一応活動報告で新フォーム募集企画を立ち上げてます。早速秀逸なアイデアを頂いてしまいました…まじすげえ。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
23.コロンブス
31.ライト
41.シグルド
42.ユキムラ
44.ハンゾウ
第151話 「やぶから蛇」
「…」
久方ぶりに訪れた冥界のグレモリー領。その城下町から離れた少し隣町で随一の規模を誇る病院。俺はベッドに背を預けながら端末で冥界のニュースを眺めていた。
ゲオルクの結界から帰還した後、信長や曹操の戦いで大量に失われた血を補うための輸血と仙術で誤魔化したツケの回った体の検査のために一時的にだが入院することとなった。本来は余裕をもって5日から一週間ほどの入院を言い渡されるところだが、今の危機的状況で少しでも戦力が必要とされるため、明日で退院することとなっている。
『ご覧ください!魔獣たちは歩みを止めないまま、都市部への進行を続けております!』
ニュースはどのチャンネルを見てもシャルバが送り込んだ魔獣の話題しかない。魔力で駆動するヘリコプターに乗ったニュースキャスターが声を張り上げて魔獣の様子を画面の前の視聴者に伝えようとしている。
次元の狭間で生み出され、冥界へ転移した『魔獣創造《アナイアレイション・メーカー》』の巨大モンスターの数は13体。体長は100mを超える点はどれも同じだが、巨人型の二足歩行タイプもいれば獣型の四足歩行タイプとその姿はばらばらで一体たりとも同じものはいない。あらゆる生物が無秩序に合成され生み出されたいうなればキメラの魔獣はその表皮から更なる小型のモンスターを生み出しながら進行している。
一度に数十から百は生み出される人型サイズのそいつらは道行くものすべてを破壊し、目に映る生物を喰らってただ真っすぐ、人里へと向かっている。予測された進行方向上にある村や集落、町の住民は既に避難していたため被害は最小限に抑えられたがそれでも凄まじい物的被害を生み出している。
「これが魔獣創造…どんな神滅具よりも恐ろしいよ」
神器の中でも特にバグだの最悪だの言われる神滅具、それが魔獣創造。凶悪無比な力が破壊に使われたらどうなるか、その結果を今ありありと見せられ俺たちは経験している。
政府が発表した13体の巨大モンスターの進行ルートは次のようになっている。
ルシファー領、ベルゼブブ領、アスモデウス領、レヴィアタン領の首都へ各2体、冥界の首都リリスとグレモリー領、アスタロト領、シトリー領、グラシャラボラス領へ一体ずつ。現魔王と彼らの出身の家が収める領地といった聞くだけでそれを生み出したものが抱く現体制への憎悪を感じ取れるラインナップだ。
勿論、魔獣の一体はちょうど今部長さんたちグレモリー眷属が滞在中の城があるグレモリー領の都市へ進撃中だ。悪魔の兵士だけでなく北欧や天界、ギリシャ神話から派遣された兵士たちが戦線を築いて彼らの進撃を止めるべく奮戦している。
ふと、映像の中に巨大な魔獣が映る。13体の中で最も巨大なそれを冥界政府は『超獣鬼《ジャバウォック》』と呼称し、その他の12体を『豪獣鬼《バンダースナッチ》』と呼んでいる。
冥界の首都リリスへ進行するそれをレーティングゲームの上位のチームが迎撃している。ロスヴァイセ先生以上の火球や魔法、末恐ろしい出力のオーラ攻撃が次々に直撃する。
『GRRRRR…』
しかしまるで通じておらず即座に傷は治癒してしまい、その歩みが止まる気配はない。
「昨日のニュースで王者ベリアルも超獣鬼を止められなかったが…それより下位のチームも豪獣鬼を止められないか」
俺たち以上の実力を誇るレーティングゲーム一位のベリアルですら止められないのだ。辛い現実だが、もはや俺が出たところでどうすることもできない。
それを受けてつい先ほど、魔王の眷属が出撃したというニュースも流れていた。しかし出るのは眷属だけ。各勢力の首脳陣が直接迎撃に出向かないのは曹操の持つ聖槍を警戒しているからだ。もし一柱でも討たれるようなことになればこの冥界の危機以上にどんな影響が出るかわからず取り返しのつかない混乱に陥りかねない。
そうとわかってはいるが、これはもうやむを得ない状況なのではなかろうか。レーティングゲーム上位に上り詰める悪魔たちの攻撃でも沈まないようではそれこそ神仏クラスの実力者でないと止めることはできまい。だがそれは向こうもわかっている。きっと曹操たちは神仏が出張るのを今か今かと心待ちにしているだろう。
おまけに問題は魔獣たちだけではない。いつ死神を送り込んでくるかわからない冥府のハーデス神。そしてこの混乱に乗じて暴動を起こす旧魔王派。おそらくこれもシャルバの計画の内だろう。
さらには各地の上級悪魔の眷属も反乱を起こしているという。どうにも無理やり転生悪魔にさせられ、悪待遇を強いられてきた神器所有者の人間が主に牙を剥いているらしい。前々から曹操たちが流布しているという禁手に至る方法。彼らのまいた不穏の種が冥界の危機によって一斉に芽吹いたと言ったところか。
数日前までは禍の団のテロが散発しながらも平穏だった冥界は一転、滅亡の危機に瀕している。どれも対処しなければならない事案であるがゆえに人手が圧倒的に足りていない。そのため安静が必要な俺も呼び出されることになったわけだが。
冥界の危機に不安は一般市民にも広がっており、同じ病室の患者たちも表情は暗い。こんな時にこそ、皆に希望をもたらすヒーローが必要だ。
「なんでこんな大変な時にいないんだよ…」
俺が知る限りそのヒーローに誰よりも近い男の顔を思い浮かべるだけで拳が布団を握りしめ、涙がこぼれそうになる。
元凶たるシャルバと戦うべくフィールドに残り、駒だけを残して帰って来た兵藤。
折角部長さんとお付き合いできたというのに。新たな力に目覚めこれから最強の『兵士』に、ハーレム王になるというあいつの夢に大きく近づいたと思ったのに。これからやりたいこともたくさんあっただろうに。
変な奴ではあったが決して悪い奴ではなかった。友としてもっとあいつと切磋琢磨したかったというのに。
俺にとってあいつはもう当たり前に存在する日常の一部になっていた。共に学校で学び、共に強敵と戦ってきた。その当たり前が今ぽっかりと抜けてしまった。
どれだけ強くなっても肝心な時に助けられない。あの時俺がもっと戦えていたら、もっと強ければ力の消耗を抑えて信長を倒しそのまま兵藤と共にシャルバと戦えたはず。
だがどれだけIFを思い浮かべ悔やんでも兵藤が死んだという事実は変わらない。この危機的状況が好転することはない。
昨日の検査終わりにグレモリーの城にいる木場と連絡を取ったのだが、幸いにも後追い自殺は起きていない。それでも部長さんを始めとしたあいつを慕っていたメンバーの心的ショックは計り知れないレベルだという。
俺ですら精神的に参りそうになるほどなのだから、特に兵藤へ恋心を抱くまで慕っていた部長さんや朱乃さんたちは相当なものに違いない。『兵士』のあいつは『王』を上回る存在感を持ち、俺たちの精神的支柱になっていたという事実にようやく気づかされた。あいつの死と引き換えに。
友を失った悲しみ。何もできなかった無力感。この二つが俺の心に鉄槌のようにのしかかる。
しかし現実は感傷に浸る暇を与えてはくれない。
ドォン!
突然の爆音とともに、この病院が大きく揺れる。
「なんだ!?」
「きゃ!」
「ひぃ!」
同じ病室の患者たちが驚き、怯えた声を上げる。冥界では珍しい人間の患者にこの人たちはよくしてくれた。俺の立場を知っているというのもあるかもしれないが。
しかし病院で休むこともできないなんて、もう安全な場所はどこにもないようだ。
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悠河が入院している病院の外、どこからともなく現れた武装した悪魔の集団が空、さらに地上からぞくぞくと病院へ荒々しい足音と共に屋上あるいはフロントへ踏み入れていく。非常時で対魔獣に戦力を回され、手薄になっていた警備の隙をついて旧魔王派の一味が街に侵入しているのだ。
「今こそ現魔王の血筋に反撃する時だ!」
「「「「「「オオッ!!!」」」」」」
粗暴な顔つきの男が声を上げるとそれに従う旧魔王派の兵士たちも怒声じみた雄たけびを上げる。
襲撃のターゲットにこの病院を選んだのは病気やケガで弱った悪魔たちが多く集まるこの場所なら容易に制圧でき、何より容易く人質を確保した上で魔王を輩出したグレモリー家の領土随一とされるこの病院の知名度を利用して世間に自分たちの存在と行いを知らしめることができる。
心優しい魔王サーゼクスは情愛に深いグレモリーの出身。グレモリーの領民の人質をみすみす見殺しにできるはずがない。そこからカテレアやシャルバといった有力な指導者を失った旧魔王派復活のための取引を有利な状態で持ちかけるのが彼らの狙いだ。
「お前ら!現魔王にかしづいた愚か者を殺せ!人質用に何人かは残しておけよ!」
魔力の攻撃で吹っ飛ばした病院の外壁からぞろぞろとライトアーマーや重厚な甲冑を纏った様々な装いの血気盛んな悪魔たちが空から降って入り込んでくる。静かな病院内にがたがたと慌ただしい多くの足音が響く。
「な、なんだお前たちは!」
「邪魔だ!」
「ぎゃぁ!」
突然の襲撃に驚く病院のスタッフが無残にも斧で切り裂かれ、大量の血を噴きだす。他の兵士たちもスタッフや患者を見かけ次第に襲い掛かり、次々に負傷者、あるいは死傷者を増やしていった。
「きゃぁ!」
振るわれる刃と拳。上がる悲鳴と苦痛の声。静かだった病院の廊下が瞬く間に暴力と喧騒に支配されていく。
「次はここだな!」
兵士の一人ががたんと礼儀のかけらもなくドアを乱暴に開けると、彼に続くようにぞろぞろと数人の兵士たちも部屋に入り込む。
「ひぃぃ!や、やめてくれ…!」
「やめる?馬鹿なこと言ってんじゃねえ!シャルバ様の遺思だ、その命を差し出しな!」
もはや暴力と旧魔王派の掲げる思想に溺れ切った彼らが患者たちの言葉に耳を貸すことはない。その眼と刃を殺意にぎらつかせ、患者たちに余さず向ける。
だが他者に対し暴力により圧倒的優位に立ったものは不当な要求をしがちだ。彼も例外ではなく、悪魔らしい欲深さが彼の顔を歪めた。
「そうだ!てめえらを人質にグレモリー家に身代金を要求してやるか!情愛に深いグレモリーならきっとお前らのことを見捨てねえだろうからなぁ!さぞふんだくれそうだ!!」
「いいこと思いつくじゃねえか!」
「そりゃいいな!」
「そ、そんな…」
他の兵士たちも妙案だと提案に沸く一方、抗う力もなくただ一方的に自分たちの処遇を決められてしまう患者たちは恐怖と絶望に身を震わせる。
「ヒャッハー!力なきものは力ある者に従うんだよ!力こそすべてだァ!」
これから先、グレモリーから大金を得て自由気ままに生きる未来。何とも甘美で魅惑的な未来に想像しただけで彼は歓喜に打ち震えた。
がさがさ。
喜びに浸る彼の邪魔をするようにその音は聞こえた。旧魔王派の一人があることに気付く。
「…あん?おいおいまだ一人分カーテン開けてねえじゃねえか」
がさがさ。
カーテンに隠れた向こうから何か布がこすれるような音が聞こえてくる。悪魔たちがかつかつと大股歩きで奥のベッドへ集まってくる。
やはり聞こえてくる音。近づいて音の解像度が上がったことで、中で何が行われているかすぐに見当がついた。
「…おい、ここ誰か着替えてねえか?」
「は?マジじゃねえか」
「肝が太ぇ野郎がいたもんだな!女だったら…美味しくいただいてやるか」
醜い欲望に顔を歪ませつつ、勢いよくカーテンを開く。その直後に男の眼に飛び出してきたのは。
「ぬぁ!?」
掛け布団が男に飛び掛かるように直撃。意表を突かれ視界を塞がれた男は狼狽え、追い打ちをかけるようにさらなる影が飛び出してドロップキックをかます。
「ごばん!!?」
布団とドロップキックという不意打ちを二連続で受け、不運にも男は頭を強く床に打ち付けてしまいそのまま気を失う。唯一の幸運は間抜けな顔がふかふかの布団に隠されて誰にも見られることがなかったところだろう。
「気持ちいい布団だろう?そのまま寝ていいぞ」
やぶから飛び出したのは、大蛇だった。
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〈BGM:ハードボイルド(仮面ライダーW)〉
どうにか着替えが間に合った。この入院着のままではうまく動けず戦えないので廊下から悲鳴が聞こえた時点で状況を察して速やかに着慣れた駒王学園の制服に着替え始めていたのだ。
ここの部屋で犠牲者が出る前に終わってよかった。手の届く距離で被害を出されたら悔やんでも悔やみきれない。
…この部屋の外では既に何人もの死者が出ているだろう。彼らを助けられなかったのは悔しい。だが悔やむばかりで蹲ったままになるわけにはいかない。
「は?」
「貴様!?」
思わぬ反撃を繰り出した俺の登場に驚く武装した悪魔たちがすぐに槍を持って襲い掛かってくる。
「ふん!」
槍の突きを横にそれて躱すと槍の柄を掴んでこちらにぐいんと引き寄せ顔面にストレート一発。ぶっと鼻血を噴いて倒れる悪魔。
「らぁ!」
二人目は顔面へハイキックを決め、廊下へ叩きだす。
「いてぇ…」
「人が静かに休んでいれば…お前らクズのせいでおちおち寝ていられないな」
今まで変身して戦っていたので生身の拳で殴ったのは久しぶりだ。直に伝わる衝撃とひりひりする感触に
手をぶらぶら振る。
「誰だ貴様!」
「誰だろうと関係ねぇ!ただの人間だろ!怯むんじゃねえ!」
廊下にいた悪魔たちが異変に気付き、徒党を組んで剣や斧などの武器を携えて寄せ来る。それを見て即座に腰にドライバーを出現させて応戦する。
「ふっ」
「ぐえ!」
まず前方から二人。悪魔たちの攻撃を潜り抜けるように躱し、掌底を打ち据えて一人。もう一人は回し蹴りで病院の壁に叩きつける。
「はっ!」
三人目の腕を掴んで動きを止めて腹へ膝蹴り、そして頬へ拳を振り抜いた。
兵藤の死、圧倒的な魔獣達の進撃。それらを前にして俺の心は折れようとしていた。どんな誓いを立てようとも仲間は死ぬ。どんなに強くなろうともどうにもならない状況はあると。俺にできることなど何もない。
しかし、絶望と悲しみに浸る中でこいつらに怯える人たちを見て気づいた。
俺はこんなところで腐ってる場合じゃない。どんなに手を伸ばしても救えない者はある。だがそれと同時にまだ救える者もある。それが今、ここで旧魔王派の襲撃に遭った病院の人たちだ。
彼らを前に何もしないまま一人蹲り、見過ごすことなどできない。
力があるのなら、俺は力なき者のために戦う。それはあいつがいなくなっても変わらない。変わってはならない。そのためにこの力はある。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
だから紡ぐ。戦うために、自分を変えるために、守るために、その言葉を。
「変身!」
〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕
レバーを押し込んで、霊力が物質化してできた強化スーツを纏うとその上からパーカーゴーストを被り変身を遂げる。
「おい知ってるぞ!こいつ…グレモリーの姫と一緒に戦ってるっていう…!」
「そうだ。俺は紀伊国悠、『駒王和平協定推進大使』にして…」
言葉をためながら駆け出して跳びあがり。
「仮面ライダースペクターだ!」
渾身の一打を兵士の右頬に振り抜いた。その威力に殴られた兵士は廊下の奥までバウンドしながら吹っ飛んで行った。
「嘘だろ!」
「スペクターだと…!」
その名に兵士たちが一斉にどよめき始める。
奴らもよく知っているはずだ、なにせディオドラの乱、和平会談など旧魔王派が関わった大きな事件で尽く居合わせ、奴らにとって憎き現魔王に連なる者たちと共に野望を潰してきたんだからな。
まさかここで出くわすとは思っていなかったらしく、明らかに狼狽える兵士たち。警戒のあまりじりじりと奴らは後ろに下がっていく。
「奴だ!スペクターが現れたぞ!4階と3階、2階の兵力をこっちに全て集中させろ!何としてでも首を打ち取れ!」
〈BGM終了〉
兵士の中でも一人、早くも冷静に戻った者が通信魔方陣で伝令を飛ばす。敵はよほど俺のことが怖いらしい。
「てめえの首を討ち取ればさぞクルゼレイ様も喜ぶだろうよ!」
その男の勇気は蛮勇と呼ぶべきか、警戒する兵士の一人が果敢にも剣を持ってこっちに突撃してきた。それに続くように他の兵士たちも怒声を張り上げて向かってくる。
「俺のいる病院を襲ったのが運の尽きだな。刑務所で己の不運を呪っていけ!」
〈BGM:仮面ライダースペクター 攻勢(仮面ライダーゴースト)〉
その言葉を皮切りに俺も迎撃を本格的に開始する。後退しながら上体をそらしてぶんぶんと振り回される剣戟を避ける。こんなもの、俺が日頃から目にしている木場やゼノヴィアの剣に比べれば子供のチャンバラにも等しい。
技術も速さもないその剣戟の隙に蹴りを押し込んで吹っ飛ばす。早速一人を倒した俺に続けて飛んできたのは魔力でできた火球。
「っ!」
避ければあの火球がもたらす破壊、あるいは流れ弾で患者がけがをするかもしれない。だからここは避けずに受ける。
続々と俺の胸部に着弾した火球が弾け、爆発する。その衝撃でぐらりとのけぞるが、強化スーツを纏う俺には外傷はない。そして何より、この程度の攻撃で止まってなどいられない。
「…どうした、そんなもんか!」
「!!」
まともに受けても怯みもせずそのまま突っ込んでくる俺に逆に怯んだ兵士たちへ次々に拳打を見舞って沈める。
「死ねスペクター!」
「そら!」
「ぐぇあ!!」
その後ろから殴りかかって来た兵士の腕をするりとつかみ一本背負い。そのまま兵士をサッカーボールのように蹴り飛ばして前方から迫る兵士たちを巻き込み倒す。
「スペクターだ!やれ!」
同じく背後からぞろぞろと大勢の兵士たちが果敢に怒声を上げて突撃してくる。随分と熱烈な歓迎をしてくれるじゃないか。荒っぽいのはいただけないが。
「ふ!」
「あが!」
絶えず押し寄せる敵の波。刃をすり抜け、回避し、あるいはいなして素早くカウンターの拳打や蹴りを叩きこむ。
拳、脚、そして頭。攻撃に使える体の部位をフル稼働させ、これまでの戦いで培ってきた身のこなしを生かして敵をすべて捌く。
「ふん!!」
「ぐべら!」
そして最後には力強く踏みしめた足から八極拳と霊力を織り交ぜた一撃を繰り出し、その衝撃で残りを纏めて巻き込んで吹き飛ばして倒した。
攻撃が止んだ。辺りをざっと見まわすとぐったりと白目をむいたり、呻き声をあげて地に這いつくばった旧魔王派の悪魔たちがそこら中に転がっている。
「ふう…ん?」
一旦は落ち着いたと一息ついた矢先、奥に見える廊下の突き当りからぞろぞろと旧魔王派の兵士たちが走ってくる。さっきよりも明らかに数が多い。ざっと見ても倍以上はいる。
さっきのように強い魔力を放ってこないのは力を出しすぎると味方を巻き込んだり、廊下の外壁を破壊して塞がれると移動に支障をきたしてしまうと向こうが判断したからなのか。
「懲りない奴らだ」
〔カイガン!ベンケイ!兄貴!ムキムキ!仁王立ち!〕
今度はベンケイ魂へと変身し、ガンガンセイバー ハンマーモードを手にして再び悪魔の群れという火中へ迷わず突き進む。
「」
先ほどと同様に前列の悪魔が火球や雷、魔力攻撃を仕掛けてくるが防御力が増したベンケイ魂の足を止めることもできない。攻撃を受けながらもそのまま前進、ガンガンセイバーの強烈な一閃でまとめて吹っ飛ばす。
「おらぁ!」
悪魔たちを吹っ飛ばすと前方からさらなる悪魔たちが倒れた仲間の埋め合わせをするように即座に襲い掛かってくる。ハンマーモードとなりリーチも長く大振りになったガンガンセイバーをベンケイ特有の剛腕で振り回しながら、人込みをかき分けるようにその兵士の群れを突き進む。
「調子に乗るなよ!」
「お前たちがな!」
一人背の高くガタイのいい悪魔が殺意にぎらつかせた眼でこちらをにらみながら大剣を振り下ろしてくる。ガンガンセイバーで顔に突きを入れるとその威力で甲冑が砕け散り、脳が揺れたかそのまま頭をふらつかせてばたりと倒れた。
「一人で行くな!同時に仕掛けるぞ!」
「おう!」
それを見た4人の屈強な悪魔たちが同時に踏み込み、巨斧を振り下ろしてくるのをガンガンセイバー ハンマーモードでがっしりと受け止める。
流石に数人分の怪力をぶつけられてはその衝撃はこちらにもびりびりと伝わる。叩きつけられた大きな斧。これを振り回せるパワーであの鋼鉄をもぶった切れそうな分厚い刃ときた、この状態でもまともに喰らいたくはない。
「ぐぅぅぅ!!」
男たちはなおも唸り続け、得物に力を込めて俺をガンガンセイバーごと叩き切ろうとしている。流石に力自慢のベンケイでもこれは手を焼く。だが押し返せないわけではない。
「ぬん!」
首周りの数珠に秘められたエネルギーを解放してパワーを倍増。気合と共に唸り声を上げ、高まった力のままに一気に押し返す。
「そおらぁ!」
「ぎゃぁ!!?」
悪魔たちが一斉に体勢を崩し、ふらふらとよろめいた。その隙を見逃さずに間髪入れず勢いよくガンガンセイバーで薙ぎ払い、突きのラッシュを決めて鎧ごと粉砕して沈める。
ガタガタガタガタ。
さらなる足音が廊下の奥から聞こえ、その主たちがすぐに見えてきた。廊下を埋め尽くさんばかりに展開した大勢の兵士たちがこちらに向かってくる。
これまでかなりの数を倒したが、どうやらかなりの数がこの病院に侵入してしまっているようだ。普段ならこんなことは起きないだろうに、魔獣の混乱で警備に気が回る程余裕がないという証拠か。
「わざわざまとまって来てくれるとは優しいじゃないか」
〔ダイカイガン!〕
ドライバーにガンガンセイバーをかざし、霊力を刀身に充填する。密閉空間なら攻撃も当てやすいし、これだけの人数が密集しているならちょっとの威力で一気に倒せる。
〔オメガボンバー!〕
勇壮にガンガンセイバーを振り回し、地面に叩きつけるとベンケイの七つ道具を模した形状の霊力が次々に殺到しては悪魔たちの群れの目の前で炸裂する。
「ぎゃぁ!」
爆風に巻き込まれた悪魔たちは勢いよく木っ端のように吹き飛ばされる。後ろの悪魔とドミノ倒しになったりあるいは不運にも他の悪魔の武器が刺さったり、床や壁に強く頭を打ち付けるとそのまま白目をむいてがくりとなった。
〈BGM:終了〉
攻撃の余波が止んで、辺りを見渡す。立っている兵士も、立ち上がろうとしている兵士たちもいない。こちらに向かってくる足音もなく静かそのものだ。
「…2から4の兵はこれで全部か?なら、あとは一階か」
周囲にはがっくりと気絶させられた旧魔王派の悪魔たちがそこら中に転がっている。その中には無残に殺された患者やスタッフの亡骸も混ざっていた。病院で人の眼もつく中での戦闘だから殺しはなしで戦っていたというのに、なんて惨いことをしてくれたんだ。
もう少し早く行動できていたら、という後悔が頭によぎる。だが今はその思いに囚われ足を止めている場合ではない。
負傷しながら、あるいはまだケガすることなく生き残れた人たちはこの状況に理解が追い付いていないのかぽかんとした表情でこちらを見つめてくる。
「皆さん、どこか安全なところに隠れていてください」
生き残った人たちを落ち着かせるべく、俺は声をかける。
「すぐに全部、終わらせますから」
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
4階での戦闘を終えた俺は階段を駆け下りて一階へ向かった。エレベーターを使おうかとも思ったが電気を止められて閉じ込められると面倒だったのでそのまま階段という一番原始的な方法で最下階へ下った。
途中、上の様子を見に行くつもりなのか数名ほど兵士と出くわしたがもれなく拳でノックアウトしてやった。
「いたぞ!スペクターだ!」
「止まれ!」
向こうから兵士たちがぞろぞろやって来る。だが怯んでなどいられない。
兵士たちが次々に魔力で生み出した火球や雷撃を打ち出してくる。しかし止まる必要はない。
「なんだと!?」
「ぐぎゃ!」
そのままガンガンセイバーを盾に突っ走り、ベンケイ特有の高い防御力で受けながら進撃する。そして距離を詰めるとガンガンセイバーを勢いよくぶん回して兵士たちに叩きつけて沈める。
兵士たちを突破するとようやく開けた広いロビーに出た。そこでは多くの旧魔王派の兵士たちが患者やその家族を人質に取り、恐怖を与えていた。
俺がロビーに足を踏み入れると一斉に兵士たちの視線がこちらに向いた。一様に驚く奴らの眼には畏怖の感情すらある。
「まさか、あの数を全滅させてきたのか!?」
「当たり前だろ。あれで止まるようなやわな相手だと思ったか?」
「…かかれぇ!」
男の合図で散らばりながらも俺への敵意と視線を向け続けていた悪魔たちが同時に襲い掛かってくる。ここは病院、人目もあるし静かな方がいい。奴らを無力化するには最適な眼魂がある。
ここで俺は久方ぶりの実戦投入となるベートーベンの眼魂を取り出し、ドライバーにセットする。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
ドライバーから出現したパーカーゴーストが距離を詰めて袋叩きにせんとする悪魔たちを牽制するように旋回。俺の変身を邪魔させないようにアシストしてくれる間にレバーを引いてパーカーゴーストを纏う。
〔カイガン!ベートーベン!曲名?運命!ジャジャジャジャーン!〕
裏でのトレーニングでは何度か試しているが、ロキ戦以来の実戦での変身となるベートーベン魂。びしっと人差し指を我先にと猛進する悪魔へ向けた。
「アレグロ!」
「ぎゃ!」
指先から放たれた霊力は弾丸のごとき速度を持って兵士に着弾。たまらず兵士は跳ね上がって痛みのあまりその場に呻く。
早速指を指揮棒のように振るい、溢れ出る霊力をクラシックのメロディーに乗せて音符に彩られた五線譜状に変換。そのまま院内を駆け巡る。
「なんだこれは!?」
「なんだ、体に巻き付いて…!?」
五線譜は粗野な旧魔王派の悪魔にだけするすると絡みつく。悪魔たちは五線譜から逃れんと動くも宙を縦横無尽に駆け巡り、攻撃をすり抜ける五線譜には叶わず、残らず巻き付かれてしまう。
「ピアニッシモ!」
その宣言と同時に体に絡みついていた五線譜が弾ける。同時に五線譜に秘められた効力が悪魔たちの体に現れ始める。
「な…?」
悪魔たちが次々と武器を落とし、その場にどさりどさりと糸が切れた人形のようにへたり込む。立ち上がることもできず、変化に戸惑う悪魔たちは次々に困惑の声を漏らす。
「体に力が…入らねえ」
「た、立てねえだと…?」
ピアニッシモは自分と相手である程度の力量差があるという条件付きだが、巻き付いた相手の運動能力を一定時間大きく低下させる。相手を傷つけずに無力化するにはうってつけの能力だ。
さらにこちらの能力は終わらない。再び旋律を奏で、生み出された五線譜が残りの悪魔たちを絡めとる。今度は本体だけでなく武器も一緒だ。
「フォルテッシモ!」
ぱちんと指を鳴らす。瞬間、武器に巻き付いた五線譜が弾けると同時に武器や鎧がガシャンと音を立てて粉々に砕け散った。
「俺の武器が…!?」
「この数を一瞬で無力化するだと…」
たった一人残された屈強な悪魔が戦慄の声を上げた。今までの悪魔と比較してやや派手目の装飾からして連中を率いるボスだろうか。どうやら幸いにも先の五線譜から逃れ得たらしい。
「あんたがボスだろう?さっさと投降すれば痛い目は見ずに済むぞ」
「はん!現魔王の犬に屈する俺ではないわ!」
男は降伏勧告に聞く耳も持たず距離を詰めてくるとその剛腕で大剣を振り下ろす。その狂刃を受け止め弾いたのはドライバーから即座に召喚され、くるくると旋回しながら俺の手に収まったガンガンセイバー ブレードモードだった。
このフォームは能力に特化したスペックなため、近接戦は得意とするところではない。だが俺にはこれまでの戦闘で身に着けてきた技術がある。木場やゼノヴィアには劣るが、それでもこのフォームで剣を振るうには十分だ。
受け止めた大剣をそのまま力比べで耐えるのではなくそらして軌道を変え、ガンガンセイバーの刀身の一部を分離し、宙に放り投げる。
「なんだ!?」
どうにもこのボスはおつむが足りていないらしい。すぐに俺の投げた刀身に視線を走らせたボスの隙をついて峰うちでその大剣を手元から叩き落とす。
「ぐぉ!」
そしてその隙に落下した刀身を今度はガンガンセイバーの柄頭に合体させてナギナタモードへ変形させる。
「この!」
「ごぁ!」
さらにガンガンセイバーを床に突き立ててそれを軸に回転、勢いつけて豪快に蹴とばす。病院のソファーを巻き込みながら転ぶ男だったが果たしてこちらには運悪く、向こうには運よく年老いた女性悪魔が戦いに腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。
男は彼女を見て醜悪に顔を歪めると、荒々しく腕を掴んでは立ち上がらせる。
実力で勝てないと分かれば今度は人質作戦か。信長といい禍の団は人質が好きなようで。
「う、動くな!この婆がどうなっても…」
刹那、男の顔面に高速で音符が飛来し直撃。のけぞりまたも男が吹き飛ぶ。
「きゃ」
高齢の女性も自身を立ち上がらせていた男の支えを失ってそのまま倒れこもうとするが、そこに五線譜が滑り込んでクッションのように彼女を優しく受け止めるのだった。
「アレグロモルト、タンドル」
アレグロモルトで奴の反応を上回る速度で攻撃し、女性をタンドルで受け止めた。ベートーベンの能力はただの五線譜型の霊力を生かした範囲攻撃だとばかり思っていたが、調べれば調べるほど応用が利く面白いフォームだった。このほかにもまだまだ可能性がありそうだ。
「驚かせてすみません…ケガはありませんか?」
「えぇ…ありがとうね」
そっと近づき、優しくいたわるように老婆を床におろすと、驚きながらも安堵の微笑みを見せてくれた。
「くっそ…」
そして男は鼻血を噴きながらも上体を起こしている。人の傷や病気を癒すべき場所である病院で暴動を起こした罪は万死に値する。
「さあ、フィーネだ」
〔ダイカイガン!ベートーベン!〕
ドライバーのレバーを素早く引くと溢れ出る霊力が楽譜と音符へ変じ、聞く者の心を落ち着かせる気品あるクラシック音楽を奏でながら俺の周囲へ集う。その音符の奔流がふわりと俺を浮き上がらせた。
〔オメガドライブ!〕
「はぁぁぁぁ!!」
「ごはぁ!!」
そして濃密な霊力を纏った右脚で決めるはおなじみの飛び蹴り。吸い込まれるように胸部に打ち込まれた蹴りで、ガシャンと病院のガラスを割って悪魔のリーダーが病院外へ飛び出していった。
「この…俺が…人間なんぞに…」
飽きるほど聞いた三流のセリフを吐いて、悪魔たちの頭はがくりと気絶するのだった。ある程度加減はしたので死にはしていないものの、しばらくは動くことすらできまい。
「…」
戦いが終わった。暴力の音が止み、再び病院に静けさが戻って来た。しかし俺はこのまま病院に止まるつもりはない。俺には行かなければならない場所とやらなければならないことがある。
一瞬の静寂ののち、どっと沸き起こったのは歓声。患者やその家族、看護師などの病院のスタッフたちが先ほどまでの恐怖と不安に沈んだ表情からガラッと一転している。生き残った喜び、テロリストたちが倒された歓び。その矛先は余さず俺に向けられていた。
「ありがとう!」
「助けれくれてありがとうございます!」
「スペクター!」
誰もが笑顔で俺のことを讃えてくれる。俺の行動で救えなかった命もあれば、今こうして救えた命がある。行動の報酬として返って来たのがこの笑顔だけでも、戦ってよかったと俺は思える。
民衆の前で巨悪を討つ勇者。これも確かに民に認められる一つの英雄の形だろう。
だが、俺の求めている英雄の答えではない。ただ綺麗ごとの理想像だけでない英雄の姿を見せる英雄派の存在とその理念。それをも超えた先にある答えには至らない。
〔オヤスミー〕
こちらも変身を解き、笑顔で手を振って彼らの思いに応える。一般の悪魔の前で敵と戦い、このような歓声を浴びるのは初めての出来事だったのでその戸惑いが笑顔をややぎこちないものにしていた。
このままゆっくり彼らの相手をしたいところだが、俺にはこれから行かなければならない所がある。
きょろきょろと辺りを見渡すと、ちょうど離れに戦いにびっくりしたのか腰を抜かしている俺を担当した医者がいた。
「ドクター。悪いけど今から退院します、短い間ですがお世話になりました」
「は、はいぃ…」
短い謝辞を述べて軽く頭を下げてから、街の警備を担う組織に病院に現れた旧魔王派は一掃したと一報を入れ、その場を去った。
悠河はイッセーの死を乗り越えたわけではありません。今回の件で現実を直視し、死を悼む余裕もなく戦うしかないと奮起しました。
実はベートーベン、ラグナロク編で初登場して以来全く出番がありませんでした。
ちゃんと調べたりすると結構有能なフォームになりました。
次回、「埋まらぬ穴」