ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第140話「英雄派、再び」

荒涼とした風が、冬の寒さを乗せて山肌を撫でて枯れゆく落ち葉を纏う木々を揺らす。ぬかるんだ土を踏みしめて、生い茂った木々の間から闇に紛れる黒いスーツに身を包んだ二人の男女はかつて栄光を築いた皇帝の陵墓を見下ろす。

 

クレプスと大和。禍の団の一大派閥、旧魔王派に属する二人は任務で中国の秦の始皇帝陵墓を訪れていた。

 

「奈良の遺跡で見つけた資料によれば、ここに仮面がある可能性が高いわ」

 

大和の隣で静かにたたずむクレプスが夜の静けさに溶け込むような落ち着いた声色で言う。彼女は奈良の遺跡での一件で神祖の嫉妬の仮面を手にすることはできなかった代わりに他の仮面の在り処に繋がる手掛かりを入手することができていた。

 

アジトに帰還した後で、旧魔王派が抱え込む研究員たちと共に調べ上げた結果示された場所がここ、中国の秦の始皇帝陵墓だったのだ。

 

冷静に任務にあたるクレプスと対照に、大和の心情は穏やかではなかった。

 

奈良の遺跡、その言葉は大和の脳裏に惨劇の記憶を思い起こさせる。それと同時に沸き立つ感情に震える声で、彼はそれ以来幾度となくぶつけてきた疑問を再び彼女に問う。

 

「…どうして殺した」

 

「まだ引きずっているの?」

 

その言葉が意味するものをすぐにクレプスは理解した。奈良の遺跡から撤退した後、意識が戻った大和から日がな一日中追及され続けたからだ。

 

その素っ気ない返答が、彼の心にふつふつと燃える怒りの火に巻きをくべる。

 

「どうしてそう平然と人を殺せる!?どうして…!!」

 

静かな夜に声を荒げて、大和はクレプスにざっと詰め寄った。

 

彼がフランス外人部隊にいた頃に戦場に赴き、命のやり取りをしたことは何度もあった。戦場という極限の状況下で当然敵兵を射殺したこともあったし、同じ釜の飯を食った仲間を失うこともあった。

 

だからこそ彼は命の重さというものを重々承知していた。軽い引き金によって、重い命は容易に奪える。戦場という仕方ない状況はあっても、それは本来忌避すべきことなのだと。

 

旧魔王派に命じられてディオドラが起こしたテロにおいて現魔王派と交戦し狙撃した時も、彼の心には常に命を奪うことへの罪悪感があった。だが少しの気のゆるみが命取りになる戦場で一々心を痛める余裕はなく、それをどうにか心の隅に追いやって彼は戦い抜いた。

 

今回の件では、もちろん殺されたのが幼馴染の両親という身近な存在であることも怒りの理由になっていたが、何より命を軽々しく奪った彼女の冷徹さが許せなかった。殺生という己の行いを何とも思わず、ともすれば簡単に忘れてしまいそうな彼女の態度、命というものを理解していない彼女の言動への怒りが彼を突き動かしていた。

 

「邪魔だった、それ以外に理由が必要なの?」

 

「邪魔なだけで殺すだと…」

 

あくまでクレプスの反応は冷たいものだった。彼女の性格をよく表し、かつ自分の価値観が理解できないと声を大にして叫ぶような返答に彼の表情は引きつり、怒りの中に理解不能なものに対する恐れが混じり声が震える。

 

「お前たち悪魔は…みんなそうなのか…!?」

 

「ええ、そうよ。中二病を患っていたあなたなら、本物の悪魔は知らずともよく書物で伝承を調べたでしょう。悪魔がどういう生き物なのかを。まさか、こんなはずじゃないなんて言わないでしょうね?」

 

「…だが、お前たち悪魔にも心がある。なら…!」

 

心があれば痛みを感じるはず。アジトの食堂で働く悪魔と何度も気軽に会話を交わしてきた中で、彼は悪魔も人間と変わらない存在だと感じてきた。伝承で聞いた残酷な悪魔のイメージとはかけ離れた彼女らには彼女らの事情があり、家族を生かし、自分も生きるのに必死だ。彼女らの姿は家族のために後ろめたいものに足を入れた自分と全く同じだった。

 

当然、テロ組織なだけあって粗野な悪魔の兵士もいたが、軍隊に勤めそういった気風には慣れている大和と言葉を交わしてみれば案外気の合う連中も大勢いた。悪魔も人も、同じ心があるのだと彼は思ってきた。

 

だが、今回のクレプスの行動はそんな彼の認識を大きく揺るがすものだった。

 

「…あなた、過去にリアス・グレモリーたちと接触したそうね」

 

「だったらどうした」

 

クレプスは彼が過去に駒王町に帰郷した際に、リアスたちと偶然ながらも接触し悪魔の実在を知ったことを把握していた。そこでどんな会話を交わしたかまでは知らないが、そのような出来事があったと三大勢力の和平以来、増員された悪魔のスタッフに紛れ込んだスパイから情報を得ていた。

 

「彼女だって私たちと何ら変わりないわ。目的のためなら、大義のためなら容赦なく命を殺めることができる。悪魔とは己のために生き、己の欲を満たすために行動する生き物よ。外面は良くても大義を為し、社会に認められたいという欲望に生きているという点では、なんら悪魔の本質から外れることはない」

 

「なに…?」

 

「他者はあくまで己の利になるように利用するために存在していると考えているの。命の価値観も人間以上に冷めているわ。現に旧魔王派の兵士たちが虫けらのように軽々と彼女らに殺されたものね。もし、他の悪魔たちと接してわかり合えたつもりなら大間違いよ。あなた、悪魔という種族を何もわかっていないわね」

 

「…!」

 

冷淡に現実を突きつける物言いに、大和は気圧される。しかしそれでもと彼女の理屈にあらがう大和の脳裏には、かつて幼い弟とよく遊んでいた一誠の姿があった。

 

長い時を経て、久しぶりに会った彼は何ら変わりない性格で今でも最愛の家族である弟と遊んでくれているという。少しスケベなところが目には着くが、それでも彼の優しさは昔と変わるものではなかった。

 

「だが、一誠君は…」

 

「彼なんて一番悪魔に相応しいわ。悪魔になる前から思春期真っ盛りで、性欲を持て余した彼は悪魔になってからは同じ悪魔の女子に詰め寄られて、色欲の限りを尽くしていることでしょうね。もしかして、彼だけは人間だった時と変わらないとでも思っていたの?昔と同じ、優しいままの彼だと」

 

その希望を無残にへし折るように無知な大和をあざ笑うような冷たい笑みをたたえて彼女はかぶりを振った。

 

「むしろ、彼は今まで以上に欲望のままに生きているわ。悪魔になったことで戦いに身を投じ、敵の命だって平然と奪えるようにもなった。彼は堕落したの」

 

「…嘘だ」

 

「嘘じゃないわ。子供の時から大人になるまで、ずっと変わらない人間なんていないのよ。種族が変わり、肉体の変化と同時に異なる価値観に取り込まれれば猶更ね。それに悪魔は人間を誑かし、堕落させる存在よ。そんな存在をあなたの大事な弟さんや幼馴染たちの周りにおいていいのかしら?」

 

「それは…!!」

 

即座に否定され、いよいよ大和は返す言葉を失った。考えたくもない無数の現実を彼にありありと突きつけてくるような彼女の理屈を否定することはできなかった。

 

もし彼女の言うことが本当なら、飛鳥や綾瀬も彼ら悪魔の手によって危機に陥ってしまうかもしれない。彼女の言うことが100%真実であるという保証はどこにもないが、彼女の凶行を目の前で目撃してしまった以上は…。

 

クレプスの冷たい言葉は、残酷な現実に揺れる彼の胸中に疑念の種を植え付けるには十分だった。

 

「それに、あなただって私たちと同じじゃない」

 

「何?」

 

「あなたも弟や家族を守るという大義のために、高校時代は喧嘩に明け暮れて多くの人を傷つけていたのでしょう?あなたは家族を守りたいという欲望に生きてきた。リアス・グレモリーや私たち悪魔と何の違いがあるというの?」

 

「!」

 

図星ともいえる指摘に、大和は何も言い返せなかった。大和はクレプスが指摘した通りの人生を今まで送って来た。禍の団に属してなお彼が生きようと思えるのは、家族の存在、家族への愛あってこそだ。

大金を稼いで、入院中の母の病気を治し、弟を進学させてやるために彼は身を粉にして働いてきた。

 

だがそれは言い換えれば、彼の中には家族にいい思いをさせてやりたい、家族の幸せを守りたいという欲望があり、それを満たしたい一心で動いているということに他ならない。それはクレプスの言う悪魔は己の欲望のために生きているという言葉とどんな違いがあるというのか。

 

「俺は…」

 

クレプスにこうもあっさりと論破され、大和の心は折れそうになった。彼は心のどこかで、こんな先の見通せない状況だがどうにかなると思っていた。食堂のおばちゃんと仲良くできたように、いつかはクレプスと心を通わせられ、状況をよくできるのではないかと。

 

だが現実は違った。彼は悪魔のテロ組織に身を置きながらも、悪魔という種を甘く見すぎていた。いや、一番大きな違いを見落としていた。その価値観は、人間と隔絶したもので命の重みを知る彼には到底受け入れられるものではない。

 

自分はもちろん、すでに大事な人たちにもそんな悪魔の手は伸びていた。もう誰も、彼とその家族、大事な人を助けてくれるものはどこにもいないのではないか。かつて仲良くしていた一誠も、もう昔のように信じることができないかもしれない。

 

それに、自分が手を下したわけではないが綾瀬の父の死に関与してしまっている。クレプスの凶行を止められなかった自分が、どの面下げて飛鳥とその大事な人である綾瀬に顔向けできようか。

 

疑念は絶望となり、暗い夜よりも濃厚な闇となって彼の心に巣くう。そして彼は悟る。

 

ああ、自分は孤独なのだと。

 

「あなたはただ何も考えずに私の指示に従っていればいい。そうすればあなたの家族は幸せになり、傷つくのは自分だけで済む。あなたはこれまでそう生きてきたのでしょう?これからも、家族のために身を粉にして尽くすという欲望のままに生きればいい。一体何が不満だというの?」

 

そんな深い絶望に囚われようとする彼の胸中を見透かしたように、彼女はそっと近づいて彼の耳元で甘くささやく。それはまさしく、悪魔のささやきだった。

 

「…話はそこまでにして、早く調査を始めましょう。仮面を確保できなければ、今度こそ私とあなたの首が飛ぶわ」

 

「…」

 

今の彼には、彼女の指示通りに動く以外の選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ってなわけで、試験お疲れさん!乾杯!」

 

俺たちを引率するアザゼル先生が愉快気にワインの注がれたグラスを掲げる。

 

長い長い退屈な待ち時間を経て、ようやく試験から帰って来た兵藤たちと一緒にホテル内のレストランで食事をとることになった。

 

中には当然、人間界にはないような異様な料理も紛れている。部長さんやアザゼル先生たち悪魔文化に慣れ親しんだ異形は普通に食しているが、俺と天使の紫藤さんにはそれを食べる勇気はない。

 

「うまいな」

 

もちろん人間界と同じ料理もあるので、必然的にそれを食べることになるのだがこれがまた美味しい。特にこのパエリアは中々に味付けもよく、スプーンがどんどん進む。それ以外もシェフの腕前の良さが見える料理の数々だ。

 

「ゼノヴィアちゃん、ケチャップが口元についていますわ」

 

「む」

 

向かいに座るゼノヴィアが、その隣の朱乃さんの指摘を受けてぺろりと口元についたケチャップを舐める。美味しい料理に舌鼓を打ちながら彼女の可愛いシーンを見られるとはなんと幸せなことか。

 

「朱乃さんもお疲れ様です。どうでした?」

 

「試験勉強の甲斐あってすらすら問題を解けましたわ。実技も難なくといったところですわね」

 

「自信大ありってところですね」

 

朱乃さんや木場は問題ないと前から思っていたが、兵藤も筆記の手ごたえはそこそこあったらしい。これは全員合格待ったなしだな。一安心だ。

 

「朱乃副部長、私が昇格するときは是非勉強を教えてくれ」

 

と、ゼノヴィアが割と真剣なまなざしで朱乃さんに頼み込む。待ち時間も自分が昇格する時の勉強が心配だと怖がっていたからな。

 

「もちろんですわ、かわいい後輩の世話をするのは先輩の務めですもの。それにゼノヴィアちゃんには色々お世話になってるものね?」

 

「ああ、あれのことか。私でよければ何でも聞いてくれ」

 

「うふふ、ゼノヴィアちゃんに教えてもらったテクでイッセー君を落として見せますわ」

 

妖艶な笑みを浮かべながら、朱乃さんは自身の隣の木場、さらにその隣でおいしそうに料理を食べる兵藤をちらりと意味深に一瞥した。

 

えっ、ゼノヴィアと朱乃さんが俺の知らない所でそんなことを…?

 

「我、じーっとドライグを観察する」

 

静かに朱乃さんが兵藤を狙うように彼を見つめる視線がもう一つ。オーフィスも食事に参加し、はむはむと肉を食べながらも天龍の観察を継続していた。これだけ見るとかわいい生き物のように見えてくるがテロリストの親玉だからな。油断はできない。

 

「グレモリー眷属の中でもイッセーと木場は飛びぬけているな」

 

試験が終わって賑わう会話の中で、そう二人を評したのは俺の隣に座るアザゼル先生だった。結構酒が入ったからか、ほんのり顔が赤くなっている。これからサーゼクス様に会うというのにこの酔っぱらいは全く…。

 

「イッセーは神滅具の赤龍帝の籠手を持ち、さらには覇龍を超えて歴代とは異なる更なる進化を遂げようとしている。そして木場は元々の才能に加えて後付けで聖剣の力に目覚め、聖魔剣なんて前例のないものを発現させた。どちらも未だかつてないものを生み出しているんだよ。そしてそのお前ら二人はまだ発展途上かつ互いにトレーニングで高め合ってるときた。ぶっちゃけ、リアスのプロデビューよりも先に最上級悪魔になってもおかしくないくらいだ」

 

「…僕の力だけではありません。イッセー君のおかげですよ。トレーニングの相手として、天龍の彼以上の存在はいません。イッセー君とトレーニングできるだけで光栄です。それに、深海君が色々な戦い方ができるので、彼にもかなり助けられてます」

 

面と向かって今まで多くの神器所有者を見てきたであろうアザゼル先生から絶賛の言葉をもらってなお、木場は驕ることなく謙虚に返す。

 

「いやいや、こっちもいい相手になってくれるからお互い様だよ」

 

「そ、そんな照れくさいことを言うなよ…ま、俺もテクニックタイプが苦手だからそのタイプの天才なお前がいてくれて助かるよ」

 

兵藤も間近で木場に褒められて、まんざらでもなさそうに苦笑した。

 

「いや、お前の弱点はもう一つある。スタミナだ。お前が目覚めたトリアイナと真『女王』はどちらもスタミナとオーラの消費が激しすぎる。お前、いつまでもたせられる?」

 

「制御が難しすぎて、力が不安定で真『女王』は攻撃を一発もらうだけで解除されるときもあります。多分それぞれの駒の鍛え方がもろに出るから不安定になっているので…3つの駒の力を鍛えて高め、慣れていくしかないと俺は考えています」

 

「そうか…力が安定しても消耗の問題は解決しないだろう。覇龍のように精神、特に生命力への負担がない分、消耗するものが激しいんだろうな」

 

俺も何度かトレーニングで真『女王』の相手をしたのだが、確かにパワーやスピードが凄まじいがその分力が不安定すぎる。その不安定さを抜きにすれば、スペックは俺の眼魂10個でのプライムスペクターと互角、あるいはそれ以上だった。

 

とにかく安定しない点がネックで、模擬戦では一分と持たないこともざらにある。サイラオーグ戦で鎧はボロボロになりながらも真『女王』を最後まで維持できたのは気合で持たせたというのが多分にあり、今の現状を鑑みると奇跡と呼んでも過言ではない。

 

「そう考えたらお前のプライムスペクターってとんでもないよな。俺の真『女王』以上の数の英雄の力を同時に発揮できて負担があまりないって考えたらすごくないか?」

 

「俺の場合はポラリスさんがデチューンしたっていうのもあるし…なんというか、神器と別のテクノロジーも使われているからそれが上手い具合に力を調整しているんだろうな。それに、英友装は消耗するし、眼魂の数でパワーが左右されてしまう欠点もある」

 

眼魂の問題については特にアルギスたちや曹操が眼魂を狙っているのもあり、それらの要素とプライムスペクターの仕様がらみ会うことでスペックが兵藤と同じく不安定になっているという欠点と化してしまっている。兵藤のように鍛えればどうにかなるわけでもない、改善の方法はアルギスや曹操たちと遭遇したときにようやく眼魂を奪うチャンスがあるくらいというものすごく受動的なものしかない。

 

最近アルギスから奪ったコロンブス眼魂をプライムスペクターの力に取り込めないかと実験もしたが、プライムトリガーの方が拒絶反応を起こして失敗に終わった。あくまでムサシからサンゾウまでの15個を揃えなければならないようだ。

 

複数の英雄の力を同時に使えるという一見万能に見えるこの力は、実は薄氷の上に成り立っているのだ。

 

「俺もお前の神器についてはわからないことだらけすぎてな…どうやらポラリスも完全な解析には至らなかったみたいだ。そんなもん、誰が作れるんだよ全く」

 

「そういえば、サイラオーグさんのところのレグルスも覇龍みたいなことができるんですか?夏休みの合宿で強力な魔獣や龍が封印された神器はそれができるって先生言っていましたよね?」

 

「ああ、魔獣系神器や『獅子の戦斧』の場合は覇の獣と書いて『覇獣《ブレイク・ダウン・ザ・ビースト》』だ。覇龍よりかは劣るが、それでも暴走する凶悪な力で使用者の命を危機にさらすことには変わりない」

 

バアル戦で大いに観客を驚かせた神滅具そのものだった『兵士』について兵藤に尋ねられた先生が、その博識をもって答える。同じことを夏休みの合宿で勉強したな。

 

「サイラオーグも覇獣を使えるんでしょうか?あれは正式な所有者がいない特殊なタイプですけど…」

 

「俺にも皆目見当がつかん。こんなケースは初めて見たからな。ただ、現時点でも所有者死亡のせいで力が不安定になっていることから、制御の問題で不可能だと思うがな…試合のように禁手を使うのが限界だと俺は見ている」

 

覇獣の仕様としては覇龍に劣るかもしれないが、あのバアルの血を引き屈強な肉体を持つサイラオーグが覇獣で暴走したら覇龍に匹敵するレベルの脅威になるのではないだろうか。絶対にそんなことは起こってほしくないが。

 

「神滅具って三大勢力が同盟を結んだ今、発見次第他の勢力にも知らせるようになっているんですよね。でも先生が知らされなかったってことは大王側の同盟違反なのでは?」

 

と、尋ねながら唐揚げを頬張る兵藤。言われてみればそうだ。兵藤にしては中々鋭い指摘をするな。

 

「そうだ。おまけにサーゼクスすら知らなかったようだぜ。サイラオーグは魔王に報告しようとしていたそうだが、大王派の連中が隠すように打診したらしい。あいつも支援を受けている以上、下手に逆らうことはできなかったようだ」

 

「でも、ゲームの最後には出しましたよね」

 

「あれはサイラオーグも我慢の限界だったらしい。元々大王派にも知らせず、あの試合で使う予定だったみたいだ。おかげで大王派は泡食って魔王派に相当追及されているようだぜ。堕天使と天界サイドも一応の文句を発信したがな」

 

うーん自業自得の大王派よ。あれだけ努力してきたサイラオーグさんを無慈悲に切った天罰とも言うべきか。

 

今回のゲームで負けはしたものの、観客をにぎわせ努力でのし上がって来たという経歴は強く今も人気が衰えた様子はない。将来に投資する意味で継続的に支援してやればよかったものを。まあ悪魔だからそういう冷たい判断をしても仕方ないところはあるが。

 

「…なら、曹操の聖槍にも何か封印されているんですか?前に『覇輝』というのを使おうとしていたみたいだったんですけど」

 

「あれにあるのは聖書の神の『遺志』だ。魂そのものが宿っているわけでもない…すごくあいまいで、残留思念と呼べばいいのか…効果自体も状況に応じて変わるからあまり研究が進んでいないんだよ」

 

先生は難しい面持ちで兵藤の質問に答えた。わかりやすく言えば、効果が絶大なパルプンテみたいなところかな。

 

京都での戦いで、曹操は『覇輝』の呪文を唱えようとしたところジークに制止された。もし制止されずに覇輝が発動していたら、どんな効果を発揮していたのか…。

 

「そもそもなぜ神器、特に神滅具と呼ばれる神をも殺しうるほどの武器を聖書の神が作ったのかは未だに不明だ。他神話への侵略手段、逆に信仰された際の防衛手段、あるいは自分がいなくなっても信徒たちが布教できるようにするための道具、そもそも偶然できた説。堕天使や天界で何度も議論されてきたが未だに結論は出やしない。ただ一つ言えるのは聖槍の後に他の強力な神器、のちに神滅具と呼ばれるものが発見されて神滅具の定義ができていった。聖槍は始まりの神滅具だということだ」

 

「最古参のミカエル様にもそれは知らされていないということですね」

 

「そうだ。俺も神器の根幹をなすシステムがある場所には入れてもらえなかったしな…」

 

神器は謎が深いな。いや、謎があるからこそ先生のように研究者がそれを解き明かそうと熱心に研究するんだろう。いつだって研究者を突き動かすのは未知への好奇心だ。

 

「じゃあそのうち14種目の神滅具が発見されることも?」

 

「多分にある。特に聖書の神の死以降、聖魔剣しかり現代の神滅具の独特な進化とイレギュラーだらけだ。そうなったとしても不思議じゃねえな」

 

14種目の神滅具ねぇ…英雄派然り、ヴァーリ然り、今のところ出会った神滅具持ちは敵ばかりだから願うことなら敵側ではなく、味方として出てきてもらいたいものだ。天界と堕天使側にもそれぞれ一人ずついるみたいだが、彼らにはまだ会ったことはないしな。

 

そういえば、ギャスパー君が禁手を目指すためにグリゴリに行ったがもう一人俺たちの中で禁手になっていない神器所有者がいたな。

 

思ったことをそのままに俺は隣の先生にぶつけてみることにした。

 

「先生、アーシアさんの神器って禁手化したらどうなるんですか?」

 

これまでの戦いでまだギャスパー君のほかにアーシアさんも禁手に目覚めていない。もし、需要が激増して供給が間に合っていないフェニックスの涙レベルの回復能力を禁手で使えるようになればと思ったのだが。

 

「んー…待ち時間に同じことをアーシア本人から聞かれたが、劇的な変化はないと思っている」

 

と、予想に反して反応が芳しくない先生の答えに疑問符が浮かぶ。

 

「どうしてですか?」

 

「あいつはこれまでの戦いでもう神器の力を引き出しきっているんだ。治癒速度、範囲、遠距離からの治癒、全てにおいて同じ神器使いの中でもトップクラスだ。仮に禁手化してもスケールアップするくらいだろう」

 

「すげえな、アーシア!」

 

「いえ、そんな…!」

 

兵藤に素直に褒められてアーシアさんは嬉しいながらも恥ずかしそうに顔をそらした。

 

つまり神器についてはこれ以上の成長は禁手になっても見込めない、ということか。

 

今までアーシアさんは必死にみんなの傷を癒してきた。強敵と相対すればするほど俺たちは傷つき、そのたびにアーシアさんは神器を使って懸命に治癒を施し、おかげで俺たちは窮地を乗り越えることができたのだ。

 

兵藤の真紅の鎧やゼノヴィアのエクスデュランダルというド派手なパワーアップで隠れがちだが、アーシアさんもしっかり成長していたんだな。

 

「だから、俺はあいつが気難しいことで有名な『蒼雷龍《スプライト・ドラゴン》』と使い魔の契約しているっていうから伝説の魔獣やドラゴンとの契約もできるんじゃないかって思っているんだが…それなら回復の手も緩めず攻撃に参加できるからな」

 

「確かにそうですね」

 

聞くところによると俺がオカ研に入る前に使い魔の森なる場所に行った時に使い魔契約を結んだらしい。伝説のドラゴンとの契約となると中々に挑戦的なプランだが、伝説のドラゴンなら現に龍神のオーフィスとだって臆せず接することができるくらいだから、先生の考えももしかするとうまくいくのではないだろうか。

 

しかし伝説のドラゴンか…ぱっと考え付くのは天龍や龍王だが、どれも封印されていたりどこかの勢力に属しているドラゴンばかりだ。

 

あ、一匹だけいたぞ。深海の底で引きこもっているぐーたらドラゴンが。

 

「伝説のドラゴン…ミドガルズオルムなんてのは」

 

「バカ言え、あんなのでかすぎて逆に邪魔にしかならねえよ。この件は一旦持ち帰って検討するつもりだ」

 

「ですよねー」

 

速攻で先生に却下された。龍王という肩書だけで提案してみたが、グレートレッドの倍以上の巨体は流石に存在するだけで俺たちのサポートのつもりが邪魔になってしまうな。龍王だから気合出してくれたら心強いんじゃないかと思ったがどうしても巨体がネックになって候補にすらなれない。

 

しかし、今後の戦いに向けて全員が何かしらのパワーアップを遂げ、あるいは強化プランがあるのはいいことだ。俺も早いところアルギス達から眼魂を奪還してプライムスペクターの本来のスペックを発揮できるようにしなければ。

 

そんな感じで試験が終わった三人の労を労いながらも楽しく食事をしていると、ふと足元にぬめりとした嫌な感覚を覚える。

 

「!」

 

足元を見ると、いつの間にか発生した白い霧が俺たちを包み込もうとしていた。忘れもしない出来事とそれに強く結びついた忘れられない感覚は俺たちに楽しい食事の終了を告げる。

 

「ありゃ、こっちに来るのね」

 

同じものを感じたらしく、全員が警戒するなかで黒歌が意味深に呟いた。

 

そして視界は、深い霧に染め上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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辺りを立ち込めていた霧がさっと失せると、また変わらぬレストランのが戻って来た。ただ一つ、周囲にいた一切の人影が消えていたという点を除いて。

 

以前も体験したものと同じ現象に、すぐさま何が起こったのか、そして何者が引き起こしたのかを察した俺たちは足早にレストランを抜け出し、ホテルの外へ向けて駆けだした。

 

広々としたロビーに出た時点で既にみんな戦闘態勢に入っていた。俺はドライバーを腰に出現させ、兵藤は禁手のカウントを始めている。

 

「さっきの霧…間違いない」

 

「ゲオルクの『絶霧』。英雄派ね…!」

 

かの神滅具にも数えられる霧の神器によって、俺たちは別の空間に転移させられたのだ。

 

「曹操たちか!」

 

この現象を引き起こした男たちの姿を求めて、俺は周囲に視線を走らせる。その視線がロビーの黒いソファーに座る三人の男の姿を認めた時、死角からごうっと燃え盛る火球が飛び出してきた。

 

「アーシア!イリナ!」

 

火球が向かう先にいたのはアーシアさんと紫藤さん。兵藤が叫び、呼ばれた二人が構えるがその間に割って入ったのはなんとオーフィスだった。彼女の軽く手を払うような動作だけで火球がぽしゅうと消え失せた。

 

「…」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

アーシアさんは彼女の行動に困惑しながらも礼を言うが、オーフィスは変わらず聞いているのかもわからないような無表情のままだった。

 

二人を守った…いや、これは家で二人に構ってもらった恩返しのつもりか?最強のドラゴンの恩返しなんてこれ以上にない頼もしさだ。

 

だが今はそれより…。

 

「曹操…!」

 

敵意を込められながらも俺にその名を呼ばれ、ソファーで大胆にもくつろぐ男はにやりと笑う。

 

「やあ、グレモリー眷属の諸君、アザゼル総督。京都以来だね。先の攻撃はデュランダルのお返しだよ。いや、今はエクスデュランダルだったかな?」




真実を交えながら話すのが一番上手な嘘のつき方なんですよね。自分でも書いていて思うんですが、誰か大和を助けてあげてくれ。

次回、「七宝の威光」
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