ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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今回はそれほど原作と変わらないです。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
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7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第121話 「学園祭に備えて」

「それじゃ、学祭の準備を始めましょう」

 

新入部員のレイヴェルさんの挨拶の後は部長さんの一声で、オカルト研究部の学園祭の準備が始まる。歓迎ムードから素早く切り替わり、それぞれが素早く持ち場につき、早速作業に移った。

 

この部の出し物は『オカルトの館』。旧校舎という大きなエリアを利用して様々な催し物をやろうという試みだ。教室なら普段から持て余してるぐらいにあるので、それらを存分に使って占いだったり、喫茶店だったりで生徒たちをもてなそうというのだ。

 

ギャスパー君を入れた女性陣の仕事は部屋の模様替えや喫茶店とお化け屋敷の衣装づくりだ。器用な手先で見事な衣装を作り、テーマにふさわしい内装の飾りつけを考えていく。

 

そして俺たち男性陣は空き教室で持ち前の力を生かした大工作業だ。

 

「イッセー君、トンカチを」

 

「はいよ」

 

兵藤が近くの机上からトンカチを取って木場に手渡す。釘を打つトンカチの音がこんこんと聞き心地のいいリズムを刻んだ。その間、俺はのこぎりで木材をちょうどいいサイズに切り出す。

 

ぎこぎこと引いては押して木材を切る。変身すればこんな木材を切ることくらいわけないが、部長さんたちが異能に頼らず、学生らしく自らの手でやり遂げようというのだから俺だけズルをするのもカッコ悪い。

 

「ところで二人はディハウザー・ベリアルって知ってるかい?」

 

作業の途中、作業を片手間に進める木場が唐突に話を振ってきた。

 

「そりゃもちろん。レーティングゲームのランキング1位の『王者』だろ?」

 

「ベリアル家は元七十二柱の一つでもあったな」

 

さも当然という風に俺たちは答えた。悪魔社会でレーティングゲームを知っている人ならその名を知らない者はいないだろう。

 

「そうだね、ベリアル家の当主にして長年ランク1位の座に君臨し続けるレーティングゲームの『王者』…皇帝ベリアルなんて呼ばれてる」

 

エンペラーベリアル…魔王でもないのに随分大層な二つ名をつけられたものだ。それだけファンからの人気を集め、高い実力を持っているという証でもある。

 

「ランキングのトップ20は異次元の存在とも呼ばれて、10位以内に入れば英雄視される。さらに5位以内はほぼ不動で一人でもメンツが変わったことはまずない。3位のビィディゼ・アバドン、2位のロイガン・ベルフェゴール、そして1位の皇帝ベリアル。彼らは魔王様にも匹敵する力を持った最上級悪魔で戦争でも起きない限りは動かないとされている。ゲームの中で磨き上げられたダイヤモンド…いやそれよりも輝かしい結晶だよ」

 

「アバドンにベルフェゴールは聞いたことがないな」

 

と、切ってためた木材を一か所に纏める兵藤。

 

「それらは現政府とは距離を置いた『番外の悪魔《エキストラ・デーモン》』っていうお家なんだよ。それでも彼らは家をほぼ縁切り状態でゲームに参加する道を選んだんだ」

 

「ディオドラの言ってたサタンっていうのは『番外の悪魔』じゃないのか」

 

四大天使を纏めて相手してウリエルとラファエルを倒し、旧ルシファーにも恐れられたと言われる強力な悪魔だ。シャルバやカテレアみたいな旧魔王の血族のように子孫が残っていてもおかしくはないが。

 

木場は難しい顔をしながらトンカチで釘をまっすぐに打ち込む。

 

「少なくともサタン家っていうのは聞いたことはないね。ディオドラの件を受けて極秘に仮面やサタンの調査を始めたサーゼクス様がおっしゃってたけど、仮面の関連資料は全く見つからなくて、サタンという悪魔の血筋に該当する悪魔はいないとされている」

 

「ふーん…生涯独身だったのかね」

 

「僕にもわからないよ。ただ、相当怒りっぽい凶悪無比な悪魔だったという資料が残されているみたいだ」

 

じゃあ性格に難ありだったんだな。そんな奴結婚したところでDV夫まっしぐらだろ。俺は絶対にそんな男にはならないけどな!

 

「そういえば、サーゼクスさんや眷属の方々はゲームには参加できないのか?」

 

木材とにらみ合いながらのこぎりを引く兵藤が言う。

 

「ルール上は魔王様の眷属はOKみたいだよ。でも彼らはその気はないみたいだ、あくまで魔王様の眷属として生きるのが理念みたいだからね。それに実戦に向けて実力を磨く目的があるとはいってもゲームと実戦はルールだったり、戦略だったり違う要素が多いから」

 

それに何より大きいのが、ゲームと違って実戦は戦闘不能になってもリタイアで治療室に運ばれないからな。実戦での敗北はすなわち、死を意味する。あとはゲームだと大衆が見るというのもあるから試合の展開にエンタメ性も求められるだろうか。

 

「部長がゲームのプロを目指す以上、皇帝ベリアルたちハイランカーとの試合は避けては通れない。僕も、イッセー君もね」

 

木場の眼は既に未来を見据えているようだ。彼女の『騎士』として立ちはだかるランカーたちと相まみえる瞬間、そして強大な彼らに挑む覚悟すらすでに決めている。

 

「それなら俺は観客席で大手を振って応援しようか。見えないだろうけど」

 

「ふふ、だとしても応援はありがたいよ」

 

冗談めかして言うと木場が微笑んだ。

 

「それよか、サイラオーグさんとの試合だ。向こうもこっちの手の内はある程度把握してるんだろうな」

 

「多分ね、まだ知られていない可能性があるのはエクスデュランダルと君のトリアイナじゃないかな」

 

あれのお披露目はつい最近の二条城が初だ。実際に目にしたのはあの時にいた俺らと曹操たち以外はいない。それをサイラオーグたちが知っているという可能性はまずないだろう。

 

「でも向こうも試合に向けてパワーアップしてくるって思ってるだろ。なら、問題はいつどのタイミングでその隠し札を使うかだ。やはり初見で仕掛けるのが一番か」

 

「サイラオーグさんは二撃目は食らってくれないだろうし…」

 

兵藤は深刻そうに作業の手を止めて考え込む。

 

「コンボで短期決戦をやるしかないな。それぞれの形態の短所を補えるけど、体力とオーラはかなり飛ぶ。でもそうじゃないとあの鍛え上げられた体は生半可な攻撃じゃ通じないし、やはりコンボで行くしか…」

 

帰ってきてからすでに何度かトリアイナのコンボを試してみたが、試すたびに体力とオーラの問題は大きいとあいつは思い知らされるばかりだった。

 

「…ま、試合まで日はまだある。それまでにシミュレーションを重ねるしかない。俺ならいくらでも相手になるからさ」

 

ゲームに参加できない俺がみんなを助けられる方法はせいぜいトレーニングの相手になるくらいだ。幸いいろんな能力が使えるから、幅広いタイプの仮想敵を務められるからな。

 

「僕も手伝うよ、せっかくなら深海君にも手伝ってほしいことがあるんだ。ちょうど、新技を考えていてね」

 

「新技?それはいいね、相手の意表を突く札は多いに越したことはない」

 

兵藤との模擬戦が終わったら木場の方も手伝ってみるか。兵藤だけ手伝うのも不公平だからな、戦うのはこいつだけじゃない。ゼノヴィアも、木場も、皆でゲームを戦うのだから。

 

「…ドライグは元気かい?最近、声を聞かないけど…」

 

「ああ、それが…」

 

木場に尋ねられて兵藤は左手に籠手を出現させる。すると、収められた宝玉が弱々しく点滅した。

 

『…はあ、最近考え事が多くてな…』

 

「やけに沈んでるな」

 

なんと龍の猛々しいイメージから乖離した元気のない声だろう。ドラゴンだって生きているのだから、悩みの一つや二つはあってもおかしくはないとはいえ、むしろ所有者がより力を引き出して順調にパワーアップしているから機嫌がよくてもいいのだが。

 

「お、男同士で密談なんて水臭いな。俺も混ぜてくれよ」

 

と、相も変わらずの軽い調子で教室にひょっこり顔を出したのはアザゼル先生だった。

 

「先生!職員会議はもう終わったんですか?」

 

「あ?んなもん体調不良を理由にすっぽかしてきたぜ。今頃ロスヴァイセがうまくやってくれてることだろうよ」

 

当たり前という風にサボタージュを明かす先生。多分こういう風に悪い大人から仕事ぶん投げられてきたからロスヴァイセ先生はストレスで酒癖悪くなったんだろうなぁ。

 

先生の視線が、兵藤の籠手に移った。

 

「ドライグもいるのか。ならちょうどいい、例のカウンセラー見つかったぜ」

 

『本当か?すまないな…』

 

「カウンセラー!?ちょ、俺の知らない間に何があったんですか!?」

 

カウンセラーという単語に俺たち三人は揃って驚いた。まさかカウンセラーが必要なほどに落ち込んでいたとは…予想以上にドライグの悩みは深刻らしい。ますます何を理由に病んでいるのか気になってきた。

 

先生はひょいと机の上に腰を下ろした。こら、教師が机の上に乗るんじゃない。

 

「それがな、ドライグがファーブニルの宝玉を通じて連絡してきたんだ。最近気分がすごく沈むようになって、特に『おっぱい』だとか女性の胸に関連した単語を聞くとそれはもう辛くてたまらないのだ、と」

 

「え!?」

 

兵藤は口をあんぐりと開けて絶句した。おっぱいを常日頃から追い求めるこいつにとって、まさかいつも自分の中から自分を見ているドライグが今更おっぱいで心を病むなど想像もつかなかったのだろう。

 

「ほ、本当かよ!?」

 

『本当だ…すまないな、相棒。何、戦闘には支障はないただ…俺の心は思っていた以上に弱かったらしい…』

 

肯定を告げるドライグの声は聞くだけですぐにわかるほど、無残なまでに落ち込み切っていた。

 

「いや、お前がおっぱいで奇跡を起こしたりパワーアップしたりするからそれがショックで心労が絶えないんだとよ。ドラゴンと言えば力とプライドの塊だ。耐えられないものがあるのさ」

 

「なっ…!」

 

いよいよ愕然と、雷に打たれたように口も目もかっぴらいて兵藤は動きを止めてしまう。

 

「…もしかして、今回のパワーアップもひどかったのか?」

 

『…お前はいいよな。あれを見ずに済んだのだから。あんなものは見たくなかった……あんなものは…』

 

俺の想像を超えた何かを見てしまったのだろうか。木場にふいと視線をやると、気まずそうな顔をされた。

 

何なんだ!逆にそこまでされると気になるじゃないか!!ドライグにあんなものは見たくなかったと言わしめるものって一体何なんだよ!

 

「後で連絡先は教える。ドラゴンのメンタルカウンセリングができる奴なんて探すのに苦労したぜ、まったく」

 

「…あら、アザゼル。あなたもいたの?」

 

男性組で会話を交わしていると、がらがらと教室のドアを開け、太陽の逆光で目を細める部長さんが現れた。女子は別室で衣装や飾りつけの制作に入っていたはずだが。

 

「まあな、どうした?」

 

「サイラオーグの執事がイッセーに用があるって。二人にはイッセーの分の作業を任せてもいいかしら」

 

「もちろんです」

 

木場と俺がこくりと頷くと、部長さんは兵藤を連れて去っていった。

 

…貴重な大工作業に回れる男手が減ってしまった。仕方ないとはいえ、ここからはより踏ん張るしかないか。

 

「このタイミングでバアルからの頼み事ねえ…サイラオーグの性質上、八百長なんて真似は天地がひっくり返ってもしないと思うが、何だろうな」

 

先生も知らないみたいだが、一体何用だろうか。サイラオーグ本人でなく執事からというのも気になる。

 

…そうだ、せっかく先生がいるなら聞いてみよう。ポラリスさんもそうだが、年長者の知恵は参考になるからな。

 

「…先生は、英雄ってどんな奴のことだと思いますか?」

 

「ん?…ほうほう、お前はいつも真面目な質問ばっかしてくるが前にも増してクソ真面目な質問じゃねえか」

 

作業しながら俺の口から飛び出した真面目な質問に先生は一瞬虚を突かれた表情をした。しかしそこは先生、考える時間もなく先生なりの答えを即答してきた。

 

「そりゃお前、女を囲ったやつのことだろ。英雄、色を好むって言うしな。それに当てはめるならお前もそうなんじゃねえか?囲ってはないがヤリまくりだろ」

 

「で、デリカシーというものを…」

 

ただし、いやらしくニヤニヤしながら。こっちは真剣に考えている質問なのに、なんと不真面目な答えだろうか。

 

以前先生は誰にも俺とゼノヴィアの関係を教えられてないはずなのに、いきなり『おっ、童貞を卒業したな』と見破ったことがあった。心底びっくりしてなんでわかったのかと尋ねると、数多の女を喰ってきた男の勘だとどや顔で答えてきた。そんな無駄な勘いらない、絶対。

 

「ハハッ、まあ冗談はさておいてだ…このままいけば、イッセーは『王道』の英雄になるだろうな」

 

「イッセー君が英雄に?」

 

「大衆に好かれ、世界の脅威や悪を挫く者、まさしくヒーローだ。子供が絵にかいたような存在だろ?でもそんな『王道』を現実にして英雄って呼ばれるようになった奴はそうはいない。困難を乗り越え、現実にできる奴だからこそ英雄と呼ばれて然るべきだろうよ」

 

言われてみればそうだ。冥界のメディアではロキの事件や京都での事件が大々的に俺たちの活躍と共に報道されていると聞く。その中でも注目度が高いのがおっぱいドラゴンの兵藤だ。

 

作品のおっぱいドラゴンとリアルの兵藤の活躍を混同している一部の悪魔もいるらしいが、それでもあいつは子供たちに好かれ、多くの難敵を打ち破ってきた。

 

あいつは名実ともに本当のヒーローになろうとしている。彼のような人物を、世間一般に英雄と呼ぶのではないだろうか。

 

「お前は英雄になりたいのか?」

 

「…いえ、自分にはわかりません」

 

まだ英雄の答えを出せていない俺には、はいともいいえともつかない答えしか出せない。

 

ただひたすらに毎日を生きる俺にはそんな大仰な者になろうというイメージはない。それどころか将来のビジョンすらも持っていないのだ。

 

「英雄になりたいか、なるつもりはないかは関係ない。要は結果だ。行動の結果が他者、今か後世で評価され、それを為し得た者の一握りが英雄になるんだろうな。他の誰かが英雄と呼んでくれなけりゃそいつはただの頑張った人だ。ま、一人じゃ英雄にはなれないのさ」

 

窓から差す夕焼け色の光に照らされた先生の瞳がきらりと星のように瞬いた。天井を仰ぐ先生の声色は、過去に出会い、失われた命を偲ぶ感慨が乗っていた。

 

評価する人間がいてこその英雄、か。仮に曹操があいつらの望む英雄になったとしたら、誰があいつらを英雄と呼ぶのだろうか?




次回、「最上フォームVS三叉コンボ」

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