ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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お待たせしました、本作のオリキャラ、信長にスポットライトを当てた外伝です。
今までの外伝とは違ってドがつくシリアスです。

終わりには次章予告もあります。


外伝 「泥と血の中から這い上がる者」

輝く月が照らす闇夜。

 

京都の人里離れた山にある由緒正しい和風の屋敷の庭で、大勢の和服の男たちが無様に倒れ伏していた。

 

「つ、強い…」

 

刀を握り呻く者もいれば、血を流したままピクリとも動かぬ者もいる。傷だらけながらも生き残った男たちは敵意と悔しさを混ぜた強い目でその者たちを睨んでいる。

 

「あらあら、全然物足りないわね」

 

「はん、退屈しのぎにもなりゃしねえ」

 

「やれやれ、鍛冶の腕は上等だろうけど剣の腕はまだまだのようだね」

 

その惨状を生み出した三人組…世に悪名轟かす英雄派、ジャンヌダルクと信長、そしてジークフリートは物足りない表情で己の得物を収めた。

 

「こいつら、急に現れて…一体何なんだ!?」

 

倒れ伏す男たちの中から一人、スポーツ刈りの男がジーク達に向かって叫ぶ。

 

彼らは刀鍛冶においては右に出る者はいないとされる高名な創星六華閃の一家、天峰家の門下生である。いつもと変わらぬ鍛錬を終えて床に就こうかといった矢先、夜の静寂を破るかのように門をバラバラに切り裂いて突然現れた三人組の襲撃を受けた。

 

門下生たちは当然各々が打った刀を手に迎撃したが、その結果がこの惨状である。彼らの神器の力と剣術に手も足も出ず、今敗れ去ろうとしている。

 

叫びを受けて、ジークはふっと笑い高らかに言い放つ。

 

「天峰の門下生の諸君、恨むなら僕たちではなく前当主を恨むといい。彼が僕たちとの取引に応じなかった結果、こうして僕たちが君たちを攻撃しに来たのだからね」

 

「なんだって…!?」

 

「それにしても君たちは可哀そうだ。君たちが苦しんでも留守中の現当主はおろか、今屋敷にいるはずの前当主すら助けに来ようとしない」

 

傷ついた門下生たちを見下ろし、嘲笑交じりにジークは言う。

 

「早雲様はどうして助けに来られないのだ…」

 

「そういえば聞いたことがあるぞ…同じ六華閃のサイン家も今の俺たちと同じような襲撃を受けて、当主が戦死したって」

 

「嘘だろ…だって、サイン家って言ったら当代の六華閃当主の中で最強なんじゃなかったのか!?」

 

英雄派によりサイン家の当主が暗殺された。その事実は他の六華閃との関わりを閉ざし、五大宗家や日本神話などの日本の組織との関係を深める天峰家にも届いていた。

 

「その通り。これで僕たちの力はわかっただろう?それに、天峰は君たちを助けてはくれない。でも、君たちが天峰で培った経験を僕たちのもとで生かすのなら、こちらも迎え入れる準備はできている」

 

「俺たちと共に来るか、それともここで死ぬか。二つに一つだ」

 

「選びなさい。でも私たちは気が長い方じゃないの、早く決めないとどうなるかわかんないわよ?」

 

ジーク達は剣と共に悠々と選択を突きつける。

 

「くっ…!」

 

生き残った門下生たちは悔しさに顔を歪める。彼らにも天峰家の門下生としてのプライドがある。

 

その時、月光差す庭に一陣の影が差した。

 

「ふん!」

 

「来やがったな」

 

門下生たちとジーク達の間に割って入るように現れたのは、たおやかな花模様の着物姿の20代の女性だった。若いながらも年相応の可愛げはなく、その表情に映っているのは研ぎ澄まされた刃のような強い意志だ。、長く伸ばした濡れ羽色のような黒髪と、その手に握られたただならぬ気配を放つ日本刀が月光を照り返す。

 

「ここから先へは行かせません!」

 

門下生たちを背に、刀を携えた少女は凛然と言い放つ。その女性の到着は、ジーク達の警戒心を一気に高めるには十分すぎた。

 

「ふっ、随分と遅い到着ですね。創星六華閃の天峰家現当主、天峰叢雲」

 

「私の留守を狙って屋敷を攻撃した上に、門下生たちを傷つけたあなたたちを許すわけにはいきません」

 

叢雲の瞳にはジーク達への敵意と、好き勝手暴れてくれたことに対する静かな怒りの火がともっていた。

 

「遅れてごめんなさい。私が来た以上は必ずやあなた達を守り抜いて見せます」

 

「叢雲さま…!」

 

「当主様が来られたからにはもう安心だ!」

 

ジーク達から意識を離さぬまま、ちらりと後ろの彼らを一瞥した彼女の言葉は門下生たちに安心をもたらしただけでなく、一気に士気を上げることに成功した。戦う力をなくしていた彼らが歓喜に沸く。

 

叢雲が握る刃の切っ先が、すっとジークに向けられる。その流水のような動作は吸い込まれるような美しさを秘めていた。

 

飾り気のない素朴な柄頭や柄、鍔であるが見る者を圧倒するようなオーラを静かに放つ刀を見て、信長が仲間に警戒を促すように言う。

 

「天峰の当主が代々受け継ぐ、初代当主が打った最高の業物。『破真』だ。蒼青鏡と並んで当主の証とされている」

 

六華閃の当主はコンタクトレンズである蒼青鏡だけでなく、それぞれの家の開祖である初代当主が作り出し、愛用した最高傑作の武器を受け継いでいる。

 

「博識ですね。ですが知識だけでは私を倒せません」

 

「…はっ、その真面目っぷりは変わらねえな。姉貴」

 

「姉貴?私に弟なんて…」

 

信長の何気ない一言は、戦闘に集中しようとしている叢雲を僅かながらも困惑させる。五大宗家や悪魔の貴族のような分家のシステムがない天峰家において、彼女に兄弟姉妹はいない。

 

「いるんだよ、それが。俺は前当主、天峰早雲の妾の子だ。あんたとは腹違いの弟なんだよ」

 

「!」

 

「なんだと…!?」

 

「そんな…」

 

「早雲様の妾の子だって…!?」

 

信長のまさかの告白に、叢雲はもちろんのこと門下生たちの間にどよめきが走る。彼らが抱く前当主、早雲のイメージは清廉潔白の体現者であった。常に己に厳しく、規律を守って来た彼に妾がいたなど容易に信じがたいことだった。

 

「…そういうことですか」

 

「叢雲さまは彼を知っておられるのですか…?」

 

「…小さいころ、父上から入るなと言われていた物置小屋の中で会って何度か遊んだ男の子がいました。父上に見つかった時は酷く怒られたものですが…今にして思えば、妾の子を隠すための処置だったのですね」

 

彼女が小学校に通うような年だった頃、天峰家の屋敷の中でもひっそりと、他と隔絶したように寂れた物置小屋があった。父親には入るなと硬く言われていたが子供の好奇心を抑えることができずこっそり忍び込んだ時に彼と出会った。

 

何度が忍び込んで交流を重ね、ようやく打ち解けようとした時に早雲に見つかってしまい、以後はロックと監視が厳重になり二度と入ることはできなくなった。あれ以来会うことがなかった、一般の人間が出入りすることはまずない天峰家の屋敷、物置小屋にいたあの時の少年は何者だったのか。

 

その答えをようやく彼女は得た。10年以上の時を経て、予想だにしなかった形で。

 

「その男の子が俺だよ。そして俺の母、妾ってのは直系ではないにせよ織田信長の子孫だったんだよ」

 

「織田信長だって…!?」

 

「嘘だろ…」

 

これまた続く衝撃の事実に門下生たちは驚いた。織田信長と言えば、小学生でも知っている有名な戦国武将だ。目の前の男がかの有名な偉人の血を引いているとは夢にも思わなかった。

 

「だから英雄派に下ったのですね。そして、あなたの目的はやはり…」

 

「俺を捨てたてめえら天峰を潰しに来たのさ。もちろん、仕事もかねてな」

 

これ以上の問答は不要だと、信長は腰に帯刀した煌びやかな装飾が目を引く日本刀を抜刀し、構える。

 

「あなたにも父にも言いたいことはありますが、あなたが私たちに仇なすのなら当主として打ち破るまでです」

 

そして叢雲も信長の刀とは対照に飾り気のなく素朴な刀に手を添えて、抜刀の構えを取る。にらみ合い、両者の間で戦いの機運が高まる。そしてそれは唐突に爆ぜる。

 

先手を切ったのは叢雲だった。抜刀しないままひた走り、信長が神器の力で生み出した宝石の矢の五月雨をしなやかな身のこなしと素早い脚で潜り抜ける。その動きには一切の迷いがない。

 

そして瞬く間に信長を間合いに収めた彼女は、身を捻りながら刀を抜刀、初代が打ちし最高の刀を振り抜いた。

 

「!」

 

それと同時にほぼ反射で信長は瞬時に原子結合を操作し、輝く宝石の障壁を張る。月光を受けて美しい輝きを放つ障壁と鮮烈な剣閃を描く刃が接した瞬間、今までのように攻撃を完全に防ぐがきんという硬い音の一切は聞こえなかった。

 

代わりに音もなく障壁が真っ二つになって、綺麗な断面を滑るようにごとんと地面に落ちた。

 

「マジかよ…!」

 

「嘘でしょ!?」

 

「!!」

 

信長はこの結果に唖然とする。これまでに積み重ねてきた自分が研鑽の末に高めた神器はいかなる攻撃も弾き返せるという自負が少なからず揺れた。ジークとジャンヌも、彼の防御力には絶対の信頼を置いていたので大きな衝撃を受けた。

 

それだけではない、信長の胸部の甲冑にも薄っすらとした切り傷ができていた。もし神器で防御していなければ今頃はあの障壁のように真っ二つになっていたに違いない。

 

「弟だろうと、手を抜く気は一切ありません!」

 

そのまま刀を振り上げ、今度こそ信長を切り裂かんと叢雲の刃がひた走る。

 

「ダインスレイブ!」

 

「聖剣創造!」

 

「!」

 

これはまずいとジークとジャンヌは動いた。横やりを入れるように襲ってきた分厚く、鋭い氷柱と聖剣の刃の波。叢雲ははっとするも直ちに冷静な判断を取る。ひょいと何度か飛び退り、大きく下がると納刀、そして数瞬の集中ののちに鮮烈な抜刀を見せる。

 

その余波で聖剣と氷柱が砕け散り、再び張った宝石の障壁ががきんと耳障りな音を立てた。障壁は細く深い傷跡を残しながらも最初のように完全に切断されることにはならなかった。

 

「そらぁ!」

 

それを見た信長は一気に数十にも分厚い衝撃を張り、ジーク達三人を覆い叢雲と隔てるドームを作り出す。

 

三人は一度、叢雲をどう攻略するかを話し合うことを決めた。

 

「多分この間にもガンガンぶった切ってるだろうな。一分も持たないと思うぜ」

 

「でも流石に距離ができると威力が落ちるのね」

 

「彼女の最大の武器は居合だ。刀を鞘から抜刀するモーションがそのまま攻撃になる。極めればカウンター、攻撃共にこれ以上にない動作になるだろうね。でも抜刀してから納刀するまでにごくわずかな隙がある。攻めるならそこだ」

 

英雄派のリーダーを支える右腕としてジークは冷静に叢雲の戦い方を分析する。叢雲の留守中を狙った襲撃だが、万が一駆け付けてきたときのことも考えてあらかじめデータを取っていたのだ。もちろん、強者との戦いを望む彼らにとっては願ったりかなったりの展開だが。

 

「こりゃ、禁手を使わないとだめだな」

 

「そうだね、本気でやらないとこっちがやられる」

 

「最強のスダルシャナをどうにかできたんだから楽勝かなって思ったけど、信長の防御を破れるなんて全然バケモンでしょ」

 

スダルシャナを倒せたのは彼の娘を人質に取れたのが大きな勝因だった。それでも全員が禁手を使い、相当な苦戦を強いられたまさしく怪物のごとき強さを持った相手だった。

 

「…ジーク、ジャンヌ。こんな状況なのに悪いが、姉貴の相手を任せていいか」

 

だがそれでも、彼にはどうしてもやりたいことがあった。そうしなければ先に進めないという強い思いが今の彼にはあった。

 

「そう言うと思ったよ。わかってる、君が戦いたい相手は他にいるんだろう?」

 

「私たちがあのお嬢ちゃんをちゃちゃっとのしてあげるわ。だから行ってきなさい」

 

ジーク達は信長と天峰との関係の全てを知っている。だからこそ理解している。彼がこの戦いにどれほどの思いで臨んでいるのかを。戦友である彼の意志をくみ取り、ジークとジャンヌは快諾する。

 

「わりい、恩に着るぜ!」

 

「ッ!伏せろ!」

 

「うわっ!?」

 

信長が礼を言った次の瞬間、咄嗟にジークが顔を青くして、ジャンヌと信長を地面に押さえつけてばっと身をかがめる。その一秒後、さっきまで彼らの首があった箇所を一陣の風が駆け抜ける。

 

そして宝石のドームはずばんと切られ、がらがらと崩壊を始めた。叢雲の放ったただの一太刀であっけなく崩れ去っていく。

 

「嘘だろ!」

 

慌てて信長は崩壊するドームの原子結合を操作、生き埋めにならないようにドームを消滅させた。ドームが消え去り、信長たちの姿が再び夜空のもとに晒された。

 

「私の居合は集中に時間を費やせば費やすほど威力もリーチも伸びます」

 

カチンと鳴らして、叢雲が刀を納刀する。三人が話し合う間に叢雲は居合のための集中に時間を費やしていた。初撃の倍以上の時間を使って放たれた居合は一瞬で信長が作り出したドーム状に張られたすべての障壁を一撃で切り裂くほどの威力へと向上した。

 

「ドームを張ったのを逆手に取ったのね…」

 

「…へっ」

 

信長は軽く笑うと、突然叢雲ではなく屋敷の方へ一目散に走りだす。この行動には流石の叢雲も虚を突かれた。

 

「っ!?待ちなさい!信長!」

 

しかしすぐに正気に戻り、追撃を加えんと疾走する叢雲を、ジークとジャンヌが颯爽と通せんぼする。

 

「ッ!」

 

「あんたの相手は私たちよ」

 

「さて、あなたとやり合うなら僕たちも奥の手を使わざるを得ないね」

 

既に禁手状態となり、聖剣龍を駆るジャンヌと六本の手にそれぞれ魔剣を握る阿修羅のごときシルエットとなったジークが立ちふさがる。

 

信長の意志を汲みつつ、六華閃の当主とやりあうというまたとない機会を手にする。一石二鳥であり、強さを追い求める者としてこれ以上にない経験だ。

 

そして二人は、ピストル型の注射器をおもむろに取り出した。

 

「それは…」

 

「真なる魔王の血を元に作り上げた神器のドーピング剤さ。魔王の血と聖書の神が作り出した神器が組み合わさればどうなるのか…お見せしよう」

 

信長を先に行かせた二人は躊躇いなく首元に注射を打ち込む。

 

『うぉ…おおおおお!!』

 

数秒後、二人の体に変化が訪れる。ジークの神器による四本の腕が肥大化し、指の形が溶けて握る魔剣と一体化する。ジーク本体も血管が浮き上がり、英雄派の制服がはじけ飛んで筋肉がおぞましい何かのように動き回る。もはやその姿は阿修羅と言うよりは蜘蛛のようなシルエットと化していた。

 

『う…ウウウウウッ!!』

 

ジャンヌの体にも血管がくっきりと浮かび上がり、膨れ上がった神器の力が周囲に聖剣を生やす。そして

それらが彼女の下半身を覆うと、蛇のようなフォルムへとジャンヌを変化させた。下半身が蛇、上半身はジャンヌというラミアのような姿だ。

 

突如として怪物のような姿へと変貌を遂げた二人に、叢雲は絶句した。

 

「こ、これは…」

 

『これが『業魔人《カオス・ドライブ》』。さっきのドーピング剤は『魔人化《カオス・ブレイク》』と言ってね』

 

肉体の変化と同じく、声も普段より低くなったジークが説明する。旧魔王派の取引で得た魔王の血族の血液を加工して作り上げられたそれは、多くの犠牲と実験の末に実戦に投入できる域に達した。

 

『あなたを相手に出し惜しみはしていられない、ぺろりとお姉さんが食べてあげるわ!』

 

『当主の力、見せてもらうよ!』

 

「あなた達のような物の怪に負けるわけにはいきません!」

 

ドーピングにより膨大化したオーラを解き放ち、二人は叢雲へ猛進するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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幼少期に朧気な記憶を頼りに屋敷の縁側を走り抜け、がたんと障子を開け放って入った大広間にて信長はその男と出会う。

 

「来たのか」

 

男が厳かな声を放つ。その男こそ、信長の一番の目的だった。

 

白髪交じりで赤い着物を着こなす初老の男が、信長に背を向けて書初めに向かい合うように正座している。敵がすぐそこまで迫っているというのに男の声色には一切の動揺も焦りもない。

 

その男こそ、天峰早雲。天峰の前当主にして当主の座を退きながら未だに天峰の意思決定権を握り続ける強い影響力を持った男である。

 

「相も変わらず冷たい男だな、久々の息子との再会だってのによ。それに門下生たちのピンチに駆け付けないなんてな」

 

「貴様らの襲撃を受けてなお戦い抜き、生き延びた勇気と力ある者こそ天峰家の教えを受けるに相応しいと考えたまでのこと」

 

悪びれもしない早雲の態度に信長はふんと鼻を鳴らす。

 

「…最後通告だ。あんたが俺らとの取引に応じ、手を貸すならただちに攻撃をやめる。可愛い娘…姉貴にも手は出させねえ」

 

曹操からの任務を受けた手前、形式上はと信長は提案する。サイン家と同様、曹操たち英雄派は天峰家に交渉を行ってきた。英雄派を名乗り、実力ある自分たちに六華閃の技術で作り出された武器を提供してほしいと。

 

六華閃は各神話勢力や組織とは距離を置き、武器職人たちとの独自のコミュニティを作っている。彼らのスタンスは同業の武器職人たちを守り、その文化を後世に伝え残していくこと。

 

そして、彼らが認めた心技体に優れた実力者に優秀な武器を作り提供すること。自分たちが作り上げた武器がそれにふさわしい使い手のもとで振るわれ、輝かしい功績を残すこと以上の喜びはない。

 

自分たちこそはと名乗りを上げ、直訴した曹操たちだったが彼らの悪行を良しとしないスダルシャナや早雲によってその要求は拒否された。その脅迫も含んだ仕返しにと彼らは攻撃を始めたのだ。

 

これまで顔を合わせず正座をしたままだった早雲が、腰を上げた。そして振り向き、鞘に収めた刀を握った。

 

「…井の中の蛙、大海を知らず。小童どもに貸す腕はない。スダルシャナが死んだとて、信念を曲げる気はない」

 

「そうか…だったらスダルシャナに会わせてやるよ!」

 

〈BGM:MASURAO(機動戦士ガンダムOO)〉

 

信長は腕を乱暴に振るって、宝石の礫を飛ばす。一発一発が命中すれば常人の体を抉り取るような威力を秘めたそれを、早雲は音もなく、目にもとまらぬ速度で刀を抜刀。すべて粉微塵に切り裂いて見せた。

 

「叢雲もそうだけど普通に俺の宝石をぶった切りやがる…」

 

「それが貴様の神器か。忌々しい他所の神の力だ」

 

「家から逃げ出した後に目覚めたもんでな!」

 

「ふん」

 

早雲は納刀しないまま、信長の方へと疾走する。対する信長もどうせ矢の雨で攻撃しても埒が明かないだろうと判断して帯刀した日本刀を抜き放って走り、やがて二人の打ち合いが始まる。

 

キン、キンと金属がぶつかり合う音がせわしなく響く。宙を切り裂き、相手の命を絶たんとする殺意のこもった刃の壮絶な打ち合いが繰り広げられる。

 

現叢雲以上に当主としての経験、研鑽を重ねた早雲の剣技は卓越していた。剣の腕で言えば完全に早雲の方が上だったが、その差をカバーするように神器を運用する信長はどうにか食らいついていた。

 

「動きに雑念が透けて見えるぞ」

 

「…うるせえよ!」

 

悪態をつきながら、信長は剣戟と宝石の弾丸を織り交ぜて迎撃する。そのすべてを容易く捌いて早雲は剣戟を繰り出す。

 

彼を攻める早雲のつけ入るスキのない苛烈な剣と、信長の復讐心の込められた一振り一振りが何度もぶつかり合い、弾かれてはまた巡り合う。そんな攻撃の余波で、周囲の物がスパンと切断され、あるいは弾け飛んだ。

 

「清廉潔白そのものなてめえの性格。だから妾の子だった俺を嫌ったんだろ?生涯たった一度の己の失敗、いや汚点を!」

 

「…そうだ。お前は私の失敗そのものだ。だから私のために、世のためにお前をここで消す!」

 

「俺の母さんに罪はねえだろうが!」

 

「…」

 

信長の叫びにごく僅かながら早雲の剣が乱れ、押し黙る。

 

「てめえが勝手に肉欲におぼれて、俺が生まれた!そしたら自分の失敗が恥ずかしいから妾と子を殺すってか!?てめえの責任を俺と母さんに押し付けてはいおしまいって言いてえのか!!」

 

「…!!」

 

彼の言葉が癇に障ったか、早雲のモーションがやや大振りなものになる。それを信長はしゃがんで躱し、腹に蹴りを入れる。

 

「ぬ」

 

「てめえの動作にも雑念が見えてきたぜ」

 

これまでの攻防で額に切り傷のできた信長が血を垂らしながらも不敵に笑う。そんな彼に嫌悪感で眉をひそめる早雲。

 

「お前に私の苦しみの何がわかるというのだ」

 

「知るか。逆にてめえは俺の苦しみがわかるっていうのかよ」

 

「戯言を。問答はいい、次の一撃でお前を斬り伏せる」

 

刀を納刀し、腰を落として構えなおす早雲。次の攻撃が必殺の一撃であることは容易に見て取れた。

 

信長も覚悟を決める。次の攻撃で自分は死ぬかもしれない、相手は自分より格上、絶体絶命の状況。だったらなおさら、状況をひっくり返す甲斐がある。自分の持てる全力で彼を倒せたなら、さぞ爽快だろう。

特に相手が格上かつ憎き父ならなおさらだ。

 

「…一瞬だ」

 

そう思った信長は高揚し、口角をニヤリと挙げた。

 

「この勝負は一瞬で終わる。見てろ、てめえの捨て子がてめえを超える瞬間を。その悔しさを噛みしめてあの世に逝きな」

 

刀を振って構え、低く腰を落とす。その意識は全て、目の前の早雲のみに向けられている。

 

「…そして、俺の母さんに詫びろ」

 

「…そうか」

 

信長の言葉に、早雲は怒りを見せずそれ以上何も言わなかった。

 

信長はこれまで心に押し込めてきた本心をつぶやく。自分を育て、あんな境遇でも愛し、命を懸けて逃がしてくれた母を殺した父が、信長は許せなかった。

 

早雲と信長、分かり合えなかった親子は同時に集中のために瞑目する。

 

「禁手《バランス・ブレイク》!」

 

「破神之太刀!!」

 

開眼、そして一撃。凄まじい余波が周囲の全てを飲み込み、まばゆい光と共に屋敷が吹き飛んだ。

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩壊した屋敷、最後に立っていたのは信長だった。一瞬ながらも大きな消耗に禁手は解除されて甲冑はボロボロになり、肩で息をしている。一方で早雲は仰向けで地面に身を投げ出したように倒れ、その腹部には大穴が開いていた。どう見ても致命傷で、助からない傷なのはすぐに理解できた。

 

「お前…最後の最後で、手を抜いたのか」

 

信長は息も絶え絶えに早雲に問う。最後の衝突で彼は確かに彼の攻撃が緩んだのを感じ取った。

 

「…すまなかった」

 

「!」

 

「失敗しないことが…汚点のない潔癖こそが…真の心の強さだと…思っていた。己の弱さを…認めたくなかった。そうでなければ…天峰家の当主足り得ないと。…私は…ずっと、迷い続けていた」

 

それはこれまで、妻にも娘にも打ち明けなかった彼の本心だった。

 

彼は二十歳で天峰家の当主となり、叢雲の名を刀と共に継承した時からずっと悩み続けていた。どうすれば歴史ある天峰家の当主に相応しい存在でいられるかを。日頃の所作、言葉遣い、生活習慣、外部との折衝、打った刀の出来、ありとあらゆる面で彼は歴代に恥じない存在であろうとした。

 

そうしなければ彼は誇りある家名に傷をつけてしまうと思っていた。責任感が強いばかりに彼の心は常に負担をかけられていた。そうして彼の心には歪みができた。それは冬に枯れ落ちる落ち葉のように日に日に積もっていった。

 

その歪みは、結婚して子をなしてから数年たった夜にある女性と出会ったことで爆発した。なんともないような妖怪退治で負傷した彼は、その傷すら許しがたいものに感じた。あの程度の妖怪に傷をつけられるようでは六華閃の名折れだと。

 

そんな彼を偶然見てしまったのが信長の母だった。事情を知らないながらも心優しい彼女の看病を受ける中で二人の間にある感情が芽生え、それは日を増して深くなっていく。天峰の事情も、彼のことを何も知らないからこそ、彼は己の本心を彼女に打ち明けることができた。それを受け入れ、認めてくれた彼女に早雲が好意を抱いたのは至極当然のことだった。

 

妻子持ちである彼にとって決してあってはならないことだった。だが早雲は自分を抑えることができず、やがて彼らは溢れ出す感情のままに身を交えた。

 

一夜の過ちで妾に子ができたと知った時、ようやく彼は正気に戻ったと同時に自分の行いを理解し、頭が冷えるのを感じた。このことが明るみに出れば鍛冶職人として最高峰に立つ天峰の権威が失墜してしまうのではと恐れた。

 

そして彼は子を宿した妾を秘匿した。監禁同然の待遇だったが、きちんと栄養ある食事を誰の手も借りず自ら提供し、外出は禁じたも生活には困らないようにしたのは彼のせめてもの良心だった。

 

しかし彼の恐怖心は日に日に増していった。発覚を恐れる心と、己の罪を打ち明け公にするべきであるという良心の葛藤は絶えず彼を苛んだ。そして疲れた彼は、妾とその子を疎んじるようになる。彼女らさえいなければと。それから次第に彼女らの待遇は悪化していった。

 

やがて正妻との間にできた今後当主の座を継ぐ娘が妾の子と会っているのを知ったことで、早雲の恐怖心は頂点に達し、いよいよ彼女らの殺害を決意する。

 

妾の殺害には成功するも、子には逃げられてしまった。追跡したかったが他人を通せば彼の行いが発覚するのは目に見えていたのでこれ以上手出しすることはできなかった。

 

「私は己の過ちを受け入れ…お前を認めるべきだった。体裁もなく、ただ一人の…父としてお前に…愛情を注いでやるべきだったのだ」

 

厳格な早雲の血濡れた頬に一粒の涙が走った。

 

そして今夜、信長と再会したことで早雲は自らの運命を悟った。自分はこれまでひた隠しにしてきた過ちに殺されるのだと。最初は前当主として彼を葬ろうと考えたが、刃を交える中で禁手に至るほどの子の成長を知った。

 

彼は喜んだ。自分の子が自分を相手に一歩も引かないレベルにまで強くなっているのだと。そして安堵した。ようやく楽になれると。これまで明かせなかった自分の罪が明らかになると思うと解放感を感じた。

 

「不甲斐ない…不器用で、愚かな父を…許…せ」

 

赦しを請う一言を残し、苦悩し続けた前当主はこと切れた。その死に顔は憑き物が取れたように安らかだった。

 

「…今更、そんなこと言ってんじゃねえよ」

 

早雲が残した最後の言葉に胸中を複雑な感情で乱しに乱された信長は、己の父の顔を見ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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早雲と信長が決着をつけた頃、叢雲たちの戦いも熾烈を極めていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

片膝をついて息を荒くする叢雲。高価な着物は使い物にならないほど破れ、汚れ、彼女自身も血にまみれていた。

 

「叢雲様!もうやめてください!」

 

「これ以上はあなたの体が…!」

 

門下生たちもこれ以上見ていられないと涙ながらに心配の声を上げる。最初の彼女の宣言通り、ジーク達に門下生たちに指一本手出しされることなく彼女は戦い抜いたのだ。

 

「二人がかりで禁手して、魔人化しても攻めきれないなんて…大概ね…」

 

「彼らを守りながらの戦いでなければやられていたのは僕たちだった…」

 

彼女と相対するジークとジャンヌもとっくに魔人化も禁手も解除され、身は傷だらけで息も絶え絶えの様子だ。

 

叢雲と戦いつつ時折門下生たちの方にも攻撃を飛ばすことで叢雲の隙を生もうとした。卑怯とののしられようと、勝つための戦術として使うことに彼らは何のためらいもない。しかしそれでも彼女を倒しきることはできなかった。

 

「終わったぜ」

 

ここからどう転んでいくか誰も想像できない状況下で、信長が重い足取りで現れる。傷だらけで、重苦しい表情にジークは一目で何があったのかを悟った。

 

「信長、目的は果たしたようだね」

 

「ああ。交渉は決裂し、前当主の首は取った。帰るぞ」

 

「そんな、父上…!」

 

信長の無情な知らせに、叢雲や門下生たちの顔が真っ青になる。叢雲たちを無視して通り過ぎ、信長はジーク達の方へ戻った。

 

「信長!どうしてこんな…っ」

 

涙交じりに叢雲が信長をなじる。彼によって辛い境遇を強いられてきたのはわかったが、なぜ実の父親を殺したのだと。そこまでする必要はなかったのではないかと。

 

「てめえの自業自得だよ。あいつは気づくのが遅すぎたんだ」

 

そんな叢雲の顔を一瞥することなく信長は冷たく言い放った。

 

「…俺は過ちの中から生まれた底辺みたいな存在。変えることのできない事実だ」

 

信長が叢雲に語り掛ける。同じ父から生まれ、真逆の境遇を生きてきた二人の視線が交錯する。

 

「だからこそ泥だらけになってでも、血みどろになってでも、英雄っていう輝かしい栄光を掴みたい。天峰の初代当主や、母さんの先祖のような栄光をな。こんな俺でも頂上まで行けるんだっていうことを証明したいんだよ。俺自身のために」

 

「…」

 

信長の信念と覚悟に叢雲は返す言葉もなかった。

 

彼はこの戦いで己のルーツを再認識した。そして悟る。己はどうあっても幸せになどなれないのだと。人並みの幸せを得ることができないなら、不浄な存在なりに挑戦し続けて、その最果ての頂を目指してやると。

 

今回の件で、彼はその覚悟をより一層固めることとなった。

 

「安心しろ、姉貴とまでやり合う気はねえよ。行くぜ、ジーク、ジャンヌ」

 

禁手を解除してこちらに背を向けるジークとジャンヌを引き連れて、去り行く信長。その後姿を悔しさはを噛みしめて、叢雲は睨みつける。彼女にはもう彼らを追撃する余力はなかった。

 




早雲は根っからのクズというわけではありません。真面目過ぎるがゆえに融通が利かない不器用な男なんです。

信長の禁手はまだ秘密です。今回信長の防御が破られたのはもちろん天峰の実力もありますが、この戦いで彼の心持が穏やかでなくどちらかというと攻撃の方に寄っていたのもあります。なので神器の防御力は落ちていますが攻撃力は上がっていました。

次回の更新は登場人物紹介4です。ドレイク関連や新しい英雄眼魂の設定を公開します。ドレイクのベルトの情報は公開しますが、ドレイク自身のキャラ紹介はまた別の機会にします。ポラリスの旅の集大成、ゼクスドライバーオリジンのチートっぷりが明らかになります。









次章予告

「学園祭が終わると何が始まると思う?」

学生の天敵、テスト期間が始まる。

「ドライグ、久しい」

世界最強の龍が、やってくる。

「ではお披露目しようか」

英雄派の脅威、再び。

「これが、英雄シグルドの力さ!」

英雄派の新たなる力が、立ちはだかる。

英雄集結編第三章 進級試験とウロボロス

「イッセーさん…?」


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