ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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ついに…UAが10万を突破しました!投稿開始から本当に長い道のりでした。いつもご愛読ありがとうございます。今回、記念企画を考えてますので詳細は次回以降の投稿で説明します。

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第149話「リベンジ・オブ・ベルゼブブ」

兵藤と部長さん、二人が起こした愛の奇跡の末に駐車場は壊滅した。砲撃の余波でアスファルトはでこぼこになり、ここに立っているのは俺と兵藤、部長さん、朱乃さん、木場、そして英雄派のゲオルクと信長とジークだけだ。

 

死神の軍勢は全て消し飛ばされ、フィールドを維持する装置を全力で守ったゲオルクが肩で息をしている。

 

「はぁ…はぁ…」

 

今の奴の姿は英雄派の制服の上から黒いパーカーゴーストを纏った状態。パーカーゴーストにはいくつもの魔方陣が刻まれ、袖や襟には悪魔の翼の意匠がある。

 

あれが奴の『英雄化』。自信と同じ名の偉人、ゲオルク・ファウストの魂が宿るゲオルク眼魂を用いてパワーアップを遂げた姿だ。能力はわからないが奴との相性を考えると、おそらく魔法にちなんだ特性ではなかろうか。

 

死神たちを吹き飛ばした後、ドラゴンブラスターの矛先を結界の維持装置に向けたのだが術者のゲオルクがその周囲に小さな結界を張って防御したのだ。英雄化の力もあって相当堅牢にできていた結界だが、何度も繰り返し照射されては彼の力を発揮するためのスタミナも持たず、この有様だ。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

一方でそれを引き起こした当人の兵藤は号泣していた。なぜなら愛する人の胸は見る影もなく真っ平になってしまっていたからだ。奇跡の根源たる胸が無くなってしまったということは、もう砲撃は打ち止めということになる。

 

「相変わらずばかげた奇跡を起こしてくれるね…赤龍帝」

 

「おいジーク、そろそろ引き際か?もうあれとやりあう余力はねえぞ」

 

そして力を出し切ったジーク達もドラゴンブラスターの回避に全力を尽くし、いよいよ戦えず膝をついている。こちらも相応に力を使ったが、今は英雄派の幹部を一気に三人も倒せる千載一遇のチャンスだ。

 

「いいや、お前らをここで逃がすつもりはない」

 

そう言い放ち俺たちのもとへ降り立ったのはアザゼル先生だった。傷だらけだが破損はしていない黄金の鎧は死神との戦いが拮抗したものだったということを語っている。

 

同時にジーク達の方にも危険なオーラを放つ死神が音を立てずに降りてきた。先生とやり合って無事でいる辺り相当な強者らしい。

 

「チェックメイトだ。ジークフリート、信長、ゲオルク、そしてプルート」

 

そして光の槍の切っ先を四人に向けた。プルートとかいう死神はともかく全員で総攻撃を仕掛ければこのまま英雄派の三人は潰せるだろう。そして結界の装置も破壊できる。

 

あと少しだと思った矢先、バチバチバチと電気のはじける音が空から聞こえた。

 

何事かと誰もが空を見上げる。そこにあったのは人一人分のサイズの空間のゆがみ。水面に波紋が経つように何度も歪むと、突然ガシャンとガラスを割るような音とともに歪みが砕けるとライトアーマーを着込み、マントをなびかせる威風堂々たる男が現れた。

 

その男の顔は忘れもしない。ディオドラを消し、アーシアさんを次元の狭間に飛ばした男。そして兵藤が『覇龍』を発動させるきっかけとなり、彼の逆鱗に触れた男。

 

〈BGM:怒りの反撃(遊戯王ゼアル)〉

 

「久しいな、赤龍帝…そして、ヴァーリよ」

 

この場にいる全員の注目を一身に浴びるその男が忌々し気に二人を睨むと、静かに口を開いた。アザゼル先生が俺たちと因縁深いその男の名を呼ぶ。

 

「シャルバ・ベルゼブブ…旧魔王派のトップ。まさか本当にあの攻撃を喰らって生きていたとはな」

 

「ふん。随分と深手を負わされたがな」

 

鼻を鳴らす奴の視線が今度は英雄派に移った。

 

「ジークフリート。貴公ら英雄派には世話になった。蛇を失いはしたものの、おかげで傷も癒えた」

 

「その節はどうも。こちらとしてもあなたたちに恩を売っておきたかったのでね。それより…」

 

「何の用だ?まさか援軍なんて柄じゃあるめえし」

 

信長の口ぶりからして奴らにとっても想定外の登場のようだ。確かに奴の言う通り、シャルバは義に厚い男ではないだろう。敵対し短い時間しか奴と会ったことのない俺ですら、奴のセリフや行動から容易に推測できる。

 

「そうだな。むしろその真逆、宣戦布告でもしようかとね」

 

「なに?」

 

刹那、奴の顔が醜悪な笑みで歪み、ばさりとマントを翻す。そこに隠されていたのは以前渡月橋で曹操たちと行動していた、『魔獣創造』の所有者の少年だった。確か、名はレオナルドだったか。

 

しかしあの時と比べて、彼の眼はどこか心ここにあらずと言った様相だ。まさか洗脳されているのか?

 

「レオナルド!」

 

「おいおいどうしてレオナルドを連れてんだ!?何も聞いてねえぞ!」

 

いよいよ英雄派たちの想定外の展開になって来たらしい。動揺を隠せておらず、シャルバを問い詰め始めた。

 

「なに、少し協力してもらおうと思って連れてきたのだよ。君たちの強情な仲間には残念ながら死んでもらったが」

 

「てめぇ…」

 

信長が怒りに満ちた双眸をシャルバに向ける。仲間割れなら大歓迎だが。

 

今にも飛び掛かりそうな信長を手で制したジークが前に進む。沸々と内心滾っているであろう感情を努めて抑えるように冷静な声色でシャルバに一つ問うた。

 

「…レオナルドには別作戦を任せていたはず。彼をどうするつもりだ?」

 

「こうするのだよ」

 

シャルバの手のひらに小さな魔方陣が展開し、それをレオナルドの胸に添える。すると魔方陣に刻まれた文字が高速で目まぐるしい回転を始めた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

魔方陣にどういう効果があるのかは知らないが、幼い顔を苦痛で歪めたレオナルドが絶叫する。どうやら体に強い負荷をかける術式のようだ。しかし、そんなことをして何を…?

 

絶叫を上げる彼の影がぐちゃぐちゃに歪むと、空気を入れた風船のように一気に広がり始めた。影の拡大は止まることを知らず、フィールド全域に及ぶ勢いだ。

 

「なんだか知らんがとんでもなく嫌なことが起こりそうだ!」

 

「…シャルバの奴まさか!」

 

先生はすぐに何が起こるのか理解したらしい。それがよほど恐ろしいことなのか、顔が青ざめている。

 

「フハハハハハッ!やはり『魔獣創造』は想像以上に素晴らしい力だ!さあ、その美しくも醜き姿を見せたまえ!!冥界を滅ぼす怪物よ!!」

 

影から逃れるように空中へ浮遊し、この現象に歓喜するシャルバの言葉に呼応したか、広大な影からずるずると何かが這い出てくる。

 

『ガァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

まるでこの世に生まれたことを嘆き、怒るようなそら恐ろしい咆哮がフィールド全域にとどろく。凄まじい音圧に鼓膜が潰されそうになり、咄嗟に耳を塞いだ。

 

巨大な頭。山のように大きな胴体。大樹のような腕。それらを支えるのもまた巨大な脚。とにかくスケールが規格外の怪物だ。グレートレッドの二回りほどのサイズ…200mはありそうだ。

 

「デカすぎるだろ…!!」

 

神滅具の中でも最悪と言われる『魔獣創造』、まさかこれほどまでに巨大なモンスターを創造できる神器だったとは。道理で最悪と言われるわけだ。こんな神器、どう使えば破壊以外の用途を思いつけるのか。

 

おまけにレオナルドの影からさらに新たなモンスターが何体も出現していく。あの巨大な化け物ほどではないにせよ、それでも100mはある十分驚異的なサイズだ。

 

「そして仕上げだ!」

 

シャルバがさらにモンスターたちのサイズに合わせた巨大な魔方陣を怪物の足元に展開する。

 

「あれは転移魔方陣!?」

 

「貴様何をするつもりだ!」

 

「見てわからないのかね?今からこの怪物が冥界へ転移し、滅ぼしに行くのだよ!偽りの魔王も、それに追随する愚かな悪魔たちも全てこのアンチモンスターが破壊する!!」

 

「なんだって…!?」

 

シャルバの狂笑交じりの宣言に全身の血の気が引いていくのを感じた。如何に冥界が広大で、魔王たち強力な悪魔がいるといっても、あんな巨大なサイズのモンスターがこれだけの数暴れたらとんでもない被害が出てしまう。

 

たとえ討伐できたとしても首都や主要施設が破壊され、大勢の悪魔が死ぬ事態になればそれこそ悪魔社会の大危機だ。なんて恐ろしいことを考え、実行してくるんだこいつは!

 

魔方陣が輝く。それによって転移が始まり、モンスターたちが次第に光に包まれ始める。

 

「止めろ!!絶対に行かせるなァァァ!!」

 

先生が全力で叫び、兵藤や部長さんたちがモンスター共へ攻撃を仕掛ける。雷光や滅びの魔力、無数の光の槍の雨、ドラゴンショットが放たれモンスターたちに突き刺さっていく。

 

「くそ…」

 

俺もどうにかして攻撃に加わりたいが、今は全く体が動かない。こんな時に何もできない自分の無力さが恨めしい。

 

「嘘だろ、全然効いてない!」

 

しかし戦いを重ねて疲弊した俺たちの攻撃はモンスターの表皮を少し消し飛ばすだけで全く通用していない。攻撃が降り注ぐ間にも転移は進行していく。

 

「無駄無駄!止められるわけがないだろう!!」

 

耳障りなシャルバの高笑いが響き渡る。やがて俺たちの攻撃もむなしく、すべてのモンスターたちが転移の光に呑まれ、完全に消えた。

 

「そんな…」

 

〈BGM終了〉

 

部長が絶望に染まった声色で呟く。俺も兵藤も、全員の顔が真っ白だ。俺たちが僧攻撃を仕掛けて一体も倒せなかったあの怪物たちがこれから冥界を暴れまわるのだ。どれだけの犠牲が出るか想像もつかない。

 

しかし無力感に打ちひしがれる暇もなく、今度はこの世界全体が鳴動を始めた。

 

「!?」

 

フィールド内に林立する建物が次々に崩壊を始める。崩れているのは建物だけじゃない、星が瞬く夜空までもひび割れていく。

 

「今度は何だ!?」

 

「あれだけの規模の魔獣創造の行使と転移をごく短時間でしたんだ、このフィールドが耐え切れなくなってんだよ!」

 

冥界の前にこのフィールドが壊れるのかよ…!シャルバはとことん状況をかき乱してくれるな!!

 

「装置がもう持たない!今のレオナルドではあんな怪物はキャパシティのオーバーもいいところだ…!!」

 

「シャルバの奴滅茶苦茶やりやがって…この落とし前はいつか必ずつけさせてやるぜ」

 

俺たちが魔獣を攻撃している間に回収したのか、ぐったりと気絶したレオナルドを抱えた信長が今なお高笑いを続けるシャルバを睨む。

 

「頃合いだ。撤退しよう」

 

ジークの言葉に二人もうなずく。それを見たジークはいつの間にかいなくなっていたあのプルートという死神を探すように辺りを見渡す。

 

振り向けど振り返れどどこにもいない。それにすべてを理解したのか一つため息をついて見せた。

 

「なるほど、グルということか。全く、あの神は嫌がらせのためなら手段を選ばないということがよくわかったよ。あんな神滅具の強制的な禁手はどんな後遺症が出るかわからないからゆっくり彼の力を高めようとしていたのに…」

 

何かよくわからないことを呟きながらも、次第に奴らを見慣れた霧が覆い隠す。混乱に乗じて逃げる気か!

 

「おい英雄使い!次の戦いは、俺の本気で相手してやる。それまで腕を磨いておくんだな」

 

転移の直前、信長がそんな不穏なことを言い残す。それに対する返事を寄こす前に奴らは消えた。

 

あいつ、業魔人でもかなり強かったのにまだ本気じゃなかったのか。ならいよいよ次の戦いで禁手を使ってくるのだろうな。今は英雄派に構っている暇も余力もない。助かったと思うべきか、手負いの幹部を逃がし歯噛みするべきか。

 

ドォォン!!

 

英雄派が消えたと同時に今度はホテルの方から激しい爆撃音が聞こえ始めた。

 

「次から次へと…」

 

「おいシャルバの奴、後衛に攻撃しているぞ!」

 

兵藤の指さす先では、なんとシャルバがホテルで待機していた後衛組に魔力で攻撃を仕掛けているではないか。

 

「どうしたどうした!自慢の白龍皇とルシファーの力はそんなものかァ!?ルシファーであろうと、不純な悪魔が真の魔王に勝てるはずがないのだ!!」

 

シャルバから皆を守っているのはヴァーリだった。サマエルの呪いの影響で万全ではないあいつは攻勢に出ることができず、防御魔方陣を張って防衛に徹していた。

 

「こちらの不調時に好き勝手言ってくれるな…!」

 

「不調だろうと好調だろうと関係ない、最終的に勝てばよかろうなのだ!!」

 

ヴァーリを追い詰めている今の状況がよほど嬉しいのか奴の哄笑は止まらない。攻撃の最中、ふと奴が自身の手をオーフィスへ向ける。するとオーフィスの体に螺旋状の魔力が巻き付くように浮かび上がった。

 

「しまった!」

 

「情報通りだ!今のオーフィスは力が弱く不安定だな!こいつは我らの協力者への手土産として頂いていくぞ!!」

 

魔獣創造を利用してとんでもないモンスターを冥界に送るのみならずオーフィスまで…本当にやりたい放題だ。

 

しかし俺が知っているシャルバはもう少し冷静で旧魔王派の例に漏れずプライドは高いが理知的な男だと思っていたが、今目の前にいるシャルバとはイメージが随分食い違っている。ここまでくると本当にシャルバなのかも怪しく思えてくる。一回死にかけたことで別人のように豹変してしまったのか?

 

「まずい!」

 

「させるか!!」

 

すかさず動いたのは兵藤だった。龍の翼を広げて飛翔し、シャルバへ殴りかかる。しかしその拳をシャルバはぱしっと受け止めた。兵藤と相対した奴の顔が狂笑から今度は激憤の色に変わる。

 

「兵藤一誠…!貴様のおかげで随分と辛酸をなめさせられたぞ!あの敗北以来、何度夢の中で貴様を殺してきたか!!」

 

「知るか!てめえにオーフィスは捕えさせねえ、冥界も壊させやしない!!」

 

シャルバのパワーも精神のタガが外れたせいか上昇しており、そのまま拳を打ち抜けずにいる兵藤。空いた手で腹に一発叩きこもうとするが叩き落とされ、逆にシャルバは掴んだ手をぐいんと引き寄せてなんと一本背負いを決めて兵藤を地面に叩き落とすのだった。

 

「ぐは!」

 

「いいや、私が壊す!我らを拒絶した冥界なぞ不要だ!あんな冥界の覇権なぞいらぬ、支配したくもないわ!滅んでしまえばいい!!私が呪いとなり、冥界に生きるすべての悪魔を殺しつくすのだ!」

 

「なんだあいつ…」

 

「正気じゃないわ…」

 

「そうだ、貴殿を慕う冥界の子供も全て死ぬのだ!エリートだろうと貧民だろうと、階級も、純血悪魔も転生悪魔も関係ない!みな平等に私が殺す!!さあ、私が貴様らの願う『差別のない冥界』を実現してやろうじゃないか!!フハハハハハ!!」

 

その言葉で確信する。こいつは紛れもなくシャルバ本人だが、もう正気じゃない。

 

今までの旧魔王派は禍の団、特にオーフィスの力を借りて現魔王派の打倒し、自分たちやその血族が魔王として返り咲くことを目指していたが、こいつは破壊しつくすことしか考えていない。兵藤の覇龍に敗れて作戦を台無しにされてひどくプライドを傷ついてしまったのだろう。

 

旧魔王の血族という生まれに由来するプライドと自信に依存していた奴の精神はたった一度の敗北でひどく誇りという精神的支柱が大きく揺らいでしまった。その結果がこの有様なのだ。

 

ガシャン!

 

ついに空からガラスが粉々に砕け散ったような大きな音が聞こえた。見上げてみるとフィールドの崩壊がさらに進行して空間に大穴が開いてしまい、そこからあちこちに散らばっていた瓦礫が吸われ始めていた。

 

これはいよいよ脱出しないとまずそうだ。シャルバは…オーフィスを捕まえてご満悦のようでずっと笑いっぱなしでこちらに見向きもしない。しかしどうやって脱出を…。

 

「フィールドが限界にゃん!今なら転移で脱出できるからこっちに急いで集まるにゃん!!」

 

ホテルから黒歌が魔法を使ってより大きな声量でこちらに呼びかけてくる。流石、今まで各勢力に喧嘩を売っては逃げてきたあいつららしく脱出の算段を既につけていたようだ。

 

しかし今の俺は連戦の末に力を使い果たし、仙術で押さえた負担のツケが回っているせいで全く動けず立ち上がることすらできない。おまけに出血したせいで血が足りなく、ふらふらする感覚もある。

 

そんなみじめな俺の腕を木場が掴んで、戦いで力を使い果たし脱力した俺を背負いあげた。

 

「僕が肩を貸すよ」

 

「済まない…」

 

ここに集まった他のメンバーもホテルで魔方陣を用意しているであろう黒歌のもとへ悪魔の翼を広げて羽ばたこうとした時だった。

 

兵藤だけが、シャルバとオーフィスを見上げたままその場から動こうとしない。部長さんがすかさずその手を引く。

 

「イッセー、行くわよ!」

 

呼びかけてもあいつは目線を二人から外そうとせず、動かないままだ。するとおもむろにこちらを振り向き、今何をしようとしているのかを俺たちに敢然と告げた。

 

「リアス。俺、今からオーフィスを救います、そしてシャルバも倒します」

 

「!」

 

〈BGM:友の証(遊戯王ゼアル)〉

 

兵藤の決意に俺たちは揃って驚きに目を丸くした。もうフィールドの崩壊は秒読みの今で一体何を言いだすのか。いくらバアル戦を制した兵藤と言えど、旧魔王の血族のシャルバを瞬殺することは無理だ。残り少ない時間で両方をやり遂げる余裕は到底ない。

 

「それなら僕も…」

 

「いや、俺だけで十分だ。俺なら鎧を着こめばフィールドが壊れても次元の狭間でもある程度活動できるはず。ヴァーリだってできたんだからな」

 

「こんな時にカッコつけやがって…お前、活動はできてもどうやって帰るつもりなんだ!?」

 

戦いに勝ったところで帰れなければ意味がない。次元の狭間はそもそも生命が生身で活動できる空間ではない。限界時間までに現世に戻れなければシャルバに勝ったとしても結局死んでしまう。

 

「だからって、俺にはあのままオーフィスを見捨てることもシャルバを放っておくこともできない。…あいつは子どもたちを殺すって言った。ここで倒さなきゃもっと多くの被害が出る。これは俺にしかできないことなんだ」

 

兵藤の決意は固く、梃子でも動かないつもりだ。兵藤にしかできないこと、か。今の俺にできることはこのまま木場に連れられてフィールドから抜ける以外にない。

 

…それならば、俺たちはフィールドを脱出する目的を達するという俺たちがやらなければならないことを全うするように、兵藤もあいつにしかできないことを全うさせてやるべきなのではないか。

 

「何をちんたらしてるの!今じゃないともう転移できないにゃん!」

 

タイムリミットも迫り、一向に来ない俺たちに黒歌が叫ぶ。ここで兵藤を説得する時間すらないようだ。

 

…ここはあいつに任せるしかないのか。

 

「イッセー、あとでタンニーンを呼んで龍門でお前とオーフィスを召喚する。だからそれまでにシャルバを倒してこい!いいな!」

 

先生の提案に兵藤がこくりと頷いた。龍門は確かロキ戦の準備で龍王ミドガルズオルムの意識を召喚する際に使ったのだったか。これで帰るプランはできたわけだ。

 

ここまで話が進めばもうあいつを引き止めることはできない。兵藤の言う通り、狂気に落ちたシャルバは今見逃せばこれまで以上の危険因子になるし、奪われたオーフィスがどうなるかわからない。

 

折れるべきは俺の方だ。俺にはこいつを止めることはできない。ならばせめて。

 

「…おい兵藤」

 

脱出のプランが立ったとはいえこれからの兵藤の行動は死と隣り合わせだ。こいつと共に戦うことのできない悔しさも込めて俺は喝を入れる。

 

「どうしてもやるというなら絶対に勝て。オーフィスも連れ帰ってこい。できなかったら承知しないぞ」

 

「わかってるさ。ここまで啖呵切ったんだ、全部終わらせてくるぜ」

 

微笑むあいつはサムズアップで答えた。言いたいことは言った。後はここから脱出して、こいつの帰りを待つだけ。

 

「イッセー、最後に約束して」

 

さらに部長さんも俺に続けて兵藤へメッセージを伝える。切ない思いのこもった瞳が兵藤を捉えた。

 

「必ず、戻ってきなさい」

 

「…はい!」

 

ようやく心通じ合った恋人の願い。奴は精いっぱいの笑顔を見せると、雄々しき龍の翼で狂ったシャルバの待つ空へと駆け上がった。

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

 

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崩壊が続くフィールド。空はますますひび割れて瓦礫は吸われ、風が吹き荒れ轟音が大気を揺らす。術者も術を維持する装置もとっくに失せて消滅まで秒読みのこのフィールドにいるのはたった三人だけだった。

 

「また私の行く道を阻もうというのか、天龍の出来損ないが…!どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのだ!」

 

禍の団の旧魔王派のリーダー、シャルバ・ベルゼブブと彼に囚われた禍の団の元首領・オーフィス。

 

「馬鹿になんかしてねえよ。ただ…お前をこのまま放っておくわけにはいかねえ」

 

そしてグレモリー眷属が誇る唯一無二の『兵士』、赤龍帝の兵藤一誠。邪魔するものがいなくなったフィールドで二人は睨み合う。

 

「何なのだ貴殿は…私を倒してオーフィスに取り入ろうというのか!?あるいは功績を上げ、さらなる名誉を得るつもりか!?いいや、二天龍のことだ、腹の内ではゆくゆくは魔王になり、冥界と人間界の覇権を狙っているのだろう!?」

 

「覇権とかどうでもいいし、オーフィスもどうしたらいいのかわかんねえ。ただな」

 

鋭い双眸と共に、相対するシャルバをびしっと指さす兵藤。

 

「子供を殺すのはダメだろ。なんで子供も何もかもを壊そうとするんだ?」

 

「紛い物の魔王のもとで教育を受け育った子供なんぞに我ら真なる魔王を敬うことなどできん!冥界は既に奴らの手で穢され切っているのだ!だからあの悪鬼のごときアンチモンスターがすべてを破壊し、私が新たな悪魔社会の秩序を生み出す!!これ以外に方法はないのだ!!」

 

と、血走った目でシャルバが醜いエゴを吐き散らす。

 

現魔王への恨みと旧魔王派の妄執に取り憑かれたシャルバには他者への思いやりなど存在しない。あるのはただ、現魔王への憎悪と己を拒絶した悪魔社会への怒りで歪んだプライドだけ。そのプライドが傍若無人以外の何物でもない凶行へシャルバを走らせる。

 

「…もうお前の妄想には付き合いきれねえ。お前の考えはよくわかんねえけどな、お前を倒さなきゃならないってのはよくわかった」

 

シャルバの問いは。一誠の決意をより強固なものにした。ぐっと拳を握り締めて、シャルバにはない優しさの宿る心ある己の胸をとんと叩いた。

 

「俺は子どもたちのヒーローをやってんだ!だったらなおさら、子どもの敵になるあんたを許すわけにはいかねえんだ!!おっぱいドラゴンの名に懸けてな!!」

 

一誠にとって冥界の子供たちは自身が彼らに勇気を与えると同時に、彼らもまた一誠に声援と力を送ってくれる存在である。彼らの思いが、強敵との戦いで膝をつく一誠に勇気を与え、立ち上がらせてくれる。

 

ヒーローショーやバアル戦の応援を通じて彼らの存在をより大きく感じ取った一誠にはその子どもたちへ害を成す者を許しておくことなど到底できるものではない。故にここでシャルバを必ず倒すと決めた。

 

「…もういい。私には貴殿を理解することはできん。理解したところで認めるつもりもない。そんなに子供が好きなら、すぐに貴殿の後を追わせてやろう!この真なるベルゼブブの名のもとにひれ伏すがいい!!」

 

戯言はうんざりだと言わんばかりにシャルバは頭をかきむしる。

 

言葉はもう不要と断じた両者の間で戦いの機運が高まる。そして一誠の中の悪魔の駒が紅の輝きを放った。

 

「我、目覚めるは王の理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

 

それは覇の詠唱とは異なる言の葉。

 

『さあ、行こう!兵藤一誠!』

 

『かつてとは違う我らの力、ベルゼブブに見せつける時だ!』

 

『我らは世界の未来を守る赤龍帝だ!』

 

一誠の精神の高揚とオーラの高まりに同調するように、覇の呪縛から解き放たれた歴代所有者たちの声が重なる。

 

「無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く!我、紅き龍の帝王と成りて…」

 

ますます高まるオーラ。光度を増す紅い光。覇道ではなく王道を往く一誠は高らかに宣言する。

 

「汝を真紅に光り輝く天道へ導こう――!!」

 

〔Cardinal Crimson Full Drive!〕

 

刹那、紅い光が超新星爆発のように弾ける。崩壊するフィールドに強き光が満ち満ちる。

 

「その色…忌々しい奴を思い出させる!」

 

直視できないほどの眩さにシャルバが腕で顔を隠す。そして光が収まると同時に、進化した一誠の紅の鎧が姿を晒した。

 

その新しき姿の名は『真紅の赫龍帝《カーディナル・クリムゾン・プロモーション》』。以前拳を交えた好敵手が名付けたこの力は今の一誠が持てる全力。

 

「さあ、決戦だ!」

 

冥界と子供たちの未来を守るため、一誠はベルゼブブに立ち向かう。




残念だが二人の戦いはダイジェストにされるのじゃよ…。

次の回でウロボロス編は最終回になります。次章予告も併せてやるのでお楽しみに。

次回、「進級試験とウロボロス」
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