ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第118話 「修学旅行の終わり」

『あー、まじしんどかったわぁー…ヴリトラいなきゃ超きつかったわー…』

 

玉龍が大きな息を吐きながら、気だるげに地面に降り立つ。彼とヴリトラの奮闘のおかげで暴れる九尾を抑えることができた。

 

曹操たちが逃げた後も奴らが作り出した空間はそのまま残り、空には本物さながらの星々が輝いていた。

 

玉龍と共にヴリトラの姿で戦っていた匙は人間体に戻った後、すっかり気を失ってしまい今はアーシアさんの治療を受けているところだ。あいつのおかげで、曹操たちとの戦いに集中できた。後で礼を言っておかないとな。

 

そして特に治療を受けるほどのダメージのなかった俺も、戦いの終わった戦場跡でどさりと力なく横たわる。

 

「俺もまじしんどい…」

 

今まで以上に変身後の脱力感がすさまじく、自力で立ち上がれそうにない。曹操たちが消えてやっと終わったと気が緩んだ矢先にこれだ。

 

「あの『英友装《ヒーローズ・リインフォースメント》』、仲間に自分の力を分け与えるからその分大量の霊力を消費するんだな……今まで自分だけに霊力を使う分には全然疲労しなかったのに…」

 

プライムトリガーはポラリスさんの調整で俺に過剰な負担がかからない仕様になったはずだがこればかりはどうしようもなかったのだろうか。『英友装』を使わずに一人で戦う分には全く問題はなさそうだが。

 

「私も普段以上に疲れた…」

 

「いやお前はエクスデュランダルぶっ放してたのもあるだろ」

 

そしてぐったりとなっているのは俺だけではない。ゼノヴィアや木場たち、幹部と戦っていたメンバーもだった。

 

「僕もだよ…あの力があっても気の抜けない相手だった」

 

「疲れたー…そういえば私たちちゃんと帰れるのかしら」

 

「…私もまだまだです。でもこの戦いで今後の課題が見えてきました」

 

もしかすると、英友装は俺だけでなく強化する対象にも負担があるのだろうか。俺の力を分け与える急なパワーアップだ、可能性は十分にある。

 

…だが戦いは終わってもまだやり残したことがある。

 

「母上!目を覚ましてくだされ!」

 

九重が懸命に横たわった九尾の狐に呼びかける。曹操たちが消えてから暴れることをやめ、大人しくはなったが未だに狐の姿のままでその双眸に正気の色は戻らない。

 

洗脳されたままの彼女をどうするべきか、煙管を加える孫悟空と兵藤は頭を悩ませていた。

 

「さて、どうしたもんかのう…そういえば、おぬし」

 

「?」

 

「女性の胸の内を聞く技があると聞いたが…それを使って、術をかけられた姫の心に直接呼びかけることはできんか?」

 

孫悟空の思わぬ妙案に、兵藤がぱっと顔を輝かせた。

 

「あ!そうか!」

 

俺も二人の会話を又聞きしながら、あのパイリンガルなら洗脳されたままの八坂姫の心に直接訴えられる。…凛に仕掛けたときに凛の声が聞こえなかったのは、そもそも表に出ているのが別人の人格だったのとアルルが神格だからという理由があってか。

 

「儂が協力するから、お嬢ちゃんが姫に声を届けられるよう術をかけてくれ」

 

孫悟空がそう言う間にも魔力を高める兵藤。妄想力を働かせ、それを魔力に反映させる。

 

「『乳語翻訳《パイリンガル》』!」

 

そうして高めた魔力を一気に開放して彼らを包み込む桃色の空間を作り出すと、同時に赤龍帝の鎧が解除される。今度こそあいつの魔力とオーラが尽きたみたいだ。

 

そこに孫悟空が如意棒で地面を軽くたたく。するとそこからまた違ったオーラが溢れ、兵藤が展開した空間のオーラを軽く上書きしてしまった。

 

「さあお嬢ちゃん、今ならおぬしの声を姫の心に直接届けられる。試してみい」

 

九重はうんと頷いて、一度瞑目して落ち着けてから母親である八坂姫に語り掛ける。

 

「母上…私の声が聞こえますか?」

 

無情にも八坂姫からの返事はない。これだけ言葉を尽くして帰ってこない母親に彼女の感情がいよいよ爆発した。

 

「どうか…どうか、元の母上に戻ってくだされ……!」

 

大粒の涙をボロボロとこぼして、母親の金毛におおわれた体に身を寄せる。

 

「もうわがままは言いません…好き嫌いもせずにちゃんとご飯を食べます…夜に勝手に屋敷を抜け出したりもしません…だから…!だから…!」

 

『……く……のう…』

 

かすれるような、ごく小さな声がかすかに聞こえる。俺にも聞こえた。あれは間違いなく、八坂姫の胸の声でなく口から出た声だ。

 

ようやく返って来た反応に、九重はより昂る感情を言葉にしてぶつけた。

 

「母上!…また、いつものように歌を歌ってくだされ…舞いを教えてくだされ…!もう、九重は迷惑をかけませぬ!だからまた、母上と京都を一緒に歩きたいのです…!」

 

果たして少女の切なる願いは通じ、九尾の巨体が眩しい光を放つ。光の失せ、九尾が横たわっていた場所にいたのは以前に妖怪の屋敷で見せられた九尾と同じ金毛の耳としっぽを持った美女であった。

 

「…うぅ…ここは…?」

 

ようやく戻ってきた八坂姫は頭を軽く押さえて、まるで眠りから覚めたようなとろんとした目できょろきょろし始めた。

 

そんな彼女にお構いなしにと九重は抱き着きにかかる。

 

「母上!母上ぇぇぇぇぇ!」

 

「あっ…うふふ、いつまで経っても泣き虫のままじゃのう、九重よ」

 

まだ状況は呑み込めていないながらも、八坂姫は抱き着く九重に温かな笑みをたたえて撫でてやった。

 

やっと取り戻した九尾の親子の幸せ。母の胸に笑顔で泣きつく九重の姿に俺たちの心に温かな感情が舞い込んできた。

 

「今度こそ、終わったな」

 

曹操たちを撃退し、八坂姫の洗脳を解くことができた。これで大手を振って先生たちのもとへ帰れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「急げ救護班!特にグレモリー眷属、イリナ、匙を見てやってくれ!消耗がひどい!」

 

ホテルの屋上で、堕天使や悪魔、天使のスタッフが慌ただしく駆け回る。

 

八坂姫の洗脳を解いた後、俺たちは玉龍に乗って元の世界のホテルの屋上に戻ってきた。

 

外の世界では堕天使や悪魔、天使と妖怪の連合軍が英雄派の残ったメンバーと戦闘を行っていたらしい。そちらも魔獣創造で大量のアンチモンスターを囮にして撤退したようで、連合軍は現在進行形で事後処理に追われているとのことだ。

 

「元ちゃん!」

 

「元史郎!」

 

担架に乗せて運ばれる匙にシトリー眷属のメンバーが付き添う。皆、ボロボロになって気を失った匙のことを心底心配そうにしていた。

 

それを横目にする兵藤とアーシアさんを除いたグレモリー組はスタッフの検査を終えると、屋上の隅っこ

で柵に背を預けてゆっくりくつろいでいた。

 

兵藤は何やら孫悟空と話し合い、アーシアさんは俺たちだけでなく外で戦っていたスタッフの治療で疲れたのかすやすやと寝息を立てていた。

 

「なあゼノヴィア」

 

「なんだ?」

 

屋上の柵にへたり込んで背中を合わせ、隣り合う彼女に話しかける。

 

「嫌な思い出を蒸し返すことになるかもだけど…操られた俺と戦ってどう思った?」

 

俺の問いかけに彼女は一瞬意外な顔を見せたが、真面目な面持ちにふっと戻る。

 

「…君の気持ちがわかったような気がした」

 

「俺の気持ち?」

 

「君にとって救うべき対象であり、戦わなければならない凛のことだよ。ディオドラの事件や冥界のパーティーで君が彼女と戦った時、こんなにやりづらく、身内に剣を向けないといけない悲しい気持ちだったのかと感じた」

 

「…そんなこと考えてたのか」

 

言われてみれば状況としては酷似しているが、そんなことを…。

 

彼女の推測はほぼ当たりだ。全力でぶつかって殺すわけにはいかないし、かと言って手を抜けば容赦なく仕掛けてくる凛に殺される。おまけに大事な妹に手を上げるのに心が痛み、隙ができてしまう。やりにくいったらありゃしない。

 

「だいたいお前の思った通りの気持ちだったよ…本当にごめんな。よりによって、お前にこんなひどいことを」

 

この戦いではゼノヴィアはもちろん、兵藤たちには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。なんと謝罪すればいいか…。

 

「終わったことだ、気にしないでくれ。とりあえず、悪いのは曹操たちだ。君はこのままやられっぱなしで終わるような男じゃないだろう?」

 

「…当たり前だ、今度は負けない。二度と操られてなるもんか」

 

曹操の禁手は結局よくわからないままだったが、今度こそ奴の禁手の能力を見破って見せる。そしてそのうえで奴に勝つ。あんな醜態は二度と晒すまい。

 

「それでこそ悠だ…それに、いつかは操られた状態ではない本気の君と戦ってみたくなった。レーティングゲームならそれも叶いそうな気がするが」

 

星空を仰ぎ、いつかの時を遠い目で見るゼノヴィアが言う。俺とゼノヴィアがレーティングゲームで戦う、か。確かにあれなら全力で戦えるし、痛くはあるが命にはまず関わらない。

 

…考えたこともなかったな。俺とゼノヴィアが真っ向からの真剣勝負をするなんて。

 

「ま、俺は悪魔になれないから参加できないけどな。…でも、最近の和平を見ていると、もしかするとって思うよ」

 

「それが叶ったら、すごく面白いことになりそうだね」

 

ふっと互いに微笑みを交わし合う。このまま様々な勢力との和平が進んで関係が改善されれば、いずれは天使や堕天使、人間がもし悪魔のレーティングゲームに参加できるようになるかもしれない。

 

もしそうなったらどうなるだろうか。誰も予想のつかない勝負、もしも天使の強者とヴァルキリーの実力者が戦ったら、なんてドリームマッチの雨あられだろう。俺もそんな勝負を見てみたくはあるな。

 

「…ところで兵藤の奴、今度はどうやってパワーアップしたんだ?また乳首を押したのか?」

 

今までのようにパワーを増しただけでなく、新形態というあんな激的なパワーアップを果たしたのだ。今まで以上にトンでも現象を起こしたに違いない。

 

「…知らない方が幸せなこともあるんだよ」

 

「全くだな」

 

俺がその話題を出した途端、木場とゼノヴィアが気まずそうに顔をそむけた。

 

「実は…」

 

「ちょ!」

 

その中で一人だけ、ロスヴァイセさんは何かを言おうとした途端に慌てる紫藤さんに口を押えられてしまう。するとそのまま、何かを耳打ちし始める。

 

「ごにょごにょごにょ」

 

「なるほど、そんなことが…」

 

「どうしたんだよ」

 

「聞かない方がいい、私から言えるのは以上です」

 

ロスヴァイセさんもやけに神妙な表情ではっきり言ってしまう。一体何を吹き込んだんだ紫藤さん、そして一体何をやったんだ兵藤!

 

軽く息をついていた木場が踵を返した。

 

「…そろそろ僕も限界だ。ごめんみんな、お先に」

 

「ああ、お疲れ」

 

屋上のドアからホテルに戻っていった。俺もそろそろ行こうかね。

 

重い腰を上げて、かつかつと靴音を立てて木場が入っていったドアに向かおうとする。

 

「悠、どこに行くんだ?」

 

「…俺はもう自分の部屋で寝る。皆、お疲れ様」

 

「そうか、途中で寝落ちないようにな」

 

背を向けて、返事の代わりに軽く手を振ってから俺も屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心身ともに疲れ切った体を引きずり、ようやく自分の部屋に戻ってきた。

 

ドアを開けると、すでに消灯して真っ暗になった部屋に廊下の明かりが差し込んだ。

 

「…ただいま」

 

洋室の部屋を進んでベッドを見ると思った通り、天王寺が気持ちよさそうな寝息を立ててぐっすり夢の中に入り浸っていた。

 

「くかぁー」

 

「ちゃんと帰ってきたぞ。天王寺」

 

睡眠を妨げないように小声で告げる。もちろん聞こえていないだろうが、戦いに出る前に帰ってくるとと言った手前それだけは言っておきたかった。

 

「兄ちゃん…かつ丼にちくわ入れんといてや…」

 

いったいどんな夢を見ているんだこいつは。俺の中で大和さんがちくわの人になってしまうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌朝、修学旅行の最終日。早くも朝から行動を開始した俺たち上柚木班は修学旅行の締めにと清水寺に向かった。

 

時間もあまりなかったので手短に要所を巡り、絶景を堪能した後はお土産を買い、上柚木班の予定はすべて終わった。

 

そして京都駅にて、いよいよ思い出たくさんの京都とも別れの時が訪れる。駒王町に戻る俺たちの見送りにと八坂姫や九重が新幹線のホームまで来てくれた。

 

「赤龍帝」

 

「イッセーでいいよ」

 

兵藤と九重、この4日で深く関わった二人が別れのあいさつを交わしていた。

 

「…い、イッセー。また京都に来てくれるか?」

 

恥ずかしそうに顔を赤くする九重が尋ねる。

 

「うん、また来るよ」

 

「本当か?必ずじゃぞ!いつだって、お前を待っておるからな!」

 

年相応の子供らしく無邪気に喜ぶ九重が目をキラキラさせて、明るい笑顔を見せた。

 

「もちろん、次はみんなで来るよ。その時は裏京都を案内してくれよ?」

 

「任せておれよ!」

 

…ほんと、兵藤は人間の女性には嫌われるが異形の女性には好かれるな。今度行ったときは裏京都巡りか、悪戯好きの妖怪が多いみたいだから穏やかに済むといいが。

 

「アザゼル殿、魔王レヴィアタン殿、そして堕天使、悪魔、天使、人間の方々にはこの度多大な迷惑をかけてしまった。深くお詫びするとともに…礼を申し上げる。これから魔王レヴィアタン殿と闘戦勝仏殿と会談を行う予定じゃ、今後、我々京の妖怪は悪魔や他の勢力とも友好的な関係を築いていきたいと思うておる。もう二度と、あのような事件は起こさぬ」

 

着物姿の八坂姫が俺たちに深々と感謝の念を込めて頭を下げた。彼女が容易に頭を下げるべきでない立場の人だからこそ、それだけ俺たちに深い思いを抱いているというのが理解できる。

 

「頼むぜ、九尾の御大将よ」

 

「うふふ、皆は先に帰っていてね☆ここからは私たち大人の出番なのよ♪」

 

先生とレヴィアタン様は八坂姫と言葉を交わす。二人は俺たちが曹操と戦っている間も外で英雄派と大激戦を繰り広げていたらしい。信長と魔獣想像をこっちに来れないよう止めてくれただけでも本当にありがたかった。

 

そろそろ時間だ。名残惜しくはあるもののロスヴァイセ先生と学生組は新幹線に乗り込む。

 

「ありがとう!イッセー、皆!また会おうぞ!」

 

笑顔で大きく手を振って見送る九重に、俺たちも笑って手を振り返す。

 

こっちに勘違いで攻撃を仕掛けてきた最悪の出会いだったが、年相応さと強い意志と勇気を持った少女だった。俺が同い年だった時よりも優れた精神を持った子供もいるんだなと強い感嘆の念を覚える。

 

「九重も成長したのかな」

 

「あのべっぴんさんと子どもと知り合いなんか?」

 

「まあちょっとした縁があっただけだよ」

 

隣の席に座る天王寺に聞かれたので、何ともない調子で答える。

 

「ええなぁ、あんな美人と縁があるなんてごっつラッキーやな!」

 

天王寺はうらやましそうに言うが、洗脳が解けてから八坂姫とはほぼ話すタイミングはなかったな。また京都に来たら、縁もあるだろう。

 

この三泊四日の旅。楽しいこともたくさんあったし、つらいこともたくさんあった。

 

曹操に関してはマジで許さん。修学旅行に面倒ごとを持ち込んだあげく、俺を操ってゼノヴィアに手を上げさせたからな。今度会ったら俺があいつに目にもの見せてくれる。

 

だがこの4日で天王寺や上柚木と御影さんともっと仲良くなれたし、そしてゼノヴィアとより距離が近づいた気がする。散策当時も楽しかったが振り返ってみると、もっと楽しいひと時に思える。

 

「修学旅行、楽しかったなぁ…」

 

思わず笑みがこぼれた。過ぎ去った時間に思いを馳せる俺たちを乗せた新幹線は東京を目指して走るのだった。

 




次でパンデモニウム編は終わりです。次話が上がったらパンデモニウム編についての裏話も上げようかなと思います。

それと今回の外伝の話を作り始めましたが、普段絡みのない生徒会組とのかなり愉快な話になりそうです。

次回、「修学旅行はパンデモニウム」

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