ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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ごめんなさい、前話の終わりに書いた今回のタイトルを間違えました…。

今後の予定は以下の通りです。
次話:ライオンハート編最終回
その次:ライオンハート編の外伝(信長が主役)
そのまた次:設定資料集4公開(ドレイク関連と新規英雄眼魂についてのみ更新)
更なる次:ライオンハート編の裏話を活動報告に投稿
そして最後に:ウロボロス編スタート

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
23.コロンブス



第134話「男たちの意地と拳と夢と」

『ハハハハハッ!!』

 

奇跡の復活を遂げた兵藤の、唐突な主への思いの告白にサイラオーグは豪快に笑った。

 

『そうか、今までお前から感じていたつっかえがようやく取れたようだ!いいだろう、ならば俺もお前を超えて、我が夢の糧にしよう!!』

 

対戦相手のパワーアップ、そして精神的な吹っ切れにむしろ大歓迎だとその戦意も高揚したようだ。

 

〈挿入歌:Alteration(仮面ライダーウィザード)〉

 

〔Star Sonic Booster!〕

 

背部のブースターから赤いオーラを吹かしてすさまじいスピードでサイラオーグ目掛けて突撃する。そのスピードたるや、余波だけで周囲が吹き飛びそうになるほどでトリアイナの『騎士』以上の速度を発揮していた。

 

『ッ!!』

 

サイラオーグも全身に白い闘気を纏わせて迎撃の態勢を取る。その構えは兵藤の全ての攻撃を受け止めようという気概が存在こそすれど、一寸の油断や隙はなかった。

 

〔Solid Impact Booster!〕

 

『ウォォォォォォォォッ!!』

 

両腕だけ増大したオーラを纏わせ、兵藤が繰り出したのは猛烈なパンチのラッシュ。一発一発が『戦車』以上の威力であろうパンチをただひたすらにサイラオーグに食らわせ、殴り続け、兵藤自身もサイラオーグの剛腕に何度も殴られ続けた。腕が、顔が、胸が、殴れるところならどこでもいいとばかりにがむしゃらに拳を放る壮絶な戦いが繰り広げられている。

 

『ぬぉぉぉぉぉぉ…ッ!!』

 

一発一発が爆音を鳴り響かせ、モニターの映像が揺れる。乱れる映像の中ではフィールドに穴がいくつもあけられていた。これまでの試合にはなかった激闘の余波による破壊が起こっている。

 

防御も忘れ、男たちはひたすらに一打に意地を込めて殴り合った。どんなに殴られようと鎧が砕けようとひるまず臆せず、殴り返し、殴り返される。これ以上にないほど原始的で、野性的で、単純で、豪快なファイトは観客を熱狂させ、歓声で沸かせた。

 

「あのスピード、トリアイナの『騎士』より速い!」

 

「パンチの威力も『戦車』以上ですわ!」

 

『戦車』、『騎士』、『僧侶』。これまでの駒の特性を兼ね備え、尚且つこれまで以上の力を発揮する形態。これが兵藤の『女王』への昇格、『真紅の赫龍帝《カーディナル・クリムゾン・プロモーション》』か!

 

『な、殴り合いです!これほどまでに壮絶な殴り合いは多くのゲーム実況を務めてまいりました私でも、見たことがございません!!』

 

その壮絶を極める殴り合いに実況のナウド・ガミジンも大興奮だ。おっぱいドラゴン奇跡の復活からの壮絶な激闘という盛り上がりは必須の怒涛の展開に観客の熱狂は頂点に上ろうとしている。

 

『俺はァ!あんたに勝つんだァァァ!!』

 

〔Solid Impact Booster!〕

 

拳の応酬の中、決意を叫ぶ兵藤が紅のオーラを右腕に纏わせ、トリアイナの『戦車』のように分厚い装甲を形成させた。内蔵された撃鉄が撃ち込まれ、その威力を引き上げる。そしてそのままサイラオーグの腹にズドンという重々しい音を立てながら打ち込んだ。

 

『ぐふぅッ!!』

 

血反吐を吐くサイラオーグの気高い獅子の鎧が粉々に砕ける。体の芯を突き抜けるような一撃はサイラオーグをふらつかせ、ついにはこのゲームで初めて、片膝を地面につかせるにまで至った。

 

『くっ…なぜだ!どうした、俺の足よ!なぜ震える!?まだ、俺は…!』

 

自身の脚に激を飛ばし、サイラオーグの脚は震えながらも気合で立ち上がる。

 

「あれでも倒れないなんて…とんでもないタフガイだ」

 

あの殴り合いをしているのが俺だったらもう地面に突っ伏して戦闘不能になっていたに違いない。それほどまでにサイラオーグもこの試合に相当なプライドをかけているということだ。

 

『保て、俺の体…!まだこの戦いを味わい尽くしてはいない!今を戦い抜かねば、どうして大王バアルの男を名乗れる!?』

 

一時のダウンからすぐさま持ち直したサイラオーグ。重い一撃を受けてなお貪欲なまでに戦いを求める目のぎらつきが陰ることはなかった。そして滾る戦意のままに、獅子のようにサイラオーグは殴り合いを再開せんとひた走る。

 

迫るサイラオーグに拳を振りかぶろうとする兵藤。その寸前、急に拳を引っ込めてフェイントで相手の太もも目掛けてローキックを繰り出した。

 

「!」

 

またしてもぐらつき、態勢を崩すサイラオーグ。続けて彼を襲ったのは頭部目掛けた兵藤の地面に叩きつけるようなパンチだった。叩きのめされたサイラオーグはボールのように数度跳ねて飛んで行った。

 

「すごい…サイラオーグ様を圧倒していますわ」

 

そこに追い打ちをかけるように兵藤は次の攻撃に移る。ドラゴンの両翼からトリアイナの『僧侶』で見たキャノン砲が姿を現す。そして、ギュウンという鳴動を響かせながら、砲口に真紅の光を蓄えること数秒。

 

『クリムゾンブラスタァァァァァァァァァ!!!』

 

〔Fang Blast Booster!〕

 

兵藤の咆哮と共に、両翼の二つの砲口が圧倒的な真紅のオーラを吐き出す。その威力がこれまでのドラゴンショットの数倍以上の威力があることは容易に見て取れた。回避しようもない一撃を、サイラオーグは真正面から浴びるのだった。

 

着弾と同時に、これまでにない規模の爆発が起こる。余波で激しく映像が乱れ、十秒後に映像が復帰した時にはサイラオーグがいた場所に巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

〈挿入歌終了〉

 

「…か、勝ったの?」

 

レイヴェルさんだけでなく観客たちも、勝負の行方は如何にと気になったのか熱狂が一時的に収まり静かになる。

 

クレーターの中心、サイラオーグは鎧をボロボロにして地面に突っ伏していた。動く気配はない、しかしリタイヤの光に包まれる気配もない。どうにも意識が落ちるギリギリのところをさまよっているらしい。

 

兵藤もこれ以上の追い打ちをかける様子はなく、相手の出方を見守るようでじっと見つめていた。まるで、ここまで深手を負っても彼が立ち上がるのを知っているかのように。

 

『…ォ』

 

果たして、倒れ伏していた彼の体がピクリと動いた。限界のように見える彼はふらふらと、それでもむくりと起き上がり。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

ずんと大地を叩くように踏みしめる。獅子のような魂の雄たけびを上げて、サイラオーグは再起した。

 

〈BGM:友の証(遊戯王ゼアル)〉

 

「まだ立つのか…!」

 

「イッセー君はパワーアップしてるのに…!」

 

「それだけ、譲れない思いがあるということですわ」

 

その魂の咆哮にあてられたように観客たちの盛り上がりも復活し、再起をたたえるように歓声が鳴りやまない。

 

『兵藤一誠ェ!!俺はァ、負けんッ!!俺にはどうしても、叶えたい夢があるのだ!!』

 

血みどろになりながらも、サイラオーグはなお衰えぬ戦意を剝き出しに兵藤へ猛進する。

 

『俺だって負けられねえんだよォ!!』

 

臆せず兵藤も向かい、互いの右ストレートが深く顔面に入り込む。それを機に再び、男たちの意地をかけた殴り合いが再開する。

 

どんなに顔を殴られようと、腹を殴られようと、鎧が砕かれようと、男たちは戦うことをやめない。一歩も引かない。そうした瞬間に激流に押し流されるがごとく怒涛のラッシュに呑まれ次の再起はないほどにぶちのめされると理解しているからだ。

 

戦いの中で高揚した闘志は狂気的なまでの勝利への執着を生み、二人の戦いを後押ししヒートアップさせていった。そのような激闘を可能にしたサイラオーグの強靭な肉体には感嘆の念を覚える。魔力を持たない彼がこの域にまで達するのにどれほどの時間と修練を費やしてきたことだろうか。

 

『俺のような…魔力を持たずとも!生まれがどうであろうと!努力すれば、誰もが相応の地位につける世界!!誰も、努力する者を貶めない社会…俺が、大王バアルとしてそれを作り上げる!!』

 

サイラオーグは吼える。みんなのための、己の夢を。表向きは支えてくれる政界の支援者に裏でこけにされようと、これまでの苦難を経て魂が切望する望みを原動力に彼は戦い続ける。

 

『俺だって…部長をゲーム王者にして…俺も、いつか王者になる…!誰よりも強くなる!俺が、最強の『兵士』になるんだァァァァァァァァァ!!』

 

兵藤は叫ぶ。愛する人のための、己の夢を。かつて堕天使に恋心を踏みにじられようとも、出会った仲間たちと、一途に尽くす彼女へ抱いた思いと向き合いあいつはその決意を、夢を真紅の鎧と共に新たにした。

 

文字通り夢と、命をかけた戦いがそこにあった。

 

兵藤の叫びと共に、渾身の一発がサイラオーグの腹部に炸裂した。それと同時に、兵藤の体が大きくぐらついた。復活と二度の殴り合いを経て、もう限界の限界を超えているのだ。

 

〈BGM終了〉

 

『はぁ…はぁ…くそ…』

 

もうこれ以上は戦えないとふらふらの兵藤だが、そんな彼を襲うはずの執念の一撃はいつまでたっても来なかった。相対するサイラオーグは拳を前方に突き出す動作をしたまま、全く動かない。

 

「な…何が起こってるの?」

 

突然の殴り合いの終了に観客たちも困惑しているようだった。

 

『赤龍帝…もういい…』

 

『!』

 

不意に動かないサイラオーグがぼそりと呟いた。いや、言葉を発したのはサイラオーグではなく、彼の纏う獅子の鎧の方だった。

 

『サイラオーグ様は…少し前から気を失っていた…』

 

『…え』

 

『それでも…ただ嬉しそうに…ようやく出会えた、こうして対等に拳をぶつけあえるあなたとの戦いに…夢をかけた戦いに…臨んでいた』

 

溢れる感情に震える声で、鎧は語る。

 

『赤龍帝…サイラオーグ様と戦ってくれて…ありがとう…!』

 

鎧の胸部にある獅子の目からぼろぼろと感謝の言葉と共に大粒の涙がこぼれていく。

 

『うっ…ありがとう…ありがとうございましたぁぁぁっ!!』

 

『サイラオーグ・バアル選手投了、リタイヤ。バアルチームの『王』のリタイヤによって、ゲーム終了です。勝者、リアス・グレモリーチーム!!』

 

審判役のリュディガーが、高らかにゲームの試合を宣言する。会場にいる誰もが立ち上がり、激闘を繰り広げた二人の男に拍手と歓声を送る。

 

この時俺は思った、このゲームは、レーティングゲーム史上に残る名試合になるであろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゲームが終わり、共におっぱいドラゴンを応援した子どもたちと言葉を交わした後に俺が向かったのは病室だった。そこには今ゲームでリタイヤ、負傷した選手が運ばれることになっている。

 

まず最初に向かった病室のドアをがちゃと開けると、そこにいたのはベッドから上体だけ起こした兵藤だけでなく彼と熱い戦いを繰り広げたサイラオーグ、そして…。

 

「…あれ、サーゼクス様!?」

 

「やあ、奇遇だね。せっかくなら君も聞いていきたまえ」

 

こちらに気付いてにこやかな笑みを浮かべる魔王サーゼクス様も一緒にいた。素晴らしい戦いを披露した二人を労いに来たのだろうか。

 

勧められ、俺は近くの椅子に腰かける。

 

「君は例の推進大使か」

 

「どうも」

 

と、兵藤の隣のベッドにいるサイラオーグに声をかけられた。

 

サイラオーグがこうして対面するのは初めてだろうか。修学旅行前にあった兵藤とサイラオーグの組手はカウントするべきか悩ましいところだが。

 

「そうだ、実は先日の一戦の裏でアンドロマリウスとロキの部下が手を組みイッセー君と彼の暗殺を目論んでいたようでね、彼がそれを止めてくれたのだよ」

 

「え!?」

 

「本当ですか!?」

 

戦いの傷癒えぬ二人は目を丸めてぎょっと驚いた。まさか自分たちの戦いの裏でそのようなことがあったとはつゆにも思わなかったらしい。いや、あの戦いの中にそんなことを考える暇すらなかったというべきか。それは互いの全力を満足いくまで出し尽くした今でもそうだったのだろう。

 

「幸いにも彼の奮闘のおかげで誰にも知られることなく事件を処理し、ゲームを無事に進行することができた」

 

「そうですか…」

 

話を聞いたサイラオーグは改まった様子で俺の方を向いたので、その真っすぐ過ぎる瞳に見つめられた俺は驚きと緊張でびしっと背筋が伸びた。

 

「紀伊国悠…君のおかげで、俺たちは無事最後まで戦い抜くことができた。感謝してもしきれない。恩に着る」

 

そしてサイラオーグは深々と感謝の念を込めて、頭を下げた。その言葉と動作の全てに彼の真っすぐな性格が表れていた。

 

「お前がいなかったら、あれだって言えなかったかもしれなかったしな…ありがとな」

 

「いや…むしろ俺も狙われた側だし、こうなったのも、奴らを撃退できたのも偶然だ。俺だって迷惑したんだぞ?お前とアバドンの試合が見れなかったし、二人の試合も途中からになったからな」

 

「む…それは災難だったな」

 

すぐに終わった試合とは言え、やっぱり全部通して観たかったぞ。それに進化する前の兵藤のトリアイナが鎧なしのサイラオーグにどれだけ通じたのかもこの目で見届けたかった。本当にアルギスは嫌なことをしてくれたものだ。

 

「…しかしこの件が他所にばれたら、批判はもちろん追及されることになるのでは?」

 

痛いところをつくサイラオーグの憂慮にサーゼクス様も瞑目してうむと頷いた。

 

「そうだ、今回は幸運にも結果オーライと言えるが、今後はこう上手くはいくまい。もし紀伊国君が負けていれば大惨事になっていたのは間違いない。彼らはレーティングゲームのフィールドへの侵入を試みていたそうだからね」

 

「マジですか!?」

 

と、驚く兵藤。

 

ぶっちゃけサイラオーグの試合で瀕死状態になった場面やアンドレアルフスとの試合でストリップショーに夢中になった時など、侵入されていたら危うい場面はあった。本当に奴らを止めることができてよかったと思う。

 

「ゲームのほとぼりが冷めたらこの件は公表するつもりだ。隠し通すわけにはいかないからね。しかし

下手をすれば観客に危険が及んだかもしれないのではと批判を浴びるのは避けられない。今回の件において君はアンドロマリウス達を食い止めてくれた英雄というべきだが…」

 

「?」

 

「…ただ、内密に動いて観客への危険を承知でゲームを続行したという点で君は私と同じく多少はバッシングを受けるだろう。君も責任ある立場にある以上はバッシングは付き物だ。すまないが、ある程度覚悟はしておいてくれたまえ。私ももちろんフォローはするし、アザゼルも立場上は説教をするが君を守ってくれるはずだ」

 

「そうですか…」

 

厳しい言葉を言うサーゼクス様に俺はへこんだ。

 

バッシングというこれまでの人生において関わってきたことのない言葉がいよいよ現実的な重みを帯びて俺の心に重くのしかかる。とうとう俺も、バッシングされてしまう時が来るのか…。まあある意味有名人だから当然だよなぁ…。

 

ちなみに和平推進大使とは和平協定を結び、三大勢力の和平を広く推進するべく和平の意を同じくする四大魔王、四大セラフ、そして堕天使総督のアザゼル先生と副総督のシェムハザさんが共有する直属の部下…という扱いである。

 

和平会談の際にミカエル様の、グレモリー眷属の協力者という曖昧な立場でいるよりもどこかの勢力に正式に所属した方がいいのではという意見からスタートし、その後三勢力の首脳陣の議題にも上がり話し合いを重ねたうえで、いっそ互いにある程度気の知れた首脳陣の直属の部下にしてはどうだということで決定したらしい。

 

その中で世界を脅かすテロへの対処と言う仕事はもちろんだが、三勢力のどれか一勢力だけの利益になるような任務を与えてはならないと互いに互いを監視をする意味合いも含んだ、俺を動員するための条件も決められている。前例のない肩書、立場だからこそ慎重に議論されたようだ。

 

彼らが組織を超えた共通の部下を持つということは和平の象徴でもあり、彼らの願う和平を阻害する敵を排除するのが俺の役目である。冥界においてはおっぱいドラゴンの絶大な人気の陰に隠れがちだけど俺だってそこそこすごいんだぞ!

 

「しかし一番バッシングを受けるのは君の判断をそのまま通した私になるだろう。むしろ私の方にこそこぞってバッシングされるだろうが…ふっ、私も古株の方々からまだまだ甘いと言われるわけだよ」

 

古くからのしきたりを重視する大王派や旧魔王派はこれ幸いにとこぞって批判してくるに違いない。特に大王派はサイラオーグが負けて面目丸つぶれなところもあるだろうし、激しく責めてくるだろう。

 

…あれ、サーゼクス様だけじゃなくて俺もヤバいんじゃね?四大魔王の部下である俺もサーゼクス様と同じ派閥と見られる…かもしれない?

 

「え…俺、滅茶苦茶政治家たちに批判されるんですか…?すごく怖いし、嫌なんですけど…」

 

「心配しないでくれ。君はディンギルの脅威から二人のゲームという冥界の希望を守ってくれたヒーローだ。君を貶める輩からは必ず守ると約束しよう」

 

「俺が、ヒーローですか?」

 

これまでにない呼称に俺は戸惑う。俺はただ巻き込まれただけだというのに、危うく奴らに敗れそうになったというのに、観客…あの子どもたちに危険が及んだからもしれないのに、これからバッシングを浴びるかもしれないというのにヒーローと呼ばれていいのだろうか。

 

「そうだ。紀伊国悠、自信を持て。どのような批判を受けようと、如何なる可能性があったとしても現実にはお前の行動で大勢の命が救われたのだ。お前はまぎれもないヒーローだ。この場に集まった俺たちが保証する」

 

「そう、ですか…」

 

思わぬ援護射撃をしてきたのはサイラオーグだった。精悍な顔つきに微笑みを浮かべて、俺の行動を肯定し、それに同意するように兵藤やサーゼクス様もうんと頷いてくれた。

 

ヒーロー、か。曹操がイメージし定義する英雄とは少し違うかもしれないが、俺が探す英雄とは何かという問いへの答えに近づく一歩に今回の件はなるかもしれない。ホテルに戻って一人になったら、ゆっくり考えてみよう。

 

「サーゼクス様、よろしいのですか?俺の敗北を受けて大王派が穏やかじゃない今でなくても…」

 

「私に心配は無用だよ、そういった批判を受けるのには慣れているからね。政治の世界では常だよ」

 

と、サーゼクス様は微笑む。

 

言われてみればそうだ。サーゼクス様は俺たちが生まれる前から魔王をやっているのだから、そういった経験は言うまでもなく豊富だろう、特に大王派や旧魔王派などの対立する派閥がいれば尚更だ。

 

「…そうだった、例の話だが」

 

話がひと段落ついたところで、サーゼクス様は思い出したように更なる話題へ踏み込む。

 

「イッセー君、それと木場君と朱乃君に中級悪魔への昇格の話が来ているんだよ」

 

「え、本当ですか!?」

 

「これまでの三大勢力の会談でのテロ、旧魔王派、そしてロキの攻撃を防ぎ、退けた功績が評価されてね。前々から話はあったのだが、京都での一件と今回の試合で完全に確定した。おめでとう、此度の昇格は異例かつ、昨今では稀な事例だよ」

 

「…は」

 

当の兵藤は唐突に昇格を告げられて、理解が追い付いていないのか表情がフリーズしている。

 

ようやくと言うべきか今更と言うべきか。

 

振り返れば、評価されて当然の実績を彼らは積み重ねていた。赤龍帝の兵藤、聖魔剣に目覚めた木場、激戦を潜り抜けてきた俺たちを指揮した部長さんを補佐してきた『女王』の朱乃さん…朱乃さんが下級悪魔だったことに意外性を感じたが、悪魔界の中でも飛びぬけて可能性に満ち溢れたこれらのメンツが異例の昇格となるのはようやくか今更かはさておいて少なくとも必然といえよう。

 

「詳細は後日に改めて通知する。これから儀礼に向けて色々決めていかねばならないことがあるのだよ、急に訪ねてきてすまなかったね。ではこれで失礼する」

 

と、サーゼクス様は腰を上げて病室から出て行かれた。サーゼクス様が去った後も、兵藤はまだ実感がないのかぼんやりした様子だった。そんなあいつを正気に戻してやるべく、とんと若干強めに肩を叩いてやった。もちろんけが人への配慮も含めて絶妙な加減でだ。

 

「よかったじゃないか、兵藤。赤龍帝ともあろう男がいつまでも下級悪魔なんて似合わないぞ」

 

「受けろ、兵藤一誠。これはお前の頑張りに対する正当な評価だ。転生悪魔だろうと関係ない、お前は…冥界の英雄になるべき男だ」

 

「…そ、そうですか。それなら…俺、なります。中級悪魔に!」

 

昇格を後押しする俺とサイラオーグの言葉を受けて、まだ実感わかぬ表情ながらも昇格を受けることを決意したようだ。

 

「それでいい、最強の『兵士』を目指すなら避けては通れぬ道だ」

 

サイラオーグも決心した兵藤に満足そうにうなずいた。

 

さっきから思っていたんだが、サイラオーグが思った以上にいい人かつ熱い漢すぎて俺の中でどんどん彼の株がうなぎ上りしている。魔力が使えないという貴族社会という周囲との劣等感を感じやすい環境にいただろうに、よくここまで真っすぐな性格に育った。

 

「…まあ、ぶっちゃけ実力なら下級悪魔のレベルをぶっちぎりで超えてるからお前が下級悪魔だってこと完全に忘れていたけどな」

 

「はっはっ!俺もだ。俺に勝てるのだからすでに実力なら上級悪魔以上のレベルだろう」

 

サイラオーグと共に愉快そうに俺は笑う。ロキ、コカビエル、曹操、ヴァーリ、これまで数々の強敵とあいつは戦ってきた。下級悪魔のレベルのままだったらとうの昔に兵藤は戦死していただろう。数々の戦いを経て成長した兵藤が昇格するのはごく自然な流れと言える。

 

「そうだ。二人の試合、本当にすごかった。あんな殴り合いを観たのは初めてだけど」

 

拳に滾る魂と切なる夢を込めて殴り合うあの戦い。夢のない俺にも彼らの夢にかける思いは痛いほど伝わり、彼らの熱が移ったかのように体が熱くなった。あの試合を見て、熱狂の中に身を浸した経験は生涯忘れることはないだろう。

 

「そうか。負けはしたが、多くの人に影響を与えられたなら俺も彼と戦ってよかったと心の底から思えるよ」

 

「俺は…あんなにぼこぼこに殴られて、血が出たのに、不思議と気持ちいい殴り合いだった気がするな。夢のために、あそこまで戦う経験は今までなかった気がする。これまでが平和のために、皆のためにって感じだったからなぁ」

 

「俺もだ。あの時ほど夢に燃えた瞬間は過去になかった。拳で激しく語り合う戦いもな。身分や生まれなど関係ない、一人の男と男の戦いだった」

 

ふっと笑うサイラオーグと兵藤は戦いの余韻に浸るようにベッドに背を預けた。…これ以上は、俺はお邪魔かな。

 

「…それじゃ、俺は他のところに用事があるから、ここでお暇するかな」

 

と、俺は椅子から腰を上げる。

 

話したいことは話したし、元気そうな兵藤とサイラオーグの顔が見れたので満足だ。まだ二人で語り合いたいこともあるだろうし、二人にさせておこう。もしかすると、彼女が俺が来るのを待ちわびているかもしれないしな。

 

「あっ…そうか、ちゃんと労ってやれよ?」

 

「当たり前だ。お前も試合中にあんなこと言ったんだから、ちゃんと二人で話し合えよ?」

 

「わ、わかってるよ!」

 

兵藤は俺がこれからどこに行くのか気づいたらしい。その話題を振ったのだから俺が振り返しても文句は言えないよな?

 

「それじゃ…」

 

「紀伊国悠」

 

部屋を後にしようとした矢先、サイラオーグに呼び止められた。

 

「今回の件、重ねて礼を言う。何か力になれることがあれば言ってほしい。また機会があればいろいろと語らいたいものだ。それに…いつか、君とも拳を交えてみたい」

 

「はい、俺もあなたのことをもっと知りたいです」

 

あれだけ戦った後なのに俺との戦いを所望するとは、まだ戦い足りていないようだ。流石大王バアルの男、獅子王と呼ぶべきか。夢のために己を磨き上げ、正々堂々と戦い抜いた彼は尊敬すべき人だ。

 

正直あのパワーが怖くはあるが、いずれは彼と真正面から向き合いたいものだ。サイラオーグ・バアル。不思議とそう思わせる熱い漢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵藤とサイラオーグと語らった後、俺はある人の病室を訪ねた。本当なら最初に訪れるつもりだったが、たまたま兵藤の病室が近かったのでそちらに先に足を運んだのだ。

 

「よっ」

 

「悠、来てくれたのか」

 

こちらの顔を見るなり、口元をほころばせるのはゼノヴィアだった。ベッドから上体を起こしてくつろいでいる彼女は全身に包帯を巻いていて痛々しい様子だが、本人はあまり気にしていない様子だ。

 

「調子はどうだ?」

 

「傷は癒えたけどまた体の節々が痛むよ。それだけ彼の打撃が強かったということだね」

 

「そうか、ゆっくり治していけ」

 

あれだけのパンチを受ければ流石に治すには時間がかかるだろう。真紅の鎧があったとはいえ、よく兵藤はあんな馬鹿げた威力のパンチを雨の数ほど受けたもんだ。アドレナリンで痛覚が吹っ飛んだとしか考えられない。

 

「私の戦い、見てくれたか?」

 

「ああ。あのサイラオーグ相手に一歩も引かなかったのはすごいよ」

 

あんな規格外のパワーと対面したら俺なら泣いて逃げたかもしれない。あそこまで攻撃を食らいたくないと思った攻撃はサイラオーグが初めてだ。一発でも喰らったら変身しても骨折は免れないかもしれない。

 

だからこそ、それに臆せず立ち向かった兵藤…そして木場、ロスヴァイセ先生、ゼノヴィアをすごいと思ったのだ。

 

「…私は、いや私たちは役に立てたか?」

 

「二人が最後につけた傷のおかげで隙が生まれたし、フェニックスの涙を使わせられたんだ。兵藤だけじゃない、皆がつないだ勝利だ」

 

「…」

 

俺が来るまでの戦いで二人に斬られた腕の動きが鈍ったシーンが何度かあったらしい。それにあれだけの戦いでまだサイラオーグの側に涙が残っていれば、如何にパワーアップした兵藤と言えど消耗して確実に負けていただろう。

 

このゲームは兵藤だけの勝利ではない。誰か一人でも欠けていれば、あの最終局面まで持ち込めなかった。皆の勝利だ。

 

ふと彼女は顔を俯かせた。

 

「でも…私はサイラオーグに勝てなかった」

 

その綺麗な顔に後悔の影が差す。そんなことはないとフォローするよりも先に、彼女の言葉が続いた。

 

「それだけじゃない…私が聖剣使いの力を封じられたばかりにギャスパーが傷ついてしまった…!サイラオーグとの戦いだって、もっとうまく立ち回れていれば、イッセーに楽をさせられたかもしれない…」

 

後悔を吐露し、俺の胸に涙ながらに縋りついた。ベッドに伏しながら、彼女が思い続けてきた後悔が涙のようにボロボロと零れ落ちていく。

 

「私は…弱い…!」

 

「…」

 

エクスデュランダルという新たな力を手にしながら、十分な戦果を残せなかった彼女の悲しみを受け止め、それを慰めるように抱きしめてそっと頭を撫でてやる。

 

白熱した戦いの影にある選手の悲しみと悔しさを俺は知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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白熱したゲームの解説という仕事を終えたアザゼルはドーム会場内にある、とある要人用の観戦のための個室に向かっていた。

 

ゲーム中に部下からその男が姿を現したという連絡を受け、これまでに積もった質問をぶつけようと彼は足早に向かっているのである。

 

彼の視界に目的の部屋が収まったとき、丁度その男が護衛と共に部屋から出ていくところだった。

 

角刈り頭のアロハシャツというこの絢爛さに満ち満ちた場所にそぐわない恰好をした男に、アザゼルは話しかける。

 

「これは帝釈天殿、ゲームは如何でしたかな。」

 

「おっ、よー正義の堕天使のお兄さん!おもしれぇ実況すんじゃねえか、引退したら大好きな悪魔のレーティングゲームの実況解説でも始めたらどうだ?おん?」

 

内心警戒するアザゼルとは対象にその男…須弥山勢力のトップ、帝釈天は皮肉交じりで掴みどころのない気安い調子で返す。

 

「…訊きたいことがある」

 

「HAHAHA!いいぜ、慈悲深ーい帝釈天様に何でも聞いてみな?魔王と癒着して教え子の勝利に浮かれてる正義の堕天使さんよ?」

 

これまた皮肉たっぷりの返しをされるが、苛立ちを心の隅に押しやり、端的にアザゼルは鋭く問うた。

 

「神滅具…聖槍の所有者のことを俺たちよりも先に知っていて、なおそれを隠していたな?」

 

英雄派の首魁、曹操が京都で一波乱を起こした際に現れた、目の前の帝釈天の配下である初代孫悟空が彼のことを古くから知っていたような口ぶりをしていたと一誠たちから報告を受けていた。

 

これまで足取りを掴めたなかった神滅具だったためそんな馬鹿なとは思ったが、昔から油断ならないこの武神ならまさかと思い彼は各勢力のVIPたちが集まるこのゲームを好機と思い、帝釈天に直接詰問した次第である。

 

「だとしたらどうすんよ?糾弾するか?俺が曹操のことを知っておきながら報告しなかったことに不満でも?それとも…あいつらと通じていたことが?」

 

意味深に笑む帝釈天は肩をすくめながらアザゼルの考えを認めた。

 

「インドラッ…!」

 

「HAHAHA!おいおいそっちの名で呼んでくれるとは粋なことするじゃねえか!そんな怖い顔すんなや、俺で怒るくらいならハーデス神のやってることなんざ勢力図を塗り替えるレベルだぜ?」

 

我慢の限界だといよいよ声に怒りの感情をにじませるアザゼルに、帝釈天はなおも余裕を崩さず不敵に笑った。

 

武神である帝釈天は全神話勢力の中でもハーデス以上の強さを持つトップクラスの神だ。もとより彼らが真正面から争ってアザゼルが勝つ望みは万に一つもないだろう。

 

「一つ言っとくぜ、若造。どこの神話も表向きは和平を謡ってるが心の中では『他の神話なんて滅べクソが!うちらの神話万々歳!』って思ってるんだぜ。甘々な神はいるが、どの神話も他所の神話と人間の信仰を奪い合ってきた血に濡れた歴史があるもんだ、その争いの中でどれだけ信仰が廃れた神々がいると思ってんだ?」

 

アザゼルたちが掲げる方針への痛烈な批判を帝釈天は繰り出す。和平を目指す彼らが一番に理解しているその事実に耳が痛い思いをしながらも、アザゼルは引かない。いや、引くわけにはいかなかった。

 

「そんなことは言われなくてもわかっている。だが、戦争をすれば俺たちどころか人間までも滅んでしまうだろうが…!」

 

「HA!だが、信仰の点でいやぁ対ディンギルではどの神話とも結束できるかもな?俺だってうちの信者を横取りされたわけだから腸煮えくりかえってるぜ?正直あいつが次元の障壁を作ってなければ、俺は神域に攻め込んでたなぁ」

 

「あいつ?」

 

次元の障壁を作ったのは過去に存在したドラゴンたちではないのか。あいつという複数形ではない言い方にアザゼルは引っかかるものを覚えた。

 

「…ったく、あいつのことを忘れちまうなんて罪なもんだな」

 

ぼそりと呟く帝釈天の表情にはこれまでの会話になかった寂寥と怒りが入り混じった色が一瞬浮かんだ。帝釈天のこれまでにない不思議な表情にアザゼルもよりペースを乱され、困惑する一方だった。

 

「ま、表向きは協力してやるから安心しな。オーフィスも、ディンギルも邪魔だしよ。それと、乳龍帝に言っておいてくれや。今日の試合は最高だったってな。もし世界の脅威になるなら俺が消してやんよ、『天』を冠するのは俺たちだけで十分だ」

 

再びあの不敵な表情に瞬時に切り替えると、言いたいことは言ったとアザゼルの反応を待つまでもなく、帝釈天は踵を返して護衛と共に去っていく。

 

「…神竜戦争か。俺たちは一体、何を忘れちまったんだ…?」

 

ポラリスから受け取ったデータによると、かつて戦争を戦い抜いた竜たちが作ったディンギルたちの住まう神域とこの世界、竜域を隔てる次元の壁は神の干渉を防ぐとともに当時生きていた者たちの戦争の記憶を封じているという。一体ディンギルと戦ったドラゴンはなぜ世界の脅威となる敵の記憶を封印するようなことをしたのか。

 

忘却された過去の謎、オーフィスや曹操たちの暗躍、二つの暗闇を見据えるアザゼルは帝釈天との邂逅を経て、その闇を祓おうという決意を新たにしたのだった。

 




これまで接点がなかったサイラオーグと悠ですがこの件でとっかかりやすくなりました。

次回、「学園祭のライオンハート」
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