そして活動報告に裏話も投稿しています。今回は長めです。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
23.コロンブス
第136話 「二人の進展」
学園祭から数日後の休日、レーティングゲームに学園祭と立て続けに起こった賑やかなイベントの余韻も冷めて俺たちの日常は落ち着きを取り戻した。しかしこの日は、我が家はいつにもまして賑やかになっていた。
「え、隣町にうちら天界側の拠点があるの知らなかったの!?」
「初耳です…」
「私も初めて知ったよ。私たちが悪魔の仕事をしている間はそっちにいたんだね」
落ち着いたリビングのテーブルを囲んでお喋りするのは紫藤さんとアーシアさん、そしてゼノヴィアの教会コンビ。そう、兵藤家に住んでいる二人が今日は我が家に遊びに来たのだ。いつもなら人数の関係でこちらの方から兵藤家にお邪魔するところだが、今回は逆に向こうからやって来た。
朝から集まった三人は据え置き型のゲームで遊んだり、女子会らしく菓子を頬張って楽し気に談笑している。その様子を台所から微笑ましく眺めながら俺はお茶の用意を済ませた。
「お茶を持ってきたぞ、熱いから気をつけてな」
談笑する三人の前に俺は温かいお茶を出してあげる。親しい仲とはいえ、来客へのもてなしは必要だ。親しき中にも礼儀ありというしな。特にこの時期は寒いから、体をしっかりあっためて体調を崩さないようにしてあげないとだ。
「ありがとうございます」
「サンキュー!」
「ありがとう、君も話に混ざるといい」
「深海さんも私たちとお話ししましょう!」
「そうだな…それじゃ、遠慮なく」
仲睦まじい教会トリオの邪魔をすまいと空気になろうかと思っていたが、そう言われたら断る理由はない。
ゼノヴィアの勧めを受けてふわふわしたラグの上に腰を下ろし、俺も三人の会話の輪の中に混ざることにした。
「天界陣営の拠点ってことは、ミカエル様のAの紫藤さんがスタッフを仕切っているのか?」
「いやいや!私はそんな業務はまだ回ってこないわ、私よりも経験豊富なガブリエル様の御使いの方が責任者として赴任しているの。ね、ゼノヴィア」
「…そ、そうだね」
振られたゼノヴィアはどこかばつの悪そうな表情で答えた。悪魔になってからは天界側の者との付き合いはほとんどないだろうし、ということは教会時代の知り合いなのだろうか。
「ゼノヴィアのお知合いですか?」
「まあね、ところで他にはどんなスタッフがいるんだ?まさかここに来た実力者が君とあの人だけじゃないだろう?」
「ええ、他にもウリエル様の御使いも近々着任するそうよ?輝聖とその候補生も既にいるわ。今度みんなも顔出しに来てみない?」
「是非行ってみたいです!」
「随分手厚いな、俺も折角だし顔合わせしてみるか」
紫藤さんの話の中で俺もその実力者たちが気になってきた。東京の一地方都市にこれだけ戦力を寄こすとは、それだけ三大勢力がこの町を重視しているという証拠だ。ここにいる以上は顔合わせをしておいて損はないだろう。
「私は…」
「ゼノヴィアはなおさら来ないとだめよ、あの人心配してるんだからね?」
「…わかったよ」
紫藤さんの押しに渋々ながらと言った様子でゼノヴィアは頷いた。その人、とはただの知り合いという間柄ではなさそうだ。その人の話題になると彼女は引け目を感じているような顔を見せる。一体、どんな人物なのだろう。
「ところで、あれから二人の仲はどう?」
俺が気になるのはつい最近、正式に男女間の関係に進展した兵藤と部長さんのことだ。同じ兵藤家に住み、彼らの生活を見る機会の多い二人ならその変化をよく知っているのではないだろうか。
「それはもうラブラブよ!さっきも二人でお互いの名前を呼び合ってたもの!」
「はい、お二人とも幸せそうです!」
「そうか、それは結構なことじゃないか」
二人の話を振ると火がついたのか、楽しそうに語りだす紫藤さんとアーシアさん。紫藤さんはともかく教会育ちのアーシアさんにとっても恋バナは楽しいものらしい。
「今朝の朝食の時だってイッセー君の親御さんがいる前で盛り上がりかけてたし、ロスヴァイセ先生にバカップル呼ばわりもされてたわ」
「親と先生の前でイチャつくなんて大胆だな」
二人のエピソードに呆れながらも自然に笑みがこぼれる。二人が幸せそうで何よりだ。元々相思相愛だっただけにようやく思いが通じ合って結ばれた二人はさぞ幸せなことだろう。
しかし親御さんのいる前で盛り上がるとは、いよいよバカップルのそれだな。俺は人目に付くところでは盛り上がらないようにして、そのぶん二人しかいないところでしっかり盛り上がるからバカップルではない…と思いたい。
「でも、そういう二人だってそうなんじゃないの?」
「お二人の仲もとても良さそうです」
「え、ああ、そうだな。名前を呼び合うことに関しては最初から俺の名前で呼んでたな」
「そうだね、私は姓がないからゼノヴィアとしか呼びようがないしな」
教会の施設で育った彼女は姓を持たないので同居を始めた時からゼノヴィア呼びで、同時期に俺の呼ばれ方も悠呼びになったっけ。そこは俺たちの関係が進んだ今でも変わらない。
「…」
不意にアーシアさんがやや顔を俯かせる。何事だろうと思い声をかけようと口を開いた時、内心の羞恥を若干抑えきれてない赤い表情でアーシアさんが顔を上げた。
「その…実は私、お二人がキスしてる所も見てしまいました」
と、アーシアさんが恥ずかしさで口をこもらせながらも言うのだった。
なるほど、まだアーシアさんは男女のそういった行為に耐性がついてないから口にするのが恥ずかしかったんだな。なかなかにハーレムな環境にいてまだピュアを失っていないとは…もうそのまま心のピュアを持ち続けてほしいものだ。
「おお!告白の時に私たちがいてできなかった分やっていたんだね」
「実は私もこっそり見てたわ!もう本当に熱々よ!」
「あいつ、やるじゃないか」
アーシアさんの目撃談に俺たちのテンションはついに来たかと大いに上がった。キスといえば男女の深い信愛を象徴する行為だ。
そうか、兵藤も自分からするところまで進んだか。主と眷属という関係をいよいよ超えてきたな。これは面白くなってきたぞ。
そんな風に二人の話で盛り上がったところに、ゼノヴィアはグレモリーの『騎士』らしい深く切り込んだ話を始める。
「…そうか、それだけ愛し合ってるなら二人はもう初体験を済ませたのかな」
「ゼノヴィアさん!?」
何気なく放った彼女の発言がこの場をざわつかせた。教会育ちの彼女の浮世離れしたところは、男女の関係を学んだ今でも変わらずなのだ。
「ちょ!?わ、わからないけど、まあ、朱乃さんも含めて毎日何が起こってもわからないくらい求められてるくらいだし…」
天使らしく初心な反応をする紫藤さんは動揺で声を震わせる。
毎日ってことはもはや日課になってないか?逆によくそんな環境にいながらであいつの性欲が暴走しなかったな。レイナーレのトラウマがうまいことストッパーになっていた、と考えるべきか。
「悠はどう思う?」
「へ!?」
唐突な話題というボールのパスに俺は面食らった。
ゼノヴィアと二人っきりでその手の話題を話すのはまだ大丈夫だが、人前ではっきり言うのは恥ずかしいな…。
「あ、あの、いやあいつのことだからもしそうなったら俺に言ってきそうな気はするかな…」
レイナーレの時に俺に彼女ができたと言ってくるくらいだから、仮に童貞卒業してもこちらに話してくるのではなかろうか。友人の性事情を知るのは中々に反応に困るものだが。
「それならまだだな。…レイナーレという堕天使の件もある。まだ時間がかかりそうかな」
「でも、確実に進歩していると思います」
まだまだ俺たちはあいつのトラウマに気付き、あいつ自身もトラウマに向き合い始めたばかりなのだ。進歩はしたとは言え、心的外傷の完全な克服にはまだ時間が必要だろう。部長さんとの関係で完治に至ればいいのだが…。
とは言え二人の関係は大きく変わった。一度は喧嘩もしたが今の様子を見ればまさしく雨降って地固まると言える。そのきっかけとなったのはやはり。
「やっぱりサイラオーグとの戦いが大きいだろうな。テンションが上がってあんな告白もしたし」
「そうね、私もあれを見たときは叫びたいくらいにときめいちゃったわ!」
「私はやっとイッセーさんがレイナーレさんのことを乗り越えたんだって思って、涙がこぼれました」
白熱したあのゲームを振り返ると自然とみんなの表情が破顔する。
本当にあのゲームはよかったと今でも思っている。純粋な観客目線としても盛り上がる試合だったと思うし、何より身内としてはあいつが大きな一歩を踏み出すきっかけとなった出来事になった。
学祭にバアル戦、一週間の間にこんなに濃密なイベントが起こるとは、まだ二週間足らずは残っているが劇的な盛り上がりを見せた一か月だった。4月からこれまでもそうだったが、この世界に来てからと言うもの毎度毎度予測不能な出来事が起きてばかりだ。
「…しかし、ああいうカップルこそセックスにはまるとすごいらしいな。私も最初は勢いと子作りの練習のつもりだったんだが…いざやってみると…かなり、ハマってしまってな」
と、話の中で程よい温度になったお茶を啜って真剣な表情で語るゼノヴィア。
うん、本当に彼女の言う通りなんだよな。明らかに初めての時と比べて今は勢いと熱がすごい。
普通のカップルは家族がいたりして行為の頻度が少なく機会が限られているが、自分たちは同居して家族もいない完全にフリーの空間だからストッパーがないおかげで、本当にやりたい放題になっているのだ。特にゼノヴィアは悪魔だから夜に強く、体力もあるのでともすれば一晩中いけてしまうのではないかと思うほどだった。
俺も好きな女の子とエッチなことができるのは嬉しいからまんざらでもないけど…おかげで時々寝不足になる朝が増えた。幸せだから特に気にしてないが。
…あれ、あの二人の場合って家族はいるけど部屋はたくさんあるし同居してるから俺らと大して変わらないことになるんじゃないか?
「そ、そこまで言わなくていいわよ!?」
「私の場合は今まで教会の戦士として、女らしさを捨てていた反動もあるかもだけど…アーシアやイリナも私のようになるかもしれないね。まあイリナはどことなくむっつりなところがあるけど」
「私はむっつりじゃないからね!?」
なんだろう、学内での紫藤さんもゼノヴィアに負けず劣らずぶっ飛んだところがあるが、二人とのコンビになるとツッコミ役になって相対的にまともに見えてしまう。
「わ、私もイッセーさんと…」
何を想像したのか、アーシアさんの顔が熟していくリンゴの果実のように赤くなっていく。
まずいまずい、これ以上下の話をして純真なアーシアさんを穢さないでくれ!能力もだけどグレモリーにとって純粋な癒しのような存在なんだ!
なんとなく、学校で純粋なアーシアさんを性魔人と呼ばれる兵藤達から遠ざけようとする女子の気持がわかるような気がした。
「天使にとってはいい話じゃないけど…わ、私も女の子としてゼノヴィアの話をちゃんと聞いた方がいいのかしら…?」
困惑する紫藤さんも一周回ってきちんと話を聞くべきかと首を傾けて悩み始めた。そこ深堀すると堕天するけどいいのか?ミカエル様のAなのに堕天していいのか!?
「い、イッセーさんを…私も朱乃さんのようなテクニックがあればイッセーさんを魅了できるでしょうか」
「そうだね、性のテクニックは男女の仲に深く影響すると桐生も言っていたぞ」
おい、また変なことを吹き込んだのかあのエロメガネは。あながち間違いではないが。
「そうなんですね…ゼノヴィアさん、私に男性の方を魅了するテクニックを教えてください!朱乃さんよりももっと、イッセーさんを魅了して見せます!」
なんと、部長さんと愛を深める兵藤を見て焦ったのかアーシアさんは半ばやけくそにも見える申し出をゼノヴィアにした。
「なに、ちょ!?」
「アーシア!?」
いよいよ暴走しかけたアーシアさんとゼノヴィアを俺と紫藤さんの二人で全力で止めるのだった。部長さんたちと暮らす中でアーシアさんも悪魔らしく、より普通の年相応の女子らしくなったようだ。いい方にも、変な方にも。
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その日の深夜、俺たちオカ研とその顧問のアザゼル先生たちを含めた面々が兵藤家上階にあるVIPルームに集合した。
その理由は魔王サーゼクス様とその『女王』であるグレイフィアさんが来訪され、直々に中級悪魔昇格試験の説明をなさるからだ。わざわざ魔王様が来られなくともいいだろうに来るとは、それだけ妹の眷属悪魔も大事な存在であり、注目しているという証拠だろうか。
当然ながら兵藤、木場、朱乃さんの三人はサーゼクス様の前で昇格試験の受験を了承した。
試験日は来週、内容は悪魔界の基礎知識とその応用、レーティングゲームに関する知識を問う筆記試験とこれまでの経験を踏まえて中級悪魔になったら何をしたいかという内容でレポートを書くというもの。
最近は人間からの転生悪魔が増えているので試験形式や内容も人間界に倣ったものになっているという。
最後に実技もあるが、これはもう三人の実力を考えれば対策無用ということでとにかく筆記試験の対策に注力することになる。兵藤は不安そうにしていたが、部長さんたちのサポートがあればどうにかなるだろうという見通しが立てられている。
ちなみに試験に落ちても推薦が取り消しされることはなく、何度も挑戦できるという。人間界の試験をまねていると言っても大学受験や高校受験と比べればかなり優しいように思える。
「…ところでサーゼクス様」
「何かな?」
試験の説明が終了したタイミングを見計らって俺はサーゼクス様に問いかける。せっかく来られたのだから、直接どうしても聞いておきたいことがある。
「アルギス・アンドロマリウスの件ですが、その後奴らの足取りは?」
ポラリスさんによって決められた今月末までの期限がいよいよ近づこうとしている。いつ奴らと遭遇できるかわからない以上、奴らのアジトに攻め入る算段がつかなければ非常に危うい。
不安と焦りは日に日に増している。突破口を見つけるために半分藁にも縋る思いで俺は訊くが。
「若手悪魔のパーティーでの事件以来旧アンドロマリウス領の調査も行ったが、どこにも彼らの手掛かりはなかった。ただ、これまで彼らが旧魔王派を名乗って起こしたテロがどこも冥界で起こっていることを考えると…古い悪魔の方々が協力して彼らを匿っている可能性が高い。ポラリスのデータによれば、神竜戦争時代から生きている古い悪魔の方々がディンギルと通じている疑いがあるようだ」
と、サーゼクス様の返答は芳しいものではなかった。
「古い悪魔の方々が関わっているなら、お兄様でも迂闊に手出しはできませんわ」
「アルルの奴、考えたな。政治的な面も絡む以上は誰もが納得させられる確固たる証拠がないとメスを入れられないな」
「これほどまでに私の非力さを呪ったことはないよ。魔王という肩書は万能ではないね」
サーゼクス様、部長さん、そしてアザゼル先生の三人は一様に難しい表情を浮かべて唸る。俺以上に悪魔社会への理解がある三人は特にその状況の難しさを理解していることだろう。
「そうですか…」
失礼だとわかっているが、俺は胸中の失望を隠しきれずに顔を俯ける。悪魔社会の頂点である魔王、中でも特別な存在であるルシファーを継いだサーゼクス様をもってしても、彼よりも長生きで強い影響力を持ち続ける老獪の対処は困難か。
「アルルが君の妹に憑依していることは聞いている。同じ兄として君を助けてあげたいのだが…済まないね」
「そんな…悪いのはサーゼクス様ではありませんよ」
魔王たるサーゼクス様に詫びの言葉まで言わせてはいよいよこちらが気まずい。そう、あくまで悪いのはアルルだ。俺の妹の体を好き勝手に使い、全勢力に迷惑をかけようとしているのだからな。
しかしアジトが冥界にあるのはほぼ確定だろうが、サーゼクス様の力だけでは進展は難しいか。それならば一度ポラリスさんに掛け合ってみるか。あの人の情報収集能力なら怪しい悪魔を調べ上げてしっぽを掴めるかもしれない。
ただ問題はあの人が最近とても忙しそうにしているという点だ。果たして今掛け合ったところであの人の協力を得られるかどうか…一度ダメもとで試してみるしかない。
「勿論それも気になるが、俺としてはポラリスのもとにいるもう一人の赤龍帝が気になるな」
「深海君の報告にあった、彼のことか」
アザゼル先生が話題に挙げたのはもう一人の赤龍帝こと、謎の男、ドレイク。ポラリスの部下でありゼクスドライバーオリジンなるレジスタンスの秘密兵器を持つ実力者だ。
「イッセー君が戦っている間にそんなことがあったなんて夢にも思いませんでしたわ」
「あなたは彼と会って、アルギスたちを撃退したのよね。どんな人物だったの?」
そう部長さんに尋ねられる。この場で彼と会ったのは俺一人だけだからだ。
「…自信なさげな性格だけど、倍加の能力も使っていてかなり強かったですね。素顔はやはりマスクをつけていて見れませんでした」
今の俺が持ち得る情報はこれだけだ。同じレジスタンスに所属しているのに、俺は今まで全く彼と面識がなかった。となると、俺とゼノヴィアが加入した後に入って来た新入りか?
だが秘密主義のポラリスさんが引き入れる人材とは一体どんな人物なのか、そしてなぜ彼はテスターに選ばれたのか。考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。
「やはり身元に繋がる情報はないか」
「…ドライグはどう思う?」
『まだあの戦士の勢力が味方、と認識していいのかは判断しかねるが、個人としてはあまりいい気分ではないな。赤龍帝は相棒、お前一人で十分だ』
兵藤が左腕に語り掛けると、手の甲で緑の光が点滅してドライグがみんなに聞こえる声で彼の考えを話した。
「ドライグ…!」
「しっかりドライグに認められてるみたいだね」
相棒でもある彼から寄せられた信頼を感じ取った兵藤は感極まったように口元を緩ませた。これまでの戦いの中で良好な関係を気づけているようだ。
「ふっ、しかしポラリスの奴、赤龍帝の鎧と宝玉から力を解析してちょっとしたコピー品を作れてしまうとは…技術者としてトンでもねえ奴だ。俺ですら人工神滅具には程遠いってのによ。こんな奴がいながらどこの勢力も気づかなかったとは驚きだな」
「全くだ。素性が見えないおかげで敵か味方か判断しにくい部分もあるが、ディンギルや禍の団に対抗する頼もしい味方として正式な協力関係を築きたいと思っているがね」
「でも、俺たちが曹操やシャルバと戦った時は手助けしてくれなかったんですよね」
「ロキの時に来てくれたのはアルルが関係していたから、でしたね」
と、口を挟む兵藤と木場。そう、彼女の目的はディンギルを倒すことで禍の団と戦い世界の秩序を維持することではない。俺にはよくわからないがアルル達が絡むイレギュラーが発生すればロキの時のように手助けしてくれるだろうが、こちらから応援を求めることはできない。
「やはり、彼の目的はあくまで対ディンギルということだろうか」
「俺はディンギルとの戦いが本格化すれば向こうから明かしてくれるんじゃないかと思っているが…今は向こうの出方を待つしかねえな」
「そうだな、私も一度話してみたいものだよ」
アザゼル先生とサーゼクス様、かつては敵対していた勢力のトップは彼女との対話を望んでいる。俺もポラリスさんが腹を割って表に出てくる時を楽しみに待っているが…いつになることやら。
「…話がまとまったようなので、そろそろ私はお暇します」
話がひと段落ついたところでロスヴァイセ先生はそう言って立ち上がる。よく見ると部屋着や教員として勤務する際のスーツ姿ではなくこれから寒い夜に防寒をしっかりした外出用の服を着ていた。
「例の件ね。アテが見つかったの?」
「はい、北欧に一度戻って、ヴァルキリー候補生時代の先輩に防御魔法を習おうかと。これからの戦いに備えて、『戦車』の防御の特性を高めるべきだと思ったので」
声をかける部長さんにこくりとロスヴァイセ先生は首を縦に振る。
ロスヴァイセ先生も眷属の中でも上位に入る火力を持っているから、パワーアップのための修行の必要性をあまり感じなかったがなるほど、
しかし先生の話で興味深いワードが出てきた。
「候補生?」
「ヴァルキリーの養成所…システムで言うなら単位制なので日本の大学のようなものでしょうか。そこで私は攻撃魔法の単位を重点的に取っていたのですが、仇になりましたね。サイラオーグ戦でそれを思い知りました」
ヴァルキリーに学校みたいなものがあるとは初耳だ。俺は今までヴァルキリーというものが神話に登場するような神に仕える由緒正しい存在のイメージを持っていたが、学校のような俗っぽいシステムが導入されてそこから輩出されるとは考えもしなかった。
…由緒正しいかと言えば、今までのロスヴァイセ先生の酒癖やオーディン様への反応を見て疑わしいと感じていた部分もあるが。
「うちのチームは魔法の使い手がロスヴァイセしかいないからな。ギャスパーは魔法と言うには少しベクトルが違うが…魔法を伸ばすなら『兵士』か『僧侶』の駒がよかったが、それを悔いても仕方ない。チームの火力はバカ高く、まさしく脳筋だがその反面防御力が薄く、戦術やハメ技に弱い。事実、過去の試合でもその弱点を突かれているしな。その弱点を魔法でカバーできればもっと上を目指せる」
レーティングゲームのファンとして知識豊富な先生はチームの現状の所見を述べる。俺はゲームに参戦する正式な眷属ではないとはいっても、実戦ではみんなと肩を並べる身としては考えるところがある。
特に曹操は単体の戦闘力も高く、頭もキレる相手だ。今後の戦いで真正面からぶつかってくるこちらをハメる神器使いを用意する可能性は決して低くない。ゲームと違い実戦は命がけだ。弱点を突かれたときの対策ができなければ死あるのみ。なんとしてもこの問題は解決するべきだ。
「だが火力特化のチームの方が好みなファンも多い。派手な攻撃、戦いは子ども受けもいい。シトリーやアガレスのような火力は控えめだが戦略に長けたチームはどちらかというと玄人向けだからね」
「そうだな、まあ今の脳筋スタイルも弱点はあるが悪くはないと思うぜ。将来のプロ戦も盛り上がるだろうよ」
サーゼクス様やアザゼル先生の意見を裏付けるように、サイラオーグVS兵藤の試合は最大級の盛り上がりを見せていた。バ火力とバ火力の戦いはあまり深く考えずに試合を観るライトな層の受けもいいのだと俺はあの会場で肌身で感じ取った。
「でもいずれにせよ弱点のカバーは必要よ。そういうわけでロスヴァイセ、存分に魔法を伸ばしてちょうだい」
「ありがとうございます。中間テストの問題用紙は既に作成済みなのでご心配なく」
「げ、中間テストがあるんだった!」
中間テストという嫌な響きの言葉に声を上げて口をかっぴらく兵藤。そう、これだけ楽しいイベントの後には中間テストが控えているのだ。祭りの余韻がいつまでも続かず生徒たちの気が緩まないのはテストがあるからと言っても過言ではない。
俺も頑張らないとなぁ…特にゼノヴィアは国語が苦手なところもあるからフォローもしてあげないとだ。
「…そうだ。レイヴェル、例の件だが承諾してくれるだろうか?」
「もちろんですわ、魔王様直々の頼みとあらば是非」
「ありがとう、助かるよ」
自信たっぷりの表情でレイヴェルさんは快諾する。サーゼクス様も彼女ににこやかな笑みを返した。
「サーゼクス様、例の件って…」
と、おずおずと話に入る兵藤。俺も気になるぞ、レイヴェルさんとサーゼクス様の間で何が話されたのか。
「ああ、レイヴェルにイッセー君のマネージャーをしてもらおうという話だよ」
「マネージャーですか!?」
兵藤すら知らなかったようで、驚きの声を上げた。俺も驚いた。兵藤が有名人になっているのはもちろん知っていたが、まさかマネージャーが付くという芸能人のような待遇になろうとは。
「これまではグレイフィアがグレモリー眷属のスケジュール管理をしてきたが、知名度が上がるにつれて彼女の身一つでは細かい面で対応しきれなくなると思ってね。人間界の学校の授業でも、冥界での活動でも。特にイッセー君に関してはそれが顕著になると思い、冥界の事情に精通し、人間界で勉強中のレイヴェルにそれを任せようということになったのだよ」
何気なくサーゼクス様は言うが、9人のスケジュールをグレイフィアさんたった一人で管理していたのか?日々のメイドの業務や魔王の『女王』としても忙しいだろうにとんでもないハードワークをこなされているのか。
「グレイフィアさん、すごい方なのね…」
「グレモリーのメイドとして、魔王様の『女王』として当然のことです」
本人はこれといって自慢するわけでもなく、さも日常の一部でありどうということはないような様子だ。
俺は改めて魔王ルシファーの『女王』のすごさを認識するのだった。俺だったらこなしきれずに心が折れる。
「早速だが、イッセー君の昇格試験のサポートをお願いしてもいいだろうか。中間テストは…学年が違うからリアスたちがサポートしてくれるのかな?」
「はい、私がしっかりイッセー様を合格に導いて差し上げますわ!早速必要な資料を集めてきますわね!」
「ありがとう」
やる気たっぷりのレイヴェルさんにサーゼクス様は任せてよかったとにこやかにほほ笑んだ。
「頼もしいなぁ、レイヴェルばかり頑張らせるわけにはいかねえ、俺も頑張らないとな!」
レイヴェルさんの姿勢に火が付いたのか、兵藤もやる気がわいてきたようだ。中級悪魔昇格試験に中間テスト、面倒ごとばかりだがグダグダしているわけにはいかない。
ここはひとつ、俺も中間テストを気合入れてやっていこうかな。
「ほー、やる気いっぱいで何よりじゃねえか。小猫、油断しているとイッセーをレイヴェルに取られちまうぞ?」
「…」
おちょくるようなアザゼル先生の物言いに、塔城さんはどこか心ここにあらずと言った様子だった。
おかしいな、いつもならとげのある言葉の一つや二つ返すところだろうにノーリアクションとは。
その時、俺たちは気づかなかった。いつもと違う彼女の反応は、彼女のみにすでに起こっていた異変の片鱗だったことに。
次回、「学生の天敵」