ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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S.スペクター



第116話 「反撃の光」

〈BGM:THOUSAND DESTRUCTION (C)ZAIA ENTERPRIZE(仮面ライダーゼロワン) 〉

 

「おおおお!!」

 

滾る闘志を拳に乗せ、イッセーは全力で振り抜く。突き抜ける拳打を曹操は軽やかな身のこなしで避ける。

 

「やはりいいね、ドラゴンは」

 

続くハイキックを槍でいなし、肘打ちを受け流す。素早いチャージで手のひらに生まれたドラゴンショットをぶつけようとするも槍の僅かな挙動だけで軌道をそらされる。

 

あらぬ方向に飛んで行ったドラゴンショットの赤い閃光は偶然にも進行方向上にあったヘラクレスのミサイルにぶつかり、いくつかのミサイルが空中で激しい爆発を起こした。花火にしては派手で、荒々しい音を伴った光が戦場を照らす。

 

「ドラゴンを相手にしていると、何となく神話や叙事詩に出てくる英雄の気分になってくるよ。怪物、ドラゴン退治は英雄伝の花形だ」

 

「知るか!」

 

毒づいて更なる攻撃を繰り出すも、難なく躱す曹操にかすりもしない。

 

「てめえは禁手を使わねえのかよ?」

 

ヘラクレス、ジーク、そしてジャンヌ。三人は既に禁手を発動させ、木場たちの迎撃に当たっている。この流れで曹操も聖槍の禁手を発動させるものだとばかりイッセーは思っていたが…。

 

「いや、その必要はないよ。ただ、君を存分に味わっていくつもりさ」

 

イッセーの愚直な攻撃をかいくぐる曹操は汗一つかくことも余裕を崩すこともなく、かぶりを振った。

 

「へっ、だったらまずはてめえのすかした面に一発入れてやる…!」

 

腰に力を入れ、背部のブースターをふかして再び突撃する。今度は近接戦に回していたパワーを突撃するためのブースターに回した。おかげでさっき以上の速度で曹操へ突進をかけられた。

 

曹操に対抗するにはパワーじゃない、反応を超えたスピードが必要だとイッセーが判断したからだ。

 

先ほど以上に猛烈な速度を伴って距離を縮めるイッセー。あっという間に間合いに入り、真正面から渾身の拳打を繰り出した。

 

それすら曹操は上体を横にそらして間一髪、まさにギリギリで拳打を躱し、極限まで縮まった距離にカウンターで聖槍を彼の腹部に突き刺した。

 

「ッ!?ごぼっ!!」

 

深々と腹を貫かれ、大量の血を吐き出すイッセーはその場にどさりと両膝をつく。曹操はゆっくりと槍を引き抜き、穂先がぬめりとした赤い血で染まっていた。

 

聖槍の聖なる力はすぐに全身を回り始め、次第に全身の各部からしゅうと煙が上がり始める。聖槍のダメージはそれだけでは終わらず、彼の意識まで奪い始めるが。

 

「イッセーさん!」

 

強い危機感を感じたアーシアが即座にイッセーに向けて癒しのオーラを飛ばす。温かな緑色の光に包まれ、全身から発する煙は一応のおさまりを見せる。

 

だがそれだけでは聖槍のダメージを完全に癒すことはできない。貫かれた腹の傷はほんの少しばかり小さくなっただけだ。すぐにアザゼルから渡されたフェニックスの涙の小瓶を取り出し、液体を傷口にかける。

 

「おや、命拾いしたようだね」

 

「ぐぁ!」

 

両膝をつくイッセーを曹操は蹴り上げて転がす。

 

「今、君は消滅しかけたんだ。君が悪魔である以上、この聖槍の光を克服することは決してできない。ヴァーリはもちろん魔王サーゼクスやアジュカだろうと例外じゃない。よく覚えておくといい。それと君はドラゴンだから龍殺しも天敵だったね。うってつけのものがいるんだが…お披露目は後になるか」

 

変わらずイッセーの睨むような目線は曹操を見上げている。死に目を見てなお、彼の闘志が弱まることはなかった。

 

「…あらあら、ビビらないのか。少しは肝が冷えたと思ったんだけどね」

 

曹操をにらんだまま、イッセーはよろよろと立ち上がる。

 

「…冷えたさ。でもそうこう言ってられねえんだ。九重との約束は守る、お前をぶっ飛ばす。どっちもやってから帰るんだよ!!」

 

己を鼓舞するようにイッセーは吠えた。結んだ約束は必ず守る。母を救うという九重との約束も、ちゃんと帰ってくるというリアスとの約束も。

 

約束を守れないで男をやってられるか。曹操をぶっ飛ばし、八坂を救い、そしてまた明日も変わらず学生生活を楽しむ。彼の一心はどこまでも真っすぐだ。

 

「あははっ!いいね。今ならヴァーリが君を気に入った理由がわかるよ。真っ直ぐな戦士は嫌いじゃない」

 

曹操は愉快げに笑う。だがそれは相手を馬鹿にする調子ではなく、むしろ好意を示すようなものだった。

 

「…さあ、続きをやろう」

 

笑みを収め、再び曹操は槍の穂先を向ける。それを機に、再び両者の接戦が始まる。

 

開始早々にごうっと打ち出したドラゴンショットの光。それを槍の一振りで両断し、後方に着弾して巻き上がった煙を背に曹操の方から仕掛ける。巧みに槍を操る曹操の攻め、しかしイッセーは引かない。攻撃を躱しつつも、反撃として右ストレートや蹴りで応戦する。

 

〔Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!〕

 

〔Transfer!〕

 

だがイッセーも何度もいたずらに同じ攻撃を繰り返すばかりではない。今度はアスカロンの刃を出現させ、倍加のオーラを込めた斬撃を飛ばす。曹操もまさかと不意を突かれ、飛来する斬撃が左腕を切り飛ばした。

 

「!」

 

血をまき散らし、切断された腕が宙を舞って地面にぼとりと落ちた。この光景に一瞬うっと息詰まるも、ようやく攻撃が通じたとイッセーは内心歓喜した。

 

「…今のは効いたな」

 

しかし腕を失った曹操は痛みに顔をゆがめるも、慌てるまでもなく腕を拾い上げて脇に挟むと、小瓶を取り出す。

 

「てめえ、なんでそれを…!」

 

瓶のラベルにイッセーは眼を見開く。それはまさしく、彼らが支給されたフェニックスの涙と同じものだったからだ。

 

「ふっ、紀伊国悠にも同じことを言われたよ。金さえあれば裏のルートで手に入るのさ」

 

なんともないように小瓶のふたを開けて傷口に澄んだ液体をふりかけ、切断面に斬られた腕をくっつける。すると腕をくっつけられた切断面がしゅううと煙を上げ、アスカロンに斬られる前の、傷のない腕へと元通りになった。

 

それを見届けたイッセーの胸に怒りが沸く。ようやく大きなダメージを与えた矢先になかったことにされ、挙句の果てにフェニックスの涙を使われた。あれがこちらのもとにあれば、被害者を減らせたかもしれない。

 

その怒りを原動力に一歩踏み出した瞬間。

 

「これは…!」

 

ガシャガシャンと音を立てて、イッセーの赤龍帝の鎧の随所が崩れた。傷を見れば、まるで鋭利な刃物で切断されたようだった。

 

いつの間にと驚くイッセー、曹操は槍でポンポンと肩を叩く。

 

「君が飛び退くときに斬っておいた。時間差で壊れたか、ちょっとした攻撃でもこの槍は問題なく赤龍帝の鎧に通じるみたいだ。…それにしても強いね、もう少しギアを上げてみるか」

 

「あれ、あんたのほうはまだやってたの?」

 

〈BGM終了〉

 

曹操の気迫が増したその時、軽薄な声が横合いから飛び込んだ。

 

現れたのはジャンヌ。鎧の各所に傷つけられたものの、余力たっぷり気力たっぷりといった様子だ。そして彼女が抱える白翼の天使は…。

 

「イリナ!」

 

「うっ…」

 

イッセーがその名を叫ぶ。ジャンヌはほいと抱えた彼女の体をぞんざいに投げてイッセーのもとによこす。全身切り傷だらけのイリナは口から血を垂らし、苦痛にうめいている。

 

「彼を相手にまだ持ってられるなんて、やはり腕が立つみたいだ」

 

「あーあー、少しは骨があったが物足りねえなぁ。赤龍帝の方が強えみたいだしそっちとやりたかったぜ」

 

続々とジーク、そしてヘラクレスも現れる。二人とも、それぞれ相手にした木場とロスヴァイセの体を抱え、同じようにイッセーのもとに投げる。

 

「木場!ロスヴァイセさんも…!」

 

木場はジャンヌと戦ったイリナ以上に激しい傷を負っており、呼吸が荒い。ロスヴァイセも腹部にひどいけがとやけどをしていて相当な攻撃にさらされたのだと一目でわかった。

 

「私が治します!」

 

これ以上傷つく仲間を見ていられないと、後方でオーラを飛ばしていたアーシアがイッセーのもとに駆け寄って直接木場たちの治療を始める。

 

曹操たちは止めなかった。完全に、彼らの力はそこまでのものだと見切りをつけてしまったのだ。

 

「ぐぁ!」

 

激しい閃光に短い悲鳴を上げて、イッセーのもとにゼノヴィアが吹き飛ばされてくる。

 

「ゼノヴィア!」

 

「ク…私では届かないのか…!」

 

傷ついた体に鞭打って、呻きながらも彼女は上体を起こす。戦っていたネクロムスペクターには悠の心は戻っていない。

 

「グォォォォォォォォ!!」

 

そして九尾と戦うヴリトラに変化した匙も追い詰められていた。ヴリトラは呪いの炎を燃やし続けるが、細長い体にふさふさとした9本の金毛の尾を巻きつけられ、身動きが取れないようになっていた。

 

「匙!」

 

「宴もたけなわだよ、兵藤一誠。君たちは確かに強い、それは認めよう。でも僕たちにはかなわない。言っただろう?怪物を討つのはいつだって人間だよ」

 

「くっそォォォ…」

 

倒れ行く仲間、健在し、立ちふさがる強敵。悔しさにイッセーの胸が満ち満ちる。

 

何のために自分は強くなったのか、九重との約束はどうなるのか。現実は非常だ、無力さ故にすべてを失ってしまう。

 

溢れる感情のあまりこぼれた涙が、ぽつと左手の籠手にはめられた宝玉に落ちた。

 

すると、深い緑色の宝玉にほのかな光がともった。その光に呼応するかのように、彼が懐に隠していた赤龍帝のの新たな可能性の具現たる赤い宝玉が超新星のように明るい輝きを放って、この場を照らし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そこは一筋の光も差さず、誰にも認識することのできない底なしの闇。俺、深海悠河は曹操の手によってネクロムスペクターに変身させられた瞬間、この真っ暗闇の空間に閉じ込められた。おそらく、ネクロム眼魂の中にある精神空間の一種だと推測している。

 

ここは暗い。寒い。痛い。そしてなにより孤独だ。ずっといるとどうにかなってしまいそうだ。だから足掻く。この心にいやというほど突き刺さる感覚から逃れ、帰るべき場所に帰るために。

 

「…がっ、くそっ!」

 

自分の両腕を縛る鎖を幾度となく振りほどこうとしても、俺の力では鎖を腕力だけで破壊するなんて脳筋プレーは到底できそうにない。

 

そして俺が何より焦る理由は目の前に移る映像にある。一人称の映像で、ゼノヴィアがひたすらに戦っている。疑いようもなく、操られた俺と戦っているのだろう。

 

そして彼女が腹部に大きな銃撃を入れられ、血反吐を吐いて吹き飛んだ。

 

「ゼノヴィア!…くそっ!」

 

彼女のピンチに叫ぶ。あきれるほど繰り返した行為をまた繰り返す。がちゃがちゃと鎖の音が鳴る。しかし一向に壊れる気配はない。

 

映像の中ではゼノヴィアだけでない、兵藤や木場、紫藤さん、ロスヴァイセ先生までボロボロで地に膝をつくか、力なく倒れていた。アーシアさんの緑色のオーラが飛来して彼らを癒すが、再び挑む力もない。

 

目の前で傷ついているのに何もしてやれない。むしろ俺が彼女を傷つけてさえいる。この胸をかき乱すのは大切な彼女を自らの手で傷つける己への怒り、それを止められない焦燥、そしてなにより、この状況を生み出した曹操への憤怒。

 

「俺を…ここから出せェェェ!!」

 

怒りと焦燥のままに絶叫を上げる。

 

ふと、一筋の光が飛来した。見慣れた赤い光がまっすぐに俺の胸に差し込む。とてもあたたかな光だ。安心するし、なにより心震わせる力がある。

 

「う…ウォォォォ!!」

 

湧きたつ力を腕に込めて鎖を破らんとする。相も変わらず壊れる兆しはない。だが感触が違う。

 

絶対に抜け出し、戻るという意思。その一心でひたすらに唸りを上げながら足掻く。

 

その時、鎖のごく一か所にひびが入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なんだこれは…」

 

眼前の光景に、ゼノヴィアはただただ困惑した。イッセーの宝玉が突然光を放ったかと思いきや、千人は超える人影がどこからともなく出現したからだ。

 

『おっぱい、おっぱい、おっぱい』

 

『おっぱい、おっぱい、おっぱい』

 

『おっぱい、おっぱい、おっぱい』

 

うすぼんやりとした無数の人影が現れ、ただおっぱいと口にする。異様極まりない光景に彼女は理解が追い付かず、どうしたらいいかわからなかった。

 

そしてそれは英雄派たちも同様だった。全員、ぽかんと口を開けて動きを止めて、どうすればいいかもわからずこの光景を見るばかりだ。

 

『おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!』

 

おっぱいの呪詛はヒートアップしていき、集団は次第に陣形を組み始め、さながら儀式の魔方陣のような隊形に組みあがる。

 

すると今度は人影が解け始め、液体のように地面にしみこむ。しみ込んだ光の液体は広がり、繋がり、瞬く間に巨大な魔方陣を描いた。魔方陣の中には女性の乳を模した象形文字の数々が動いていた。

 

そして魔方陣の中央に立つイッセーがとちくるったか、雄々しく叫ぶ。

 

「召喚、おっぱぁぁぁぁいッ!!」

 

全力の叫びに呼応し、魔方陣が大きな光を放った。くるめく光はすぐに収まり、イッセーの目の前に現れたのは。

 

「部長!?」

 

「ふぇっ、え、なに、どこここ?本丸御殿!?ってイッセー!?どういう状況なの!?」

 

彼の主、リアス・グレモリーだった。着替え中だったのか上下ともに下着姿の彼女は辺りをせわしなくきょろきょろと見渡し、慌てふためきながらも状況把握に努める。

 

「ああん?リアス・グレモリー…?援軍を呼んだのか?」

 

「見て、彼女、金色に光ってるわ!」

 

「…ジーク、俺は夢を見ているのか?」

 

「全員そろって同じ夢を見るなんてどんな偶然だろうね」

 

曹操たちはただ困惑するばかり。彼らを置き去りにして、イッセーはどういうわけか金色に光りだすリアスに更なる衝撃的な発言をする。

 

「部長、おっぱいを…つつかせてください」

 

常人ならなんてセクハラ発言をするんだこいつはと突っ込むが、すでに二人は常人という領域にはいない。

 

「なんだかよくわからないけど…わかったわ。あなたが求めるなら、スイッチ姫にも…なるわ!」

 

リアスは困惑の感情を心の隅に押しやって覚悟を決める。

 

ただこの場には曹操たち男性が多い。イッセーは彼女のことも配慮してリアスと共に彼らから見えない位置にそそくさと移動する。

 

「よし」とリアスは呟くと、ブラジャーという上半身を隠す最後の砦を外す。たわわな胸がブラジャーという枷から解き放たれてぶるんと揺れた。

 

見られていないとはいえ、外で上裸を見せるという羞恥に顔を赤く染めるリアスと向かい合うイッセーは

ぶっと鼻血を噴出した。

 

羞恥に駆られながらも二人は驚く。双丘の頂に立つピンク色の乳首がほのかなピンク色の輝きを放っていたのだ。

 

「い、行きます!」

 

禁手の鎧を指の箇所だけ解いて生身をさらし、両の人差し指を恐る恐る乳首に近づけていく。

 

やると決めた。もう止まらない。人差し指が乳首に触れ、ちょっとした力で柔らかな乳房に陥没した。

 

「…ふぁ」

 

胸からめぐる感覚にリアスは官能的な声を漏らす。

 

カッ!

 

乳首がスイッチになったか、イッセーに乳首を押されたリアスの胸からまばゆい光が溢れ出す。ふわっとリアスの体が宙に浮いて。

 

「んっ、あ、ああああああああん!」

 

豊かな乳から夜空に輝く一等星より明るい輝きを放ったまま、リアスが空に昇る。これまでに見たどんな現象よりもぶっ飛んだ現象を前に、誰も言葉を発せずにいた。

 

「…行っちまったな」

 

「行ったわね」

 

見上げるヘラクレスとジャンヌ。リアスは空から落ちてくる流星とは真逆に、天に立ち昇る龍のように空へと消えていった。

 

「ッ!!」

 

刹那、曹操が弾かれたようにイッセーの方へ視線をよこす。今のイッセーから噴火直前のマグマのように湧き上がる何かを感じ取ったのだ。

 

明らかにリアスの乳の力で、イッセーの中の何かが覚醒した。

 

「…さぁ、行くぜぇぇぇぇ!!ブーステッド・ギアッ!!」

 

湧き上がる力、恐れるものは何もない。奮起する心のままに籠手を掲げ、力を解放する。彼の全身から凄まじい光量の赤い光が溢れ出した。それは彼の極限まで増大したオーラの具現でもある。

 

「なんだ、奴のオーラが…!」

 

〔Desire〕〔Diabolos〕〔Determination〕〔Dragon〕〔Disaster〕〔Desecration〕〔Discharge!〕

 

〔DDDDDDDDDDDDDDDDDD!〕

 

けたたましく、壊れたように籠手が連呼する。際限なく増大するオーラに、曹操たちの直感が危険だと叫ぶ。

 

「曹操、こいつ更なる進化を!」

 

「うっ…!」

 

これまで無言を貫いていたネクロムスペクターが突如、呻き始める。ダメージを負ったわけでもないのに、イッセーの赤い光を浴びた影響か苦しそうに声を漏らしていた。

 

「どうした、まさか兵藤一誠の力にあてられたか?」

 

「今しかない…!」

 

〈BGM:仮面ライダーバルカン・バルキリー(仮面ライダーゼロワン)〉

 

イッセーの進化に続く彼の異変。もしかするとという希望にかけ、ゼノヴィアは翼を広げ、低空飛行でネクロムスペクターのもとへ素早く移動する。

 

間近に来てもネクロムスペクターはうめくばかりで全く攻撃の素振りを見せない。すぐに彼女は彼の腰に巻かれたドライバーに手を付ける。

 

今まで彼の戦いを見てきた彼女はなんとなくベルトの仕組みを理解していた。なのですぐに上部のカバーの開閉スイッチを押した。そこを押せばカバーが開いて内部の眼魂に手を付けられるはず。

 

しかしカバーは開かず、何の反応も返ってこなかった。

 

「だったら!」

 

迷っている時間はない。スイッチで開かないのなら力づくで開けるまで。実際にやったことはないが、やったことがないはやらない理由にはならない。

 

今度は力を供給する内部の眼魂を保護するドライバー前面のカバーを取り外そうと、がしっと掴んで全力で引っ張る。

 

「うううううッ…!」

 

内部の眼魂を保護する役割を持っているため、カバーの硬度はすさまじかった。全力を込めてもカバーは微塵も開く様子はない。

 

「無駄だ、こじ開けるなんて馬鹿な真似は…」

 

「そんなこと…やってみなくちゃわからない!」

 

足を踏みしめ、全身に力を入れて引っ張り上げる。一生懸命な彼女の姿は、曹操たちの目には血迷ったものだと滑稽なように映った。

 

「お前だけは…私がッ…絶対に!!!」

 

彼女は諦めない。このチャンスを逃せば、自分はこれからもずっと助けられっぱなしになってしまう。そんなものはデュランダル使いの名折れだ。

 

自分の恋人は自分の手で助け出して見せる。絶対に引かない、こじ開けてやる。その一心で、彼女はひたすらに全力を振り絞る。

 

渾身の力に引っ張られるカバーがやがてガキガキと嫌な音を立て始める。閉じられていたカバーは彼女の全力によって少しずつ、開かれようとしていた。

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

体の芯から放つ叫び。ガキガキと嫌な音を立てて、なんとドライバーのカバーが彼女の力に負けて完全に、強引にこじ開けられた。

 

それを見てすぐさま中に収められたネクロムの眼魂を掴み、取り外す。ついさっきまで思いっきり手に力を込めてて汗びっしょりだったので勢いあまって、眼魂は手から滑ってそのまま宙に投げ出されてしまった。

 

「あいつ、力づくで外したのか!?」

 

「まじィ!?」

 

「これが君の根性か、デュランダル使い…!」

 

これには曹操たちも愕然とした。まさか力づくもいいところな方法で強引に彼の変身を解除させるとは思わなかった。

 

「させるか!」

 

「!」

 

茶番は終わりだとすぐさまジークがグラムで攻撃を仕掛ける、ネクロムスペクターの体を抱いて再びゼノヴィアは翼を羽ばたかせイッセーのもとへ舞い戻った。

 

「ゼノヴィア、お前!」

 

「やったぞ…!」

 

驚くイッセーににやりと親指を立てる。彼女の傍らで変身を維持していた眼魂を外された悠が光を放った。

 

「う……!」

 

光と共に変身も解け、ふらりと前のめりに倒れようとする体をゼノヴィアがさっと受け止めた。

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれ…」

 

夢見心地の中、俺は目覚めた。

 

周りには隣で膝をつき心配そうに顔を覗き込んでくるゼノヴィアとこれまでとは毛色の違う赤いオーラを纏う兵藤がいた。さらにはアーシアさんが懸命に傷ついた紫藤さん、ロスヴァイセ先生、木場の治療に励む。

 

「私がわかるか!?」

 

「あ、ああ…ゼノヴィア」

 

「よかった…」

 

ゼノヴィアからの突然の問いかけにびっくりしながらも答えると、彼女はほっと胸をなでおろした。

 

…そうか、俺は操られていたけどどうにか変身解除して意識を取り戻したのか。意識が戻る前後の記憶があやふやだが、はっきり覚えていることがある。

 

「意識の奥底で…お前と戦う俺が見えた」

 

そう、あの寒気のする暗闇の中で囚われた俺は、操られた俺と戦う彼女を見ていた。

 

「戦ってるのが分かってるのに、自分の体なのに自分の意志で戦いを止められなくて…」

 

自分の体なのに、自分の意志が全く届かない。今思えばとても恐ろしい感覚だ。意思の届かぬ体が、自分の意に反した行動を取っているのだから。

 

「お前が…止めてくれたんだな」

 

こんなになった俺に向き合い、暴れる俺を命がけで止めてくれた。自分が傷つくことを厭わずに向かってくれた彼女には感謝してもしきれない。

 

「でもこんなにお前を傷つけて…俺は最低だ」

 

「何を言っているんだ、君の意思じゃないんだろう?…それに、助けられっぱなしだった今までの借りを少しは返せた。むしろスッキリしているところだよ」

 

「…ありがとう」

 

申し訳ない気持ちいっぱいで言った言葉に、彼女は大丈夫だとはにかんだ。自分の意志でなくとも、なんてことをしてしまったのだろうという思いだったがその言葉だけでも救われた気がした。

 

「…これを」

 

おもむろに彼女が差し出したのはプライムトリガー。曹操の攻撃でどこかに吹っ飛んでいたのだがゼノヴィアが回収していてくれたか。

 

「…勝つぞ」

 

「ああ!」

 

心の底から湧き上がる勇気。凛とした面持ちから出た彼女の言葉に、不敵な笑みで返してトリガーを受け取る。悔やむ時間はここまでだ。ここからは…。

 

しかと土を踏みしめ、立ち上がる。見据えるは敵、曹操たち英雄派。奴らの企みの全貌は闇の中から大体聞いている。

 

「曹操!」

 

名を呼ぶと、奴が反応してこちらを振り向いた。

 

「おや、もうお目覚めか」

 

「よくも俺の仲間に手を上げさせてくれたな…!これ以上、お前の好きにはさせない」

 

俺を操り、仲間に攻撃させ、この京都での修学旅行を滅茶苦茶にしてくれた。散々好き勝手に引っ掻き回したこのツケは高くつくぞ。

 

毅然と宣言し、兵藤の隣に並ぶ。

 

「迷惑かけたな。俺が弱いばかりにこんな…」

 

「気にすんな、お前がいれば百人力だ!」

 

兵藤はを気にすることもなく、にかっと笑ってくれた。どうやらまたとんでもない現象を引き起こしていたみたいだが…それは後に置いておこう。

 

視線を下におろす。俺を操っていたネクロムの眼魂はもうない。そこに嵌めるべきは俺の魂と英雄たちを束ねし力だ。

 

渡されたプライムトリガーを握り、スイッチを押す。

 

〔ソウル・レゾナンス!〕

 

〔アーイ!ヒーローズ・ライジング!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

ドライバーから出現し、辺りを飛び回るパーカーゴーストたち。月光を照り返し、きらきらと輝いた。

 

「変身!」

 

〔カイガン!プライムスペクター!英雄!裂空!勇壮!激闘!ブレイヴ・イグニッション!〕

 

レバーを押し込んで霊力を解き放ち、パーカーゴーストたちを取り込んで変身完了する。

 

これで三度目の変身、前回は俺の虚を突く形で禁手を使われ戦闘不能に追い込まれたが、今度はそうはいかない。

 

「…木場、紫藤さん、ロスヴァイセ先生、立てるか?」

 

後ろでアーシアさんの治療を受けていた三人を軽く一瞥して声をかける。見た限り、治療は終わり力を取り戻した様子だった。

 

「…戻ってきたんだね、イッセー君や君と一緒にいると力が湧いてくる気がするよ」

 

「全く、ゼノヴィアにあんなに心配かけさせるなんてね!」

 

「無事に戻ってきてくれて安心しました。もうちょっとだけ、頑張ってみます」

 

三人は続々と腰を上げ、鎧や服はボロボロながらも俺たちの隣に微笑みながら並んだ。当初の予定よりずいぶん遅くなってしまったが、これでようやく全員そろった。

 

「ここからは俺たちの反撃だ!」

 

意気揚々と兵藤が曹操たちに宣言する。さあ、まだ見せていないプライムスペクターの力を解放する時だ。

 

 

 




ゼノヴィア、まさかのゴリライズ。いよいよ反撃です。

パンデモニウム編の外伝は生徒会ピックアップ、次章のライオンハート編は信長の過去に深くかかわる外伝をやろうかなと思います。

次回、「英友装」

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