ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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お待たせしました。決戦に向けてのクールタイムです。

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23.コロンブス


第144話「一冊の書」

「出ないか…」

 

手にしたコブラケータイの画面は一向に通話に出る気配がない。しびれを切らしてケータイの発信を切り、がちゃんとやや乱暴にドアを開け放つ。

 

作戦開始までの空き時間、こっそり誰もいない空き部屋に移動した俺はポラリスさんへの通話を試みた。救援要請だけでなくオーフィスの蛇の件も問い詰めたかったが、その願い空しくケータイは無情にも発信音を響かせるだけだった。

 

同じく通話ができるガジェットのコンドルデンワ―でも試したが結果は同じだった。やはり俺のガジェットも通信を遮断されてしまうか。そうやすやすと外への連絡が取れるように結界を作ってはないらしい。

 

彼女の助けを見込めない以上は自分たちの力でどうにかするしかない。何を焦る必要がある、今までだって彼女の力なしで危機を乗り越えてきたではないか。そう自分に言い聞かせ、胸中でざわめく感情を鎮める。

 

そんな俺が苛立ち交じりに歩みを進めながら向かうのはある人物が休息している部屋だ。そこで彼女は塔城さんの付き添いを受けているという。

 

相手はマナーなんて概念のない人物とは言え、一応のマナーなので軽くノックして目的の部屋へ入室する。しかし聞いた話に反して部屋にいたのはたった一人だけだった。

 

「…あれ、お前一人か」

 

「スペクターちんじゃない、何々?夜這いにでもしに来たの?」

 

「違ぇよ!」

 

部屋に入るなり俺をからかうように笑うのは白いベッドで横になっている黒歌だ。着崩れた艶やかな着物から白い柔肌と豊満な胸がちらりと覗く。

 

「…塔城さんはどこに行った?」

 

「ちょっとからかったら顔を真っ赤にして出て行っちゃったわ。フェニックスのお嬢ちゃんもね」

 

一体何を言ったんだこの野良猫は。

 

それにしても元気な声の調子からしてかなり体調が戻ったようだ。受け流されてしまったとは言え激昂したヴァーリの攻撃を受けたのだ。致命傷になってもおかしくない相当なダメージを負っていても不思議ではないが、仙術で気の操作に長けた体質とアーシアさんの懸命な治療もあって回復できたらしい。

 

彼女の復調を確認できたので早速訊きだすとするか。それ以外に訊くこともないしな。

 

「…お前、あの時どうして塔城さんを守ったんだ」

 

「さて、どうしてかしらね?」

 

彼女ここを訪ねた目的とは、禁手を発動した曹操との戦闘での彼女の行動の真意を問いただすこと。直球で聞いても黒歌はやはり笑ってはぐらかすだけだ。

 

「飄々と振舞ってるけど本当は塔城さんのことが大事なんだろう?まさか、お前の元主を殺したのも妹を守るためか?」

 

彼女は猫又の転生悪魔だ。調べたところによれば元の主は七十二柱の一家、ナベリウス家の悪魔であり駒二個消費の『僧侶』だ。黒歌は自身が眷属になることでそうでない妹共々ナベリウス家に身を寄せていたが、僧侶の駒を二個使っただけあり魔力の増大が凄まじく力に溺れて主を殺害したという。

 

「違うわ、嫌な奴だったから殺しただけにゃん。白音のことだって…」

 

「嘘をつくのはやめろ。大事に思ってないなら発情期を止めたりさっきの戦いであんなことしないだろ」

 

曹操と交戦した時にヴァーリの攻撃を受けそうになった塔城さんを黒歌は身を挺してかばった。常日頃は自由気ままで他人など歯牙にもかけない彼女のあの咄嗟の行動は普段は心の奥底にある本心だと俺は思う。

 

それを認めようとせずはぐらかす彼女の真意を確かめようとさらに詰問を進めると、不意に彼女の眼が細くなりじろりと俺の顔を見つめた。

 

「…そんなこと、一々口にしなくたってわかるんじゃない?あなただって兄弟姉妹がいたら一々周りに大事だ大事だなんて言うの?」

 

「声を大にして言ってるブラコンが周りにいるんだよなぁ…」

 

「それはそいつがおかしいだけにゃん」

 

大和さんのブラコンっぷりのおかしさは猫又のお墨付きを得たようだ。

 

しかし明言はしないが、否定もしないか。こいつらしいうまい回答だ。

 

「主の件は白音半分自分半分ね。眷属の能力向上に熱心で身内にも無茶を強いようとしてたにゃ。猫又の力にも興味津々で目障りだったけど、あの時の白音じゃ仙術を使うと暴走しかねなかったから。仙術は周囲の邪気や悪意も取り込んでしまう分、強い精神力が必要になるにゃ」

 

つまりはまだ幼い塔城さんでは主に仙術の使用を迫られた場合、邪気や悪意をコントロールできずに暴走してしまうからその前に主を殺害した…そう捉えていいのだろうか。それを尋ねたところでまた明確な答えが返ってくることはないだろうが。

 

「…でもお前、姉じゃないなんて塔城さんに酷いこと言われたのにそれでも大事だって思うのか?敵意を向けられたとしても?」

 

黒歌はかつて自身の妹の塔城さんを禍の団のもとへ連れ去ろうとした。しかし強大な力に呑まれた姉を恐れる彼女は兵藤と部長さんの助けを得ながらそれを拒絶した。その際、禍の団に下り世界の脅威に与する姉に対し、塔城さんはもう家族ではないときっぱり言い放ったらしい。

 

嫌がる塔城さんを無理に連れ去ろうとしたので嫌われたのは自業自得と言えばそれまでだが…いや、その行動もまた彼女なりの塔城さんへの思いやりか?

 

「どれだけ関係がこじれたとしても血の繋がりは切ろうとしても切れないものなの。身内のいないあんたにはわからないかもしれないけどねん」

 

ぷいと顔を窓側に向けて彼女は語る。今までになくしんみりとした彼女の語り口調は彼女の本心のようで、それは自然に俺から言葉を引き出した。

 

「…わかるよ。俺にも妹がいるからな」

 

「あれ、禍の団にいた時にヴァーリがあんたの家族構成も調べたけどそんなデータは…」

 

「生き別れみたいな形でいたんだよ。ただ、危険な敵として再会した。正確に言えば敵に体を乗っ取られてるって感じだが」

 

俺の話に食いついたらしくきょろりとこちらの方へ振り返る黒歌。

 

なんで俺というか宿主の家族構成知ってんだと思ったけど、思い返せば前にヴァーリが兵藤の前でお前の普通な両親を殺してやろうみたいなふざけたことを抜かしていたな。その時から把握済みか。

 

「ふーん」

 

「ただ、周りは今後のため、世界のために危険因子としてその敵ごと妹を倒すべきってのと俺の意志を汲んで助けようってので意見が分かれてるんだよ。俺はもちろん助けたいんだけど…って、ついいらんことを話してしまった」

 

こいつがいつになく真面目な雰囲気で話すからついこっちも呑まれてしまった。あまり話していいことじゃないのに。自分の立場としてあるまじき行為だ。

 

自分の過言を後悔していると、黒歌が布団をかすかに揺らしながらくすくす笑い始める。

 

「なんだよ」

 

「にゃははっ、あんたの妹は幸せ者ね」

 

「は?」

 

「だって、そんなことになっても自分のことを思ってもらえるなんてそれだけ愛されてるってことでしょ?うちは白音にそっぽ向かれっぱなしよ、せっかく私の術で発情期を止めてあげたのにね」

 

「…」

 

俺の妹を幸せ者と言う黒歌の端正な顔にどこか羨むような、寂しげな影がちらついた。

 

「それに、あんたって案外つまらない男だったのね」

 

「何?」

 

それから一転して吐かれた挑発的な言葉に眉が思わずつり上がる。せっかく自分の事情を少し話してやったと思えば聞き捨てならないことを言うじゃないか。

 

「そうやって周りのこと気にしてばかりいるところが面白くないのよ。なんで周りの目を気にしてんの?やりたいと思ったことをやればいいにゃん。誰かに縛られてばかりの人生なんて楽しいの?私はそんな人生ごめんにゃ」

 

「っ…」

 

思いもしなかった黒歌の指摘を受けて何も言い返せず、言葉に詰まる。

 

縛られてばかりの人生、彼女は俺の事情の全てを知っているわけではないが今の俺がそう見えたのか。仙術は周囲の気だけでなく邪気や悪意といった感情も取り込んでしまう。俺が内に抱えた鬱屈としたものも自然と感じ取れたのだろう。

 

「自分は自分、よそはよそ。自分として生まれたなら自分らしく、自分の生きたいように生きるべきにゃん。皆生きていくうえで社会や人とのしがらみに囚われてそれができなくなっていくの。みんなもうちょっとエゴイストになるくらいがちょうどいいにゃ」

 

黒歌の言う通り自由奔放に生きる彼女と違い、俺は多くのしがらみに囚われている。兵藤達グレモリー、三大勢力、敵の手に堕ちた妹、そしてレジスタンス。やることだって山のようにあって取り捨て選択なんてできないし、誰かと手を切って諦め、身軽になることもできない。

 

「お前らは逆にエゴイストになりすぎだがな」

 

「にゃははっ!自由がうちらの気風にゃ。力を使うのも大好き、悪戯も大好き。ヴァーリのとこに来てから本当に退屈しないにゃ」

 

こいつらみたいにしがらみから解放されすぎて人様に迷惑かけるのはもってほかだがな。

 

「そうだな…俺ももう少し吹っ切れた方がいいかもしれない」

 

だが自由気ままな彼女の話を聞いて、自分の心の余裕のなさに改めて気づけた。強くならなければならない、妹を助けなければならない、曹操を倒さなければならないと為すべきことが山のように積み重なり到底余裕などもてないのは事実だ。

 

だがそういった負担を仲間たちと共有できれば、少しは重荷が減り心に余裕ができるかもしれない。余裕ができれば、やりたいことに全力投球できる。

 

まさか野良猫からこんなことを気づかされるなんてな。少しは見直したと思いきや彼女はいやらしさと好奇心の合わさった笑みを浮かべて。

 

「ところでスペクターちんはどういう流れで童貞を捨てたの?ありがたーい話をした礼の代わりに教えてほしいにゃん」

 

「うるせえはよ寝ろ」

 

短い語らいの中で彼女の本心に触れたが、やはり野良猫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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黒歌との語らいを終えて次に足を運んだ部屋では。

 

「…邪魔したか?」

 

がちゃりと開け放たれたドアから入った俺を出迎えたのはベッドで寝込んだままのヴァーリと、ちょうど奴と話していたのかベッドの傍らの椅子に腰かけている兵藤だった。

 

「いや、気にすんな。どうしたんだ?」

 

「暇なんで喋りに来た」

 

兵藤を見下ろす視線を、その隣で横になっているヴァーリに移す。ダメージは回復したようだが、それでもやや汗ばんだその顔色の悪さは変わらずといった様子だ。息もまだ荒く、安静が必要なのが見て取れる。

 

「…随分具合が悪そうだな」

 

「曹操を討つつもりで来たが、返り討ちにされこのざまだ。情けない俺を笑うか?」

 

「…笑わねえよ。相手が悪すぎた。流石のお前でもあれは無理だろう」

 

ドラゴンを憎んだ神の悪意、究極のドラゴンスレイヤーなんて相性の悪さも甚だしい規格外の怪物相手に流石のヴァーリもどうにかできるとは思っていなかった。ヴァーリには悪いが、あれはドラゴンが戦っていい相手ではない。

 

だが今回、俺は奴のお見舞いに来たわけではない。

 

「ヴァーリ、お前に用がある」

 

「弱った俺の首を取りに来たのか?」

 

「違う。ディンギルのこと、神竜戦争のことを聞きに来た。どこまで知っている?」

 

「神竜戦争…か」

 

ヴァーリも回りくどい言い方やり方は好みではあるまい。だからあれこれ理由をつけず、単刀直入に尋ねた。俺はポラリスさんから情報提供を受けていないヴァーリたちが自力でどこまでたどり着いたのか知りたい。

 

すると息を吐いて、奴は天井を仰いだ。

 

「すべてを知っているわけではない。だが俺たちの調査は偶然手に入れた一冊の本から始まった」

 

布団からごそっと出てきたヴァーリの手のひらに魔方陣が浮かぶと、そこから一冊の古びた書物が出現する。それをすぐ隣の兵藤に手渡した。

 

「神竜書記其ノ弐…?」

 

表紙には古いラテン語でそう記されており、そのすぐ下には龍をかたどった紋章とディンギルの十字架の紋章が並んで刻まれている。誰にも読まれずほこりをかぶってそうな古ぼけたセピア色の表紙の本を早速開いた兵藤が、開口一番に声を上げて驚いた。

 

「なんだこの本?全然読めないじゃねえか」

 

「は…?」

 

本の中身を覗きこみ驚く。傷、焼け焦げた跡、千切れたページ、落丁。ありとあらゆる欠損がその本を読書し内容を理解することを妨げている。残った字も字もかすれており、とても読み物として成立していない。

 

こんなにボロボロになって中身が読めない本は見たことがない。これはもはや本の形をしているだけのただのごみと呼んでも過言ではない代物だ。一体誰がこんなことを…。

 

「誰が書いたかは知らないが、この本には神竜戦争の情報が記されている。だが中身は落丁だらけで字も薄くなったり黒塗りされたりでほとんど読めないボロボロもいいところだ。まるで誰かが故意にそうしたかのようにな」

 

「誰か…」

 

「この穴だらけの書の内容を埋め合わせるように俺たちは様々な伝説の調査と並行して戦争のことを調べ上げた。そして俺たちは世界から忘れ去られた歴史に辿り着いたんだ」

 

つまり、ヴァーリは叶えし者たちが処分したはずのこの本をどうにか入手したんだな。組織や勢力のしがらみがないぶん本当に好奇心の赴くままに調べることができたのだろう。そうでなければどこの勢力や神からも忘れられたこの戦争を知ることなどできまい。

 

「かつて、『神域《デュナミス》』と呼ばれる異世界から来たディンギルがこの世界に戦争を仕掛けた。不死身の肉体を持つ奴らは上級神とそれをはるかにしのぐ力を持つ最上級神を筆頭に各神話の脅威となった。戦争の理由は明らかになっていないが、とにかく奴らにはこの世界とそこに生きるすべての者への憎悪があったらしい」

 

ヴァーリは未だ完全に回復しない自身の体を横たえたまま、彼らが辿り着いた真実を語り始める。

 

始まりはポラリスさんから聞いた情報と同じだ。異界から来た神の襲来…何がきっかけになって彼らを融和ではなく戦争の道に駆り立てたのか?

 

「どういうわけか奴らは各神話の神や人類以上にドラゴンを恐れ、激しい敵意を抱いていたそうだ。そのドラゴンの最強だったオーフィスとグレートレッドには対抗策として『獣』を仕向けたらしいが…俺もその獣は詳しくは知らない」

 

「獣…オーフィスも同じことを言ってたな」

 

「オーフィスとグレートレッドの対抗策になるってどれだけの力を持ってるんだよ」

 

どれだけ攻撃されても尽きることのない全盛期の無限のオーフィスと未知数の力を持ちオーフィスと対を為すグレートレッド。それらと戦えるという事実だけで獣の脅威が十分に理解できる。その獣は聖書の神に封印されたらしいが…。

 

「そんなディンギルの脅威に立ち向かうため、一人の少女を中心に種族、勢力の垣根を越えて五人の勇者と龍王以上の力を持つ五匹のドラゴンが集まった」

 

「五人の勇者ってオーフィスも言ってたけど、誰なんだ?」

 

「勇者はそれぞれ当時の『黄昏の聖槍』の所有者だった教会の戦士と当時最強だったヴァルキリーのブリュンヒルデ、そして創星六華閃と呼ばれる優れた武器職人たちの始祖たちのリーダーとなる女性、アームドだ。残りの二人の内一人は悪魔なのは確かだが、あと一人は全く持って情報がない」

 

聖槍使いに最強のヴァルキリー、六華閃の開祖…この三人だけでも壮々たる面子だ。聖槍に関しては聖遺物由来の神器なので本来所有者が教会に属するのが正しい形だろう。どういう人柄だったかは知らないが世界の脅威に立ち向かうというまさしく英雄の所業、曹操は見習うべきだ。

 

「六華閃って確か、曹操たちのテロに巻き込まれたって最近ニュースになってたよな…ってか、創星六華閃ってなに?」

 

「…肉弾戦主体の君にとってはなじみが薄いだろうな」

 

ヴァーリはやれやれと無知な兵藤にため息をつく。確かにアスカロンを持っているとはいえ最近はゼノヴィアに貸すことが多いし、拳で戦う兵藤には彼らとは縁遠いだろう。

 

「六華閃とは、戦争でアームドが見出した優れた6人の武器職人たちが戦後に名乗った称号であり、グループ名のことだ。武器職人の頂点に君臨する彼らは武器職人たちの育成のほか、同業者の武器職人たちの支援・保護を目的として活動している。そして真の目的はディンギルの脅威に抗することだ」

 

「構成する6家は魔導書を司るジャフリール家、剣を司るレイド家、チャクラムを司るサイン家、日本刀を司る天峰家、弓を司るジヴァン家、槍を司るスカラー家だ。サイン家と天峰家は最近当主と前当主が英雄派のテロで亡くなったって話題になってたのは知ってるだろ」

 

「そう、それだ!リアスや先生たちも本当に驚いてたもんな…」

 

先生たちだけではない、レジスタンスを通して他の六華閃と繋がりがある俺もニュースが耳に飛び込んできたときには大いに驚いたものだ。サイン家は現在ガルドラボークさんがまだ年少の当主の後見人を務めることになり、天峰家に関しては今レジスタンスへの参加を呼び掛けているらしい。元々日本の勢力以外には閉鎖的なスタンスを取っていた前当主がいなくなり、今の当主がラファエルと個人的な交流があり外向的なことからかなり変わるんじゃないかと思われるが…。

 

「それぞれの当主は先代たちが培ってきた鍛冶の技術と初代が作り上げた最高傑作の武具と伝説の武器の名を継承する。そしてそれを戦闘で使用するための鍛錬も欠かさない。そのため、当主たちはどれも強者ぞろいだ。…話をするだけで滾るな」

 

「興奮すると体に毒だぞ」

 

こんな時でも戦闘狂の血が滾ってやがる。少しは落ち着くことができないものか。

 

「彼らは己が鍛え上げた武具と技術に絶対の自信を持っている故に、己が認めた心技体ともに優れた強者にしか武器を作らない。武器を手にして戦う戦士たちにとっては、彼らに認められ武器を授かることは大きな栄誉なのさ。鍛冶職人たちにとっても、畏敬の念の対象だ」

 

ゼノヴィアが前に話をしていたけど、剣を司るレイド家は剣士で名を知らない者はいないほどの有名な鍛冶職人らしい。その他槍や弓を使う戦士にとってもスカラー家やジヴァン家は同じように一目置かれる存在なのだろう。その点で例えるなら、六華閃はその手の武器の最高級のブランドと呼ぶべきか。

 

「ん?そのアームドって女の人の子孫はどうしているんだ?六華閃には入ってないのか?」

 

と、これまでの話から疑問を抱いたのは兵藤だった。

 

言われてみれば確かに六華閃にアームド家はない。もしアームドの子孫が代々当主を務める家があれば当然その家がリーダーのような立ち位置になるのだろうが、これまで俺がレーヴァテインさんやガルドラボークさんから聞いた話でどこの家がリーダーだという話はなかった。

 

「ありとあらゆる武器に精通している彼女は戦後、六華閃の始祖たちと共にディンギルの二度目の侵攻に備えて今の武器職人たちを守るための六華閃のシステムを作り上げたが、何者かに暗殺されたらしい。当時は血気盛んな強者や大きな組織の言いなりになるしかない立場の弱い武器職人たちを支援する彼女の存在を不都合に思う連中は少なくなかっただろうな」

 

もしかして、彼女の暗殺にも叶えし者が関わっていたりしてな。戦争後もなお六華閃を設立して表立ってディンギルの脅威に対抗しようとする彼女は目障りなことこの上ない存在だったに違いない。

 

「一人の少女ってのは何なんだ?」

 

「それがどうやら、何の力も持たない普通の少女だったらしい。なぜごく普通の彼女のもとにこれだけの実力者が集まったのか…謎が尽きないな」

 

二人も同じことを考えていたようだが、その少女の存在だけが不可解だ。力を持つわけでもないのに、自然と強者たちが集まってくる…まるで力を集めるという二天龍のようだ。ヴァーリさえも知らないその少女が何者なのか、非常に気になる。

 

「戦争が中盤の終わりを迎えるころ、奴らはこの世界の神が信者の人間から信仰を集めて力を得ていることに気付いた。それを真似るように奴らは己の力を人間に貸し与えて願いをかなえる契約の術を作り、他神話の信者を取り込んで勢力と力を増していったそうだ」

 

「叶えし者のことか」

 

その時にディンギルの軍門に下った連中が今様々な勢力に散らばって暗躍していると。余計な策を考え付いたものだ。おかげでこっちは大迷惑だ。

 

「激化する戦争は五竜が封印の障壁を作って真神たちを神域へ追いやりその影響を遮断することで戦争は終わった。だが戦争の終結と引き換えに当時の神々は戦争の記憶を封印されてしまった…これが戦争のあらましだ。まだまだ情報に穴が多いがな」

 

ヴァーリは一通り語り終えると、体に蓄積する疲労のためかふうと一息ついた。

 

驚いた、ヴァーリたちはポラリスさん以上に神竜戦争のことを知っている。どちらかというとポラリスさんは戦争よりもディンギルの情報を知っているといった感じだ。

 

「そしてどうやら、神の影響から遮断された今でも神に心を蝕まれ暗躍する叶えし者がいるらしい。これまで戦争の史料を世界を股にかけて探し回ったが、多くに人為的に消された痕跡があった。戦争の史料を持っているという六華閃も史料の大半を失っているそうだ。…だがおかしいと思わないか?」

 

「どうしてだ?」

 

「この歴史がだ。龍王クラスの五竜がオーディンやゼウス達以上の力を秘めた神々を相手取り、この世界のほぼすべての神々の記憶を封印できるような大規模な結界を作れたというのが引っかかる。勇者たちの手助けがあったとしてもそこまでやれるか甚だ疑問だ」

 

「…言われてみればそうだ」

 

「それに、戦争の資料がほとんどなくなりはしてもメソポタミア神話やシュメール神話としてディンギルの神話が残っているところもだ。何者かが辻褄合わせに歴史を改ざんしているとしか思えない」

 

「叶えし者たちが裏で動いたんじゃないのか?」

 

「だろうな。だが、それならどうしてディンギルに対抗するための六華閃が保管している史料もなくなっている?魔導書を司り、六華閃の情報の管理を担うジャフリール家も史料の大半をなくしているそうじゃないか」

 

ガルドラボークさんは長い時間の果てに六華閃もディンギルと戦う使命を忘れてしまったと言っていた。そして今、レジスタンスに協力する二人の六華閃はどうにか残りの六華閃に本来の使命を思い出させ、結束を固めようとしている。

 

だがディンギルに対抗する彼らが如何に長い時間の中で使命を忘れようと、わざわざ大昔の史料を紛失してまうようなへまをやらかす家ではあるまい。由緒正しい家柄と六華閃でも多くの情報を保有するジャフリール家は厳格にそれらを管理しているだろう。それが紛失するとなれば…。

 

思考を重ねるうち、一つの可能性に辿り着く。だがそれは俺には認めがたいものだった。

 

「…まさか、六華閃内部にディンギルに与した裏切者がいると?」

 

内部から工作し、戦争終結からの長い時間と合わせて意図的に引き起こされた現象だとしたら。

 

「あくまで可能性の話だ。昔はいた、と考えることもできる。仮にいたとしたら、強者と戦いたい俺としては大歓迎だがね」

 

「…」

 

ヴァーリが提示した可能性がひやりと俺の背筋を舐め、悪寒が走る。

 

もしヴァーリの話が真実だったとして最悪、レジスタンスに協力している二人がもしその裏切り者だったとしたら…。いや、それはありえない。もし二人が裏切り者ならアルル達はとっくにポラリスさん達の存在と動向を把握しているはずだ。

 

だがもし六華閃の集結を願う二人が知らず知らずに裏切り者と接触してしまったらと考えると恐ろしい。それにそもそも今裏切り者が存命かもわからない。

 

そしてそれを証明する証拠がない以上は二人を説得しようがない。悔しいが、今の俺にできることは何もない。

 

「六華閃の話はわかった…で、ディンギル本体の情報は?」

 

「さっきも言ったが戦争やディンギルのことはまだわからないことだらけだ。ただ、最上位神のアヌという神が前線の指揮をとっていたというのは事実だ」

 

最上位神のアヌ…話だけはポラリスさんから聞いている。主神クラスと言われる上位神のさらに上に位置する以上、恐らくとてつもない力を持っているのだろう。

 

「上位神の中にはどうやら三柱の強力な神がいるらしい。上位神のリーダー格のマルドゥク、死を司るネルガル、そして戦神のザババ。この三神は特に強者で多くの神々やドラゴンを屠って来たらしい。ドラゴンという種がいまやめっきり数が減ったのは人間界に彼らの住める場所がなくなったからと言われているが、俺は戦争でディンギルがドラゴンたちをつけ狙ったからとも考えている」

 

「そんなことまで考え付くなんてお前研究者かよ」

 

「俺はただ知りたいことを調べているだけだ。ごほっ…俺が知っているのは大体このくらいだ」

 

「色々と興味深い話が聞けた。…ありがとう」

 

ヴァーリとはいがみ合っている手前、素直に礼を言いたくない。しかし今は喉から手が出るほど欲しいディンギルの情報を提供してくれた礼は言わねばなるまいという両極端な思いがせめぎ合った結果、最後のありがとうはとてつもなく小さなボリュームで口からかすれるように出た。

 

「ヴァーリ、俺からも聞いていいか?どうしてオーフィスを連れ出したんだ?わざわざ俺たちのところに連れてきたのは曹操たちと戦うために利用しただけじゃないんだろ?」

 

「…ただ、話し相手をしているうちに寂しげに見えただけだ」

 

と、兵藤に尋ねられたヴァーリはどこかばつの悪そうに眼を俺たちから逸らした。そんなヴァーリの意外な反応は内心俺を驚かせた。

 

力を追い求めるヴァーリにしては随分同情的な理由だ。同じ強大な力を持ったドラゴン同士でシンパシーでも感じたのだろうか。

 

「…ところで、兵藤一誠もだが君の新しい力も中々に面白いな」

 

「プライムスペクターとヒーローズ・リインフォースメントのことか」

 

「ああ。君自身の戦闘力もロキと戦った時と比べても伸びているのがわかった。君も早く俺に追いついてきてくれると嬉しいんだが」

 

「追いつこうとしたってお前も進化してるじゃねえか。ハーフディメンションを禁手なしで使っていたようだし…実はお前も兵藤の紅の鎧みたいに特異なパワーアップを手に入れていたりしてな」

 

「さて、どうかな」

 

それとなく探りを入れるが、やはり手の内は見せるつもりはないと薄く笑いはぐらかされた。

 

この笑いは100%…いや、1000%隠し玉を持っているな。ただ、覇龍を超える力ともなればやはり体の負担は避けられないだろうし、今の状態ではしばらくは使えないだろう。

 

「俺たちはこの後、脱出作戦に参加する。お前はどうする?」

 

「当然参加する。白龍皇がやられっぱなしでこのまま布団で休むままでいるわけがないだろう?呪われた体に鞭打ってでも戦うさ」

 

むくりと呪われた上半身を起こして、呪いに屈しないとヴァーリが不敵に笑う。思った通りの返答に呆れ気味な笑いがこぼれた。戦いを追求するこいつが大人しくしている姿なんて想像もつかない。

 

「いつかはお前と決着をつける。お前を倒すのも目標の一つだからな」

 

「そうこなくてはな。俺も決着の時が楽しみだ。そのためにも、こんな場所で死んでいられないな」

 

選ばれたときから戦いを運命づけられた二天龍の二人。歴代とは違う進化の道を進みながらも二人の道はいつかは決戦という終着点で交わるのだろう。




ディンギルは基本不死身ですがゼウスやオーディンたち竜域側の神は人間たちの相当な信仰があれば復活できるそうなので戦争でやられた神は今はちゃんと復活してます。

アームドは六華閃でいうと、オルフェンズのアグニカ・カイエルのようなポジションです。ブリュンヒルデは原作に登場するブリュンヒルデの何代も前のヴァルキリーです。ヴァルキリーの中でもブリュンヒルデに関しては襲名制らしいので。

実を言うとこの作品世界でのメソポタミア・シュメール神話は神竜戦争の史料や叶えし者たちが考えたフィクションをもとに作られているので現実のものとは大きく異なっています。悠やポラリスが元居た世界では我々の知る通りの神話です。ただ悠はそこまで神話に詳しいわけではなかったのでメソポタミア・シュメールは知識なしです。

次話からはいよいよ反撃が始まります。

次回、「反撃への大航海」
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