ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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いよいよライオンハート編のスタートです。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
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10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



英雄集結編『コード:アセンブリー』第二章 学園祭のライオンハート
第120話 「新たな転校生」


「うーん」

 

冥界の旧首都、ルシファードで開かれた『乳龍帝おっぱいドラゴン』の本人出演のヒーローショーの手伝いを終えて人間界に戻ってきた俺、深海悠河はレジスタンスの保有する次元航行母艦『NOAH』にて思案にふけっていた。

 

レジスタンスのデータベースに繋ぎ、15の眼魂に選ばれた偉人たちの情報を集めては端末の画面とにらめっこする。最近ここに来るときは必ずそうしていた。二条城での曹操たちとの戦いからずっと、ある一つの疑問が路傍に吐き捨てられたガムのように頭の中に引っ付いて離れないからだ。

 

「最近調べものに熱心じゃな、どうした」

 

同じ部屋でかたかたと聞き心地のいいタイピング音を鳴らすポラリスさんが声をかけてきた。ここしばらくは別件で忙しいのか、ここに来ても会わないことが多く、顔を合わせるのも久しぶりだ。

 

「いや、英雄って何だろうなって思って。俺の眼魂の英雄はもちろん、いろんな偉人のこと調べてるんだよ」

 

曹操に啖呵を切った手前、必ず答えを見つけなければならない。それは口だけにはなるまいという男としての筋でもあるが、この英雄たちの力を手にした責任とも呼べるものであった。

 

曹操に呆れられて俺は強く思ったのだ、この英雄の力を使うに相応しい人間でなければならないと。そうでなければ、英雄という存在に明確な定義を持ちそれを目指す奴に俺は勝てない。

 

しかし調べれば調べるほど、英雄とは何かという疑問は深まるばかりだ。英雄はたった一人ではない。英雄や偉人と呼ばれる人物の数だけその生き方があり、彼らの人生を知って得られるものは異なる。英雄と言う定義の探求はそう易しいものではなかった。

 

「ほう、さては曹操に色々突っ込まれたか」

 

「…まあ」

 

「ふむ、英雄とはなにか、か。哲学じみた質問じゃのう」

 

ポラリスさんはタイピングを止めると、顔を渋くする。

 

「いろんな世界を見たあんたなら、知っているんじゃないのか」

 

「確かに、妾は様々な世界で多くの英雄と呼ばれる人物を見てきた。英雄足りうる人物とそうでない凡人の違いは特異点かそうでないかとも考えられるが…」

 

特異点、それは常人には変えられない運命を変えるほどの影響力を持った人間のことだ。ポラリスさんが言うには兵藤や部長さん、ヴァーリやアザゼル先生もその一人らしい。

 

…あれ、あの説明の時曹操も名前が挙がってなかったか?最強の神滅具使いで英雄派のリーダーだからこいつもってことなのか?

 

首を傾けながら考えるポラリスさんの赤い瞳に、昔を懐かしむような穏やかな光が瞬く。

 

「妾の知る英雄と呼ばれた人物は誰もかれも、自分のなすべきと思ったことに一生懸命じゃったよ。英雄が善か悪かは関係ない、そんなものは誰もが等しく持つ心の一面で、評価する人間がどの面を見るかのよって左右されるからのう」

 

「自分のなすべきことに一生懸命…」

 

「そうじゃ、それは曹操たちもおぬしらも等しく同じであろう。曹操たちは英雄を目指し、おぬしらは英雄派の企みを止めんと奔走した。行為は異なれど、一生懸命になるという意味では差異はあるまい」

 

「確かに…」

 

言われてみればそうだ。俺たちも曹操も、どちらも自分たちの目的のために命を張って奮闘した。

あいつらが必死に準備して実行に移した実験を、俺たちは懸命に戦って止めた。それぞれの正義があって、それに尽くしたまでだ。俺も曹操も、どっちもそれは同じだ。

 

「それに、そんな難しいものの定義なぞ一つに絞る必要なんてないと思うがのう。曹操の定義を是と言うものもいれば否と言うものもいる。否と唱えるものにも彼らなりの英雄の定義がある…戦う上で考える必要はないが、どうしても気になるなら存分に悩み、答えを見つけるといい。思慮を重ね、悩みに悩み抜いた末におぬしだけの答えは見つかるはずじゃ」

 

俺だけの答え、か。簡単そうに見えてなかなか見つけるのは難しい。だが彼女との語らいは行き詰りかけた俺の探求にいい刺激をもたらしてくれたように感じた。

 

「スキエンティアは存分に使え。すべてを閲覧できるわけではないが、趣味関連に使うだけでは宝の持ち腐れじゃからのう」

 

「もちろん使わせてもらう。こんな宝の山みたいなもの、使わないのは馬鹿だ」

 

「うむ。そうじゃ、英雄にちなんだひとつ面白い世界の話をするなら…」

 

と、ぴんと人差し指を立てた。

 

「神話還り《ミュータント》というギリシア神話に登場する神や英雄の力を持った人間がいた世界では、力を悪用する神話帰りを取り締まり、力なきものを守るものを公務員…ヒーローと呼んだのう、そして彼らを統括する組織が、英雄庁と言った」

 

「そんな世界があるのか」

 

「うむ、彼らは胸に正義を刻み、市民の憧れであり、模範であろうとした。そう…まさしく、英雄と呼ぶにふさわしい者もおったのう」

 

柔らかく浮かべた微笑みにはその『相応しい者』たちへの好意が見て取れた。

 

俺のいた世界には天使や悪魔などの異形は物語の中の存在だがこの世界では一般には知られていないまでも当然のように実在する種族であるように、世界が違えば常識も違うのも当然だ。

 

この人はカルチャーショックと呼ばれる現象の比ではないそれを何度も経験してきたのだろう。だが各世界の強者を彼女は知っているというからこそ、一つの疑問が湧いてくる。

 

「対ディンギルのために色んな世界の強者をスカウトしようと思ったことはないのか?」

 

「思ったさ、何度、彼らがいればどんなに心強いだろうかとな。じゃが妾達の旅はいつ終わるかわからなかった。以前は一度世界を移動すれば次の次元航行を始動させるのに50年のエネルギーのチャージを必要としたからのう。しかもその次の世界に妾達が求めるディンギルを倒す力があるかわからぬ。妾やイレブンは途方もない旅の時間に耐えられるが、そうでない彼らは時間の流れで力と肉体は衰え、やがて寿命を迎えてしまう。如何なる強者も老いと寿命には勝てないのじゃからな」

 

「そういうことだったのか…」

 

改めて彼女の口からレジスタンスの人数の少ない理由を説明され、大いに得心した。人間の寿命は国によってまちまちだが大体80から90、もっと行けば100ちょっとを超えるくらいだ。しかし実際に肉体の全盛期と呼ばれる年齢は25を境に終え、あとは老いていくのみ。戦闘を旅の終わりの目的としている以上、体の衰えは大きなネックになる。

 

いつ終わるかわからないからこそ、旅に連れていくわけにはいかなかったのだ。…てかポラリスさんとイレブンさんの年齢マジでいくつだ。

 

「じゃが、理由はもう一つ…彼らはすでに自分たちの世界で為すべきと思ったことを見つけておった。そんな彼らを妾の都合に巻き込むわけにはいくまい」

 

不思議と彼女の面持ちには後悔も不満もなく、むしろ清々しさすらあった。

 

…自分の世界が失われてしまったポラリスさんだからこそ、出会った人たちのこの世界で生きていくという意志を尊重したんだろう。自分たちの生きた世界がある、それだけで彼女にとっては素晴らしいことのように思ったのだろうか?

 

「そうだ、あんたは自分の世界で人類を支配するスーパーコンピューターに対して革命を起こしたんだっけか、あんた自身は英雄だと言われなかったのか?」

 

「…英雄と呼ばれたのはそれを実際に破壊した三人の少年少女たちじゃ。過去からやってきて、人類を機械の支配から解き放った終戦の英雄とな。妾は何もしなかったというわけではないが、妾には英雄と呼ばれる資格なんぞないわ」

 

「?」

 

彼女の表情に影が差した。最後の言葉には、かつての仲間や残された民間人を救えなかった自分への自嘲も込められているのだろう。人類の生き残りをかけた作戦を自分が提案し、その結果全てを失ってしまった。

 

重すぎる過去だ、俺が踏み込んでどうこうできる問題ではない。

 

「…話せばこんな感じか。妾の話は参考になったかの?」

 

「ああ、面白い話を聞かせてもらったよ。今日はなんだか疲れたし、明日は学校だから帰る」

 

「そうか、いい夢を見るといい」

 

調べ物はしたし、久しぶりにポラリスさんと顔を合わせて興味深い話が聞けた。収穫としては十分だ。明日は学校だし、夜更かしはすまい。

 

硬くなった体をうなりながら伸ばしてから、立ち上がる。

 

「そうじゃ」

 

最後にまだ言い残したことがあったか呼び止められると、ポラリスさんはニヤリと笑んだ。

 

「…恋人と愛を深めるのもいいが、ほどほどにのう。週三は結構なペースだと妾は思うぞ」

 

そっちもまるっとお見通しかーい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さーて、今日から学祭の準備かー」

 

翌日の放課後、伸びをしながら木々に囲まれた我らが旧校舎に部活動がてら足を運ぶ。

 

修学旅行も終わりこれからは学園のビッグイベント、学祭に向けた準備が本格化するとのことでこの棟にいる時間も大きく増えることだろう。

 

いつ仕掛けてくるかわからない曹操たちへの備え、鍛錬も大事だが学生生活も等しく大事だ。

 

そう考えながら、旧校舎の前に差し掛かると中央の扉の前で一人の女子生徒がいるのを見かけた。

 

「ん?」

 

「あなたは…」

 

女子生徒もこちらに気付いた。澄んだ碧眼に巻いた金髪をツインテールにした彼女は…

 

「もしかしてレイヴェルさん?」

 

「あなたはあの時の助っ人…いえ、紀伊国悠さんでしたわね」

 

修学旅行が終わって早々に高等部1年に転校してくるとの話があった、フェニックス家の娘、レイヴェル・フェニックス。そうだ、今日からこの学園に来ると聞いていたんだった。

 

久方ぶりの予期せぬ遭遇に両者とも驚いた。

 

「ここに来たってことは…」

 

「ええ、私もあなたと同じオカルト研究部に入部することになりましたの。よろしくお願いします、先輩?」

 

「ああ、よろしく。この時期は大変だけどな」

 

過去はさておき、歓迎の意を込めて挨拶を交わし合う。学園祭の準備で忙しくなってくるこの時期に来るなんて不運だな。こちらにとっては人手が増えるので幸運というべきか。

 

それから旧校舎の扉を開き、彼女とのおしゃべりを続けながら古い廊下を歩く。ここの廊下は定期的に俺が綺麗に掃除をしているので、旧校舎という言葉が想起させる埃臭さは微塵もない。

 

「あなたと会うのは、お兄様とのゲーム以来ですわね」

 

「あの試合か…懐かしいな。ニュートンでぼっこぼこにしたっけ」

 

そう、レイナーレの事件からようやく立ち直りかけた俺を兵藤が戦力が足りないから力を貸してほしいと頼まれて参戦したライザー・フェニックスとのレーティングゲーム形式の試合。その時は部長さんの婚約者であったライザーはグレイフィアさんの介入で、部長さんが試合に負けたら結婚を認めるという条件で行われたという。

 

その試合の終盤で、残った俺とライザーは一騎打ちをした。

 

「あれは流石にやりすぎと思ったのもあって、最後に思わず止めに入りましたわ…」

 

「俺もあの時はどう不死に対抗するかで必死だったから…」

 

試合の終盤、ニュートンの引力と斥力の操作で校舎のレプリカを破壊してライザーを押しつぶしたりした。流石に不死と言えど痛みがないわけではなく、相当消耗させられたようでとどめに入った矢先に目の前の彼女に邪魔された。

 

あの時はまだ駆け出しで戦いのことをよくわかっていなかったし、とにかく一生懸命にやってたな。というかまだ半月も経たない戦闘初心者に不死の相手なんて出てきていいもんじゃないと思う。

 

そうだ、ライザーと言えば。

 

「ライザーはあれからどうしてる?」

 

「ドラゴン恐怖症も完治して、すっかり元の調子を取り戻しましたわ。近いうちにレーティングゲームの復帰も予定してますわね」

 

先日、俺の知らない間に兵藤達がレイヴェルの頼みで部長をかけた決闘に負けて以来すっかりふさぎこんでしまったライザーを立ち直らせたらしい。なんでも、タンニーンさんの協力もあって根性を身に着けたのだとか。

 

「まあ、スケベ根性は相変わらずですけどね…」

 

日頃の兄の姿を思い出したかやれやれとレイヴェルはため息を吐く。自分の眷属でハーレムを作ってしまうような男だからそれも当然か。

 

「…レイヴェルさんは今日が初めてだよね、クラスのみんなはどうだった?」

 

「みんな、温かく迎え入れてくれましたわ。でも、私は悪魔だから人間の方々とどんな話題を話せばいいのかわからなくて…」

 

安心と不安、二つの相反する色が混ざり合った複雑な表情をしていた。

 

「それなら、同学年の塔城さんかギャスパー君に相談してみたら?」

 

と、思いついた考えを何気なく言ってみたら。

 

「それですわ!あの猫又、いきなり私に向かってこんなこと言ってきたんですのよ!?『…ヘタレ焼き鳥姫』なんて!!」

 

「えー…」

 

自身の家名であるフェニックスらしく一気に火がついて顔を真っ赤にして怒り出した。ぷんすかぷんすかという擬音がつきそうな怒りっぷりだ。

 

塔城さん、初日から喧嘩売ってるー…。確かに彼女との出会いは敵同士だったけど、何もそこまで嫌悪感むき出しにするほどじゃないはずなんだが。

 

「私、まだ何も彼女に悪いことしてないのに!いきなり!全く意味が分からなくて、思い出すだけでも腹が立ちますわ!」

 

「…」

 

「…んん、失礼。見苦しいところを見せてしまいました」

 

怒りが止まらず地団太を踏む彼女に彼女に何とも言えずにいると、ハッと我に帰った。

 

この話題は避けよう…彼女に怒りに巻き込まれて俺まで悪い印象を持たれるのは勘弁だ。何か別の話題に変えなければ。

 

「れ、レイヴェルさんって、確か兵藤の家にホームステイしているんだっけ?」

 

「ええ、それが何か?」

 

「じゃあ、そこにクラスの皆と通じるヒントがあるかもしれない。流行りのファッションとか、テレビ番組とか…特にあそこは大所帯だからゴロゴロ転がってそう」

 

それに同級生でなくともアーシアさんや兵藤たちがきっと相談に乗ってくれる。あのお人よしなら困っている彼女を見過ごすはずがないからな。

 

「なるほど…言われてみればそうですわ。帰ったら注意深く観察してみますわね」

 

さきの怒りっぷりとは打って変わってニコッと笑って「ありがとう」と返すレイヴェルさん。

 

よかった、どうにか彼女の助けになれたみたいだ。人の困りごとの相談に乗るのはもう慣れたからな。

 

「…あ、レイヴェルさんは多分知らないよね?」

 

今度思い出したのはレイヴェルさんについてではなく、こちらの話題。オカルト研究部に入部する…つまりグレモリー眷属と関係を密にするならこの話は避けては通れない。

 

「何の話ですか?」

 

「俺、紀伊国悠じゃなくて、深海悠河だから。よろしくね」

 

そう、すでにグレモリー眷属やシトリー眷属には知られている異世界に関する俺の経歴。前の名前で呼ぶメンバーが大半である以上は話を通しておかなければならない。

 

「???」

 

眉をひそめて、彼女は思いっきり首をかしげたのだった。

 

その後、彼女に丁寧に説明したがそれでも信じきれなかったみたいで半信半疑の疑が強い結果に終わった。

 

兵藤達は今までの関係あって信じてくれたが、やっぱり俺の経歴って常人には信じがたいものなんだなと改めて実感した。

 




次回、「学園祭に備えて」

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