ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第125話 「ELTANIN」

「なぜ…お前が赤龍帝の力を持っている?」

 

驚愕の余韻冷めぬままのヴァーリが、絞り出すように疑問の言葉を投げかける。未だに目の前で、確かに兵藤一誠以外に赤龍帝の力を持っている存在を信じられずにいた。

 

『どうせ消す記憶だが…せっかくなら疑問に答えようか』

 

ヘルブロスはヴァーリたちの反応に苦笑すると、傍らに静かに立つパワードスーツの戦士に目をやる。

 

『あのロキとの戦いで、二天龍のお前たちは直接フェンリルやロキと戦ったな。その時に破壊された兵藤一誠の鎧の破片と宝玉をこっそり頂いた』

 

「…そういうことか。だがここまであのドラゴンのオーラを再現するとは…」

 

あのオーラは本物の赤龍帝を宿す兵藤一誠と比較すれば若干異なる毛色を持っているが、間違いなくその強度も、質も彼よりも上であるとヴァーリたちは察知できていた。

 

ようやく状況を飲み込め、驚愕から冷めてきた彼らを前に一歩踏み出すヘルブロス。

 

『…さて、ドレイク。初陣は白龍皇だ、お前はヴァーリを。妾は残りをやる』

 

『了解』

 

「!」

 

〈BGM:Gothic Adventure〉

 

赤い閃光が衝撃と共にヴァーリの眼前に突き抜ける。気づいた時にはドレイクの拳がヴァーリの腹部にめり込み、豪快に殴り飛ばした。

 

「ぐぅっ…!」

 

大きく廊下の奥へ飛ばされたヴァーリは仲間と分断される。ドレイクが追い打ちをかけるように黒歌たちを突破して追撃をかけようと、背部のブースターから赤い粒子を噴出して迫ってくる。

 

完全に先手を打たれてしまった。だがそこで狼狽えるヴァーリではない。手を突き出し、開いた距離を利用して得意の魔力攻撃を仕掛ける。打ち出された白い光弾がひゅんひゅんとドレイク目掛けて殺到した。その一発一発が上級悪魔に手傷を負わせるには十分すぎるほどの威力を秘めている。

 

『……』

 

ドレイクはそれを見て突撃をやめる。すると、ドレイクの手元に装甲と同じく白い銃身に赤のラインが入ったアサルトライフルをウェポンクラウドからマテリアルズし、瞬時に狙いをつけて引き金を引いて赤いビームが銃口からひた走るとそのすべてを正確に撃ち落としてしまった。

 

「にゃ…」

 

「く…」

 

爆発によって生じたぼうっと熱い爆風が煙と共に廊下を駆け抜け、黒歌たちの髪を揺らした。

 

「それがお前の武器か」

 

『…』

 

返事はない。代わりにドレイクは背部から赤い粒子を吐き出して猛進する。ぼうっと突撃によって生じた風がヴァーリに吹き付けるが無論、同じことを繰り返すヴァーリではない。

 

真っすぐに突き出されたドレイクの拳打を身をよじって躱し、返しに強烈な掌底を打ち据えんと突き出す。しかし一撃がドレイクに触れる寸前、煌めく粒子をわずかに残して消える。

 

「!」

 

その姿ごと消えた敵意を再び感じたのはすぐの出来事だった。反射的に横合いから繰り出されたドレイクの蹴りを右腕を突き出してガードする。

 

「く」

 

予想に反して重い一撃に顔を歪めるも、すぐにカウンターで魔法を打ち出して見事にドレイクにヒットさせた。爆発が起き、もくもくとした煙が巻き起こった。

 

『…君は、僕に触れることすらできない』

 

「何…!?」

 

〔Boost〕

 

煙の奥からヴァーリの耳に機械じみた音声が飛び込む。瞬間、ドレイクのオーラが増大し煙を突き抜けて拳がヴァーリの頬を打ち抜いた。

 

「ぐぁっ…!?」

 

兜をあっけなく砕かれ、衝撃でぐらりとよろめくヴァーリ。そしてさらに追い打ちをかけるようにアサルトライフルで殴りつけられる。銃で撃つのではなく、殴るという戦法はヴァーリの虚を突いた。

 

「うっ……倍加もできるのか!」

 

側頭部から温かいものが流れ出るのを感じつつも、オーラを手のひらに蓄えて地面に叩きつける。爆発に巻き込まれまいとドレイクは咄嗟に飛び退り、その間ヴァーリは気合でふらつきから立ち直る。魔法の直撃で起きた煙が晴れると、そこには無傷のドレイクの姿があった。

 

(こいつの動き…俺の半減を使わせないためか)

 

ここまでの戦いぶりを見てヴァーリはそれを悟った。自分の神器の能力、『半減』は理論上はいかなる敵の力も半分にして自分の力に変える。つまり、どれほど敵と自分に力量の差があろうとも倒せるということだ。

 

しかしその発動条件として対象に直接触れなければならない。それを相手が知り、かつ避けるような動きを取るということは半減が通じるということに他ならない。

 

「なら!」

 

〔Half dimension!〕

 

神器の音声と共に半減の力が発動。ドレイクの周囲の空間がぐっと手で押し固められるかのように縮んでいく。何も半減の力は相手を弱体化させるだけではない。物理的な攻撃にも転用することができるのだ。

 

〔Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Explosion!〕

 

攻撃を受けるドレイクは慌てるまでもなく、ドライバーに嵌められた歯車型デバイス『プロトステラ・ギア』…それに秘められた赤龍帝の力を発動させる。身にまとうオーラが音声が鳴るたびにどんどん膨れ上がり、ついには風船が弾けるようにオーラが一気に解放されると、圧縮されようとした周囲の空間はオーラにあてられ元の様相を取り戻した。

 

「ハーフ・ディメンションを力づくで破るだと…!」

 

これには流石のヴァーリも口をあんぐりとするしかなかった。得意技を意図もあっさりと破られることほど敵にショックを与えるに適した手段はない。

 

『君の力は全て解析済みだ』

 

スキエンティアが導き出したハーフディメンションの原理、それは半減の力を利用してヴァーリのオーラで対象を周囲の空間ごと押しつぶすというものだ。それを対処するには、より強いオーラで彼のオーラを吹き飛ばしてしまえばいい。

 

〔ELTANIN〕

 

ドレイクがドライバーのステラギアを捻ると、必殺待機状態に移行し一気にドライバーのシステム稼働率が高まる。全身のラインが赤く発光し、光が右足に集中していく。

 

そして運動能力も高まった右足で地面を蹴り一気に駆け出すと、ヴァーリの反応を超えた速度で赤い光を纏ったハイキックを叩きこんだ。

 

「がはっ…!?」

 

血を吐き出す。理解が追い付かない。駆けるドレイクの姿の一秒後にヴァーリが認知したのは、自分の胸部に打ち込まれたキックだった。

 

〔IGNITION DRIVE!〕

 

増大したオーラを同時に叩きこむ一撃により純白の鎧が粉々に砕け、その威力で大きくヴァーリは吹きとんだ。

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

血をまき散らしながら後方に大きく飛んだヴァーリは、そのまま冷たい床に倒れ伏すのだった。

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈BGM:Covert Coverup〉

 

『さあ、お前たちは妾がもてなそう』

 

ドレイクとヴァーリが戦う一方で、残るヴァーリチームのメンバーたちの前にヘルブロスが立ちはだかる。悠然とした態度で右手にスチームブレードを、左手の人差し指にネビュラスチームガンを引っさげる。

 

「それじゃあ楽しませてもらうにゃん!」

 

「お前は楽しむ間もないだろうけどな!」

 

交戦的な笑みを浮かべて意気揚々と先陣を切るのは美猴と黒歌だ。

 

美猴は如意棒をぶんぶんと振り回し、黒歌は両手に仙術と魔力を混ぜ合わせた光を蓄え、果敢に突撃する。

 

対するヘルブロスは銃を持ちながら牽制の銃撃すらせず余裕を見せ、そのまま二人の接近を許す。そして始まる二人の猛攻が始まる。

 

魔力の光が軌跡を描き、次々に彼女のパンチ、掌底打ちを織り交ぜたラッシュが繰り出される。軽くしなやかな体と魔力が生み出すのは相手に動きに追随する柔軟な動きとその軽さに反した重い一撃。

 

それと同時に来るのは美猴の如意棒による突き。黒歌のラッシュにできるわずかな隙をカバーするように強烈な突きが放たれ、二人のコンビネーションがヘルブロスを襲う。

 

しかしヘルブロスはよせ来る攻撃の数々をしかと見切り、的確に避けては受け流す。その動作に見え隠れする彼女の卓越した技量に二人は驚嘆した。

 

だがそれでも彼らが己の負けを許す道理はない。むしろ敵の強大さが彼らの闘志により火をつけ、攻撃を苛烈にしていった。対するヘルブロスも彼らの加速に難なく追随する。

 

そして黒歌の拳を叩き落とすように弾き、カウンターのブレードで切り返すも美猴がきっちり如意棒で受け止め、逆に棒で頭部を殴り返した。

 

ぐらつくヘルブロスへ、この機を逃すまいと黒歌が仙術魔力ミックスの掌底突きをヘルブロスの腹へ叩きこんだ。魔力も仕込んでいるためヒットの瞬間に爆発が起きヘルブロスを吹き飛ばし、硬い鉄の地べたを転がした。

 

『くっ…』

 

「仙術、しっかり入ったわね」

 

「もうてめえは動けねえぜ」

 

黒歌は確かな手ごたえを感じていた。この仙術攻撃を真正面から受けた相手は体のオーラに関する器官を損傷し、オーラのコントロールができなくなり、大きくパワーダウンする。

 

もはやこれ以上は戦えまい。あれだけ大口をたたいておいてこのざまかと黒歌は内心倒れているヘルブロスを嘲笑した。

 

『…はぁ』

 

そのヘルブロスがゆっくりと起き上がる。そしてぱんぱんと攻撃を受けた腹部を汚れを落とすかのように払う動作をした。

 

『それはどうかな?』

 

奴の口から飛び出した余裕に満ちた言葉で二人は仮面の裏の顔が笑っていることをすぐに理解した。もうヘルブロスは戦えないはずだった。

 

『このスーツが仙術を通すわけがなかろう』

 

スチームブレードを逆手に持ち腰を低く落とすと、惚れ惚れとするような剣閃を煌めかせ、一瞬で二人とすれ違う。

 

ガキン!ぶしゃっ!

 

硬い金属音と、生々しい水音が響く。

 

美猴は如意棒でどうにか防いだ様子だったが、得物を持たぬ黒歌はその艶衣装ごと剣戟を浴び、しゃっと赤い血を噴出してその場に崩れ落ちた。

 

「がっ…」

 

「黒歌!」

 

叫ぶ美猴、しかしヘルブロスは仲間の負傷を気に掛ける間も与えずを回し蹴った。

 

「ぐっ!」

 

『修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍もて降り荒べ』

 

転がる美猴へ追い打ちをかけるべく魔法を発動するポラリスは、無数の雷条を見舞う。雷が美猴の体を食い尽くさんと殺到するが、横合いから更なる魔法が飛び出し雷のすべて相殺し次々に爆発を起こした。

 

「させません」

 

毅然とした眼でヘルブロスを見据え、魔法を放ったのはルフェイ。さらに魔法がぶつかって発生した煙を突破してポラリスへ迫る男が一人。

 

「私が行きましょう」

 

黒スーツを着こなし、優美さとその手に携える聖王剣のような鋭利なものを兼ね備えたアーサーがコールブランドの剣戟を繰り出す。

 

鮮烈な剣光と流麗な剣閃が交差する。両者、ブレードとコールブランドで絶え間なく激しく切り結ぶ。壮絶な打ち合い、外野が介入する隙も無い苛烈な様相に美猴はただ固唾を呑んで見守る。

 

それは剣に関して美猴がアーサーを認め、信頼を置いているからだ。剣で彼が負けるはずがないと。そして彼がアーサーに抱き、アーサー自身も抱く自信は現実のものになりつつあった。

 

『アーサー・ペンドラゴン。認めよう、おぬしは剣の腕なら妾に勝るわい』

 

「ならば、そのまま戦の負けも認めてくれると助かるのですが!」

 

アーサーの激しい剣技に押されヘルブロスは防戦に回る一方で反撃に出られずにいた。アーサーの剣士としての腕は相当なものだ。無論これまでに剣の鍛錬も行ってきたが正直なところ、剣はイレブンの専売特許だと感じていたポラリスは自然と鍛錬を怠るようになってしまった。

 

それが今、彼女の首を絞めていた。こうして今になって真正面からの剣の打ち合いで押されつつある。ポラリスはすぐに悟った。剣の腕はアーサーの方が勝ると。このまま打ち合いを続ければやがて完全に押し負け、聖王剣の一太刀を浴びることになるだろう。

 

『剣の腕だけならのう』

 

だが彼女はそれを許すはずがない。仮面の裏でふと笑う。

 

その瞬間、ヘルブロスの右目に当たる装甲のみがカシャカシャとスライドし、中のポラリスの右目がのぞく。

 

晒された彼女の赤い瞳とアーサーの視線が交錯したその時、アーサーの体がビクンと震えた。

 

「ッ!?」

 

微細な痙攣を始め、剣を握ったまま完全に動きを止めてしまった。固まったままの目もどこか心ここにあらずと言った様子だった。

 

『剣だけなら妾の負けじゃ。だが戦いは剣だけではない』

 

元々詰められていた距離から、ヘルブロスが瞬時にブレードでアーサーに斬りつける。十字に刻まれた傷から血が噴き出し、そのまま力なくアーサーはどさりと突っ伏してしまった。

 

「お兄様!」

 

倒れ行く兄の姿に、ルフェイは悲鳴じみた叫びを上げる。

 

『そう急くな』

 

無造作に引き金を引き、ルフェイの腹に銃弾を撃ち込んだ。

 

「うっ!!」

 

人間、そして魔法使いという打たれ弱さの極みとも呼べるルフェイはそのまま腹を抑え、痛みにうずくまってしまう。

 

〈BGM終了〉

 

「ルフェイ!くっそ…残ったのは俺とフェンリルかよ」

 

残された美猴は如意棒を強く握りしめ、歯噛みする。そこそこの実力者だとは思っていたが、まさか自分たち相手に単騎でここまで追いつめてくるレベルの相手だとは予測できなかった。

 

ちらりと一瞥すると、ヴァーリもどうやらドレイクに押されているようで、息を荒げて両膝をついていた。この様子だと彼の助けは期待できない。

 

「グルルルル…」

 

〈BGM:牙を剥く紋章獣(遊戯王ゼアル)〉

 

美猴の傍らで獰猛な唸りを上げるフェンリルが、唐突にヘルブロスへと突撃する。『支配の聖剣』によって今は力を抑えられたとはいえ、神喰らいの魔獣の脅威は決して侮っていいものではない。

 

ぶしゃっ。

 

一瞬のうちに裂かれたのはヘルブロスの胴のスーツだった。刻まれた爪痕が内部まで裂かれたことを示すが如く血で赤く染まる。

 

『くっ!』

 

驚きながらも即座にヘルブロスは反撃に移る。これ以上フェンリルに接近を許すのは危険だと全身から青いオーラを発して、食いつかんとするフェンリルを吹き飛ばして距離を作った。

 

『この状態でもスーツに傷つけるか…』

 

ヘルブロスは腹の傷を撫で、手に付いた血を見て眉を顰める。そして同時にここまで順調に戦いが進んだことで生じた気のゆるみを自覚した。

 

力を封じられているとはいえあのフェンリルだ。やはり油断は決してできない。ここが正念場だと気を引き締める。

 

『囚われよ、不朽の雀羅に囚われよ』

 

フェンリルの周囲に複数の魔方陣が出現し、そこから神狼を絡めとるように光の糸が伸びる。しかし寸前でフェンリルの姿が掻き消え、魔方陣の範囲から逃れるとヘルブロス目掛けてひた走る。

 

『やはり速いな』

 

〔ニンジャ!エレキスチーム!〕

 

迫るフェンリルへ牽制の銃撃を放ちながらフルボトルを装填し、バルブを捻る。銃撃を容易く躱して超え、ついにフェンリルがヘルブロスへ飛び掛かり喉元に食らいついた。神をも殺す牙がヘルブロスに突き立てられ致命傷を与える。

 

「待てフェンリル!そいつは…!」

 

そうなるはずだった。美猴が声を上げると噛みつかれたヘルブロスの体がばちっと弾け、強烈な電撃と化した。

 

密着した状態からフェンリルは電撃を浴び、けたたましい悲鳴を上げた。

 

『残念。それは妾ではない』

 

ぼふんと煙を上げてフェンリルのすぐとなりにヘルブロスが現れた。

 

スチームライフルに白とターコイズブルーの歯車がついたボトルを差し込み、電撃を浴びて動けないフェンリルに光を蓄える銃口をかちゃりと向けた。

 

〔デュアルギア!ファンキーバースト!〕

 

トリガーを引くと同時に収束されたエネルギーが唸りを上げて発射され、フェンリルへ直撃する。ゼロ距離からの強力な一撃に吹っ飛ばされて何度もバウンドしたのち、フェンリルは黒焦げた身で倒れ伏した。

 

『さて、残るはおぬしのみか』

 

ヘルブロスの視線がじろりと美猴に移る。とうとう一人になってしまった美猴は自分たちを全滅に追い込もうとしているヘルブロスに、無意識に一歩、じりと後ずさってしまった。

 

「くっそ…お前、あの時は協力してくれたじゃねえかよ!」

 

『ああ、そうじゃな。じゃが今の状況は例えるなら…女子の着替えやおめかしの様子を見られたようなものでのう。着替えの真っ最中であられもない姿を見られた女子が怒るのはおぬしもわかっておるじゃろ?女子なら外に出るときはメイクやおしゃれはしっかり決めておきたいものじゃよ』

 

「はぁ!?」

 

『それに…戦いを望んだのはおぬしらじゃ。今更待ったは聞かぬぞ』

 

低い声色がひやりとした感覚となって、美猴の背筋を舐め上げる。彼女の言う通り、戦いを欲したのは自分たちだ、ピンチになったらすぐに降参だというのはなんとみっともなく、筋も通らないことだろうか。

 

正論を指摘されてぐうの音も出ず、くっと強く歯をかみしめる美猴は再び猛進する。戦いを求める自分たちには戦いを止めることはできない。

 

なら、最後まで強敵に食らいついていこうじゃないか。半ばやけくそじみた覚悟で美猴はヘルブロスに立ち向かった。

 

「うぉぉぉらぁぁ!!」

 

裂ぱくの気合と共に渾身の一撃を叩きこむ。しかし無情にもヘルブロスは攻撃をかいくぐると如意棒をはじき、肘打ちを腹部に入れた。

 

「ふぐっ!」

 

『踏み込みが浅い。その程度で世界に喧嘩を売ろうなど片腹痛いわ』

 

そして真っすぐな拳打を繰り出し、美猴を豪快に殴り飛ばす。飛んだ美猴の体は廊下の壁に打ち付けられ苦悶の声を上げる。衝撃の瞬間、あばらが折れる音を美猴は聞いた気がした。

 

「く…初代のジジイみてえなこと言いやがって…!」

 

かつかつと足音を立て、壁に背を預ける美猴へヘルブロスがゆっくり迫る。そしてブレードの切っ先を、彼の眉間に向けた。

 

『いい表情じゃ、悔しさは向上心に繋がる。その記憶を消さねばならないのは残念じゃよ』

 

「…まだだ」

 

〈BGM終了〉

 

戦いを終わらせようとブレードを振り上げるヘルブロスの動きを止めたのは、ぼそりと静かながらも力強く震える声だった。

 

ドレイクの攻撃を受けて突っ伏したままだったヴァーリがゆっくり、よろよろと起き上がる。乱れた銀髪から覗く彼の瞳はまだ戦意にぎらぎらと燃えていた。

 

「ヴァーリ、お前まだやれるのか!?」

 

「ああ…俺はまだ終わっていない」

 

ぷっと口内の血を吐き捨てるヴァーリ。乱れた前髪をかき上げると、きっとヘルブロスたちを睨んだ。

 

「白龍皇を…侮るなよ…!!」

 

その瞬間、ヴァーリの戦意が強いオーラとなり、激しい光と衝撃を起こす。

 

「我、目覚めるは覇の理にすべてを奪われし二天龍なり…」

 

『覇龍を使う気か…!』

 

増大するヴァーリのオーラと詠唱に危険を察知したヘルブロスとドレイクが彼のもとへ走ろうとするが、突然発生した濃密な煙が二人の視界を覆う。

 

視界を塞ぐだけでなく、心なしか動きを封じるような重みを感じるような煙だ。ただの煙でないことはすぐにわかった。

 

『美猴の仙術か…!』

 

「へっ、黒歌の見様見真似だが…時間稼ぎにはぴったりだな!いけ、ヴァーリ!」

 

美猴の頼もしいアシストにヴァーリは言葉でなく笑みで感謝を示した。

 

「無限を妬み、夢幻を想う――我、白き龍の覇道を極め――」

 

詠唱が進むにつれ、オーラはさらに増大する。大気が震え、ヴァーリの体はまばゆく発光し光度を強めていく。

 

煙の中でドレイクが右手で手刀の形を作り、魔力で光の刃を生み出し斬撃を飛ばす。斬閃は煙を超え、その先にいるヴァーリへと向かうが。

 

「ごはっ!」

 

身を挺して美猴がかばい、斬り刻まれる。倒れ行く仲間の姿に一瞬驚くも、ここまで仲間を倒された湧き上がる怒りがヴァーリのオーラをさらに激しくした。

 

「汝を無垢の極限へ誘おう――ッ!!」

 

〔Juggeranaut Drive!!〕

 

そして激情を込めた最後の一説を唱え終えると、鎧の宝玉がかつてない輝きを放って白光が空間いっぱいに爆ぜる。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

光の中で鎧がより生物的なフォルムに変化し、その図体も大きくなる。光が晴れてヴァーリが変化したのは猛々しい白いドラゴン。覇龍形態の絶対的なオ―ラとプレッシャーを受け、ドレイクとポラリスは表情を硬くする。

 

『これが白龍皇の覇龍…すさまじいオーラじゃな』

 

術者が倒されたことで煙が晴れ、視界が開けたヘルブロスたちが次に見たのは覇龍を発動させたヴァーリの姿だった。怒りに震えながらもその目には理性の光があった。情報通り、膨大な魔力を消費することで暴走せずに覇龍を使うことができるのかとヘルブロスは目を細める。

 

『…これをどうにかできるのか?暴れられたら船が吹き飛ぶと思うが』

 

『ああ、このまま暴れさせるわけにはいかぬ。下がれドレイク、ここからは妾がやろう』

 

敢然と一歩前へ踏み出すヘルブロス。奥の手を発動し、力の化身となった白龍皇ヴァーリへ彼女は立ち向かう。

 

『久方ぶりにあれを使う』

 




次のことを言うと大変申し訳ない、尺と展開の都合で覇龍VSポラリスはカットなんだ…。ポラリスの隠し玉のお披露目はまだ先です。

というわけで今年最後の更新でした。来年の今頃はどこまで進んでいるだろうか…。
それはさておき、今年も読んでくださった方々、今年から読んでくださった方々。本当にありがとうございました。よいお年を!


次回、「仮面の行方」

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