ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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前にも書いたかもしれませんがもう一度書いておきます。

英雄集結編は9巻から12巻の4章に加えて完全オリジナルの一章の5章構成になります。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第129話 「聖地アグレアス」

いよいよサイラオーグ・バアル率いるバアル眷属との試合を明日に控えた前夜の我が家。その緊張を示すがごとく、俺の部屋のベッドの上、隣で横になっているゼノヴィアはいつにもまして静かな表情で天井を眺めていた。

 

「いよいよ明日か」

 

「そうだね」

 

「やっぱり、緊張するか?」

 

「もちろんだよ。ルールによっては私があのサイラオーグと戦うことになるかもしれないからね」

 

レーティングゲームには様々な種類のルールが存在する。それぞれのルールごとにチームが用いる戦略は大きく変わり、ゲームが始まるまで原則としてそのルールは公開されない。今回大勢の観衆が集まるということでそれに向いたルールになるのではとファンや俺たちの間で予想は立てられている。

 

「お前がサイラオーグと…戦って勝つ自信は?」

 

「戦う前から負けることなんて考えない。当然、誰が相手でもデュランダルで斬り伏せるつもりさ」

 

「…愚問だったな」

 

彼女は不安など微塵もないと言わんばかりに微笑んだ。

 

相も変わらずの自信だ。流石のサイラオーグでも悪魔なので聖剣のトップクラスのデュランダルの力は通用するだろう。特に今はエクスカリバーと合わさりエクスデュランダルとして進化を遂げている。これで通用しないと考える方が難しい。

 

「…なあ、ゼノヴィアは今の部長のことをどう思う?」

 

ふと俺が切り出したのは今日一日の中で最も大きな出来事。兵藤と部長さんの喧嘩だ。

 

恋愛経験で兵藤のようにトラウマがあるわけではないが、ゼノヴィアを心のどこかで遠ざけてきてしまった俺にはレイナーレの一件で傷を負った兵藤の気持ちは理解できないわけではない。

 

自分の思いをぶつけたい気持ちと拒絶されるかもしれない恐怖の狭間で揺れ動くのは非常に心を消耗するものだ。それと同時に実はこちらに好意を抱いているが、こちらの思いを打ち明けてもらえない側にも大いに不安を抱かせる結果となってしまう。

 

そう考えた時、部長さんと同じく遠ざけられてしまった側のゼノヴィアが今の関係に至るまでの出来事を踏まえて、恋愛感情が深く絡んだこの一件にどう思ったから知りたかった。

 

その問いに、彼女は目を細めて語る。

 

「前の自分を思い出したよ。好きな人に振り向いてもらえるのに必死なのに、どんなにアピールしても届かないんだ。一緒にいるのが愛おしいのに、つらく感じてしまう。痛いほど今の部長の気持ちがわかる」

 

実感の強くこもった語り口調にこちらも聞いていて申し訳ない気持ちになってくる。一体どれだけ、彼女はあの夜の告白を待ち焦がれていただろうか。重ねた夜だけ、その時を待つ彼女の思いは強くなっていっただろう。

 

「そうか…本当は向こうの思いに気づいているという点だと、俺と兵藤は一緒だな。でも何かしらの問題を抱えているせいでそれに応えてやれない」

 

「ふ、私たちとあの二人は似た者同士なんだね」

 

「かもな」

 

兵藤と部長さん、俺とゼノヴィア。このペアが似ているなんてこと、今日になるまで考えもしなかった。

オカ研の主役はあの二人だとばかり思っていたからまさかその主役と似ているなどと微塵も思わなかった。

 

「…今まで本当に悪かった」

 

彼女の気持ちを聞きどれだけ待ち焦がれていたかを知った今、ぽつりと謝罪の言葉を呟く。

 

「君にも君なりの事情があったんだ。それを知った今は全部許しているよ」

 

だが彼女は気にしていないと笑って許してくれた。知らない間に彼女の気持ちを傷つけてしまっていただろう俺を受け入れてくれるなんて、何と彼女は器の大きいことだろうか。

 

「…ありがとう。それなら、部長さんもきっと同じように兵藤を許してくれるさ。何せあの人は皆をまとめるグレモリー眷属の『王』なんだからな。それに、雨降って地固まるって言葉もある。喧嘩が収まったら、今度こそ二人はくっつくんじゃないか?」

 

「オカ研二組目のカップルの誕生か、楽しみだ」

 

ベッドの上で俺たち二人はくすくすと楽し気に笑い合う。女子受けが一番よさそうな木場が兵藤に先を越されそうになるなんてな。

 

「ま、今回の一件であいつも部長さんと向き合う覚悟ができたんじゃないか?この試合や学園祭は、正直二人の関係に一つの区切りをつける絶好のチャンスだと思う」

 

「ふふ、試合に勝った後ならとてもロマンティックな告白になるだろうね」

 

「確かに。あの二人、同じ『赤』だしとてもお似合いだと思うのにな」

 

「それを言うなら、私たちだって同じ『青』だ」

 

「…言われてみればそうだな」

 

「今気づいたのか?私の髪やデュランダルの刃、君の変身した姿やバイクも全部青じゃないか」

 

「…なら、俺たちはくっつくべくしてくっついたのか?」

 

「かもしれないね。これも主の導きだとしたら、随分とロマンある導きだと思うよ」

 

俺と彼女の目と目が合う。向日葵色の瞳をした彼女は微笑みをたたえている。

 

今こうして、平穏に彼女と同じ時間を過ごしているだけでとても幸せだ。心安らぎ、心は愛に満たされる。この幸せがずっと続いたらいいのに。

 

「…明日に備えて今日は早く寝るよ」

 

「そうだな、しっかり睡眠をとって試合に備えよう」

 

夜更かしは厳禁だ。睡眠不足が試合に影響したなんてことはあってはならない。

 

「そうだ、寝る前に…」

 

おもむろに彼女が上体を起こすと、俺に覆いかぶさるように突然唇を重ねてきた。

 

不意を突かれたので少々驚いたが、こちらも向こうからのキスに応じて、向こうから伸ばしてきた舌にこちらも絡め合わせる。

 

「ん…」

 

熱く、濃く、深く、切望のままに何度も繰り返してから「ぷは」と唇を離した。

 

「試合前に部長たちの目の前でするわけにはいかないからね。特に今はまだ…引っ張っているだろうし」

 

彼女は口の周りに付いた月光に光る唾液を手で拭うと、再び俺の隣で横たわった。

 

「今日はここまでにするよ、これ以上は止まれなくなる」

 

「それを言われたら俺だって…」

 

いきなりこんなに熱いキスをされたら男子は悶々とするわ。

 

「明日の夜までお預けだね。じゃあ、おやすみ」

 

ふふと悪戯気味に笑うと、今度こそ彼女は横になって寝息を立て始めたのだった。

 

こんなお預けをするなんてなんて悪魔的な所業だよ。まあ彼女は悪魔だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「まさか、本当に島が浮いているとはね」

 

ゼノヴィアがゴンドラの窓から地上を見下ろす。

 

ゴンドラが進む先に見えるのはアガレス領上空に存在する空中都市、アグレアスである。浮遊する巨大な島から流れ落ちたいくつもの滝は、地上に湖を形成する。巨大な島を浮かす動力は旧魔王時代に作られたものらしく、詳細は魔王アジュカのベルゼブブ眷属が調査中とのことだ。

 

このアグレアスへの移動手段として魔方陣でのジャンプ、飛行船、そして今俺たちが乗っているゴンドラと3つの手段が存在するが、このゴンドラが選ばれた理由は俺たちがこぞってゴンドラに乗りたいと希望したからである。

 

「すげぇー…」

 

「高すぎて生きた心地がしないです…」

 

眺望に感嘆の声を漏らす者、高所への恐怖に肝を冷やす者など反応は様々だ。ちなみに俺は肝を冷やす側だ。空中戦となれば高所への恐怖を感じる暇がないが、非戦闘時だとそれを感じる心の余裕ができてしまうので

 

「実は今回のゲーム会場をどうするかで揉めたらしくてな」

 

それらの恐怖から逸らすためか、アザゼル先生がおもむろに話を始める。

 

「え、そうなんですか?」

 

「ああ。現魔王の上役はグレモリー領か魔王領での開催を望んだんだが、一方のバアル家を筆頭にする大王派がバアル領での開催をと訴えたのさ。半分泥仕合だったそうだ」

 

悪魔界の政治事情が一番めんどくさそうだ。まあ、よその神話も神話でロキのような過激派はいたりするだろうが。

 

「そこを取り持ったのが大公アガレス家だ。こういう大王派と現魔王派の間に入るのは珍しい話じゃない。悪魔界の中間管理職なんて呼ばれてるそうだぜ」

 

「褒めてるのかけなしているのか…」

 

「どっちにしろあの次期当主の人は苦労してそうだ…」

 

確かアガレスは元七十二柱の二位の家だったな。七十二柱において順位による強さや財力の差はあまりないと聞いているが、二位のアガレスと一位のバアルは特別だそうだ。特別にしては何とも言えない二つ名をつけられたみたいだが。

 

そういえばアガレスの次期当主の人も部長さんと同世代の有望な若手悪魔と聞いた。近々グレモリーがバアルと試合するようにシトリーとアガレスも試合するのだと。こちらもレーティングゲームのファンにとっては注目の一戦になるのではなかろうか。

 

「血筋や階級を重んじる貴族の悪魔たちが集まる大王派にとって、世襲制じゃない現魔王派はあまり面白くないのさ。同じく貴族重視の旧魔王派とはまた違った派閥だがな」

 

「じゃあ、旧魔王派が過激派なら大王派は穏健派ってことですか?」

 

「まあそういう見方もあるが…もちろん、旧魔王派の中にも穏健派がいて今の政治に携わっている悪魔もいる。ややこしい話だから、詳しく知りたかったら後で教えてやるよ」

 

旧魔王派も全部が全部シャルバやカテレアのような悪魔じゃないということは分かった。冥界も一枚岩じゃないということだ。

 

「ということは、今回の試合は大王と魔王の代理戦争というわけですか」

 

これまでの話を纏めるように、木場が核心をつく一言を呟く。

 

「まあそういうことになる。若手ナンバーワンだのおっぱいドラゴンと民衆を沸かせる煽り文句を使っているが、そういう見方をしている者も少なくない。別にお前らが負けたってサーゼクスたちが迷惑を被るわけじゃないさ。バアル家やサイラオーグに付いた政治家たちは喜ぶだろうがな」

 

「…努力でのし上がって来たサイラオーグさんを利用する連中ですか」

 

ぼそりと呟いた兵藤の言葉には若干の怒りが含まれているように感じた。

 

あの人と直接拳をぶつけあったからこそ、努力の末に磨き上げられた力を身を持って体感したからこそあいつは彼を利用しようとする小賢しい連中に怒りを感じているのだ。

 

「でも、家の特色を得られなかったサイラオーグさんは血筋を重視する大王派にとっていい存在じゃないのでは?それに、あの人は能力さえあればどんな生まれでも悪魔社会を目指しているのに家の方はそれを容認しているんでしょうか?」

 

「してないだろうな。表向きは認めてはいるが、裏ではこき下ろしているに違いないだろう。あいつらは現魔王派に一矢報いるための道具が欲しいだけさ。民衆受けのいい理想を掲げるサイラオーグは奴らにとって、それを支持する自分たちを支持してもらうための都合のいい政治の道具に過ぎない。あいつもそれはわかってる。嫌な相手でも、上り詰めるためには政治家とのパイプが必要だからな。我慢強い男だよ、あいつは」

 

我慢強い男、か。その我慢強さもバアルの魔力なし、体一つでここまでのし上がるために死に物狂いで己の体を苛め抜いてきた修行の成果の一つと言っても過言ではないだろう。例え自分と相反する意見を掲げる相手だとしても、苦虫を嚙み潰す思いで繋がり、あの人はこの試合に臨んでいる。

 

ここまでの覚悟を決め、壮絶な道を歩いてきた相手に果たして兵藤達は通用するのか。今までの戦いを間近で見てきた俺でも、心配になってしまう。

 

…だが、俺の心配はそれだけではない。

 

「ところで先生。この試合が英雄派やアルル達に狙われることは?」

 

これまで若手悪魔のパーティーではアルギスの、アスタロト戦では旧魔王派とアルルの襲撃を受けてきた。大きなイベントの旅に横やりを入れられるものだからつい今回もそうなるのではないかと疑ってしまう。もちろん、この試合が何事もなく盛り上がり、平穏に終わるのが一番なのだが。

 

「もちろん考慮しているさ、会場の警備は最大レベルで行う。奴らにとっては大衆の目に付くし、各神話に攻撃を仕掛けるこれ以上ないテロの機会だからな。ま、杞憂に終わりそうだが」

 

「どういうことです?」

 

「実は、ヴァーリから個人的な連絡が来てな」

 

「ヴァーリから!?」

 

奴の名が話に出た瞬間、ざわつく。予想もしない所から登場してきたな、あの男。

 

「ああ、要約するとこうだ。『バアルとグレモリーの試合は俺も注目している。誰にも邪魔はさせない』とな」

 

「…お前、男からも好かれてるのか」

 

「やめてくれよ!気持ち悪い!」

 

兵藤は心底嫌そうに顔を渋くしてぶんぶんと手を振った。女だけじゃなく男にもモテるなんて、人気者は辛いな。

 

「曹操もアルルも、流石に会場に集まった各神話のVIPに加えて白龍皇チームを相手にしてまでこの試合を潰しにかかりたいとは思わないだろう。どう考えたって背負うリスクがでかすぎる。それにそもそも奴らが狙ってないという可能性だってある。当然、隙をつかれないように各地の拠点は警戒を怠らないさ」

 

それもそうだ、ここまで戦力が集まれば奴らも容易に手出しはできまい。たまには、ゆっくり何事もなくイベントを楽しませてくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゴンドラから降りると大勢の記者やカメラのフラッシュライトの歓待を受けた。それだけではなく、試合前の兵藤達を一目見ようと大勢のファンも待ち構えており、俺たちが出た瞬間に歓声が沸き起こったものだ。

 

こんなに大勢の記者に囲まれる経験はなかったのでひどく戸惑ったが、スタッフやボディーガードの方々が誘導して専用のリムジンに乗り込んだ。マスコミの車に追跡されながらもそのまま巨大なアグレアス・ドームなるアーティストのライブ会場などに使われる施設に隣接した高級ホテルに移動した。

 

ホテルの内装も、関係者が利用するというだけあってかなり豪華絢爛な作りになっている。シャンデリアはもちろん、有名画家が描いていそうな絵画まで壁に掛けられている。

 

「私がいるのが場違いな気がしてきたべ…」

 

ロスヴァイセ先生に至ってはその豪奢な雰囲気に圧倒されたか田舎訛りが出てき始めている。北欧神話の世界は悪魔の世界とは違ってもうちょっと落ち着いた場所が多いのだろうか。

 

「み、皆さんは大丈夫なんだべか…?」

 

「まあ、こういうところは慣れてきたので」

 

「グレモリーのお城ほどではないですね」

 

部長さんの実家であるグレモリー城に若手悪魔のパーティと、前世ではまず無縁だった煌びやかな場所に何度も訪れる機会があったので流石に慣れてはきた。それでもこのような場所に来るたびにすごいという感情は否応にも抱く。

 

「はぁ…リアスさんとこはリッチだぁ…」

 

そこはリッチじゃなくエッチって言って…いや、何でもないです。

 

ホテルのフロアを歩いていると、やがて向こうから漆黒のローブを纏った骸骨の集団が現れた。その中心となる一際豪華な司祭のようなローブに身を包んだ骸骨からは、変身していないのでオーラを感じ取れない俺ですら寒気がするような気配を感じる。

 

『おお、これはこれは…紅髪のグレモリーではないか。そして、堕天使の総督殿』

 

そして俺たちと集団の距離が近づくと、一際目を引くローブの骸骨が話しかけてきた。向こうの骸骨の口は全く動いていないのに、不思議と声が聞こえた。

 

「オリュンポスの冥府に住まう死を司る神、ハーデス神じゃないですか。死神《グリムリッパー》たちを引き連れて上に上がってこようとは…堕天使と悪魔を嫌うあなたが、この場に何用で?」

 

やはりギリシャ神話のハーデス神。夏の合宿での勉強会で特にヤバい奴だと先生から教わった神だ。そんな神がどうしてここにいるのか。

 

『最近上が何かと騒がしいものだから、視察がてら足を運んだまでよ。随分にぎやかな催し物が開かれているようだな』

 

「観戦するだけなら歓迎なんだが…ところで、ギリシャ神話の中であんただけが勢力間の協定に否定的だそうじゃねえか」

 

『ファファファ…だとしたら、私もロキのように潰すか?』

 

「潰さねえよ、ただ寛容になれって話だよ。オーディンやゼウスみたいにな」

 

険悪な雰囲気を隠そうともしないハーデスとアザゼル先生。交錯する二人の視線がぶつかり合い、静かながらもバチバチと火花が散っているようにも見えた。

 

『…他勢力の存在など、我らにとっては害にしかならぬ。貴様らは何も覚えてはないようだがな』

 

「?」

 

随分と意味深な言葉を敵意交じりにつぶやくハーデス神。どうにもロキと同じようによそ者嫌いらしい。

 

だが俺たちが覚えていないというセリフ。俺たちが何かを忘れている?それも永い時を生きる神が記憶に強くとどめるような出来事を。

 

(…まさか)

 

もしやと思い、意を決してハーデスに質問を投げかける。

 

「それは…神竜戦争のことですか?」

 

『ほう、知っておるのか。和平を推進する愚かな人間よ』

 

見上げる俺と見下ろすハーデス。死を司る神の視線が俺に向けられたとき、心臓を直に掴まれたかのようなドキリとしたものが全身を駆け巡り、冷や汗が出る。死を司る神によくないように思われているとはなんと不吉なことだろう。

 

すっと先生が俺を守るように前に出た。

 

「俺たち古くから存在する各勢力のVIPは神域を隔てる次元の壁のせいで記憶を封じられている中で、何柱かの特に強大な神は記憶を失っていないそうだな。あんたがそうなのか?」

 

『なるほど、あの戦争を思い出したというわけではないようだな。誰か知っている者から聞いた、と。シヴァ神からか?』

 

「まさか、それこそあいつは自分から動くような神じゃないだろ…いや、ということはシヴァ神も記憶をなくしてないってことなのか」

 

確か、レジスタンスの会議の中でもシヴァ神の話が出ていたな。ポラリスさんたちの推測はどうやら当たっていたみたいだ。こんな形で知ることになるとは思わなかったが。

 

『…ふん、まあよい。ディンギルは我らの神話を信仰する人間や死神たちをあの毒々しい神の気で蝕み、取り込んでいった。特にあのエレシュキガルという神は断じて許せぬ。我らが導いた死者たちや部下たちを誑かしたおかげで随分と冥府が寂しくなったものよ』

 

これまで敵意交じりだったハーデス神の語りが、怒りの感情を帯び始める。静かで掴みどころのない語り口調からの明らかな変化がかつて受けた屈辱の程を窺えた。

 

『…つい感情的になって喋りすぎたな。これ以上貴様らに話すことはない』

 

「もっと喋ってくれりゃこっちも助かるんだが」

 

『ふん…赤い龍、貴様もかつては地獄の底で白い龍と派手に喧嘩してくれたな。思い返せば懐かしい限りだ…』

 

「知っているのか?」

 

『昔、ちょっとな』

 

と、ドライグが皆に聞こえるような声を発する。ハーデス神の治める冥府で二天龍が喧嘩していたとかシャレにならない規模の被害が出ていることは間違いないだろうし、絶対ハーデス神の怒りを買っているでしょ。

 

『ともかく、今宵は貴様らの戦いを楽しみにさせてもらおうか。せいぜい死なぬよう、気を付けるのだな』

 

最後に嫌味たらしくそれだけ言い残すと、ハーデス神は死神たちを引き連れて音もなく静かに去っていった。

 

やがてその姿が見えなくなると会話中にずっと感じていたあの心臓を鷲摑みされるような悪寒が消え、自然にほっとした安堵の息をついた。

 

「先輩ヴァルキリーからハーデス神の話は聞いていましたが…今までの中で一番生きた心地がしない嫌な感じがしました」

 

「あの神、すげぇ嫌なオーラだった…プレッシャーだってロキよりもすげえ」

 

どうやらみんなも俺と同じことを考えていたようだ。死を司る神の自然と発せられるオーラとプレッシャーに皆圧倒されていた。

 

「そりゃ、あいつは全勢力の中でもトップレベルの実力者だからな」

 

「先生よりも強いんですか…?」

 

「そうだ。あいつはもちろん、その部下の死神も不気味で強者ぞろいだ。絶対に敵対するなよ」

 

先生は神妙な表情で念押しするが、言われずとも誰が好き好んで全勢力でもトップクラスの相手を敵に回そうだなどと考えるか。ヴァーリならそうするだろうが、俺は絶対にごめんだ。

 

「あのハーデス神、神竜戦争の情報を持っておきながら俺たちに提供しなかったんですね」

 

「それも含めて、あいつは俺たちを嫌っているってことさ」

 

「悪い神様なんですかね」

 

「悪い神ってわけじゃねえ。ただ、堕天使や悪魔を嫌っているってだけさ。死というマイナスなイメージがつきがちなもんを司ってるから悪いように思ってしまいがちだが人間には普通に接するからな。嫌な奴だが、冥府には必要な神だ」

 

なるほど…今は毛嫌いしているが、いつかはあの神も俺たちのことを認めてくれたらいいのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから廊下を歩くこと1分後、再び俺たちは大物と出会うことになる。

 

「やあ君たち、久しぶりだな」

 

先の冷や汗が落ちるような嫌な雰囲気のハーデス神とは打って変わって、見るだけでその輝かしさに浄化されるような美男子がこちらに笑いかけてくる。その頭部には天使特有の光輪が輝く。

 

「ウリエル様!」

 

天界を治める四大セラフの一人、ウリエルさんだ。初対面の時にたこ焼きを振舞ってもらったことで親近感もあり、以前よりは兵藤達の緊張の色は薄らいだが同じ天界所属の紫藤さんだけはまだかしこまった様子だ。

 

「ウリエルじゃねえか、珍しいな。忙しいだろうにお前も観に来たのか?」

 

先生も意外そうな表情を見せることから、普段どれだけウリエルさんが働きづめでこういう場に姿を見せないのかがわかる。

 

「当然だろう。この日のためにどうにかスケジュールを調整してきたのだ」

 

「…あの、ウリエル様!前に頂いたたこ焼き、おいしかったです!」

 

アーシアさんが勇気を振り絞り、キリスト教徒としては話しかけるのも恐れ多いだろうウリエルさんに声をかけた。

 

ロキ戦後に振舞われたウリエルさんお手製のたこ焼き。俺が食べたのは目覚めて冷めてしまった後だったが、熱々の状態で食べた部長さんたちは絶賛していたという。

 

ウリエルさんも直接手料理の感想を伝えられてうれしかったらしく。

 

「おお、そうか!生憎今日は用意していないが、今後駒王町に行く予定がある御使いの天使に君たち全員分を持たせよう」

 

「ほんとですか!?あ、ありがとうございます!」

 

「あらあら、またウリエル様のたこ焼きを食べられる機会ができるなんて嬉しいですわね」

 

「私も楽しみです」

 

「ふふっ、どうやら大量に作った方がよさそうだな」

 

「…ウリエルの奴、俺以上にこいつらの心と胃袋を掴んでないか?」

 

たこ焼きで盛り上がる俺たちの後ろで、先生は若干寂しそうにつぶやいたのだった。

 

「そうだ、先の京都での英雄派との戦いはご苦労だったな。君たちの健闘を心から祈っているよ。もう時間がなくてね、失礼する」

 

ウリエルさんは相も変わらず忙しいのか、手短にそう告げると廊下の向こうへと歩き去っていった。

 

「試合前にウリエル様から激励の言葉をもらえるなんて…」

 

「私も力が漲って来たぞ」

 

「よかったわね、アーシア、ゼノヴィア!」

 

特に教会組は天使の頂に立つセラフから激励してもらえたのが嬉しかったらしく、熱い信仰心を乗せて祈りを捧げた。

 

…おそらく、ここでウリエルさんが出てきたのは恐らくポラリスさんの差し金だ。ここでウリエルさんに動いてもらったのは何が何でも、英雄派やアルルの襲撃を阻止するという意図だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウリエルさんとの話が終わり、またホテル内を進むと今度は二人の老人を見かけた。

 

方や輝かしい王冠を戴冠した白いトーガを纏う老人。そしてもう一人は鍛え抜かれたまるで彫刻のようにたくましい上半身を露わにしている、髭を蓄えた老人がこちらの姿を認めるや豪快な笑い声を響かせながらこっちに向かってくる。

 

「デハハハハハ!来たぞ、アザゼル!!」

 

「久しぶりじゃのう!アザゼルめ!!」

 

そしてまるで旧友に会ったかのような気安さで二人の老人はアザゼル先生の肩にがしっと回す。先生はその勢いに押されながらも、やや呆れ気味に笑うのだった。

 

「ゼウスのオヤジにポセイドンのオヤジじゃねえか。ったく、相変わらずだな。ハーデスもこれくらい明るい神だったらよかったのに」

 

「ゼウスにポセイドンって…ギリシャ神話の…!」

 

そう、この老人たちこそかのギリシャ神話の頂に立つオリュンポス十二神の中で神々を統べる先のハーデス神を含めた最高三神の二柱。大海を治めるポセイドン神と、天空を統べる神々の王、ゼウス神だ。数多く存在する神話の中でもずば抜けた知名度を誇るその二柱が今豪快に堕天使の総督に絡んでいる。

 

神々の王と言われるだけあってもっと威厳ある厳かなイメージを想像していたんだが…想像の斜め上を行く性格だった。

 

「なんじゃ、ハーデスに会ったのか?」

 

「ついさっきな。あの陰湿加減も相変わらずだよ」

 

「あやつも悪い奴じゃないんじゃがな…儂らも協定に納得するよう説得してはいるが、聞かん坊でのう。悪いな、儂らの兄が迷惑をかける」

 

先生の肩から腕を話した二柱は先ほどの豪快さとは打って変わり、申し訳ないと神妙な表情を見せた。普段からあのひねくれた性格には苦労しているようだ。

 

あのハーデス神はゼウス神とポセイドン神の兄である。兄弟というには兄は骸骨でまるで似つかわしくない容姿と性格だが。

 

「気にすんな、嫌な神だがあいつもあいつなりの考えがあるってのはわかってる」

 

「…世間話はさておき、アザ坊。嫁は取らんのか!?いつまでも独り身は寂しかろう!」

 

「いい女を紹介してやらんでもないぞ!!海の女はべっぴんさんだらけじゃからのう!!ガッハハハハハ!!」

 

「余計なお世話だよまったく…」

 

ゼウス神とポセイドン神は知名度も抜群だが、女性関係のトラブルが多いことでも有名だ。女遊びしている先生とは一番馬が合う神々なのかもしれない。

 

そして三人は他愛もない世間話や女遊びの話をすると、二柱は満足したとばかりに後にするのだった。

話し終わった先生に、女性陣からえもいわれぬ視線が集中していたのは内緒だ。

 

どうにも俺たちは人気者らしい。二柱は去った後に続けて小さなドラゴンがこちらのもとにやってきた。深い赤紫色の鱗と頭部に二本の角を生やしたそのフォルムはサイズ感に違いはあれど間違いようもなく。

 

「元気そうだな、兵藤一誠」

 

「タンニーンのおっさん!来てくれたのか!」

 

「お前たちの成長を見届けられるのだ。観に来ないはずがないだろう。それに、試合前のお前たちに会いたかったのだ」

 

自分を磨き上げてくれた龍の師の登場に兵藤は心の底から嬉しそうだ。元龍王のタンニーンさんも弟子との再会にはにかむ。

 

寝太郎で気だるげなミドガルズオルム、口汚く軽い玉龍よりよほど龍王らしい風格と気性溢れるドラゴンだ。

 

タンニーンさんはこれから激闘を控えた部長さんたちグレモリー眷属を見渡すと、うむと頷いた。

 

「若手最強と目される悪魔が相手だが、お前たちが劣るとは思っていない。全力でぶつかっていけ」

 

タンニーンさんは心奮わせるアドバイスを送る。いい感じの雰囲気で話を締めようとしたその時。

 

「あっ、オーディンさま!!」

 

「げっ」

 

以前任務で俺たち全員で護衛した北欧のオーディン様が廊下の隅にいたのをロスヴァイセ先生が発見し、声を上げた。気づかれるや否や気まずそうな顔をしてオーディン様はこそこそと逃げ出す。

 

「逃げるなクソじじぃ!!待てぇぇぇぇ!!そこにいるヴァルキリーは何なのよぉォォォォ!!!」

 

そして全速力でそれを追いかけ始めるロスヴァイセ先生。もう誰が何を言っても聞かない勢いだった。試合前にあんなに体力を使っていいのか。

 

「…ハァ、止めてこないとね」

 

その後、5分かけて俺たちは怒れるロスヴァイセ先生を止めるのだった。勝手に置いてけぼりにされたロスヴァイセ先生の恨みはすさまじかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すれ違ったVIPたちとの歓談も終わり、いよいよ別れの時が訪れる。

 

「さて、俺と深海達ゲームに参戦しない組はここでお別れだ。リアスたちは試合開始まで控室で待機しててくれ。時間になれば係の者が来るから、それまでウォーミングアップをしっかり済ませておけよ」

 

ここからはゲーム参加者のみが立ち入りを許可された場所になる。よって、ここで試合前最後のお見送りというわけだ。

 

ちなみに俺たちは俺たちでちゃんとホテルの部屋が用意されている。今から会場の入場受付が始まるまでは部屋で適当に時間を潰し、試合の後はそこでお泊りするというのが今日の予定になっている。

 

「それじゃあみんな、頑張ってね!勝ったら祝杯を挙げるわよ!お酒じゃないけど」

 

「観客席から応援しておりますわ。挫けそうになった時は私たちのことを思い出してください」

 

「ここでしっかり白星つけて最高の状態で学園祭もやろうぜ」

 

最後に紫藤さん、レイヴェルさん、そして俺で明るく部長さんたちを見送る。

 

これから先は俺たちはただ、皆の戦いを見守り応援することだけしかできない。感じているだろう緊張を少しでもほぐしてやろうという配慮も込めて、笑って送り出してやろう。

 

「…勝てよ、ゼノヴィア」

 

「前のシトリー戦はイマイチ活躍できなかったから、ここで取り返して見せるさ」

 

今回俺は試合に出られないので彼女を支えることはできない。俺ができるのは向こうで戦う彼女の勝利と無事を願うことだけだ。

 

そしてもう一人、兵藤に言いたいことがある。

 

「兵藤、この試合で覚悟を決めろよ」

 

「もちろんそのつもりだ」

 

試合に臨む覚悟と、部長さんへの思いを伝える覚悟。その二つ両方の意味が伝わったかはわからないが兵藤はうんと力強くうなずいた。

 

「それじゃ、行くぞ。リアス、後は頼んだぞ」

 

「ええ。さあ行きましょう」

 

先の廊下へ進む彼らの姿を見届けると、俺たちも試合の開始を待つべく各々の部屋へと向かうのだった。

 




主人公があまり介入できるパートがないので随所でオリジナルを混ぜてます。

次回、「熱戦の幕開け」
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