ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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遅れましたが新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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第143話「テロリスト→ニート」

曹操が去った後、俺たちは木場やルフェイ、ダメージの浅い部長さんたちに支えられながらもどうにか撤退し、ホテルの階段を駆け上がった。負傷しながらの移動は非常に体に堪える辛いものだったがアーシアさんの治療を受けながらの移動だったのでどうにか乗り越えることができた。

 

ゲオルクたちは撤退する俺たちを追撃することはしなかった。ゲオルクが死神を転移させたりジークフリートと曹操の入れ替え転移で構う余裕がなかったのもあるが、手の空いている信長は曹操の言う脱出ゲームを楽しみにするかのように口の端を吊り上げて俺たちを見送るだけだった。

 

このホテルは六十階もあるまさしく塔と見まがうほどの高さを誇っており、俺たちはそのちょうど中間である三十階の一室にルフェイの結界魔法で堅牢に防御を固めて陣取ることとなった。人数が人数なので一室だけでは広さが足りず、いくつかの部屋にメンバーは分かれた。

 

どうにか全員分の治療を終えたアーシアさんは別室で仮眠を取っている。まだまだ戦いは続くし彼女の手が必要なので、少しでも休んでもらわないといけない。どうにか彼女の負担も押さえたい所なのだが状況がそれを許してはくれない。

 

そんなアーシアさんの力でも回復できなかった男が一人いた。サマエルの呪いを受けたヴァーリだ。奴はアーシアさんの治療を受けつつルフェイの解呪魔法での処置を試みたが、呪いが強力すぎて完全な解除には至らなかった。できる限りの処置を尽くした今は自然に呪いが消えるのを待つしかない。神の悪意と呼ばれるだけあって生半可な呪いではないようだ。

 

この部屋に集まったのは治療を終えた先生と俺、兵藤、ゼノヴィア、紫藤さん、そしてルフェイだ。時折外の様子を窓から伺いつつ、俺たちは一時の休息を取っていた。ここにいない黒歌は負傷したため別室で休んでおり、塔城さんはその付き添いをしている。残りの木場と朱乃さん、部長さんは偵察に出ており、オーフィスはふらりと部屋を出ていったきりだ。

 

「けがはどうだ?」

 

隣で壁に背を預けるゼノヴィアに声をかけると、傷の完治を確かめるように彼女は自身の腹をさすった。曹操によって腹に開けられた風穴は完全に塞がっていた。これがもし七宝ではなく聖槍本体に刺されていたなら今頃彼女は消滅していたことだろう。

 

「アーシアのおかげで痛みはすっかり消えたよ。君の方こそ、大丈夫なのか?あの能力の反動は…」

 

「塔城さんの仙術で一時的にごまかすことにした。そっちに比べたら傷は小さいし問題ないさ」

 

ゼノヴィアが言っているのはヒーローズ・リインフォースメントのことだ。仲間を強化できる分、その人数が増えれば増えるほどその反動として俺に負担がかかる。今回は二条城の時よりも一人多い6人分かつ移動中にガタが来たので腹の傷と合わせて体の痛みが半端なく、いよいよ死ぬかと思った。

 

「また君はそんな無茶を…」

 

「無茶するところが取柄なんでな」

 

彼女に呆れられたがこればかりはどうしようもない。奴らとの戦いには負けられないし、死んだら負けだ。死なないために、勝つために打てる手は全て打って勝つべきだと俺は思う。

 

「まさか二人そろって腹をやられるとは思わなかったけどな。アーシアさんには感謝してもしきれない」

 

「俺だって腹を貫かれたんだがな。あいつには苦労をかけっぱなしで申し訳なく思えてくる」

 

二人で話をしていると先生も頭をぽりぽり掻きながら話に混ざって来た。腹に穴開けられたなんて嫌な共通点だ。しかし前線で戦う俺たちを支えてくれるアーシアさんには本当に頭が上がらない。

 

おもむろに窓へと足を運び、外の景色を覗く。外界は俺たちが試験中の兵藤達を待つ間に見たものと全く同じ景色が広がっている。冥界独特の空模様、向こう側に見える山々。そのすべてが完璧に再現されている。

 

「…京都の時といいすごい再現度だな」

 

「ホントよ!ホテルの内装とか外の景色とか、現実と全く同じだわ」

 

興味津々に部屋の内装を見回す紫藤さんが頷き、ぽんぽんと部屋に備え付けられた冷蔵庫を叩く。そのままがちゃりと冷蔵庫を開ける彼女だったが、何も入っていないのを見るとちょっと残念そうな顔をした。

 

「ゲオルクの絶霧《ディメンション・ロスト》の禁手…霧の中の理想郷《ディメンション・クリエイト》だ。固有の結界を作る能力だが、レーティングゲームのフィールドの技術を使うことでここまでのものになるとはな。どいつもこいつも、今代の神滅具使いは俺の想像を超えてきやがる」

 

「蛇口をひねっても水は出ないあたり、再現できるものとできないものはあるみたいっすね」

 

と、兵藤が蛇口を触るが水が出る気配は全くない。そこのところ再現度が足りないぞ、手を抜くなと今度ゲオルクと顔を合わせたらクレームをつけてやるか。

 

とはいえゲオルクの結界の凄まじい再現度に感嘆している中、がちゃりとドアを開けて入室したのは木場だった。険しいその表情が芳しくない状況を物語っている。

 

「駐車場に死神たちが出現していました。かなりの数でした」

 

「ハーデスの野郎め、もう隠す気もないってか」

 

苛立ちを交えながら呟く先生が拳を握る。サマエルの件以来、相当ハーデスの裏切りが頭に来ているようだ。

 

良くない状況に追い打ちをかけるように、先ほどまで魔方陣で誰かとやり取りをしていたルフェイがさらに良くないニュースを嘆息を交えてもたらす。

 

「本部から通達が来ました。ヴァーリチームがオーフィスを騙し、組織を手中に収めようとした。オーフィスは曹操率いる英雄派が無事に救助したので、逆賊ヴァーリチームは発見次第討伐せよ…とのことです」

 

「逆賊か…オーフィスを頭に据える組織で一番オーフィスのためを思って行動した結果がこれとは、難儀なもんだ」

 

複雑な表情を見せる先生が息を吐く。本物のオーフィスを追放した今、実質英雄派は禍の団の全権を掌握したようなもの。そんな彼らがそう指示を出したということは。

 

「つまりヴァーリチームは解雇か。テロリスト改めニートになったな」

 

「ふふっ、そうですね。禍の団にいた時も実質ニートと変わりない立場でしたけど」

 

この部屋にヴァーリはいないながらも軽い嫌味を言ってみるが、ルフェイは逆にくすくすと楽しげに笑った。

 

前々から思っていたんだが、ルフェイが禍の団の一員と言うにはどうにもいい子過ぎて少し接し方に困っている。ここ最近でオーフィスの観察をしながらヴァーリチームであまり接点のないルフェイの観察もしていたが、嫌味のない性格だし黒歌やアホ猿と違って本当にお行儀がいい。これで禍の団所属のテロリストというのが嘘だと思う。

 

おまけにアーサーの妹ときた。ここ最近は特に妹と聞くと凛のことが頭にちらついてしょうがない。昔のあいつも明るい性格でルフェイのようにきちんとした性格だったか。立場としては間違いなく敵なのに、敵として認識しきれないのだ。

 

「…ちなみに具体的にどんな活動をしていたの?」

 

と、質問するのは兵藤。確か、前にヴァーリと話した時に喧嘩に明け暮れる以外にも世界の神秘の調査もしているとか言っていたが…。

 

「主に世界の謎や伝説の強者の調査です。仕事でテロ活動もしながらグレートレッドの秘密だったり、ムー大陸やアトランティス大陸といった滅んだ文明…他にも逸話だけ残して消息不明な英雄や魔物の探索もしていました。それに異世界のことについても調査を」

 

おお…バトルジャンキーな奴のことだから毎日毎日強者に喧嘩吹っかけて戦ってるのかと思っていたら意外にもしっかり研究者みたいな活動をしているんだな。意外だ。

 

「異世界…もしかして、神域のことも?」

 

「はい。前々から中東地域でメソポタミアやシュメール神話の調査をしていて…なぜこれだけの史跡や神話が残されていながら神が存在しないのかヴァーリ様が気にしていらっていました。調査の過程で、過去に神竜戦争なる大規模な戦争があったという事実にたどり着きました」

 

「ディンギルのことも知っているのか…!」

 

どの勢力からも忘れ去られた歴史に気付くなんて相当調査しているな。奴らの戦闘力もだが、その探求心も目を見張るものがあるようだ。それに今は少しでも奴らの情報が欲しい。奴らに下手に出るような真似は癪だが、時間があれば聞き出してみようか。

 

「なんというか、冒険家だな」

 

「はい、それはもう毎日が冒険ですよ!ヴァーリ様が特に知りたいと思っていらしたのはドラゴンという種の起源です。二天龍の喧嘩の原因や、新しい神滅具も調べようとしていますよ!」

 

「もしかして、先生に影響されたのかしら?」

 

「かもしれねえな」

 

自分たちの活動をキラキラした瞳でうきうきと語るルフェイ。紫藤さんにそう言われた先生はまんざらでもなさそうに目を細める。

 

いい子だと思っていたがそういう未知への探求心にワクワクする一面を見るとやはりヴァーリの仲間だという事実を再認識させられる。

 

「ただ、好き勝手に動く私たちを目障りに思う方は曹操様だけでなく組織内に多くいたそうです。特にジークフリート様は元英雄派だった兄のアーサーがこっちに移って来た件もあって相当嫌っていたみたいで…」

 

と、ルフェイは先ほどとは打って変わってしょんぼりした様子で話す。

 

そりゃ本来の仕事に打ち込まずやりたい放題やりたいことやる連中なんてどこの組織も嫌うだろう。逆に今までよく組織人としてやってこられたものだ。だがそれより気になるのは。

 

「アーサーって元英雄派だったのか…」

 

「ヴァーリチームに移ってくれて本当に良かったぜ…」

 

もしアーサーが英雄派に残ったままだったら今頃ジークとアーサーも同時に相手にしないといけなかったかもしれない。どういう理由でヴァーリチームに移籍したかは知らんがナイス判断だぞ、アーサー。

 

「ところで総督様、『黒刃の狗神《ケイニス・リュカオン》』のあの方はお元気ですか?ヴァーリ様が気にしていらしたので」

 

「刃狗《スラッシュ・ドッグ》か。今は別の任務に出向いている。あいつはヴァーリを嫌ってるからなぁ…」

 

『黒刃の狗神』。それは13の神滅具の一つであり、現在はグリゴリに所属している人間が所有していると先生から聞いている。

 

ヴァーリも元グリゴリ所属の神滅具持ちなのに不仲なのか。ヴァーリが何かやらかしたのか、それとも向こうがヴァーリ以上の変わり者なのか…一体どっちだ。

 

「グリゴリにも神滅具使いがいたんだな…もしかして、天界にも?」

 

「ああ、神滅具の中で二番目に強い『煌天雷獄《ゼニス・テンペスト》』の所有者がいるぞ。『御使い』のジョーカーにして、教会最強のエクソシストだ」

 

「マジっすか!?」

 

「マジだ。イリナ、奴は今どうしてる?」

 

驚く兵藤に先生は頷く。一応夏の合宿で話だけは聞いていたけど、ついに正式にジョーカーとして任命されたんだな。天界も戦力増強をしているそうで何より。

 

「今頃、世界各地を放浪しながらおいしいものを食べ歩いているかと…」

 

「ハァ!?まったく呆れたぜ、セラフ候補と目される才児が…ミカエルたちは何をやっているんだ」

 

と、頭を抱える先生。その動向から同じ神滅具持ちのヴァーリと同じ自由人の気を感じた。なんというか、二天龍や英雄派といい神滅具持ちは変人しかいないのだろうか。

 

そうだ、ゼノヴィアも今は悪魔とは言え元々教会の戦士だったから顔なじみなのでは?

 

「ゼノヴィアはその人に会ったことは?」

 

「…デュリオ・ジェズアルドか。会ったことはないが、教会にいればまず耳にしない者はいないくらい有名な戦士だったよ。人間でありながら上級悪魔とも戦える希少な存在だ」

 

「ちなみにヴァーリ様の戦い方リスト上位に挙がっていますよ」

 

なんだそのろくでもないリストは。面倒な奴に目をつけられて可哀そうだ。絶対にリストに載らないようにしたいと思ったけど、あいつのことだから昔は弱くても今は強くなった戦士なら問答無用でリストに放り込みそうだから奴の眼から逃れられないかもしれない。

 

「一つ気になったことがあるのですが…」

 

まだ見ぬ天界のジョーカーの話で盛り上がっているところ、おずおずとルフェイが挙手する。

 

「どうして皆様はスペクターさまのことを深海と呼ぶのですか?」

 

「あー…」

 

ヴァーリチームにはまだ俺の前世絡みの事情を話していなかったな。というかまだ明確な味方として認定したわけでもないのに上層部の機密扱いされている情報を話していいものか。

 

しかし向こうは異世界、ディンギルのことも把握しているわけだしすぐに信じてはくれそうだが…。

 

「それはだな…」

 

どうしたものかと返答に困っているとがちゃりと静かにドアが開く音が聞こえた。入室してぺたぺたとこちらにやってくるのはオーフィスだった。今なお呪いに苦しむヴァーリと違い、全くサマエルの呪いに侵された様子はない。

 

「具合はどうだ?」

 

オーフィスを俺たちに引き合わせた先生が真っ先にその体調を訊ねる。

 

「力、弱まった。今の我、全盛期の二天龍より二回り強い」

 

「それは…弱くなったな」

 

「それでも俺たちの中で最強だと思うんですけど」

 

「力を取られても封印前のドライグより二回り強いって…どれだけ強いんですか」

 

全盛期の二天龍の二回りって、無限じゃなくても俺たちが束になったとしても勝てないだろ。四分の三強搾り取られて残りがそれって…完全体は本当に手に負えない化け物じゃないか。

 

ゲオルクはこれ以上召喚を維持できないみたいなことを言って力の吸収を止めていたが、もうちょっと無理してでも搾り取るべきだったんじゃないか?まだまだ戦力として脅威だと思うが。

 

「なあオーフィス、どうしてあの時イリナとアーシアを助けてくれたんだ?」

 

そんな疑問をぶつけたのは兵藤だった。

 

霧の結界に転移してからの曹操たちの不意打ちからオーフィスはアーシアさんと紫藤さんを守った。曹操の攻撃を受けて反撃もしなかった彼女がなぜ二人を守ったのか、俺も気になるところだ。

 

「紅茶、くれた。トランプ、してくれた」

 

オーフィスは相も変わらずの調子でぽつりと言う。後に続く言葉は全くない。

 

「…えっ、それだけ?」

 

思った以上に軽い理由に呆気にとられる俺たち。オーフィスはそうと頷く。たったそれだけの理由で最強の龍神が守ってくれたのか?

 

「ありがとうございます!オーフィスさん!」

 

紫藤さんはそんなオーフィスに素直に礼の言葉を述べた。おいおい、仮にも敵の親玉…なのだが…。

 

「…禍の団のボスとは思えない純粋さだな。これはいよいよ曹操の言っていた通り、オーフィスは組織の意思決定をしないただのお飾りみたいなものだったのか…?」

 

これまでのオーフィスの言動を見るにそうとしか思えない。ただ遊んでくれたお礼に尽くしてくれるなんて、まるで見た目相応、いやもっと幼い子供のようだ。

 

今まで俺はオーフィスを禍の団のボスというだけでグレートレッドを倒し、英雄派や旧魔王派を率いて社会の秩序を破壊する大悪党とばかり思っていた。しかし実際はオーフィスは組織の統制を取っておらず、それぞれの派閥が彼女のグレートレッド打倒の願いを利用し好き勝手にしているだけだった。

 

これまで俺が抱いていたイメージがここ最近で大きく揺らいでいた。禍の団の内情は思っていたよりも派閥間の対立バチバチだったし、過去の旧魔王派や曹操たちの言動を見てもオーフィスは蛇を提供しこそはすれど、彼らの行動に口出しした様子はない。俺が思った悪の親玉のオーフィスのイメージと現実のオーフィスは大きく乖離している。

 

だが一つ確かめたいことがある。その返答によっては俺の中のオーフィスの印象の変化は決定的なものとなる。

 

「一つ聞きたい。お前はどうしてディオドラや英雄派に蛇を与えた?」

 

これまでにオーフィスは力を蛇という形で禍の団の構成員に提供し、戦力を増強した。それは英雄派の禁手の研究やテロに利用され、そのせいで多くの被害や犠牲が生まれた。如何に彼女がお飾りのボスだったとはいえそれは看過できるところではない。

 

「彼ら、グレートレッドを倒すと約束した。だから与えた。こうやって我の力を蛇に変えた。それだけ」

 

「…」

 

オーフィスの手のひらから滲み出たオーラがしゅるしゅると形を変え、黒いオーラの蛇が生まれる。その答えを聞いていよいよ確信した。

 

ああ、オーフィスはただ連中に利用されていただけなんだ。彼女はシャルバや曹操たちの思想に一ミリたりとも賛同などしていない。ただの口約束で騙され、力を与えてしまったのだ。

 

あるいは奴らが何をしようと最終的にグレートレッド打倒が果たされるならどうでもいいと思ったのか。いや、そもそも彼らが裏切ろうとも彼女の気にするところではなかったのか…。

 

無限であり虚無そのものな彼女を理解するにはまだ難しいところだが、少なくとも彼女は良くも悪くも純粋であり悪意がないことはわかった。

 

「それなら、お前はどうしてグレートレッドを倒したいんだ?何か嫌なことでもされたのか?」

 

「我、故郷の次元の狭間に帰りたい。静寂が欲しい。グレートレッド、邪魔」

 

「そうか…本当にそれだけか?」

 

「それだけ」

 

喋り方もだが、思考も本当に子供のようだ。一貫して主張する願望の理由が誰でも思うようなものだったとは。

 

ただ家に帰りたいだけのドラゴンか…。こうまで言われると、もうオーフィスに敵意を抱くのがあほらしくなってくる。

 

「やっぱり、オーフィスさんって悪いドラゴンじゃないよね…?」

 

「僕としても、彼女が悪人には思えないね」

 

「やっぱり悪いのはシャルバや曹操たちなんだな」

 

「だがグレートレッドほどの強大なドラゴンがいなくなれば世界にどんな影響が出るかはわからん。オーフィスの願いを平和的に叶える方法があれば一番だが…やはり気になるな」

 

俺がオーフィスへの認識を改めようとした時、先生も同じように神妙な表情で顎に手をやって思案にふけっていた。

 

「何がですか?」

 

「曹操の奴、今のオーフィスを搾りかすと呼んだがそれにしては強すぎる。四分の三強奪ったとも言っていたが、全盛期の二天龍の二回りも強ければ十分こちらの戦力になるが…妙だ」

 

「我、サマエルに力を取られる間に、我の力、蛇にして別空間に逃がした。それ、さっき回収した。曹操、気づいていない」

 

「なに、マジか!?」

 

こくりと首を縦に振るオーフィス。あいつら、四分の三強取ったとか言っていたけど実際はそれより少ないのか!

 

「そうか、だからこの階層を見て回るって言ってたのか…ふふ、曹操の奴め、オーフィスを甘く見すぎたな」

 

「オーフィスさんも戦ってくれるなら頼もしいわね!」

 

曹操に一矢報いるような事実に俺たちは喜びの感情に沸き立つ。せっかくなら今この空間にいるという英雄派の三幹部をまとめて潰してくれるともっと喜ぶんだが。

 

「待ってくれ、別空間に力を隠せるならその空間を通じてそのまま脱出できるんじゃないか?」

 

そんな芸当ができるならオーフィスの力で空間に穴を開けてそこから出られると思うが。何より二天龍以上のパワーがあるなら力のごり押しも十分現実的なプランだろう。

 

「無理。我を捕える結界がある」

 

「有限になって弱まったから脱出できないと…対策は万全か」

 

現実は上手くいかない。オーフィス対策の結界というからには曹操というよりはゲオルクの仕込みだろう。奴ら、オーフィスの力を奪い捕縛するために念入りに準備してきたらしい。

 

「それならルフェイ、お前さんの空間魔法でここから脱出、あるいは外に救援を求めることはできないか?」

 

「できないことはないですが…黒歌さんが負傷した今、共に脱出できるのは二人が限界かと思われます。入れ替え転移もゲオルク様に術式を把握されたことで結界が強化されて使えなくなっているでしょう。脱出するためのとっておきの魔法を使えるのは、恐らく一度きりです」

 

先生からの提案にルフェイは難しい表情で答える。霧の使い手ゲオルク…一度見た術式をまねるどころか対策までしてくるなんて、幹部の座に就くからにはと思ったが相当な魔法の腕の持ち主のようだ。奴の武器は霧だけではない。

 

「それなら、魔法でルフェイと二人が脱出して残りのメンバーは結界を壊して出るしか方法はないのでしょうか」

 

「そうなる。だがその場合は死神やジークフリート、信長との戦闘は避けられないだろう。特に死神は危険だ。実力はお前らの方が上だろうが、奴らの鎌は生命力も刈り取れる。生命力を回復中のイッセーが攻撃を受け続ければ寿命が尽きて死ぬし、俺らと比べて寿命が圧倒的に短い人間の深海も危ないな」

 

「それは勘弁…」

 

恐ろしい能力に寿命回復中の兵藤が震えあがる。そんな恐ろしい能力をデフォルトで持っているのか、死神という種族は。命を刈り取る鎌、まさしく死神じゃないか。

 

死神に英雄派の幹部、結界、オーフィスの死守。厄介事だらけの窮地だがふと一つの可能性が脳裏によぎる。

 

「…もしかしたらの話だけど」

 

「?」

 

「ポラリスさんがここに来る…なんてのは希望的観測すぎるか」

 

基本は俺たちの戦いに不干渉な彼女だが、曹操たちの動向にアルル達が関わった以上彼女が『イレギュラー』とみて行動を起こす可能性もある。向こうが忙しいのはわかっているが、今回もロキ戦のように俺たちに手を貸してくれたりはしないだろうか。

 

「ポラリス…あいつは真神討伐を目的に動いているんだったな。奴らが絡んだロキの件のように今回、英雄派の眼魂を通じたパワーアップに奴らが絡んでいたことは判明している。だが連絡手段が全くない以上は期待しない方がいいだろうな。こちらからはどうすることもできない、向こうの判断次第だ」

 

「そうですよね…」

 

「ポラリス、懐かしい名前」

 

神妙な表情で話す先生とのやり取りにひょいと話に入り込んできたのはオーフィスだった。

 

「知り合いなのか?」

 

「我、10年前に蛇与えた」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

意外なつながりが発覚し、俺たちは目を丸くして驚愕する。おいおい、本人は何も言わなかったぞ!もしかしてロキ戦で見せた戦闘力もオーフィスの蛇でパワーアップしていたからなのか!?

 

「どういう経緯でそうなったんだ…?」

 

「ポラリス、ディンギルを倒したいと願った。我もディンギルを倒したい。それだけ」

 

なるほど、オーフィスは戦争の記憶は朧げだがディンギルを倒したいとは思っているのか。それなら対ディンギルの味方としてはこれ以上に心強い者はない。彼女の事情を吟味しても、元テロリストの親玉という両手を上げて素直に歓迎しにくい立場ではあるが。

 

「10年前なら…禍の団結成前だ。ならポラリスは禍の団所属ではないことは確かだ」

 

ですよねー…流石に禍の団所属でしたなんてことが判明したら俺は卒倒するぞ。

 

「…なあ、さっき別空間に逃した蛇を回収したんだろ?だったらポラリスが持ってる蛇の居場所もわかるか?そこからポラリスの居場所がわかったりして」

 

「!!」

 

と、おずおずと挙手して中々に鋭い提案をする兵藤。

 

「なるほど、俺もそこまでは考え付かなかった!今日は冴えてるな、イッセー!」

 

「いやいやそれほどでも…!」

 

それは思いつかなかったとばかりの先生に褒められる兵藤は照れくさそうだ。なんだか急に兵藤が冴え始めたぞ、まだおっぱいイベントは来てないのに。

 

「ポラリス、次元の狭間にいる。でも蛇、取り込んでない。居場所もはっきりと、わからない」

 

「…素であの戦闘力は相当だね」

 

木場はぽつりと戦慄の感情を言葉にする。

 

ドーピングなしでポラリスさんは戦ったのか?だがオーフィスの蛇は基本的にパワーアップのためのドーピングとして使用するものだ。ドーピングに使わずに何のために蛇を手に入れたんだ…?

 

「次元の狭間か…面倒な場所にいるな」

 

「それって、前にアーシアがシャルバに飛ばされた場所ですよね」

 

「ああ、そんな場所にいるんじゃあこっちは捜索のしようがねえ。狭間に入るすべはあるが、広い砂漠に埋もれた一つの石ころを探し出すようなもんだ。ルフェイ、お前さんたちは確かゴグマゴグの調査で次元の狭間に行っていたよな?その時に何か心当たりはあるか?」

 

「いえ…何もないですね…」

 

ルフェイは申し訳なさそうに首を横に振る。なるほど、ポラリスさんの言っていた通り本当にヴァーリチームからNOAHに侵入した記憶は消えているらしい。

 

次元の狭間とは結界を張らなければ長時間の滞在はできず、広大過ぎて前後左右の感覚すらなくなりそうな空間。何の対策もなしに踏み入れれば虚無に呑まれ消滅するような領域だ。ちなみに夏休みに乗った冥界行きの列車はそこを通っている。

 

…よくよく考えるとそんな空間をポラリスさんの母艦が航行しているということは、その虚無をはねのけるような術か特殊なコーティングを船の装甲に施しているのか。そんなものを作り上げたポラリスさんの元居た世界ってとんでもない技術を持っていたんだな。

 

「でも結局、今は結界から出られないのでポラリスに救援を求めることはできないですよね…」

 

「そうだな…向こうが動いてくれるのに期待するしかないが、今はポラリス抜きで作戦を立てよう」

 

と、アザゼル先生は結論付けて結局はポラリスのことは忘れて話を進めることになった。後でこっそりポラリスさんに連絡を取ってみるか。

 

「…ポラリスさんの話はさておいて、誰が外に出るか決めましょうか。外に助けを呼ばないと」

 

ポラリスさんがオーフィスと面識があるという衝撃の事実が判明して話が脱線してしまったが話を戻そう。助けを求めるのはもちろんだが、一刻も早くここで起こったことやハーデスの動向を外のサーゼクス様たちに知らせなければならない。

 

「私、レイヴェルがいいと思うんですけど」

 

「いやイリナ、お前が行け」

 

「ええ!?私ですか!?」

 

紫藤さんの提案を一蹴しただけでなく紫藤さんを指名した先生に、当人は声を上げて驚いた。

 

紫藤さんの言う通り戦闘に向かないレイヴェルさんの方が先に脱出するべきだと俺も思ったのだが…どうして貴重な戦力を減らすような指名を?

 

「そうだ、レイヴェルからは自分を優先させなくていいと聞いている。護衛としてゼノヴィア、お前も行ってくれ。まだデュランダル本体は生きているからな、それに結界の外で待ち伏せを食らう可能性も十分にある」

 

「…わかった」

 

なるほど、確かに念入りに動いてくる奴らのことを考えると待ち伏せされる可能性は否定できない。その可能性を指摘されると戦えるメンバーが出た方がいいと頷ける。

 

「それに、天界でエクスデュランダルの研究に一つの結論を出している頃合いだろう。修復ついでにそれも打診してこい」

 

ゼノヴィアは先生の指示に頷く。エクスデュランダルも派手に壊されてしまったからな。七宝対策で今度はさらに頑丈になっているといいが。

 

「では私は魔方陣の術式を構築するので、別室に移動しますね。それとゼノヴィアさま、イリナさま、脱出の前にあなたに渡したいものが」

 

「?」

 

ルフェイが急にゼノヴィアと紫藤さんに声をかけると手のひらに魔方陣を展開して、一振りの剣を出現させる。その刀身の美しさや気高さと同じものを兼ね備えた剣を俺は知っている。

 

間近で見たゼノヴィアと紫藤さんはすぐにその剣の真名に気付いた。

 

「これは…『支配の聖剣《エクスカリバー・ルーラー》』か!」

 

「ええ!?でもどうして…?」

 

『支配の聖剣』って、確か行方不明になっていたエクスカリバーの最後の一本だ!コカビエルやバルパーがエクスカリバーを集め、統合しようとした際にもついぞ見つかることのなかった一振り。それがまさかこのタイミングで…!

 

「今まで私たちが所有していたものです。フェンリルの制御に使っていましたが、それが終わった今渡してもいいだろうと兄から預かっていました。皆様が試験勉強で忙しそうだったので渡すタイミングが遅れてしまいましたが…今こそ、エクスデュランダルに7本のエクスカリバーを集結させるときです」

 

フェンリルの制御って…なるほど、だからあのフェンリルが大型犬サイズになっていたのか。

 

「そうか…ありがとう。決して無駄にはしないよ」

 

ゼノヴィアは差し出された聖剣を、希望に輝く強い決意を表すように微笑んで受け取った。

 

これまでエクスデュランダルに使用されていたエクスカリバーは協会が保管していた6本だった。それが今、行方不明だった支配の聖剣を加えることでようやく7本すべてが揃う。完全なエクスデュランダルがいったいどれほどの火力を生むのか、楽しみだ。

 

脱出に向けての準備が、いよいよ始まる。




以上、悠のオーフィスへの認識が変化する回でした。次話は神竜戦争のことに触れます。

次回、「一冊の書」
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