ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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先に言っておくと、コード・アセンブリー英雄集結編はパンデモニウム編、ライオンハート編、ウロボロス編、ヒーローズ編、そして完全オリジナルの5章構成にする予定です。最後の章はマジで色々動きます。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
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第112話 「フォーチュン・ブリンガー」

変わらず豪勢な夕食と大浴場での入浴を終えて就寝時間も近づく頃、グレモリーとシトリー眷属の面々と紫藤さん、俺、レヴィアタン様、そしてアザゼル先生は兵藤の一人部屋へと集合した。

 

集まった理由は他でもない。今夜行われるという英雄派の実験、それを阻止するための作戦の説明が行われるからだ。

 

「よし、集まったな」

 

集まった面々を確認がてらザっと見渡す先生。

 

「しかしこの部屋、中々狭いな…」

 

匙がやや居心地が悪そうに言う。それもそのはず、この部屋は一人部屋だ。10人以上も集まる集会のために作られたのではない。中には座るスペースがなく俺のように立ち聞きするしかないメンバーもいるし、紫藤さんとゼノヴィアに至っては押し入れの中に納まっている。

 

「それについては俺ももう少し広めの部屋を用意すればよかったと後悔している所だ。立ち見の連中には悪いことをした」

 

腕組みして立つ先生は申し訳なさそうに頭をかく。元から非常時の集合を想定してこの部屋を取ったならもっと広い部屋を兵藤に割り当てればよかったのに。

 

あ、それでも兵藤の一人部屋と言う事実には変わりないし兵藤が部屋のスペースを持て余すことになるのか。

 

「まずは現状についてだ。現在、二条城と京都駅を中心としたこの一帯に非常警戒態勢が敷かれている。現地の妖怪と協力して天使、堕天使、悪魔と人員は総動員して敵の不審な動きがないかを探っている。英雄派の姿は確認できていないが、どうにも京都の気の流れが二条城に集まってきているようだ」

 

「…これも奴等の実験ってやつですか」

 

「恐らくな。元来、京都は陰陽道や風水に基づいて作られた術式そのものと呼んでもいい都市だ。京都各地の神社や寺などのパワースポットの気が、今二条城に集中しようとしている。俺も実際何が起こるかわからんが、ろくでもないことには違いない」

 

先生も奴等が具体的に何を起こそうとしているかは見当もつかない、か。

 

曹操たちがスポンサーのオーフィスの要望に応えるためと言う以上はグレートレッド絡みなのは疑いようもない。だが一体どのような現象を引き起こすつもりなのか、そこが一番の謎だ。

 

「そして本題の作戦だが…まずはシトリー眷属」

 

先生に呼ばれ、シトリー眷属の面々の表情が引き締まる。

 

「お前たちは京都駅周辺に待機して不穏な輩を発見次第対処に当たれ。このホテルを守るのも任務の一つだ、結界を張ってあるから被害が出ることはないはずだが万が一もある。十分注意して動いてくれ」

 

こくりと頷くシトリー眷属たち。人の行きかう京都駅はもちろんだが特にこのホテルには俺たちだけじゃない、一般の2年生の生徒たちも泊っている。ここで暴れられようものなら相当な被害が出てしまうし奴等が生徒たちを人質に取る可能性も考慮すれば当然の割り当てか。

 

「そしてお前たちグレモリー眷属とイリナ、悠は…」

 

次は俺たちだ。まあ、いつもの流れで大体何をやるのか予想はついているが。

 

「例の如くオフェンスだ。二条城に向かい、捕らわれた八坂姫の救出を任せる。当然敵と交戦するだろうが救出を最優先にして完了次第すぐに逃げろ。いいな?」

 

「はい!」

 

俺たちは声を揃えて返事する。このメンバーで直接奴等と事を構えるとしたらやはり俺たちしかいない。

 

「それと今回の作戦では助っ人を一人呼んである」

 

今回も頼もしい助っ人が用意されているのか。それだけ今回の事件がロキの件と並ぶレベルの非常度と見なされているらしい。

 

「ウリエル様ですか?」

 

兵藤がもしかしてと期待に若干顔を輝かせて名を上げたかの大天使は前回の戦いでフェンリルのクローンと一騎打ちをし、見事に葬り去る手柄を上げた。今回も彼の力があれば奴等を容易く殲滅できそうだが。

 

「いや、あいつはそう何度も前線に出てこれる程暇じゃないさ。だが各地で禍の団相手に戦っているプロだ。期待はしていいぞ。今の段階ではあいつに負けず劣らずのとんでもない大物が来るとだけ言っておく」

 

先生がそこまで言うのなら期待できそうだ。いっそあの曹操や信長たちを一人で全滅させられる実力を持った強者なら大歓迎なんだが。

 

「今回はあのポラリスって人は来ないのかしら」

 

ぽつりと言ったのは紫藤さんだった。前回はロキ戦の前日にいきなり現れて協力を申し出たからな。非常レベルの高い今回もふらっと現れて同じことが起こるのではないかと期待するのも当然だ。

 

「あれは連絡手段がない以上どうにもできん…だが、今回メッセージとあるものが俺の部屋に置かれていた」

 

「!」

 

あの人、もう動いていたのか。俺の報告がなくてもやはり俺たちの動向をしっかり見ているようだ。

 

「一つは、悠」

 

徐に先生が懐から取り出したものを俺にぽんと投げ渡してきた。慌ててキャッチして確かめたそれは。

 

「プライムトリガー…!」

 

今の今までポラリスさんに解析とデチューンを兼ねて預けていたスペクターのパワーアップアイテムが今、俺の手元にあった。固くひんやりとした感触が

 

「解析結果の入ったUSBと書き置きと一緒にあった。これで幹部連中とも戦えるはずだ」

 

ちょうど信長対策をどうしようかと考えていたところだ。決戦前にこれが帰って来たのは実に僥倖、技の幅が広がるというものだ。

 

「書き置きには達筆で『立て込んでいて助太刀できぬ。すまない』とだけ書かれていた。彼の助力は期待できんだろうな」

 

「そうですか…」

 

更なる援軍を欲していたらしく兵藤たちは残念そうにしていた。残念なのは俺も同じだが、このメンバーでやるしかない。

 

「それと今度は悪い知らせだが…今回、フェニックスの涙は3つしか用意できていない」

 

「み、3つ…!?足りないですよ!この人数で!」

 

顔を青くする匙。内心俺も匙と同感だった。オフェンスのメンバーは全員で8人、アーシアさんの治癒の神器があるとはいえ、向こうは強敵揃いで激戦を避けられないこの状況においてその数は非常に心許ない。

 

「そんなことはわかってる。元々生産の手間がかかる高級品だった上に禍の団のテロのおかげで価値がうなぎ上りに急上昇していてな。各地の拠点への支給が間に合ってない状態だ。それもあってレーティングゲームの涙に関するルールも改正されるんじゃないかって噂もある」

 

「っ…!」

 

近々バアルとの試合も控えているというグレモリー眷属にとってはかなり厳しい知らせだった。こんなところでもテロの影響か、面倒ごとばかり起こしてくれるな。

 

「これは機密事項だが、涙の需要激増と同時に各勢力が『聖母の微笑』の所有者の捜索が始まっている。回復能力持ちは涙ほどでないにせよ希少だから血眼になってどこもスカウトしようと躍起だ。敵側に回らないためにっていうのも理由の一つだが…どうにかして回復系の人工神器を完成させたいところだ。ちょうど今、アーシアに協力してもらっているしな」

 

「そうだったのか、アーシア?」

 

「はい、実は…」

 

身近にいながら兵藤も知らなかったようだ。アーシアさんの協力でうまく人工神器が完成すればいいんだが。そうすれば異常に値上がりしてるフェニックスの涙の価値もある程度は落ち着きを見せるだろう。

 

「話はそこら辺にして、涙はグレモリーに2個、シトリーに一個分配する。大事に使ってくれよ」

 

取り出したフェニックスの涙の小洒落た小瓶を兵藤に二つ、シトリーの花戒に1本先生は手渡した。

 

「匙はグレモリー側に回ってくれ。呪いの炎で敵の足止めができるお前の龍王の力はきっと役立つだろう。暴走しかけたら前のようにイッセーに呼びかけてもらえ」

 

「お、俺がオフェンスに!?」

 

「そうだ、こういう時のために龍王の力を覚醒させたんだ。任せたぞ」

 

「は、はい…」

 

激戦間違いなしの前線に出るという緊張と恐怖に腰が引けながらも匙は引き受けた。前回も派手に呪いの炎を使ってロキを抑えてくれたからな、今回も活躍を期待できそうだ。

 

「この京都一帯に敵を逃がさないよう包囲網を張ってある。外に待機している部隊の指示はセラフォルーが担当する」

 

「悪い子はきっちりお仕置きしちゃうから任せてね♪」

 

こんな時にも自分のペースを崩さず、可愛らしくウィンクして見せた。こんな非常時にも慌てず普段通りの態度でいられるのは数々の戦いを潜り抜けてきた魔王たる彼女の強い意志がなせる業か。

 

「先生、部長たちの力を借りることは…」

 

手を挙げて意見したのは兵藤だ。わざわざ戦うためだけにこっちに呼ぶのは心苦しいが、そう言ってはいられない状況だ。兵藤の思う通り、戦力は少しでも多い方がいいし呼べるのなら呼んでおきたい。

 

「それがどうにも、タイミングが悪かったみたいでな」

 

「タイミング?」

 

「旧魔王派絡みでグレモリー領の都市で暴動が起こったらしい。リアス達はもちろん、グレイフィアにグレモリー現当主の奥方も参戦したそうだ。まあ、鎮圧は確実だな」

 

「そんなことが…」

 

こっちがこっちで大変なように、居残り組もまた大変な事件に巻き込まれているようで。逆に狙いすましたようにタイミングが良すぎて、こちらに戦力を集中させないために根回しされたのかと疑ってしまうくらいだ。

 

しかし、年長組や塔城さんとギャスパー君の援軍は見込めないか。ギャスパー君の停止の力で信長に隙を作れないものかという考えもあったが、やはり自力で何とかするしかないようだ。

 

「『亜麻髪の絶滅淑女《マダム・ザ・エクスティンクト》』と『銀髪の殲滅女王《クイーン・オブ・ディバウアー》』、『紅髪の滅殺姫《ルイン・プリンセス》』の三人がそろい踏みなのね♪」

 

髪の名前で誰の二つ名かだいたい想像がついてしまうんだが、グレモリーの女性が強すぎる。うち二人は大王バアルの血を引き、一人はルシファー側近のルキフグス家の血筋。旧魔王派の連中はグレモリー領で暴動を起こしたのが運の尽きだったな。

 

「ここまでで何か質問がある者はいるか?」

 

説明は一通り終わったと質問タイムに入ったところで俺は挙手する。

 

「はい、作戦には関係ないんですけど英雄派の神器のことで一つ訊きたいことが」

 

「なんだ?」

 

「先生、あの時言ってたフォーチュン・ブリンガーって何ですか?」

 

渡月橋の一戦、幹部の信長がゴグマゴグに対して繰り出した攻撃を見た先生がそんな単語を言っていた。もとより知名度の高い神滅具は大体把握しているが、そうでないあの神器について説明が欲しいところだ。

 

「…あの神器は神滅具じゃない。だが、希少さで言えばそれに匹敵するレベルのレア神器だ。『極彩色の崩壊《インエグゾースティブル・シャイン》』、それの別名が『フォーチュン・ブリンガー』。富をもたらす神器さ」

 

「富をもたらす神器?」

 

胡乱気に言うのは匙だった。

 

「アレはケイ素、炭素など鉱物に関わる元素を自在に生成、その原子結合を操作して鉱物…もっと言えば宝石を生み出す。過去に確認された所有者はその能力で宝石を大量に生み出し、巨万の富を得たそうだ。…もっとも、その能力ゆえに国や組織、金持ちから狙われて悲惨な最期を遂げた者も少なくない」

 

「宝石を生み出し、所有者に富を与える神器…だからフォーチュン・ブリンガーですか」

 

「ああ、歴代の所有者は富を得るためだけに自分の能力を使った。あの男のように戦闘に使った例は未だかつて確認されていない。こんな能力があれば誰だって作った宝石を金にしようとしか考えないからな。アレを見た時はマジでたまげたぜ、ただでさえ希少な神器と遭遇してラッキーな上に、今までにない使い方をしているんだからな。神器マニアとしてこれ以上興味をそそるものはねえ」

 

想像するだけでと先生の面持ちに内心のワクワクが滲み出てきていた。先生、自重してくれ。こっちはマジであれをどうしようかと頭を悩ませているんだ。

 

「…原子結合を操作して硬度を自然のもの以上に高めることはもちろん、神器は所有者の思いに応える。奴が絶対に防御は破られないと強く思う限りはそれに応じてカタログスペック以上の硬度、無類の防御力を発揮するだろう。それに奴等も戦闘を重ねて素の神器の能力を高めているはずだ」

 

「…さらに言うと、あいつはまだ禁手を使っていない」

 

もっと言うならあいつだけじゃなくこの前戦った幹部以上の連中もだ。レオナルドとか言う『魔獣創造』の少年も禁手を使っていないはず。いや、彼だけは発展途上と言われていたからまだ禁手に目覚めていない可能性もあり得なくはなさそうだ。

 

「はぁ…この戦いで一番厄介なのは神滅具じゃなくそれかもしれんな。パワータイプのお前らと真っ向から渡り合っていける防御力、何か手を打たないとまずいことになる」

 

先生はやれやれと深くため息を吐いた。

 

…俺たち、脳筋だからなぁ。変則的な策でこっちをがんじがらめにしてくる敵より真正面から全力をぶつけても通じない相手が一番こたえる。思い返せば神クラスのパワーを持つロキもそっちに分類される敵だった。

 

「…ヴリトラの呪いやラインで奴の力を抑えるというのは?」

 

ふとヴリトラの力ならと提案したのは木場だった。誰もがその手を思いつかなかったようで、先生すら「そうか」と声を上げた。

 

「そうするのも手かもしれん。流石に呪いまで物理的に防いでしまうとは考えにくいからな。神の力のヴァジュラの雷を使えば強引に突破できるかもしれんが…あれは寿命を削る。それに頼らないために俺は龍王化という選択肢を提示したんだからな」

 

「匙、マジで大活躍するかもな。会長さんに自慢できるぞ」

 

「おお!!怖いけど、なんだかやる気が出てきた気がするぞ!」

 

匙がまさか幹部攻略の糸口になる日が来るとは思いもしなかったぞ。実戦の時は頼りにするからな。

 

「他に質問がある者は?」

 

今度こそ全員が、質問はないとかぶりを振った。

 

「よし、説明は以上だ。俺も空から奴等を探す。修学旅行は帰るまでが修学旅行だ。絶対に死ぬんじゃねえぞ、いいな?」

 

「「「「はい!」」」」

 

自身に気合を入れるためにも、全員が声を揃えて威勢よく返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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解散して俺が向かったのは下の階にある自分の部屋だった。ガチャリとドアを開けると、スマホをいじっていた天王寺が俺に気付いた。

 

「お、戻って来たね」

 

「悪いけど、また部屋を空けることになった」

 

ずかずかと進む俺は荷物の入ったカバンを開け、戦闘用の学園の制服をざっと取り出す。

 

「そっか、知らんけど悠君は悠君で忙しいんやな」

 

「本当はお前とゆっくりしたかったんだけど、そううまくいかないみたいだ」

 

早速ジャージ姿から着替えをしながら、天王寺と言葉を交わす。

 

本当ならこんな戦いもなくただ楽しい修学旅行を送りたかった。だが異形と関わってしまった俺にはそんな平穏は許されないらしい。

 

「気にせんでええよ、悠君のやるべきことをやればええんや」

 

申し訳ない気持ち一杯の俺の言葉にも天王寺は気にしていないといつものように朗らかに笑うだけだった。

 

本当にこいつは優しいな。この二枚目の顔と明るい性格で彼女いない歴=年齢なのが信じられないくらいだ。

 

手早く制服に着替えを済ませて、軽めの水分補給を取った直後だった。

 

「なあ悠君」

 

不意に天王寺に呼びかけられる。

 

「こうして皆といつもよりわいわいはしゃいで、おいしいもん食べて、すごい楽しかったで。明日で終わる修学旅行、それからも皆と一緒に変わらずいられるのになんだかすごく寂しい気がするわ」

 

普段と変わらぬ笑顔をたたえているが、語る声色にはいつも明るい彼らしからぬ、過ぎていく時間を惜しむようなどこかしんみりとしたものがあった。

 

「今の悠君すごく怖い顔しとるけど、ちゃんと帰ってくるよね?その表情見てるとなんだか怖い気になってくるわ」

 

「……」

 

天王寺の言葉に一瞬言葉に詰まってしまった。

 

天王寺は異形とは一切かかわっていない。俺たちの事情を知っているはずがないのに、どうしてこうも刺さる言葉を言ってくれるのか。

 

恐らく本当に彼は何も知らないのだ。だが、彼の鋭い勘が不穏なものを察したのだろう。

 

考えてみれば、天王寺は一度友人を失いかけている。親友だったこの体の主が事故で意識不明で1週間寝たきりになってしまったことがある。そこに俺が転生することでどうにか回復できたのだが、その1週間、天王寺はどれほど目覚めぬ彼の心配をしただろうか。

 

一度友人を失うかもしれない状況にあったからこそ、まるで死地に赴くような顔をした今の俺を見て心配でたまらないのだ。また…いや、今度こそ、俺が帰らぬ人になるのではないかと。

 

思いっきり口元を笑ませて。

 

「…当たり前だろ、俺は事故ってもちゃんと帰ってくる男だぞ?記憶はないけどな」

 

自信たっぷりに言ってやった。

 

これまでもそうだった。コカビエル、ヴァーリ、ディオドラ、そしてロキ。どれも命を落としかねない、いや落として当然と言えるほどの強敵だったが結果的に俺たちは修羅場を潜り抜けてこられた。

 

もちろんそこには運も多分にあるだろう。しかし猛攻をしのぎ、掴んだ勝利のベースにあるのはたゆまぬ鍛錬を重ねてきた俺たちの実力だ。それは誇ることのできる、俺たちの自信だ。

 

今回だって、きっと乗り越えて見せる。俺たちは壁にぶち当たるたびに強くなってきた。今度の壁もその力でぶち破っていけるさ。

 

「明日は清水寺行って、おいしい八ッ橋買って、景色楽しんでから帰るぞ。悔いは残さないようにな!」

 

「…せやな、しんみりしとる場合やないわ、明日のこと楽しみに考えるのがええ!」

 

天王寺の表情に見える心配の陰が消え、いつもの調子に戻ったみたいだ。

 

天王寺は何も知らない。俺たちの事情に深く踏み入ることはない。でもだからこそ、俺は戦いを忘れてただ一人の何でもない男子高校生でいられる。兵藤が異形関係での親友なら、天王寺は日常サイドでの親友だ。

 

やはり天王寺がいてくれて本当に良かった。天王寺と話して心を奮わせる勇気が湧いてきた気がする。今日を戦い抜き、明日を生きるための勇気が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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天王寺と他愛もない会話を交わし、覚悟を決めた俺はホテル一階のロビーへと足を運んだ。既に俺以外のメンバーは全て揃った様子だ。

 

「悪いな、ちょっと天王寺と話してた」

 

「大丈夫だ、匙の方も話してるみたいだしな」

 

そう言って兵藤が視線をやった先には、ロビーの一角に集まって話し合ってる匙たちシトリー眷属の面々がいた。戦闘前の緊張をほぐすためか、談笑しているみたいだ。

 

あまりシトリーとは絡まないから向こうの事情は知らないが、あの様子だと仲良くできているようだ。

 

「イッセー君、少しいいかい?」

 

「ん?ああ」

 

「はっきり言うと、部長不在の今、僕たちの『王』は君だ」

 

木場はまるで自分の剣のように鋭く言ってのけた。

 

「渡月橋の一戦、君の指示が良いか悪いかはわからないけど結果として今僕たちはここにいる。だから君に託すよ」

 

渡月橋の時のように、全体を動かす指揮官の役割を兵藤に任せるのか。確かに各自バラバラに戦うよりは全体を見て、的確な指示を味方に出せる人がいると集団戦においては随分戦いやすく、かつ連携も取りやすくなる。

 

兵藤の指揮のスキルは本来それを担う部長さんに比べれば劣るが、確かにあの一戦でうまいこと俺たちに指示を出せていた。木場の光を喰らう魔剣、アーシアさんと九重の護衛を考えた割り当て。今にして思えば初めてにしてはうまくできたものだ。

 

「私も君に指示を任せようと思う。アーシアや私は指示があった方が動きやすいからね」

 

「無理しちゃだめだけど、今回も期待してるわよ?」

 

「お願いします、イッセーさん」

 

「任せたぞ、王様」

 

俺も異存はない。今までの戦いを指揮してきた部長さんをこの中で一番見てきたのは木場だが、彼が兵藤に託すのなら俺も託そう。

 

「まだチームに慣れてないのもあるので、ここはチームでは先輩のイッセー君を立てることにします」

 

この場で一番の新参者であり、最年長でもあるロスヴァイセ先生の合意で俺たちの方針は決まった。

 

味方の指揮を担うこの戦いを乗り越えた時、兵藤は大きく成長するだろうな。

 

ふと目に留まったのはゼノヴィアが引っ提げる白い布に包まれた長物。サイズで言えばデュランダルと同じくらいだが…。

 

「それは?」

 

「教会に預けていたデュランダルだよ。教会から届いた新兵器…『エクス・デュランダル』の初陣を飾るには相応しい相手だ。ぶっつけ本番だが、それもいいだろう」

 

「『エクス・デュランダル』…へえ、どんなのか楽しみにしておこう」

 

エクスとはこれまた大層な名前が付いたもんだ。あのデュランダルがパワーアップしたからには相当な火力が出るに違いない。英雄派に面食らわす一撃を繰り出せそうだな。

 

「イッセー君、ところで箱の中身はどうしたんだい?」

 

矢庭に話題を振る木場。確かに、赤龍帝の新しい力の可能性は飛び出して以来何の音沙汰もなかったが…。もし今も手掛かりがないなら戦いに備えて急いで見つけた方がいいのでは?

 

「ちゃんと手元にあるぜ。京都中を巡って、色んな人に憑りついては色んな人のおっぱいを触って力を高めていたらしい」

 

人に取りついて他人のおっぱいを触らせるってお前の可能性怖すぎだろ…。と言うか何より。

 

「…人のおっぱい触るって、それ犯罪じゃね?」

 

普通に公然わいせつ罪で捕まるぞ。何だその痴漢メーカーな可能性とやらは。赤龍帝の可能性がお前の色に染まってるじゃねえか。

 

「…うん、これのせいで痴漢騒ぎが起きたらしくて、先生たちが被害者加害者のフォローに回る予定だと」

 

「とんだとばっちりじゃねえか」

 

流石に兵藤も申し訳なさそう顔で俯いていた。一般人はこちらの事情とか分からないと思うけど、兵藤も頭下げに行った方がいい気がする。

 

話が終わったのか、匙が向こうの集まりから駆け寄って来た。いや、匙だけではない他のシトリーメンバーも一緒だ。

 

「待たせて悪い。ちょっと話し込んでさ。行こうぜ」

 

「元ちゃんのこと、お願いします」

 

「オフェンスは任せました」

 

ホテルや駅の見回りに出る花戒さんたちの激励にうんと頷く。

 

俺、兵藤、木場、アーシアさん、ゼノヴィア、紫藤さん、匙、ロスヴァイセ先生。これでカチコミをかけるメンバーは全員揃った。

 

後は二条城に行き、英雄派を叩いて八坂姫を救出する。仲間のためにも、身を案じてくれる天王寺のためにも必ず、修学旅行最後の日を迎えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ホテルに出て最初に向かうのはバス停だ。流石に日もとうに落ち切っているし、ここから二条城まで徒歩で行くのは骨が折れる。

 

コートを着たロスヴァイセさん以外は全員冬の制服だが、この時期の夜の寒さを完全に凌ぐには少々心許ない。現に少々寒さで震えている。

 

「うぅ…おぷ」

 

そしてこの中で一人、寒さや緊張と違うものと戦っている者がいた。今にもなにかを出してしまいそうな切羽詰まった表情のロスヴァイセさんだ。

 

昼に飲んで酔っ払ってからと言うもの、酔いが冷めてホテルに着いてからはずっと吐きっぱなしだ。そんな状態で戦わせられないと先生も止めようとしたが、グレモリー眷属加入して初の戦闘ということで、無様に吐き気に負けて逃げ出すわけにはいかないと聞かなかった。

 

「先生、何でついてきたの…」

 

「教師として、生徒にばかり体を張らせるらせるわけには…おぅ!」

 

口を押えて中腰ながらも、進むという意思は曲げずにしっかり歩いている。強がってるなぁ。

 

先生の介抱をしつつバス停に着くと、既に小さな先客がいた。

 

「…あれ、九重!?」

 

「どうしてここに!?」

 

九尾の娘の九重が護衛もなく一人でまたも俺たちの前に現れたのだ。渡月橋といい随分アクティブ、おてんばな姫様だ。

 

彼女もいっしょに行くとは話に聞いていないため、当然俺たちは彼女の存在に驚いた。

 

「赤龍帝、私も連れて行ってくれ!アザゼル総督に来るなと言われたが…やっぱり、母上を救いたいのじゃ!頼む!」

 

「九重…」

 

譲れぬ決意を持った目で、彼女は俺たちに懇願する。

 

人の話を聞かず、周りを振り回すところはあるがまだ幼いながらも勇気のある子だ。

 

俺は彼女の願いを聞き入れるべきだと言おうとした途端、足元をぬめりとなめるような冷たい感覚が襲った。

 

何かと思って見下ろせば、そこにあったのは。

 

「霧…!」

 

渡月橋の時にも発生した神滅具産の霧が、俺たちの対処の動きを待たずしてあっという間に飲み込んでしまう。そして数秒間、視界は霧に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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濃密な白のベールが晴れた後、辺りの景色はがらりと変わり京都のビルが林立する街中だった。

 

「…ここは」

 

車がせわしなく行きかうはずの道路には車一台も通っておらず、通りを歩く人の姿も全くない。この現象、渡月橋の時と同じだ。また奴等の作った空間に転移させられたようだ。

 

車一台もなく、静かな道路のど真ん中に、一人俺はぽつんと立たされていた。

 

「…俺一人だけか。分断して、各個撃破を狙うつもりか?」

 

「それもあるな」

 

「!」

 

予期せず帰って来た質問の答えに反射的に振り向く。こんなところにいる奴と言えば敵か味方か、その二択だ。

 

そしてこの声は身内の誰のものでもない、となれば…。

 

中央線を挟んで向かいの道路、そこに槍を携えてこちらに歩み寄る漢服の男が一人いた。忘れもしないあの飄々としていながら如何なる敵にも挑戦するという自信に満ちた表情の持ち主は。

 

「やあ、紀伊国悠。我らの祭りへの招待に応じてくれたようで何よりだよ」

 

「曹操…!」

 

英雄派の首魁が単身で、俺の前に現れた。

 




ヴァジュラの雷を完全コントロールした匙がヴリトラの禁手の鎧を使ったらクウガのアルティメットフォームみたいになりそう。

次回、「英雄のヴィジョン」

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