現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
冥界の薄暗い空がさらに暗くなって夜になり、いよいよ試合開始が間近になる。
会場の観客席は満席で、どこを見ても試合を楽しみしているファンの姿で溢れかえっている。彼らの熱が伝播し、よりこれから始まる試合への期待を高まらせる。
そんな中、幸運にも俺と紫藤さん、そしてレイヴェルさんは互いに近くの席のチケットが取れ、身内同士で固まることとなった。
「さあ皆、おっぱいドラゴンと仲間たちを応援するわよ!」
席を立ちあがった紫藤さんが周りの席にいる子供たちに呼びかけると、子供たちは「おー!」と元気のいい声を上げた。その親御さんたちも微笑ましく彼らを見守る。
おっぱいドラゴン応援団なるものが即席で出来上がったのだ。本来は悪魔と敵対する天使である紫藤さんが率先して悪魔の子供たちとコミュニケーションを取り、心を通わせるその様に過去の争いの時代を生きてきた悪魔や天使たちは何を思うだろうか。
「天使のお姉さんだ!」
「紫藤さんはコミュ力お化けだな」
「ほら、しんか…じゃなくて、紀伊国くんも!」
「え…よっし、皆、おっぱいドラゴンのグッズは持ったか!?」
一歩引いて和やかな気持ちで紫藤さんを見守っていたのでいきなりバトンを渡されて困惑するが、任せられたからにはやってみせようと子供たちを盛り上げようとどうにかテンションを上げて立ちあがり、声を張り上げてみる。
「ソフビを持ってきたよ!」
「俺はおっぱいドラゴンポテチ!」
「カードも!」
子供たちはこぞって持参してきたおっぱいドラゴン関連のグッズを掲げる。彼らにとってのヒーローのグッズを手にした笑顔いっぱいの表情が眩しい。というかここまでおっぱいドラゴンは商品展開していたんだな。版権元のグレモリー家は商魂たくましいな。
「よぉーし、んじゃレイヴェルさん、頼んだ」
「わ、わたくしですの!?」
お膳立てはしたぞ、あとはガツンと盛り上がる一言を言ってやれ。トリを飾るんだ、フェニックスだけに。
「ぐるぐるお姉さん!」
「ぐるぐ…!?」
子供は正直だなぁ。一応フェニックス家のお嬢様だけど。
客席で紫藤さんたちや周りの子ども、そしてその親御さんと歓談しているとついにその時がやってくる。
『さあ、いよいよ始まります世紀の一戦!!まずは東口ゲートより、サイラオーグ・バアルチームの入場です!!』
ゲームの開始時間になると、俺たちが待ちに待ったアナウンスが始まる。向こう側からサイラオーグが眷属悪魔を率いて堂々と現れる。威風堂々たる彼らの登場とその歩みに会場は大盛り上がりだ。
「来たか」
「イッセー様たちが彼らをどう乗り越えるのか…この目で見届けさせてもらいますわ」
前にサーゼクス様の前で戦った時と違い、兵藤にはトリアイナがある。サイラオーグも枷をしていたとはいえ、ある程度は渡り合えるはず。一番いいのはトリアイナが単純に全力のサイラオーグを上回ってくれることだが…果たしてうまく行くか。
それに当然だが、例の『兵士』もいる。ファンの注目はデータがほとんどない彼に集まっているだろう。一体どんな戦いを見せてくれるのか、楽しみだ。
『続いて、西口ゲートよりリアス・グレモリーチームの入場です!!』
そしてこちら側のゲートからは、我らが部長さんたちが進み出る。もちろん、おっぱいドラゴンの活躍と共に知れ渡っている彼らの登場によって会場は歓声に沸き立つ。
「みんな、応援するわよー!」
「おっぱいドラゴン、がんばれー!」
「ヘルキャットちゃーん!!」
「まけるなー!」
紫藤さんのリードのもと、子どもたちが精いっぱいに待ちに待ったおっぱいドラゴンとゆかいな仲間たちに観客の大歓声交じりに声援を飛ばす。するとこちらの声に気付いた兵藤たちが振り向くと、笑顔で手を振った。
「応援してますわよー!」
「ゼノヴィア…頑張れよ」
待ちに待った仲間の晴れ舞台をこの目でしかと見届けようじゃないか。
入場した両チームは螺旋階段を上ると、人数分の椅子と一台のテーブル、魔方陣と謎の台が備えられた岩上の陣地へと進む。あの魔方陣から戦闘用のフィールドに移動するのだろう。
そして会場に備え付けのモニターに、派手な紫色の衣装を着こなす、薄紫の髪と髭を蓄えた男が映る。
『ごきげんよう皆様!今夜の実況は私、ナウド・ガミジンがお送りします!』
実況のナウドは陽気に自己紹介をこなす。ガミジン家は元七十二柱の一家だったはずだが…名家にしては貴族らしくない派手な男だ。
『さらに、今回の審判役はレーティングゲームの現役トップランカー!なんと7位のリュディガー・ローゼンクロイツが担当します!』
実況の紹介により銀髪で目つきの鋭い、魔法使いじみたローブを纏う男が魔方陣から現れると、主に女性客の大きな黄色い歓声を浴びながらも観客に向かって恭しく会釈する。
「あの方、元人間の転生悪魔ですわ」
「人間で7位…すげえ」
レーティングゲームの公式ランキング上位はベリアルやエキストラデーモンなど名家の出身で固まっていると聞いているが、そんな中でここまで上り詰めるとは相当な逸材に違いない。
きっと、同じく元人間の転生悪魔である兵藤の目標の一つになるのだろう。
『そして今回の試合はなんと、特別ゲストを二名お呼びしております!まずは解説として堕天使総督、アザゼル様にお越しいただいております!どうも初めまして、アザゼル総督!』
『いやどうも、初めまして。アザゼルです。今夜はよろしくお願いします』
「いやそこにいるんかい!」
「特別な仕事ってこれのことだったのね!」
7位の登場で凄いと思っていた矢先にモニターいっぱいに見慣れた顔が唐突に現れたので、突っ込まざるを得なかった。今夜は特別な仕事が入っているとは聞いていたがまさかの解説側に回ってるとは…。
『そしてもう一方は…なんと、レーティングゲームランキング第一位!現王者!ディハウザー・ベリアルさんにもお越しいただいておりますッ!!』
『ごきげんよう、皆様。今日はこの一戦を解説することになりました。どうぞ、よろしくお願いします』
スクリーンに灰色の髪をした男…皇帝ベリアルが映り込むとそれだけで会場そのものが震えるような大きな歓声が上がり、凄まじい盛り上がりを見せた。下手すれば二チームの入場に勝るとも劣らないほどだ。この熱狂っぷりが悪魔界における彼の人気のほどを肌身を通じて知らしめてくる。
「あれが皇帝ベリアル…」
「いずれはイッセー様たちとぶつかる巨大な壁ですわ」
スクリーン越しにもスターのオーラをひしひしと感じる。静かながらも周囲の注目を自然と集めてしまう存在感のあるオーラだ。リュディガーといい、皇帝ベリアルといい公式戦の有名人も集まっており会場の熱はますますヒートアップしている。
続いてモニターに映し出されたのは見慣れた二つの小瓶。これまで何度もお世話になったフェニックスの涙だ。
『そして、レーティングゲームにおいて必需品となっております、フェニックスの涙ですが昨今のテロにより需要と価格が跳ね上がっておりますがなんと、涙を製造販売されているフェニックス家のご厚意と試合を待ち望む皆様の熱い声が届き、今回の試合では各チーム一つずつ用意されることとなりました!!』
「これって…サイラオーグも一度は復活できるってことなのよね?」
「そうなりますわね…彼を二度倒すつもりでいかないといけませんわ」
会場に歓声が響く中、俺たちはサイラオーグ側も涙を使えるという事実への心配に襲われた。トリアイナがどこまで通用するかわからない中、こちらも涙を使えるかつアーシアさんがいるとはいえこれは厳しい。果たして彼をどう攻略するか、チームの頭脳たる『王』の部長さんの腕の見せ所だな。
『ではこれより、本試合に適用される特殊ルールについて説明いたします』
そうだ、このゲームの肝となるルール。それ次第で大きくチームの立ち回りは変わってくる。俺としてはフィールドを駆け回って戦うルールしか知らないのだが。
『今回はフィールドを駆け回る形式ではなく、試合形式で行われます。観客の皆様を盛り上げるため、短期決戦を意識したルールとなっております!では、両陣営の『王』は専用の設置台へ進みください!』
実況に勧められ、サイラオーグと部長さんは陣地に設置された台の前に進み出た。さっきから気になっていたがアレにどんな意味が…?
『設置台には六面ダイスが一つ用意されております。今回のルールは、レーティングゲームの公式戦でもメジャーなルールの一つ、『ダイスフィギュア』でございます!!』
「そう来ましたか…」
「ダイスってことは…サイコロね!」
冥界生まれ冥界育ちのレイヴェルさんは知っているようだ。今までのゲームはこれといったルールがない中での戦いだったのでこういう公式ルール付のゲームは初めて見る。
『初めてという方のためにご説明しましょう!今回のゲームでは、選手の方々にそれぞれの悪魔の駒に応じた価値が設定されます!これは元となるチェスと同じ数値ですね、『騎士』と『僧侶』は3、『戦車』は5、『女王』は9、『兵士』は転生の際に使用した駒の数がそのまま価値数となります!『王』については後程説明します!』
「うっ、チェス…」
「どうしたんですの?」
「今まで一度もオカ研の誰にもチェスで勝ったことがない…」
「えー…」
レイヴェルさんに軽くひかれた。俺だって負けたくて負けてるわけじゃないんだよ!!
『駒の価値数ですが、眷属悪魔によっては基準となる価値以上の力を発揮して価値を超越したり、魔王アジュカ・ベルゼブブ様の仕掛けによる変異の駒などのかくし要素もあり、公式戦ではそれらの要素を考慮して価値数が変化する場合もございますが、この試合では通常の価値数で行います!』
今回はレーティングゲームのファンのみならず、普段ゲームを見ないであろうおっぱいドラゴンのファンも見ているからあまりルールを難しくしないという運営側の配慮だな。試合のみならず、ダイスを振るときもどんな目が出るかで盛り上がりそうだ。
『『王』はダイスを振り、その出目の合計以内の数値分、選手を出すことができます!例えば、出目が8出た場合には価値3の僧侶か騎士、そして価値5の戦車を出すことができます。勿論、僧侶と騎士2名の計6と、合計数が8を下回っても大丈夫です!ただし、最低数の2が出た場合は出せる選手がいないので降り直しになります!』
「面白いルールだな。わかりやすいし」
「そういうルールほどメジャーで人気になりやすいのでしょう。ちなみに公式戦にはワンデイ・ロング・ウォーという丸一日かかるルールもありますのよ?」
「丸一日は流石にもたないわねー…」
公式戦にはそんなに恐ろしいルールがあるのか…。参加者はもちろんだが、観戦する側のスタミナも削られそうなルールだ。
『そして肝心の『王』ですが、事前に審査委員会の皆様の評価をもとに価値数が決定されます!もちろん、『王』がリタイヤすればゲームは終了となります!』
「実力、眷属の評価、対戦相手との比較などで審査されるそうですわ」
と、レイヴェルさんが補足説明してくれた。
「対戦相手との比較ってことは…どの試合でも同じ価値数にはならないのか」
「そういうことですわ」
対戦相手との力量差が開きすぎるなんてことはあまりないと思うが
『王』をいつ出すかという戦術もゲームごとに考えなければならないようだ。
『では今回の『王』の価値数を発表させていただきます。サイラオーグ・バアル選手が12!リアス・グレモリー選手は8となります!サイラオーグ選手は最大数の12が出ない限りは出場できません!最後にもう一つ、同じ選手は続けて出すことができませんのでご注意ください!』
「サイラオーグが12!?」
出目の最大数で評価されるとは…それだけ恐ろしい相手ということなのか。
「リアスさんは8なのね…ということは、『騎士』か『僧侶』と組み合わせて出せるってことね!」
「低評価が悪いことばかりではないってことですわね」
なるほど、『王』が倒されれば終わるゲームだが今回はその『王』である部長さんをフォローできるってことだな。一方のサイラオーグは最大数出たとしても自分一人だけしか出られない。これはかなりのハンデなのでは?
『ルール説明は以上となります!バアルチーム、グレモリーチーム、準備はよろしいでしょうか!?』
実況は一拍置いて、ファンが待ちわびた言葉を高らかに宣言した。
『これより、サイラオーグ・バアルチームとリアス・グレモリーチームによりレーティングゲームを開始します!ゲーム・スタート!!』
開始の宣言により、会場の盛り上がりは更なる熱を帯びていく。熱戦の火蓋は切って落とされた。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
まず第一戦はダイスの合計は3となり、両者ともにコスト3の『騎士』を出すこととなった。
初陣を飾るのは我らが『騎士』、木場とサイラオーグの『騎士』、ベルーガ・フールカス。奇しくも『騎士』対決となったこの試合は剣技はもちろんのこと、スピードの対決がメインとなった。
『雷の聖魔剣ッ!』
『貴様の聖魔剣なぞ、当たらなければどうということはない!』
ベルーガの磨き上げられた足の速さは無数の分身を生み出すほどで、ベルーガの愛馬であるアルトブラウとのコンビネーションも合わさり、分身たちが猛スピードで繰り出す息つく間もない攻撃にじりじりと木場は追い詰められていったが、なんとこの窮地に木場は二つ目の禁手を発動させた。
『馬鹿な…もう一つの禁手だと!?』
木場が聖魔剣を聖剣に切り替え、地面に突き立てると無数の聖剣が出現しその中から聖剣と同じ輝きを放つ鎧の騎士たちが出現する。もちろん、その中身はない。
『聖覇の龍騎士団《グローリィ・ドラグ・トルーパー》』。『聖剣創造《ブレード・ブラックスミス》』の亜種禁手である。
本来、神器とは後天的に移植しない限りは一人一つしか所有していない。今まで木場の神器は『魔剣創造《ソード・バース》』とその禁手『双覇の聖魔剣《ソード・オブ・ビトレイヤー》』だったが、聖魔剣に目覚めた際にかつての同胞たちの魂から聖剣使いの因子を受け継いだことで聖剣を作り出す神器、英雄派のジャンヌも持っている『聖剣創造《ブレード・ブラックスミス》』を異例にも発現した。
これも聖書の神が死亡したことによるイレギュラー、そして二天龍に関わった者が異質な力に目覚める例の一つだとアザゼル先生は考えているようだ。プライムスペクターは謎のドラゴンが託した力だからカウントされないだろうが、俺も今後そういった力に目覚めることが…?
『見事…!』
龍騎士団を使っている間は聖魔剣を使うことはできない。しかし、木場の龍騎士団の数とその瞬足はベルーガに勝り、ついには龍騎士団は幻影を打ち破りベルーガ本人を斬り伏せた。第一試合は木場、グレモリーの勝利である。
続く第二試合、ダイスの目は10と大きく出た。グレモリー側はコスト5の『戦車』、塔城さんとロスヴァイセ先生の2名を、バアル側は同じくコスト5の『戦車』ガンドラ・バラムとコスト3の『騎士』、リーバン・クロセル。
木場に続いて、試合開始直後に塔城さんは新技を披露する。全身に白い闘気を纏い、猫耳と二つに分かれた尻尾を生やす猫又の姿に変化する。その名も『猫又モードレベル2』。仙術もパワーも、以前よりも大幅に上昇する新しい力だ。
『行きます』
『硬い…!』
塔城さんとロスヴァイセ先生は各々が得意とする仙術を込めた拳打、さらに魔法攻撃でガンドラに挑むが高い防御力を崩すには至らない。
『隙ありだ』
その最中、ガンドラに意識を取られたロスヴァイセ先生はもう一人の悪魔、リーバンの『魔眼の生む枷《グラビティ・ジェイル》』により、重力をかけられ動きを止められてしまう。さらに人間の魔法使いと悪魔のハーフである彼は魔法剣士でもあり、さらに氷結魔法でロスヴァイセ先生の動きを封じ込めようとする。
『身内に同じ視界を媒介する神器使いがいるので、弱点もよく理解しています!』
『そう来ると思った!』
しかしあらかじめ情報の出ていた神器の対策をしていないはずがなく、ロスヴァイセ先生は魔法の閃光で能力の肝となる視界を封じようとするが、リーバンもまた鏡を使って閃光を利用し逆に目くらましをくらわそうとする。
『それも読めています!』
だがそれすら見越したロスヴァイセ先生は魔法の力で自分とガンドラの位置を入れ替え、逆にガンドラを重力の枷にかけてしまう。魔法使い同士の読み合い勝負に観客たちは大いに盛り上がったものだった。
『体内のオーラを乱しに乱して、魔法に対する防御力を下げています』
『いっけぇぇぇぇぇぇ!!』
動きの止まったガンドラは最初の交戦で塔城さんに仙術を打ち込まれており、そこにロスヴァイセ先生お得意の全属性魔法のフルバーストが炸裂する。凄まじい轟音を立て、フィールドごと消し飛ぶのではないかというド派手な勢いのある攻撃は、おっぱいドラゴンを応援する子供たちにウケたらしく「すげぇ!」
と喜ぶ声が沸き起こった。
魔法が止み、巻き起こった粉塵が晴れると、そこに倒れていたのはなんとリーバン一人だけだった。
『油断すんなって…言っただろ』
『ぬぅぅぅん!!』
魔法を受けて倒れ伏したリーバンは最後の力を振り絞って神器の能力で塔城さんの動きを封じ込め、そこに同じく大ダメージを負い血まみれのガンドラの猛烈な拳が突き刺さるように塔城さんに打ち込まれてしまう。
『ごめんなさい、小猫さん…』
『私…お役に立てたんですから…満足です』
小柄な体はいともたやすく吹き飛び、塔城さん、リーバン、ガンドラの三人はほぼ同時にリタイアした。
グレモリーチームは勝利を収めたが、早くも塔城さんという大きな戦力を失うのだった。
そして第三試合、ダイスの出目は8。サイラオーグはコスト3の『僧侶』、コリアナ・アンドレアルフスを出した。さらになんと、兵藤一誠を封じる策があると大胆にも宣言した。これに応じる形でグレモリーチームはコスト8の『兵士』、兵藤が出ることとなる。
見渡す限り広がる花園のフィールドで二人は戦う。敵の魔力攻撃を躱す兵藤はカウントが終わり禁手の鎧を纏うと、相手が女性ということもあって得意の乳技を使おうとした矢先。
『これはなんということだ!突如始まった脱衣に男性客の視線も釘付けだァー!!』
なんとコリアナは攻撃をやめ、自らの服に手をかけると、一枚一枚脱ぎ去っていった。観客の誰もが予想しない行動に、スタジアム内に衝撃が走った。会場にいるアザゼル先生も含めた男性たちは突如始まった妖艶なストリップショーに釘付けになった。
「ねえ、あのおねえさんなんでふくをぬいでるの?」
「俺にそんな質問しないで…」
俺たち三人は大いに子供の対応に困った。この試合、子供たちが見てることを忘れたのか!?
『俺には脱衣中のお姉さんを攻撃するなんてこと、できません!!一気にドレスブレイクで脱がすなんて…そんなひどいことも俺には無理です!!』
エロにこだわる兵藤は当然、攻撃できない。得意のパイリンガルで行動を読もうにも、次に脱ぐ箇所がわかるだけらしく全く手が出せなくなってしまった。いよいよブラジャーとパンツだけが残り、実況がそろそろ特殊加工を施して放送するとアナウンスしたその時だった。
『ブラジャー外してからパンツでしょ!!』
どうやら順番が気に入らなかったらしく、先にパンツの方に手をかけたのを見て一気に冷めてしまった兵藤がドラゴンショットを放ち無防備も無防備なコリアナに直撃し、あっという間に勝利を決めたのだった。
「おっぱいドラゴンの勝利よ!」
「やったー!!」
「これは酷過ぎますわ」
「あいつらしいというか…」
喜ぶ子供たちとそれを盛り上げる紫藤さんを尻目に俺とレイヴェルさんは何とも言えない結末に困惑するのだった。
第4試合、ダイスの目は続けて8が出た。グレモリーチームは『騎士』のゼノヴィアと『僧侶』のギャスパー君がバアルチームの『戦車』のラードラ・ブネに『僧侶』のミスティータ・サブノックと戦うことに。
『ウォォォォォォォ!!!』
試合開始早々、ラードラはブネ家特有のドラゴン化を発動させ、荒削りの岩が随所にそびえる荒れ地のフィールドで果敢に攻撃に出る。一族の中でも限られた者しか使えないという変化の能力、これまでは使えなかったがこの試合に向けて鍛錬を積むことで発現したという。
『聖剣よ!その力を閉じよっ!』
『なんだ…聖剣の力が…!?』
エクスデュランダルという悪魔に対して必殺の効果を持つ聖剣を携えたゼノヴィアが二人を圧倒するかと思いきや、ミスティータがこれまた試合に向けての鍛錬の中でようやく使えるようになったという神器、『異能の棺《トリック・バニッシュ》』で己の体力と精神力を引き換えにゼノヴィアの聖剣を扱える能力を封じてしまった。
『聖剣を封じた余波で己の聖剣のダメージを受けるかと思ったが…かなり聖剣使いの因子とやらが濃いようだ』
『すまない、ギャスパー。これでは…役立たずだ』
ゼノヴィアのデュランダルという強大な攻撃力を失った二人はたちまちにラードラが変化した巨大なドラゴンの猛攻に押されてしまう。しかし、ギャスパー君が自らを囮にして時間を稼ぐことで彼が作った魔方陣でゼノヴィアが受けた呪いの解呪に成功した。
『邪魔をするな!ええい、一刻も早くデュランダル使いを仕留めなければならんのだ!!』
『何が…起きてもっ…諦めないッ…!!!』
あの俺たちの中でも特に臆病だと認識されていたギャスパー君が体を張ってラードラの攻撃を受け、小さく華奢な体が握りつぶされようとする様は胸に来るものがあったが、同時に仲間のために身を呈してまで戦おうとする彼は精神的に大きく成長したのだということを感じた。
『お前たちはギャスパーに負けたんだッ――!!』
ギャスパー君の決死の時間稼ぎの甲斐あり、解呪したゼノヴィアは彼の思いにこたえるがごとく、エクスデュランダルを解放し一気に二人を蹴散らし勝利を収めたのだった。
第6試合の出目は9。ここは『兵士』を出したがらないサイラオーグの思惑に気付いた部長さんが『女王』朱乃さんを出し、サイラオーグも同じく『女王』のクイーシャ・アバドンを出したことで奇しくも第一試合の木場に次ぐ同じ駒同士の対決、『女王』対決となった。
『これならどうかしら!』
『させません』
試合はまさしく、圧倒的な魔力のぶつかり合いだった。巨大な氷塊や猛烈な豪炎、そして激雷が絶えず無数の巨大な石塔が林立するフィールド内で暴れまわる。
『雷光よ!』
『飲み込め、『穴《ホール》』!!』
いよいよ朱乃さんが雷光を放った時、クイーシャは自慢の『穴』を使う。すかさず朱乃さんは無数の雷光を見舞うが、クイーシャはさらに『穴』を増やしてすべての攻撃を飲み込んでしまう。これまでのデータでは『穴』は一度に一つしか使えないと思われていただけに朱乃さんは虚を突かれる。
『な…』
『『穴』に取り込んだ攻撃を分解することだってできます。雷光から雷を抜いて…光だけ、お返ししましょう』
そしてクイーシャは『穴』に飲み込んだ雷光から雷を抜き取り、光だけを返すといった芸当まで見せ、堕天使の血を引くとはいえ悪魔であることには変わりない朱乃さんは自身の光で大ダメージを負い、そのままリタイヤしてしまった。
第7試合、出目はなんと最大数の12。当然バアル側からは『王』のサイラオーグが満を持して出陣する。対するこちらは木場、ゼノヴィア、そしてロスヴァイセ先生が出陣することとなった。兵藤が出なかったのは三人をぶつけてバアル側のフェニックスの涙を使わせるという作戦があったからだろう。
『これは俺の力を抑え、負荷をかける枷だ。だが、これをつけたまま戦うのはお前たちへの侮辱になる…全力で、相手をしよう!』
試合開始直後、サイラオーグの四肢に浮かび上がった奇妙な文様が消えると、それだけで足元に抉り取ったようなクレーターができ、フィールドに広がる湖の水面が激しく荒立った。サイラオーグの体からは塔城さんの仙術とも魔力とも違う、強い生命力が可視化したまさしく彼の研鑽の象徴とも言うべき白い闘気が滲み出ていた。
『逃げ…』
『ッ!?』
ロスヴァイセ先生は早速魔法のフルバーストを仕掛けるが、サイラオーグはなんと拳打で魔法を一つ一つ殴り飛ばしながら前進し、強烈なパンチをロスヴァイセ先生に食らわせ、遥か彼方にたったの一撃で吹っ飛ばしてしまった。
あまりにもふざけたパワーに会場に集まった俺も含めた観客たちは唖然となった。グラシャラボラス戦では力をセーブしていたので、それを解いた今は以前の数倍はパワーもスピードも上がっている。
力を抑えているのは聞いていたが、まさか全力がこれほどとは思わなかった。スクリーンでそれを見たときは口が数秒驚愕のあまりポカーンと開きっぱなしになった。
『速い!』
『聖魔剣ごと…ッ!?』
『いい『騎士』だ。リアス、お前が妬ましくなるほどだよ。だが、唯一防御だけが弱点だったようだな』
ゼノヴィアと木場はすぐさまサイラオーグに応戦する。しかし彼の拳は木場の聖魔剣を難なく粉々に砕き、新技の龍騎士団すらもしなやかな体術が放つ剛腕の一撃のもとに屠っていく。木場の自慢の足も、サイラオーグは容易く追いつき一撃を与えてしまう。
『エクスデュランダルッ!!』
『いい波動だ。しかし、まだ足りないな』
ゼノヴィアが放ったエクスデュランダルの聖なる波動…たいていの悪魔なら一撃で消滅するレベルの聖なる力すらサイラオーグが纏う濃密な闘気を削り、本体にダメージを与えることはできなかった。そして二人は、反応を超えた速度で間合いに入ったサイラオーグの回し蹴りにより地に伏す。
まさしく化け物。誰もが思った。二人はこのままなすすべもなくやられてしまうのか。
それでも二人は立ち上がる。どんなに力量差があろうと、二人には意地がある。おめおめと負けを認めるような意地を彼らは持ち合わせてはいない。
『隙を見せましたね!至近距離のフルバーストなら!!』
その時、突然サイラオーグの目と鼻の先に現れたロスヴァイセ先生が一気に魔方陣を展開すると、ゼロ距離でフルバーストを叩きこんだ。これにはサイラオーグだけでなく会場の観客も大いに驚いた。何せ最初の一撃でアナウンスがないとはいえ、リタイヤの光に包まれたのが見えたからだ。
最初にサイラオーグが吹っ飛ばしたロスヴァイセ先生はエクスデュランダルの鞘になっている擬態の聖剣《エクスカリバー・ミミック》が擬態したものだった。本物は透明の聖剣《エクスカリバー・トランスペアレンシー》で透明化し、隙を窺っていた。
新技を用意したのは木場だけではない。エクスデュランダルが進化したのはそのパワーだけではなく、使い手であるゼノヴィアの同意があれば、聖剣使いの因子がなくても短時間6本のエクスカリバーの能力を行使できるのだ。まだ使えるようになったばかりで制限も多いが、いずれは英雄の力と組み合わせて使ってみたいもんだ。
『リタイヤするかしないかのギリギリの状態で湖の底で気絶しているかと思っていたが…やってくれるな』
それでもサイラオーグは倒れない。しかしさすがに至近距離だったのもあって幾分かダメージは入ったようで、体の随所に血がにじんでいた。
そしてお返しにと三人の戦いに敬意をこめて放った拳打を放つ。それはまさしくとてつもない一撃だった。拳打一つでまるでとんでもない轟音とともに映像が大きく乱れ、遥か前方まで地割れが起き、その一撃でロスヴァイセ先生はリタイヤしてしまう。
全く見えないスピード、そして災害のような破壊力。サイラオーグの攻撃の一つ一つが俺の肝を一気に冷やす。内心本当に戦わなくてよかったとほっとした。あんなものを喰らったら死ぬイメージしか見えない。
『やるぞ木場ァ!!』
『命を燃やす!!』
だがこのまま終わる二人ではない。同じ『騎士』として、呼吸のあったコンビネーションで一撃で儲けようものなら終わるサイラオーグの猛攻を紙一重でしのぎ、彼の右腕にデュランダルの刃を叩きつける。それでも切り落とせない腕だったが、二人で柄を握り魔力と聖剣使いの因子によってデュランダルの力を解放させ、ついに彼の右腕を切り落とした。
『見事だ。これで俺はフェニックスの涙を使うしかない、お前たちの思惑通りだ。せめて最後は、お前たちへ最大の敬意を込めて痛みを感じないようにすぐに終わらせよう』
果たして、グレモリーチームの思惑通りサイラオーグは切られた腕を再生させるためにフェニックスの涙を使うことになった。その後は格闘ゲームさながらの膝蹴り、回し蹴りのコンボをゼノヴィアに、木場は豪快に頭を掴んでは投げ飛ばし、かかと堕としで湖の底に叩きこむという回避不能の速度から繰り出す一方的なコンボで二人を締めた。
試合はサイラオーグの圧勝に終わった。だが、サイラオーグ側は貴重なフェニックスの涙を使い果たしてしまった。これはグレモリーチームにとって大きな一歩だ。
「…とんでもない試合だったわね」
「おねえさん、おっぱいドラゴン、かつかな?」
「大丈夫よ、皆のヒーローは負けないわ」
サイラオーグの戦いっぷりに不安な表情で紫藤さんに子供たちが話しかけ、紫藤さんは天使の優しさでそれをなだめる。
「それにしても、あのパワーとスピードは想像以上ですわね」
「ああ…不覚にもカッコイイと思ってしまったが、相当ヤバいぞ」
サイラオーグは三人を終始圧倒していたが、決して三人を侮る言動や戦いはしなかった。むしろ彼らの全力を受け止め、敬意をもった戦いをしていた。
これが大王バアル家を背負う男。兵藤がぶつかりたいと願い、悪魔の大衆から支持を集める理由がよく分かった。こんな熱く真っすぐな男に好意を抱かないはずがない。俺もいつか、あの人と会話してみたいな。
そしてなにより。
「…ゼノヴィア、よく頑張った」
木場とロスヴァイセ先生はもちろんだが、最後まで諦めずに戦い、次に繋げた彼女の雄姿に心動かされた俺の目にぽろっと涙がこぼれた。
部長さん、兵藤、アーシアさん。後は頼んだぞ。
第7試合が終わった後、一試合前から尿意を感じていた俺はトイレに駆け込んだ。応援していると自然と会場の熱に煽られて体が熱くなり、汗をかくので水分補給のペースが上がってしまう。
「早く戻らないと…」
グレモリー、そしてバアル共にかなりのメンバーがリタイヤしてしまった。互いの『王』と『兵士』、そしてアーシアさんと『女王』のクイーシャだけが残っており、先の試合でサイラオーグが出たことで試合はクライマックスを迎えた。
これ以上ちんたらしていられない。メンバーが減ったことで誰を出すか考える時間も自然と縮まるし、その分試合と試合の空き時間が短くなる。もう次の試合も始まっているかもしれない。
男子トイレから出た俺の前に、ざっと鎧姿の女が現れた。長く伸ばしたまるで若葉のような明るい緑色の髪が目を引くがその鎧はロスヴァイセ先生のヴァルキリーの鎧に酷似している。どこかの資料で見た整った顔が、キッと鋭い眼差しを俺に差してくる。
「見つけた…!」
こっちを見つめる女の瞳は憎悪にも近いレベルの敵意に満ちている。
どうにも俺に恨みがあるらしい、テロリストをつぶすという仕事柄、恨みを買われても仕方ないと思っているが。だがまさか各神話のVIPが集うこの会場を襲撃しようという愚か者はまずいないだろう。ヴァルキリーならオーディン様か他の北欧神話のVIPの付き添いか?
「誰だ…?」
「ロキ様を倒しておいてよくもまあ白々しいことを…!!」
俺の言葉は女の怒りの炎に巻きをくべたようで、ますます目つきを鋭くさせた。
誰だろう、本当にどこかで見たような覚えがあるんだが…。
「…ん、ロキ様?」
今は幽閉されているロキを様付けで呼ぶヴァルキリー…そうか!
ヴァルキリーの手のひらに出現した魔方陣が光を放ったのと、俺がこの女の正体を思い出したのはほぼ同時だった。
「しまっ…!」
身構えるも時すでに遅く、あっという間にまばゆい光に呑まれてしまう。
この女、ロキの行方不明になっていた側近ヴァルキリーのジークルーネだ。
視界が純白から夜の闇へと戻った時、周囲の景色は一変し鬱蒼と木々が生い茂る森に出ていた。
空を見上げれば、少しばかり離れたところに空中都市のアグレアスが浮遊している。どうやら俺は転移魔法で会場の外に飛ばされてしまったらしい。
「ここなら誰にも邪魔されない。得意の結界もしっかり張ってあるからな」
一変した景色の中でただ一人、変わらず存在しているジークルーネが鞘から剣をおもむろに抜刀する。刃かこすれる冷たい金属音が森に響く。
「お前…警護は万全のはずだ、どうやって侵入した!?」
「偉大なるユグドラシルの力を奪ったアルルの助けがあればいくらでも手の打ちようはある」
「アルル…」
因縁深いその名が俺の心に穏やかではない風を吹かせ、波を立たせる。このタイミングでその名前が出てくるなんて…あいつら、やはりこの試合を滅茶苦茶にするつもりか。
だが何よりこのヴァルキリーが奴とつるんでいるということはつまり…。
「お前、叶えし者だったのか!」
「叶えし者だと?違うな、私は操られてなどいない。私が忠誠をささげたのはロキ様だけだ。あくまでロキ様の助けになるべく彼女らに協力し、利用しているに過ぎない」
しかし俺の予想に反し、ジークルーネは心外だと不快感すらあると言わんばかりに眉をひそめるという反応を見せた。
「なんだと?…なら、ユグドラシルをロキに渡したのは」
「あの時は向こうから話を持ち掛けられた。ロキ様の助けになりたい一心だった私は喜んで話に乗ったが…まさか、このような結末になるとはね」
話ながら過去を振り返るジークルーネの表情に主を失った寂寥の色が差す。
そうか…あの時から、ロキは本人の気づかない所でアルルと関与していたんだな。道理でポラリスさんがイレギュラーだと呼んで参戦してきたわけだ。
「貴様らはロキ様の仇だ。貴様らのせいでロキ様は革命を達成できず、牢に幽閉されることとなってしまった。貴様と兵藤一誠の首をロキ様解放の橋頭堡にする!」
いよいよ敵意を剣の切っ先のように鋭くし、ジークルーネは剣を構える。ロキへの真っ直ぐな忠義が表れ、気高さすら感じる構えには一寸のつけ入る隙も油断もない。
復讐に燃えるヴァルキリーか。主を助けようとするその忠には敵ながら敬意を表するべきだろう。
だが、こちらにも譲れないものがある。何より冥界のみんなが今日の試合を楽しみにしてきたのだ。それをぶち壊し、彼らの希望を奪うような真似は断じて許すわけにはいかない。
「…お前に、あの二人の戦いを邪魔させない」
沸き立つ戦意を硬くすると眼魂を叩きこみ、ドライバーを操作する。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
「変身!」
〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕
変身を完了した俺は被ったパーカーを上げると、静かな夜の闇の中で全身に走る青いラインがほのかに発光する。
冥界の注目を浴びる試合の裏で、誰にも知られない戦いが始まる。
試合の様子はダイジェストにしました。コストとか言い方がバトスピっぽくなりましたが。
次回、「闇から出でし亡霊」