内海「ふ っ き れ た」
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は……
S.スペクター
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
「よっ、天王寺」
教室に入って早々、天王寺に挨拶する。
「悠くん!なんか今までよりもいい顔しとるで?」
「そうか?まあ、色々と吹っ切れたところはあるけどな」
昨日の一件以来、俺の心はかなり軽くなった。あれほど沈み込んでいたのが嘘のようだ。まだ完全に、とは言えないが。
「悠、あなた頬にパンくずがついてるわよ」
「おっと」
上柚木の指摘を受けて頬に着いたパンくずをペロリと舐める。
「ふふっ、上柚木に母さんみたいなことを言われたよ」
「確かにさっきの綾瀬ちゃんはオカンみたいやな」
「二人とも……!」
恥ずかしさに上柚木が顔を赤くする。
色々曲がりくねった道を歩いてきたがようやく待ち望んだ日常に戻ってきた。
それだけでも頬が緩む。
「紀伊国、紀伊国」
そんな中、兵藤が小声でそっと耳打ちしてきた。
「今日の放課後、体育館裏に来てくれないか?大事な話があるんだ」
珍しく真面目な顔で話す。
「……わかった」
返事をすると兵藤はアルジェントさんとおしゃべりに行った。
「何を話していたの?」
「いや、何でもないよ」
上柚木の質問を微笑みながら誤魔化す。
「せや、兄ちゃんから来月に帰ってくるって連絡があったで」
「大和さんが?」
「今フランスで仕事してるっていう?」
俺たちの質問に天王寺は頷いて返事する。
フランスか。料理とか文化とか色んな事を聞いてみたいな。
「ほらお前達、席に着け」
先生の声を聞いて皆が席に着き始める。
今日は一体、どんな1日になるのだろうか。
そう期待に胸を踊らせた。
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放課後、兵藤の呼び出しを受けた俺は体育館裏にいた。
俺を呼びつけた本人は真っ直ぐな目で、真剣な表情で見つめてくる。
……いやいや、まさか女に飽き足らず遂に男にまで手を出すようになったのか?
(いやまさかな)
友達を疑うような考えを忘却の彼方へ追いやる。
「…で、こんなところに呼び出してなんの話をするんだ?」
「……紀伊国」
兵藤の目と表情の真剣味が増す。
そして……
体を曲げ、俺に深々と頭を下げた。
「──頼む、お前の力を貸してくれ」
「……!」
予想外の頼みに驚いた。
こんなに真剣な兵藤の声を聞いたのは初めてだ。
「…この場で言う俺の力ってのは、スペクターのことか?」
「ああ」
頭を下げたまま返事をする。
前に俺はオカルト研究部に言ったはずなんだけどな。
「俺は戦いたくないって言ったけど」
「わかってる、でもどうしてもお前の力が必要なんだ……!」
……どうやら本当に本気らしいな。
兵藤の手を見ると、強く握りしめて真っ赤になっている。
そこまで来ると突き放せない。
「ハァ、取り敢えず頭を上げろ」
まずは、事情聴取からだ。
「──というわけなんだ」
「えぇ……」
こいつの話を纏めるとこうだ。
グレモリー先輩が家や種族の都合で政略結婚させられそう。
↓
グレモリー先輩は当然嫌がる。好きな相手と結婚したい。
↓
結婚相手は名家のホストみたいなチャラ男。
↓
さらに嫌がる。体をすりすり触られて最悪な気分。
↓
嫌なら自分達の眷族を使ったゲームで勝負だ!
↓
圧倒的にこちらが力と経験不足かつ人数も心もとない。
↓
今ここ。
…あえてもう一度言おう。
「えぇ……」
「いや二回言わなくてもいいだろ!?」
「なんでこんな面倒な話を俺にふってきたんだよ……」
正直にいって面倒すぎる。
種族とか、家の都合とか完全に部外者の俺が首を突っ込んだところでどうこうできるレベルの話じゃない。それに……
「相手はフェニックスだっけ?元七十二柱の」
「ああ、お前も知ってるだろうけど不死身らしい」
「えぇ……」
「またか!」
不死身ですってよ奥さん。そんなの太陽にまで吹っ飛ばさなきゃ無理ですわ。てか、フェニックスって悪魔にもいたのな。七十二柱なんてグレモリーとバアル、キマリスとかグシオン、バルバトス位しかわからない。……あれ、悪魔って意外といるくね?
「種族の都合ってなんなんだ?悪魔の駒とやらで悪魔って増やせるんじゃないの?」
「悪魔の数は増えていても純血の悪魔が減ってきてそれが危機視されてるんだってさ」
「純血?」
「書いて字の通り、生まれたときからの悪魔ってことだよ、貴族社会な悪魔の世界ではとても大切なんだとよ」
「へえ」
悪魔社会って貴族社会でもあるのか。昔から続く高い位の家が純血の悪魔ってことだろうか。
「で、レーティングゲームってのに向こうは頭合わせて16人、こっちは6人が参加すると」
「ああ、こっちはとにかく人手が足りないんだ」
「人手っていうか悪魔手だろ?」
「え、ああ、そうだな…」
相手は16人、オカルト研究部は6人か。
その戦力差は2倍以上。
そしてレーティングゲームは互いの眷属を戦わせる悪魔社会で人気のゲームで色々なルールがあるらしい。チェスの駒を模した悪魔の駒とも連動しているとか。
「正直に言って俺が参加してもどうにもならないだろ」
敵の人数は俺を入れても2倍以上、しかも敵の頭は不死身ときた。
元々戦う気は薄いが、それを聞いてその薄い気がさらになくなっていく思いだ。
「でも、俺はアイツに部長を渡したくないんだ!」
「……その目だよ」
頼み込んで来たときと同じ、俺を捉えて離さない真っ直ぐな目。
「なんなんだ、何がお前をそこまでさせるんだ!?」
「…俺は部長が好きだ」
またこいつはいきなりそんなことを……。
ほんと、こいつは俺を驚かせることに関しては天才か?
「好きだからこそ、あんなホスト野郎に部長を渡したくない。昨日アイツが来た時、部長はすげえアイツのこと嫌がってた」
「……」
「悪魔社会とか、貴族とかわかんねえけど、でも勝手な都合で嫌な相手と一緒にさせられる部長を俺は放っておけないんだ!!」
……遂に言ったか。
お前の本音。きっと昨日の俺も同じような顔をしてたんだろうな。
こいつを見てやっとわかったよ。一生懸命ってどういうことなのか。自分がそうなるだけじゃわからなかった。でも一生懸命になるやつを見て初めてわかった。一生懸命になるやつって、こんな顔をするんだな。そして……
「…それがお前が一生懸命になる理由か」
「ああそうだ!だから頼む!俺に、俺達オカ研に力を貸してくれッ!!」
そいつを見ると、周りにいるヤツは応援したくなるんだ。その熱意は人の心を熱くさせ、動かす。どうやら放っておけない性分は、俺も同じらしい。
再び兵藤が貫くような視線を俺に向け、答えを待つ。
そして俺は頭をポリポリ掻きながら答えを出した。
「……わかったよ、今回だけだ」
「…ッ!!やったぁぁ!!」
目の前で兵藤が跳び跳ねて喜ぶ。
まだ勝てると決まったわけじゃないのに、全く。
「一応聞いておくけどグレモリー先輩に話を通してあるよな?」
「あっ」
その反応で全てを察した。
また事情説明かよ……。
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「部長、ただいま戻りましたー」
兵藤が扉を開け入るのについていく。
「ええ、イッセーと……え!?」
部室の奥の机に座り、資料を読んでいた先輩が勢いよく立ち上がる。えらく驚いている様子だ。
「紀伊国君…!?なんで君がここに……」
「あ、どうも」
頭を掻きながら挨拶する。
正直に言って気まずい。
先月、勧誘を断るのみならず一方的に話をぶっちぎって出ていったものだからなおさら。
「俺がゲームの助っ人になってもらうよう頼んだんです」
「っ!?あなたが!?」
「バカな俺でもこのままじゃ勝てないってのはわかってます」
こいつの目が変わった。俺に頼み込んできた時と同じだ。
「イッセー、これはグレモリー家とフェニックス家の問題なの、部外者たる彼を巻き込むなんてもってのほかよ!!」
「でも!!…じゃあ部長は負けてもいいっていうんですか?」
「!」
声を荒げての互いの意見の応酬。
おーおー。
目の前で言い争いが始まった。
ピリピリした空気の漂うこの場に居合わせる俺の気まずさがどんどん強くなっていく。
「俺は嫌です。負けたら部長だけじゃない、俺たち皆だってきっと後悔する!」
「……」
「俺は部長の悲しむ姿を見たくない!」
「イッセー……」
再びまっすぐな思いをぶつける兵藤。
今日のこいつかっこよすぎないか?
ワームが擬態した別人だと言われても俺は信じるぞ。
普段変態だのバカだの言われてるとは思えない兵藤の姿がそこにはあった。
一呼吸置き、先輩が告げる。
「…わかったわ。紀伊国君、あなたの意志はどうなのかしら?」
ピリピリとした雰囲気が緩和された矢先、俺に話が振られた。
「…俺は戦いたくない、その意思は変わりません。でも」
兵藤に視線を一瞬向け言葉を続ける。
「一生懸命になってるやつの頼みなら別です。こんなまっすぐな目をしたやつの頼みを無下になんてできませんよ」
拳を握り、勇気を出して宣言する。
「だから俺は、もう一度だけ戦いの場に戻ります」
「…決まりね」
紅髪を撫でフッと笑う。
「私は今から朱乃と共に冥界へ向かい、姉さまとフェニックス家に話を通してくるわ」
先輩が俺に向かって歩を進める。
「一時的だけどよろしくね、紀伊国君」
微笑む先輩が手を差し出す。
「はい」
その手をしっかりと握り握手する。
前回は一方的に話を切り上げて帰ってしまったが、今回は違った。
また一つ胸のモヤモヤが晴れていった。
「あ、言い忘れてたわ」
「?」
先輩が何かを思い出したらしい。
……嫌な予感がするのはただの思い違いだと思いたい。
「明日からオカルト研究部はレーティングゲームに向けて10日間の強化合宿に行くわ。あなたも参加していきなさい」
「えっ」
自然と片足が後ずさる。そこへ兵藤がポンと俺の方に手を置き笑顔で告げる。
「乗り掛かった舟っていうだろ?一緒に頑張ろうぜ!」
もう、どうにでもなれ。
今回はちょっと短めでした。
カウント・ザ・アイコンが今まで全く変わりませんでしたが、そろそろ動きがあります。それも含めて次回の楽しみに。
次回、特訓します。