ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第150話「進級試験とウロボロス」

果たして、覚醒した紅き赤龍帝、兵藤一誠と真のベルゼブブの末裔ことシャルバ・ベルゼブブは激突し、戦いを制したのは兵藤一誠だった。

 

『シャルバ、あんたは俺にない魔力や才能がある!でも信念のない攻撃じゃ俺を倒せやしねえ!!』

 

『ほざけ!!』

 

高度な属性魔法やその血に由来する強大な魔力を用いてシャルバは攻め立てたが、それらすべては『僧侶』の魔力、『戦車』のパワーと硬さそして『騎士』のスピードを兼ね備えた一誠を捉えることはできなかった。

 

『このクソ龍帝がぁ!!』

 

戦いは圧倒的に一誠の有利に進んだ。何度も拳を打ち込んで血反吐を吐いたシャルバが苦し紛れに放ったのは何の変哲もない一本の矢。しかしそれにはオーフィスの無限を奪ったかの龍喰者サマエルの毒が込められていた。一誠の体に回ったそれは神器に宿る魂だけのドライグにすら影響を及ぼすほどだった。

 

『呪いを受けているはずだ!なのになぜ止まらない!?なぜ戦える!?』

 

「子供たちの未来を奪おうとするあんたの未来を、俺が今ここで吹き飛ばすッ!!」

 

『フハハハハハッ!!どうせ貴殿は滅ぶのだァ!』

 

しかしそれでも一誠は倒れず、攻撃の手を緩めない。すがるようにオーフィスへ過去と同じように力を増大する『蛇』を求めたシャルバだったが、無限ではなくなったことで力を付与する『蛇』が作れなくなったことを知らされ万策尽き、最後は一誠が放った渾身のクリムゾン・ブラスターの前に敗れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ…」

 

シャルバ・ベルゼブブは彷徨っていた。ただ彷徨うと言っても兵藤一誠との戦いで致命傷を負い右半身を完全に失った状態で、何もできずにただ宇宙空間を行く当てもなく浮遊する岩石のように。

 

「私…が…全て…滅ぼすの…だ」

 

紛れもない死の間際にあっても彼は妄執から解放されず、うわ言のように呟く。だが同時に彼はしっかり理解していた。自分は兵藤一誠に負けたのだと。

 

あれだけ見下していたまがい物の悪魔に負けた屈辱、サマエルの毒を用意してなお負けてしまった絶望が彼の心に巣くっていた。しかし現実は理解できても、その原因に辿り着くことはできなかった。

 

どうして兵藤一誠に負けたのか。どうして自分は勝てないのか。何を失敗したのか。

 

いや失敗?偉大なる魔王の血を引く自分がそんなことをするはずがない。きっと誰かの失敗のせいで自分はこんな目に遭っているのだ。

 

そんな彼の耳元に通信用魔方陣が展開した。

 

『シャルバ様に…ご報告があり…ます』

 

「クレ…プス」

 

ノイズ交じりに期待を寄せる部下の声が聞こえてくる。こんな時に一体何を報告するのだと普段の彼ならなじるように言ったであろうセリフすら吐く余裕すら今の彼にはない。

 

『神祖の暴…食の仮面…を…入手…しました』

 

「しんそ…ぼうしょく…!」

 

その報告は絶望と死の淵にいた彼の心を呼び覚ました。神祖の暴食の仮面。その存在を知って以来どんなものよりもシャルバが求めてきたものだ。

 

『はい…人間界で…今…こちらの手元に…ございます』

 

「クレプス…!今すぐ…私のもとに…持ってくるのだぁ…」

 

オーフィスの蛇がなくとも仮面さえあれば十分に起死回生を狙える。今頃兵藤一誠はサマエルの毒で死んでいるはず。ならば奴の仲間とヴァーリたちを皆殺しにし、魔王の座にふんぞり返っている忌々しきサーゼクスたちを滅ぼすまで。

 

刻一刻と迫る死を前にしてなお、彼の脳内に無数の逆転のシナリオが浮かんでいく。その甘美なビジョンに口元が緩んだ時だった。

 

『…なぜ、あなたのような小物に仮面を渡さなければならないのですか?』

 

「!!?」

 

クレプスの口から飛び出した思いもよらぬ言葉に頭が一瞬真っ白になった。

 

『その様子だと…英雄派か兵藤一誠に負けたのではなくて?』

 

「貴様…!!」

 

『図星でしたか。どうせ今頃負けた理由もわからずに『おのれ兵藤一誠、まがい物の悪魔め』などと言っているのでしょうね』

 

完全に呆気にとられたシャルバに追い打ちをかけるように続く嘲笑交じりのクレプスの言葉に、大量に出血し残り少ない彼の血が頭に上っていく。

 

「この私を…真なる魔王を…侮辱するのか!!」

 

『真なる魔王?おかしなことをおっしゃらないでください。あなたもクルゼレイも、最初から真の魔王ではありませんよ』

 

「なんだと…」

 

『この世界では神祖の仮面を手にし、認められた悪魔だけが真なる魔王なのです。そして冥界を席巻するのは真のベルゼブブでもアスモデウスでもない…』

 

「何を…言っているのだ」

 

『もっともここから先のビジョンを語ったところであなたがそれを目撃することはありません。あなたはここで死ぬ。誰にも顧みられることなく。報告をしたのは情けです。仮面の所在がわからないままでは死ぬに死ねないでしょうから』

 

「ふざ…けるなァ!!今すぐここに来い!!殺してやるぞォ!!」

 

怒りに支配され叫び散らす。しかしその怒りは誰に届くこともない。通信しているクレプスの心にさえも。

 

『あなたの援助のおかげで神祖の仮面を集めることができました。近い将来、仮面に引き寄せられるように残りの仮面も見つかるでしょう。その一点だけは感謝します。あとはどうぞ、ごゆっくりおやすみなさいませ』

 

「クレプスゥ!!」

 

そして通信は途絶えた。再び彼を耐えがたい静寂が襲う。

 

「なぜだ…なぜ…負けた」

 

頭に上った血が冷めていくと同時に、意識もいよいよ遠のき始めた。何も感じない。痛みも。熱さも。音も聞こえない。そして世界も。

 

「サーゼクス…アジュカ…どうして偽りの…お前たちは…どうして…私たちは…こんな」

 

かつての栄光を夢見た男は覇道を邁進し現状にあらがい続けた。志を同じくする兵士たちを集めて禍の団に加わり世界最強の力の一端を手にし、逆転のチャンスをも見出した。しかし、手にしたそれらはどれも脆く崩れ去り、最後に最も欲しかったものも彼の手が届く寸前で道が絶えてしまう。

 

彼には何も残っていない。命すら。何も成し遂げられなかった。ならばせめて、自分が残した魔獣たちが冥界を蹂躙し道連れになってくれることを願おう。

 

覇権を握り、全ての悪魔に自分の偉大性を認めてほしかったベルゼブブの末裔は誰にも理解されないまま、誰に思われることもなく朽ち果てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の一騎打ちが終わり、崩壊するフィールドを力なくゆっくり歩く人影があった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

無限の龍神オーフィスに肩を貸してもらいながら歩く兵藤一誠である。次元の狭間に近しい現世と隔絶したこの空間に物理的な出口などない。故に行く当てもなく、ただ前に進むことだけを繰り返す。

 

龍という種に必殺の効果を持つサマエルの毒の影響で意識は朦朧とし、戦いで受けた痛みすらもう感じていない。特に過去の契約で完全にドラゴンのものとかした左腕は毒の効果が顕著に出ており、どす黒く変色し今にも溶けて崩れそうだ。

 

「…」

 

だが朧げな意識ながらも一誠は理解していた。刻一刻と、死が近づこうとしていることに。自分の命を刈り取ろうとしているのが散々倒した死神ではないのはなんという皮肉だろうか。

 

ついさっきまで、シャルバを倒してなおオーフィスと語り合うぐらいの元気はあったというのにもうそんな元気はどこにもない。自分が受けた毒よりも濃密であろうサマエル本体の触手を喰らってなお死なないヴァーリはやはり凄い男なのだとイッセーは感じていた。

 

『相棒!アザゼルたちが龍門を開くまで持ちこたえろ!そうすれば助かる!だから、まだ逝くな!』

 

「…そうだな…まだ、やることある…もんな」

 

神器に宿るドライグも今までの一誠の危機で最も死に近い危機であると認識し、今まで以上に差し迫った声色で懸命に呼びかける。

 

学校の中間テスト、中級悪魔の昇格試験。まだまだ終わっていないし結果も出ていないことがある。将来やりたいことだってたくさんあるのだ。こんなところで倒れていられない。

 

「…オーフィス」

 

「?」

 

「おまえ…帰ったら、何するんだ…」

 

「帰る?我、力失った。もう、次元の狭間に帰れない」

 

「…じゃあさ、俺の家に…帰ろうぜ。そこなら…みんないる。アーシアや…イリナと…仲良くなれたなら…他のみんなとだって…」

 

シャルバとの戦いの後、一誠はオーフィスの口からシャルバたちと手を組んだ理由を聞いた。やはりそこにはグレートレッドを倒して次元の狭間に帰る、その手伝いをしてくれるからという以外の理由はない。

 

だが当然のことながらシャルバたちがわざわざ自分たちが倒したい宿敵以上の敵と私怨やメリットもないのに戦う理由などない。しかしオーフィスにとって騙されていようがいまいがどうでもよかった。どうせ無限に等しい彼女を脅かす存在などグレートレッド以外には存在しないのだから。シャルバたちが反旗を翻したところで雀の涙ほどの興味すら湧くこともない。

 

グレートレッド以外に興味を示さないオーフィスが唯一赤龍帝の一誠に興味を持ち、接触したいと思ったのはかつてない成長や進化を遂げる彼を見て、永い時を生きた自分すら知らない天龍の隠された何かを知りたいと思ったからだった。もしかすると、そこに無から生まれた自分の存在する意味が、理由があるかもしれないとオーフィスは彼を求めた。

 

一誠は彼女の話を聞いて確信した。やはりオーフィスはただ純真無垢なだけだと。ただ周囲の者がその強大すぎる力を恐れ、崇めた結果が今の禍の団をはじめとするこの世界情勢だった。

 

そして一誠は最後に決めた。オーフィスと友達になると。彼女の返事は相も変わらず素っ気ないものだったがそんなことはどうだっていい。彼女を孤独から救い、シャルバのような悪意から守れるのなら自分がここまで体を張った甲斐があったというもの。

 

「…ぅ」

 

急に歩く力すらなくした一誠がオーフィスの支えも及ばず前のめりに倒れこむ。しかし、既に一誠には自分が倒れたと認識することすらできていない。

 

『相棒、しっかりしろ!立て!帰りを待つ仲間がいるのだぞ!!』

 

「わか…てる。な…オーフィス…誰かを…好きになった…ことはあるか?」

 

『相棒!』

 

一誠とドライグは一心同体。差し迫る終わりを明確に感じたドライグがそれでも現実を受け入れられず声を荒げる。

 

なぜこの期に及んでそんな質問をオーフィスにしたのかはわからない。だが、薄れ行く意識の中でもはっきりと浮かぶ大切な人たちの姿があった。きっと彼らの存在が、一誠をそうさせたのだろう。

 

「木場…アーシア…小猫ちゃん…朱乃さん…イリナ…ゼノヴィア…ギャスパー…ロスヴァイセ先生…アザゼル先生…深海…いま…かえるよ」

 

それぞれの思い出が、源泉から湯が沸くように次々に思い出される。

 

『イッセーさん!』

 

レイナーレから救いたいと願ったアーシア。

 

『イッセー君!』

 

同胞たちの魂に触れ過去を打ち破った木場。

 

『イッセー』

 

最初は敵だったが今では頼れる仲間になったゼノヴィア。

 

『イッセー先輩!』

 

臆病な自分を変えようと必死になったギャスパー。

 

『イッセー先輩』

 

恐れていた姉と向き合う小猫。

 

『イッセーくん!』

 

天使になり帰って来た幼馴染のイリナ。

 

『イッセー君』

 

父であるバラキエルとの確執を乗り越えた朱乃。

 

『兵藤』

 

特殊な事情を打ち明け本当の意味での仲間になった悠河。

 

『イッセー君』

 

共にバアル戦を戦い抜いたロスヴァイセ。

 

『イッセー!』

 

神器関係で何度も世話になり、指導してもらったアザゼル。

 

どれもかけがえのない仲間たちだ。彼らが一人でも欠けた世界など、想像することすらできない。彼らのほかにも、多くの好敵手たちと出会えた。ヴァーリやライザー、匙、サイラオーグ。そして何より。

 

『愛してるわ、イッセー』

 

「だいすきだ…リアス……」

 

最後に愛する人の名を呼べた。その満足感を噛みしめて、一誠の意識はどこかに旅立った。

 

 

「…イッセー、もう動かない」

 

『…』

 

「ドライグ、泣いてる?」

 

『…ああ』

 

とうとう動かなくなった赤龍帝の亡骸のもとでぽつりぽつりと力あるドラゴンたちの会話が続く。

 

「イッセー、どうだった?」

 

『…わけのわからない奇跡を起こしてきた、最高の赤龍帝だった。これほどまでに宿主の死を悲しんだことはない』

 

魂だけのドライグには物理的な体はないはずなのに、悲しみが溢れて涙が止まらない。天龍と呼ばれ世界に喧嘩を売る程強大な力があろうとも宿主一人救うことすらできない己の無力さに悔し涙が止まらない。

 

思えば何度となく彼の乳好きには精神を病むほどに悩まされてきた。普通なら嫌いになったって仕方ない。でも気づけば自分は逆境に何度でも立ち上がり、奇跡を起こしてきた彼の雄姿に惹かれていたのだ。

 

歴代の怨念を打ち祓い、今までにない進化を遂げ、才能がないながらも誰よりも自分と向き合い、力を引き出してくれた。それが何よりも、力あるがために孤独でもあったドライグにとって喜ばしいことだった。

 

「そう。悪い者ではなかった。我の最初の、友達」

 

短い付き合いだったオーフィスもまた彼をそう評した。自分のもとに集い、力を求めてきた者たちと違い彼は自分自身そのものと向き合ってくれた。まだ友達がどういうものなのかも理解していない彼女だが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

『…なあ、オーフィス』

 

「…」

 

『神器のシステムで俺の意識が次の宿主に移るまでの間…俺の話を聞いてくれないか。最高の赤龍帝…兵藤一誠の話だ』

 

「わかった」

 

『…ありがとう』

 

唯一無二の相棒を失い、孤独に明け暮れるドライグは語る。もう二度と会うことのない相棒との思い出を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『今しがた、アンドロマリウス達が撤退した。未確認の叶えし者も出現し、かなりの苦戦を強いられたが無事に防衛は完遂した。そちらはどうだ?』

 

「こちらも丁度、兵藤一誠がサマエルの毒で死んだところだ。英雄派が英雄化なる新たな技法を作り上げていたがどうにか撃破してくれたよ」

 

レジスタンスのポラリスと六華閃のガルドラボーク。今回二班に分かれて作戦に当たったそれぞれの班のリーダーが通信魔方陣を介して連絡を取り合っていた。

 

『つまり、全てこちらの計画通りに事が運んだということだな。…しかし、本当に良かったのか?もしお前が兵藤一誠を見殺しにしたことが深海悠河たちに露見すれば…』

 

「わかっておる。だがディンギル共を倒し世界を救うにはこうする以外に手はない。妾が下手に手を出して彼を救えばすべてがご破算になるのじゃ。妾の行動の正当性は後の歴史が証明するさ」

 

『計画のためなら仲間の友人も躊躇いなく見殺しにする、か…やはりあんたは恐ろしいよ。あとで報告と状況整理を兼ねてNOAHで落ち合おう』

 

「了解した。ご苦労じゃったの」

 

その言葉を最後にぶつりと通信が途切れる。そして深い息を吐くように、呟いた。

 

「…兵藤一誠が逝ったか」

 

シャルバと一誠の戦い、そして終戦後にサマエルの毒で命を落とした一誠の姿を見てようやくポラリスが遠くの瓦礫の山から腰を上げた。

 

「多くのイレギュラーが発生したが、無事当初の計画通りに進んでいる。あと少しで、ゼクスドライバーが完成する…」

 

叶えし者の暗躍、アルルの登場、英雄眼魂の増加、そして深海兄妹の存在。当初思い描いていたビジョンとはかけ離れた展開を何度も経るもようやく待ち望んだこの展開が訪れた。

 

「さて、妾の計画も次の段階に移行しようかの」

 

魔方陣を開き、全てを見届けたポラリスはそこに何の痕跡も残さずにフィールドだった場所から消えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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シャルバの乱入でフィールドとともにかねてからの計画も崩壊した英雄派。その幹部の一人が、誰にも知られずにこっそり外部と連絡を取っていた。

 

『そちらの首尾はどうだった?』

 

「だめだった。深海悠河は始末できてねえ。兵藤一誠はシャルバの野郎がかっさらいやがった」

 

男の耳元に展開した通信魔方陣から聞こえるのは女性の声。ひどく無機的で、感情の一切を読み取れない声色だ。

 

『そうか。こちらも何とか霧の空間への侵入を試みたが六華閃ともう一人の赤龍帝に阻まれた。恐らく奴らは我らの目論見に気付いている』

 

「おいおいマジかよ。俺ら以外にも先のことを知ってる連中がいるってのか」

 

『そうなるな』

 

「はぁ…兵藤一誠は英雄化したジークに任せたんだが聖魔剣に加勢されて返り討ちにされちまった。さすが特異点だよ、運の良さは一級品だ」

 

『運の良さで済む問題ではない。イレギュラー要素を与えたとしても純然たる特異点には勝てないか。奴ほどの運命力に勝る者などそうそういるまい。だがそのせいで…』

 

「わかってらぁ。だが次の戦いで深海悠河は必ず始末する。残りも曹操が倒す。あいつの聖槍の力は俺が一番よく知ってるし、あの眼魂での英雄化と併用すれば奴らに勝てる算段はない。あんたの懸念の80%は俺と曹操が片付けるんだ。これで文句ねえだろ」

 

『…だといいが。それより、お前の禁手なら兵藤一誠たちを殲滅できたはずだ。計画が失敗したということは使っていないのだろう?違うか?』

 

「…察しがいいな」

 

『理由を聞こうか』

 

魔方陣越しに聞こえる女の声が、すうっとナイフのような鋭さを帯びる。しかし彼は怯まない。

 

「ここで終わらせたら面白くないだろ。業魔人の力も試したかったし、まだ戦える機会はあるとわかってたからな。ま、それも次で終わりにするがな」

 

『…最近のお前の言動はやや英雄派よりに傾いているように思える。長い月日を共にしてほだされたか?』

 

彼女が彼を英雄派に潜り込ませる前はもう少し冷静な男だった。今の彼の性格は最初は演技によるものだったが、好戦的な英雄派のメンバーと交流することでそれが演技から素に変化していると、定期的な連絡を通して彼女は感じていた。

 

「馬鹿言うなよ。こっちが作った眼魂はこっそりあんたに流したし、何より京都入り前に曹操とあんたの対談の算段をつけたのは俺だろ?忘れたのか?」

 

『…そうだったな。お前の忠義は知っているし、よくやってくれている。いらぬことを言った、信長』

 

「ふん、今回の結果はともかくだ。次こそ、全て終わりにしてやんよ。なあ、アルル様?」

 

アルルと信長。今の英雄派を影から操る二人の暗躍はまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゲオルクの生み出したフィールドから脱出し、早速アザゼル先生たちは兵藤を現世に戻すべく龍門の準備に取り掛かった。中級悪魔の昇格試験センターの地下にある転移魔方陣用のフロア全体を使って魔方陣を描いて術を発動させる予定だ。

 

龍王のタンニーンさんも事情を話すとすぐに駆け付けてくれた。ヴァーリもサマエルの呪いに苦しみながらも協力する旨を示した。

 

「これから先、どうなるんだ…」

 

「私にもわかりませんわ。魔獣創造が冥界全体への進撃に使われた事件なんて未だかつてなかったそうですわ」

 

部屋の隅で力なく壁に腰かけて座る俺はレイヴェルさんと今後の心配を口にする。

 

シャルバの宣言通り、冥界へ転移した巨大なアンチモンスターたちは冥界の各都市を目指して進撃を始めた。冥界に住まう種族である悪魔と堕天使の混成部隊が編成され迎撃に向かったそうだが、俺たちでも崩せなかった強固な表皮とばかげた巨体が生み出す攻撃力が脅威になっていると聞いている。おまけに小型アンチモンスターの自動生成能力も持っており、そこに旧魔王派が加わって小さな村落や街を襲っているらしい。

 

シャルバや英雄派に助力したハーデスの裏切り、サマエルによって奪われたオーフィスの力、不安の種は尽きない。各神話の首脳陣や魔王、セラフたちも神殺しの聖槍を持つ曹操がいては迂闊に前線に立つことができず救援部隊の派遣が決定したが、アンチモンスターの討伐に火力が不足して手を焼いている。

 

やはり俺たちが出なければならないようだ。しかし、今はもう俺は戦えそうにない。兵藤の帰還を確認次第、俺は病院に運ばれることになっている。俺の手が必要ないならそれが一番なのだが、そううまくはいかないだろう。

 

「魔方陣の用意ができた。タンニーン、ヴァーリ、ファーブニル、始めるぞ」

 

「うむ」

 

「ああ」

 

不安に満ちた冥界の今を憂いている間に準備が整ったらしい。先生の呼びかけに二人が応じると魔方陣に光がともる。タンニーンさんの体が紫に、ヴァーリは白く、先生が握る人工神器の宝玉が金色に輝いた。

 

「よし、繋がったぞ!」

 

「!」

 

光が弾ける。そして光が晴れて、魔方陣の中央におそらく戦いで傷ついた兵藤が姿を現す。

 

「…え?」

 

はずだった。兵藤の代わりに出現したのは、紅い八つの悪魔の駒だ。からんころんと乾いた音を立てて兵士の駒が魔方陣の真ん中で転がっていく。

 

思いもよらぬ結果に、全員が口を開いたまま驚いた。

 

「なんであいつの駒だけ…」

 

どうして兵藤を召喚しようとしたら駒だけが出てくるんだ?今までの転移でこんなことがあったか?そもそも転生悪魔の体内にある駒は摘出できるものなのか?いや、もしかするとシャルバの術で兵藤が駒にでもされたのか。魔法に長けているとされるシャルバならあながち不可能ではないだろう。

 

今までに経験したことのない現象が目の前で起こっている。この現象の理由を突き止めようと駒を拾うべく足を一歩踏み出した時だった。

 

ドカン!

 

「馬鹿野郎が…ッ!!」

 

その場に両膝を突き力強く床に拳を叩きつけた先生が、あらん限りの感情を振り絞った声を吐いた。なぜ、先生がここまで感情的な反応を見せるのか。

 

その答えが一瞬俺の脳裏をよぎる。とてつもなく恐ろしい答えに俺はぶんぶんとかぶりを振ってどうにか頭から振り払う。

 

いや、それはありえない。あいつがシャルバに破れるなんてことは断じてない。紅の鎧に至ったあいつならシャルバの魔力を凌駕するフィジカルで殴り倒せるはずだ。なにせ神滅具の禁手を纏ったサイラオーグと真正面からやり合えるほどなんだぞ。

 

「うそ…」

 

先生の反応ですべてを悟ったように部長さんは茫然と立ちすくみ、朱乃さんもへなへなとその場に崩れ落ちた。

 

「そんな…まさか」

 

「こんなことって…」

 

あまりのショックにかえって反応すらできない塔城さんの胸にレイヴェルさんが涙を流して抱き着く。

 

「イッセーさんは…?」

 

アーシアさんはまだ何が起こったのかを理解できていないようだ。いや、理解できてはいるが受け入れられていないだけなのか。

 

「イッセー君…」

 

木場の目元からぽろぽろと涙がこぼれていく。やめろ、泣くな。それだと本当にあいつが…。

 

「…」

 

「馬鹿な…」

 

龍門の発動に手を貸したヴァーリさえ目を伏せ、タンニーンさんも呆気に取られている。

 

皆の反応が否応なしにこの結果が示す現実を突き付けてくる。その非情な現実を、俺は認めざるを得なくなって。

 

「帰ってくるって…言ったじゃないか」

 

頬を一筋の涙が伝う。約束したはずなのに、いつも約束を守って来たのに。どうして今回に限って。

 

その日、俺たちの戦友、兵藤一誠は死んだ。




これにてウロボロス編は終了です。次章ではいよいよ曹操、さらに信長との決戦です。焦らしに焦らした信長の禁手もついにお披露目ですのでお楽しみに。

ちなみにクレプスがシャルバとやり取りしているとき大和は一人で始皇帝陵をワクワクしながら探索していました。盗み聞きしてクルゼレイにチクればよかったのに。

次の更新は外伝ではなくプロローグからライオンハート編をまとめた初心者向けのあらすじまとめ回を投稿します。初見でなくともこれまでの話や特異点、正史の情報を整理したりするので楽しめるかと思います。

それと同時に設定集の英雄眼魂リストの更新や活動報告で特別企画も用意しますのでお楽しみに。







次章予告

「イッセー先輩が…死んだ?」

遅れて駆け付けた仲間たちも、彼の死を嘆く。

「行くぞ、紀伊国悠!冥界の危機だ、共に戦うぞ!」

バアルの獅子王が冥界の危機に立ち上がる。

「俺の全てでお前を打ち砕く!!」

悠河と信長。相容れぬイレギュラーの二人は魂をかけて武を交わす。

「聖槍と眼魂。この二つを以て俺は英雄になる!」

曹操の英雄化が、英雄への道を指し示す。


英雄集結編第四章 補習授業のヒーローズ


「これが俺の英雄!俺の答えだッ!!」
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