムキ!仁王立ち!〕
白いパーカーゴーストを纏ってベンケイ魂に変身すると、召喚したガンガンセイバーナギナタモードにどこからともなく出現したクモランタンが変形合体してハンマーモードへと切り替わる。
このベンケイ魂も久しく使えなかったフォームの一つだ。15ある英雄フォームの中でもパワーに特化したこのフォームで奴の防御を打ち砕く。
セイバーを構えて猛然と突っ込むが、奴は一歩たりとも動くそぶりを見せない。あくまで悠然と、自身に満ちた表情でこちらを見据えるだけだ。よほど自分の防御に自信があるらしい。
望み通りにと真正面から俺はベンケイ魂で向上したパワーを以てハンマーを振りかぶる。当然、奴を守るように宝石のように輝く障壁が出現して俺の攻撃を受け止めた。ぶつかると同時に、ガキィと硬い音が鳴り響いた。
「硬い…!」
奴の障壁には傷一つつかない。音が反響するように、こちらの腕にビリビリとした衝撃が伝わってくる。
押してダメならと一旦引いてステップを踏んで回り、また違う方向から攻撃を仕掛ける。しかし振るったハンマーはまたも出現した鉄壁の障壁によって阻まれてしまう。
「いい動きしてんねぇ」
次々に襲い来る攻撃を防いでみせる信長が戦意の高ぶりを示すように笑みを深くする。
何度も繰り返すが、奴の障壁にヒビ一つ、傷一つ付いた様子すらない。このまま攻撃を続けるだけでは埒が明かない。
「なら高めた一撃で!」
〔ダイカイガン!ベンケイ!オメガドライブ!〕
〔ダイカイガン!オメガボンバー!〕
ドライバーのレバーを引いてのオメガドライブ、武器をベルトにかざしてのオメガドライブ、二種類のオメガドライブを同時に発動させて昂る霊力が一撃の威力を極限まで引き上げる。
「ウォォォォォッ!!」
絶対に奴の防御を突破する。固い意思を持ち爆発せんばかりに眩い白の閃光が槌に宿り、力強く踏み込み、渾身の力を込めて信長目掛けて振り抜くが、やはり現れたキラキラと宝石のようにきらめく障壁が攻撃を阻む。
眩い閃光を蓄えたハンマーを全力で障壁に打ち込む。瞬間、霊力が弾け、激しい光のスパークを引き起こした。
「ぐぅぅぅぅぅぅ!!」
歯を食いしばり、地を踏みしめ、これでもかと一撃をぶつけ続ける。意地でもぶっ壊すという意思の乗った一撃が障壁に喰らい付く。
霊力の迸る光の中でふときらめく光があった。それに気づくと同時に障壁からズッと鋭いトゲが飛び出した。反応した俺は咄嗟に攻撃を中止して、後ろに跳んで躱した。
「効かねえな」
攻撃が中止され、光に隠されていた障壁の姿が明らかになる。前面に先ほど俺を狙ったトゲが生えている以外は、悔しいほどに全くの無傷だ。
「これでもダメなのか…!」
「深海さんの一撃でもダメなんて…」
「なんて防御力じゃ…!」
戦慄を禁じ得ない。戦い始めてから数か月、まだまだひよっこと見られるような経験の少ない未熟者の戦士だがそれなりに意思と実力を磨いてきた自負があった。
それが今、砕かれようとしている。今までにも何度と己を屠るような局面とぶち当たって来たがこいつは毛色が違う。戦闘力、攻撃力じゃない。ただの防御、されど徹底的に鍛え上げられた防御で、俺の自信を打ち砕こうとしているのだ。
「だったら!」
直接攻撃がダメなら別の手段を講じるまで。今度はヒミコ眼魂を差し込んでさらなるゴーストチェンジを遂げる。
〔カイガン!ヒミコ!未来を予告!邪馬台国!〕
〔ダイカイガン!ヒミコ!オメガドライブ!〕
ヒミコ魂に変身して早速必殺のオメガドライブを発動させ霊力を増幅し、それを変換した炎の波を解放する。先の戦いでは強大な呪いを浄化しつくした聖なる炎が荒波のように信長を飲み込もうと押し寄せた。
「ふ」
すると信長は橋の横幅いっぱい、奴の背丈の2倍はある今までの物と比べて一段と大きな障壁を作り出す。障壁と言うよりは炎の荒波に対する防波堤は押し寄せる豪炎を完全に防御してしまう。
熱波が消えるや否や、障壁も消えて涼しげな表情の信長が姿を現した。
「熱も通さねえ。神器で作ってんだ、ただの宝石と同じなわけねえだろ」
「今度は!」
〔カイガン!ツタンカーメン!ピラミッドは三角!王家の資格!〕
今度はツタンカーメン魂にチェンジして、コブラケータイが合体したガンガンハンド鎌モードを構える。
叩いてもダメ、熱してもダメなら斬ってみる。それでだめならいっそオメガファングで奴を時空の狭間に追放する。
こういう様々な状況に対処できる点がこのゴーストチェンジの強みだ。凛…いや、アルルの持っている眼魂があればもっと別の手段も取れたがな。
「卑弥呼に弁慶、ツタンカーメンにロビンフッド…信長だけじゃなく噂通り多彩な英雄の力を持っているみたいだな」
次々に姿を変える俺に奴は興味深そうに言う。15あると言いたいところだが、手の内を明かすような真似はしない。
「ところでお前、俺の能力が防御しか出来ねえとか思ったりしてねえよな?」
徐に手を掲げる信長。すると奴の周囲に無数の宝石が形成、そしてそれら全て矢の形へと変じていく。美しくも鋭い矢じりは全て、こちらに向けられていた。
「こんなこともできるんだぜ」
手を振り下ろす。それを合図に一斉に横殴りの矢の雨がこちらに降り注いだ。この範囲ではアーシアさんや九重も巻き込まれてしまう。
「…ッ!」
危機感に煽られながらも半ば反射でガンガンハンドをドライバーにかざし、必殺待機状態に入る。
〔ダイカイガン!オメガファング!〕
「らぁ!」
渾身の力を込めて鎌を振り抜き、ターコイズブルーの斬撃を飛ばす。斬撃はピラミッド型のエネルギーへと変化し、寄せ来る矢の群れと向かい合う面にぽっかりと穴が開くと、そこから猛烈な引力を発して矢をまとめて穴の先の暗闇へと吸いこんでしまった。
穴の先は次元の狭間。奴のコントロール下から外れ、吸いこんだ矢は向こうで消滅することだろう。
引力から逃れた一部の矢が橋の手摺に直撃すると、ごっそりと木造の手摺に大きな傷跡を付けた。この威力を連続して受けていたら危なかったな。
ピラミッド型のエネルギーが消えると、信長がいた場所には輝くドームのようなものができていた。それがきらきらと煌めく粒子になって消えていき、中にいた信長の姿を外界に晒した。
「俺をあの中に閉じ込めようなんて考えてたみたいだな。だがそうは問屋が卸さねえ」
ドーム状に障壁を地面に固定する形で張って引力に引っ張られないようにしていたらしい。やはり神器を使いこなしている。
「その鎌でも俺の防御を越えることは出来ねえよ。俺たち英雄派は日々、互いを高め合い研鑽しあっている。ジークの魔剣だって受け切れるレベルだ、そうそう越えられるようなやわな輝きはしてねえ」
「くっ…」
「さあ、次はどんな手を見せてくれるんだ?」
俺の次の攻撃を楽しみに待つかのように大胆不敵に笑う。
こいつは想像以上の強敵だ。はっきり言って、これをプライムトリガー抜きで相手にするのはきつい。神相手もきついが、攻撃が通じない相手もかなりしんどい。どうにかして突破口を見つけなければ、俺がやられたのちアーシアさんや九重もやられる。
それだけは何としてでも避けなければならない。
頭をフル回転させて、今ある戦力でどう迎え撃とうかと考え始めたその時、船上の中心に空から二人の男が降って来た。
〈BGM終了〉
一人は俺たちに背を向けるのは金色の鎧を纏うアザゼル先生。傷ついた鎧の随所がひび割れ、欠けていた。
そしてもう一人は曹操。奴の着る漢服もまた、端々がボロボロに破れていた。
神滅具最強の聖槍を相手に互角に渡り合う先生が凄いと思うべきか、それとも先の大戦を戦い抜いた堕天使総督を相手に人間の身で槍一つで戦える曹操が異常と感じるべきか。
ふと先生たちが先ほど向かって行った下流の方へ目を向けると、そびえる山々に凸凹としたクレーターがいくつも生まれ、豊かな森林の景色が焦土と化していた。作られた空間だとわかっているからか景観を一切気にせずに戦った結果があれか。やはり恐ろしいな。
「心配するな。全力じゃねえ、軽く打ち合っただけだ」
「ふふ、全力でなくともやはり堕天使の長は手強いな。それにしても…」
曹操の目線がちらりと兵藤に移った。
「いやはや、やるね。『王』のリアス・グレモリー不在の状況でここまで俺たちを相手に立ち回れるとは。ここの戦闘力も勿論だが、やはり赤龍帝を宿す兵藤一誠のポテンシャルもあるな。他者を引き寄せるドラゴンの要素もだが、他の眷属に指示を出し、冷静に対処してきた」
一連の兵藤の動きを曹操は冷静に分析する。敵意ではない、あくまで奴の瞳にあるのは初めて出会う相手に対する好奇の色だ。
「やはり君は将来的に歴代トップクラスの赤龍帝になるだろう。それを見抜けず死に損なったシャルバは本当にバカだな…。眷属と一緒にデータを収集しておきたいものだ」
この場にいないシャルバに嘲笑した。今回の敵はコカビエルやライザーのようになめてかかってこないタイプのようだ。今までのように舐めて無策にかかって来るのではなく、俺たちを正確に分析して戦術を編もうとしている。
激闘を潜り抜け強くなった分、敵から寄せられる評価も高くなる。これからの戦いは今まで以上に厳しくなりそうだ。
「一つ訊こうか、お前らが活動する目的はなんだ?」
鋭利な光の槍を曹操に向け、先生は問う。
「俺たちの活動目的は至ってシンプルだ」
それに対して曹操ははぐらかしもせず両腕を広げ、威風堂々とした立ち振る舞いでそれを言い放つ。
「挑戦すること。異形に貧弱・下等だと見下される『人間』がどこまでやれるのかを試してみたい。ドラゴンに悪魔、超常の存在を倒すのはいつだって人間さ」
己の持論を力説する曹操は槍の石突で強く橋を叩く。
「俺たちは困難に挑戦し、打ち砕く者」
その言葉には奴の信念の重みが込められていた。
「歴史に名を轟かせた偉人たちは皆そうだ。戦、発明、政治…様々な分野において困難と対峙し、それを乗り越え、己の轍を踏んで続く者達の光となって、大業を成し遂げた。俺たちもその英雄たちの生き様に乗っ取り、この時代でそれを為そうとしているだけですよ」
意思、夢、奴が明確に持ち、見据えるものが雄弁に語る言の葉に織り込まれている。
「人間はいずれ異形を越える。そう、力に選ばれた俺たちはこの蒼天の下で異形という困難に挑戦し、己の限界を試し、超え、人間の進化の先駆者を目指す…数多の異形を屠り、俺たちは現代の英雄になる。それが俺たち英雄派だ」
グッと左の拳を握り、槍の穂先を先生に向ける。眼前にそびえる堕天使の長という高い壁を見据え、それに対してぶち壊してやるという宣戦布告をするように、意思の宿る挑戦的な笑みと瞳が槍に負けじと輝いている。
本当に今までの敵とは全く毛色が違う男だ。今までの敵は戦争を起こす、社会体制を変える、変化を起こさせないという政治色のある敵だった。
だがこの男は違う、邪悪や怪物、ドラゴンを倒すおとぎ話や英雄譚に胸を躍らせた子供が本物の力を得て、本気でそれになろうという意気で行動している。理想を実現させるための力を持つこの男たちは、本気で物語に登場するような英雄になろうというのだ。
そしてそのための研鑽は欠かさない相手と見た。これは今まで以上に鍛錬を積み、更なる力を身につけなければ勝てない相手だろう。
「さあ、第二ラウンドを始めようか」
奴の笑みが深くなり、奴がピクリと脚を動かした瞬間。
俺たちと英雄派、二つの間に魔方陣が一つ現れる。光が溢れ、そこから登場したのは魔法使いと呼ぶにふさわしい帽子をかぶりローブを纏う少女だった。
金髪を揺らし、ヨーロッパ系の顔立ちをした可愛らしい少女はくるりとこちらを向くと、にこりと笑う。
「初めまして、私はルフェイ・ペンドラゴン。ヴァーリチームに所属する魔法使いです。以後、お見知り置きを」
「ヴァーリチーム…!」
因縁深いその単語にマスクの裏で驚愕した。こんな女の子がヴァーリの仲間だって言うのか…!それにあの子の名前の…。
「ペンドラゴン…?アーサーの血縁か?」
「はい、アーサーは私の兄です」
先生が俺の思ったことを代弁するかのように疑問をぶつけると、少女は礼儀正しく肯定の意を返した。
あの剣士にこんな妹がいたのか…。いかん、最近どうも妹という単語を聞くと良くないことを考える。
彼女の視線が不意に兵藤へと移った。どこか意を決した面持ちで彼の下へ駆け寄り。
「あの…」
「はい?」
「私、実は『乳龍帝おっぱいドラゴン』のファンなんです!よろしかったら、握手とサインをお願いします!」
思い切った調子で、彼女はばっと握手を求める手を差し出した。
「へ?」
差し出された本人を含め、この場にいる誰もが呆気に取られる。
おいヴァーリ、身内にお前の敵のファンがいるぞ。そんなんでいいのか。
「えっ、ああ、うん…」
困惑しながらも、彼女の意思を受け取る兵藤は鎧を右手だけ解除しておそるおそる握手に応じてあげた。
「やったー!ありがとうございます!」
それだけで彼女はいたく喜んだ。何か裏があるわけでもなく純粋なファンの反応だった。
無邪気な彼女の反応に和みかけた矢先、「んん」と大きな咳払いをした主が注目を集める。
「ヴァーリチームの一員が、ここに何用かな」
頭をポリポリと掻く曹操が真面目な様子で問う。
「はい、ヴァーリ様からの伝言をお伝えします!…んん、『邪魔はするなと言ったはずだ』だそうです!こちらに監視をおくった罰ですよー」
言ったそばから橋そのものが揺らぐような凄まじい震動が俺たちを襲った。何事かと辺りを見渡すと、ふと視界に入った桂川の一角の地面がゴゴゴとうなりを上げて盛り上がり、土と石、更に水の入り混じったベールをかぶりながら巨大な何かが姿を現す。
四肢は太く、そのボディは無機的な物質でできている。10mはある巨大なゴーレムと呼ぶべき巨人が大気を震わせる目覚めの大きな一声を上げた。
「あれは…ゴグマゴグ!」
先生はゴーレムを見て、その名を叫んだ。
「あれは一体何なんですか!?」
「古の神が量産したとされる破壊兵器だ。今は機能停止して放置され、次元の狭間を漂っているはずだが…俺も実際に動いているのは初めて見たぜ。くっそ…胸が躍るな…!」
解説しながらも先生はワクワクした声色で本心を漏らし、そびえるゴグマゴグを見上げた。
あんな破壊兵器を量産した神がいるのか。というか次元の狭間にはグレートレッドがいるはずだが、ゴミ捨て場みたいな感覚でこんな物騒な代物捨てていいのか…?
「もしかして、ヴァーリはグレートレッドの調査だけでなくこいつを探すために次元の狭間に行っていたのか?」
「はい、以前オーフィス様が次元の狭間の調査に同行した際、動きそうなゴグマゴグの反応を感知したので改めて調査した次第です」
討つべき敵であるグレートレッドが住まう以上、やはり次元の狭間の調査を行うのは当然か。となると、レジスタンスの母艦も次元の狭間にあるが…今後、ヴァーリの調査の対象に加わることになるのだろうか。
「あいつのチームって本当に強者揃いなんだな…他にもいるのか?」
「いえ、私たちのチームはヴァーリ様、黒歌様、美猴様、お兄様と私、ゴグマゴグのゴっ君とフェンリルちゃんの七名ですよ」
指を折りながら数えるルフェイ。なるほど7名か、名前に上がった奴等はこれで全員面識が出来たことになった…ん?
「…え、フェンリル?」
最後に一人、いや一匹だけヴァーリチームじゃないやつが混ざっていなかったか?フェンリルと言えばあいつが連れて行ったっきり音沙汰なしだったが…。
「あれ、知りませんでした?ヴァーリ様が覇龍で連れて行ったあと、うちの仲間に加わったんですよ?」
…えー。あいつ、とんでもないもんを味方に引き入れやがったな。フェンリルは神をも喰らう凶悪無比の牙、これは一大事だ。こりゃ次に相まみえる時は苦戦は必須だ。
「ははっ、ヴァーリめ。こんな面白い物を引っ張り出して来るとは!」
ゴグマゴグの登場にも高らかに、楽しそうに笑う曹操は槍を突き出す。「伸びろ」という短く、鋭い一声でその意思は具現化し、槍はリーチを一気に伸ばすとゴグマゴグへその穂先を突き立てた。
勢いと鋭さのある、見た目に反して強烈だった一撃はゴグマゴグを簡単にひっくり返した。重い巨躯が再び桂川へと倒れこみ、地震のような震動が響き渡る。
「ついでに貰っておけ!」
ダメ押しとばかりに信長がゴグマゴグの方に手を突き出すと、ゴグマゴグの頭上にゴツゴツとした荒削りの巨大な宝石が生成される。
ゴグマゴグに大きな影を落とす宝石は重力に従って落下して倒れたゴグマゴグの巨体を押しつぶし、ズンと振動を響かせた。
あの神器、デカ物相手もできるのか。本当に使い道が多様な能力だな。
「あの神器の能力…まさかフォーチュン・ブリンガーか?」
先生はあの攻撃を見て何か知っているような口ぶりをした。やはりあの神器も何かしら知っているんだな。
巨大ゴーレムの登場で更なる混乱に包まれる戦場。そんな時、俺たちから見て向こう岸から、おぼつかない足取りでふらふらと歩いてくる人影があった。
「…うぃぃー」
長い銀髪を揺らしながら、男の目を引くような整った顔で汚い音を発する女性。顔を赤く染めているのは羞恥の感情ではない。
「あれは…」
英雄派のメンバーもその女性の存在に気付き始める。気分の悪そうな顔をしている女性は俺たちに気付くと。
「なーんれすかぁ?人が気持ちよーくスヤってる時に、こんなドーンパチ、どっかーんって…うるさいんれすよああもうっ!!」
ふらふらしながら、呂律が回っていない口で聞くに堪えない文句を垂れ始めた。
あの髪型と顔は見間違えようがない。ロスヴァイセ先生だ。彼女も俺たちと一緒に霧に巻き込まれていたようだ。
「どいつもこいつも…私のはなしきからい生徒ばっかり…いちゃいちゃいちゃいちゃ…私だけ寂しく……ぬぁぁぁぁぁぁ!!!」
まさしく千鳥足の先生が何かをぼそぼそ言いながら急に頭を抱えて奇声を上げて悶え始めた。
赤い顔、千鳥足、この二つを結びつけるものと言えば一つしかない。
「…酔っぱらってる?」
先生、昼間から酒を飲んだのか?どこで生徒に見られるかもわからないのに、生真面目なロスヴァイセ先生ともあろう人が一体どうして?
「実はアザゼル先生にお酒を飲ませないように、自分で飲んだらああなったんです…」
「…酒癖悪いのな」
内心の疑問を読み取ってくれたのかアーシアさんが教えてくれた。
生真面目というのもあって色々とため込んでいそうだ。意外な先生の一面に、俺は内心驚いた。
英雄派も一時はあんな彼女の調子に困惑していたが、徐々に彼女に対して武器を構える人数が増えていった。
「なんれすか?やるんれすか?クソオーディン様の元付添人に喧嘩売ったこと、後悔させてやろーじゃないれすか!」
酔っぱらいながらも自分が武器を向けられていることに気付いた先生。ふらふらし、ばっと両手を天に掲げると、次々に空に魔方陣が展開していく。5、10、20、50と魔方陣はどんどん数を増やし辺り一面を埋め尽くしていき圧巻の光景を生み出した。
英雄派もこの凄まじい光景に戦慄を禁じ得ないようで、武器を持つ手が震え始めていた。そんな彼らに無慈悲に、いや、日頃の鬱憤を晴らすべく死刑宣告じみた叫びを上げる。
「全属性、全精霊、全神霊を合わせた北欧式魔法・フルバーストをくらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
それを合図にして、魔方陣が一斉に魔法を吐き出す。豪炎、激雷、猛吹雪、烈風、激浪、土流、閃光、ありとあらゆる属性を網羅した彼女の魔法が英雄派たちに牙を剥いた。
広範囲を埋め尽くし、この橋全てを破壊せんとばかりに放たれたそれは英雄派の一団に突き刺さるかと思いきや。
行く先に突然発生した白い霧がまるで地面が降って来る雨水を受けとめ、弾くが如く降り注ぐ魔法の嵐を防御してしまう。霧は叩きつけるように振り続ける魔法を全て防ぎきるまで、晴れることはなかった。
「うちの防御担当は俺だけじゃないんだぜ」
「勝手に防御担当呼ばわりされては困るんだが」
いつの間にかに英雄派のメンバーたちの元に戻った信長が知的そうな眼鏡の男の肩を叩く。恐らくあの男が霧の使い手か。
「乱入があったが…むしろ祭りの始まりとしては上々だ」
グレモリー眷属に俺、紫藤さん、九重、先生。この場に揃った俺たちをザっと見渡すと奴は高らかに言い放つ。
「我々は今宵、京都の特殊な力場と九尾の御大将を利用して一つ、二条城にて大規模な実験を行う!是非とも我らの祭りに参加してほしい!」
「何だと…!」
「では、また会おう」
俺たちの返答を待たずして奴は踵を返す。それと同時に発生した濃霧があっという間に英雄派たちの姿を包み隠してしまった。
それだけではない、奴等を飲み込んだ霧が今度は俺たちの足元にも発生し、水を注がれたプールの水かさが増すようにだんだん俺たちを飲み込み始めた。
「お前ら、空間が元に戻るぞ!武装を解除しろ!」
〔オヤスミー〕
先制の挙げた声に反応して変身を解除すると同時に、視界は鈍い白で完全に満たされた。
視界に鈍い白のベールを覆いかぶせ、夢心地にさせるような霧が晴れた後に目に飛び込んできたのは霧に攫われ、戦う前と何ら変わらぬ嵐山の光景だった。
俺とゼノヴィアの周りには、つい霧に飲まれる寸前に戻ったかのように変わらぬ様子で天王寺達上柚木班のメンバーと、木場とその班員がいた。
「急にどないしたん?ごっつ張り詰めた顔しとるで?」
「大丈夫ですか…?もしかして、どこか具合が悪かったりして…」
俺たちの身に起こった出来事を知らない天王寺と御影さんが心配そうに尋ねてくる。
「…いや、大丈夫」
状況の変化と、ぶち当たった絶対防御の壁。それに心を乱された今、有耶無耶な調子で答えるのがやっとだった。
次回はアザゼルが信長の神器について解説してくれるそうな。
次回、「フォーチュン・ブリンガー」