戦いたくないところとかナヨナヨした所とか。
ちなみに作者の好きなビルドのハザードフォームは海賊レッシャーハザードです。海賊という要素に黒という色がベストマッチです。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は……
S.スペクター
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
「はじめまして、アーシア・アルジェントといいます」
んんー?
翌日の朝、俺はまたも奇妙な出来事に遭った。
昨日死んでた人が次の日になったら生き返っている。
前回は兵藤がその人だった訳だが。
それに加えて今度は流暢に日本語を話した。
最初に会ったときは全然喋れなかったのに今はまるで今までずっと話してきたかのように喋っている。
必死に日本語を勉強したのか?だがそれにしては流暢すぎる。
授業の始まる前、転校生が来たと先生が告げて、その人は入ってきた。
以前とは違い、駒王学園の制服に身を包むシスターさんもとい、アーシア・アルジェントさん。ブロンドの長髪とどこか幼さも残る綺麗な顔立ちにクラスの男子たちはメロメロだ。
「なんだあの子!?」
「すげぇかわいい…」
「アルジェントさん綺麗……」
男子生徒だけでなく女子もメロメロのようだ。
「おい兵藤、これはどういうことだ?」
後ろの席にいる兵藤に小声で尋ねた。
「それも含めて部長が説明するってさ」
向こうも小声で返す。
「アルジェントさんの席は……兵藤の隣だ」
先生が兵藤の隣の席を指さし、アルジェントさんが席に着く。
「よっ、アーシア!」
「イッセーさん!よろしくです!」
兵藤とアルジェントさんのやり取りを見て、クラスの皆がざわつき始める。
「あいつアルジェントさんと知り合いなのか!?」
「リアス先輩に続いてなんであいつばかり…!」
「おいお前ら、静かにしろ!授業を始めるぞ!」
先生が騒ぐ生徒たちを黙らせ、授業が始まる。
本当にこの世界は人がよく生き返るな。ザオリクを使える奴でもいるのか?
あれこれ考えるのはさておき、授業に集中することにしよう。
勉学は学生の本分だからな。そう自分に暗示をかけるように言い聞かせる。
だが何だろう。
昨日から続くこのどうしようもない虚無感は…
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「…に、…のくに、紀伊国!」
「……ん、ああお前か」
全ての授業が終わった放課後、俺は兵藤に揺らされ思案の海から浮上する。
思案というよりはただボーッとしていただけだが。
昨日からずっとそうだ。
ドーナシークとの戦いから、悪夢を見なくなったと思えば今度はレイナーレを倒したあとボーッとすることが多くなった。
おまけになんだかやる気も沸かない。おかげで授業の内容もろくに頭の中に入っていない。
「放課後部長の所に行くって約束、忘れたのか?」
「…ああ、そうだな」
席から立ち上がり、荷物を鞄に詰めて手に下げる。
「んじゃ、行くか」
兵藤と並んで歩き出す。
説明するのは面倒だが、それをせずにさらなる厄介事になるのはもっと面倒だ。
そこはしっかり説明して、今後トラブルにならないようにしなければならない。
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「ここか」
兵藤の案内を受けて俺はオカルト研究部の部室の扉の前に着いた。
ツタが所々に伸びている旧校舎の少しぼろい外観に反して中は綺麗に掃除されていた。
若干の薄暗さは否めなかったが。
途中で進入禁止のラベルが貼られた扉も道中で見かけた。
興味が沸いて兵藤に聞いてみたが普段旧校舎を使っているあいつですらわからないらしい。恐ろしいものが封印されていそうだ。
「部長、連れてきました」
扉を開けながら兵藤が言った。
「ご苦労、イッセー」
古めかしい本を閉じ、紅髪を揺らしながらグレモリー先輩が椅子から立ち上がる。
同時に中でくつろいでいた部員たちも立ち上がり、視線が一斉にこちらに注がれる。その中にはアルジェントさんもいた。
そして兵藤もその中に並ぶ。
「紀伊国悠君、ようこそオカルト研究部へ」
グレモリー先輩の言葉と共に部員たちの背から黒い翼が生える。
堕天使のカラスのような翼と違い、コウモリのような翼。
「悪魔……」
「あら、驚かないということは私たちが悪魔だということを知っていたのかしら?」
「…それについても後で説明します」
「そう、取り合えずソファに腰を掛けるといいわ」
言葉に甘えてソファにゆっくりと腰を掛ける。
姫島先輩が紅茶の入ったティーカップをテーブルに並べる。
「あ、ありがとうございます」
姫島先輩は時々校内で見かけたときのにこやかな笑みで返した。
向かいにグレモリー先輩が腰を下ろす。
「さて、まず事の発端は約2週間前に遡るわ」
「2週間?」
この堕天使の一件ってそんなに前から始まっていたのか?
「ええ、私が縄張りにしているこの駒王町で大きな力の波動を感知したの」
「力の波動?」
「突然かつ大きすぎて発信源がどこかはわからなかったけど確かに感じたわ、天使の光に似た、悪魔に仇なす力をね」
大きな力の波動……。
もしかするとあの女神が俺をこの世界に転生させたときのことかもしれない。だが悪魔に仇なすというのはどういうことだろう?
「そして数日後、それは再び感知された、今度は発信源をバッチリ捉えたわ、町中の廃工場よ」
廃工場。
俺が初めて戦った場所だ。
「確かに、俺はそこで初めて変身して堕天使と戦いました」
「やはりそうだったのね」
「…?やはり、とは?」
まるで最初から検討がついていたかのような物言いに首を傾げた。
「あなたの神器の紋章と廃工場で発見された足跡が一致したの」
「…そうか!」
確かに足の裏にも紋章は描かれている。まさかそこからバレるとは…
「2週間前の波動もあなたの物なのかしら?」
「いえ、それに関してはわかりません…」
流石に転生に関することは伏せておくべきだろう。
一応死んだことは黙っててくれと頼まれてこの世界に来たのだから。約束は守る。
「そう、話を進めるわ」
先輩は紅茶をすすり、話を続ける。
「1週間後、イッセーがレイナーレに目を付けられ殺されたわ」
ふと兵藤に目線をやると兵藤が苦い顔をしている。
「そしてその現場にあなたは居合わせた、これは偶然かしら?」
「…いえ、偶然じゃありません」
「!?」
思わぬ返答に先輩が驚いている。
「家のテーブルにメモがあったんです、『兵藤が堕天使に狙われている、急いで公園に
行け』と」
「メモ……堕天使がわざわざ手を回したのかしら…それとも別の何者かが…」
腕を組み顎に手を当てながらあれこれ思案し始めた。これは本当に俺もわからない。あの女神がここまで手を回すとは思えないが…
「そのメモはまだ残ってるかしら?」
「すみません、その後急いで家を出て帰ったらその時には無くなってました」
「…本当なのね?」
「はい、本当です」
真っ直ぐな目で告げる。
何も間違ったことは言ってない。メモを処分してはない。家に帰ったら無くなってたのでごみ箱を漁ったりもしたがそんなものはなかったかのように出ることはなかった。
「それから2日後、俺は再び堕天使と戦いました」
「堕天使と?どうして?」
「その時俺は決めてたんです、俺の友達を殺した堕天使に復讐してやるって」
思えば俺が戦おうと思ったのは復讐が理由だった。それが終わった今はもう…
「紀伊国、お前そんなにレイナーレを憎んでたのか……」
「復讐、ね……」
何やら木場君が小さい声で呟いている。まさか木場君も復讐したい相手がいるのか?
「なあ木場君」
「っ!?なんだい?」
いきなり声をかけられ思案の海から引っ張りあげられてビックリしているようだ。
「復讐ってさ、終わるまでは相手のことが憎くて憎くてたまらないんだ、でも終わった後になると一気に冷めて、満足感の欠片も得られない」
「……」
「まあ何があったのかは知らないけどそれだけはみんなも覚えていてほしい、経験者は語るってやつだ」
木場君だけでなく部員全員が俺の言葉に頷く。
もう、こんな思いをするのはこれで最後にしたいし別の誰かに味わって欲しくもない。
「…すみません、話が脱線しました」
「いえ、いいわ。私もさっきの話は肝に銘じておくわ」
今度は俺が紅茶をすする。話が進むなかで丁度いい熱さになっていた。
「えっと、そして昨日、俺の相棒が相手の拠点の情報を掴んだんです」
「相棒?」
「あ、しまった」
相棒といっても流石にわからないか。早速相棒を呼び出し皆に見せる。テーブルの上でとぐろを巻く。
「コブラケータイ、俺の相棒です」
「シャアッ!」
お前いつもその鳴き声だけどそのうち赤くなって三倍のスピードで動いたりしないよね?
「使い魔みたいなものかしら?」
「まあそんな感じです」
「…触ってもいいですか?」
アルジェントさんに相棒を託す。
…すごい。もう相棒が気を許してる。アルジェントさんに撫でられる相棒。見てるとすごく気が和む。
「あの、すみません!相棒がここの様子を覗いてたらしくて…」
「っ!?そうだったの?全然気付かなかったわ…」
「でも覗いてたのは昨日だけです。そこで俺は教会のことと悪魔だということを知ったんです」
「…わかったわ。今後は二度としちゃだめよ?下手したら警察沙汰よ」
「はい……」
二度と人のプライベートな空間は覗かない。そう心の中で固く誓った。
「後は教会の裏口から奇襲をかけようとしたらレイナーレがいたので殴り飛ばした、その後は皆が見た通りです」
「これがこの一件の全てね」
「はい」
漸く説明が一段落ついた。
「そういえば兵藤とアルジェントさんはどうやって生き返ったんですか?」
これを聞くのを忘れていた。一番聞きたかったことだ。
「二人は私が悪魔として転生させたの」
「転生?人が悪魔に?」
「ええ、そういうアイテムが悪魔にはあるの」
人が悪魔に……。俺とは似ているようで違うのか。
「あと神器ってなんです?なんで兵藤がそんなすごいものを持ってるんですか?」
聞きたかったことその2。堕天使達がその所有者を狩り、アルジェントさんに求めたもの。
「…神器とは聖書の神、キリスト教の神と言えばいいかしら、それが人間に与えた物よ。それを持ってる人間は世界中にたくさんいるわ」
「せ、世界中にたくさん!?」
神器ってそんなにたくさんあるのか……。
「能力や力はピンキリだけど、有名なスポーツ選手、歴史上の偉人も持っているとされるわ」
「歴史上の偉人……」
英雄眼魂に選ばれた偉人達もこの世界では神器を持っていたのだろうか。一応、ゴーストドライバーも聖書の神ではないけど女神から貰ったものだから神器にカテゴライズするべきか。
「最後にあなたの神器について聞かせてくれるかしら?」
「…わかりました」
俺はソファから立ち上がり、腰にドライバーを出現させる。右手には眼魂を握る。
「これはゴーストドライバーと言って、この眼魂というアイテムに秘められた力を使うことができるんです」
興味深そうにみんなの視線が俺の腰に集中する。やましい意味はない。決して。
「変わった神器だね」
「初めて見るタイプの神器ですわ」
「…眼魂、なるほど続けて頂戴」
頷き、今度は変身プロセスを見せる。
「まず眼魂をカバーを開いたらドライバーに入れる、そして閉じる」
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
音声がなると同時にパーカーゴーストが飛び出し、部室内の空間を漂い踊る。流石にこれには驚いたらしく…
「ベルトが喋った!?」
「イッセー先輩の赤龍帝の籠手みたいです…」
「パーカーの幽霊?」
「歌って踊る神器なんて楽しそうですね!」
アルジェントさんは楽しそうに目を輝かせる。なんというか、アルジェントさんはピュアの塊のような人だ。
今度はドライバーのレバーを引く。
「変身」
〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キゴースト!〕
霊力でできたスーツが展開し踊るパーカーゴーストを纏い変身が完了する。
「す、すげぇ!!かっけぇ!!」
「お、兵藤お前わかるかこの良さが!」
「ああ!昔見てたヒーローみたいだ!」
えらく兵藤が食いついてくる。やっぱり誉められるとうれしい。
「パーカーを着るなんて随分とお洒落ですわねぇ」
「やはり近接戦に長けた神器でしょうか」
姫島先輩は俺本体よりパーカーに注目し、塔城さんはお菓子を頬張りながら感想をつぶやく。
「後は、入れる眼魂で姿や能力が変わるくらいです」
眼魂を抜き、変身を解除して再びソファに腰掛ける。
「…なるほど、気に入ったわ」
グレモリー先輩は顎に手を当て、間を置くと思いもよらぬ事を言った。
「ねぇあなた、私の眷族にならない?」
「えっ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
俺よりも先に驚愕の叫びを上げたのは兵藤だった。
「ってなんでお前が驚くんだよ」
「いや、え、えぇ!?部長!?」
驚く兵藤の姿にグレモリー先輩は手を口に当てながら苦笑する。
「ふふっ、いいじゃない。神器も強そうだし私は賑やかな方が好きだわ」
先輩は俺に向き直り言う。
「悪魔になれば色んな特典があるわ、言語、寿命、魔力、その他諸々ね」
「…言語?言語ってどういうことですか?それにどうやって人間から悪魔に?」
寿命と魔力はなんとなくわかるが言語というのはイマイチわからない。
「そうね、悪魔になれば音声言語は全てあなたが一番慣れ親しんだ言語として認識でき、あなたの発する言葉は世界中の人全てに通じると言えばわかるかしら」
「わかりました」
「ってわかったのかよ!」
これで兵藤が急に英語の授業で英文をスラスラ読めるようになったのも、アルジェントさんが日本語を喋れるようになったのも納得がいく。後は肝心の……
「あと、悪魔への転生にはこのアイテムを使うわ」
先輩はソファから立ち上がると、俺が部室に入ってきたときに座っていた椅子のある机の引き出しを開けて何かを取りだす。
それは赤く輝くチェスの駒だった。
俺にはただの赤いチェスの駒にしか見えないが。
「それは…」
「悪魔の駒《イーヴィル・ピース》、私達悪魔はこれを使って人間を悪魔に転生させるの」
チェスの駒か。そう言えば相棒が中継した映像のなかで兵士がどうたらと言っていたな。
「これを使えば例え人間じゃない別の種族だろうと、死者だろうと悪魔として転生させられるわ」
「死んだ人でも…」
兵藤やアルジェントさんが生き返ったのもそれか。
「ちなみにそれは何の駒ですか?」
「『戦車』の駒ね。特性は攻撃力と防御力の強化」
先輩は駒を机上に置き、再び引き出しを開ける。
「なんなら、これを付けてもいいわ」
そう言って引き出しから取りだし、机上に置いた物は……
「っ!これって……!!」
「そう、あなたがさっき言っていた眼魂よ」
先輩は机上に4つの眼魂を並べる。間違いない、全て英雄眼魂だ。
「これをどこで?」
「2つは波動の調査中に拾ったもの、もう2つは昨日教会から回収したわ」
教会から?レイナーレ達も集めていたのか。どうやら英雄眼魂はドラゴンボールみたくこの町に散らばっているようだ。
「どうかしら?これだけの特典、あなたの得になるようなモノしかないと思うのだけれど」
「……」
眼魂、悪魔としての長寿、言語能力、魔力どれもが魅力的だ。
これが悪魔の囁きというやつか。
でも俺は……
それでも俺は……
「…誘ってくれるのはありがたいんですけど、遠慮しときます」
俺はその誘いを断った。
先輩は断られると思っていなかったらしく驚いている。
「一応、理由を聞いておこうかしら?」
「…もう嫌なんですよ」
立ち上がり、一呼吸置きながらうつむき気味に答える。
「誰かを傷つけ、傷つけられるのはもう嫌なんです。俺はもう誰かが死ぬのを見たくない」
「紀伊国、お前…」
天井を仰ぎ、今にも消えそうな弱々しい声で続ける。
「結局、戦いなんて虚しさ以外の、悲しさ以外の何者でもないんです」
「私が持ってる眼魂はどうするつもり?」
「…兵藤がいるなら大丈夫でしょう。悪評は色々ありますけどいいやつですから」
先輩達を背に一歩歩き出したとき、兵藤に呼び止められる。
「おい紀伊国!お前は本当にそれでいいのか!?」
「……」
振り返らず、扉まで歩き出す。
「すみません、もう俺を巻き込まないでください」
「待って、あなた…」
返答を待たずに退室する。
これでいいんだ。堕天使はもうこの町にはいない。俺はようやく戦いから解放された。
切に願っていた平和な日常を享受できる。一体何を悩み、後悔することがあるだろうか。
なのに…
「…っ……」
なのになんで俺は今泣いているんだろう?
一体何が俺を泣かせるのだろう。
解放されて幸せな日常に戻れるのにちっとも嬉しくない。むしろ後悔や恐怖さえ感じている。さらには虚しささえ。どうして嬉しくないんだ。考えても答えは出ず、それどころか涙はより流れていくばかりだ。
わからない。もう、自分で自分の気持ちがわからない。
ありとあらゆる感情を混ぜた闇鍋のようにごった返した感情。
鉛のようなやるせなさを胸に抱えながら、すっかり日も暮れて夜の闇に支配された旧校舎の中を歩き、後にした。
悠は心に重いものを抱えてしまいました。これから色んな人と出会いそれを軽くしていきます。
次章は作者がやりたかったことその1、ゴーストチェンジ祭りです。
次章予告
「おーおー、ひどい顔をしておるのう」
「頼む!俺たちに、オカ研に力を貸してくれ!」
「あなたが勝利のカギよ」
「ライザー・フェニックス、お前の不死を攻略する!」
戦士胎動編 第2章 戦闘校舎のフェニックス