ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第113話 「英雄のヴィジョン」

曹操と俺、道路の中央線を挟んで俺たち両者は相対する。こちらはいつでも攻撃に対応できるよう、ドライバーを出現させ左手にプライムトリガー、右手に眼魂を握っている。

 

しかし敵対する曹操は変わらず神々しいオーラを静かに放っている聖槍を携えるだけで、こちらに一切の敵意を向けていない。表情も戦闘時と比べれば柔らかく、まるで戦う気がないと言わんばかりの余裕っぷりにこちらは警戒を強める。

 

「リーダーが直々にお出ましとは、随分高く買われてるみたいだな」

 

「前にも言ったはずだ。我々は君に強く興味を抱いているとね」

 

「生憎俺にはそちらに対する興味はない」

 

俺たちにとって、奴は面倒ごとの種でしかない。問答は無用、こいつを倒して兵藤や先生たちへの手土産にする。そう思ってトリガーを構えた矢先に曹操は手をはたはたと振った。

 

「おっと、君と武を交わすつもりはない。今回は君と話をしたくて来たんだ」

 

「何?」

 

予想外の奴の言葉に眉を上げる。このタイミングで俺の前に姿を現すとなれば戦うつもりとばかり思っていたが…。

 

奴は聖槍を持つ手とは反対の手を、俺に向けてそっと差し出した。

 

「単刀直入に言おう、俺たちと来ないか」

 

そして真剣味のある面持ちで、真っすぐ曹操は俺に勧誘の言葉を投げかけてきた。

 

「…そう来たか」

 

久方ぶりにかけられた勧誘の言葉にやれやれと深く嘆息してみせる。曹操は真剣な表情で続けた。

 

「理由としては君が英雄の力を使っているというのも多分にある。だが俺は君に我々と共鳴できる素質があると思っているからだ」

 

「俺がお前に共鳴?」

 

「そうだとも、君は悪魔や堕天使、天使の仲間と共にいながら人間であり続けた。異形社会に足を踏み入れる度に文化の違い、価値観の違いを感じただろう?転生しようと思えば転生できたはずだ。それなのに、君は人間として生き、戦う道を選んだ」

 

…本当はどういうわけか駄女神に悪魔に転生できない術をかけられているからなのだが、それを言ったらそれで奴が勢いづきそうな気がするからよそう。

 

「それは君が我々と同じ、人間であることに意義を感じているからではないか?同じ人間である我らの方が君を理解し、神器の深層を知ろうとする我々はより高みを目指すパートナー足り得る」

 

同じ人間なら、か。

 

しかしなるほど、奴なりに俺の戦闘データだけでなく心情も分析しているようだ。異形の仲間たちとただ一人の人間として共に戦う俺は人間であることに誇りのようなものを抱いていると。

 

「それに…異形になった仲間は長寿だが君はいずれ老いる。君はずっと彼らと共に生きることなどできない。どれほど強くなろうとも寿命の壁を越えることなどできやしないさ」

 

寿命。それはいかなる生物の前にそびえる抗いようのない壁。それは死と同義であり、避けようのない絶対の理だ。そして俺と兵藤、ゼノヴィアの間にもそれは厳然として存在している。

 

これに反論することはできやしないと奴は口の端を上げた。

 

「それならば、異形よりも限られた生で力の限り輝き、英雄になる人生の方が生きがいがあるというものではないかな?英雄の力を手にした君は英雄を目指す我々と共に生き、強さの極み…君自身が英雄になる道を目指すべきだ」

 

雄弁に訴える曹操の飄々とした眼に、強い切望の色が見えた。それだけ俺を高く買い、こちらに来てほしいと見える。今まで何度も俺をスカウトしようという話を持ち掛けたやつはいたが、今の曹操ほど熱心な相手はいなかった。

 

「俺たちと共に強さの極み、英雄という頂へと続く道を進もう。俺の仲間たちも君を歓迎する。君という人材をどこよりも生かす道はこちらにある」

 

手を差し出す曹操が、かつかつと乾いた靴音を鳴らしてこちらへと歩みを進め始める。

 

一通り奴の話を聞いて、はぁと長い息を吐く。

 

「…なるほど、何とも聞き心地の良い弁だ。こうしてお前は志を同じくする仲間を増やしてきたわけだな」

 

出発前に先生から聞いたが、曹操は人材発掘に長けていたという。俺を相手に見せた相手の心を揺さぶる弁術、その英雄の名と魂を継ぐからには当然相応の能力も持っているようだ。

 

「今までに種族の壁…価値観の違いを感じたことがないわけじゃない。それでもあいつらは俺の大事な仲間なんだ。俺たちの関係に悪魔だとか、人間だというような概念なんてどこにもないんだよ」

 

「それに…俺の好きな女の子は悪魔だ。あいつに対して抱いた感情は、種族の壁に止められる程度のものじゃない」

 

彼女に思いを告白した時からそれは理解していた。でもそんなことは関係ない、俺は悪魔としてではなく、一人の女の子としての彼女が好きなんだ。

 

「寿命の長さ?そんなもの、人間だって全員同じ寿命で死ぬわけじゃない。寿命以外で死ぬ奴なんざごまんといる。…永遠にあいつらと一緒にいられるわけじゃないのはわかってる。だからこそ、今を大切な人と過ごしたいって思うんだろうが」

 

誰だっていつ死ぬかわからないものだ。次の朝にはいきなり病で死んでいるかもしれないし、

 

…俺がそうだ。明日明後日、何も変わらない日常を過ごすかと思いきや電車の事故で死んだ。かつての世界で友情を結んだ友とはもう二度と会うことはない。死とは唐突で誰にも抗いようのない概念だ。

 

だから俺は今一緒にいる兵藤達、天王寺たちかけがえのない友と、かけがえのない時間を過ごすのだと切に願っている。いつ失われるかわからないからこそ、その時間がいかに大切かを知っているんだ。

 

「ほう」

 

「…断る。人様に迷惑をかけるようなテロリストに下るつもりはない」

 

毅然と奴の誘惑を突っぱねる。俺を信じてくれた仲間の信頼を裏切るような真似は決してしない。テロリストに下るなど言語道断だ。

 

「…そうか、残念だよ。ならもう一つ聞かせてほしい。英雄の力を使う君にどうしても聞きたかったんだ」

 

差し出した手を下すと、前にもまして奴の表情に真剣みが増していく。

 

「問おう、君にとって『英雄』とは何だ?」

 

「…どういう意図だ」

 

「意図も何もそのままの意味さ。俺は君が英雄と呼ばれる存在をどのように定義づけているか知りたいだけさ」

 

「…英雄」

 

今までの熱烈な勧誘とは打って変わって真剣な哲学味もある質問に俺は非常に返答に困った。

 

俺は英雄眼魂の力を使って戦っている。プライムスペクターという新しい力だってその英雄眼魂の力で成り立っている。つまり、俺はそれらの力の源となる英雄たちとは切っても切り離せない関係にある。

 

今まで目の前の敵を倒し、大切なものを守ることばかりで英雄とは何かについて考えたことなどなかった。

 

だから俺は…。

 

「…少なくとも、人様に迷惑かけるようなお前らみたいな連中じゃないってことはわかる」

 

ぼんやりとした回答しかよこせなかった。

 

「ふふ、つまり人のために動き、悪をくじいて善に尽くす存在だと?」

 

曖昧ながらに俺はうなずいた。それを見て曹操ははぁと落胆を隠しもせず、息に乗せて吐き出した。

 

「英雄とは言い換えれば虐殺者、破壊者。それら負の側面と表裏一体の存在だ。既存の概念を破壊する画期的な発明は多くの人々の生活を豊かにしたと同時に既存の発明に携わる人間の生活を危うくした。戦争の勝利者も現実は数多の敵の屍の上に栄光を掴んだ者のこと。まさか君は英雄がそれこそおとぎ話で語られる善の側面しか持っていない存在だとは言うまいな」

 

反論のしようがない奴の言葉に、俺はただ口を引き結んで押し黙る。鋭い視線で俺を見据える奴は失望の色を隠しもせず、肩を落とした。

 

「…少々がっかりしたな。英雄の力を使っておきながら、そんな薄っぺらな定義を持っていたとは。君なら俺を理解してくれると思っていたのに」

 

「だったらどうした」

 

「仕方ないな」

 

瞑目する曹操が石突で道路を叩いた。硬い音が響き、場の空気を緊張させる。

 

「いずれにせよ君は脅威的な力を持つ敵だ。惜しくはあるが、君を殺して英雄の力を頂戴するとしようか」

 

「御託を並べず最初からかかってきたらいいものを」

 

実験とやらがどうなっているかわからない以上、あまり悠長に会話している場合ではない。話が決裂した以上はこいつを全力で倒す。英雄派のリーダーを倒したとなれば拍がつくし、後顧の憂いを断つことにもつながる。

 

〔ソウル・レゾナンス!〕

 

手にしたプライムトリガーの上部スイッチを押して起動させ、ドライバーに差し込む。そしてドライバー本体には俺自身の魂が宿るスペクター眼魂を装填する。

 

〔アーイ!ヒーローズ・ライジング!〕

 

ドライバーのカバーを閉じると同時に、ドライバーから10の英雄ゴーストたちが溢れるように飛び出す。普段は1体しか出ない故に随分賑やかに見えた。

 

「変身!」

 

〔ゼンカイガン!プライムスペクター!〕

 

ドライバーのレバーを引くと全身を黄金の霊力が覆い物質化してスーツの形となり、周囲を旋回するパーカーゴーストたちが各部に備わったアーマーへと導かれる。

 

〔英雄!裂空!勇壮!激闘!ブレイヴ・イグニッション!〕

 

10の英雄たちの力を一つに束ねた輝かしい黄金のオーラを身にまとい、二度目のプライムスペクターの変身を完了する。前回と違い、15の眼魂がそろってない今は前回ほど湧き上がる強い力はない。それでもパワーアップにしては十分すぎるほどの出力が発揮できそうだ。

 

変身を目の当たりにした曹操は、強敵を前にした喜びと幾分かの怪訝さの入り混じった表情で首をかしげていた。

 

「それがロキと倒した力…?にしては、少々オーラが弱く感じるが」

 

「条件が揃って無くてな。それでもお前を相手にするには十分だ」

 

「…ふははっ!英雄の力を使いし者、そうこなくては!」

 

〈BGM:COUNTER ATTACK(機動戦士ガンダムOO)〉

 

湧き上がる戦意に口をゆがめ、先に仕掛けてきたのは曹操だった。腰を低くしたひとっ走りで距離を詰め肉薄し、間合いに入れるやいなや聖槍の鋭い突きのラッシュで果敢に攻め立ててくる。

 

「!」

 

〔ムサシ!〕

 

横殴りに降り注ぐ突きの五月雨。こちらはその勢いに押されながらもじりじりと後退してムサシの見切りを利用した身のこなしで回避しつつ、回避しようのないものはナギナタの刃で防御する。刃と刃がぶつかるたびに、きらきらとした星の瞬きのように火花が散った。

 

雨をしのぐ中で幾度かそらした刃がこちらのアーマーをかすめた。聖槍の攻撃で無傷なことからアーマーの強度が相当なものであることがうかがえるが、それはまだ奴が本気を出していないというのもあるだろう。神器使いたちで構成される英雄派のリーダーだ、きっと使えるであろう禁手を使っていないのが何よりの証拠。

 

しかしなんという攻撃だ。奴の攻撃には恐れがない。人間のみでは悪魔の魔力攻撃を真正面から受ければひとたまりもないというのに、その生身であることを全く気にもせずただただ果敢に攻撃してくるのだ。奴が纏うテクニックタイプの雰囲気とは裏腹に、臆することなく、一途に仕掛けてくる大胆さも備えている。

 

それに奴の攻撃はよく観察すると、アーマーに覆われていない部位を的確に狙ってくる。そのうえ微妙に攻撃のリズムをずらしてくるので見切りしづらい。狙いの正確さ、リズム、そして俺に反撃する隙も与えないラッシュのスピード。どれか一つ崩すことなく、3つを完璧に両立させた攻撃

 

「挨拶代わりのラッシュはいかがかな!?」

 

「お前、相当な手練れだな…!」

 

攻防の間に俺たちは言葉を交わす。刃をぶつけてそらした槍が右の二の腕をかすめ、軽い切り傷を作った。

 

まともに相手していないから正確な差は測れないが、おそらくというか確実に旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブよりは格上だ。そんな奴がなんたって俺のところに…いや、俺のところでよかったのかもしれない。

 

俺以外が相手にしていれば、兵藤達悪魔は聖槍で消滅させられていた可能性が高い。まったく、運がいいんだか悪いんだか…!

 

とにかく、このまま防戦に回るだけでは埒が明かない。埒が明かなければどうするか?それは…。

 

ガキンッ!

 

金属同士が正面からぶつかる甲高い金属音が響いた。右腕のアーマーで槍の攻撃をあえて真正面から受け止めたのだ。

 

「なに」

 

「らぁっ!」

 

埒が明かないなら、明けるまで。槍を受け止めたまま、反撃で左の拳をまっすぐ振り抜く。穿つ一打を奴は体を横にそらして躱し、横っ飛びする。

 

くるりと華麗な身のこなしで宙を舞い、優雅に奴は着地して見せた。

 

「はは、やはりやるね。そうこなくては!」

 

乱れた髪をさっと払い、愉しそうに笑う。例に漏れずバトルジャンキーか、まったくどうして最近かかわる人間には戦闘狂が多いのか…。

 

だがこのまま黙るつもりは毛頭ない。こちらも仕掛けられたら仕掛け返す。

 

「今度はこちらの攻める番だ!」

 

〔ニュートン!〕

 

左手を自分の後ろに向け、斥力を発生させる。俺の体は自らが発生させた斥力にはじかれ、まっすぐ奴のもとへ猛進する。

 

俺の考えた戦法の一つだ。相手を引力で引き寄せて攻撃するのも手だが、あえて斥力で自分を相手のもとに吹っ飛ばして急襲を仕掛ければ相手の虚を突くことができるのではないかという寸法。

 

思惑通り、いきなり自分のすぐそばまで現れた俺に曹操は一瞬不意を突かれた表情をしていた。

 

「は…!」

 

こうして近接戦の間合いに奴をおさめ、一気に奴めがけてナギナタで切りかかる。上の刃と下の刃を起用に使い、息つく間もない連撃で攻める。振るわれる剣戟の鋭い刃風が曹操の服に切り傷をつけるも、華麗なる軽い身のこなしだけで奴は攻撃のことごとくをしのぎ、本体には傷一つつけること能わず。

 

上段からの斬り下ろしを上体を横にそらして躱し、横薙ぐ一閃は体を低くしてやり過ごす。まるでこちらの攻撃を完璧に読んでいるのかと錯覚するほど、鮮やかな体捌きでやつは攻撃を躱し続ける。

 

回避のさなか、奴が鋭い突きをカウンターがてら繰り出す。こちらも負けじとナギナタをふるい、戦いの中で高ぶるオーラをまとう刃同士がぶつかった。

 

「中々当たってくれないな…!」

 

「聖槍だけが俺の取り柄だと思われては困るな!」

 

槍と長刀、二つの刃が互いの闘志を乗せつばぜりあう。間近に見る曹操の表情は、まさしく猛々しいライオンのように荒く、戦いの喜びに満ちていた。

 

互いに同じことを思ったのか、ほぼ同タイミングで鍔迫り合いを解除しさっと距離をとる。その間にも俺はガンガンハンドを召喚し、プライムトリガーの生成するエネルギーが物質化した金色のパーツが備わった銃口を奴に向ける。

 

〔ガンガンハンド!〕

 

〔ノブナガ!〕

 

〔ロビンフッド!〕

 

二人の英雄の力が同時に発動、周囲に出現した実態ある幻影が矢の雨嵐を吐き出す。鋭利な翡翠の矢の雨が唸りをあげて曹操めがけて猛進する。

 

「ふ」

 

対する曹操は回避運動を取らず、槍の穂先を矢が襲い来る前方に向け、秘められた聖なる力を開放する。眩く太い光線が照射され、矢の群れを瞬く間に飲み込み。

 

「おわっ!」

 

そのまま俺に向かってくる光を慌てて横っ飛びで回避する。光線はそのまま背後のビルにぶつかるとめきっとビルの外壁にヒビを入れ、激しい爆音を響かせて一瞬で粉砕した。濁ったような粉塵が辺りに舞い、砕かれたごつごつとした瓦礫が重力に囚われ、落下してくる。

 

落下した瓦礫ががらがらと道路に落ち、ビル付近にいた俺たちの周囲に粉塵と砂が混ざった濁った色のベールがおりた。

 

「これが聖槍のパワー…」

 

「技だけでは勝てない戦いもある。パワーに磨きをかけることをおろそかにしたりはしないさ」

 

ビルを破壊した奴はそれを誇るわけでもなく、当然といった調子で槍を手慰むように回す。

 

聖槍のパワー、やはり侮りがたいな。真正面からパワーのごり押しでも十分勝てるスペックを持っている。これもまた、最強の神滅具と呼ばれる所以か。

 

…だが土煙が舞っているこの状況は予期せぬ好機だ。瓦礫の大きな落下音と土煙のおかげで奴に気取られず、きっちり仕込みができた。

 

「!」

 

突如として曹操の足元から地面を突き破って鎖が飛び出す。うねる鎖は曹操に行動させる隙を与えず、そのまま奴の手足に絡みつきあっという間に自由を奪った。

 

「捕えたぞ」

 

フーディーニの鋼鉄の鎖が奴の両腕に喰らい付くかのようにがっしりと巻き付いている。そこにすかさずエジソンの能力で激しい電流を流し込む。

 

「ぐぉ…!」

 

聖槍の使い手とはいえ、奴は人間。鎖を伝って全身に流れる電撃に歯を食いしばって、苦悶の声を上げた。

 

電撃に手が震え、聖槍で鎖を絶つことすらままならない。形勢は一気に俺の優位へと傾いた。

 

〔ヒミコ!〕

 

ダメ押しにとヒミコの聖なる炎も発動させる。鎖を聖なる桃色の炎が這い、曹操のもとへと伸びていく。

 

「このまま電撃と炎を流してお前を戦闘不能にし、お縄にしてやる…肉食った報いを受けろ!曹操!」

 

〈BGM終了〉

 

己の戦意を昂らせ、敵に敗北を認めさせ戦意を挫くように吠える。聖槍を使えない今の奴には反撃の手段などあるはずがない。

 

そう、勝利を確信したからこそ俺の戦意はその時緩んでしまったのだ。

 

「…『禁手〔バランス・ブレイク〕』」

 

「!!」

 

だからこそ、奴の繰り出す一手に反応が遅れた。

 

ガシャン!

 

刹那、奴を拘束していた鎖の全てが一瞬にしてガラスのように儚く砕け散った。

 

「鎖を!?」

 

理解も追いつかないまま次に襲ったのは腹部に叩きこまれた重い重い衝撃。そして俺の体は一気に背後に建つビルをティッシュのように次々と容易くぶち破って、遥か後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「ごふぅあっ!!?」

 

絶え間なく移り変わる視界、追い付かない思考。それらを一度に、唐突にぶち込まれて水に溺れたような錯覚すら感じた。

 

何度も何度もビルを突き破っては破壊したのち、俺の体は初期位置から遠く離れた道路に着地し、地面に身を擦り付けながら倒れた。

 

「あ……ごぁ……」

 

ごふっとこみあげてくる血を吐く。変身は強すぎるダメージによってとっくに強制解除されていた。激痛でちかちかする視界に攻撃を受けた腹の様子が映る。

 

真っ赤だ。服と肉は弾け飛び、そこに触れた手にぬめりと不快な感触が残った。ドライバーを見ると、装着していたプライムトリガーがない。さっきの衝撃でトリガーもどこかに吹き飛んだか。

 

あの一瞬で何をされたか全くわからないままだ。一撃で相手を打ち倒す力、これが、最強の神滅具の能力だというのか。

 

「…禁手を使わなければ本当に危ないところだったよ」

 

ふらふらとした足取りで視界に舞い込んできたのはこの状況を引き起こした張本人たる曹操だ。先の攻撃効いたらしく服はやや焦げ付き、息がやや荒い。

 

こちらのもとへ歩み寄って膝をつくと、小瓶を取り出してその中身を動けない俺に飲ませた。

 

敵が飲ませるものなど毒に決まっている。そう思ってはいたが、ダメージが大きすぎて抵抗する力もなくされるがままにのどに流し込まれたものを飲み込んでしまう。

 

「ぐ…うっ!」

 

この味はフェニックスの涙と同じだ。

 

…いや、これは本当にフェニックスの涙だ。その証拠に血が止まり傷口が塞がり始めている。

 

行動の意図が読めない。敵を回復させるなんてどういうつもりだ…!?

 

「どうしてそれを、って顔をしているね。ルートを確保し、金があれば裏でも手に入るのさ。幸いウチは金には困ってないからね」

 

金には困っていないという言葉に思い当たるものなど一つしかない。信長の能力を使って宝物を生み出し金に換えたのだろう。被害が大きく不足しているうちには回らず、テロリストには涙が回るなど腹立たしいことこの上ない限りだ。

 

「それにこれくらい痛めつけておかないと君は大人しくしないだろう?さて…」

 

前置くと再び懐に手を入れ、何かを取り出した。奴が手にした緑と黒の入り混じるあの球体は…。

 

「それは!」

 

驚愕に目を見開く。見間違えるはずがない。あれは凛が持っているはずのネクロム眼魂だ。

 

どうしてそれをという問いを投げる暇も与えず、曹操はそのままドライバーに眼魂を突っ込んだ。

 

〔アーイ!バッチリミィヤー…バッチリミィヤー…〕

 

「我々の更なる前進のため、君を利用させてもらうよ」

 

笑みを深くする曹操がドライバーを操作する。ドライバーから怪しげな煙がボンと吹き、ネクロムのパーカーゴーストが顕現した。

 

「待て…やめろ!」

 

その眼魂をメガウルオウダーにではなくゴーストドライバーに入れたときどうなるかはよく知っている。知っているからこそ、何としてでも止めなければならない。

 

しかし抵抗もむなしく、エネルギーを開放するためのレバーが引かれて意図せぬ変身を遂げてしまう。変身直後で顔面部には何も映っていないトランジェント体になった俺をネクロムのパーカーゴーストが覆いかぶさった。

 

〔カイガン!ネクロム!ヒアウィゴー!覚悟!乗っ取りゴースト!〕

 

「あっ…」

 

変身を完了した直後、俺の意識は何者かに引っ張られるかの如く遠のいていく。

 

空に向けて手を伸ばす。しかしその手は何もつかめず、ただ彼方へと消えていく。いや、消えていくのは

…。

 

「さあ、新しい君の誕生だよ」

 

満足げな曹操の言葉を最後に、意識は無窮の闇へ閉ざされた。

 




原作を読んでる方なら曹操が何の能力を使用したかはすぐわかるでしょう。

プライムスペクターの音声が一部違うのは眼魂が15個揃ってないからです。これはポラリスが手を加える前、つまりオリジナルの仕様です。

そして誰が想像できたでしょうか。まさかのネクロムスペクターの登場です。何故曹操がネクロム眼魂を持っていたかは後々判明します。

次回、「ネクロムスペクター」
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