ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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大変お待たせしました。長すぎたので分割してます。よって明日か明後日に次話更新です。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
23.コロンブス


第147話「シグルドの背中」

〈BGM:バリアンズ・フォース(遊戯王ゼアル)〉

 

「くそっ…離せ!」

 

業魔人となって鳥人のごとき姿と化した信長は、鷹のように俺の体を鋭い爪のついた両足でがっしり掴んで空へと攫って行った。どうにか逃れようと抵抗するが、手足が使えないようにうまく抑え込まれてしまい反撃のしようがない。

 

「離すわけねえだろ」

 

俺を捕えて空高く羽ばたいた信長。もがく間にもどんどん高度は増していく。そしてある程度の高度になると今度は体を捻ってぐるぐると俺を掴んだまま、車輪のように勢いよく回転を始める。

 

「おおおお!!」

 

視界が目まぐるしく回って揺れて、まるで脳ごとシェイクされているかのようだ。遊園地の絶叫マシンよりはるかにひどい揺れ具合に一瞬酔いかける。

 

「おらぁ!」

 

そして極めつけには回転の勢いを利用してオーバーヘッドキックを決めるように俺を投げ飛ばした。猛烈な勢いで俺はホテルの外壁に叩きつけられるとその衝撃で外壁が砕け、大きなひびが入る。

 

「がはっ!!」

 

衝撃が全身に突き抜けて肺から空気が地と一緒に吐き出される。おまけに若干外壁に埋没してしまっており、思うように動けない。

 

「貰ったァ!」

 

そこを狙って信長は追撃をかけんと構えるが、地上から無数の雷と弾丸が駆け上がり信長を狙ってきた。

 

「おっと」

 

しかし奴は軽やかに身を翻してやり過ごして見せる。肉体変化して体のサイズが大きくなっても身のこなしは健在らしい。

 

「よくも!」

 

「ふん」

 

地上にいる部長さんたちが空飛ぶ信長にガンガンセイバーやガンガンハンドで銃撃を放つも、奴は難なく神器で生み出した障壁で防いでしまう。逆撃つ雷光や紅い銃弾が次々に殺到するがすべて堅牢強固な奴の守りを崩すには至らない。

 

「ほう、滅びの魔力を弾丸に変えて連射できるのか。こりゃ恐ろしいな。だが!」

 

防御から一転。奴は一通り攻撃を弾くと小動物を見つけ、狩りをする隼のように空から猛スピードで急降下し、地上にいる部長さんたちを狙う。

 

「お前らの戦闘スタイルは基本的に魔力に依存していることはわかりきっている!弾幕を突破して近接戦に持ち込んでしまえばなんてことはねえ!」

 

「!」

 

〔ニュートン!〕

 

信長の言う通り、いくら強化をかけていても彼女たちでは近接戦で奴に敵う道理はない。このままではあっという間に二人がやられてしまう。特に眷属の中でも司令塔とそれを補佐する役割を持つ二人が落とされるのは非常にまずい。

 

それ故に迷わずニュートンの力を発動。埋没したまま右手を出して引力のフィールドを信長目掛けて放ち、その猛進にブレーキをかける。

 

「なに…!?」

 

引力に囚われた信長の動きが徐々に速度を落とし、やがて空中で静止する。そしてそのまま引力を高めてぐいんとこちらに引き寄せつつ軌道を上空に修正し、今度は斥力で空の彼方へ吹っ飛ばした。

 

「おわっ!?」

 

「さっきの一撃だけで俺が参ると思ったか…?」

 

「はっ、そんなに俺と戦いてえなら素直に言えよ!」

 

俺のセリフに獰猛な笑みを浮かべると、真っ直ぐにこちらへ猛烈な速度を伴って突っ込んでくる。もはや反応の余地すら与えないただの突撃は俺の体を打ち据え、ホテルの外壁を突き破ってそのまま俺たち二人はホテルの中になだれ込んだ。

 

「く…」

 

瓦礫と共に転がりながらもガンガンセイバー ナギナタモードを手元に召喚し、起き上がりと同時に詰め寄ってくる信長に一閃を仕掛ける。

 

「はっ!」

 

それを奴は両腕に装備された神器の爪で弾き、逆に腕を振り下ろされ切り裂かれる。

 

「ぐっ!」

 

「そらぁ!」

 

そこからさらに続く激しい爪撃の驟雨。次から次へ身を打ち据える怒涛の攻撃が全身の装甲やスーツを隈なく刻んでいく。

 

「くっ…!」

 

「こいつで終わりだ!」

 

〈BGM終了〉

 

とめどない攻撃にふらつく俺に対し、信長が腕を引っ込める。渾身の一撃を放つつもりか、奴の右腕を覆っている爪が神器の能力で変形を始めて分厚い装甲へ転じた。その重厚なサイズと形状はまるで兵藤の『龍剛の戦車』のようだ。

 

奴が豪腕を振り抜く。今の状態でまともに受ければもう立ち上がれなくなるかもしれない。もちろんそれを受けてやる道理はない。

 

顔面に迫る拳。一刻と距離が縮む。躱すのはギリギリのタイミングだ。ただ躱して反撃を叩きこもうとしても回避されるか防御されるだけ。特に防御されてしまった場合、逆に奴の障壁の硬さに負けて俺の腕が砕け散るかもしれない。

 

当たるか当たらないかの瀬戸際。奴の拳を避け、こちらが回避した、反撃が来ると判断されるより前に反撃の一打を叩きこむ。

 

「…」

 

迫る。来る。まだだ。近い。躱すか?いや。もっと。

 

ここだ!

 

〔ムサシ!ベンケイ!〕

 

1mにも満たないごくギリギリの瞬間。ここぞとばかりにムサシの見切りによって間一髪頭を横に振って事なきを得る。

 

「何!?」

 

〔ゼンダイカイガン!プライムスペクター!ハイパー・オメガドライブ!〕

 

すかさずドライバーのレバーを引き、渾身の霊力を込めたオメガドライブのカウンターパンチを入れ替わりに奴の胸部目掛けて打ち抜いた。

 

「ごふぅぁ!!?」

 

強烈な霊力が炸裂し、俺の目前で奴が大量の血反吐を吐いた。全力の一撃によって拳をもろに受けた胸部は血まみれになっている。手ごたえありだ。間違いなく奴の体の芯を穿った。

 

「はぁ…」

 

だが奴はこのまま負けてくれるほどやわではなかった。どういうわけか振り抜いた腕が引っ込めようにも動いてくれない。そして奴がパンチの衝撃でのけぞり、後ろによろけることもなかった。

 

「!」

 

〈BGM:怒涛の攻撃(遊戯王ゼアル)〉

 

よく見ると、奴にぶつけた俺の右手が奴の神器で生み出された鉱物でそのまま信長の胴体に固定されている。さらに視線を少し下げれば、それと同じように信長の両足も鉱物によって覆われ、床にしっかり張り付いているのが見えた。道理であの攻撃をノックバックなしで耐えきれたわけだ。

 

「しまった」

 

「勝負あったな…」

 

血を口から垂れ流しながらも奴が笑う。次の瞬間、俺の頭部に奴が先ほど俺に当てられなかった剛腕が叩きつけられた。

 

「ぃ…っ!!?」

 

頭を駆け巡るインパクトで脳震盪が起こる。視界がちかちかして一瞬何が起こったかわからなくなり、気づいたら地面に倒れていた。

 

「悪いな、業魔人化でタフさが増してるんだ」

 

さらに追い打ちをかけんと倒れた俺の顔面を何度も信長が蹴りつけてくる。

 

「ぐぶ!」

 

鼻の骨が折れて鼻血が止まらない。口が切れて口内が血の味で満たされていく。

 

「さっきてめぇは俺が力に酔っているなんて言っていたな!だったらてめえはどうなんだ!?」

 

「がはっ!!」

 

「世間から見れば悪のテロリストな俺たちを倒すという正義と、それを成し遂げられるお前の力に酔っているんじゃねえのかぁ!?いくつもの英雄の力を使うお前の姿は、俺には力の行使を楽しんでいるように見えるぜ!!」

 

言葉に熱が乗るとともに蹴りは苛烈していく。思いもよらぬ指摘に俺は咄嗟に返す言葉も反撃もなかった。

 

これまでに俺はヴァーリや曹操たちのような戦いに飢え、戦いを楽しみ、己の力を存分にぶつけられる強者を望む者たちを忌避してきた。彼らのあくなき闘争心はさらなる戦いを呼ぶのだと思っていた。

 

だが奴の指摘はそれを根幹から覆すものだ。

 

否定はできない。眼魂を取り返すたびに新しい戦法を考えていたし、特にプライムスペクターを手に入れてからは英雄の力の組み合わせを日々模索している。それはまさしく、俺が力の行使を楽しんでいる、言い方を変えればそれこそ俺が戦いを楽しんでいるということに他ならない。

 

なら、今嬉々として高ぶる力に歓喜して俺をぶちのめしているこいつやヴァーリたちと俺は同族ということなのか。

 

…いや、そうではない。俺はやはり奴らと同族ではない。奴らとは決定的な違いがある。

 

「違…う!俺は一度もお前たちのように、戦いを起こそうとしたことはない!!戦いを望んでなどいない!!俺はただ…自分と身の回りの人達に降りかかる災いの火の粉を振り払ってきただけだ!!そのために俺は力を求めてきた!!そこに正義はない!!純粋な願いだけだ!!」

 

これまでの戦いは全て、巻き込まれたか誰かを助けたいという願いのもとで行ってきた。俺は戦いに参加しこそすれど、自発的に戦いを起こすために火種になろうとしたことはない。戦いを楽しいものと感じたこともない。ならばやはり、俺は奴らと同じバトルジャンキーではないのだ。

 

「詭弁だな!積極性のない理由で強くなんてなれるか!」

 

奴がかかとを思いっきり振り上げるとそのまま俺の胴へ強烈な踵落としを決め込んだ。その余波で一気に床に亀裂が走った。

 

今のであばらが折れた。自分の内部骨格を見れるわけではないが、そんな感覚がある。

 

「が…あ…」

 

走る激痛。体は動かず、呼吸すら苦しい。禁手とは違う神器の強化、業魔人がこれほどのパワーアップをもたらす代物だったとは。奴らのアプローチは大正解だったわけだ。

 

「変身解除されてねえってことはまだ気力を持ってんのか。お前もタフだな」

 

強い。速さ、攻撃、硬さ。どれを取っても優秀だ。正直奴を舐めていた。神器の能力だけが取り柄の男だと。そう思わせたのは奴がずば抜けた防御力を持っていたからだ。

 

少し考えればそんなはずがないことはすぐにわかるはずだった。曲がりなりにも奴は神滅具使いや魔剣使いと肩を並べ、同格たる英雄派の幹部なのだ。ならばそれ相応の実力を持っていて当然だ。

 

油断していた。敵を侮った油断のツケを今から俺は命をもって支払うことになる。

 

「だがこれでようやく有力な邪魔者が消える。眼魂も命も貰っていくぜ」

 

「消えるなのはあなたですわ」

 

「!!?」

 

〈BGM終了〉

 

脳裏によぎる敗北の二文字。悔しさで胸がいっぱいになるその時、痺れる雷光が信長の腹を貫通した。

 

吐血し、不意打ちに驚く信長がゆっくりと背後を振り向く。

 

「姫島朱乃ッ…」

 

「私たちのことを忘れてもらっては困りますわ」

 

〈BGM:DECICION(黄昏メアレス)〉

 

エジソンのパーカーゴーストを纏った朱乃さんが、雷光の余韻残る右手を信長に向けていた。俺との戦いに躍起になっている間に距離を詰めていたのだ。

 

「は…!」

 

しかし奴の反応は早かった。即座に床を蹴り上げて朱乃さんとの距離を詰めると、がしりと大きな手が朱乃さんの頭を掴み上げた。

 

「きゃっ」

 

「やめろ…!」

 

「馬鹿な女だ、近接戦では俺に勝てねえと言ったのを忘れたか」

 

「今の私に近接戦に対応できる手段がないとでも?」

 

「なんだと?」

 

奴の体の向こうで朱乃さんがふっと笑うのが一瞬見えると、すぐさま迸る閃光でその姿が見えなくなる。

朱乃さんが全身から電撃を放出したからだ。

 

「あばばばばばばッ!!」

 

当然、朱乃さんを掴む信長は感電して全身に電撃を浴びることになる。エジソンの力で朱乃さんの力はさらに向上しており、全身が焼かれ黒焦げる。

 

「うぉ…くそ!」

 

これにはたまらず朱乃さんを解放するも間髪入れずに紅い弾丸が背後から殺到し、信長が業魔人化して得た翼に次々に風穴を開けていく。電撃で焼かれ、今度は撃たれた翼から紫色の羽が舞い、無残な姿へ変わっていく。

 

「なんだとぉ!?」

 

「朱乃がいるということは私もいるということよ」

 

いつの間にか俺のすぐ近くに現れていたのは部長さんだ。そしてそのまま俺を守るように朱乃さんと部長さんのグレモリー眷属のツートップが前に出た。この絶体絶命の状況において何と頼もしい後姿だろうか。

 

「貴様らぁ…!!」

 

不意打ち二連発を喰らっていよいよお冠になった信長がこの空間を埋め尽くさんばかりの大きな鉱物の塊をものの数秒で生成した。これだけの質量の鉱物を瞬時に生成できる辺り、肉体だけでなく神器そのものの性能も引き上げられているらしい。

 

逃げ場のない室内で質量に任せて俺たちを押しつぶすつもりだ。実際に宝石商に売ればどれだけの富を成せるか想像もつかないような巨大な鉱石を腕を振るうモーションと同時に、俺たちへと発射した。

 

「ぶっ潰れろォ!!」

 

「伏せて!」

 

〔ニュートン!〕

 

吼える信長。痛む体に鞭打って俺は二人の前に飛び出し、ニュートンの力を解放。両手を前面に突き出して斥力フィールドを生み出す。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ…!!!」

 

力の限り霊力を消費してフィールドを発生させるも蓄積したダメージにより思うような出力がない。最初は拮抗しているように見えたが、じりじりと斥力に負けずこちらへと距離を詰め始めている。

 

「くっ」

 

ついにはがくりと片膝をついてしまう。このままでは押し負ける。そう思った時に、部長さんは提案した。

 

「深海君、私たちのオーラと魔力も使って」

 

「!」

 

「イッセー君のような譲渡はできなくとも、あなたの能力である程度力がリンクしている今なら分け与えられるはずですわ」

 

「そんなことが…?」

 

「できるかわからないけど、可能性があるならやる価値は十分あるわ」

 

プライムスペクターの能力の一つである英雄の力を皆に分け与えるヒーローズ・リインフォースメント。それを逆に利用してみんなが俺に力を分け与えるなど、そんな可能性は考えたこともなかった。もし本当にできるなら、この状況をひっくり返す一手になる。

 

「やるわよ、朱乃!」

 

「ええ、行きますわ」

 

考えるよりも早く行動した二人の手が俺の肩に添えられる。それから間もなく俺が付与した英雄の力を通じて二人の強いオーラ、魔力が流れ込んでくるのが感じた。流石は上級悪魔と堕天使幹部の娘、凄まじい力だ。

 

「本当にできたのか…これなら!」

 

受け取った二人のオーラの影響か、俺が放つ金色と青の斥力フィールドに変化が現れ、荒々しい紅と天轟かす雷の色へと変色する。さらに威力も倍増し、拮抗が一転して一息に鉱石を押し返し、やがてそれはあっという間にとんぼ返りすることとなった。

 

「どふぁ!!?」

 

あえなく信長が跳ね返された自身の攻撃をくらってホテルの外へ吹き飛ばされていった。あのボロボロの翼ならおそらく飛翔してこちらへ復帰してくることもできまい。

 

「あれならもう戻ってこれないでしょうね」

 

「そう…ですね」

 

その言葉を続けることもできずに俺はその場で倒れこむ。この戦いでかなりの深手を負ってしまった。出血もかなりの量だ。このまま手当てしなければ出血多量で死ぬかもしれない。

 

「ごほっ」

 

「深海君!しっかり!」

 

「朱乃、急いで彼をアーシアのところへ運んで頂戴。私は信長を追うわ」

 

「ええ、お願い。もう少し耐えて」

 

こんな状況でも部長さんは冷静に素早く次の手を打つ。信長もあれで終わるような男じゃあるまい。それにジークと交戦している木場たちも気がかりだ。すぐにでも戦線復帰しなければ。

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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〈BGM:仮面ライダーブレイズのテーマ(仮面ライダーセイバー)〉

 

ジークと交戦真っ只中の木場のもとに、ふわりふわりと浮遊するムサシのパーカーゴーストが舞い降りて彼を覆う。

 

「これは深海君の…」

 

唐突な強化に一瞬戸惑うも、すぐに状況を飲み込んだ木場はこれ以上ないベストタイミングだとほほ笑む。

 

ムサシが得意としているのは二刀流。多くの剣を同時に操り攻め立てるジークフリートと戦うには少しでも手数が多い方がいい。

 

だが、肝心のジークフリートの攻略法が見つからない。

 

「奴の体は龍の血によって強化されている。五本の魔剣に身を透明化し剛力をもたらすタルンカッペ。まさしく伝承のシグルド、いやそれ以上だ」

 

「ドラゴンブラスターも効かねえし、あんな六本腕の攻撃を躱して背中を攻撃するなんて無理だろ。こんな奴どうすりゃいいんだよ…無敵か」

 

「ドラゴン…確かシグルドは龍殺しの英雄だったね」

 

木場はこれまでに調べてきたシグルドの伝承を思い返す。魔帝剣グラムを以て龍王ファーブニルを一度は屠り、その返り血を浴びて強靭な体になった。その際背中に菩提樹の葉がついていたためそこだけ龍の血の恩恵を受けられなかったのも有名な話だ。

 

彼が持つのは魔帝剣グラム。魔剣の頂点に立つ剣であり、アスカロンよりも強力な龍殺しの力を秘めている。グラム、龍殺し、そして龍の血。

 

「…いや、そうでもない」

 

いくつかのワードがつながった時、木場はある一つの可能性を思い当たった。もしそれが本当なら、ジークの虚を突くことにもつながる。それを確かめるべく、神器の能力を用いて一本の聖魔剣を創造しその手に握る。

 

「おい木場!?」

 

「へぇ、まだ向かってくるのか。やはり剣士たるものそうこなくてはね」

 

自分の勝利を確信したこの状況でなお歯向かおうとする木場にジークは呆れるどころかむしろ歓迎するように不敵に笑う。せっかく出会えた、この英雄の力を存分に振るうに足る相手だ。そう易々と折れるようでは彼の貪欲なまでの強さと戦いへの欲を満たすことはできない。

 

「おい、何か打つ手があるのか!?」

 

「打つ手はない。けど、可能性ならある」

 

「…わかった」

 

一誠はこれ以上言葉を続けることはしなかった。戦友の瞳に強い意志と自信を見て、それを信じることに決めたからだ。ジークと再び剣を交える覚悟を決めた木場の隣に、一誠が並ぶ。

 

「木場、同時に仕掛けるぞ。俺が気を引くからお前が決めろ」

 

「うん、グラムの龍殺しには気を付けて」

 

「いいや、君は死神の相手でもしてもらおうか」

 

ジークがさっと手を掲げると、どこからともなく木場たちの背後に死神の集団が出現する。そのローブや装飾の絢爛さはプルートには及ばないがこれまでの下級の死神以上のものだ。

 

「マジかよ!」

 

死神の集団を認めた一誠は即座に木場の背を守るように彼の背後に立ち、背中合わせにする。

 

「戦力の分断は戦いの基本だよ。さあ、赤龍帝の命を残らず刈り取ってくれよ」

 

ちゃきりと鎌を鳴らすと、音もなく死神たちが一誠目掛けて殺到する。

 

「イッセー君、死神は君に任せてもいいかい?」

 

「オッケー任せろ!」

 

その短い一言に戦友への全幅の信頼を乗せ、二人はそれぞれの敵へ向かう。

 

「ハッ!!」

 

背部のブースターからオーラを吹かせて一気に一誠は死神たちとの距離を消し飛ばす。鎌の一閃をかいくぐって懐に飛び込むと、強烈な拳打を打ち込んだ。

 

その一方で、木場はジーク目掛けてひた走る。

 

「何を思いついたかは知らないが、君にこの体を切り刻むことはできない!!」

 

ついに間合いに収め、振るった聖魔剣をジークはダインスレイブとノートゥングで防御する。聖魔剣と魔剣。二人の剣士がそれぞれ命を預ける得物が幾度となく交差する。

 

「ハァ!」

 

ジークが振るうグラムをいなす木場に、ジークの背部から生える龍の手が名のある魔剣を携えて襲い掛かる。しかし、凶悪な剣光をすんでのところで弾いた刃があった。

 

剣を扱う腕の数を増やせるという他の剣士には持ち得ないアドバンテージを生かしたジークの攻撃を防いだのは、ムサシのパーカーゴーストの背部に備わった2本のゴーストブレイドだった。

 

「僕と似た能力じゃないか」

 

ゴーストブレイドがオートで動き、龍の手が繰り出す剣技の数々に反応する。オートと言ってもあらかじめプログラムに設定されたとおりにしか動けないコンピューターとは違い、眼魂に宿る英雄の確かな記憶と技量に裏打ちされた剣捌きは的確に魔剣のラッシュをいなし、本体の木場を守っていく。

 

「剣が2本増えたところで!」

 

ムサシの力を得て互角に迫りつつある木場。それに負けじとジークも闘志を震わせ剣速を上げていく。そんなジークから離されないように木場の剣速は加速し、幾本もの剣がぶつかり合う。

 

「ッ!」

 

息継ぐ間もないような激しい打ち合いの中、木場は反撃のすきを窺っていた。ジークの6本の腕から繰り出す剣技のコンビネーションは非常に高い完成度であり、付け入る隙は無いように思える。

 

だが必ずどこかに突破口はある。その極々僅かなチャンスをものにするべくジークの剣を捌きつつ細い糸しか通れない小さな穴のような隙を見逃さないようにジークの

 

「ハァ!!」

 

「!」

 

そしてその時はきた。剣豪たるムサシの見切りが複数の魔剣からなるジークの剣技のごくわずかな隙を見抜いてグラムを弾く。そのまま返す刃で袈裟切りを繰り出す。

 

渾身の一太刀を叩きこむ決定的な瞬間。しかし今のジークには英雄シグルドと同等のいかなる攻撃をも弾き返す鋼の肉体がある。聖魔剣だろうとそれは例外ではない。

 

故にジークに大した焦りはなかった。むしろこの肉体が聖魔剣を逆に折れるかどうかという好奇心すら湧いた。

 

それ故に、彼の剣戟がもたらした結果にジークは大いに驚愕することとなる。

 

「ッ!?」

 

〈BGM終了〉

 

肩から腹にかけての袈裟切り。鋼の肉体が彼の思惑通り剣を弾くことはなく、鮮烈な剣の軌道がジークの胴に確かな切り傷をつけた。

 

通常のダメージとは違う、全身に駆け巡る怖気とよりずきずきと痛むような感覚にジークは顔を歪める。そして咄嗟に距離を取るのだった。

 

「なんだって…?」

 

驚きながらも傷口に触れて指に付着した己の血が現実を突きつける。無敵のはずの体が一太刀に屈した。

 

馬鹿な、そんなことがあるはずがないと。木場裕斗の力ではこの体に傷一つつけることすらできないはずだと確信していたのに破られた。

 

なぜという一言が彼の脳内を埋め尽くす。神をも殺すような大したオーラも込められていない剣にどうしてとジークは己の体を傷つけた木場の聖剣に注意深く視線を落とす。

 

これといった特色も派手な装飾もない、飾り気のない聖剣だ。強力なオーラは感じない。しかし、そのオーラには覚えがある。それは彼の同胞が召喚した堕天使サマエルがそれを何百何千倍にも濃厚にしたものを放ち、兵藤一誠が所有する聖剣アスカロンも同じ毛色のオーラを持っている。

 

「このダメージは…まさか!」

 

「そう、龍殺しの聖魔剣だよ」

 

木場がこくりと頷く。

 

「馬鹿な!攻撃を受けたのは神器の龍の手じゃないんだぞ…?どうして…」

 

「さっきあなたが言った。シグルドは全身に竜の血を浴びて強靭な肉体を手に入れたと。なら、今のあなたは龍の力を身にまとっているのと同じだよ」

 

だがいくら龍相手に絶大な効果を誇る龍殺しといっても生半可な攻撃ではその防御力に負けてしまうだろう。ゆえに放つべきは渾身の一太刀。だがもし龍殺しが通用せず逆に剣が折られるようなことになれば、返しで魔剣の餌食になってしまうかもしれない。ある種の賭けだったが、木場は見事推測を当てその賭けに打ち勝った。

 

「そういうことか…!!」

 

完全に盲点だった。シグルドと言えば魔帝剣グラムをもって龍王ファーブニルを討伐した龍殺しの英雄。そう信じて疑わなかった彼の力にまさか背中以外の弱点…それも龍殺しに弱いなど想像だにしなかった。

 

思わぬ弱点を突かれた動揺を鎮めるようにジークは大きく息を吐いた。

 

「まさかこの能力にそんな弱点があったなんてね…龍殺しの聖剣や魔剣は神器での創造が特に困難と聞いていたけどそれをやってのけるとは恐れ入ったよ」

 

グラムを地面に突き立てると空いた手でフェニックスの涙入りの小瓶を取り出し、傷口に液体をかける。たちどころに傷は癒え、木場がやっとの思いで刻んだ傷跡はなくなる。

 

「だが二度目はない。今度は油断しないよ、君の攻撃は全て魔剣で捌いて必殺の一撃を叩きこむ!」

 

〈BGM:闇の戦(仮面ライダーダブル)〉

 

木場の一撃はジークの燃える闘志に更なる油を注いだ。再びグラムを握ってその切っ先を向けると、大地を蹴って木場目掛けて走り出した。

 

「龍騎士団!」

 

木場の判断は早かった。聖魔剣を聖剣に切り替えて禁手を発動。聖剣の龍騎士団を召喚し向かってくるジークへ突撃させる。その全員が、龍殺しの聖剣を握っていた。

 

「全員に龍殺しの剣を持たせて僕を討ち取ろうという魂胆が透けて見えるよ!」

 

あの無数の騎士の剣全てが、今の自分に対して有効なダメージを与えることができる。だがジークは警戒はしても恐ろしいとは思わなかった。なぜなら、剣を受ける前に潰してしまえばいいからだ。

 

先陣を切った勇敢な騎士とすれ違いざまにグラムを振るい、破壊する。続けて迫った騎士が素早く突きを繰り出せば全て魔剣で弾いて距離を詰め、逆にバルムンクで貫いて大穴を開けて行動不能にした。左右から挟撃せんと襲ってくる騎士に対しては駒のように身をよじって一閃し、まとめて斬り伏せる。

 

そこに上空から二体の騎士が切りかかってくる。しかし今のジークは六本腕の鬼神。もはや一瞥をくれることすらなく、魔剣を握る龍の腕が剣戟を弾いて真っ二つに切り裂いた。

 

どれだけ容易く仲間が屠られようとも聖騎士団は恐れを知らず、次から次へとジークへ突撃してくる。

間髪入れず、休む間も与えまいと騎士団は歩みと剣戟を止めない。

 

「ふん」

 

ジークは赤子を相手にするかのように騎士たちの剣技を弾いては強烈な一太刀を見舞って粉々に砕いた。それはもはや剣で斬るというよりはガラス細工に鈍器を叩きつけるかのような様だった。そんな芸当を可能にしたのがタルンカッペの怪力を付与する能力だ。

 

「ディルヴィング、ノートゥング」

 

ノートゥングによって空間ごと切り裂かれ、ディルヴィングの力がタルンカッペと組み合わさり騎士団の鎧を塵も残さないほどの破壊力を生む。

 

「ダインスレイブ」

 

呼ばれた己の名に応じるがごとく魔剣の一本が怪しく輝くと、地面から鋭く分厚い氷柱が次々と出でる。残った騎士団は一撃で粉砕されるか空高く突き上げられ、やがて地面に落下して砕けた。

 

そうして前座はもういいと言わんばかりに、ジークが本体の木場へと距離を詰める。

 

「っ!」

 

咄嗟に騎士団に命令を飛ばすと、即座に応じる二人の甲冑の騎士が木場とジークの間に割り込む。先ほどの攻撃でどうにか軽傷で済んでいた騎士だ。

 

「バルムンク!」

 

しかしドリルのように高速回転するオーラを纏わせた突きのラッシュで主を守らんとした騎士たちは容易に砕かれ、ついにジークが本体たる木場に迫った。

 

「脆い、脆いよ。君の龍騎士団は本体の能力と速度を付与できる。でも技術は反映できていないみたいだ。技術のない速いだけの騎士団なんて僕の魔剣の前では紙屑でしかないよ!」

 

ここに到達するまでの打ち合いでジークは木場の禁手の特徴を見抜いていた。騎士団は確かに木場の分身とも呼べる存在だ。しかし、本体と比較してスピードは遜色ないが剣を合わせた際にどうしても本体が持つ優秀な技術の欠落が感じてならなかった。

 

「そこまで見抜くなんてね…!」

 

「タルンカッペ」

 

呟くジーク。不意にジークがその阿修羅のような姿が完全に風景に溶け込むように消える。

 

「!」

 

感じた殺意。すぐさま対処しようとするも剣を握る腕の動きが一瞬鈍る。その一瞬が命取りになった。

 

ずしゃ。

 

木場の胴を血のように赤いグラムが深々と貫いた。紛れもなく致命傷を負った戦友の姿に一誠が悲痛な叫びを上げる。

 

「木場ぁ!!」

 

「最後の最後で剣筋が鈍ったね。僕の光剣でできた傷が決定打になったようだ」

 

〈BGM終了〉

 

タルンカッペの能力で透明化していたジークが再び姿を現す。ずぶと剣を引き抜くと、ぐらりと脱力したように前のめりになって木場の体が倒れていく。

 

「木場祐斗、討ち取ったり」

 

斬り伏せた彼の倒れ行く姿ににやりと口角を吊り上げた直後だった。

 

ザン!

 

「ッ!!?」

 

背中を深く切り裂かれたような感覚。完全に虚を突いた一撃に驚きながらも後ろを振り返れば、甲冑の騎士がいた。騎士がおもむろにバイザーを上げると、甲冑の中にいる男と目が合った。

 

「木場裕斗…!?」

 

禁手の龍騎士団の鎧を纏った木場裕斗が己の背後を取って切り裂いていた。ならば先ほど自分が貫いた彼は何だったのか。そう思い視線を走らせると、足元に倒れ伏していた木場が霞になって消えていくところだった。

 

「幻術だと…」

 

「そう、あれは魔力で作り出した幻影。本物の僕は龍騎士団の鎧を纏って紛れ込み、あなたが油断するのを待っていました。ついでにあなたが僕の腕に着けた切り傷も利用し、より本物と思わせるようにしたんだ」

 

「…!!」

 

「龍殺しに弱いという新たな弱点が露呈したことであなたの背中への注意が手薄になった。そして僕の龍騎士団の弱点を見破り、これ以上にないほどに油断したところを突かせてもらいました。あなたたちは相手の弱点を突きたがるようですから、こちらも同じ手を取らせてもらいました」

 

そう言って瞬時に背後からジークの眼前に躍り出た木場が、龍殺しの聖剣の二振りでジークの胸部に斬撃を浴びせた。

 

「ぐはっ!?」

 

押し寄せる龍殺しのダメージに耐え切れず吐血したジークがのけぞり、そのまま地面を転がっていく。

 

「マジかよ、あいつの弱点を突いたのか!」

 

ちょうど数秒前に死神たちの攻撃を潜り抜けて全員を殴り倒した一誠が感嘆の声を上げる。

 

「元々この龍殺しの聖剣はイッセー君の覇龍対策で編み出したんだ。次に暴走した時のために、先生から打診されていた。でも、君は覇龍じゃない新たな進化を目指した。だから僕も修行を中断していたけど彼に敗れてから再開したんだ。ちなみに魔剣でも聖魔剣でも龍殺しは使えるよ」

 

「…やっぱすげえよ、木場」

 

進化していたのは自分だけではない。仲間もまた自分と同じように努力を重ね、進歩しているのだと一誠は改めて気づかされた。

 

 




次回、「フェーズ・スリー」
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