ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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更新履歴を見て思ったけどこの数日間で9000字近くを数話書き上げるこのハイペースまじでどうかしてる。自分で言うのもなんだけど。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第117話 「英友装」

〈BGM:コンプリートが生む力(仮面ライダー剣)〉

 

プライムトリガーには二つのスイッチがある。左グリップ部についている青いスイッチはベルトに差す前の起動、そして必殺待機に移行する『プライムチャージ』用。

 

そしてもう一つ、まだ使ったことのない本体上部に位置する赤いスイッチは内包する英雄の力を顕現させるシステムを起動させる。

 

今こそそれを使う時だ。

 

〔ムサシ!ロビンフッド!ニュートン!リョウマ!ヒミコ!〕

 

その赤いスイッチを押すたびに、ドライバーが英雄の名を呼ぶ。そしてそのあと、グリップ部の青いスイッチを押す。

 

〔ヒーローズ・ドライブ!〕

 

ロキ戦では使用されなかったシステムが起動するとドライバーから名を呼ばれた英雄のパーカーゴーストが出現し、ふわふわと浮遊してはゼノヴィアたちのもとに行き覆いかぶさった。

 

木場にはムサシを、ゼノヴィアにはリョウマ、アーシアさんにはロビンフッド、紫藤さんにはヒミコ、ロスヴァイセ先生にはニュートンを。

 

パーカーを纏う木場たちは一様に戸惑いの色を浮かべた。

 

「え?私が着るの!?」

 

「深海さんは今までこれを着ていたんですね…」

 

「着心地もいいけど、何より力が湧いてくる…」

 

「このパーカーを着ているとなんだか大胆なことを思いつきそうだ」

 

「鎧の上から着ているのでかなり重いですね」

 

それがただ単にまさか俺が普段装着するものを自分が着る時が来るとは思わなかったのと、彼ら全員が内から力が湧きあがるのを感じているからだろう。

 

「これがプライムスペクターの能力、『英友装《ヒーローズ・リインフォースメント》』だ。英雄の力を心の通じ合った仲間に付与でき、パワーアップさせられる」

 

英雄の能力を与えるだけでなく、彼ら自身の身体能力やオーラも大幅に向上させることができる。現に彼らの纏うオーラにはそれぞれの英雄の色、彼ら自身の色、それに加えてこのプライムスペクターの黄金の色が混じり合ったものに変化していた。

 

欠点があるとするなら、プライムスペクター状態でなければこの力を維持できない、つまり別のフォームにチェンジしたり俺が変身解除すれば与えた力も消える点とそもそも俺が現場に居合わせないとパワーアップさせられないところか。

 

「俺にはないのか?」

 

一人だけ、英雄の力を与えられなかったメンバーがいた。普段よりも強いオーラを放ち、自分を指さす兵藤だった。

 

「お前はもうパワーアップしたんだろ?」

 

「へっ、そりゃそうだ」

 

そんなもの、こいつのオーラを見ればわかる。どういう経緯かはよく知らないがどうせまたおっぱいだろ。

 

〈BGM終了〉

 

軽口もほどほどに、兵藤が行動を開始した。

 

「モードチェンジ!『龍牙の僧侶《ウェルシュ・ブラスター・ビショップ》』!!」

 

宣言、そして駒の変化。兵藤のオーラの色が魔力に特化した『僧侶』のものに変わった。

 

すると背中のアーマーに赤のオーラが集まり、新たな部位に変化する。その形を表現するなら、ロボットものに出てきそうなバックパックと突き出た二つの大きなキャノン砲と言うべきか。

 

二つのキャノンの砲口がぶぅぅんと鳴動しながら静かにオーラを蓄えていく。砲口に蓄えられたオーラの輝きがどんどん増していった。

 

「あの高鳴りはまずいな…!」

 

あれだけ楽しそうに戦っていた曹操も焦りを見せるレベルの一撃か。それに今度のパワーアップは乳技ではなく、他の種類の駒の特色を赤龍帝の鎧に反映させる力なのか?

 

限界を知らず、砲口に蓄えられていくオーラが倍加の力と合わさってどんどん増えていく。あいつどこまで溜めるつもりなんだ?まさかこの町全部吹き飛ばすつもりじゃ…。

 

〔Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!〕

 

「いっけぇぇ!!」

 

近くにいるだけでもちょっとした刺激で爆発してしまうのではないかと思うくらい恐ろしいほどに溜めに溜めた後、ついにオーラを一気に解放し、曹操たちめがけて照射した。

 

そのあまりの威力に反動で兵藤が大きく後退する。見た感じ、かなり踏ん張ってもこらえきれないくらいの反動のようだ。照射中はまず動きは取れまい。

 

「ンな攻撃、真正面から受け止めて…」

 

「ヘラクレス、避けろ!」

 

砲撃の危険さを直感したジークがヘラクレスを掴み投げ、曹操たちは全員ばらばらに迅速に散開した。発射された砲撃はそのまま二条城の向こうの町にぶつかると、巨大な炎のドームと見まがうほどの大規模な爆発が生まれた。

 

「何つー威力だ…!町が吹っ飛びやがったぞ!こんなもん連発されたら結界が持たねえ!」

 

ヘラクレスたちは彼方の爆発に戦慄する。特にヘラクレスはあのまま自分が受けていたらとぞっとしているに違いない。

 

というか本当に全部吹っ飛ばすつもりだったのかよ。まあ当たりはしなかったが、連中をばらけさせることはできたな。これはチャンスだ。

 

「よし、このまま各個撃破だ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

臨時の『王』たる兵藤の指示に威勢よく返事を上げ、俺たちは各々の敵のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〈BGM:Ready Go!(仮面ライダービルド)〉

 

悠河の力を受けた木場とゼノヴィア。二人はイッセーの攻撃で散開した英雄派のメンバーのうち、自分らと同じく剣士であるジークに果敢に突撃する。

 

「ジーク!第二ラウンドを始めようか!」

 

「今度は私もいるぞ!」

 

「木場裕斗…!ゼノヴィア…!」

 

更なる力を纏って戻ってきた彼らに、彼の闘志は高揚する。昂ぶりに口元を歪め、再び展開した4本の腕と6本の剣で再び交戦を開始する。

 

名のある聖剣、魔剣、そして聖魔剣が入り乱れる。もし彼らの戦いを剣のマニアが見たならば興奮のあまり達していたことだろう。

 

ジークのグラム、バルムンク、ダインスレイブ、ノートゥング、ディルヴィング。木場の自身の禁手で作り出した希少な聖魔剣。そしてゼノヴィアのエクス・デュランダルと破壊の聖剣。数多の剣が今、この一戦に集結し激しく鎬を削る。

 

攻撃に特化した聖剣を操るゼノヴィアの力強く、かつリョウマの力でさらなる大胆味を帯びた剣技がジークの6本の剣からなる攻防共に完璧の攻めに真正面からぶつかり、押し寄せる激流のごとき剣を振るう。

 

「なんて荒々しい剣だ…!こんな剣士、今まで…!」

 

彼女の攻撃を捌きつつもジークは驚嘆する。渡月橋でぶつかったときの何倍も彼女のパワーが増している。気を抜けばこちらが押し負けてしまいそうだ。

 

「ダインスレイブ!」

 

ジークは魔剣の一振りであるダインスレイブを振るうと、自身を守るように周囲にとげとげしい氷の柱が現れる。

 

「ぐっ!」

 

「うっ!」

 

不意を突かれる形となった木場とゼノヴィアは対応が間に合わず剣のように鋭い氷柱に腕を斬られるが。

 

「私が癒します」

 

そこは後方支援のアーシアの出番。彼女の緑色のオーラが弓の形を生成し、癒しのオーラを矢に込めて打ち出す。

 

もともと彼女には弓矢の経験はない。だがロビンフッドの力を与えられた今の彼女は百発百中、どんなに小さな針の穴すら射貫けるような名手となっていた。

 

飛来する矢で射貫かれた二人の腕が瞬く間に回復する。神器の出力も向上しており、普段の倍以上のスピードで止血と傷の治癒が完了した。

 

「ありがとう、アーシアさん!」

 

「助かる!」

 

手短に礼を言うと、ゼノヴィアは破壊の聖剣の力で氷柱をあっという間に破壊する。ガシャンと音を立て、粉々に散った氷塊が宙を舞う。

 

「ちぃ!」

 

舌打ちするジークの姿が露わになり、そして彼女たちは再びジークと壮絶な打ち合いを始めた。

 

ゼノヴィアと木場の力とスピードの合わさった一糸乱れぬ連携、猛々しい獅子のような連撃にジークも次第に押され始める。

 

そこにムサシの見切りを得た木場が、見切りで6本の剣の動きをしかと捉えごく僅かに生まれる隙に神速の一撃を叩きこむ。

 

「ぐぅ!」

 

背部の二刀のゴーストブレイドと二刀流の聖魔剣が4本の神器の腕に傷を負わせ、彼の剣速が落ちる。それを見逃す二人ではない。渾身の叫びをあげて同時にジークに切りかかる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

ジークは咄嗟にグラムの刀身を盾にして防ぎ、一旦大きく飛びのいた。

 

「なんだ、今までよりも動きが速い!?剣筋も…!」

 

隠し持っていたフェニックスの涙をぐびっと飲み干し、瓶を投げ捨てる。敵の進化にただただ動揺を禁じ得なかった。

 

「回復したのか、ならまた切り刻むだけだ!」

 

「僕たちグレモリーの『騎士』を舐めないでもらおうか!」

 

グレモリー眷属の二人の『騎士』、堂々と並び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のイリナも、一度は戦闘不能にされた戦いのリベンジと言わんばかりにジャンヌに向かっていた。

 

ヒミコのパーカーを夜風にたなびかせる彼女が握る光力の剣には桃色の炎が蛇のように巻き付いて付与されていた。炎の影響で光力はさらに高まり、上級悪魔ですら一撃で消滅させられるほどの域に達していた。

 

「主に変わってお仕置きよ!」

 

空からジャンヌ目掛けて急襲をかけるイリナ。前よりも鋭利に、かつ速度を伴った突撃だった。

 

「しつこい子は嫌いよッ!」

 

苛立ち交じりに叫ぶジャンヌが聖剣を振るい、光の剣と聖剣が交わる。つばぜりあう剣。すると次第に、聖剣の輝きが鈍り始め、逆にイリナの持つ光の剣の光が強まり始めた。

 

それに危険を感じ、咄嗟にジャンヌはイリナから距離を取る。彼女が手にする神聖な力を持っていたはずの聖剣の剣光は陰っていた。

 

「何なのこの炎!?聖剣の聖なる力を吸い込んでいる!?」

 

「せぇい!」

 

驚くジャンヌに息つく間も与えまいとイリナは追撃をかける。教会で培ってきた彼女の剣は英雄の力を得てさらに加速していく。それにジャンヌも聖剣を巧みに操って応戦する。

 

「本体も強くなっているのね…!」

 

「負けっぱなしは癪なのよ!アーメンッ!」

 

京都に来てからというもの、渡月橋ではジークを追い詰め切れずここでは一度ジャンヌに負けた。

 

天使長ミカエルのAという大役を任された彼女にとって屈辱以外の何物でもない。今ここで、京都で悪事を働く敵を討つ。

 

それが彼女の、ミカエルに捧げる忠だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてロスヴァイセもまた、ヘラクレスとの死闘を再開していた。

 

「また向かってくるってんなら、今度こそ俺のミサイルで吹っ飛やぁぁぁ!!」

 

全力で吠えるヘラクレスが禁手のミサイルを一斉に発射する。さっきまでの彼女なら急いで回避に努めていただろう。

 

だが今の彼女は違う。ニュートン魂の力を得た彼女は、ミサイルの対処法を心得た。

 

「無駄です!」

 

突き出した彼女の右手のグローブが斥力フィールドを発生させる。ロスヴァイセを狙っていたミサイルはフィールドにあてられるとあっという間にその軌道をそらされ…。

 

「なっ!?ミサイルの軌道が!?」

 

そのすべてがヘラクレスのもとに向かっていった。今までに何人もの敵を屠ってきた凶悪なミサイルがその主に牙をむく。

 

ミサイルの威力は誰よりもヘラクレスがわかっている。だから大慌てで背を向け、全力でミサイルから逃れようと走り始めた。

 

走る自分の作り出した轍に続々と着弾するミサイル。その激しい爆風にあおられてヘラクレスはド派手に転倒した。

 

「ごはぁぁっ!!」

 

「これが英雄の力…!力が湧いてくる、心が奮い立つ!」

 

ここに来るまで、正直彼女は仲間に負い目を感じていた。飲酒した結果自分の酒癖の悪さを見せびらかし、それを決戦寸前まで引きずり一度はあのヘラクレスに敗北した。

 

グレモリー眷属としての初陣だというのに、眷属の中では最年長だというのになんと無様なことだろうか。恥ずかしすぎて穴があれば入りたいくらいだ。

 

でも今は、自分を信頼してくれる仲間が託した力がある。まだ入ってから日は浅くないのに、新しい仲間たちは無償の信頼を寄せてくれるのだ。

 

その信頼に応えない手はない。ここで手柄を立て、自分の力を証明するのだ。

 

ロスヴァイセは増大した力を使い、全属性の魔法のフルバーストを繰り出す。

 

「私だって、グレモリーの一員なんです!!」

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〈挿入歌:Evolvi'n storm (仮面ライダーフォーゼ)〉

 

「曹操ォォォォ!!」

 

キャノン砲を見舞ってから間髪入れずにイッセーは曹操へ猛進する。邪魔なキャノン砲はパージすると光の粒子になって霧散した。

 

「モードチェンジ!『龍星の騎士《ウェルシュ・ソニック・ブースト・ナイト》』!!」

 

『僧侶』に続いて『騎士』への昇格。彼の中の悪魔の駒が変化し、同時に背部のブースターの数が倍に増え、より猛烈な加速を始める。

 

だが曹操を超えんとする兵藤は更なるスピードを求める。

 

「パージだ!」

 

奴の言葉に鎧が弾け飛び、普段よりもスリムなフォルムへと姿を変える。赤龍帝の鎧は風切るようなもっと鋭利な形状に変化した。

 

これにより鎧の重量を減らした兵藤はさらにスピードを上げる。

 

「はや…」

 

「体当たりだぁぁぁぁぁ!!!」

 

真正面から繰り出したのはパンチでもキックでもない、ただのタックルだった。だが相当な加速から繰り出すタックルの威力はすさまじく曹操の体が一瞬九の時に折れ曲がる。

 

強烈なタックルをかました兵藤は曹操をがっしり掴んだまま、加速を続けた。

 

「やっと捕まえたぜ!」

 

「がっ…確かに速いな。だが、硬さを犠牲にした素早さならこの槍の攻撃は…!」

 

兵藤と同様に殺人的な加速によるGがかかり、同時に来たタックルの威力で曹操は血を吐く。

 

そう、兵藤が曹操を直接つかんだ今の密着状態なら奴にとっても反撃をすることなど容易い。むしろ速度を上げるために鎧の防御力を落とした今なら簡単に鎧ごと兵藤の生身を貫ける。

 

「モードチェンジ!『龍剛の戦車《ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク》』!!」

 

だがそれを許す兵藤ではない。今度はスピード特化の『騎士』からパワーに特化した『戦車』へ。

 

赤いオーラが兵藤を包むと、鎧はパージ前の形状に戻り防御力を取り戻した。だが変化はそれだけでは終わらない。両腕の籠手にオーラが集まると、通常時の5、6倍はある重々しい形に変化した。

 

至近距離から槍で兵藤を突き刺そうとする曹操。悪魔にとっての必殺の一撃を、兵藤はその極太の腕でガードする。

 

聖槍を突き立てられた赤い鎧はガキンと硬い音を立てるが、傷一つつかない。

 

「硬い!この出力では突破できないのか!?」

 

驚愕する曹操。今の威力は上級悪魔を一瞬で消滅させられる威力だった。それを上回り、あげく無傷の防御力

 

「くらえぇぇぇぇぇっ!!!」

 

〔Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!〕

 

喉も裂けよと裂ぱくの気合と共に、防御と力を増した渾身の右ストレートを放つ。反射的に曹操は槍を籠手から引き抜いて、

 

「まだだぁぁぁぁ!!」

 

「っ!!?」

 

インパクトの瞬間、籠手に仕込まれた撃鉄が撃ち込まれ、ダメ押しに威力を上げた。正面からぶつかってくるとてつもないパワーに今度こそ曹操は押し負け、ガードを崩されてプロ野球選手の投げるボールのようにまっすぐに吹き飛んで行った。

 

「はぁ…はぁ…」

 

超加速、そして全力の拳を叩きこんだ兵藤は肩で荒い息をしていた。その疲労感のまま、その場でどさりと膝をつく。今のでかなりのスタミナとパワーを消耗してしまったらしい。

 

「ハァ……大した力だっ、でもまだ身体になじんでいないみたいだな!」

 

それでも曹操を戦闘不能に追い込むことはできなかったらしい。

 

傷を負いながらも、怒涛の攻撃で消耗した兵藤の隙をつかんと曹操が馳せる。携えた槍を構え、いかなる悪魔をも滅ぼす魔の天敵ともいえる槍の穂先を兵藤目掛けて突き出すが一撃は届かない。

 

飛び出した俺が、黄金の刃輝くガンガンセイバーでそれを受け止めたからだ。

 

「紀伊国悠…!」

 

「そうは問屋が卸さない」

 

槍をはじき、剣戟を見舞う。だがダメージを受けた今でも相も変わらずの身のこなしで奴は避けた。

 

「ゼノヴィアに救われたな!だが、君に俺を倒せるかな?」

 

「禁手じゃないお前ならどうにかなるさ!」

 

飛び出す鋭い突きのラッシュ、それを見切ってガンガンセイバーを叩きこんでそらし、銃モードのガンガンハンドで薙ぎ払いをかける。顔面目掛けたそれを顔を上向かせて奴は躱す。

 

「曹操!俺には英雄がどんなものかはわからない!」

 

「はっ!自分で認めるか!」

 

激しい攻防の中で俺は明言する。

 

認めよう。曹操に指摘されるまで俺は英雄の力を使っておきながら、英雄というビジョン、定義について何も考えてこなかった。そんな暇もなかったというのは言い訳だ。身近にあるがゆえに、俺は見落としていた。

 

「お前の言う英雄も確かに一つの姿だろう!だがお前になびくつもりは毛頭ない!」

 

曹操の語る英雄もまぎれもない真実だ。英雄と呼ばれる人物がただ清廉潔白なだけでないのは知っている。変えることのできない現実。だからこそ、それにかこつけて奴は自分の行いを正当化するのだろう。

 

定義は認める。だが奴らの行いを認めるわけにはいかない。

 

ガンガンハンドの銃撃を牽制がてら見舞う。こんな攻撃じゃ奴に当たらないということくらいとっくに承知だ。

 

思った通り、曹操は槍の僅かな挙動だけで弾いてきた。だからハイキックを繰り出す。曹操ではなく、奴が握る槍の柄に。

 

パワーの乗ったガンと押し込むような蹴りに曹操は体勢を崩しながら飛んで行った。

 

「だから見つけてやる…!俺だけの、英雄のビジョンってやつを!!」

 

〔ダイカイガン!ハイパー・オメガスパーク!〕

 

ドライバーに武器をかざし、一気にエネルギーを充填する。迸る霊力が実態のある幻影となり、通常のノブナガ魂の数倍はある数の銃口が曹操に向けられた。

 

「それが俺の、今の答えだ!!」

 

決意を吠え、引き金を引く。寸分違わず同タイミングで一斉に銃口が火を噴き。すべてが向けられた方向の通りに直進したわけではなく、一部の銃撃は弧を描いてしっかり全弾が標的の曹操に収束するようにコントロールされていた。

 

吹きすさぶ眩い怒涛の銃撃の嵐、それらに聖なる力を込めた斬撃を飛ばして曹操は応戦する。一度に多くの銃弾を切り裂いたが、斬撃をかいくぐったいくつもの銃弾が曹操に牙をむく。

 

「多い!」

 

それでも槍を回して聖なる力でシールドを張り、銃弾の雨に傘をさす。シールドに着弾した銃弾の威力でじりじりと後退し、弾かれてあらぬ方向に着弾した弾丸は爆発を起こして特撮番組さながらの演出のようになっていった。

 

「土壇場で強くなるのは神器の特徴だが…ここまで力を引き出すか!」

 

ようやく雨をしのぎきり、よろめく曹操はぺっと血を吐き捨てる。兵藤と俺の攻撃でいいところまで追いつめたと思うのだが…。

 

奴の視線が新たな力を発揮した兵藤に移った。

 

〈挿入歌終了〉

 

「君の新たな力…『王』の承認なく自在に他の駒に変化する悪魔の駒のルールを明らかに逸脱したその能力、イリーガル・ムーブのようだ」

 

「イリーガル…なんだそりゃ」

 

「チェスにおいて、不正な手って意味だ」

 

木場たちとチェスをやる機会もあるので勉強したから知っている。まだ一度たりとも勝ったことはないが!

 

『俺にはギリシャ神話の海神ポセイドンの持つ三又の槍、トリアイナに見えたが』

 

珍しくドライグが俺たちにも聞こえる声を発した。ポセイドンの持つ三又の槍といえばトライデントか。トリアイナはその別名といったところかな。

 

「なるほど…じゃあ、二つ合わせてこいつは『赤龍帝の三叉成駒《イリーガル・ムーブ・トリアイナ》』ってことにするぜ」

 

ほう、これまたカッコイイ名前を付けたもんだ。ただ、その能力は悪魔の駒のルールに触れるとか言っていたな。だとすればせっかくの新能力が次のバアル戦で使えない可能性が…?

 

「成長速度はヴァーリに匹敵するな。いや、彼も日々成長している。とは言えパワーとスピードの勝負ならどっちが優れているかわからなくなってくるな…。だがスタミナとオーラの消費が激しい。持って10分…それまで持たないだろうね」

 

曹操はふむと顎に手をやりつつ兵藤の力の分析を始める。

 

やはりそう長くはもたないか。なら、兵藤が必殺の一撃を打ち込んで時間内に蹴りを付けられるようこちらでカバーしながら戦った方がよさそうだ。幸い、木場たちがジーク達を抑え込んでくれているしな。

 

「だが君を侮ったのは最大の失敗だった。あれだけシャルバたちをコケにしておいてこのざま、反省しなければな。ああ…楽しいよ。この感覚だ、強敵と対峙し、互いの力をぶつけあい、命の鼓動を感じるこの瞬間。だから強敵との戦いは好きでたまらないんだ」

 

これだけのダメージを負わせられたにも関わらず、曹操は危機や恐怖の色なく心底楽しそうに笑む。奴の根っこから戦いを追求する戦士の性が如実に表れていた。

 

「お前、このまま外の全戦力ともやりあう気か?」

 

「いやいや、そちらに大損害を出せるのと全滅するのは確実だね。やるなら不意打ちの一点突破が効率的だ。だからこの組織に身を置いているのさ」

 

バチバチと空から何かがはじけるような音がした。

 

空を仰ぐと、天の一角がバチバチと弾けるエネルギーを発しながら漆黒の口を開けていた。あれは間違いなく空間に裂け目ができているな。

 

「ようやく始まったか」

 

それを見て曹操は笑う。そうだ、奴らの目的はこの空間にグレートレッドを呼び出すこと…!

 

まさか、ディオドラの事件のように空間の裂け目からあの赤龍神帝が現れるのか!?

 

「君のパワーアップが後押ししてくれたみたいだ。やはり君は最高だよ」

 

「くそ!俺の力が…」

 

皮肉たっぷりに言う曹操に兵藤は目いっぱい歯噛みする。

 

せっかく反撃できるところまで来たというのに、結局奴らの目論見を阻止することはできないのか…!?

 

「さあゲオルク、『龍喰者《ドラゴン・イーター》』の召喚を…」

 

意気揚々と曹操が言いかけたとき、次元の狭間を見据えるその目が細くなった。

 

「いや、グレートレッドじゃない…?」

 

裂け目の奥から、透き通るドラゴンの咆哮が響く。やがて次元の闇の中からゆっくりと姿を現したのはかつて見たグレートレッドの赤い巨躯ではなく、より小柄ながらも幻想的な緑色のオーラに包まれた細長い東洋型のドラゴンだった。

 

曹操は驚きながらも、その名を叫ぶ。

 

「西海龍童《ミスチバス・ドラゴン》、玉龍か!」

 

かの龍の名は玉龍。この世に5体存在する五大龍王に名を連ねるドラゴンの一体である。

 

「玉龍って、龍王の一角じゃないか…!」

 

「タンニーンさんと同じ龍王!?」

 

ふいに小さな影がひょいと玉龍の背から飛び降りた。かなりの高度だったにも限らずなんともないようにぴんぴんした様子だった。

 

降り立ったのは一言でいうなら金色の猿だった。幼稚園児ほどもいかぬ小柄な体、年寄りのようなしわくちゃの顔に似合わぬサイバーチックなサングラスをかけ、徳の高い僧が身に着けるような法衣を着こなしている。

 

あの猿、どこかで見た覚えがあるが…なんだっただろう。

 

「京都の妖の力、そしてこれだけの龍の力が渦巻いて居ればすぐにここだとわかるわい」

 

俺たちがその中にいるクレーターの淵に降り立った老猿が、曹操を見下ろした。

 

「久しいのう、聖槍の坊主。随分でかくなったじゃねえの」

 

「これはこれは、闘戦勝仏殿。武勇はかねがね聞いておりますよ。我々相手に各地で派手に暴れているとね」

 

曹操は恭しい態度を老猿に取り、会釈する。相手を舐めたような態度を取った九重の時とは違い、偽りのない畏敬の念が彼の所作に現れている。

 

あいつの知り合いなのか?だとしたら、まさか…敵の増援?龍王も一緒なのは非常にピンチなのだが。

 

「坊主、おいたが過ぎたぜぃ。関帝となって神格化した英雄もいれば、おぬしのように問題児になるものもいる。」

 

「あなたにそう言われるのなら、英雄冥利に尽きるというものです」

 

…いや、こちらの味方か?それにしてもあの曹操が畏敬の念を抱くあの猿は一体何者なんだ?

 

置いてけぼりの俺たちに気付いたか、曹操がこちらを向いた。

 

「君たちは知らないだろう?彼こそは闘戦勝仏、わかりやすい名で言うなら初代の孫悟空だ」

 

「そ、そそそそ孫悟空!!?」

 

絶叫じみた驚きの声を上げるイッセー。ようやく思い出した、夏の合宿で先生から学んだ各勢力の要人のリストであの顔を見たことがあった。

 

あれが本物、西遊記にその名を残す伝説の猿の妖怪か。サングラスをかけているしでかなりイメージと違ってはいるが、仏になっただけはあってめでたいオーラを持っているようだ。

 

前回のウリエルさんと言い、これまたとんでもない大物が来たもんだ。心強いことこの上ない。

 

まさかの超大物の登場に驚く俺たちの反応に孫悟空は楽しそうにしわしわの顔に笑顔を浮かべた。

 

「ほほほ、やはり若者の反応はいつ見ても楽しいのう。赤龍帝の坊主、ここまでよう頑張った。後は助っ人の儂に任せぃ。玉龍、九尾を頼む」

 

『んだよー、オイラここに来るだけでもめちゃんこ疲れたってのに今度は九尾の相手かよ!龍遣い荒いな!…っておい、ヴリトラもいんのかよ!ちょー久しぶりじゃねえか!』

 

美麗な容姿とは裏腹の、若干口汚い若者めいたセリフをべらべらと吐いた。おどろおどろしいヴリトラや威厳ある元龍王のタンニーンさん、話に聞く限りやる気のない態度だったというミドガルズオルムとは打って変わって妙に親近感すら湧く感じだ。

 

「後で京野菜たらふくおごってやるわい」

 

『はぁー、龍王たるオイラを食べ物で釣ろうってか!?いいぜ、約束は守れよ!オラオラぁ!でっかい狐さんよォ!オイラをなめっと痛い目見るぞぉ!!』

 

京野菜をおごる約束を取り付けられて一応のやる気が出たらしく、オラオラオラァと血気盛んな叫びを上げながらヴリトラと対峙する九尾のもとへ飛んでいった。

 

「はぁ、大きな戦が終わっていの一番で引退しおった若手のくせに、態度はでかいのう。まあ愉快な性格で退屈はしないがの」

 

九尾のもとへ向かう玉龍の後姿を見届けると息を吐いて、辟易とした様子だった。俺には不満はあれどそれなりの信頼を築き上げてきたコンビのように見えた。

 

ふとじろりと曹操にサングラスの裏の眼差しが突き刺さる。

 

「…まあせっかくじゃ、再会の印にお仕置きがてら一発もらっていけぃ」

 

刹那、曹操が弾かれたように吹き飛んだ。あまりにも突然な出来事だったのでそれをなしたのは、ただの伸びた赤い棒の突きであることに気付いたのは10秒ほど後のことになった。一見ただの赤い棒に見えるそれはかの有名な如意棒に違いない。

 

「ごはっ!」

 

如意棒の一撃は俺たちを散々手こずらせた曹操の反応速度を容易く超え、腹に重い一撃を叩きこんでいた。地面すれすれに低空飛行してから横転する曹操が血反吐を吐いた。

 

「なんじゃ、ちったぁ強くなったかと思ったがまだまだじゃのう。ちゃんと鍛えとるのか?」

 

「…ぐほっ……見た目に反した、なんと重い一撃…これで全盛期じゃないというのがウソのように思える」

 

服に付着した土汚れを払いながらよろよろと槍を支えにして呻く曹操が立ち上がる。悪魔ほど頑丈でない人間の体にはあの一撃は相当こたえただろう。

 

「…ここまでだな。ジーク、ヘラクレス、ジャンヌ、ゲオルク!退却だ。これ以上は分が悪すぎる、撤退も戦略の一つだ」

 

俺の解放、兵藤のパワーアップ、作戦の失敗、それに追い打ちをかける孫悟空と玉龍の参戦。撤退するには十分すぎるほど追い込まれた。

 

木場たちと交戦していたジーク達や魔方陣を操作していたゲオルクも魔方陣を解除して曹操たちのもとへ集まる。奴らは足元に転移用魔方陣を開き、転移の時を待ち始めた。

 

「これは返してもらったよ。僕らには必要なものだからね」

 

ジークの手中にあったのはネクロムの眼魂だった。しまった、戦いのことですっかり頭から抜け落ちていた。あれがあれば凛の手掛かりになるかもしれないのに…!

 

逃げようとする曹操たちに「待て」と兵藤が動いた。

 

〈BGM:遊馬のテーマ2(遊戯王ゼアル)〉

 

今度は両肩ではなく左手にキャノン砲の砲口を作り、退却に向けて準備を始める曹操たちに向けた。

 

消耗した兵藤のありったけのオーラが砲口に唸りを上げながら収束していく。そんな彼の背にひょいと孫悟空が乗った。

 

「おう、おぬしも一発入れてみるかい?どれ、おじいちゃんが手伝ってやろうかね」

 

なんてことはない軽いタッチ。しかしたったそれだけでまるで全開時の時と変わらないレベルに一気に膨れ上がる。

 

「行け、兵藤!奴らに今までの分、倍返ししてやれ!」

 

某ドラマも言っていた、やられたらやり返す、倍返しだ。その言葉をそのまま曹操たちにぶつけてやれ!

 

「ああ!!せっかく京都に来たんだ、てめえらにとびっきりの土産をくれてやるぜ!!」

 

キャノンの照準を曹操たちに合わせ、湧き上がる力をすべて込めた赤いオーラの砲撃をぶっ放した。

 

「まだ仕掛けてくるってのか!」

 

攻撃に気付いたヘラクレスが曹操たちを守ろうと、自身の体躯を盾にせんと前に出る。砲撃はそのままヘラクレスに直撃するかと思いきや。

 

「曲がれぇぇぇ!!!」

 

兵藤の叫び。ヘラクレスにぶつかるはずだったドラゴンショットの軌道がなんと急にカーブし、ヘラクレスを避けた。そしてそのまま、曹操のもとへ向かい。

 

「ぐぁっ!!?」

 

真っすぐ進む赤い光条が曹操の右目をかすめた。短くも大きな悲鳴を上げて傷跡を手で押さえる。間違いなく、右目はやられたな。

 

〈BGM終了〉

 

「どうだ、これが俺たちの倍返しだ!」

 

「ぐぅぅぅぅぅ……兵藤一誠ッ!!!」

 

痛みに呻くと思いきや、激しい感情に任せてらしくない叫びをあげた。抑えていた手を離すと、見るも痛々しい鮮血で真っ赤な傷が露わになった。

 

すると今度は聖槍を構えなおす、あの構えはどう見ても攻撃のものではない。

 

「槍よ!神を射貫く真なる聖槍よ!我が内に…」

 

始まる詠唱。仰々しく、力のこもった言葉に槍が光をともす。それを見たジークが大慌てで曹操の口をふさぎ彼を強引に抑え込む。

 

「曹操!『覇輝《トゥルース・イデア》』を使うのは早すぎる!落ち着け!これ以上は信長たちも時間稼ぎの限界だ!データは取れた、今回はそれで十分だ!!」

 

…なに、『覇輝』だと?あいつ、禁手どころかそれを制御できるレベルの所有者なのか!?

 

「…つい熱くなった。俺もヴァーリのことを笑えないな、土壇場でも君は盛り上げてくれるとは」

 

どうにか落ち着きを取り戻したらしく、曹操はジークから解放される。今度は奴らの足元に例の霧が発生していた。

 

「兵藤一誠、紀伊国悠、もっと強くなれ。そうすればまた相まみえたとき、この槍の真の力を見せてあげよう」

 

霧は瞬く間に領域を広げ、渡月橋の時と同じように反撃を受けながらも不敵にほほ笑む曹操たちの姿を隠した。

 

京都を混乱に陥れた英雄派の撤退。俺たちの勝利の時だった。

 




というわけで、英友装《ヒーローズ・リインフォースメント》でした。一応木場はムサシしか使えないみたいな人それぞれの縛りはないので木場にリョウマを付けたりヒミコを付けたりすることもできます。能力を使いこなせるかは別として。

次回、「修学旅行の終わり」

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